2012年5月31日木曜日

第328話 職務質問されちゃいました! (その6)

衆目に晒されて二人の警察官に職質を受けるJ.C.。
不審者あつかいしたんだね? と訊いたら
老ポリ応えて曰く、
「いや、いや、いや・・・この近くの方ですか?」―
フン、方向転換かいな、老練な手管を使いよる。

「職務質問されるいわれはないけど
 上野公園に行く途中です」
「ああ、そうですか、そうか、そうか、
  いや、けっこうです、けっこうです」
バカを言っちゃあいけないぜ、
「ちっともけっこうじゃないでしょうに」
「あっ、いや、いや、どうも、どうも」―
そう言いながら人の肩をポンポンと二度たたきやがった。
まいったネ、どうも。

まあ、これ以上絡んでも仕方ないし、
ましてや背中に桜吹雪も唐獅子牡丹も
背負っちゃあいない素っ裸、もとい、素っ気質(かたぎ)。
あえて警察手帳の提示は求めなかった。
散り際、二人に軽く会釈されたので
こちらも軽く敬礼を返し、うやむやのうちに一件落着。

しっかし、ショックだな。
いえ、職質云々よりも自分はそんなに悪相なのかネ?
このことであった。
もしも若い時分から俳優やってたとしたら
おそらく悪役が先に回ってきただろうな、
という自覚が確かにあるっちゃあ、あるけれど・・・。

それでもやはり釈然としない。
ようし今度はもっと怪しい恰好で不審な行動して
ヒマを持て余す警官たちをハメてやろう。
ヘヘッ、こうなると一種のオトリ捜査だネ。
いったいどっちが警官なんだか!
まあいいや、今しばらくは泳がせておくとするか・・・。
おや、おや、今度は刑事(デカ)にでもなった気分だヨ。

冷静に考えてみると、
歩いた場所が悪かったことに気づいた。
言問通りから坂を上ってくる歩行者は十中八九、
鶯谷駅に消えるか、くだんの「公望荘」に入店するハズ。
そこをさらに直進しても、上野公園まではずいぶんあるし、
あとは忍岡中学・上野高校・東京芸術大学の学校群、
それにおびただしい数のお寺があるばかり。
ハナから墓参りにゃ見えんだろうから
変質者か誘拐犯にでも見えたんかいな、やれやれ。

その日は月曜日で上野動物園は休園。
不忍池のほとりで被疑者はのんきにビールを飲んだ。
遠くの鵜の島では鵜やペリカンや白鳥が羽を休めている。
暮れなずむ夕空の下、水景はどこまでものどかだ。
ここでJ.C.ふと思った。
水鳥たちよ、おまえたちはいいねェ、
何たって職質受ける心配がないもんなァ。

このシリーズ、長きに渡ってのご愛読に感謝します。
大した結末じゃなくって、ごめんね、ゴメンネ。

=おしまい=

2012年5月30日水曜日

第327話 職務質問されちゃいました! (その5)

鶯谷駅南口、日本そば屋「公望荘」」の前。
無謀にも善良な(?)市民に職務質問してきた、
アホ警官をほぼ手中に収めている。
そもそも一般市民にとって
官憲による職質はヤクザによる因縁に等しい。
とまれ、見に降る火の粉は払わにゃならぬ。

「どこへ行こうが自由でしょうが!
 それともそんなに怪しい人間に見えるかネ?」―
当方それなりの修羅場はくぐってきたから
青二才の手にはとても負えやしません。
案の定、若ポリちゃん、二の句がつげないでいる。

困ったアンちゃんだよ、ったく。
取り合えず、警察手帳の提示でも求めてみるか。
相手はすでに袋のネズミ、
猫の立場としては少々いたぶっておきたい。
ハハハ、こうなるとどっちが警官だか判らんネ。

ところが・・・であった。
どこから現れたのか中年、いや初老に近いな、
笑みを浮かべたベテラン警官が割って入った。
そう、きゃつらは常にペア行動、二人で一人前なのだ。

老ポリが口を開いて
「いやあ、近頃いろんなヒトがいますからネ」―
おい、おい、何て言い草だい。
この物言いには温厚な(?)性格のJ.C.も
さすがにカチンときた。

「いろんなヒトって、どういう意味ですか?」
「いや、いるんですヨ、いろんなヒトが近頃は・・・」
「だからどういう意味なのヨ?
  いろんなヒトがいる中で
  ヘンなヒトに見えたってわけネ?
  するとワタシは不審人物ってことか・・・」

(トンデモないヤツに職質仕掛けちゃったわい)
老ポリは内心そう思っているに相違ない。
フン、どうせオメエのほうだろヨ、
若いのに命じて
「おい、アイツちょっとおかしいから一発カマせろ!」―
とか何とか言っちゃって
肥掛け、もとい、声掛けさせたのは!
べらぼうめ、相手をよおく見てから仕掛けてこいっての。
ん? よおく見たから職質になったんじゃないの? ってか?
ほっとけや。

駅南口の改札に向かう人の群には
振り向いて見ていく輩(やから)がいる。
それどころかわざわざ立ち止まって
見物してるヒマなヤツまで出てくる始末。
一体全体、どうなっちゃってんの、この法治国家はヨッ!

=つづく=

2012年5月29日火曜日

第326話 職務質問されちゃいました! (その4)

軽い気持ちで書き始めた職務質問シリーズ。
気ままに綴っていたら、とうとう(その4)まできちゃったヨ。
オマワリの職質だけに、これがホントの”とオマワリ”。

先週の土曜夜の食事会では
メンバーたち(ブログの読者たちでもある)に相当突っ込まれた。
「早いトコ本題に入れ!」
「結論の先送りもいい加減にしろ!」
へェ、ヘェ、その気持ち、判らんでもねェんですがネ。

よって、急ぎ先へ進む。
真っ昼間から”立ちん棒”が出没する鶯谷に来ている。
だが、ラブホ街には足を踏み入れず、
上野公園へ続く坂道に向かう。

跨線橋下の焼きとん屋、「ささのや」に差し掛かった。
焼き台の周りには早くも立ち飲み客が左手にコップ酒、
右手ではおのおのレバやらナンコツやらを口元に運び、
肉を前歯で串から引き抜いている。
店内に椅子とテーブルの用意があるにも関わらず、
店頭での立ち飲み・立ち食いが醍醐味らしい。
串1本がたったの70円。
確か、店の中も外も同値のハズだ。
ただし座ると、お通し代がかかるんじゃなかったかな?

「ささのや」を素通りし、石段を上って跨線橋を渡る。
ターミナル駅・上野の隣りとあって線路の数が半端ではない。
西陽がレールに反射してまぶしいが
日中の強い陽射しとは異なり、当たりが柔らかい。

橋を渡り切ると鶯谷駅南口。
小さなロータリーの向こうに、これも小さな駅舎が見える。
駅へは向かわず、そのまま道を直進。
日本そばの老舗、「公望荘」の前を
通過せんとしたまさにそのとき、背後から呼び止められた。

「どちらへ行かれますか?」―
振り返れば、30歳くらいの警官じゃないか!
明晰な(?)頭脳が瞬時に状況を把握する。
これはいわゆる職務質問というヤツであろう。
そして、生まれて初めての予期せぬ迷惑を
現在進行形でこうむっているのであろう。

「どういう意味ですか?」―
言葉こそまだ敬語だが
ムッとしているから口調は早くもけんか腰。
そりゃそうだヨ、不振な行動をとった覚えとてない、
罪なき市民が散歩を楽しむ、というより傍目には
道を真っ直ぐ歩行しているだけなんだから―。

「いえ、どちらへ行かれるのかと思って」―
ひるんでいるのがもう見えみえ。
ここはカサにかかって相手のマナコを凝視、この一手だ。
バシッとにらんでやっただヨ。
「総長賭博」んときの若山富三郎みたいにヨ。
するとヤッコさん、視線をスッと外しやがった。
フン、この次点ですでに勝負あり。
さァて、これからこのアンちゃんをどう料理したものだろう。

=つづく=

2012年5月28日月曜日

第325話 職務質問されちゃいました! (その3)

まず最初にお詫びです。
金曜のブログでは写真の貼付を忘れたまま、
早朝から出掛けてしまい、
帰宅後、気づいて貼り付けたのが午後も遅い時間。
まことに失礼いたしました。
あらためて金曜のブログをご覧ください。

さて、ソ-プ街の一郭になぜかポツリとあった吉原公園。
先の写真が示す通り、公園の時計塔は午後3時半を指していた。
こんな時間にこんな場所で遅い昼食をとっている娘。
いったいこのコは、どこのコ? 
興味はあるけれど、隣りに座って観察するわけにもいくまい。
先を急いだ。

樋口一葉ゆかりの町、竜泉を歩いてゆく。
スチュワーデスの守り神、飛不動の前を横切り、
お酉様で知られる鷲(おおとり)神社に抜け出た。
おっと、そのときJ.C.の鼻っ面をかすめて行ったチャリンコが2台。
乗っていたのは若き警官のペアときたもんだ。
まさか、清川の交番を留守にしてたのは
コイツら(オマワリさんに向かって失礼な!)じゃないだろうな。
それはあるまいが、歩道を走るなヨ、歩道を!
いい若いオマワリがこの体たらくじゃ、救いがないよこの国は!
チャリンコが歩道を走ってる国は先進国に非ず。

そう言えば、この5日前、
高輪のせんぽ病院でのハープコンサートがハネたあとのこと。
コンサートを企画してくれたI原ハカセとハーピストのI﨑サンと
連れ立って品川駅方面に向かう途中、バス通り脇の狭い歩道を
やはりオマワリのチャリンコが2台走って行きやがった。
オメエたちが率先して車道を走らにゃ、誰が走るかってのっ!
この国のオマワリに付けるクスリはないわい。

ところでその日は驚きの奇遇があった。
グースホテル(旧ホテル・パシフィック)で夕食を楽しみ、
東口のディープスポットへと流れたのだが
この夜のことは近々またあらためてリポートしたい。

散歩の継続。
竜泉から千束、入谷を経て鶯谷にやって来た。
この一帯はかつてウグイスがさえずった根岸の里。
時代が移れば町の表情も様変わりするもので
今じゃ東京きってのラブホ街がここだ。
新宿よりずっと狭いエリアにラブホテルが乱立している。
明るいうちから街角に立って春をひさぐ女性も少なくない。

風俗には興味のないJ.C.だが色街を歩くのは好きだ。
でも東京の吉原や大久保はダメ。
ここ鶯谷もいけません。
風情というものがまったくないもの。
欧州でもパリやロンドンなど、大きい街は総じてよくない。
さしずめトルコのイスタンブールと
エチオピアのアジスアベバが世界の双璧でありましょう。

=つづく=

2012年5月25日金曜日

第324話 職務質問されちゃいました! (その2)

人気(ひとけ)の無い交番を通り過ぎ、なおも東に歩を進める。
町名が清川から橋場に変わった。
江戸の昔には大名や大店(おおだな)の、
明治になってからは皇族・華族の別荘が
大川(隅田川)を臨んで並び立っていた景勝地・橋場である。
病床の三条実美を見舞って明治天皇が訪れてもいるのだ。
ところが時代下って現在は往時を偲ぶよすがとてない。
料亭「八百善」、うなぎ「重箱」、
ともにかつてはこの地で隆盛を誇っていた。

橋場の町を四半刻、グルリとめぐる。
かろうじて残る商店街はあくまでも庶民的。
清川に舞い戻るとくだんの交番は
依然として空っぽ(われながらシツコい)のまま。
おい、おい、どこまでパトに行ったやら。
たまたまパチンコ玉が出ちゃってんのかな?
ハハハ、冗談、ジョーダン、マイケル・ジョーダン。

官憲の悪態をついても何も始まらないから
天気もいいことだし、長距離散歩を決め込んだ。
再び吉原をかすめるように歩いてゆく。
途中、吉原一の歴史と伝統を誇る大籬(おおまがき)、
天下の「角海老」に突き当たった。
京都の二条城を想起させる派手なファサードが
いや、ご立派、ゴリッパ。

直進はできないから
(しちゃうと4~5万は取られるからネ)右折する。
ほどなく右手に小さな児童公園が現われた。
その名も吉原公園の真向かいには
当然のようにソープランドが林立している。

わざわざこんなところに公園作っても
子どもを連れてくる母親はおらんだろうに―。
まさか子持ちのソープ嬢(嬢とは言わんか)が
休憩時間に子どもと遊ぶためじゃあるまいナ。

何気なしに公園内に入ってブッタマげた。
何と驚いたことに、OLサンかな?
ベンチで独り、弁当をひろげているヨ。
春風の下、ケータイ片手に
涼しい顔しておひとり様ランチときたもんだ。
それもソープの呼び込みの目の前でだヨ。
チラリと一瞬、盗み見したところ、
ありゃあ、手造り弁当にちげェねェ。
たまらず1枚撮っちゃいました
白状するとアップをもう1枚撮ったけど、
さすがに載せるのははばかられるモンねェ。

しっかし、いい度胸してるなァ、このコ。
「ティファニーで朝食を」の向こうを張って
「ヨシワラで昼食を」かい? 
コイツはまっこと、絵になるワ。

こんなマネはまずオトコにはできっこない。
古い文化の破壊者にして新しい文化の立役者は
常にオンナとコドモというが、まさに言い得て妙。
それは紛れもない真実であろうよ。

=つづく=

2012年5月24日木曜日

第323話 職務質問されちゃいました! (その1)

ハナシはほとんど昨日のつづき。
しょっぺェ富山ブラックにカマされながらも
水を飲むのをジッと我慢の子であった。
なぜだろう?なぜかしら?
察しのよい読者諸兄のこと、もうお判りですよネ?
自分ののどをそこまで追い込んでおいて
一気に飲み干すビールの旨さをいったい何に例えよう。
月並みな表現を借りれば、砂漠でオアシスでありまっしょう。

国際通りを東に渡り返し、向かった先が六区の裏路地だ。
ところがアテにしていた立ち飲み「安兵衛」は臨時休業。
前日までの3日間は鬼のような忙しさだったろうヨ。
許す、許す、J.C.は許す。

隣りの角打ち「大瀧」のシャッターも下りている。
もっともここは夕方にならないと店を開けなかったかも・・・。
はて困ったぞ、ホッピーロードへ行けば
どこか開いてるだろうが余計なつまみをオッツケられるしなァ。
気心の知れた店へ行ったら行ったで飲むだけじゃ悪いしなァ。

オトコJ.C.、ここが思案のしどころと相成った。
でもって行きやした。
千束通りを突っ切り、吉原を越えてやって来たのが
つい先日も訪れた日本堤の大衆酒場「丸千葉」。
たどりついたらいつも雨降り、もとい、のどはカラカラのカラである。
見覚えのある気のいいニイさんのほうも
こちらに見覚えがあると見えて笑顔のお出迎えときたもんだ。

ここの生はサッポロ黒ラベル。
即、運ばれた中ジョッキを一口半で飲み干し、
ライオンズの4番じゃないがすかさずオカワリくん。
普段はビールの泡がそこそこ落ち着くまで待つのだけれど、
今日はそんな余裕を見せている場合ではない。
つまみは胃に負担をかけず、
舌に涼を呼ぶ谷中生姜でありました。

渇きを癒して午後の散歩を楽しむ。
清川の交番に差し掛かるとまるで決まりごとのごとくに
パトロール中でポリスボックスはもぬけのカラ。
真っ昼間からどこをどうパトロールするというのだ。
まさか制服でパチンコでもあるまいが・・・。

二人一緒に出掛けずに一人は”留守番”してろっての!
ちゃんと”番”してなかったら”交番”にならねェだろうが!
夜中に悪漢に追われた若い娘が
せっかく交番に逃げ込んでもオマワリ留守にて袋のネズミ、
奥の仮眠室でレイプでもされたひにゃシャレにもなるめェ。
この国の警官ときたらペアで一人前、
まったくもって税金の無駄遣いもいいところだぜ。

=つづく=

「丸千葉」
 東京都台東区日本堤1-1-3
 03-3872-4216

2012年5月23日水曜日

第322話 お祭りすんで夜が明けて

5月によく出掛けたのはエンコ(浅草)よりもノガミ(上野)だった。
上野公園、いわゆる上野のお山と不忍池で憩っていたのだ。
三社祭が終わった翌日、久しぶりにエンコへ。
伝法院以来だから、およそ2週間ぶりである。
TVのニュースで見る限り、
今年の三社の人出はハンパじゃなかった。

明けて月曜日、街は閑散としていると思いきや、トンデモない。
オバタリアンを中心にごった返しているではないか。
これも翌日に開業するスカイツリー効果であろう。
「FRIDAY」の連載候補店として
かんのん通りの中華料理屋を訪ねたが、こりゃアカンわ。
1・2階ともオバはんが卓を占領し、
接客の女性があからさまにイライラしている。
2階に上がってはみたものの、そのまま出て来た。
現状ではこのエリアの店を掲載するワケにはいくまいて。

ランチ難民となり、取りあえず人ごみを避けて西へ、西へ。
それにしても街中のゴミがヒドい。
煙草の吸殻・空き缶・紙袋、公共マナーの”マ”の字もありゃしない。
 春風や バカモノどもの 夢のあと
である。

国際通りにヘンなラーメン屋を見つけた。
「富山ブラックラーメン だらんま」だとサ。
黒いラーメンってえのは初耳につき、つい誘われて食券機の前へ。
うわっ、店内がヤケに醤油臭えゾ、ヤだなあ、もう。
それでもライスと一緒に食え!との仰せに従い、
ラーメン(700円)とライス(100円)のチケットを購入。
半ライスくらいサービスしろヨ、と舌打ちしつつカウンターに座ったら
チャランチャランと金属音が聞こえた。
何のこたあない、オツリの取り忘れだぜ。
最近、こういうの多いんだよなァ。
混んでたら次の客に取られるとこだった、やれやれ。

卓上に説明書きが・・・。

ずいぶんノンビリした復興事業だ

ものは試しで入店したものの、後悔の念が頭をもたげてくる。
待つこと5分少々、やって来たのがこのブラックラーメンである。
ブラックはブラックペッパーのことかいな?

でもって食べやした。
チャーシューとシナチクの味付けもやたらめったらしょっぱい。
こりゃライスがないと食えんぜ!
結局、麺は何とかやっつけたが
スープはほとんど、ライスは半分、それぞれ残しやした。
いったいコレのどこが旨いんだろう。
店には悪いがいつまで頑張れるものやら・・・。
と思ったら、ここは2号店で神田に本店があることが判った。
世の中には物好きが多いんですねェ。

「富山ブラックラーメンだらんま 浅草店」
 東京都台東区西浅草2-1-11
 03-5828-0337

2012年5月22日火曜日

第321話 カナダの仔牛とフランスのエイ (その3)

さあ、ようやく「シャノアール」の夕食にありつける。
今宵の相方は40年来の知己、Y沢クンだ。
バイト先で知り合ったのが1972 年の夏。
苦楽をともにした仲だから思い出話が尽きることはない。

その年は新年早々、グアム島のジャングルから
恥ずかしながらの横井サンが出て来たかと思ったら
厳寒の軽井沢では浅間山荘事件。
札幌冬季五輪や沖縄返還など明るいニュースの一方で
千日デパート、北陸トンネル内の火災事故では
多くの犠牲者を出している。

それでも春から夏にかけて東京の街には
「瀬戸の花嫁」と「旅の宿」が流れていた。
正しい日本語の、”ひらがな”が似合う曲たちであった。
「学生街の喫茶店」もこの年のヒット曲だったねェ。

またハナシがそれちゃった。
エニウェイ、「シャノアール」で選んだオードヴルは
イベリコ豚とパプリカのアスピック(850円)。
アスピックは平たく言えばゼリー寄せのことだ。
ホテルの宴会に多用される料理で
かつてのホテルマン好みの一品と言えなくもない。

続いては甘海老のラヴィオリ(1290円)。
甘海老自身の殻で出汁がとられ、
アルモリケンヌソース特有の甲殻類の風味が漂う。
ラヴィオリの下にはマッシュドポテトが敷かれていた。

次に登場したのが表題の片翼を担う、
フランス産エイのムニエル ブール・ノワゼット(1890円)。
ブールはバター、ノワゼットはハシバミで焦がしバターのことだ。
ハシバミはヘーゼルナッツと思っていただければ、おおむね正解。
原発関連以外なら”おおむね”なる言葉も許されよう。

ところが期待の一皿にもかかわらず、エイがパサついて不出来。
フランスからの輸入物は当然のように冷凍品だったが
白身系の魚介類はもともと冷凍に向かない。
ソースが美味だっただけに残念なり。

フランスの仇はカナダで討て!
ケベック産仔牛バヴェットのポワレ エシャロットソースが
エイの失点をカバーして余りあった。
180グラムで2290円は黒毛和牛よりずっとお食べ得。
しかも稀少なバヴェット(ハラミ)は旨みたっぷりだった。

それにつけてもケベックかァ・・・懐かしいなァ。
旅したのは四半世紀も前のこと。
フランス系移民が入植して築いたケベックは
水と緑に恵まれた食文化のレベルが高い街。
ごく普通のスーパーで仔牛やウサギが売られていたものだ。

やれ近江だ、やれ松阪だと、
脂っこい霜降りばかりに目の色変える日本人は
まだまだお子チャマもいいところ。
それもそうだヨ、肉を食べ始めてたかだか140年、
その程度の肉食文化しか持ち合わせていないんだもんネ。

=おしまい=

「ビストロ シャノアール」 
 東京都文京区千駄木2-49-8
 03-5834-7075

2012年5月21日月曜日

第320話 カナダの仔牛とフランスのエイ (その2)

今、コレを書いているのは日曜日の昼下がり。
TVの画面では神野美伽に続いて森進一が歌い出した。
二人はNHK「素人のど自慢」の本日のゲストなのだ。

今日、これからの楽しみは何と言っても大相撲。
これまで3敗力士が3人、4敗力士も3人。
こんなの前代未聞である。
すでに散り果てたと思われた白鵬が不気味ながら
昨日の相撲内容が揃って満点のうえ、
気合も充実している3敗力士がこぞって負けることは
想像しにくいので、まず横綱の大逆転はないでしょうよ。

と、ここまで書いたところで強烈な肩透かしに見舞われた。
J.C.たまらず哀れ黒房下に転げ落ちたのである。
最近はちょくちょく土俵下に落っこちてるなァ。
肩透かしを仕掛けてきたのは13時のNHKニュースだ。
昨日の旭天鵬戦で右足を痛めた琴欧州が千秋楽を休場。
対戦相手の栃煌山には不戦勝が転がり込み、
優勝か、悪くても決定戦進出が決まった。
栃煌山に罪はなくともいささか鼻白む。
もう一番くらいガマンしろよ、このブルガリア・ヨーグルトがっ!

日本人力士の優勝がより現実味を帯びたとはいえ、
稀勢の里と旭天鵬には物理的にも精神的にも
大きな難関が立ちはだかったことになる。
殊に琴欧州を破った旭天鵬は
図らずも敵に塩を送るカタチとなってしまった。
とは言え、千秋楽の土俵は見逃せない。
こんなとき、ゴッタ返してるに決まってる、
三社祭なんぞに出掛けてる場合じゃない。

先週金曜のつづきのはずがトンだジャマが入った。
あらためて谷根千はへび道の「ビストロ シャノアール」である。
のどを潤すビールはキリンのハートランドで
キリンの中では一番好きな銘柄だ。

メニューはだいたい頭に入っているので順序が逆ながら
料理を吟味する前にワインをお願いした。
アルゼンチンのビニャルバ・マルベック・レゼルヴァ '10年。
かなり重めの赤だがシラーやネッロ・ダーヴォラほどじゃないから
マルベックは嫌いなブドウではない。
昔、訪れたブエノスアイレスを思い出し、つい選んでしまった。

さて肝心の料理である。
と、ここまで書いて若干の紙幅を残しておく。
もちろん大相撲のためである。

結果は37歳の旭天鵬が賜杯を手にした。
本割りとまったく同じやられ方をした栃煌山も情けないが
旭天鵬のさわやかなインタビューを聴いていると
これでよかったと心から思う。
豪栄道との一戦を見ていたJ.C.は一瞬、
負けたんじゃないかと思ってガッカリしたくらいだから
知らず知らずのうちに旭天鵬を応援してたワケだ。

相撲のおかげで仔牛とエイにたどり着けなかった。
まあ、スポーツというものはリアルタイムじゃなきゃ。
中一日置くと間が抜けちまうので、どうかお許しくだされ。

=つづく=

2012年5月18日金曜日

第319話 カナダの仔牛とフランスのエイ (その1)

 ♪ 現在・過去・未来 あの人に逢ったなら
   私はいつまでも待ってると 誰か伝えて
   まるで喜劇じゃないの ひとりでいい気になって
   冷めかけたあの人に 意地をはってたなんて
   ひとつ曲り角 ひとつ間違えて 迷い道くねくね ♪
                (作詞:渡辺真知子)

あれは1978年の夏。
飛騨・高山を旅していたときのこと。
前年末にリリースされた「迷い道」が
日本国中に流れており、山深い小京都も例外ではなかった。
懐かしいこの曲を聴くたびに
高山の町の光景が脳裏をよぎるのはこのためである。

千駄木の三崎坂(さんさきざか)と
根津の善光寺坂を結ぶように
裏道がくねくねとのた打っている。
地元ではへび道と呼ばれており、
直下に今では暗渠(あんきょ)となった藍染川が流れている。

よく散歩するエリアだから
ポツリポツリと散在する店々はすべて認知している。
鴨せいろが自慢の「手打そば 三里」は去年訪れた。
その向かいの「蛇の目寿司」は友人のススメもあって
近いうちに出向くつもりでいる。

「三里」の隣りの「ビストロ シャノアール」は
常々興味を抱いていた店だった。
店先に貼り出されたメニューの品数はけして多くはないのに
シェフの気持ちが伝わって来ていたからネ。
どこでも手掛けている安直な料理ばかりを目にすると、
もうそれだけで食べる気が失せてしまう。
シェフからのメッセージを
料理から感じ取れないようなメニューではダメなのだ。
その点、ココはイケていた。
食べ手の好みもあろうがJ.C.の目には魅力的に映ったのだ。

いつか訪ねてみようと思っていたものの、
なかなか機会を見出せないままでいた。
そんな背中を押してくれたのが
「FRIDAY」の担当編集者・K原サン。
連載開始にあたり、初めての打合わせの際、
彼が選んだのが「ビストロ シャノアール」だったというワケだ。

厚切りサーモンのマリネ、鶏レバーのテリーヌ、
うずらとフォワグラのアン・クルート(パイ包み焼き)で
チリ産のピノ・ノワールを飲んだ。
気に染まったのはアン・クルートである。
あのポール・ボキューズが
白身魚のすずきで始めたクラシック・フレンチの傑作は
中身が何であれ、”あったら頼む”の必注科目。
殊にうずらは大好きだし、
仔羊のマリア・カラス風なんぞはどうにもヨダレが止まらない。

ウラを返して再びこの店の料理をゆっくり味わいたいという、
念願がかなったのはGWが開けてまもなくの一夜であった。

=つづく=

2012年5月17日木曜日

第318回 「京味」の味

手元に一冊の料理本がある。
わが家の書棚に料理本はこれだけである。
著者は西健一郎サン。
そう、新橋の名店、「京味」の店主だ。
本のタイトルは「日本のおかず」(幻冬舎)。
書名通りに手の掛かる京料理ではなく日常の惣菜、
いわゆるざっかけない品々のオンパレードとなっている。

たまさか厨房に立つものの、J.C.は根っからの怠け者。
他に類を見ないほどのめんどくさがり屋だから
料理に精魂を傾けることはできない。
いかに手抜くかに血道を上げているのが偽らざるところ。

素人のために書かれた本だから
いずれもすぐ作れる簡単なものばかりだが
全80品のうち、試作したのはホンの数品にすぎない。
中でも気に入って複数回作った料理が、お揚げの甘煮だ。
ごくシンプルなので西サンと幻冬舎には無断で紹介しちゃう。

(材料)
 油揚げ4枚 砂糖35グラム 濃口醤油40CC

(作り方)
 ①鍋に水1.5カップと砂糖と1枚を8等分した油揚げを入れ、
   落としぶたをして火にかける。
 ②沸騰したら醤油を加え、煮汁がなくなるまで強火で煮含める。

これだけのことなのだ。
西サン曰く、彼が子どものときに
よく食卓に上がった思い出深いおかずとのこと。

この料理の説明の際、油揚げは必ず湯通しして
油を抜くと思っている方が多いが油を抜くか抜かないかは
料理によって使い分けるべきだと強調されている。
甘煮の場合は抜かずにその旨味を利用するのだそうだ。
このアドバイスには目からウロコであった。
言われてみれば、濃い味付けには抜かないほうがよいのが判る。
逆に水菜と京揚げの煮びたしなんぞは
しっかり油を抜いて薄口醤油で煮上げたほうがよいだろう。

さて、この油揚げの甘煮。
J.C.は煮切るだいぶ前に油揚げを半分引き上げてしまう。
言わば薄目と濃い目の2つの味に仕上げるのだ。
酒のつまみには薄口が、ごはんの友には濃口がよく合うからネ。
オススメは素うどんに薄口をのせ、きつねうどんに。
そして酢めしに濃口をのせ、稲荷寿司味の木の葉丼に。

甘く煮た油揚げが「京味」の味とは言いがたいが
「京味」の店主の味であることに間違いはない。
ただ一つ、困ってしまうのは冷蔵庫にコイツの作り置きがあると、
目にするたびにビールが飲みたくなっちゃうんですなァ。

2012年5月16日水曜日

第317話 ようやく入った伝法院

地球最後の日、もとい連休最後の日。
早いハナシが5月6日の日曜日であった。
やっとこさ伝法院の庭園に入ることができた。
念願がかなったのである。
伝法院は浅草寺の本坊だが
非公開のため、なかなか訪れる機会に恵まれない。
本坊の建物はともかく常々庭園を拝んでおきたかったのだ。

手元に拝観チケットの半券がある。
=金龍山 浅草寺 東日本大震災復興支援=
   ”大絵馬寺宝展と庭園拝観”
こう銘打たれている。
 ”本展の収益は東日本大震災の
  義援金とさせていただきます”
とも。

ただし、残された半券に料金の記載がなく、
いくらだったか記憶があいまいだ。
あまり高いと思わなかったったから200円か300円、
いや、500円だったかもしれない。
このあたりにおのれのボケを認識してしまう。

と、ここまで書いてやはり気になった。
さいわい半券の裏面に
「浅草寺特別展示館・庭園」の代表番号が明記されている。
さっそくダイヤルして確認したら300円だった。
加えて庭園開放の最終日が
5月6日ではなく、7日であったことも判明した。
やれやれ、ボケの再認識である。

ともあれ入場後、
大絵馬寺宝展はザッと流して待望の庭園へ。
まずは庭の中心を占める池のほとりを一めぐりする。
両国の旧安田庭園に似ていないこともない。
あちらの池は心字池と称するようだが
こちらの池に名前はないらしい。
ただ、伝法院庭園の池には背景に五重塔が控えている。
これが絶対の強みであろう。
ここ以上の撮影スポットはなし
コンパクトな庭なれど、
こういうものは大きければよいというものでもない。

ヒマに任せて庭内をゆっくりと歩む。
ただし、池のほとりはほとんど狭い一本道につき、
誰かが途中で立ち止まると後方にその影響がモロに出る。
したがって三脚を使用しての写真撮影はご法度だ。

新緑の五月もさることながら
ひと月前の桜のシーズンは見頃であったろう。
しばしとどまって思うに
この庭園を常時公開するのは無理との結論に達した。
浅草寺の参拝客の3割でもここを歩き回れば、
池に転落するオッチョコチョイが現れるに決まってるからネ。

出口前のスペースから見上げた五重塔がまた絶景だ。
帰り際にパチリと1枚
仲見世を避け、西参道を進みながら思案投げ首。
はて、今宵はどこで飲むとしようか。

2012年5月15日火曜日

第316話 やっぱりボケの始まりか (その3)

「丸千葉」をあとにして東に進むと
地番は日本堤から清川に代わる。
地名の清川は当地を流れる隅田川が
かつては清らかな川であったことをイメージさせる。
それが今じゃ、町の名にこそなってはいないが
ここはまぎれもなく山谷なのだ。

♪  今日の仕事は つらかった
   あとは焼酎を あおるだけ
   どうせどうせ山谷の ドヤ住まい
   他にやること ありゃしねえ  ♪

岡林信康のデビュー曲、
「山谷ブルース」の舞台となった、あの山谷である。
観音さまのお膝元から吉原、そして山谷と
いわば寺町・色街・ドヤ街を渡り歩いたことになる。
結界を超えて来たんだねェ。

寂れてはいるが、寂れ切ってはいない、
清川の商店街をちょいと横に入ってすぐ、
これまた寂れた昭和の食堂に遭遇した。
飲み屋ならちゅうちょなく入店するが
食堂となるとそうもいかない。
なぜならすでに二人の腹は八分目を通り越している。
モノを頼んでおいて残すのは行儀がよくないからネ。
といいつつも先日は中野でつけ麺を残しちまったがネ。

店の名は「日正カレー」。
迷いに迷って周囲の1ブロックをグルリと一めぐり。
看過すること能わずに暖簾をくぐると、はたしてこれが大正解。
アゴの軽い婆ちゃんと老猫・クロに迎えられ、
楽しいひとときと相成った。
週刊「FRIDAY」で連載中の「旨すぎる!男の昼めし」に
使える気がしたのでこれからも顔を出すつもり。
詳細は近々誌面で紹介することになりましょう。

パッツンパッツンの腹を抱え、「日正カレー」を出た。
腹に目盛りがあったなら、針は十二分目を指すことだろうヨ。
白髭橋を渡り、永井荷風の世界へと踏み込んでゆく。
まだどこか飲み処を探している愚か者を夜風が嗤(わら)う。
さいわい、T子姐さんは健脚のご様子、
文句一つこぼさずに歩を進めている。
オンナは黙ってオトコについて来なくっちゃ!

そうしてやって来たのは四つ木の大衆酒場「ゑびす」。
思えば遠くへ来たもんだ。
隅田川にとどまらず、荒川まで越えて来たものなァ。
さすがに「ゑびす」じゃ何も排卵、もとい、入らん。
いや、酒は別腹につき、問題ないが固形物がイケません。

何とか姐さんにお願いして菜の花のおひたしを注文してもらう。
そうしておいてこちらは生ビール&レモンハイときたもんだ。
いつの頃からか、いつでもどこでもテクテク歩き、
ダラダラ飲むのに歓びを感じるようになってしまった。
これじゃボケんのもあたりめェか。
いったいこんなオイラに誰がした? 責任者出て来い!
ン? テメエで勝手になったんだろうが! ってか?
ンだ、ンだ。

=おしまい=

「日正カレー」
 東京都台東区清川2-9-12
 03-3873-5810

「ゑびす」
 東京都葛飾区四つ木1-32-9
 03-3694-8024

2012年5月14日月曜日

第315話 やっぱりボケの始まりか (その2)

おのれのボケのせいで
せっかくの伝法院庭園は夢に終わった。
いや待てよ、翌日にあとワンチャンス残っている。
確かGW最後の日が庭園開放の最終日だったハズだ。

肩透かしを食わされたので、ちと早いが飲み始めることにする。
ポカポカ陽気のおかげでのどが渇いて仕方がない。
浅草六区の1本東側を並行して走る、
通称ホッピーロードの「正ちゃん」に赴くも
客がテーブルにあふれて席はナシ、まったくよくフラレる日だ。
申し訳なさそうな面持ちの店主・正ちゃんに手を振り、
ひさご通りを抜けて「正直ビヤホール」に達するも
入口の蛇腹式ドアには鍵が掛かっているじゃあないか。

そのまま言問通りを横断、千束通りを北上する。
花園通りから吉原に分け入り、
「正直ビヤホール本店」に到着した。
先刻の「正直ビヤホール」は正しくは分店というのだそうだ。
もっとも誰もそんなふうに呼んじゃいないけど・・・。

さて、到着はしたものの、ここもまた扉が閉ざされている。
(しょうがねェなァ)
口には出さずに言葉を飲み込み、
花の吉原・中之町を女連れで堂々と歩いた。
カップルで歩いちゃイケない一郭ながら
流れ流れて来たんだからしっかたあるめェ。
まあ、どう見てもT子姐さんが
ソープランドの面接志願者に間違えられることはないしネ。

吉原大門の真ん前に
「土手の伊勢屋」と「中江」の大正建築が並び立っている。
このいずれかに転がり込む選択肢はハナからない。
夕まぐれに一杯飲るに重量級の天丼はお呼びでないし、
ケトバシの鍋を突つくのもいささか腰を落ち着けすぎだろう。

暖簾をくぐったのはエリアの人気酒場、「丸千葉」であった。
看板のオニイさんの客あしらいがよいうえに
安くて旨いつまみがズラリと並ぶから
いつ訪れても立て混んでいる。
カウンターに4席だけ空いており、
われわれの直後に入ったオジさんたちが席を占めたら
以後の訪問客は丁重に断られるばかりである。

サッポロの生ビールが一気にのどをすべり落ちてゆく。
〆さばはなかなかだったが、チョイ焼きたらこはやや水っぽい。
谷中生姜はスジがなく、きわめて良質につき、
追加しようとしたら売切れの憂き目。
まぐろブツは菊正の1合瓶をもらって小皿に少々落とし、
生醤油と割って即席ヅケを自分で作った。
もちろん酒の残りはしっかりと飲んだのである。
醤油味のニラ玉が汁気の多いタイプでユニークだ。
串カツは長ねぎと豚肉のねぎまだが
肉がミルフィーユ風の、いわゆるキムカツだ。

この間にも現れ来る客たちが満席で断られ、
失意の表情を浮かべて立ち去っている。
下町人情に鑑みてあまり長居もできないからここでお勘定。
まだ明るさの残る日本堤の町へと出た。

=つづく=

「丸千葉」
 東京都台東区日本堤1-1-3
 03-3872-4216

2012年5月11日金曜日

第314話 やっぱりボケの始まりか (その1)

当ブログの更新における不具合の原因が判ったような気がする。
アップ・スケジュールの時間を打ち込む際、
画面に表れる時刻表をクリックすれば正常に機能するが
手打ちで打ち込むと、ときとして反応しなくなるらしい。

時刻表は30分毎に
 7:00  7:30  8:00  8:30  9:00
と表示されるので、いずれかの時刻をクリックすればよい。
ところがアップタイムは8:45の設定だから表にはないため、
ずっとマニュアルで打ち込んできたわけだ。
このとき何かの拍子に不具合が生ずるものと推測された。
したがって今後、同様のトラブルが発生しないうちは
8:30 が更新時刻となるのでご記憶ください。

さて、GWの期間中、
浅草は伝法院の庭園が一般公開された。
普段は非公開につき、いつか見たいと思っていたので
この機会を逃してはならじと訪れた。
当日の相方は旧知の仲ではあったが
二人で酒を酌み交わしたことのなかったT子姐さん。
(まっ、オバはんに近いけどネ)
数ヶ月前にヒョンなことから、あらたなのみともとなった方である。

待ち合わせたのは本堂正面にある宝蔵門の下。
時間は16時とした。
15時過ぎまで上野公園に居たので
池之端からスカイツリー駅経由、亀戸行きのバスに乗った。
これだと浅草寺の真裏を走ってくれるのだ。

どういう風の吹き回しだろう、車内がヤケに込んでいる。
1つ目の停留所、根津駅前からは
あらたな客が大挙して乗り込んできた。
爺ちゃん・婆ちゃん・オジさん・オバさんがザッと30人。
若者の姿なく、車内の平均年齢は飛躍的に上昇した。
押し合いへし合い、満員バスは大変な騒ぎである。
察するに、これは根津神社のつつじ祭を観てきた人々が
今度はスカイツリーに移動する群なのだ。

各停留所から乗車する客も普段の倍以上とあって
バスは遅れに遅れ、待ち合わせに大遅刻と相成った。
おや、おや、浅草寺界隈の人出もスゴいや。
久方ぶりに人類の大群を見る思いである。
どうにかT子姐さんと宝蔵門の隣りの五重塔で落ち合い、
人ごみをかき分けて伝法院通りへ抜け出た。

水子地蔵のある側から入園しようとすると、
入口はさっき居た五重塔側との表記ありけり。
しかも非情なことに最終入園時刻が16時ときたもんだ。
時計の針はすでに16時半を指している。

アチャ~ッ! やっちまっただヨ。
こりゃ、やっぱりボケが始まったのかな?
すると脇にたたずんでいた姐さん一言。
「わたしたちが会った場所に入口あったじゃない」―
涼しい顔してのたまおうた。
おえ、おえ、初手からそう言うてくれ~ッ!

=つづく=

2012年5月10日木曜日

第313話 アルツの予兆かもしれぬ (その2)

JR中野駅北口のアーケード、
中野サンモールの「大門」で食券を購入したところ。
これから食べる塩そばは650円。
投入した金額が1150円。
さすればおつりは500円。
数学ではなく、算数の世界である。

ところが出て来たおつりは100円玉が4枚。
どう考えてもおかしいじゃないの。
もう1回、おつりレバーを引いてみたが音沙汰ない。
ふと気がついたらすぐそばに接客係の娘が立ってる。
かがんだ腰を伸ばして見やると目が合った。
笑みこそもらしているものの彼女、
(このオジさん、いったい何してんだろ?)―
心のうちでそう思っているに違いない。
足りない1枚の100円玉に固執するのもみっともないし、
そのまま微笑み返して食券を手渡した。
相変わらず太っ腹なJ.C.である。
アホかっ! ってか? ほっとけや!

思えばあゝ、つり銭ジャラジャラの時点で
気づくべきだったのだ。
何が? ってか? まあ、先をお読みくだされ。

招かれたカウンターに落ち着くと彼女訊ねて
「大盛りと普通盛りを選べますが?」―瞳がワリと愛らしい。
「普通で・・・」―内心、つけ麺じゃあるまいしと思っている。

一呼吸おいて中野駅のキオスクで買ったサンスポを拡げた。
スポーツ新聞を買うのは数ヶ月ぶりではないかな。
1面の亀井のホームランは判るとしても6面までずっと野球だ。
日本の国民的スポーツはいまだに野球なんだろうか。
7面がシンクロ・ホッケー・陸上のロンドン五輪関連。
8面にやっとこさサッカーが来て風間フロンターレの初白星。
9面もレアルのリーガ・エスパニョーラ制覇を報じている。
ふ~ん、そういう扱いなんだねェ。

そこへくだんの彼女が再登場。
運ばれたる物体を一目見てほとんど跳び上がったネ。
何と彼女が手にしていたのは忌まわしきつけ麺でないのっ!
「エエッ、つけ麺なの?」
「はい、塩つけそばですが・・・ダイジョブでしょうか?」
強烈な肩透かしにあわれJチャン、
もんどり打って黒房下に転落の巻である。

ダイジョブじゃないけどダイジョブと苦笑しながら
振り向いて券売機に目をこらす。
あららァ~、押したボタンにゃ塩つけそばって明記されてるヨ。
塩つけそばは金750円也だヨ。
好き嫌いはあまりないのにつけ麺は苦手なんヨ。
結局、麺は半分で切上げ、つけ汁も中の具もかなり残ってしまった。
こんな失敗はまず犯さないのにねェ。
まさかアルツハイマーの兆候じゃないだろなァ。

教訓。
どんなささやかな疑問も感じた時点でクリアすべし。
あとで判ったが「大門」は大手外食チェーンの出店だった。
そうかい、そんならよかったヨ。
何がよかったんか判らんけんど、そんな心境になりましたとサ。

「大門」
 東京都中野区中野5-64-8
 03-5318-3471

2012年5月9日水曜日

第312話 アルツの予兆かもしれぬ (その1)

その日はあまりパッとしない天気の下、
JR中央線の中野駅北口にいた。
所用を済ませて時刻は10時45分。
昼めしにはまだちと早い。

中野でのランチとなれば第一感は「住友」であろう。
何で銀行で昼めしを食うんだヨ! ってか?
こういう早とちりの読者も中におられましょうが
「住友」は銀行じゃ、ありやせんぜ、
天丼が自慢の天ぷら屋なんざんす。
銀行は三井住友が正しい。

しかしながら「住友」の開くのは11時半。
45分も待つのは時間の無駄だし、
胃袋がすでに空腹を訴えている。
そこで早開きの店舗を求めて北口を徘徊し始めた。
11時前に営業しているのはチェーン店ばかり。
個人経営は喫茶店と甘味処兼軽食堂くらいなものだ。

目につくのは「マック」・「ロッテリア」・「日高屋」・「かつや」、
こんなんばかりやねん、ハア~。
確かに安くて速いのはいいことだけど、
人間50歳を超えたら、一食一食をもっと大事にせにゃならん。
いい歳こいたオヤジが独りでチェーン店ってのは
傍目にもあまりいいもんじゃあない。
それに外食チェーンの行過ぎたはびこりは
民族の食文化を破壊する。
金儲けに文化を侵食されたひにゃ、たまったもんじゃないわいな。

歩き回って11時過ぎ、1軒のラーメン屋を発見した。
ラーメン屋で”発見”はオーバーだが
J.C.の好きな函館ラーメンの店なのだ。
店名は「大門」で、これは”だいもん”と読むのだろう。

ちなみに東京には二つの有名な大門が存在する。
ラーメン屋ではなく門(ゲート)のハナシで
芝・増上寺の大門と浅草・吉原の大門である。
ただし、この二つは読み方が異なり、
前者は”だいもん”だが、後者は”おおもん”だ。
いくらなんでも仏閣と廓(くるわ)を一緒くたにして
聖と俗を混ぜこぜにはできない。
結界の理念は大切だからネ。

ハナシを元に戻して函館ラーメン。
そもそも札幌の味噌、旭川の醤油、
函館の塩が北海道の三大ラーメンという認識。
三者の中では函館の塩が一番の気に入りなのだ。
よって「住友」の天丼はあきらめ、「大門」に入店。

「いらっしゃいませ~!」―元気なオニイさんの声に
「塩そばください」―こう応じる。
するとオニイさん、入口の方向をを指して
「食券をお願いします」―ちょいと申し訳なさそうではあった。

塩そばは650円だったがポケットを探るとコインは450円。
そこでまず150円を投入し、千円札で追いかける。
おもむろに塩そばのボタンを押し、おつりのレバーを引いた。
当然500円玉を期待したものの100円玉がジャラジャラッと。
何だこれじゃ意味ないじゃん。
意味ないどころか100円玉が4枚しか出て来ないじゃん。

=つづく=

2012年5月8日火曜日

第311話 こんなGWは記憶にない (その2)

結局は薬局、9日間の My Golden Week には
飲んだくれて前夜から突入したのである。

田原町の行きつけ店で引き際を誤ったところに
浅草はホッピーロードの名物酒場の大将が現れた。
牛すじ煮込みで名高い「Sちゃん」と言えば、
界隈の呑ン兵衛や競馬ファンなら知らぬ者はあるまい。

お互い行きつけが一緒なもので
ちょくちょく顔を合わせ、気がつけばのみともになっていた。
店のマダムも合わせて3人は気心の知れた者同士、
飲み直しの歌い直しと相成った。
誰が言ったかすでに忘却の彼方なれど、
「明日からはGW、行けるとこまで行けェ!」―
てなことにになっちゃった。
こういう飲み方はよくないんだがねェ、いや、ジッサイ。

戦いすんでオモテに出たのは夜も明けかかる4時半だ。
やれやれ、これでめでたくお開きかと思いきや、
チャリンコにまたがったSちゃん曰く、
「オレの店へ行って飲み直そうや」
「ハイ~ッ(これ肯定じゃなくて驚いてんデス)!
 これから店を開けるワケ?」
「いや、ずっと開いてんの、息子が店番やってっから」
おい、おい、おい、どんな親子だヨ。

でもって再び結局は薬局、ホッピーロードに舞い戻っただヨ。
さすがに名代の牛すじ煮込みは食わんかったが
生ビールや焼酎の緑茶割りを何杯か重ねた。
ハァ~、酔っぱらってんだか眠いんだか、もうワケが判りまへん。
すっかり夜が明けて店を出たのは7時であった。
ゲッ、14時間も飲みっ通しだよォ! それも休憩ナシで。

こんなGW突入はまったく経験がない。
もっともこの次点ではまだ、
まもなくやって来る悪天候を知る由もなし。
とにかく今年のGW初日は徹夜明けとなったのだった。
しかもフラフラのその日を”寝て曜日”に当てること能わず、
午後からは麻雀、夜は食事会ときたもんだ。
これじゃ、カラダにいいわけないよ。

振り返ればこの9日間、浅草にはよく出掛けた。
5回行っているから、打ちも打ったり9打数5安打、
打率は実に5割を超えている。
あとは東京国際フォーラムでパリ管を聴いたり、
春日部のお茶屋さんでハープコンサートのMCを務めたり・・・。

あと2週間ほどで三社祭がやってくる。
だが、ここ数年は祭のあいだは浅草を避けるようになった。
祭の時期は人が多すぎるからだ。
ところが今年はスカイツリー効果なのだろう、
GWの浅草の人出はハンパじゃなかった。
殊に好天に恵まれた子どもの日はスゴいのなんのっ!

やたらめったら雨あられに見舞われたGWではあったが
災害とは無縁の東京に居た人間が文句を言っちゃあ、
バチが当たるというもんでござんしょうかねェ。
あいや、その前に観音さまがお許しにならんでしょうヨ。

2012年5月7日月曜日

第310話 こんなGWは記憶にない (その1)

 ♪  雨がふります 雨がふる
    遊びにゆきたし 金はなし ♪

このGWは雨にたたられた。
およそ15年に渡った海外生活から戻って
およそ15年になるけれど、
こんな悪天候に見舞われたGWはまったく記憶にない。
5月の日本は一年中で一番よい季節、
五月晴れの下を緑のそよ風が吹き抜けなきゃならんのに
いったい日本列島はどうなっっちゃったんだヨ、
責任者、出て来い!

先週半ばの豪雨は東京でもヒドかったが
悲惨なのはみちのくの被災地だ。
直撃された仮設住宅の方々が気の毒でならない。
宮城北部に棲む友人からのメールによると、
4日の朝には黄色一色で美しかった菜の花畑が
またたくまに水没してしまい、
夜になったら大発生したカエルが大合唱していたという。
雨大好きなカエル野郎がうらやましいぜ、ホント。

翌土曜、東京には青空が広がり、
やっとこさ行楽日和となったのもつかのま、
昨日のゲリラ豪雨は何なのだ?
北関東を襲った竜巻じゃ、死者まで出る始末、
天はいったい何を考えておるのだ!
仙台ではピッチの上でサッカーボールの代わりに
雹(ひょう)が弾んでるんだもんなァ。
異常も異常、大異常である。

さて、冒頭に白状した通り、ヒマはあるけど金がないから
せっかくのGWに海外旅行というワケにはまいらない。
ハナから打つ手は安・近・短しかないのだ。
でも相当にあわただしかったのは事実。
9日間のあいだに自宅でゆっくりしたのはわずか1日のみ。
その日は石原裕次郎の映画をまとめて観た。
佳作・凡作を織り交ぜましてネ。

そもそもGW前夜の金曜夜からしてクレイジーだった。
夕方の5時から浅草で飲み出したのだが
めぐりめぐったのは
「神谷バー」→「正直ビヤホール」→「梵」→「バーリィ浅草」。
「梵」というのは鷲神社前の普茶料理店である。

ビューホテル脇のバー、「バーリィ浅草」を出たのが23時。
ところがこれでは終わらなかった。
食事会の残党とともに田原町の行きつけ店へ流れる。
日付変更時刻を回って午前1時過ぎに
残党たちは帰って行った。
思えばこのとき一緒に出ればよかったんだねェ。
後悔先に立たずとはこのことであった。

=つづく=

2012年5月4日金曜日

第309話 鮪もいろいろありまして (その2)

鮨屋の看板商品の鮪であるが
高級店で使われるのは9割がたホンマグロだ。
クロマグロ、あるいはシビマグロとも呼ばれる。
確かに食味はこれが断トツで一番。
殊に熟成してほどよい酸味を備えた赤身はすばらしい。

近年はとろが好まれる傾向にあるけれど、
酒のつまみにするなら中とろで2~3切れ、
大とろは1~2切れでじゅうぶんではなかろうか。
脂ノリノリの大とろを目一杯むさぼり食う向きがいるが
あれは傍で見ていてもゲンナリしてしまう。
まっ、こういうものは好きずきですけどネ。

マグロをイノチと心得て最高級品を仕入れているのが
銀座の「きよ田」、「あら輝」といった店。
確かにすばらしいけれど、勘定書きに目ン玉が飛び出るから
そうやすやすとは行けない。

その点、比較的廉価で楽しめるのは
ホンマグロの幼魚のメジマグロ。
子どものうちは脂も少なく、あっさりしており、
これはこれでなかなかにおいしい。
おろし立てのわさびでやったら
さわやかな香気が倍加され、
江戸っ子好みのサカナといえよう。

ミナミマグロ(インドマグロ)もすでに高級魚の仲間入りだ。
値段的にはホンマグロの次にくるのがコレ。
静岡県は清水港の人気店、
「末廣鮨」はこのマグロにこだわり、
さまざまな部位を取り揃えている。

春と秋はバチマグロもじゅうぶんにおいしい。
特に5、10月はホンマグロに匹敵しうるほどで
五島列島で揚がったものは
五島シビと呼ばれるのだそうだ。
池波正太郎がひいきにした浅草「鎌寿司」には
いつもバチの背とろが用意されており、
なるほどこれは下手なホンマグロのはるか上をゆく。

先日、北千住のスーパーでキハダマグロを1サク買い求めた。
刺身におろしたら2人前はあろうかと思われるサイズで
何とこれが600円しなかった。
6、7月のキハダは旨いと言うけれど、
どうしてどうして4月のキハダもイケていた。
メジマグロみたいにあっさりしており、
半分ヅケにして酢めしと合わせ、ヅケ丼としゃれ込んだらば、
これまた花丸ジルシと相成って大満足。
キハダを馬鹿にしちゃいけないよと、再認識した次第である。

さて、どん尻に控えしはビンチョウマグロである。
いやはや、これだけは箸にも棒にもかからず、いかんともし難い。
安いのだけが取り柄のビンチョウはほとんど缶詰に加工される。
値段に惹かれて買ってしまった場合は
出汁醤油にでもじっくり漬け込んで
山芋と一緒に山かけにするしか使い道がないのではあるまいか。

2012年5月3日木曜日

第308話 鮪もいろいろありまして (その1)

鰻がいなけりゃ鰻屋はできぬ。
海老がなくっちゃ天ぷら屋はできぬ。
鮪が留守なら鮨屋はできぬ。
ふむ、はたしてそうであろうか?

まず鰻屋の場合は絶対ムリだわな。
天ぷら屋もおそらく商売にならないでしょうよ。
まあ、J.C.の場合は海老がなくとも
キスやメゴチなどの小魚、あるいは穴子に目がないから
まったく意に介しませんがネ。

さて、問題は鮨屋である。
遅い時間に出向いての鮪売切れならば、
客も納得せざるを得ないだろうが
開店早々、つけ台に陣取ったのに
「すいやせん、鮪のヤローを切らしちまって!」―
これじゃ、怒り出す御仁が出てきてもおかしくない。

でも、でもですよ、鮨屋といえば旨いサカナの宝庫ですぜ。
鮪がなくったって鯛や平目の舞踊りがあるじゃないッスか。
いか・たこ・海老に、しゃこ・穴子、赤貝・みる貝・北寄貝、
そして江戸前シゴトの華、小肌にはまぐりと来たもんだ。
海老無し天ぷら同様に、鮪抜き鮨も一向に構わない。

ところが世の中そうじゃないんですな。
鮨屋でいきなり中とろを注文する素人衆のいかに多いことか!
これは客に限ったことじゃありやせんぜ。
職人のほうだって
「まずは中とろでもお切りしましょうか?」―
こんなアホウもけっして少なくないのである。

そりゃ鮨屋も商売、ハナからにぎりじゃ勘定の天井は見えている。
つまみとにぎりじゃ使うサカナのの絶対量が格段に違うもんネ。
その差は自ずと伝票に表れる。
ましてや歴代の脳ナシ総理のせいでどこまで続く不景気ぞ、
バッタバッタと鮨屋が倒れ、町から消えてゆくここ十数年だ。
鮨屋のオヤジの気持ちも判らぬではない。

まあ、つまみを切るにしても出し抜けに鮪じゃなくて
季節の白身あたりから始めてもらいたいもの。
さしずめ、今の時期なら真子がれいであろうよ。
もちろんキスや小肌のヒカリものもけっこうだ。
とにかくあっさりしたものから
次第に味の濃厚なものへと移行していただきたい。

とは言え、やはり鮨屋で一番大事なサカナは
鮪ということになるんでしょうねェ。
赤身・中とろ・大とろにとどまらず、
背とろ・カマとろ・中おち・ひっぱがしなんてのも出してくる。
世界中にこれほどの鮪好きは
日本人をおいてほかにいませんもん。
まっこと、フマキラーならぬ、ツナキラーのジャパニーズでっせ。

=つづく=

2012年5月2日水曜日

第307話 鳥のつくねがこわいのサ

ただ今発売中(のハズ)の「東京ウォーカー」。
そこでのミッションは東京スカイツリーの開業を間近に控え、
それにちなんだ特別メニューの食べ比べであった。
編集のN渡サンが指定した3店の珍メニューを実食し、
1~3位まで順位をつけろとの指令である。

最初に出向いたのは向島の「サカイ鳥乃助」。
挑んだのはつくねタワー丼(980円)だ。
気軽に入店して出来上がりを待ったのだが
出来上がりを見て腰を抜かしそうになった。
松田優作じゃないけれど、「何じゃ、こりゃあ!」。

炒飯にも似た韓流混ぜごはんが
伊豆大島の三原山みたいにそびえている。
火口から溶岩のようにベロロンと垂れているのは
10枚ほどの鳥胸肉刺身で噴火口には生の卵黄が。
そして串刺しの鳥つくねが山全体を覆い隠す。
焼き鳥屋のつくねにしたらおよそ12本分だ。
めしの山だって楽勝で5人前はあろう。

TV東京の大食い選手権じゃあるまいし、
こんなん食えるヤツ、いるわけないやん。
結局、4分の1も食べられず、すごすごと退散した。
まったくの規格外で評価も何もあったものではない。

2軒目は浅草に本店を構える「モンブラン 吾妻橋店」。
ここのメニューはスカイツリーハンバーグ(1449円)である。
タワーを形成するのは5尾の海老フライで
そのふもとにハンバーグが横たわっている。
ソースをフランス(ドゥミグラ)、ロシア(ブラウン)、
メキシコ(ピリ辛トマト)、オランダ(ソフトチーズ)、
イタリア(トマト&チーズ)、日本(玉ねぎ醤油)の6種から
選ぶことができ、ロシアと迷った末にメキシコに決めた。

海老フライ製スカイツリーの脇には
東京タワーに見立てた野菜サラダが存在感を示している。
ハンバーグも海老フライもライスも水準をクリアしているし、
ボリュームも目茶苦茶ではないから
これが間違いなくナンバーワン。

最後はこれも吾妻橋の「海鮮家」による海鮮タワー丼(1580円)。
タワーは1本の巨大な茹で車海老である。
確かに車海老なのだがヤケに水っぽい。
ついでに主役級のまぐろ赤身も
旨みがどこぞに漏れ出して残念賞。
十数種の具材のなかでは旬の蛍いかが一番よかった。

スカツリハンバと海鮮タワーは何とか完食したものの、
つくねタワーだけは思い出すたびに悪夢がよみがえり、
以来、焼き鳥屋に行けないでいる。
人間国宝の噺家・五代目柳家小さんが
得意とした落語の演目は「まんじゅうこわい」だけれど
あたしゃ、つくねがこわいんざんす。

「サカイ鳥之助」
 東京都墨田区東向島2-11-21
 03-3612-4129

「モンブラン 吾妻橋店」
 東京都墨田区吾妻橋2-2-5
 03-5608-2155

「新鮮家」
 東京都墨田区吾妻橋1-7-7
 03-3622-4710

2012年5月1日火曜日

第306話 みちのくながれ旅 (その2)

案の定でござりましたがな。
宮城県・登米市で迎えた朝は二日酔いでありました。
前日に伝家の宝刀・ウコンを飲み忘れてもいたしネ。
ただし、それほどの重症ではない。
でも、のどの渇き激しく、飲みも飲んだり迎い酒、
じゃなくってジュースやら麦茶やらを。
これはアルコールを分解してくれる肝臓クンが
大量の水分を必要とするせいだ。
肝臓の働きなくして、わが人生に歓びなし。

ほどなく一行は一夜の宿をあとにした。
そうそう、接客係のなぎさチャンはいい娘であったな。
一行の顔ぶれはイベントの仕掛け人、
ハーピスト、カメラマン、そしてMCの4人である。

手始めにちょこっと登米の道の駅に立ち寄った。
これを食べたら、父ちゃんもっこり、母ちゃんびっくりの
もっこりにらの一大産地・登米である。
ここで先週紹介した烏骨鶏卵を手に入れたのだ。
道の駅でも備え付けの冷たい水や温かい麦茶を
ガブガブやってさらなる水分補給に勤しむ。

そうして入った伊達政宗公のお膝元、
広瀬川流るる杜の都であった。
ちょくちょく仙台に現れるHしクン推奨のとんかつ屋、
「かつせい」がお昼のターゲット。
何でも昼のロースカツ定食やヒレ定食ではなく、
単品の特ロースカツじゃなくっちゃ断じてダメだという。
そのようにカメラのHしは主張してやまないのである。

J.C.の目の黒いうちは4人で入店して
みんながみんな同じモノを注文することなど許さないが
この日は特別なハレの日、特ロースカツ(1050円)・
なめこ椀・ライス(各160円)を4人前お願いする。

食事が整う間、よせばいいのに
あまり飲みたくもないビールについ手を出してしまう。
”飲指が動く”というヤツだが
これを惰性と言わずして何と言おう。

キツネ色に揚がったとんかつは横に1本、
縦に4本包丁を入れられ、われらが目の前に運ばれた。
そのまま何もつけずに1片、続いて塩のみ、
醤油と練り辛子、とんかつソースと練り辛子、
こんなふうに変化をつけて食べ進む。

いや、これはスゴいや。
食味もよいがボリュームも満点、しかも格安ときた。
東京だったら適正価格は2000円であろうよ。
加えてなめこ椀が300円にライスが200円だろうから
総額2500円にもなってしまう。
それが1370円とはほぼ半額に近い。
Hしクンの仲間たちが
「仙台に来たら、もう牛タン要らない」―
こう、うそぶくのもむべなるかな。

仙台の街を2時間ほど散歩して
市場で山菜なんぞを買い求めたりもして
短いみちのくの旅は終わりを告げました。

「かつせい」
 宮城県仙台市青葉区北目町7-25
 022-264-3878