2012年10月31日水曜日

第437話 ランチはすべて豚なりき

森下の高橋商店街、通称 ”のらくろーど” にてランチ。
この愛称は漫画「のらくろ」の作者・田河水泡が
近所で生まれたことに由来する。
当日の相方は読者転じて、のみともとなったT堂サン。
当初は築地の河岸の予定だったが互いの都合から
利便牲の高い森下に文字通り、河岸を替えた次第だ。

夜はちょくちょく訪れるが昼となると選択肢がせばまる。
候補としてはまず「満る善」の天丼。
海老は外してキス・メゴチ・穴子のトリオでいきたい。
そば屋みたいな屋号の「尾張屋」でうな重という手もある。
値上がったとはいえ1600円だかんネ。
そうだ、「はやふね食堂」の定食もあったか!
かきフライがすでにスタートしているハズだし・・・。

何だかんだ言って、けっこうあるじゃないの。
ここでふと思いついたのが「はやふね食堂」からほど近く、
「尾張屋」と同じ、”のらくろーど”にある「精華園」。
通りすがったときのノスタルジックなたたずまいが
記憶の片隅に刻まれていた。
よしんば外したとしても悔いが残るわけじゃない。
相方のT堂サンはJ.C.と違い、温厚な性格の持ち主である。

店先のランチボード及びサンプルケースに見入る。
ショージ君ではないが「あれも食いたい これも食いたい」状態。
そい言えば、コレを書いてる今夜は
当ブログでもおなじみのさだお御大、和雄副御大ともども
「美女を侍らす会」の開催が予定されている。
もっとも美女と言ってもかなりトウは立っておりますがネ。
まっ、そのハナシはまた別の機会にでも・・・。

吟味の結果、ラーメンと炒飯は抑えた。
あとは3種ある”本日のランチ”から1品選ぶことに。
だけどサァ、その定食メニューがサァ、
まっ、ご覧くだされ。

 A 豚肉と野菜の炒め
 B 豚肉の味噌炒め
 C 豚肉と野菜のうま煮

ったく、大雑把だなァ、ってゆうかァ、バカじゃないの。
みんなブータンかよォ! 豚肉嫌いはどうすんの? 
イスラム教徒が来たらどうなんの? タリバンとかさァ!
でもって、幸か不幸か豚肉好きのわれわれは”C”にしました。

生ビールを頼んだらモヤシのピリ辛炒めがサービスされる。
おっ、なかなか気が利くじゃん・・・と思ったのも束のま、
定食の小皿がおんなじモヤシと来たもんだ。
オメエの店は豚とモヤシしかないのかえ?

悪態ついてても始まらないから食っただヨ。
すると、するとですヨ、ラーメンはスープ凡庸なれどシコ麺旨し。
ハム・玉子・長ねぎ入り炒飯はさっぱりイケて★1個。
つまらんトマトとレタスのサラダと前述のモヤシを従えた、
豚肉&野菜のうま煮もボリューム満点のうえ、
なぜか味付けまでよく、じゅうぶんに及第点だ。
たっぷり入ったクワイとキクラゲがまたエラい。

何だか甘い評価になっちまったが、ほめてばかりはいられない。
とにもかくにも”三匹の仔豚揃い踏み”だけは何とかせえや。

「精華園」
 東京都江東区高橋8-7
 03-3635-0841

2012年10月30日火曜日

第436話 昼下がりの江戸前鮨 (その2)

浅草の「三角」は大衆ふぐ料理の佳店。
はす向かいにある「紀文寿司」のつけ台にいる。
今にも倒れそうな木造建築、
つけ場に立つのはこれまた今にも倒れそうな親方。
奥のテーブル席では齢85を超える親方のおっ母さんが
しばし身体を休めていた。
 ♪ 休憩だよ おっ母さん ♪
てな状況だ。
この母子、見ようによっては夫婦に見えぬこともない。
数年前に大病した倅が激ヤセして老けちまったからネ。

ビールのハナシであった。
アサヒの本拠地の浅草だっていうのに
キリンラガーとエビスの品揃えとはこれ如何に?
わが質問に応えて親方曰く、
「以前はキリンとアサヒを置いてたんだけど
 アサヒは誰も頼まなかったのヨ」―
ハイィ~ッ、この言葉、にわかに信じがたかった。

人の好みは十人十色、さりとてそんなに差がつくもんかネ。
第一、ここには15年以上も通っているが
アサヒなんざ見たことないぜ。
「親方、それって何年前のこと?」
「う~んとぉ・・・30年くらいかねェ」
とっとっと、これだから浅草っ子はイヤになっちゃう。
時間軸の把握というものがからっきしダメなんだ。

確かにあの頃のアサヒは不味くて飲めたもんじゃなかった。
数年前に復刻版を飲んでみたが
半ダースまとめ買いしたことを深く悔やんだもの。
スーパードライの発売は確か1987年だから
ビール業界の地図を塗り替えた商品を
四半世紀のあいだ、まったく無視し続けているのだ。

キリンラガーを注ぎ合って乾杯。
突き出しは小ぶりのサザエ、
いわゆる姫サザエを酒と醤油で炊いたもの。
爪楊枝でクルリンとねじり出してパクリ。
肝を置き忘れちゃもったいないからネ。

つまみは薄く切ったカサゴ刺しにあぶった墨いかゲソ。
あとはヒモ付き青柳と小柱である。
N藤サンは〆張月、J.C.は菊正宗の上燗に切り替えた。
にぎりの前にもう一品ということで親方オススメの渡り蟹を。
モノがよいから楽しめたが、かなり手数が掛かった。

漬けしょうがをチョイとつまんでにぎりへ。
酢アジ、小肌、煮いかと食べ進む。
「紀文寿司」は生のアジなんぞ出さない。
「弁天山」もしかりで元来江戸前鮨とはそいうものだ。

マイ・アドバイスによりここでN藤サンが
煮はまぐりとはま吸いをはさんだ。
これは訪れたらぜひの逸品なのだ。
大ぶりのにぎりにつき、そうそう数はこなせない。
この日のベストだった穴子と酢めし抜きの玉子で締める。
本格的な江戸前鮨に相方は喜色満面。
明日には山陰の水都にご帰還あそばされる。
お言葉に甘え、ご馳走さまでありました。

「紀文寿司」
 東京都台東区浅草1-17-10
 03-3841-0984

2012年10月29日月曜日

第435話 昼下がりの江戸前鮨 (その1)

所用で日本橋と銀座のあいだの京橋へ。
ついでだからフィルムセンターに立ち寄り、
上映作品のスケジュール表をピックアップする。
その日は日曜日、時刻は13時半。
バタついていて昼めしを食べ損ねていた。

ひらめいたのは「レバンテ」のカキフライ。
JRのガードをくぐったところで
国際フォーラムから出てきたN藤サンとバッタリ出くわした。
旧知の友人は島根県・松江の人である。
先方もこれから昼餉の予定と聞き、
それではカキフライでもと誘うと
折悪しく昨夜の会合で牡蠣をたらふく胃袋に収めた由。
そりゃ塩梅悪いわな。

何がお望みかと訊ねたら、
真っ当な江戸前鮨が食いたいとのこと。
(ゲッ、鮨かァ、こりゃ予期せぬ出費になるなァ、
 せめて「竹葉亭」の鯛茶かまぐ茶なら・・・))
口には出さぬが胸の奥でつぶやいた。

どうやら心もとなさが顔に出てしまったのかもしれない。
N藤サン曰く、
「J.C.、ボクが言い出したんだからオゴるヨ」
「いえ、いえ落ちぶれ果ててもJ.C.は武士です、
 割り勘でいきましょう」
「いいからいいから、その代わり旨い鮨屋に連れてってヨ」
言い出したら聞かない人につき、
ええい、ままよと、店の選定に入った。

日曜のこの時間、開いてるところは少なかろう。
デッカい商業ビルに入居してる鮨屋なんざ死んでもイヤだ。
こういうときには浅草に限る。
加えて銀座より安いしネ。
でもって京橋に戻り、地下鉄・銀座線に乗り込んだ。

第一感の「弁天山美家古」は14時から17時まで中休み。
それではと「紀文寿司」の営業時間を調べたら
運よく日曜・祝日は休憩ナシの通しとあった。
その代わり早仕舞いするのだ。
N藤サンのおおよその好みは知ってるつもり。
ちまちましたにぎりよりガツンと来るのが好きなハズ。
要するに銀座タイプより浅草タイプが嗜好に合致しよう。

久々に「紀文」のつけ台に着く。
浅草でもっとも古びたたたずまいが
相方の好奇心を激しく刺激しているのが手に取るように判る。
品書きを見ると、以前はキリンラガーしか置かなかったのに
エビスが品書きに載っている。
「親父サン、何でまたエビスを?」
「いえネ、お客が置いてくれって言うもんだから・・・」
ふ~ん、そうかァ、自分も常連だったら
好きな銘柄を入れてもらうのになァ。
「浅草なのになんでアサヒを置かないの?」
店主の回答は実に意外なものだった。

=つづく=

2012年10月26日金曜日

第434話 切られ与三の木更津へ (その2)

木更津港を臨む「海鮮茶屋 活き活き亭」。
建物自体が何だか大雑把で
はとバスでも乗り付けてきそうな気配だ。
どれどれサカナはさぞかし活き活きと泳いでいるんだろうと、
ショーケースをのぞいてみたら、何じゃこりゃあ!
品揃えのプアなことはなはだしい。
スイマーは皆無であった。
ネットで調べたときは活け車海老が泳いでいたのにねェ。
結局、蛤と牡蠣を2粒ずつ食べるにとどめた。
遠路はるばる無駄足を踏んだことになる。

長居は無用だ、新内流しのごとく市内の散策を開始した。
もっとも気に染まる店の物色にすぎないけれど・・・。
地元に揚がったサカナで一杯飲りたい、
そんな気持ちでいっぱいだった。

木更津駅前の「好美寿司」に入店する。
フツーの町場の鮨屋だが店構えは悪くない。
それにこの夜は強い味方がついていた。
へへへっ、こんなこともあろうかと
携えてきたのは本わさびとおろし板だい!

着いたつけ台は親方の正面。
周りに客の姿はなくとも
ざわめきが聴こえるのは奥の座敷の宴席だろう。
ここに三味(しゃみ)の音色でも届いてくりゃあ、
「切られ与三」の世界そのものだぜ。

さあてとガラスのケースに目を落とす。
ありゃりゃ、何だヨ、ここもヤケに寂しいなァ。
それでも好物の蝦蛄と小肌がいてくれた。
女将にお燗をお願いし、親方の許しを得てわさびをおろす。
ともに地物じゃあるまいが生わさびのおかげで活き返った。
白身もまぐろもすでになく、あとは平貝と甘海老くらいのもの。
つまみをちょこちょこ計4点にお銚子を2本で切上げた。

実は気になる店がもう1軒。
目抜き通りを外れながらも角地にあって入口が二つ。
懐旧の気持ちをくすぐる「木村屋食堂」だ。
ここを看過するわけにはいかない。
暖簾をくぐると作業着姿のオジさんとアンちゃんが
オムライスをかっ込んでおり、これがとてもいい匂い。

こちらはまずビールと牡蠣フライ。
おっと、小ぶりな牡蠣が意想外の旨さじゃないか。
平らげたあとも前2軒が品薄だったために
胃袋にはまだ多少のキャパが残っている。
ラーメンと迷った末、オムライスをさすがに少なめでお願い。
すると、
ワワッ! 出た、出た、出ました、出ちゃったヨ!
何が出たんだ! ってか?
いやはや、とうとう出たのは逆転サヨナラホームランですがな。
和・洋・中がみな揃う「木村食堂」はこの日一番の当たりであった。

てなこって八州廻りはめでたく大団円。
しばらくは江戸の市井に身を沈めようと思う。
そう、そう、ちなみに映画の与三郎は
故あって牢を破り、関八州のおたずね者に身を落とす。
血のつながらぬ愛しの妹と二人、
江戸湾に入水してゆくラストがはかなく美しく、涙を誘う。

「海鮮茶屋 活き活き亭」
 千葉県木更津市富士見3-4-43
 0438-22-5666 

「好美寿司」
 千葉県木更津市中央1-2-1
 0438-22-2847

「木村屋食堂」
 千葉県木更津市富士見2-1-6
 0438-22-2786

2012年10月25日木曜日

第433話 切られ与三の木更津へ (その1)

この夏に始動した八州廻りもいよいよ大詰め。
締めに訪ねたのは総州・木更津だ。
木更津と聞けば第一に思い浮かぶのは
歌舞伎狂言の「与話情浮名横櫛」であろう。
世にいう「切られ与三郎」、
いや、「お富さん」といったほうが通りがいいか。

1960年、今は無き大映が
「切られ与三郎」のタイトルで映画化している。
前作「弁天小僧」の成功に気をよくしての第二弾。
主役・与三郎が市川雷蔵なら
メガフォンは伊藤大輔、カメラは宮川一夫。
前作とまったく同じ鉄壁のトリオである。
脇を固めるお富を演じたのは淡路恵子、
蝙蝠安が多々良純ときたもんだ。

雷蔵ファンを自称するJ.C.、ニヒルな魅力あふれる、
「眠狂四郎」や「陸軍中野学校」も好きだが
それらを抑えて弁天&切られ与三がわが心の飛車角だ。

とにかく上野から京成線の電車に乗り込んだ。
最近、遠出をするときは必ず、
行きがけ、あるいは帰りがけの駄賃を目論むのだが
当日もご多分にもれずであった。
途中下車したのは千葉中央駅で京成千葉の一つ先。

なぜか千葉の街にはなじみが薄い。
まだ、お天道様が南西上空にある時間帯に立ち寄ったのは
あらかじめチェック済みの「旨いもん食堂かどや」。
通常、こんなセンスのない名前の店には近づかないが
諸般の事情からほかにチョイスがなかったのも事実だ。

結果、読者のご想像通りにダメでやんした。
鳥つくねとホルモン焼きをつまんだものの、
あまりにレベルが低くて
ホルモンなんかレトルトをあっためただけみたいなヤツ。
肩を落として支払いを済ませ、
今度はJR千葉駅まで歩き、飛び乗ったのが内房線。
思い出すまい、嘆くまい、行く手に幸多かれと祈るばかりだ。

そうして到着した木更津。
一世紀半前には与三郎が新内を流した漁師町である。
西口を出たらそのまま一直線に夕陽に向かう。
ここもメインストリートの商店街がサビれはてている。
江戸時代のほうがよほど賑やかだったろうなァ。

実は木更津でもちょいと悪い予感がしていた。
理由はやはり店名にあった。
10分ほど歩いてたどり着いた大型店は
港に面したその名も「活き活き亭」。
ねっ、ほらっ、この名前じゃ期待できないでしょ?

=つづく=

「旨いもん食堂かどや」
 千葉県千葉市中央区中央4-2
 043-216-5355

2012年10月24日水曜日

第432話 百円玉で買った揚げ玉

下町風の天丼が食べたくなった。
胡麻油がプ~ンと香り、
丼つゆも濃いめの辛めがいい。
関西風というか、京風というのか、
サラダ油なんぞで揚げたんではまったくもの足りない。

江戸湾の小魚に恵まれる東京は玉子入りのコロモを付け、
胡麻油でカリリッと揚げるのがいかにもそれらしい。
一方、昔から魚介不足の京都あたりでは
野菜や山菜を玉子抜きのコロモで揚げ、塩で食する。
これは胡麻油じゃ合わないもんねェ。

天丼を求めて出掛けたのは浅草。
「大黒家」、「三定」、「葵丸進」が
浅草の天ぷら御三家という感じながら
この3軒には感心しませんなァ。
浅草はけして”天ぷらの都”ではないのだ。
観音さまのご利益で観光客を相手に
比較的ラクな商売を続けてちゃ、
進歩もなければ向上心も湧き起こるまい。

以前、往年のカリスマ予備校講師、
金ピカ先生と訪れたことのある「多から家」の敷居をまたいだ。
そういえばあのとき、
店主がかつて金ピカ先生の教え子だったと名乗り出て
しばし会話が盛り上がったっけ・・・。

注文したのは穴子芝海老天丼(1400円)。
内容は穴子1尾、芝海老の三連イカダ、ブラックタイガー1尾。
やはり天丼に穴子が参入すると存在感が格段に増す。。
豆腐味噌椀、キャベツもみとともにいただき、満足、マンゾク。

勘定を済ませていると引き戸が開いて一人の婆サンが登場。
手には揚げ玉の袋が二つ握られている。
そういやあ店先で揚げ玉が1袋100円で売られてたっけ・・・。
つい誘われてオツリにもらった百円玉を戻し、1袋買い求めた。

それから数日後、自宅でブランチの際、
豆腐と三つ葉の味噌汁に揚げ玉を浮かべてみた。
おおっ、なかなかいいじゃないの。
アッサリした食事の味噌汁に投ずると効果てきめんだ。

そのまた数日後、
カップそばの明星かけそばでっせにも入れてみた。
シンプルなかけそばが江戸風たぬきそばに変身である。
ややっ、カップの天ぷらそばよりずっといいじゃん。
そりゃそうだ、真っ当な天ぷら屋の揚げ玉だもの。
ただし問題が一つ。
独り身ではいっくら使ってもまったく減ってくれない。
消費しきるのに1年はかかりそうだ。
そのうち油ヤケしてくるだろうし、
飽きたこともあって、今じゃ少々持て余し気味だ。

ここで思い出すのは2袋買って帰ったあの婆サン。
住まいでは大家族が待ってるのだろうか。
独り暮らしじゃないにしても爺サンと二人きりじゃ
両方とも健康を害するぜ、それが気がかりな今日この頃。

「多から家」
 東京都台東区浅草1-11-6
 03-3841-0519

2012年10月23日火曜日

第431話 ドーバーソールはプレスティージ 古く良かりしニューヨーク Vol.5

ここんとこ古巣ニューヨークから友人が
続々と一時帰国して来る。
連中と飲む機会が多くて
思い出話に花を咲かせることたびたびである。

そんなこってつい先日、
お届けしたばかりの”ニューヨークシリーズ”を
もう一発いってみます。

=ドーバーソールはプレスティージ=

舌平目はムニエルになるために生まれてきたようなサカナ。
英語でも仏語でもソールと呼ばれる。
この名称、ゴルフのプレイ中によく耳にする。
「シューズのソールはラバーに限るネ」
「バンカーではクラブのソールを付けちゃダメ」
なんてネ。
舌平目の姿はシューズやクラブのソールによく似ていて
日本の九州でも小さなカレイ類を”靴底”なんて呼んでいる。

あまたあるソールの中で
王様はドーバー海峡から揚がるドーバーソールだ。
しなやかに引き締まった身肉は
伊達公子の太ももを思わせて元気ハツラツ。
(この頃は公子サンの全盛期であった)
お味のほうもすこぶるよろしい。
ニューヨークにも盛んに空輸され、
フレンチでもイタリアンでも高級店は仕入れているハズ。
このサカナこそプレスティージ・フィッシュ、
いわゆるその店の威信や名声を担うサカナなのだ。

「Parioli Romanissimo」は
ニューヨークで5本の指に入る高級イタリアン。
ここでは素焼きをマスタードソースでいただきたい。
イタリア人はあまりムニエルを食べない。
地中海産のブランズィーノ(スズキ)の入荷があったりすると、
ソールと迷うこと必至だ。
ポルチーニや仔牛など、北イタリアの旨いものが揃う名店である。

「La Cote Basque」 はニューヨーク屈指の高級フレンチ。
ドーバーソールを切らすことはまずない。
ムニエルにレモンを搾るのもいいし、
グリルならエストラゴンの効いたベアルネーズソースが抜群。
ただクラシックな料理が多く、日本人の胃袋には重過ぎる。
もうちょいデリケートな皿を供給してほしい。
チャーミングな内装のおかげで居心地がいいだけに残念だ。

ひるがえってわがニッポンの舌平目は赤でも黒でもやや小さめ。
フランスとイギリスの間の狭いドーバー海峡で
どうしてあんなに立派なソールが揚がるのか不思議でならない。

「Parioli Romanissimo」
 24E. 81st St
  212-288-2391

「La Cote Basque」
  5E. 55th St.
  212-688-6525

2012年10月22日月曜日

第430回 悪くはなかった真希絵サン

あれは半年ほど前だったろうか。
俳優・塩谷瞬の二股交際というのか、
Wプロポーズと呼ぶのか、
ちまたを騒がせた事件が勃発(オーバーかな?)したのは―。

最初に嗅ぎつけたのは
「旨すぎる男の昼めし」が大好評(?)の写真誌「FRIDAY」だ。
(誰も言ってくれないから自分で言っちまった)
その「FRIDAY」編集部のM尾サンから連絡があり、
何でも二股の片割れのモデルのほうではなく、
料理人のほうの店に乗り込もうというお誘いである。

ひと月半前の「FRIDAY」に掲載された、
彼の記事の冒頭部分を引用してみよう。

「唐突ですが、来年2月28日をもち、
 自店『園山』を閉めることにしました」

8月27日、フェイスブック上にこんな書き込みをしたのは
料理研究家・タレントで
今年何かと話題になった園山真希絵さん(34)だ。
彼女は’06年の6月、
都内に紹介制の飲食店『家庭料理割烹 園山』を開き、
経営を続けてきた。
しかし、冒頭の書き込みのとおり、
突然その店を閉めることを決定したのである。

話題の紹介制家庭料理割烹、
そんな店に一度も行かないのは実に惜しい、
ということで、閉店前に『園山』に潜入し、料理を食べてみた。

かくかくしかじか、潜入の片棒を担ぐことになりやした。
残暑きびしき9月の上旬、恵比寿駅でM尾氏と落ち合った。
彼は迷ってはならじと、あらかじめ下見を済ませた由、
さっそく店に向かった。
いや、こりゃ判りにくいゾ、
ほそ道の奥に身を潜めるようにして和食店「園山」はあった。

M尾氏によれば、当物件の契約の更新問題がこじれ、
少なくとも当地での営業は終結を迎えることになりそうとのこと。
先行き不透明だからこその潜入実食なのだった。

古民家を改装した店内は神楽坂あたりにはありがちなしつらい。
席の選択を訊かれ、テーブルが2卓配された準個室を選んだが
ここはオープンキッチン・カウンターにすべきだった。
さすれば厨房スタッフの動きが実見できたハズだもの。

ビールがエビスの生しかない。
これは仕方がなかろう、ここは恵比寿だからネ。
でもって真希絵サンが得意とする、
マヨネーズを使わないポテサラや
じゃが芋・人参ゴロゴロの肉じゃがなど、
10品近くの家庭料理をいただきやした。

すると、期待を上回る美味しさなのである。
常人離れした盛り付けが話題の彼女ながら
”旨けりゃいいや派”にはまったく問題ないだろう。
ただし、”料理は目で食いたい派”は途中下車したくなるだろう。
まっ、閉店前の貴重な体験ではありましたがネ。

2012年10月19日金曜日

第429話 ありし日の数寄屋橋 (その2)

小林旭主演の「東京の暴れん坊」は銀座が舞台。
カメラが数寄屋橋界隈をとらえている。
あゝ 懐かしの日劇よ!
日劇の屋上に”東芝(Toshiba)”の名前が見える。
1年前に完成したネオンサインで夜はいっそう目立った。
手前左は阪急デパートが入居していた東芝ビル。
建て替えられたビルが今また取り壊されようとしているのだから
まさに隔世の感あり。

日劇に初めて入場したのは
東京五輪が閉幕して3ヶ月後の1965年1月末。
観たのは「いしだあゆみショー」である。
あの頃、いしだあゆみが大好きだった。

ご覧のように数寄屋橋下の外堀はすでに埋め立てられ、
その上を東京高速道路が走っている。
数寄屋橋自体も消滅してしまった。
道路の高架下は西銀座デパート。
その下の丸の内線・銀座駅は当時、西銀座駅を名乗った。
フランク永井の「西銀座駅前」がヒットしたのは1958年だったか。

  ♪ メトロを降りて 階段昇りゃ
    霧にうずまく まぶしいネオン
    いかすじゃないか 西銀座駅前 ♪
           (作詞:佐伯孝夫)

「東京の暴れん坊」は夜の銀座もしっかりとらえている。
映画における銀座の定番ショット
「不二家」のフランスキャラメル、
ソニービルの看板にはラジオとテープレコーダー、
森永キャラメルの大地球儀、
奥には「服部時計店」の時計塔も見える。

後楽園球場の貴重なシーンもあって
当時の正捕手にして5番打者・藤尾茂が
11号ホームランをかっとばしている。
直後の場内アナウンスがまた泣かせるのだ。
「6番ファースト・王、背番号1」―たまらんでしょ?

藤尾は数年前まで消息不明だった時期があった。
往年の巨人ファンはみな心配したものだが
現在は三重県・鈴鹿市で
ゴルフ場の副社長を務めていることが判っている。

旭演ずる主人公はパリ留学を終えて帰国し、
家業を継いだ「キッチン・ジロウ」の若主人。
並木通りと思しき目抜き通りに店はあるが、これはセット。
セットが多いものの、ロケもふんだんに取り入れられ、
進行のテンポが小気味よく、観るものをあきさせない。
往時の銀座を偲ぶには恰好の1本だ。

ラストシーンも紹介しておきたい。
ルリ子と旭が屋上で追いかけっこ
地球儀と時計塔の位置関係から
貴金属と鉄道模型を商う「天賞堂本店」の屋上だろうか。
当時は画面の彼方、勝どき・晴海方面に
高層ビルは1棟も建っていなかったのだ。
広い東京の空よ!

2012年10月18日木曜日

第428話 ありし日の数寄屋橋 (その1)

昭和33~36年頃。
週に1度は家族4人揃って
近所の映画館へ出掛けたものである。
夕食後の楽しみだったのだ。
当時は京急・平和島に住んでいた。
高架化される前の平和島駅は
”学校裏”というヘンチクリンな駅名だった。

通った美原劇場は旧東海道の美原通りにあり、
家からは徒歩3分ほどの距離。
映画館はとっくの昔に消えたけれど、美原商店街は健在だ。
よく観たのは東映のチャンバラに取って代わった日活アクション。
日活ダイヤモンドラインを構成した四人組、
石原裕次郎・小林旭・赤木圭一郎・和田浩治の主演作が
ほとんどでやはり裕次郎が多かった。
ちなみに日活女優陣のパールラインというのもあって
浅丘ルリ子・芦川いづみ・笹森礼子・吉永小百合・
中原早苗・清水まゆみの6人がその陣容。

マイトガイ・旭がルリ子と競演した、
「東京の暴れん坊」(1960年)を初めて観た。
斎藤武市がメガホンをとった作品は実に隠れた傑作で
同じトリオによる前年の「南国土佐を後にして」より好きだ。
いきなり始まった同名主題歌に度肝を抜かれる。
花の都・パリが歌い込まれ、シャンゼリゼやセーヌ河、
はたまた凱旋門にモンマルトルが登場するかと思うと、
ジルベール・ベコーとイヴ・モンタンまでお出ましときた。
いやあ~、オサレなこと。

挿入歌の「イチョサン節」がまたすばらしい。
「ダンチョネ節」、「ズンドコ節」に匹敵する佳曲と言ってよい。
銀座にある銭湯の男湯の湯船で歌う旭の歌声に
女湯の客がこぞって聴き惚れるという設定。

 ♪ 娘という字を ヤッコラヤァノヤァ
    分析すれば ノォ千代さん
    自分で判って いい女 いい女 ♪
            (作詞:西沢爽)

今のところこの曲はこのDVDを観なければ聴けないハズだ。
5月に亡くなった中原早苗がバーのマダムで女湯の客。
「松の湯」の番台に座るのが一人娘のルリ子だからたまらない。

映画はとある大学の体育館でスタートした。
大学OBの旭が現役相手にレスリングの稽古をつけている。
横でフェンシングのマスクを取り、
笑顔を見せたのは大学後輩のルリ子だ。
ふ~ん、レスリングとフェンシングねェ、
とても1960年の映画とは思えませんや。

映画が封切られた2ヵ月後にローマ五輪が始まった。
あれから52年、今年はロンドン五輪の年だった。
レスリングは金、フェンシングは銀メダルを獲得したから
映画は半世紀も前に時代を先取りしていたことになる。
う~む、おそれいりやした。

画面替わって銀座の上空。
カメラが数寄屋橋から日比谷方面をとらえたときには
思わず身を乗り出しちゃった。

=つづく=

2012年10月17日水曜日

第427話 よこはま 焼きそば 老舗の小盛り

思い起こせば30年も前のこと。
ちまたには第一次漫才ブームの嵐が吹き荒れていた。
当時「吉野家」のTVコマーシャルで
”牛丼つくって80年” というのがお茶の間に流れていた。
そのCMの挙げ足をとってツービートのビートたけしが
「くだらねェもん、80年も作ってんじゃねェ!」―
強烈な一撃をカマせたが言い得て妙だと、いや、笑った、笑った。

ハナシは一足飛びに2012年の横浜。
還暦前に亡くなった青江美奈の
 ♪ ドゥドゥビ  ドゥビドゥビドゥビドゥバー ♪
で名を馳せた伊勢佐木町から西に15分も歩くと、
下町情緒漂う、よこはま橋商店街に到達する。
どことなく気になる店舗群を尻目に商店街を突き抜け、
大通りを渡れば今度はちょいと寂れた三吉橋商店街だ。
さらに直進したところにポツンとあるのがこの店。
1950年創業の「磯村屋」

人間ならとっくに還暦を超えている老舗である。
しかも驚いたことに開店以来ずっと、
焼きそば一筋でもっているのだ。

どれほど旨い焼きそばを食わせてくれるのかと胸弾ませて赴いた。
昼めしどきの混む時間帯をはずしたのに店内はけっこうの入り。
これは期待できるゾ・・・そう思うのも無理はない。
チラリ見上げた壁の品書きが否が応でも郷愁を誘う。
ラムネ110円 ソーダ水200円

小学生時代の夏休みにタイムスリップしたみたい。

焼きそばのヴァリエーションが豊富だ。
基本形の5種類は大・中・小に分かれて
それぞれ00円・250円・200円と、50円刻みの価格設定。
具を2種併せると50円アップ、3種混合は100円アップになる。
何だかワクチンみたいだな。

三色の小(300円)をお願いした。
三色は肉・玉子・ポテトのこと

焼きそばを鉄板で焼いているのは
齢80歳を超えるお婆ちゃんで
開業時には花も恥じらう18歳かそこいらだったハズ。
まかり間違って赤い靴でも履いてりゃ、
ティーンエイジャー好きの異人さんに
横浜の波止場から連れられて行っちゃったかもしれないのだ。

焼き立ての熱々を食してみた。
むむむっ、あれれ、あらら、おやおや。
昔の人は言いました、継続は力なりと・・・。
だがネ、何と形容したらいいのかな?
ポテトと玉子が特徴なのだろうが、あまり成功しているとも思えない。

焼きそば焼いて60年、築き上げた歴史には敬意を表したい。
でもネ、今なお生き残っていること自体が
横浜の奇跡というほかに言葉が見つからない。

「磯村屋」
 神奈川県横浜市南区八幡町4
 045-261-0956

2012年10月16日火曜日

第426話 マンハッタンから来た女

最近ニューヨーク在住の友人が
出張だの休暇だので続々と日本に帰って来る。
名古屋の呉服店の長女・K美子もそんな一人。
本来なら婿養子でもとって家督を継ぐ運命なのに
どうしたものか、今じゃマンハッタンの料理人だ。

勤め先は「Locanda Verde」なるイタリアン。
シェフのアンドリュー・カルメリーニの作る料理は
評判が上々でかなりの人気店と聞いた。
店のオーナーがあのロバート・デ・ニーロだから
各界スターの出入りも日常茶飯事、
これが客入りに寄与している面もあろう。  

K美子の里帰りは2年ぶり。
毎度、名古屋へ帰郷する前に東京で一緒に飲む。
今回は浅草を案内した。
最初に街のランドマーク「神谷バー」へ。
台東区浅草1丁目1番地1号の所在地は
まるで浅草発祥の地でもあるがごとくだ。

K美子にとっては初めての「神谷バー」。
いつものように2階の「レストラン・カミヤ」に落ち着き、
話を聞いてブッタマゲたネ、
ここの息子と彼女の元旦那が友だち同士なんだとサ。
息子はやはり神谷クンというのだそうだ。
それはともかく、かきフライとポテサラをおいしく食べ、
生ビールと電気ブランをおいしく飲んだ。

2軒目はかんのん通りの「志ぶや」。
季節モノのビール、キリン秋味と芋焼酎・和助のロックだ。
つまみは小肌酢に北寄貝と北海縞海老の刺身。
「縞海老は初めてだろ? コレ食ったら甘海老を食えないゾ」
「でもネ、時期になるとボストンでいい甘海老が揚がるのヨ」
なるほど、彼女は料理人であった。
鮎を食べたいというので塩焼きを1尾。
時期が時期だけに子持ちなのはしょうがない。
案の定、腹子はよいが
子に栄養分をとられた身肉は鮎本来の持ち味を失っていた。

続いてホッピー通りの「正ちゃん」に流れる。
遠目にもテラス席が立て混んでいるのが判った。
到着してびっくり、外国の若い女の子が団体で
グラスやジョッキを傾けているではないか。

連中の隣りに腰をおろすと、聞こえてきたのはフランス語。
遠来のマドモワゼルに話しかけねば失礼にあたるだろう。
すみやかに会話を始めて(もちろん英語で)素性が判明した。
共学か女子大かは訊きもらしたが、みんなリヨンの女子大生だ。
店内が落ち着いたので店主・正ちゃんもテラスに現れ、ともに飲む。

花咲く乙女たちの突然の襲来に気をよくした正ちゃん、
彼女ら全員にオンザハウスでワンモア・ラウンドときたもんだ。
浅草っ子の粋な計らいに
マンハッタンから来た女も感心することしきり。
見上げた夜空にまあるい月がポッカリ浮かんでた。

 秋風に 隣りのギャルの 金の髪

「神谷バー」
 東京都台東区浅草1-1-1
 03-3841-5400

「志ぶや」
 東京都台東区浅草1-1-6
 03-3841-5612

「正ちゃん」
 東京都台東区浅草2-7-13
 03-3841-3673

2012年10月15日月曜日

第425話 夜霧のチャイナタウン 古く良かりしニューヨーク Vol.4

 ♪ メリケン情緒は涙の Color  Oh Oh 
    翔びかう妙な叫びが Yokohama に 
         エノケン・ロッパの芝居途中どうして
    彼女の姿が消える?
    夜霧の China Town を中ほど行くあたり 
    吐きだめたなびく魔のとびら Oh Oh Oh ♪   
                (作詞:桑田佳祐)

意表をついてサザンオールスターズで幕開け。
彼ら7枚目のアルバム、「人気者で行こう」から
「メリケン情緒は涙のカラー」である。
この曲、大好きなんですワ。
バンドホテルや産業道路なんかも登場してくるし・・・。

さて今を去ること十数年前、「読売アメリカ金曜版」に
「れすとらんしったかぶり」なるコラムを連載していた。
そこからセレクトする”古く良かりしニューヨーク”シリーズ。
今日は第4回をお送りしましょう。
題して「夜霧のチャイナタウン」。
そう、冒頭の「メリケン情緒~」は
歌詞にある”夜霧のChina Yown”に注目したワケであります。

=夜霧のチャイナタウン=

中華料理店ひしめき合うマンハッタンのチャイナタウン。
ひしめきピンキリのなか、良店の見極めが難しい。
今回はチャイナタウンの旨い店のご紹介。

まずは「Bo Ky (波記潮州小食)」。
潮州料理は四川や広東よりマイナーだが美味でつとに有名だ。
この店では平打ち・細打ちを選べるコシの強い玉子麺が上々。
小海老・魚団子・焼き豚入りに
熱々のスープを張ったカンボジア麺がとりわけ旨い。
どの料理も3~4ドルといったところ。

「Wonton Garden」は早朝の朝粥から深夜の湯麺まで楽しめる。
広東炒麺、香港伊府麺、海南鶏飯に加え、
上海小籠湯包までカバーするヴァリエーションの妙。
自慢のワンタンは小海老と豚挽き肉の餡。
スープにはねぎと黄にらが浮かんでいる。
ほとんどの皿が5ドルでオツリが来るだろう。

街はずれのチェイサム・スクエアに面した
「Hop Shing」は焼きそばを推奨する。
ローメンとパンフライドの2種類あるなか、前者が断然いい。
かん水香る麺は幼い頃食べた支那そばを偲ばせる。
ニンニクと一緒に揚げた殻つき海老にはビール、
生姜風味の渡り蟹には白飯がピッタリ。

どんじりに控えしは「Canton」だ。
ニューヨーク随一の中国料理店の折り紙をつけたい。
日本人におなじみの乾焼大蝦や青椒牛肉糸など、
丁寧な下ごしらえが繊細な仕上がりをもたらしている。
揚州名物の炒飯は昔懐かしい本物の味がした。
夜霧に濡れた横浜の裏街で
トレンチコートの裕次郎に食べさせたい、そんな味だった。

てなことで今日のお別れはやはり裕次郎でまいりましょうか。
大方の読者は「夜霧よ今夜もありがとう」を予想するでしょうが
ここでも意表をついて「夜霧のブルース」。
 
 ♪ 青い夜霧に 灯影が赤い
    どうせおいらは 独り者
    夢の四馬路か 虹口の街か
    あゝ波の音にも 血が騒ぐ  ♪
         (作詞:島田磬也)

おっと、オリジナルは裕次郎ではなく、ディック・ミネでした。
そう、そう、鶴田浩二も歌ってたっけ・・・。

「Bo Ky」
 80 Bayard St
 212-406-2292

「Wonton Garden」
 56 Mott St
 212-966-4886

「Hop Shing」
 9 Chatham Square
 212-267-0220

「Canton」
 45 Division St
 212-226-4441

2012年10月12日金曜日

第424話 またもやそば屋の中華そば

平塚の日本そば店「大黒庵」のラーメンを
昨日紹介したばかりなのに
今日もまたそば屋のラーメンである。
赴いたのはオカマちゃんのメッカ、
新宿二丁目に近い「そば処 更科」。
最寄り駅は新宿御苑前ながら
「四谷更科」を名乗った時期もあるらしい。  

相棒はつい先日、
当コラムにデビューした鎌倉在住のP子嬢。
読者の誤解を招かぬよう、
お断わりしておくが彼女の姓は林家ではない。
要するにペーさんの相方ではないということ。
ましてや、おすぎという名の双子の兄もいない。
ご先祖様は鎌倉武士で
それはそれはたいそうな苗字の持ち主なのだ。
何でも頼朝じゃなく、義経に仕えたらしい。
(ホントかよ?)

とにかくまた東京に来るから
昼めしをアレンジせよとの仰せだった。
けっして器量は悪いほうじゃないのに
カレシのいないオンナっつうのは厄介きわまりない。
てなワケで「そば処 更科」に連行した次第だ。

入店したのは午後2時過ぎ。
そば屋にはありがちな中休みナシがありがたい。
ランチタイムはとっくに過ぎているのに
新宿という土地柄からか、席はけっこう埋まっている。
4人掛けのテーブルに2人陣取り、さっそく生ビール。

所望したつまみは鳥焼きとかつ煮だ。
焼き鳥ではなく鳥焼きを名乗る

かつ煮はかつ丼のめしヌキ

どちらもそこそこの水準に達している。
P子に旨いラーメンを食わせるつもりが
結局は薬局、昼飲みになっちまった。
(何でこうなるの?)

壁に貼られた品書きに目をやると、
ラーメンと小カレーライスのセットが
午後3時まで945円の特別価格。
ベツにカレーは食べなくともよい。
よいが、物事にはハズミというものがある。
「頼んじゃおうか?」―つぶやいたら
「頼んでみようヨ」―でありました。
ソレがこのCセット

ラーメンは相変わらずのハイレベル。
カレーの味は・・・う~む、まあこんなモンでござろうヨ。

守備範囲の広い日本そば屋ながら
イチ推しがラーメンというのは昨日紹介した「大黒庵」と瓜二つ。
こういうそば屋も何だかなァ。
まっ、にぎる鮨より駄ジャレの上手い鮨職人よりまだマシか。

「そば処 更科」
 東京都新宿区新宿1-30-5
 03-3351-1812

2012年10月11日木曜日

第423話 豆州より相州へ (その2)


七夕祭りで有名な平塚にいる。
駅北口から徒歩数分の日本そば屋「大黒庵」にて
ビールでのどをうるおし、名代のラーメンを所望したところだ。
注文の際に「麺は硬め? 柔らかめ?」とオバちゃんに訊かれ、
反射的に「硬めで」と応じた。

中瓶を飲み終える頃、60年変わらぬ味のラーメン登場。
見た目にも麺のチリチリ感が伝わる

おう、こりゃ旨そうだとスープを一口。
よいでないの、いいでないの。
日本そば屋の中華そばはかなりの確率でヒットする。
しかもハズレがほとんどないのがうれしく、
昔ながらの支那そばタイプが多い。
近頃流行りの油ギトギトや魚粉テンコ盛りはまずない。
油はともかくも、あの魚粉って一体何だろネ。
ありゃもともと畑の肥料にするもので
およそ人間の食うモンじゃなかろうが! ったく。

映画「タンポポ」でラーメンの師匠、
大友柳太朗翁がしてみせたように
焼き豚をドンブリの向こう側に移動させながらツイットした。
「あとでネ」と―。
そうしておいて麺を一筋、二筋、スルスルやった。
ムッ! ゲッ! ずいぶんと硬いじゃないのっ!
そりゃ硬めでお願いはしましたヨ、でもこれってチョー硬い。

卓上には先ほど手に取ったメニューのほかにもう一つ。
表形式のそれにはこうあった。

  麺のかたさ    大黒庵の口調    湯で時間(ママ

  チョーかため    チョードンパリ       20秒
  うんとかため    ドンパリ            30秒
  かため        パリ             50秒
  少しかため     チョイパリ        1分10秒
  普通のかたさ    フツー            2分
  少しやわら     チョイヤワラ         3分
  やわら        ヤワラ            4分
  うんとやわら    チョーヤワラ         6分

そして裏面にはこうあった。
当店のラーメンは麺が(かため)なので
はじめて食べられる方は(やわら)で注文してください
オイ、オイ、初手からそう言うてくれい!
注文した(かため)とオススメの(やわら)には
茹で時間にして3分10秒もの差があるじゃんかァ。
まっ、見落としたこっちが悪いんだ。
でも麺の硬さはともかく、ここのラーメンは旨かった。
平塚に来たらまた来よう、次回はチョイヤワラあたりで。
駅に隣接したビルにラーメン専門の支店もあるらしいし・・・。

次にエイヤ!っと入ったのがこちら。
”焼肉1人前 250円” が目に焼きついた

値段からしてどんな肉が出てくるのか想像もつかない。
おそるおそる中をのぞくと、安さのせいかテーブルは満席。
かろうじてカウンターに数席を残すばかりなり。
こりゃ掛け声でも掛けなきゃ入れやせんぜ。

生ビールを飲んでたら注文したジンギスカン(300円)と
カルビ(400円)がすぐにやって来た。
手前ジンギス 奥カルビ

あらあらカルビなんざ、色変わりしちゃってるヨ。
でもっていただきやした。
値段を言われりゃ、文句はございやせん。
しかしながら流浪の八州廻り多くを語らず、でありんした。

「大黒庵本店」
 神奈川県平塚市紅谷町4-21
 0463-21-1335

「大衆焼肉支店」
 神奈川県平塚市紅谷町5-9
 0463-21-4272

2012年10月10日水曜日

第422話 豆州より相州へ (その1)

関八州見廻り旅の一環だが、その日は相州を突き抜け、
管轄外の豆州・伊東まで足をのばした。
豆州は伊豆の国、伊豆半島丸ごとである。
意外にも江戸時代には伊豆諸島をも治めていた。
その流れもあり、
明治の世になって静岡県に組み込まれた諸島だったが
島民と商人による東京府への帰属嘆願運動や
古くから伊豆より江戸との行き来が
盛んだったことも相まってほどなく東京府に移管された。

さてと、およそ30年ぶりの伊東だ。
さっそく徘徊し始めると、町全体に寂寥感が漂っている。
 温泉地 かつての栄光 今いずこ
   (温泉地って季語かな?)
2時間近くぶらぶらしたものの、
とてもじゃないが夕刻まで時間のつぶしようがない。
さすれば立ち去るしか手立てがない。
もう二度と来ることはないだろう。
そう思うと、一抹の寂しさがよぎるが
これもまた時の流れ、人の定めだ。

コレを書きながら今聴いているのは
岸洋子が歌うカンツォーネ集。
掛かっているのは「死ぬほど愛して」。
ピエトロ・ジェルミ監督、映画「刑事」のテーマだ。
 ♪ アモーレ アモーレ アモーレ アモーレ ミオ ♪
ラストシーンが胸を打つ。
連行される恋人を追って走るカルディナーレが痛ましい。
痛ましくも美しい。
恋人役はニーノ・カステルヌオーヴォ。
「シェルブールの雨傘」ではドヌーヴの恋人でしたネ。

熱海で電車を乗り換えながら、次の立ち寄り先を模索する。
ちょくちょく出向く横浜まで戻ったんじゃ面白くも何ともない。
候補地は大磯・平塚・茅ヶ崎あたりか。
行く宛もなく降りたのは平塚の駅だった。
下調べも何もしていないが、そこは蛇の道はヘビ、
勝手に鼻が利いて落ち着き先をかぎ当ててくれるだろう。

相模湾と駿河湾に沿って走る東海道本線沿線の町は
駅の南側、海に臨むサイドが開けているハズ。
平塚も例外ではあるまいと、
緩やかな坂を下ったものの住宅街ばかり。
これは様子がおかしいゾ、Uターンして駅に舞い戻り北側へ。

広くもない繁華街だから、めぼしい店はすぐ目につく。
最初に出くわしたのは「大黒庵本店」なるそば屋。
日本そば屋なのに客の9割がラーメンを食べて行く、と謳う。
それも開業以来60年の長きに渡って。
こういうのにブチ当たっちゃうと看過できないのがわが弱点。
入店を決断するのに10秒とかからなかった。

注文するのはラーメンと決めていても一応メニューを手に取る。
ラーメン系だけでもスゴい品数だ。
瓶ビールを頼み、おつまみの項に目をやると
 板わさ  メンマ  チャーシュー  天ぷら盛合わせ
たった4品のみ。
ラーメンをすすってビールを空けたら即移動が賢明であろう。

=つづく=

2012年10月9日火曜日

第421話 つい立ち寄った下北沢

再び小田急線に乗って若者の街、下北沢にやって来た。
原則として若者の街はキライである。
原宿・渋谷・自由が丘・吉祥寺、みんな好きじゃない。
年配者の心安らぐ場所がないもんネ。
オヤジが身を置く位置がないのだ。
何よりも街の散策を生きがいとする人間にとって
歩きにくいのは致命傷、歩道せますぎ、人多すぎなのである。

でも、そんな下北にオヤジがシックリくるところがあった。
下北一番街なるストリートは古き良き時代を偲ばせる。
地元の住民はこの界隈を下北の北沢地区というのだそうだ。
ふ~ん、なるほど。
数少ない下北の気に入り店2軒を目指す。
おい、町田で2軒寄っといて下北でも2軒かよ! ってか?
いいの、いいの、遠出したとこでは
最低2軒は行っとかなきゃハカがゆかないのっ。

1軒目は下北一番街の「やきとん 椿」。
失礼ながら焼きとん屋にはもったいない優雅な店名だ。
椿と聞くと第一感はクロサワ&ミフネの「椿三十郎」。
続いて都はるみの「アンコ椿は恋の花」。
あとは若かりしわが中学時代。
どこでどう間違ったかJ.C.は生徒会長でありんした。
そのときの副会長が椿クンという大変な秀才。
今でもちょくちょく酒を酌み交わしたり、
卓を囲んだりしているが
この椿、頭はいいのに麻雀はからっきしダメ。
つくづく天は二物を与えませんな。
おっと、ンなことはどうでもいい、先を急ぐ。

いつもは立て混んでる「椿」なのに当夜はヤケにヒマ。
ハツ・ナンコツを塩、シロをタレで焼いてもらい、
キリンラガーを飲む。
焼きとんと煮込みを食うなら隅田川の両サイドに限るが
山の手、しかも”食の不毛地帯” 下北にあって
「椿」の水準はかなり高い。
椿よツバキ、世田谷区にはまれなる佳店であるぞヨ。
昔、大橋巨泉のオジさんがひねった駄句を思い出した。
 寒ツバキ 吐くのはよそう 痰ツバキ

でもって2軒目の中華「来々軒」は「椿」の並びにあって
見てくれも内装もトロットロのレトロ。
昭和レトロを超えて大正ロマンと断じてもおかしくない。
そこに惚れこみ、以前「日刊ゲンダイ」に連載していた、
「J.C.オカザワのれすとらん知ったかぶり」で紹介したくらい。
料理に特筆すべき点はないのだが
ラーメンだけは懐かしの美味であることは確かだ。

ここでは一番搾りを飲みながら焼売をつまんだ。
ところがこの焼売、原因不明の酸味を発っしているのだ。
ハナから餡に食酢でも入れたのだろうが
こいつはいただけやせんぜ。
思えば店主もいい歳だからなァ。
カズ、イチロー、スポーツ選手に衰えが来るごとく、
料理人にもソレは必ずやって来る。


「やきとん 椿」
 東京都世田谷区北沢3-26-4
 03-3469-6879

「来々軒」
 東京都世田谷区北沢3-26-3
 03-3468-0247

2012年10月8日月曜日

第420話 明治17年創業のケトバシ屋

坂田金時こと金太郎ゆかりの足柄をあとに
小田急線で途中下車したのは町田であった。
1970年から2010年までの40年間で
人口が2倍以上に激増した町田市は
東京の南のはずれにある。

狙いを定めたのは2軒。
1軒目は近頃都内にも散見される焼き小籠包の店だ。
上野アメ横でも池袋北口でも見かけた。
町田の店は「小陽生煎饅頭屋」という長ったらしい名前。
テイクアウト主体ながら店先での立食も可能。
と、この稿をここまで書きかけたのは
都営地下鉄三田線の車内だが
目の前に座った野球帽のオッサンが
広げたスポーツ新聞の一面に目が釘づけになった。
 大滝秀治死去
ここ半月の間に伊丹十三監督、宮本信子主演の「タンポポ」と
降旗康男監督、高倉健主演の「駅 STATION」をTVで観たばかり。
また一人希有な名脇役が逝ってしまい、まことに残念なり。

さて、注文とほぼ同時に出された焼き小籠包。
カタチは小籠包より焼売に近い
初めて口にしたものの、
こりゃ蒸篭で蒸した通常の小籠包のほうがずっと旨い。
おそらく持ち帰るに便利だろうと
商魂たくましい誰かが発案したものと思われる。

長居はせず、本命の2軒目に移動した。
こちらは以前から来てみたかった馬肉専門店の「柿島屋」。
いわゆるケトバシ屋は明治17年(1884年)創業だ。
この年、グリニッジの世界標準時が定まり、
日本では全国天気予報がスタートした。
時代劇でおなじみの清水の次郎長が賭博の罪により、
懲役7年の刑に処せられたりもしている。

さすがに老舗、広々とした店内は快適なり。
ただし人気店につき、来客引きも切らず相席を余儀なくされる。
ここでは馬刺しの(並)と(上)、肉なべの(並)を
それぞれ1人前ずつ所望した。
馬刺しの(並)¥800

馬刺しの(上)¥1200
この店は鍋よりも刺しが断然よい。

写真で見比べると(上)の色艶が勝っているように見えるが
どうしてどうして(並)の歯ざわり、噛み心地が捨てがたく、
アメリカ人あたりに食わせたら(並)に軍配を挙げるのではないか。
相方のR子も同意見で、とにかく桜刺しの醍醐味を味わった。
 咲いた桜になぜ駒繋ぐ、駒が勇めば花が散る
馬肉は言わずと知れた桜肉、
昔の人は粋な呼び名をつけたものだ。

町田の町をあとにして真っ直ぐ都内に戻ればよいものを
その夜はそうはいかなかった。
のみともとは元来、そういうものである。

「小陽生煎饅頭屋」
 東京都町田市原町田4-5
 電話ナシ

「柿島屋」
 東京都町田市原町田6-19-9
 042-722-3532

2012年10月5日金曜日

第419話 初めてのビール工場

地下鉄の駅に置かれているメトロガイドは
日刊工業新聞社の発行で無料。
一応、毎号目を通すようにしているが、ある号の特集は
=モノづくりの現場がみたい 工場見学に行こう!=
牛乳、納豆、シューマイ、ビール、ハム・ソーセージから
鉛筆、消しゴム、紙幣・貨幣、自動車、飛行機に至るまで
世の中ずいぶんいろんなモノが見学できるもんだ。
工場見学にはまったく興味のない身が
行く気になったのにはワケがあった。

そう、お察しの通り、メシより好きなビールでござんす。
アサヒビール神奈川工場では1時間ほどの見学後、
生ビールをタンブラー3杯まで試飲できるとあって
舌なめずりしちゃったのである。
出来立てのビールはとてつもなく旨いからなァ。

みちのくののみともR子が
出張で上京して来るのに合わせ、
一緒に出掛けて行ったのは南足柄市。
実家で大きな製麺工場を営む彼女、
ビール工場の見学は何かの役に立つかもしれない。

小田急線・新松田駅に降りたのは13時半。
ともに空腹を抱えており、
すきっ腹にガブガブ飲るのはよくない。
おりよく駅前に「まちの駅 あしがら」というのがあり、
そこで酢〆の鯵寿司を1折だけ購入する。
半分ずつでちょうどよい。
鮨屋と魚屋がそれぞれ調整したものがあり、
「羽衣寿司」という鮨屋の製品にした。
ついでに生ビールのつまみにしようと
こんなモノも買っておく。
足柄牛とゴボウ入りのまさカリーパン

バスの待合室で折を開くと
バス会社のオジさんにたしなめられた。
「室内では飲食禁止なんです」
「あいすみません」
とすぐ隣りの駅に引越しだ。
券売機の前の台(よくオバちゃんがハンドバッグ置くとこネ)に
広げて立食と相成った。
これがなかなか、大船名物の鯵寿司より美味しく感じた。

バスに揺られて約20分、工場に到着。
見学の内容は省く。
だって来場の目的は第一に試飲だもの。
制限時間の20分以内に3杯までいただけるのだ。
出来立てのスーパードライ

のどかな試飲風景
まさカリーパンをつまみに
スーパードライ2杯、レーベンブロイ1杯を完飲。
いや旨いこと、旨いこと。
意外に女性の参加者が多い。
でも彼女たちに20分で3杯はキツいだろう。
案の定、相方も2杯で打止めにした。

工場発16時の最終バスで新松田に戻る。
ここから真っ直ぐ都内に帰ったのでは芸がない。
もちろんどこかに立ち寄る腹積もりであった。

「まちの駅 あしがら」
 神奈川県足柄上郡松田町松田惣領1216
 0465-44-4820

「アサヒビール神奈川工場」
 神奈川県南足柄市怒田1223
 0465-72-6270

2012年10月4日木曜日

第418話 煮込み続けて81年 にせどろ千夜一夜 Vol.7

久々の”にせどろシリーズ”。
今回の舞台は芝である。
ゴルフコースのベントや高麗の芝ではなく港区・芝のこと。
千円でベロベロになるのが”せんべろ”なら
2千円で泥酔するのが”にせどろ”。
では、さっそくまいりましょう。

当夜の相棒は水谷豊似(そうでもないか)のパクちゃん。
本ブログ初登場ののみともは40代前半の日本人だ。
目当ての店は少々判りにくい場所につき、
都営地下鉄三田線・三田駅の出口で待合わせた。
ヒマさえあれば都内23区のあちこちに出没するが
このエリアにはそうそう現れないので行き掛けの駄賃、
気に入りの角打ちに立ち寄った。
芝は隠れた角打ちの宝庫なのである。
角打ちって何だい? ってか?
う~ん、もう・・・ググッて、ググッて!

「内田屋 西山福之助商店」にやって来た。
生ビールのつまみはいつも丸1丁の冷奴と白瓜の奈良漬。
ただし、独りのときは1丁の豆腐を持て余すので奈良漬のみ。
この店は本日の主役じゃないから先を急ぐが、いいお店デス。

さあ、やって来ました「鹿島屋」。
かなりご年配の姉妹がお二人で営んでいる。
おそらくこまどり姉妹(1938年生まれ)と同年輩ではなかろうか。
さすがに芸能人じゃないからクマドリはしてないけどネ。

飲みものは限定的でビールとサワーと日本酒にあと何だっけ?
まっ、いいや。
瓶ビールの合いの手は名代の牛もつ串煮込み。
都内に数軒ある串煮込み専門店としては
たぶん二番目に古いのではないかな?
有名な門仲の「大坂屋」が大正13年、
「鹿島屋」は昭和6年の開業だ。
以来ずう~っと継ぎ足し、継ぎ足しで味を守り通している。
煮込み続けて81年かァ、スゴいですねェ、リッパですねェ。

その夜のネタはフワ(肺)とアブラ(シマ腸)だった。
確かに重ねた歴史をモロに感じさせる味だ。
ちょいと甘めなのが玉にキズではあるけれど・・・。

日本酒の常温に切り替え、焼きとんを追加。
すると、こっちが妹サンかな? オモテへ出て行った。
そう、この店の焼き台は暖簾の外にある。
ハツ・タン・ナンコツを塩、シロ・レバはタレでお願いした。
いいなァ、旨いなァ、パクちゃんもご満悦だ。

人なつっこいお二人との会話も弾む。
訊けば姉妹のオヤジさんは茨城県・鹿島、
オフクロさんが千葉県・東金の出身とのこと。
国ざかいを越えた恋といってもお隣り同士だもんネ。
きっと潮来花嫁さんみたいなお嫁入りだったのだろう。

まぐろ中落ちが一鉢差し出された。
これがサービスであった。
しばしの歓談後、恐縮しながらのお勘定は二人で3千円足らず。
ありゃりゃ、なんか悪いことしちゃったみたい。
っていうかァ、悪事を働いた心持ちになっちまいました。

「内田屋 西山福之助商店」
 東京都港区芝4-7-1
 03-3451-0386

「鹿島屋」
 東京都港区芝4-6-9
 03-3454-7201

2012年10月3日水曜日

第417話 指で包んだワイングラス (その2)

宇都宮のスペインバルにいる。
店の名前は「PEQUE(ペケ)」。
ワインもタパスもペケでないことを祈るばかりだ。
数席あるカウンターに止まっているのはJ.C.独り。
テーブルの半分は埋まっており、
入口近くに立ち飲みスペースが設けられているが
実質的にそこは喫煙コーナーだ。
同じ通りの「出世街道」で生ビールは飲んだから
グラスの赤ワインで始めよう。

 スペイン・・・メメント・ネグロ ¥600
 フランス・・・サンコム  コート・デュ・ローヌ ¥600
 イタリア・・・キャンティ・クラシコ(ベポリ) ¥700

10種類ほどの取り揃えから選ぶとなると
上記の3種に絞られる。
せっかくのスペインバルにつき、郷に従うことにした。
そうしておいてタパスメニューの吟味である。
何品か紹介してみようか。

 ポテト・ブラバスソース  自家製ピクルス&オリーブ
 青唐辛子のマリネ   以上 ¥300

 スペイン産ハモン・セラーノ  フラメンコ・エッグ
 タコのガルシア風  帆立の白ワイン仕立て
 広島産牡蠣のアヒージョ  砂肝とクワイのアヒージョ
 地鶏のアーモンド煮込み   以上 ¥500

にんにくオイル煮のアヒージョが好物ながら
初心貫徹でソパ・デ・マリスコス(魚介のスープ)を。
これも500円也。

最初の1杯のメメント・ネグロは
抜栓されたニューボトルから注がれたがイヤな予感。
ボトルに水滴が浮かんでいるのだ。
これは冷蔵庫から出された証拠。
案の定、キンキンとはいわないまでも冷え切っている。
赤を冷やしてしまう拙店は東京にも多々あるから仕方がないが
せめて数本、常温でキープできないものかねェ。

ことここに至り、ワイングラスを指で包む破目に陥った。
ブランデーグラスじゃあるまいものを。

 ♪ これでおよしよ そんなに強くないのに
    酔えば酔うほど さみしくなってしまう
    涙ぐんで そっと時計をかくした
     女ごころ 痛いほどわかる
    指で包んだ まるいグラスの底にも
    残り少ない 夢がゆれている    ♪
             (作詞:山口洋子)

裕次郎の「ブランデーグラス」を黙唱しながら
両手の指でひたすらワイングラスを温める。
それを見ていたスタッフが申し訳なさそうに
「新しいグラスに換えましょうか? 多少は変わると思います」
「いや、だいぶぬるんできたから結構、
 それよりキャンティを今のうちに1杯注いどいて・・・」
「エッ? ああ、ハイ!」
こんな会話が交わされた。

かなり時間が経ってソパ・デ・マリスコスが運ばれた。
真鯛の頭がド~ンと入ってるいるが
熱いスープとともに冷たさの残る赤ワインを飲むもどかしさよ。
宇都宮でウツになっちゃうかも・・・なあ~んてネ。

「PEQUE」
 栃木県宇都宮市江野町10-2
 028-634-9595

2012年10月2日火曜日

第416話 指で包んだワイングラス (その1)

最初にお詫びです。
昨日は主役のアイナメの写真を貼り忘れてごめんなさい。
午後に気づいて貼り付けたものの、
実物の姿がアルとナシとじゃ実感がずいぶん異なります。
午前中にご来場いただいた方は
あらためて見てやってくださいまし。

さて、関八州の見廻りがいまだに続いている。
その日は下野(しもつけ)の国に出向いた。
仕掛けが遅く、JR宇都宮駅に着くと西空に陽が落ちる寸前。
これじゃ今宵の止まり木を探すのが精一杯で
街をそぞろ歩くヒマなどありゃしません。

駅を出たら大通り(コレ固有名詞デス)をひたすら西へ。
急ぎ足で15分も歩いたろうか、
宇都宮二荒山神社前の交差点を左折した。
ほどなくオリオン通りのアーケードにぶつかる。
界隈には和洋・高安を問わず、飲食店が並んでいる。

アーケードをさらに西へ進んだ。
このまま行けば、昔花街、今ソープ街の江野町に到達する。
フーゾクには無縁のキレイな身体、奥深くに進入はしない。
”泡立つ”前に見つけたのが「出世街道」なる居酒屋だ。
暖簾ごしに蒼井ゆうの微笑み

 ♪  やるぞみておれ  口には出さず
    腹におさめた  一途な夢を  ♪
           (作詞:星野哲郎)

即座に畠山みどりのヒット曲が浮かんだものの、
この手の店名は本能的に回避することにしている。
ところが中をのぞくと東京の下町らしき雰囲気のもと、
独り客がけっこうカウンターを囲んでいる。
フム、これならアタリはなくともハズレもあるまい。

一番搾りの中ジョッキを飲みながら
隣り客が旨そうにつまんでいた天ぷら盛合わせを頼んだ。
でも・・・やっぱりアタラなかった。
フライと違って天ぷらは難しいや。
海老・キス・ピーマンと頑張ったけれど、椎茸は残した。
空腹にもかかわらず。

やれ、やれ、かつてのカフェー街、中河原に移動しようか。
この地区には往時を忍ばせるバーが散見されるハズ。
そんなつもりでオリオン通りを歩いていると、
心惹かれるスペインバルありき。
グラスワインの品揃えそこそこにして
ソバ・デ・マリスコスなる一品に魅力を感じた。
これは海の幸のスープである。

フラフラッと足を踏み入れ、
「いらっしゃいませ!」の声を聞いたとき、
数分後にワイングラスを指で包む事態になろうとは
夢にも思わぬJ.C.でありました。

=つづく=

「出世街道」
 栃木県宇都宮市江野町2-8
 028-634-0691

2012年10月1日月曜日

第415話 アイナメづくし 男やもめのキッチン Vol.6

名古屋市のN村サンと岡山市のK島サンから
ほぼ同様のご指摘メール。
動物園シリーズは微笑ましくてけっこうだが
男やもめのキッチンやにせどろシリーズはどないしたん?
との仰せであった。

そこでさっそくキッチンに立つことにした。
このサカナはいったい何でしょう?  
と、問い掛けたいところなれど、
サブタイトルで明らかにつき、無意味。
磯魚のアイナメは一網打尽にされることなく、
市場に出回る数量が限られ、知名度も低い。
クイズにしたとて正解率は5%に満たないだろう。

上品な白身は食味がとてもよい。
以前、ハタの代用として広東風清蒸にしたが
その美味に驚いたものだった。

写真の1尾は「東武池袋店」で買い求めたもの。
400gはあったろうか・・・これが格安の555円だ。
チンチロリンなら5ゾロは3倍付け、
縁起がよいから即座に購入を決める。
「3枚おろしで、アラも持って帰ります」―こうお願い。
そうして1尾丸ごと残さず使い、4種の料理を作った。
題してアイナメづくし、アラ・キュイジーヌ!

=ガスレンジが2台しかない男やもめの場合=

① ヤカンいっぱいの水に皮付き根生姜を数片投入し沸騰させる
② 同時に鍋に水と日本酒と皮付き根生姜数片を入れ煮立たせる
③ ザルにアラをあけヤカンの熱湯をまんべんなく注ぎ掛ける
④ 上身1枚の皮目側だけに残った湯を掛けて霜降りに
⑤ もう片方には塩・白胡椒をしておく
⑥ ②の鍋に砂糖・醤油・アラの頭を投入
⑦ ⑥を一煮立ちさせたら落としぶたをし弱火でコトコト
⑧ 粗熱が取れた④をラップして冷蔵庫へ
⑨ ⑦のアラ煮が出来たら鍋を洗い水を張りアラの中骨を入れて弱火
⑩ ⑧の上身に包丁を入れ松皮造りの刺身が完成
⑪ 出来上がった⑨のアラ煮と⑩の刺身で晩酌
⑫ ひとしきり晩酌を楽しんだら⑤の上身をバタ焼きに
⑬ 出汁の出た⑨の中骨を捨て鍋に味噌を入れて味噌汁に
⑭ ⑫と⑬で晩飯

=アドバイス=
 炊飯でもチンでもゴハンをあらかじめ用意
 味噌椀は吸い口のきざみねぎのみで具ナシ
 バタ焼きは皮目側が強火の身側は弱火で半生が望ましい
 バタ焼きの付け合せはじゃが芋かブロッコリーのチンがラクチン
 できれば刺身には本わさび
 アラ煮の落としぶたはアルミホイルでじゅうぶん

アイナメの刺身・アラ煮・バタ焼き・味噌汁の4品の出来上がり。
和食店で食したときの適正価格は2500円でございましょうか。