2012年6月29日金曜日

第349話 心の窓にピーナッツ

ザ・ピーナッツのオネエちゃんのほう、
伊藤エミさんが逝ってしまった。
6月15日に亡くなっていたことが
一昨日の27日にわかったのだ。
何の関連性もないが27日はJ.C.の誕生日。
この歳になるとバースデイなど、
めでたくも何ともないけれど、
彼女の訃報が届いたこの日を生涯忘れまい。

ザ・ピーナッツは心底好きだった。
いや、今でも好きである。
彼女たちのCDを聴きながらコレを書いている。
「銀色の道」から「東京の女」に移行したところ。
「東京の女」はかつてダンナだった沢田研二の作曲。
歌唱部分よりイントロとインタールードが
秀逸な風変わりなナンバーだ。

1959年にピーナッツがデビューしたときのことは
今もはっきりと覚えている。
当時は大田区の大森海岸に棲んでおり、
下町風に家々が密集した路地裏を歩くと、
聴こえ来るBGMのパターンは3通り。

午前中・・・・創価学会員の読経(南無妙法蓮華経)
昼から夕・・・ピーナッツの「小さい花」と「情熱の花」
夕方以降・・ラジオのナイター中継・巨人戦

小学生時代のマイ・アイドルはまごうことなく、
裕次郎とピーナッツであった。
いつの頃からか日曜夜の楽しみがTVになり、
まずは18時から6チャンの「てなもんや三度笠」。
続いて18時半は4チャンの「シャボン玉ホリデー」。
1時間おいて20時からは1チャンの「若い季節」。
Oh, unforgettable my good old days !

ここでオネエちゃんの死を悼みつつ面影を偲んで
ザ・ピーナッツ・ナンバーのマイ・ベストテン。

① 恋のバカンス・・・聴くたびに胸の奥が甘酸っぱくて
② さよならは突然に・・・絡み合うメロ&ハモをぜひ!
③ 悲しきタンゴ・・・アズナブールの「ラ・ボエーム」を連想
④ 風のささやき・・・巨匠・ルグランも聴いて満足
⑤ ふりむかないで・・・’62年のあの夏がよみがえる
⑥ 恋のオフェリア・・・これぞ真実のデュオ・ドラマティコ
⑦ 可愛い花・・・蕾ふくらみかけし二輪の花
⑧ ローマの雨・・・愛の泉に今は竜馬とシロ犬が
⑨ 情熱の花・・・突如としてエリーゼを襲う闘牛士
⑩ シェルブールの雨傘・・・キミたちこそがモナムール
次点 リオの女・・・名古屋生まれがリオでアウフヘーベン

書いていると指先はとどまるところを知らず、
(その4)くらいまで引っ張っちゃいそうだから手短かにまとめる。
「恋のバカンス」はベストワンが不動の指定席。
日本歌謡史に燦然と輝く不朽の名曲は
サザン・オールスターズに多大な影響を与え、
ロシアでもいまだに庶民に愛され続けて歌い継がれている。

J.C.の心の窓にはピーナッツという名のともしびが
永遠に灯り続けていくことでしょう。
♪ 心から好きだよ ピーナッツ 抱きしめたい ♪
あゝ、目をつぶれば二人の声が耳にこだまする。
「おとっつぁん、おかゆができたわよ」―
そうかい、そうかい、肇とっつぁんの代わりに礼を言うよ。
ありがとう。
そして安らかに。

2012年6月28日木曜日

第348話 思いがけずに会った人

久々に週刊「FRIDAY」のスタッフと打合せ。
編集のK原サン、ライターのS子嬢と
3人で出向いたのは「千駄木 露地」なるイタリアンだ。
不忍通りに面した和風のたたずまいが目を引く。
ガラス張りだからバーとダイニングが外から見渡せ、
客入りはまことによろしいようである。

生ビールで乾杯と同時に
バルバレスコの抜栓をお願いしておく。
最初に運ばれたのは自家製のフォカッチャと
トマトがたっぷり乗った大きめのブルスケッタ。
何もなければ口ざみしいからなァ。

アンティパスト(前菜)を何種類かいただいた。
タコのアフォガート(トマト煮)はブツ切りのサイズが豪快。
しらすのフリッタータはちょいと小ぶりの韓国チヂミ風で
野生のルッコラがよき脇役をはたしている。
穴子のフリットは残念ながら江戸前天ぷらに遠く及ばない。

この夜はメインを頼まずにパスタで仕上げた。
ホタルイカのショートパスタ、鮎と松の実のタリオリーニ、
ボローニャ風タリアッテレの3皿である。
いずれも水準をクリアしているものの、
舌に感動を与えるほどではなかった。

男たちがワインを空け、
S子嬢がドルチェに舌鼓を打っているまさにそのとき、
K原サンの携帯に着信ありき。
電話の主と言葉を交わした彼曰く、
その御仁が二次会に現れるとのこと。
無論、われわれに異存などなく、
千駄木駅そばの居酒屋へ移動した。

家族経営の「にしきや」はかなりのにぎわい。
小上がりに案内され、飲み直しの開始だ。
ほどなく待ち人が到着。
何とこの方は今をときめくU澤J子サンであった。
「世界屠畜紀行」の著者といったら
お判りになる読者も少なくないハズだ。

自分で飼育した3匹の豚を屠畜場に送り、
晴れて目出度く召し上がった世紀の偉人。
食したときに彼らが自分の肉体に
戻ってきてくれたと宣言した女史である。
先ごろは「飼い喰い 三匹の豚とわたし」を
岩波書店から上梓されてもいる。

出会いの数日前に友人から贈られた、
彼女の「世界屠畜紀行」を読み始めたばかり。
この出会いは衝撃的であった。
”自豚実食”の事実を耳にしたときはドンビキしたけれど、
いざ酒を酌み交わすと真っ当な正常人で一安心。
しかるに中国人もびっくりのかような”食文化大革命”は
われらフニャチン男にゃ、逆立ちしたってできゃしない。
真似はしないが偉大なり。

「千駄木 露地」
 東京都文京区千駄木2-42-2
 03-5814-8087

「にしきや」
 東京都文京区千駄木3-34-7
 03-3828-0935

2012年6月27日水曜日

第347話 普茶料理を味わう

恒例のSだおサンとK雄サンを囲む食事会。
毎回アレンジャーはJ.C.が務めている。
Sだお御大が一風変わった店や料理を好まれるので
けっこう頭を悩ませることとなる。
オマケにそこそこの美女たちを宴席に侍らせねばならない。

行く先はいつも決まって下町。
両先輩は東京の西から
一直線に東を目指して参上仕るワケであります。
みなさん、下町がお好きなんですなァ。

当夜の会場は浅草の北、
酉の市で有名な鷲神社のある竜泉。
普茶料理の「梵」であった。
当店の口上書きをかいつまんで紹介しておこう。

普茶料理は今から約三百年前、
中国・明の隠元禅師が京都宇治に
黄檗山萬福寺を建立した折より伝わる精進料理でございます。
普茶の語源には普(あまね)く衆に茶を供する等の意味があり、
茶礼のあと飲食平等の精神のもとに
明風の食礼様式で開かれる席の料理が
普茶とよばれています。

数年に一度程度しか訪れないが
この店のたたずまいと料理はとても好きだ。
二汁六菜のコース(¥6000)ーをお願いしておいた。
われら♂3人に群がった♀は4人。
枯木も山のにぎわいなどと口が裂けても言わぬが
押しなべてかなりトウが立っていることは否定できない。

食材に肉はもとより魚介の使用すらかなわぬので
畢竟、食卓を彩るのは葉野菜・根菜・筍・海藻に
麩・湯葉・豆腐・蒟蒻といった陣容。
澄子(しゃんつ)・筝羹(しゅんかん)・雲片(うんぺん)などと、
懐石料理よりも難しい名を持った料理がコースを組み立てる。

二汁六菜を謳っているものの、
実際には10種類ほどの皿や鉢が運ばれた。
揚げ物とごはんも含まれているから
けっこうなボリュームで食べ応えじゅうぶんだ。

飲みものはスーパードライと櫻正宗。
ともに気に入りの銘柄につき、
ほかの人はともかく、J.C.は満悦でござった。
誰が注文したものか、琵琶湖ワインなんてのも振舞われた。
栗東ワイナリーの産でいただいたのは赤。
しかし、あんなところにもワインの醸造所があるんだねェ。
栗東と聞いても競走馬のトレーニングセンターしか思いつかない。

口の字の一角を削りとった、変形コの字形のテーブル配置は
上座・下座の区別がない円形に近づける配慮であろう。
飲むほどに酔うほどに、笑いが座を支配して和気あいあい。
歳のわりに気持ちの若い、老(若)男女の酒宴は
夜の更けるのもいとわずに続いたのでありました。

「梵」
 東京都台東区竜泉1-2-11
 03-3872-0375

2012年6月26日火曜日

第346話 映画漬けの一日 (その4)

W杯予選の日本VSヨルダンは
バカスカ点が入ってしまい、日本の楽勝モード。
拍子抜けするほど相手が弱すぎ、
観ているほうも左うちわだ。
結局、前半終了と同時に引き上げ、
後半途中から自宅での観戦と相成った。

この日は映画日和りだったのだろう。
サッカー終了後にまたもや映画だ。
数日前、気まぐれから近所のスーパーで
カゴメのシークヮーサー入り野菜ジュースを買った。
キンミヤ焼酎をジュースとソーダで割り、
酎ハイを作って飲みながらの鑑賞である。

観たのはサム・ペキンパー監督の「ゲッタウェイ」。
この作品は未観だった。
ブラッディ・サムの異名を取るペキンパーは
激しい暴力描写がウリの奇人監督。
酒とクスリに溺れて奇行を繰り返した挙句、
心不全で還暦前に亡くなっている。

中学2年のときに観た「ダンディー少佐」以来、
「ワイルドバンチ」、「わらの犬」、「ガルシアの首」、
「戦争のはらわた」など、かなりの本数を観てきた。
あとで知ったことながら小学生のときからTVを通じて
彼の作品に親しんでいたのだった。
オールドファンなら「ガンスモーク」と
「ライフルマン」をご存知だろう。
TV西部劇のハシリ的存在といってよい。
以後、「ローハイド」や「ララミー牧場」などのヒット作品が
続々と日本に上陸することとなる。

「ゲッタウェイ」(1972年)の主人公は
「大脱走」のスティーブ・マックイーンと
「ある愛の詩」のアリ・マッグロウ。
二人は「俺たちに明日はない」における、
ボニー&クライドと似たような役回り。
この競演が縁で翌年結婚(のち離婚)している。
J.C.的には「わらの犬」と並び、大好きな映画だが
興行的にも「ゲッタウェイ」は
ペキンパー作品中、最大のヒットを記録した。

この映画と同じ年に
あの「ゴッドファーザー」も公開されている。
強い印象を残す二人の俳優が
ともに2本の映画に出演しており、非常に興味深い。
「ゴッド・・」でマイケルに射殺された麻薬野郎・ソロッツォと
「ゲッタ・・・」で二人を執拗に追うクレージー・ルディは
超個性派悪役のアル・レッティエリ。
「ゴッド・・」で敵方のボス・タッタリアを粛清したアル・ネリと
「ゲッタ・・」で二人から大金入りのバッグを盗む泥棒役は
セリフが少ないものの、目で演技するリチャード・ブライト。
彼らのキャリアにとって1972年は偉大な年であったのだ。
その頃、東京の街には拓郎の「旅の宿」、
ルミ子の「瀬戸の花嫁」が流れていましたとサ。

何だかんだとまた長々と引っ張ってしまった。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。

=おしまい=

2012年6月25日月曜日

第345話 映画漬けの一日 (その3)

その日の朝は裕次郎と雷蔵に引き続き、
久松静児監督の「続・警察日記」をひかりTVで観ていた。
この映画を観るのは二度目になる。
「警察日記」の続編でともに1955年の公開。
映画全盛時代を象徴するように
立て続けに撮られていたんだネ。
裕次郎が出現する前夜の日活映画がここにあった。

舞台は会津磐梯山のふもとにある小さな町。
「警察日記」では森繁久弥という大きな柱があったが
続編にはスター級の配役はナシ。
いろいろと町を揺るがす事件が起きるわりに
全体として粒が小さい印象は否めない。
三國連太郎と芦川いづみがまだ初々しい。

前作ではいたいけな愛らしさで
観客の涙を搾った子役の二木てるみがここでも健在。
才能に恵まれたこの女優は17歳になった10年後、
黒澤明の「赤ひげ」で大きく花開く

観終わったあとはメールの整理とブログの原稿書き。
そして講談社が送ってくれた「FRIDAY」に目を通すと、
早や夕刻である。
この日はのみともT村クンが軽くつき合えとの仰せ。
W杯最終予選のヨルダン戦は必見につき、
1時間だけの約束で千代田線・町屋駅にて待合わせ。

向かったのはこの町の呑ん兵衛の吹き溜まり、
飯より酒の客が多い「ときわ食堂」だ。
ナントカさんという外人のオジさんの常連客がいて
J.C.も何度か見掛けている。
もっともこの日、彼の姿はなかった。

スーパードライの生で乾杯。
ここの生中は他店の生大に近い。
浅草の「神谷バー」同様、ケチケチしないところがよい。
最近は生中を謳っておきながら
実際は生小を出すあざとさ丸出しの愚店が増えたものなァ。

常磐沖の珍魚・どんこの煮付けに始まり、
手羽先塩焼き、ポテトサラダ、厚揚げ焼き、
キス天ぷら、かぶぬか漬けなどを次々に。
飲むほうも瓶ビールに移行し、続いて生レモンハイだ。
だがネ、こんな調子じゃ1時間で切り上がるワケがないわいな。

左手首のスウォッチを見やると、
あら、大変だ!
今さらあわてて帰宅しても
キックオフにゃ間に合わない状況に追い込まれちまった。
サッカー狂のJ.C.が日本代表のW杯予選を見逃すってか?

へへへ、でもダイジョビだったんだもんネ。
別に秘策があったわけでも何でもない。
目の前の、あいや、より正確には目の上のタンコブが
もとい、目の上のテレビジョンが中継を始めたでないの。
かくしてあらためて腰を落ち着けたのでした。
「オネエさん、生レモンハイお替わりねっ!」

=つづく=

「ときわ食堂」
東京都荒川区荒川7-14-9
03-3805-2345

2012年6月22日金曜日

第344話 映画漬けの一日 (その2)

ハマの悪玉ボス・山茶花究を殺って
ルリ子の仇を討ったあと、
裕次郎もまた港・横浜で死ぬ。

映画「夜霧のブルース」が終わるやいなや、
すぐそばのチャンネルに跳んだ。
TVガイドをチェックしたら
市川雷蔵の「陸軍中野学校」が放映中だったのでネ。
もっとも後半だけしか観られなかったが・・・。

1966年の大映映画はのちにシリーズ化され、
これが記念すべき第1作。
複数回観ているにもかかわらず、
雷蔵の匂いと画面の雰囲気が好きだから
観ていてちっとも飽きない。
まるで音楽を聴くように映画が観れている。

中野学校は戦前・戦中に実在した、
帝国陸軍のスパイ養成学校。
発祥の地は靖国神社のある九段で
その後中野に移転したのだ。

学校のあった場所は現在、
東西南北をそれぞれ中野通り、杉並区との区境い、
JR中央線、早稲田通りに囲まれており、
そこにはサンプラザ、市役所、税務署、
東京警察病院、野方警察署などが林立して
いかにも諜報部員養成所跡にふさわしいものものしさ。

雷蔵のフィアンセ役の小川真由美が白眉だ。
この女優には風変わりな魅力を感じる。
すべてを見透かしたうえで
さげすむような冷たい視線が
乾いたエロスを発散している。
マゾっ気のあるオトコならイチコロではないか。
金魚にまつわる信じがたいエピソードの持ち主ながら
気色悪いのでその逸話は語らずにおく。

文学座時代の彼女は
杉村春子の後継者とまで言われた。
40年前の1970年前後は
昨年亡くなった細川俊之の妻であった。
その後、橋爪功と婚約していた時期もあったが
のちに解消している。

最近ちっとも見掛けないと思っていたら
いつの間にかちゃっかり得度なんぞをしておった。
真言宗の尼さんである
仏門に入った人をつかまえてちゃっかりもないもんだが
本人は女優を廃業したつもりがないという。
驚いたことに六水院吉祥寺の教場長に収まっているのだ。

真由美が雷蔵に薬殺されて映画は終わる。
ここでしばし朝食休憩したものの、
すぐにまたひかりTVの映画チャンネルに戻った。
今度は1955年の日活映画、「続・警察日記」。
やるときはやるし、観るときは観まっせ!
何せ、凝り性なもんでネ。

=つづく=

2012年6月21日木曜日

第343話 映画漬けの一日 (その1)

昨夜のボクシングはナイスファイトであった。
勝敗はドローでもおかしくなかったんじゃないの?
とにかく最軽量のミニマム級とは思えぬ迫力。
両者を讃えたいが心情的には八重樫に勝たせたかった。
若い井岡にはまだ洋々たる前途があるからネ。

何よりもリングサイドの八重樫ファミリー、
とりわけ二人の子どものことを思うと心が痛む。
ツラかったろうねェ、
あんなに腫れあがったパパのまぶたを見せられちゃねェ。
八重樫はすでに燃え尽きたかもしれないけれど、
ぜひ、再戦を望みたい。

♪ 青い夜霧に灯影が赤い
  どうせおいらは独り者
  夢の四馬路(スマロ)か 
  虹口(ホンキュ)の街か
  あゝ波の音にも血が騒ぐ ♪
    (作詞:島田磬也)

ボクシングのあと、いきなりの超懐メロで失礼サンにござんす。
名曲「夜霧のブルース」は1947年の松竹映画、
「地獄の顔」の主題歌で、歌ったのはディック・ミネ。
よく似た「上海ブルース」と並び、好きな曲だ。

とあるその日は夕方から予定が入っていたものの、
明るいうちはヒマな一日だった。
それが急にあわただしくなったのは映画のせい。

目覚めて洗顔を済ませ、何気なしにTVを点けたら
ちょうどひかりTVで「夜霧のブルース」が始まるところ。
これは1963年の日活映画で
ストーリーは前述の「地獄の顔」とは何の関連もない。
過去に2度ほど観てるが最後に観たのは十数年前。
懐かしさに誘われてそのままカウチに寝そべった。

白黒の「俺は待ってるぜ」や「錆びたナイフ」に負けず劣らず、
このカラー作品も相当に暗い。
妻・浅丘ルリ子を殺された、
夫・石原裕次郎による復讐劇の舞台は横浜だ。
横浜には裕次郎がよく似合う。

彼が何着か着替えるスーツがどれもすばらしい。
今、といってもここ10年ほどか、
流行し続けているパッツンパッツンのダサいスーツより
ずっと垢抜けていて時の経過を感じさせない。
それにしても日本のファッション界というヤツは!
アパレル界の深謀もあろうが
日本人一人ひとりにセンスがなさ過ぎるヨ。
おのれの個性に無頓着であり過ぎるのだ。

ともあれルリ子の可愛さもひとしお。
映画のデキはともかく、二人を見ているだけで楽しい。
暗い映画なのに二人がヤケに活き活きとしている。
スターというものはそういうものなのであろう。

=つづく=

2012年6月20日水曜日

第342話 荻窪のぶたとブタ

その週はJR中央線の荻窪に2回も出掛けた。
週刊誌の取材がらみである。
小まめに実地を踏破しなければ佳店は見つからない。
もちろん下調べを怠ることはできないが
やはり当該店の店先に立つことが何よりも大事。
商売柄、いい店に出会うと鼻がヒクヒク鳴り出す。

そうして遭遇した店でも当たり!は少ない。
野球の打者でいえば4打数1安打といったところかな?
しかもせっかく白羽の矢を立てたのに
”取材お断り”のケースがあとを絶たないから
結局は10打数1安打になってしまう。
10軒あたってやっと1軒が日の目を見るわけだ。

最初の日の狙いはかねてより食べてみたかった「ぶたや」。
”伝説の風味焼き”を声高らかに謳っている。
何が伝説なのかというと、
源流はむか~し成城で40年続いた定食屋さん。
常連だった現在のオーナーがその味を忘れられずに
引退した本家の店主を探し当て、
風味焼きを伝授されて開業に踏み切ったという次第。

どれほどのもんやねん? 
それなりの期待を胸に訪れた。
開店直後の正午過ぎに入店すると先客はナシ。
カウンター8席の小さな店で壁際に順番待ちの丸椅子が4脚。
風味焼きはヒレとロースがあり、3枚付けのロース(M)をお願い。
これが730円で別注文のライス(S)が150円。
朝鮮焼肉屋風のわかめスープが付く。

千切りキャベツの上に
一見、豚肉生姜焼き風の風味焼きが乗って現れた。
別段、見ても食べてもどこが”伝説”なのか判然としない。
このレベルなら都心にいくらでもある。
いや、もっと美味しい店がゴロゴロだ。
最近、50円ほど値上がりしたようで割高感が否めないし、
何よりもプラスチックの容器とトレイが社食みたいで安っぽい。
これじゃダメでしょ、「ぶたや」さん!

後日、訪問したのは「とんかつ 力」。
「りき」ではなく「ちから」と読む。
以前、店の前を通りかかったとき、
タレかつ丼なる一品を目にして
これは使えるかも・・・と思った次第だ。

12時半近くだというのにここも先客ゼロ。
(おい、おい、だいじょうぶかヨ?)
場合によってはヨソに回る予定で
一番小さいタレかつ2枚乗せをお願い。
ごはんも半分にしてもらった。
値段は650円、近頃のラーメン価格だネ。

小ぶりのかつは豚ヒレかつである。
出来合いのきゅうりのキューちゃんみたいなのと
豆腐・ほうれん草入りの豚汁が付いたが
食べ始めてすぐにガックシ。

いやあ、荻窪のランチ事情はきびしいなァ。
所詮、この町はラーメンだけの町なのかねェ。
となりの西荻はうまもんだらけだというのに。
立ち上がれ、荻窪住民!

「伝説の風味焼き ぶたや」
 東京都杉並区天沼3-9-2
 03-3392-2450

「とんかつ 力」
 東京都杉並区荻窪5-17-7
 03-3392-8955

2012年6月19日火曜日

第341話 プチ・ラビラントの偶然

サブタイトルは変われど、
早いハナシが昨日のつづき。
読者にしても品川東口のディープスポットに
チラリふれられて”そのまんま東”では気掛かりでしょうよ。

かくしてわれら三ばか大将は
夜の品川駅の大コンコースを通り抜けて行った。
エスカレーターを降りてそのまま道なりに進み、
道路を一つ渡ったらメインストリートを行かずに
その1本左の小道へ分け入る。
さすれば昭和30年代の世界に迷い込めるのだ。

プチ・ラビラント=リトル・ラビリンス=小さな迷宮

即物的に巨大な品川駅のひざ元に
このようなレトロ・ワールドがあったとは!
初めての者は誰しも
唖然として言葉を失う迷宮がここにある。

西新宿の思い出横丁、立石の仲見世商店街、
大井町の東小路をさまよっているかの錯覚にとらわれる。
こういう空間で飲む酒は
文句ナシに旨いことを身体が覚えている。

何度か訪れていても馴染みの店はない。
どの暖簾をくぐろうともほどんど初顔だ。
界隈をグルグルと2周ほどしたろうか。
ふと思って割烹着姿の女将が
独りで切盛りする小料理屋に白羽の矢を立てた。

ビールを頼むと、キンピラが一緒に出された。
シャキシャキ感のある優れたキンピラだ。
追いかけて分葱のぬたがやって来た。
和食フルコースの直後なのであとのつまみは控えてもらう。

心なしか店の雰囲気にも馴れ、
穏やかな時間が流れてゆくときに女将が訊ねた。
いったいわれわれ三ばか大将は
どこからどのようにこの店へやって来たのかと。

当日のハープ・コンサートに言及すると、女将応えて曰く、
「エッ? 何それ? アタシ去年、そのハープを聴いてるヨ」
「な、何だって! こちらそのときのハーピスト。 
  じゃ、MCやってたオレも覚えてる?」
「ん? 横で何だかペラペラしゃべってる男がいたねェ」
「アチャー!!」
てなことでございました。
何でもこの女将、ちょうど1年前に
せんぽ病院に入院していたんだとサ。

病院のロビーに集まった聴衆は
去年も今年も多くていいとこ50人くらいであろう。
いくら高輪と品川が目と鼻の先といえども
こんな偶然があるものだろうか。

ここでJ.C.はハカセに言いました。
来年のコンサートのあとは無理しなくっていいヨ。
江戸前鮨も加賀料理もいらないヨ。
この女将のこの店で
一席設けてくれればそれでいいからネ。

店の名を「宝亭」という。
「中華料理屋みたいな名前だな」―そうほざいたら
女将は一瞬、イヤ~な顔をしたけれど、
一緒に飲んでるうちに仲良し小良しになっちゃったもんネ。

「宝亭」
 東京都港区港南2-2-9
 03-3471-1696

2012年6月18日月曜日

第340話 陽のかげる坂道 (その2)

しばらく咳と微熱に悩まされたが
やっとこの週末あたりから体調が回復。
結局、半月以上も患ったことになる。
その間、クスリを服用せず、
医師の診断も受けずにがんばってみたけれど、
自然治癒は時間が掛かるもんですなァ。
歳をとったせいでもあろうがネ。

高輪台から日暮れた坂道を品川へ降って行った。
ハカセ&ハーピストと囲む夕餉の卓は
GOOSホテル内の「大志満 高輪店」である。
手元に当夜の献立があるので紹介しよう。
判りやすいように補筆を施した。

=お献立=

先付  新じゅん菜とおくら 笹小鯛の蓮根巻 稚鮎と蕗
吸物  干し貝柱と枝豆のしんじょう
造り   真鯛・まぐろ赤身・甘海老
煮物  治部椀
焼物  鰆の海老味噌焼 石川小芋 菖蒲茄子
酢物  柳蛸とうるいのみぞれ酢
お食事 桜海老の炊き込みご飯 焼麩味噌椀 香の物
お食後 マスクメロン

ザッとこんな感じであるが振り返って先付がやや退屈。
しんじょうのお椀はとてもよかった。
造りは陣容、素材ともに可も不可もないが
ニセわさびがもの悲しい。

加賀料理といえば、ピンとくるのは治部煮。
だけどお椀に鴨胸肉1片だけはやや淋しい。
もっとも1片が正しい姿なのかもしれない。
鰆はパサついてジューシー感に欠けた。

おろしを使ったみぞれ酢で口内がリフレッシュされる。
桜海老香り立つ炊き込みご飯は秀逸だ。
メロンはメロンであって、それ以上でも以下でもない。
とにかく楽しい晩めしであった。
ごちそうさま、ハカセ!

夜はまだ浅く、当然飲み直しである。
最上階で夜景を愛でながらと上がってはみたものの、
当夜は貸切で一般客はオフリミット。
ホテル・パシフィック時代に何度か訪れたラウンジにつき、
いつか見た景色を懐かしもうという目論見は
肩透かしに終わる。

ふむ、どうしたものだろう。
頭の中の飲み屋リストをパラパラとめくる。
ひらめいたのは駅舎の反対側の東口だ。
いわゆる山手線の外側だが
そこに狭い一画ながら時代から取り残された、
ノスタルジックなエリアが今もあるのだ。
大井町や立石にも似たディープなスポット。
ここを知ってる人間はそうはいやせんぜ。
もちろんツレの二人に異存があるはずもなかった。

「大志満 高輪店」
 東京都港区高輪3-13-3 品川GOOS 3F
 03-3441-8080

2012年6月15日金曜日

第339話 陽のかげる坂道 (その1)

風薫る5月中旬であった。
せんぽ東京高輪病院にて
友人のハーピスト・石﨑千枝子サンのコンサート。
いつものようにMCをつとめるために同行した。
去年に続いて2度目である。

患者さんと病院のスタッフが集まる受付ロビーに
ハープの音色が流れる。
いやあ、いい病院ですねェ。
患者さんが癒されれば演奏者としても
こんなに幸せなことはないでしょう。

仕掛け人は当病院に勤務する I 原医学博士。
泌尿器科の権威で医学博士の肩書きがいかめしいが
本人の性格はいたって気さく。
気心の知れたマイのみともなのである。
宴席でのバカ笑い、もとい、高笑いは
座をうるおす一服の清涼剤ともなっている。
一応、J.C.は親しみをこめて”ハカセ”と呼んでおりまする。

コンサートが成功裏に終わり、
音楽に理解と造詣の深いY芝院長と談笑。
クラシックからジャズから、いや、お詳しいこと。
「来年も再来年もお越しください」との仰せに、
石﨑女史も満面の笑みであった。

その夜はハカセとハーピストと3人で会食。
この夕餉はハカセが慰労を兼ねて
われわれにご馳走してくれるのだ。

当夜の会場は品川駅前、
GOOSホテル内にある加賀料理の「大志満 高輪店」。
耳慣れないホテルは以前のホテル・パシフィック。
むか~し、芝の東京プリンスホテルでバイトをしていたとき、
パシフィックで開かれた大晩餐会のサービスに
助っ人でかり出されたことがあったなァ。

病院のある高輪台から陽がかげり始めた坂道を降りてゆく。
このときであった、以前ふれたオマワリ2人組のチャリンコが
狭い歩道を前後して走って行ったのは!
この件は例の「職質シリーズ」でさんざっぱら書いたから
今日はこれでやめておく。

坂を降り切ってホテルの敷地内に踏み込もうとすると、
その一画にシンガポール料理店が開業していた。
彼の地の名物、チリ・クラブがウリの店だ。
内心、加賀よりシンガポールがいいなァと思いつつも
そんなことは口に出せた義理ではない。
ホテルの3階に昇って行きましたとも。

=つづく=

2012年6月14日木曜日

第338話 地獄参りの立石 (その2)

読者の方々から
「おとついの豪州戦はどうなのヨ?」という、お訊ね多数。
それではサクッとふれておきましょうか。

結論から言えばキッチリ勝たなきゃいけないゲームだった。
相変わらず日本の弱点は
単純極まりないキック&ラッシュとセットプレー。
もっとも内田の取られたPKはあんまりで
100人中100人のレフリーが取らないでしょ。
たまたまサウジのおとっつぁんが101人目だっただけ。
FKを蹴る前の笛もあり得ない。
ルール上の問題はないが
あそこで蹴らさないボケ審判はいませんて。
まっ、これがアウェイというものサ。

むしろJ.C.が糾弾したい一番のポイントはピッチ状態。
円形脱毛症だらけでスカスカのデコボコ。
中東諸国ならいざ知らず、
オーストラリアは世界に名立たる牧畜国でっせ。
牛や羊に食わせる草はあっても
サッカーやらせる芝はないってかい?
フン、これこそがヤツラの陰謀であった。
パスサッカーを殺し、キック&ラッシュを仕掛けるには
絶好のコンディションだからな。
立ち上がり5分のバタバタはともかく、
日本のサッカーが上だし、日本のほうが強いことは確かだ。

 ♪ まぶた まぶたぬらして 大利根の
   水に流した 夢いくつ
   息をころして 地獄参りの 冷酒のめば
   鐘が 鐘が鳴る鳴る 妙円寺  ♪
            (作詞:猪又良) 

いきなり「大利根無情」にて失礼サンにござんす。
京成立石で地獄参りの酒を飲んでいるところだ。 

三たび仲見世商店街に舞い戻って5軒目は「二毛作」。
ここでやっと飲みものを非炭酸系の芋焼酎にチェンジ。
飲み方はいつものようにロック。
ストレート・水割り・お湯割りでは飲むことがない。

やれやれ、相変わらず鬼と夜叉がゲンキだ。
遅れてきたA子も余力じゅうぶん。
3人してつまみを吟味している。
まぐろ中落ち・鯵なめろう・牛すじ煮込みには
まったく手をつけず。

締めくくりの6軒目はまたもや線路の向こうの「蘭州」。
ビールに戻ってキリンラガー、そして紹興酒。
R香がまた牛すじを頼んでるヨ。
コラーゲン信者につけるクスリはないネ。
あとは名物の焼き餃子と水餃子。
羊の挽き肉を使用していてこれは必食につき、
J.C.も最後の力を振り絞る。

仕上げの香菜麺は一口食べたのか、
食べなかったのか、もうまったく判りまへん。
早く地獄から抜け出さねば、
その思いばかりが頭の中をグールグル。
ところが先にトンズラしたのは鬼・夜叉コンビであった。
初対面のA子を残して・・・。
神出鬼没とは文字通りこのこった。

「二毛作」
 東京都葛飾区立石1-19-2
 03-3696-6788

「蘭州」
 東京都葛飾区立石4-25-1
 03-3694-0306

2012年6月13日水曜日

第337話 地獄参りの立石 (その1)

昨日のコラムで現在、風邪をひいていて
咳が止まらないと書いたら、ありがたいものですな、
読者の方々からさまざまなアドバイスをいただいた。

処方としては生姜・長ねぎ・蓮根・味噌・
蜂蜜・燗酒・たまご酒・日本茶・紅茶などを
2~3品組合せたものが多かった。
生姜や蓮根はすりおろして用いる。
中には、焼いた長ねぎを首に巻け! 
なんて乱暴なことを言う人もおりましたなァ。
長ねぎ首に巻くくらいならロープを巻きたい気持ちだがネ。
冷たいビールはいかん!
人の弱味につけ込む人も。
とにかくみなさんには厚く御礼申し上げます。

ハナシはひと月ほどさかのぼりまして・・・。
真っ昼間から上野動物園で一杯飲った日のことだ。
当日はZooのあと、京成立石の町に向かったのだった。
当地で手ぐすね引いて待ち受けていたのは
鬼のH川&夜叉のR香コンビ。
面子が彼らだと、飲み出す前から風雲が急を告げている。
地獄をのぞくことなく帰宅はできないのだ。
このメンバーでこの場所で痛飲したのは
忘れもしない2年半前の年の瀬であった。

駅で待合わせて向かったのは仲見世商店街の「宇ち多゛」。
待つことホンの数分で席にありつけたのは幸運だった。
キリンラガーで名物の煮込みとレバの若焼きを。

今日は先を急ぐ。
何たって訪問軒数がやたら多いのでネ。
2軒目は線路沿いにある串揚げの「毘利軒」。
ここでR香の友人のA子が合流。
飲んだのは生ビールだけど、銘柄は忘れた。
串はキス、紅生姜の豚肉巻き。

仲見世商店街に戻り、3軒目は「ミツワ」。
ボールと呼ばれるハイボールに煮込みとうなぎのくりから焼き。
昨今、蒲焼きは高いがくりから焼きなら貧乏人でも何とかなる。
刺身の三点盛りも頼んだらしい。
あとでR香に訊いて判ったことだが
〆さば・ミル貝・北寄貝とのこと。

線路の反対側の「秀」が4軒目。
生ホッピーとここでも三点盛り。
ただし、こちらは牛の内臓でハツ・タン・レバ。
それにレバカツとコーンバターだったんだと。
もう食えないし、覚えちゃいないよ。

=つづく=

「宇ち多゛」
 東京都葛飾区立石1-18-8
 03-3697-5738

「毘利軒」
 東京都葛飾区立石1-22-6
 03-3618-6015

「ミツワ」
 東京都葛飾区立石1-18-5
 03-3697-7276

「秀」
 東京都葛飾区立石7-2-11
 03-5670-8739

2012年6月12日火曜日

第336話 寝転んで「現代」 (その4)

今、風邪をひいている。
およそ5年ぶりのことだ。
いや、5年かどうかは定かでなく、
何しろめったに風邪をひかないタチなので・・・。

一時期よりだいぶよくなったが咳が止まらない。
抗生物質を投与されるとすぐに治るらしいが
そういう特効薬はもっと歳をとって命がアブナいときに使いたい。
それでもあと3~4日経っても症状が回復しなかったら
どこかの医院に行くとしますかの。

最近、テーマを引っ張りすぎだとよく言われる。
寝転んで読んだ2冊の「週刊現代」シリーズも
今日でやめるから勘弁してください。
ん? いつもと違って神妙じゃないか! ってか?
そうですとも、人間というものは
病気になると弱気になるんですよ。

6月16日号の全記事中、いちばん気になったのは
有馬稲子の告白
 「監督と女優が男と女になるとき」
である。

私は人を恨むことが苦手で、嫌なこともわりとすぐ忘れてしまう。
でも、一人だけ、許せない男性がいます。
ある高名な映画監督。
才能にあふれ、高く評価されていました。

この監督は「東京オリンピック」を撮った人。
映画監督と映画女優の間のことだからよくあるハナシで
これ以上、二人の関係を掘り下げるつもりはない。
ただ、有馬稲子は大好きな女優。
彼女について深く語ると、
また2、3回引っ張りそうだから適当に切上げるとしましょう。

彼女が出演した映画のマイ・ベスト3は
①波の塔(中村登)
②東京暮色(小津安二郎)
③ゼロの焦点(野村芳太郎)
もちろん映画の出来映えとしてではなく、
女優・有馬稲子を評して選んだものだ。

「波の塔」の人妻役で
若き恋人の津川雅彦を上野駅に迎えるシーン。
夜行列車から降りて改札を抜けてくる津川に
「お帰りなさい!」―こうひとこと。
あの一瞬の表情は今まで見てきたすべての映画の、
すべての女優のワンショットのうちでもっとも好きだ。

ちなみに稲子は上記3本の映画でことごとく死んでいる。
富士の樹海、東京(五反田?)の病院、金沢では乗用車内。
あたかもガリアのノルマ(ベッリーニ)、
エジプトのアイーダ(ヴェルディ)、
ローマのトスカ(プッチーニ)、
オペラのヒロインのごとくに。

1953年、くだんの監督と稲子が
出会うきっかけとなった映画のタイトルは「愛人」。
ちょいと出来すぎだけど、
運命とはこういうものなんでしょうかねェ。

=おしまい=

2012年6月11日月曜日

第335話 寝転んで「現代」 (その3)

W杯最終予選真っ盛りだというのに
ユーロの本戦が始まってしまい、寝不足もいいところ。
今夜もこれからスペインーイタリア戦である。

さて、さて、「週刊現代の」6月9日号。
ちなみに今日の発売は6月23日号だ。
福田和也サンの連載「旅と書物と取材ノート」、
杉村春子についてである。

春子の盟友、同じ文学座の中村伸郎が
久保田万太郎の談を紹介している。

杉村春子が柔らかい、
例えば母親の情なんか出せるようになったらお終いだよ。

そうじゃないんじゃないの。
春子は何も人の業をにじませる役どころや
つっけんどんな役回りだけに
本領を発揮したのではないと思うけどネ。
と言うのもつい最近、成瀬巳喜男の「めし」を
観なおしたばかりだから殊にそう感じるのだ。

ヒロイン・原節子の母親役で出番はそう多くはないものの、
昭和20年代のにっぽんの母親、かくあるべし。
いったいこの人の演技って何なのだ!。
語り始めるとキリがないので打ち切るけれど、
ひとつ断言できるのはもしも彼女が美しく生まれたとしたら
世紀の大女優はけっして生まれなかったであろう。

続いて先週の6月16日号。
まず大橋巨泉サンの「今週の遺言」。

日本では、天皇皇后両陛下が、
イギリスのエリザベス女王の在位60周年の祝賀に招待されて、
おいでになった事は、誰でも知っていよう。
しかし本当の祝賀は6月2日から5日の間の話で、
両陛下はそれに先立つ、”皇室同士のパーティー”に呼ばれたのだ、
という事を知っている人は少ないだろうと思う。

ハイ、不肖J.C.、知りませんでした。
そうだったんですか、勉強になりました。
巨泉サンは英国連邦諸国とわが国とのマスコミ(特に新聞)の
力量差を指摘もしているのだが、まさにその通り。
もはや日本の新聞は地に落ちている。
ただし、東京新聞だけはその限りに非ずであるらしい。

自分が「FRIDAY」で担当しているからではないが
巻末のカラーグラビアは”イの一番”に目を通す。
著名人の気に入り店と気に入り料理を紹介するコラムは
題して「私のベスト3」。
この号は梅沢富美男サンの”其の二”であった。

ページを開いてブッタマゲたネ。
J.C.が2ヶ月ほど前に取り上げた、
三越前のチンドン屋、もとい、テンドン屋、
「金子半之助」の江戸前天丼が掲載されているじゃないの。
ただでさえ、行列店なのに二人で紹介しちまって
近隣のOL・サラリーマンにゃ恨まれてるだろうなァ。

=つづく=

2012年6月8日金曜日

第334話 寝転んで「現代」 (その2)

「古き良き東京を食べる」の「多古久」の稿である。

=シャコ爪に往時がよみがえる=

明治37年創業、東大前の「呑喜」に遅れること17年、
東京で二番目に古いおでん屋がここ。
初めて訪れたのは四半世紀以上も前だ。
食べ歩きに目覚め、美味しいものを探し求めて日が沈むと
都内各所に出没していた、懐かしくも楽しい時代だった。
記憶が確かならば、当時この店は20時過ぎに店を開け、
23時頃には暖簾をしまっていたように思う。

大きな銅鍋の前には亡くなった先代がどっしりと構え、
入り口近くに女将さんが陣取って、
客はおそるおそる女将の顔色をうかがいながら、
入店の許可をもらうのだった。
何せ、虫の居所が悪いと空席があっても入れてくれないから
客はまるで箱根の関所か、J.F.ケネディ空港の入国管理局を
通過するときのような心細い気持ちになったものだ。

20年ぶりにおジャマしたのは2001年11月。
すでに店主の姿なく、大鍋を取り仕切るのは忘れ得ぬ大女将。
昔の面影が残っていても心なしか角が取れたように思う。
まずは褒紋正宗の熱燗と小肌酢。
甘酸っぱい小肌は好きだが、わさびがニセモノ。
先代はシャコ爪にも本わさを添えてくれたけれど・・。
いや、本当はポン酢だったのだが
あえてわさびをお願いしたら怪訝な顔をされながらも
醤油の小皿とともに出してくれたのだった。
おでんの白滝・つみれ・ふき・牡蠣はみな花マルで言うことなし。

一夜、「呑喜」のあとに、おでんのはしごを試みた。
東大農学部前からタクシーで暗闇坂を走り降り、
不忍池のほとりのこの店へやって来た。
すでにキンシ正宗のせいで酔いが回っている。
それでもなお、褒紋正宗のぬる燗。
〆さばが上々だ。
ここでシャコ爪がスッと出されたのだった。
オケラのシャベルのような爪に、一瞬にして往時がよみがえる。
月日は百代の過客にして、行き交う年もまた旅人なり。

伊集院サンのコラムのサブタイトルは
「ある人に捧げた一枚の色紙」。
現時点で彼が生涯に書いた、
たった一枚の色紙が彼女へ捧げたものなのだ。

今頃、女将さん、
あの世で再会した親父サンにいびられてないかな?
「オメエ、あのモノ書きにぞっこんだったんだろ?
  いい歳こいて若いオトコを追い掛け回しやがって
  みっともねェとは思わねェのかい!」―
ハハハ、まずその心配はなさそうだ。
亭主の生前から女将のほうが威張ってたからネ。

とここまで書いて今週号に移ろうと思ったものの、
も一つ看過できない記事があった。
福田和也サンの「旅と書物と取材ノート」。
女優・杉村春子のお出ましである。

=つづく=

2012年6月7日木曜日

第333話 寝転んで「現代」 (その1)

きのう・おとついの当ブログに関して
読者のA羽サンとS村サンから率直な質問をいただきました。
「動物園で動物は観ませんの? 飲むだけですの?」―
その疑問、ごもっともです。
もちろん観ますとも、動物は大好きですし、
アル中じゃありませんから。

気に入りはお山の上の東園より、池のほとりの西園。
水景を臨むのは気持ちがいいものである。
カバ・サイ・キツネザル・ペンギンなど、
好みの動物たちも西に多いしネ。
いずれ、Zooリポートをシリーズ化するつもりなので
アニマル好きの方はご期待ください。

週初の午後、カウチに寝そべって
2週間分の「週刊現代」を読む。
先週は忙しくて読むヒマがないどころか買うヒマもなく、
先の日曜に何とか間に合って手に入れ、
翌月曜には今週号を買い求めた次第なのだ。
週に2晩も徹夜すりゃ当たり前だわな。

まず先週の6月9日号。
同じ講談社の「FRIDAY」で
巻末グラビアを担当しているせいでもないが
やはり食べもの紹介のそのページを最初にのぞく。
俳優・梅沢富美男サンが紹介するのは鮨屋のばらちらし。
ほう~っ、旨そう!
でも、昼めしに3300円の出費はためらうなァ。
今をときめくうな重より高いもんねェ。

だが、これが夜だと許せちゃう。
ちらしのアタマを肴に酒が飲みたい。
要するにどんぶりを魚介盛合わせと見立ててれば、
けっして高くはないのである。
あとに残った酢めしのほうは
いくら・しいたけ・玉子の脇役トリオで食べられるし。

伊集院サンのコラム、「それがどうした」で
「T古久」の大女将が亡くなったことを知った。
「T古久」は湯島天神下のおでん屋「多古久」のこと。
自著「古き良き東京を食べる」でも紹介した。
ものはついで、その稿を転載してみたい。
少々長いが削るにしのびなく、がまんしてください。

ちなみに店紹介の冒頭に
〔 ★  風鈴 〕 の符号が付いている。
桜と風鈴はそれぞれイラストで描かれている。
それぞれの説明はかくのごとしであります。

★・・・・・とてもおいしい料理を提供するお店
・・・・・CPが高く東京の食文化の継承にも貢献しているお店
風鈴・・・古き良き東京の風情・情緒を今に残すお店

ときたところで以下次号。

=つづく=

2012年6月6日水曜日

第332話 ZooでZooっと飲んでいたい (その2)

肩でそよ風を切って乗り込んだ上野動物園。

♪  肩で風切る 王将よりも
   俺は持ちたい 歩の心 ♪
       (作詞:関沢新一)

たった今、切ったそよ風の逆襲にあっている。
そよ風がサル山から運んだ匂いはけっこうなケモノ臭だ。
以前、青山のビストロで山シギの丸焼きを食べたとき。
ナイフを入れた瞬間に立ち上がった異臭に愕然とした。
相方がすかさずズバリと言い当てたっけ。
「上野のサル山の匂いだネ!」―まさしくであった。
まっ、考えようによっちゃ、この臭気、
重めの赤ワインに合わんこともない。
(ホントかよ?)

風向きが変わったせいか、嗅覚が馴らされたためか、
そのうち気にならなくなり、ビールからワインに移った。
急に周囲が騒がしくなったのは幼稚園児の群れだ。
サルよりよほど騒々しい。
もの静かな園児の群れというのも不気味だがネ。

ワインのボトルが半分になって
食糧、いわゆるつまみが尽きた。
気の合う同士が酒を酌み交わすとき、
つまみはさして重要ではない。
それがのみともというものだ。

ずいぶん昔に池波正太郎が書いていた。
京都の南座近辺だったかな?
新国劇の辰巳柳太郎とバッタリ出会い、
料理屋の2階で日本酒を飲み始めて
結局は夜を徹したのだと。
その間、酒の友はわさびと醤油だけだったんだと。
何だかんだと能書きタレちゃいるが
チューブわさびでパックの刺身を食ってる、
咬みつき亀こと、友里征耶にゃ、
こんな粋な芸当は逆立ちしたって出来ゃしめェ。

さっきまでそよいでいた風が木々を揺さぶりだした。
ほどなく雨がパラついて東園食堂へ避難する。
ワインのボトルがカラになり、今度は生ビールだ。
園内で販売されているアルコール飲料は生ビールのみ。
小さめの中ジョッキが1杯500円で銘柄はキリン一番搾り。
さわやかな午後のひとときを過ごし、友を上野駅に送った。

Zooでの午後飲みはクセになること間違いナシ。
惜しむらくは最終入園時間16時のシバリで
17時には退出を余儀なくされる。
せめて18時までは飲んでいたいのになァ。
だが、Zoo側も粋な計らいをしてくれており、
7、8月には2時間延長日が何日かある。
お盆の前後は3時間延長日さえも。

それに備えたわけではないが
この2日後に再び舞い戻り、
年間パスポートを購入しちゃいました。
これにより広大な恩賜上野動物園が
わが家の庭になりましたとサ。
メデタシ。

2012年6月5日火曜日

第331話 ZooでZooっと飲んでいたい (その1)

ひと月近くも前になりますかいの。
みちのくの酒友より着信メールありけり。
東京出張のかたわらに
半日ほど身体が空くから酒を酌み交わしたいとのこと。
こういう場合、日程が詰まっていない限り、
まず誘いを断らないところがJ.C.のよいところ。

「んで、その半日はいつなんだっぺ?」―
問い質したらGW明けの真っ昼間なんだと。
「んだか? そりゃすっかたなかんべサ」―
安請け合いはしたものの、
鬼よりコワい真昼酒、はて、どうしたものやら・・・。

メジャーシティの第一候補は浅草であろう。
マイナータウンならば、立石・町屋・十条・赤羽あたり。
すでに浅草へは何度も伴っているから
此度は立石にすっぺ・・・腹積もりは整った。

携帯で返信しつつ、当日のスケジュールを確かめると、
おい、おい、おい、その日は夕方から
まさしく立石で地獄参りの飲み会じゃないかい。
しかも相手は城西のエクソシスト・コンビ、
鬼のH川と夜叉のR香じゃないか!

ことここに及び、J.C.の進退窮まれり。
いかりや長サンじゃないが、ダメだこりゃ!
でありました。
しばし思案の末、ひらめいたスポットが・・・
さて、その場所はどこでしょう?

いきなり読者に振っても即答できる道理がない。
結論を急ぐと、そこは上野動物園でありました。
どうでっしゃろ? 意外でござんしょ?
そんなところで飲めんのか? ってか?
フフッ、ここだけのハナシ、と言いながらも
当ブログの読者数はけっして少なくないから
結局は公然の秘密になっちまうが
 Zooはよいよォ!
くだらん町の下手な居酒屋より 、
Zooっと Zooっと Zooはよいよォ!

てなこってFood&Drinkの調達に走る。
最寄りのデパ地下は広小路の松坂屋だ。
スーパードライのロング缶を2缶。
ランゲ・ネッビオーロ マッソリーノ '08 を1瓶。
ハモン・セラーノとカマンベールに
ソーセージロールとクロワッサン。
以上でモア・ザン・イナッフだろう。

肩で風を切りながら正門から入場する。
パンダを尻目にサル山正面の野外休憩所へ一目散だ。
するとありがたきかな、緑のそよ風がさっそく
お山の異臭をわれらが鼻腔にお運び下すった。
ん? んむむ、あらら、あいや、タハハハ・・・。

=つづく=

2012年6月4日月曜日

第330話 あきれた三人組 (その2)

銀座1丁目の「三州屋」にて
あら煮A&あら煮Bをつまみながらビールを飲んでいる。
突き出しのAはブリかと思いきや、
かなりデリケートな食味からしてカンパチであろう。

木の芽(山椒の葉)が香るBの金目鯛は佳品ながら
甘い味付けと小骨の多いのに困った。
もっとも難点を差し引いても食する価値はある。
それに700円だから銀座では良心的だろう。

金目を半分食べたところで白鶴の燗に切り替えた。
徳利の容量は1合半くらいかな。
はっきりとした値段は判らぬが
会計から引き算したら900円少々と思われた。
これは銀座といえどもちょいと高い。
ごく普通の量産品だし・・・。

独酌でやり始めたちょうどそのとき、
♂2、♀1の三人組が入店して相席となった。
相席といっても大きなテーブルだから
間に椅子一つぶん空いている。
お互いストレスを感じない距離である。
だが、彼らのオーダーを聞いてわが耳を疑った。
注文品のすべてをご披露しよう。

ビール大瓶1本 刺身盛合わせ1人前
生野菜1人前 鳥豆腐3人前

別段、おかしくはないかもしれない。
でもネ、これが最初で最後の注文だった。
やっぱり何かヘンでしょう?
実はこの3人、揃いも揃ってビールが嫌いときた。
というよりも酒が飲めないのであった。
下戸が徒党を組んで大衆酒場に来るかい?
まったくもってあきれた三人組だヨ。

男Aは何とかコップ1杯ほど飲んだ。
男Bは注がれたビールに口もつけない。
女性にいたっては
「ワタシもともとアルコールを分解できない体質で
  まったく飲めないんですよ」
別に聞き耳立ててるワケじゃないが
どうしても耳に入ってきてしまう。

実は彼らの目当ては三州屋名物の鳥豆腐であったのだ。
1人1鉢抱えて脇目もふらずガツガツだもんネ。
おそらく男たちはランチタイムの常連なのだろう。
旨い鳥豆腐を同僚の女性に食べさせようとやって来たらしい。
それが証拠に例のオバちゃんが
1本のビールに突き出しを3つ出した。
さすがにここでお茶というわけにもいかず、
飲めない代償に欲しくもない刺盛りや
生野菜を頼んで店に気を使ったのだろう。

でもネ、余計なお世話かもしれないが
酒場でのガツガツは傍で見ていて
あまりみっとものいいもんじゃないですぜ。
場の雰囲気を壊すからネ。

鼻白んでしまってここらあたりが潮時と思い、
オバちゃんに声を掛けた。
「オネエさん、お勘定!」
振り向いたオバちゃん、何とニッコリ微笑んだじゃないの。
へへッ、オニイさんと呼ばれたらオネエさんと返すのが
渡世の義理ってもんじゃあ、ないでしょうかねェ。

「三州屋 銀座一丁目店」
 東京都中央区銀座1-6-15
 03-3561-7718

2012年6月1日金曜日

第329話 あきれた三人組 (その1)

入学して4年余り通った大田区立大森第五小学校。
近所に魚市場があって河岸が休みの日には
よくローラースケートで遊んだ。
それにしても近頃トンと見掛けなくなったなァ、あのロスケ。

3年生のときだったかNHKラジオに
子ども討論会みたいな番組があって何回か出演した。
局ではギャラ代わりにオリジナルの筆箱をくれるのだが
級友にずいぶんあげたから相当数出演したハズだ。

当時、NHKはまだ新橋にあり、
そのスタジオに出向いて収録していた。
ある日、当時絶大な人気を誇った、
「お笑い三人組」の出演者の一人、
三遊亭小金馬(現四代目金馬)にバッタリ。
われらガキンチョ、これには歓声を上げましたネ。
「ハイ、ハイ、ボクたち元気だネ」―
なんて言われて帰宅後、さっそく母親に報告したっけ・・・。

ハナシは新橋から銀座へ移る。
ある晴れた日の夕刻。
日本橋と銀座で所用を済ませ、
例によってどこで飲むべエかと思いをめぐらせる。
独り向かったのは「三州屋 銀座二丁目店」だ。
並木通りからちょいと奥まった店頭に立ったとき、
脳裏をかすめたのは
「一丁目店」にゃだいぶご無沙汰だな、これだった。
急遽、方針変更して徒歩3分ほどのご無沙汰店へ。

引き戸を引いて敷居をまたぐ。
接客のオバちゃんに右手の人差し指を立てると、
手招きで「どちらでもどうぞ」の意思表示。
ちまたでは”コワい”と畏怖される有名なオバちゃんだ。
キビキビ、サバサバしたヒトだから、J.C.は好きだがネ。

一番奥左手の大デーブルの端に陣を取った。
「オニイさん、何にします?」―
おっ、うれしいねェ、オニイさんてかい?
やっぱりこのヒト好きだなァ。
「黒ラベルの大瓶を!」―すかさず応える。

泡を極力立てずに注ぎ、ひと息に飲み干す。
自分自身に今日一日ご苦労さんと
つぶやき掛けて大きな息を一つ吐く。
孤高にして至福のときなり。
一日のうち、もっとも好きな時間を過ごしている実感がある。

つまみに金目のあら煮をお願い。
その数秒後、届いた突き出しがブリか何かのあら煮だ。
いけネ、かぶっちまった。
まっ、いいか、もともと突き出しに多くを求めぬ性格ゆえ、
注文したあら煮が増量されたと思えばそれでよい。

=つづく=