2013年1月31日木曜日

第503話 狸小路の一夜 (その3)

傷心の友を伴い、
横浜駅のコンコースを狸小路とは反対側に出た。
こちら東口では日本一有名なシウマイ屋、
「崎陽軒」の本店ビルが雄姿を見せている。
館内には本格中華からトラットリアにティーサロンまで完備され、
地下にはビアレストラン「亜利巴゛巴゛(アリババ)」がある。
駅そばにあって、ここの地下は実に使い勝手のよい店だ。

向かったのはそのちょいと先、酒屋の角打ちだった。
数年前に雑誌の取材で訪れた「キンパイ酒店」である。
そういえば、あのときは1ヶ月のあいだに
50軒以上の酒屋を回ったっけ・・・。
都内の角打ちをすべて制覇し、
はるばる横浜や鎌倉まで出張っていったっけ・・・。
シンドかったけど、楽しいミッションだったなァ、いや、懐かしい。

お通夜帰りに酒屋の角打ちでもないものだが
相方のふるさとの北国にまずこんなシステムはなかろうから
一度連れて来てやりたかったのだ。
案の定、特異な空間に目を丸くして興味津々の様子である。

なかでもこの「キンパイ酒店」は
柄沢酒店(小石川)、久米屋酒店(護国寺)、枡本酒店(池袋)、
松井酒店(御徒町)、淀屋酒店(南千住)、玉川屋酒店(浜松町)、
丸辰有澤商店(芝)、内田屋 西山福之助商店(芝)、
大平屋酒店(品川)、飯田屋酒店(鮫洲)
などと並び、気に入りの1軒だ。

相変わらず無愛想(悪いヒトではない)な店主が
鎮座まします前のケースから抜き取ったのは
金盃のコップ酒と缶酎ハイ、それにつまみの柿ピーナッツ。
店内は近隣のサラリーマンで八分の入り。
活気にあふれてはいるものの、秩序はちゃんと保たれている。

極力、雪と山のハナシは避けて
もっぱらご当地・横浜や鎌倉・横須賀あたりの飲食店のガイダンスを施す。
話しているうち、鎌倉は由比ガ浜にあって
川端康成や田中絹代が愛した鰻屋「つるや」に行きたくなってきた。
ほとんどの客が鰻重を注文するが、J.C.はここのかつ丼と天丼が好き。
どんぶりモノが上手な鰻屋を「つるや」以外に知らない。
暖かくなったら案内することを約し、狸小路にきびすを返す。

気に染まない店名の焼き鳥屋「お加代」に初めて入る。
焼き鳥屋よりも小料理屋みたいな屋号だヨ。
名も知れぬ燗酒を酌み交わし、軽いジョークを2、3発。
元気が出てきた相方の口元から笑みがこぼれるようになった。

ところがどっこい、そばにもっと元気なヤツがいやがったぜ!
隣りの常連と店主がうるさいのなんのって!
われわれ二人の頭越しにくだらねェ冗談言い合って
その都度バカ笑いするもんだから、いかんともし難い。
結局は薬局、焼き鳥もそこそこに河岸を替える破目に陥った。
世の中まったく、バカにつけるクスリはございませんな。
焼き鳥屋なら焼き鳥屋らしく、静かに焼き鳥、焼いてろっつうのっ!

「キンパイ酒店」
 神奈川県横浜市西区高島2-13-6
 045-441-5065

「お加代」
 神奈川県横浜市西区南幸1-2-2
 045-311-2094

2013年1月30日水曜日

第502話 狸小路の一夜 (その2)

なんだかこのところ、静岡&神奈川ばかりに出掛けている。
東海とか湘南とか三浦半島だとか・・・。
当ブログも静岡・沼津・横須賀と来て、現在は横浜だ。
太陽族でも湘南ボーイでもないオヤジがヨ。

横浜駅西口に近い狸小路で相棒が到着するまでのあいだ、
「呑喰処 一福」の止まり木に止まっている。
カウンターの中の女主人がクジみたいな紙片を引いてくれと言う。
年が明けてまだ1週間と少々、時期的にオミクジであろうか。
思えば初詣でに行っても、まずクジは引かないわが身である。

ところで女主人という呼び方はあまりにも野暮、
そういう雰囲気の持ち主ではないけれど、
便宜上、ママと呼ぶことにしておこう。

結びを解くと、そこには「焼き鳥2本」としたためてあった。
この当りクジで焼き鳥2本をプレゼントしてくれるらしい。
即刻、使用可能なのでこれを使えば、
先刻の白レバーとボンジリがタダになっちゃうのだ。
でも、そこはJ.C.、酒飲みとしての流儀はわきまえているつもり。
「まさか、当日に使う客はいないでしょう?」―ママに振ると、
あらぬ方向から声が上がった。
「ボク、今日、使っちゃうんですが・・・」―入口に一番近い席に
座っていた若者がバツの悪そうな顔をしてこっちを見ている。
アリャリャ、なんか悪いこと言っちゃったなァ、めんご、めんご。

たったこれだけのやりとりで一気に座がくだけた。
隣りにいた初老の常連とも会話が始まった。
たまたまこの御仁も野毛の町のファンだったから
交わす言葉に熱気がこもる。
先代のマスターが亡くなってから
ベツの店に成り果てた「パパジョン」に対する憤懣など、
心から同調したくなる。
店、殊にバーは”人”がすべてなのだ。

そんなこんなで1時間半はアッという間に過ぎ、
相棒からの電話が携帯を震わせた。
お勘定は生ビール3杯にお通しと焼き鳥で2500円。
あゝ、こんな店が東京駅の近くにあったらなァ・・・。

改札まで迎えに出て相棒をピックアップ。
心なしか表情にかげりがうかがえるのは
喪服姿のためだけではない。
それもそうだろう、師走には忘年会で顔を合わせた旧友に
新年の冬山で死なれちまったんだもの。

やはりこの相方と数日前に飲んだとき、
たまたま話題が登山に及んだ。
山登りが大嫌いなJ.C.、

「夏ならともかくこの寒い時期に
 好き好んで山に登るヤツの気がしれないネ。
 重い荷物を背負ってさァ、
 吹雪ん中に飛び込むようなもんだろう?
 第一、残った家族が家で心配してるだろうに―」

こう言い放ったものだった。

今宵はいたわり、励ましてやるしか手立てがないや。

=つづく=

「呑喰処 一福」
 神奈川県横浜市南幸1-2 狸小路
 045-411-0129

2013年1月29日火曜日

第501話 狸小路の一夜 (その1)

その夜は京急蒲田の一つ先、雑色で飲んでいた。
名うての酒場に乗り込んだのは17時だったが
費やした時間はたったの1時間のみ。
ところが、それからが長い。
松山千春じゃないが「長い夜」の始まりだったのである。

当夜は遠来ののみともと横浜で落ち合い、飲む手はず。
相方は湘南で通夜に列席したあと、横浜に戻って来る予定だ。
待合わせタイムは20時半。
やれ、やれ、時計を見ながらため息が出ちゃうヨ。
しかも喪服で来るヤツをジャンパー&ジーンズでお出迎えはまずい。
久しぶりにスーツに袖を通しちまったヨ。

一杯飲んだあと、雑色のレトロな商店街を一めぐりして
早めに横浜に移動する。
横浜で飲むときは横浜駅周辺よりも
桜木町にほど近い野毛地区がほとんどだが
京浜東北線ではなく、東海道線沿線を選んだ。

時計の針は19時をちょいと過ぎている。
駅西口の狸小路を徘徊してみた。
前回、ここの「味珍本店」と「のんきや」をはしごしたのは
2年半前のこと、今宵飲むのもこのエリアであろうヨ。

取りあえず独り飲みである。
同じ店では面白くないから初めての「呑喰処 一福」へ。
カウンターだけの狭い店だがオモテの貼り紙に
「お飲みものだけでもお気軽にどうぞ」とあったのが気に染まった。
生ビールを所望すると、お通し代わりの一品は
鳥つくねと白菜のクリーム煮だ。
冬場でもめったにコートを着ないタチだから
雑色と横浜を歩き回って身体は冷え切っている。
そんな身に温かいクリーム煮のありがたさといったらない。

三十代半ばだろうか、
マダムやママというタイプではない女性が独りで営んでいる。
料理のスジはまことによろしいものがある。
たとえ飲みものオンリーOKでも
こういう場所でつまみにノータッチというのは愛想がない。
酒飲みには酒飲みの流儀があるのだ。

焼き鳥が自慢らしく、しかも1本から焼いてくれるということで
白レバー(250円)とボンジリ(200円)を1本ずつ。
2杯目のビールを飲み干す頃、焼き上がったそれを口にして
いや、驚きましたネ、相当な水準に達している。
近所には焼き鳥屋が散在しているが
まったくヒケを取らないどころか、他店を凌駕しているのではないか。
狸小路に来たら必ず再訪しようと心に決めたのだった。

=つづく=

2013年1月28日月曜日

第500話 ここは横須賀 (その3)

ホームグラウンドではないから断定はしかねるが
おそらく横須賀で唯一無比のシブい酒場「銀次」にいる。
しこ酢は酢よりも塩が効いたタイプながら新鮮で旨い。
スペインバルのボケロネスの真逆をいっている。
願わくばこのイワシ、本わさでいただきたかった。

招徳の燗に切り替える。
佳撰(350円)、上撰(400円)があり、
二級、一級ということなのだろう。
エコノミークラスを愛する者として二級をお願い。

あらためて品書きを見定めると手頃な値段のものばかり。
一番高価なのが刺身トリオの平目・中とろ・鯨で各800円だ。
しこ酢のレベルから察するにかなりの上物が期待できそうだ。
生モノを重ねるのはいやだから店の名物・湯豆腐を半丁で注文。
半丁は250円、一丁ならば400円になる。
添えられた練り辛子が豆腐となかなかの相性である。

カウンターの中は女性スタッフの活躍が目立つ。
向かって左のオバさんは揚げもの担当。
手がヒマになるとすかさず鰹節を削り始める。
それも半端な量でなく、取りつかれたようにひたすら削り続ける。

一人だけ若い娘がおり、この娘が湯豆腐担当。
映画「赤線地帯」に出てきた半玉の川上康子に
とてもよく似た面立ちをしている。
大量の豆腐が煮えている大きな利休鍋の前にスックと立ち、
うれしそうに鍋の中をのぞいている。
(ここはワタシだけの宇宙なのヨ)―とでもつぶやくように。

仮にヤスコ嬢としておこうか・・・。
「銀次」での役割も映画の康子にそっくりで
ベテラン勢の補佐に徹している。
電話が鳴ったら豆腐を放り出して奥へ走ったから
電話番もこの娘の受持ちらしい。

やたらに注文が入るモツ揚げ(300円)が気になりだした。
くだんの削り節オバさんが忙しそうに立ち働いている。
かなり細身の人で、まさに「細腕繁盛記」でありますな。
しっかし常連がこれだけ頼むモツ揚げ、
まずハズレはなかろうと流れに乗ってみることにした。
ついでにホッピーの白をお願いする。

見ているそばからモツの小片が
次々と揚げ油の中に投入されてゆく。
焼きとん店じゃないから、豚ではなく鳥モツであろう。
ハツやレバーや砂肝が均等に入っていたらうれしいナ、
そんなことを思いつつ、待ってるところへ熱々が手渡された。

アレレ、十数片はあるモツの小塊はすべて砂肝じゃないのっ!
どこを食べてもコリコリ、コリコリ、
これってあんまりうれしくないんですけど・・・。
意気消沈して周りを見渡すと、単独客が少なくない。
しかも文庫本を読みふける輩(やから)が数人。
(オイ、オイ、本なんかウチで読めや!
 店が迷惑するじゃねェか!)
八つ当たりの矛先を他人に向けるJ.C.でありました。

オマケに帰り道が遠いんだよォ! 
 ♪ ここはヨコ~スカ! ♪
百恵よ、今、キミはシアワセかい?

=おしまい=

「銀次」
 神奈川県横須賀市若松町1-12
 046-825-9111

2013年1月25日金曜日

第499話 ここは横須賀(その2)

久方ぶりに横須賀に来た。
目当ての酒場の開店までは数時間あり、
まずは身の置きどころを物色せねばならない。
スケジュールが詰まっているわけではないから
のんびりと横須賀中央駅の周辺をぶらつく。

駅にほど近い路地をゆくと、
コンビニの店先でスタッフが総出で
道路にこびりついたチュウイングガムをはがしている。
年を経るごとに売上急降下のガムなのに
ここは横須賀、第7艦隊の海兵たちが吐き捨てているのかもしれない。

その路地に「中央酒場」があった。
朝の10時から夜の11時まで通し営業する酒飲みのパラダイスで
時間を持て余しているときにこういう店はありがたい。
さっそくカウンターの客となる。
キリンの生中を2杯飲んだ。
キリン発祥の地・横浜同様に
横須賀もまたキリンが幅を利かせているのだろうか。

つまみに穴子鍋(700円)をとった。
どぜうの代わりに穴子を使った柳川風鍋である。
このご時世、うなぎで代用することはできないだろう。
穴子でもじゅうぶんに楽しめた。
燗酒がほしくなったが、まだ宵の口にもならないので自重する。

横須賀は坂の多い街だ。
「横須賀ストーリー」の一番にも

 ♪ 急な坂道 駆けのぼったら
   今も海が 見えるでしょうか
   ここは横須賀        ♪

と歌われている。

駅から港とは反対側の坂をのぼっていった。
平坂というらしい。
おっとここは進次郎クンの地盤だったな

昭和の面影を残す商店街には雰囲気の濃い食べもの屋が並ぶ。
昭和どころか大正拾五年創業のそば屋

品書きの寿司の部分が塗りつぶされていた


坂の上には池之端なる商店街があった

時間をつぶして狙いの「銀次」に向かった。
店構えもさることながら店内の空間がすばらしい。
写真撮影を遠慮したが、収めておけばよかった。
後悔先に立たず。

ここの生ビールはアサヒ。
うん、やっぱり自分にはアサヒが合うな。
つまみはしこ酢(450円)だ。
これが何だかピンとくる読者は食事情に相当長けた方。
しこいわし(かたくちいわし)の酢〆のことで滅法旨い。
素材が新鮮なうえに〆加減がすこぶるよろしい。

=つづく=

「中央酒場」
 神奈川県横須賀市若松町2-7
 :046-825-9513

2013年1月24日木曜日

第498話 ここは横須賀 (その1)

♪ 話しかけても 気づかずに
  ちいさなアクビ 重ねる人
  私は熱い ミルクティーで
  胸まで灼けて しまったようです
  これっきり これっきり
  もうこれっきりですか
  これっきり これっきり
  もうこれっきりですか
  あなたの心 横切ったなら
  汐の香り まだするでしょうか
  ここは横須賀          ♪
        (作詞:阿木耀子)

今日は山口百恵の「横須賀ストーリー」、
その二番で幕開けです。
この曲、百恵ナンバーで My Best 1 なのでございますヨ。
一番でも三番でもなく二番を持ってきたのは
もちろんこの二番が大好きだからであります。

何ゆえに? ときましたか?
ひとことで言ってしまえば、ミルクティーですネ。
ここに阿木耀子の卓抜さをモロに感じました。
日本人女性に
「貴女はレモンティーとミルクティーの
 どちらをよく飲まれますか?」―
こんなアンケートを取ったなら
あくまでもJ.C.の想像ですが
6:4、いや、7:3、いやいや、下手したら8:2で
レモンティー派が政権を取る、もとい、
主導権を握るのではないかなと思うのです。

早いハナシがレモンティーというのは
ある意味、日本特有の紅茶の飲み方で
外国に無いわけではないが、きわめてマレなんですネ。
したがってイメージ的に日本女性ならではの優しさ、
もっともそれだけならいいんですが
ひ弱さまで感じさせてしまうんです。

ただ今より、いいかげんなオトコに闘いを挑むオンナが
レモンティーを飲んでちゃ、ハナから結果は見えている。
ここは一番、熱いミルクティーで胸まで灼いて、
真っ向勝負しかないんだわサ。
でも三番には

 ♪ これっきりこれっきり
   もうこれっきりですか
   そう言いながら 今日も私は
   波のように抱かれるのでしょう
   ここは横須賀          ♪

結局は抱かれちゃうんだから突っ張ってもダメか。

でもって、横須賀の街にやって来たわけであります。
昨年、乗り上げ事故を起こしたというのに
相変わらずぶっ飛ばし続ける京浜急行に乗って
降り立ったのは横須賀中央駅でした。

=つづく=

2013年1月23日水曜日

第497話 るみと小さんと犬塚弘 (その2)

静岡の帰りに沼津に寄った。
松竹映画・寅さんシリーズの第7作、
「男はつらいよ 奮闘篇」ゆかりの沼津駅前にいる。
5代目・柳家小さんが店主に扮する、
うらぶれた中華そば屋に入ってラーメンをすすりたいが
ピッタリの店がないのは承知のうえだ。

さすがに沼津港まで出向くのはおっくう、
駅からそう遠くないエリアを流すように歩いてみた。
地方都市のご多分にもれず、商店街から活気が失せている。
うらぶれたラーメン屋を物色しているのだから
活気のなさは願ったりだが肝心の店がなけりゃ身もフタもない。

4年前に立ち寄った駅前の西武デパートでは
鮮魚売場に並ぶサカナの鮮度と多彩さに感心したものだった。
その夜も入店してみてビックラこいた。
何と、2013年1月31日をもって閉店だとサ。
1月18日~24日は閉店売り尽くし週間ときたもんだ。
店内の貼り紙には
 55年間のご愛顧、誠にありがとうございました。
営業期間が55年なら、開業は1958年あたりだろうか。
この年は長嶋茂雄がデビューした年。
J.C.が小学校に入学した年でもある(関係ないか)。
ほかにも様々な出来事があった。

 ウエスタン・カーニバルが日劇で開催
 関門トンネル開通
 千駄ヶ谷に国立競技場完成
 売春防止法施行
 阿蘇山の噴火で死者12名
 皇太子と正田美智子さんのご婚約発表
 1万円札発行
 芝公園に東京タワー完成

そして沼津に関連しては
死者・不明者1269人を出した狩野川台風が9月に来襲。
ただし、住宅の多い沼津市では家屋の被害は出たが
人的被害は伊豆半島の修善寺町と大仁町に集中している。

30分ほど徘徊して「八福」なる街の中華料理店を見つけた。
沼津では老舗の人気店らしい。
はす向かいには同名の焼肉店があったから
手広く商売をしているのだろう。

暖簾をくぐると、そこそこの賑わいを見せている。
目当てのラーメンはフツーのとあご出汁の2種類あった。
トビウオの煮干しを使うあご出汁に惹かれはしたが
ここはオーソドックスにフツーのを。
寅さん映画にあご出汁ラーメンなんか出て来るワケないもんネ。

登場した醤油ラーメンはいかにも寅さんがすすりそうなヤツ。
一目で当たりを確信した。
肩ロースの焼き豚にシナチクとナルトが浮かんでいる。
取り立てて美味とはいかずともツルツルと美味しくいただいた。
忘れていた写真を完食後に
このほうがうらぶれ感が出ていいかも・・・。

店の様子は異なれど、イメージに近い中華そばにありつけて
ささやかな満足感にひたる沼津の夜でした。

「八福」
 静岡県沼津市大手町5-9-17
 055-951-5206

2013年1月22日火曜日

第496話 るみと小さんと犬塚弘 (その1)

榊原るみ
 J.C.と同い年で学年は1年先輩。
 笑顔愛くるしく、好きな女優さんでした

柳家小さん(5代目)
 落語界初の人間国宝。
 うなぎは重箱よりも断然どんぶり、まったく正しい。

犬塚弘
 先々月に桜井センリが逝去され、
 一世を風靡したクレージーキャッツ、唯一の存命者

だしぬけに、とりとめもなく現れた三人の人物。
何だこりゃあ! と思われた読者も多々おられたことでしょう。
まあ、先をお読みくだされ。

昨日のブログで紹介した通り、
「東海軒」の幕の内をブラ下げて乗り込んだ東海道本線。
実はその続きである。

静岡駅近くの酒場で飲み、構内では駅弁を買った。
だが、このまま都内に舞い戻ってよいものだろうか?
時刻はまだ20時前、鈍行列車は清水を通過したばかり。
熱海で乗り換える前なら、沼津か三島か・・・。
乗り換え後なら、小田原・平塚・茅ヶ崎あたりが途中下車の候補。
藤沢・大船・横浜では東京に近すぎてオモロない。

このとき脳裏をよぎったのが表題の三人だ。
そうだ! 沼津に寄ろう!
なけナシの頭脳をヒットしたのは
三人が冒頭に登場する「男はつらいよ 奮闘篇」であった。
これは寅さんシリーズ全48作中、My Best 1である。

映画ではちょいとオツムの足りないるみチャンが
沼津駅裏の中華そば屋で寅さんと遭遇する。
店主はひょうひょうとした小さんで、彼の”地演技”がすばらしい。
ラーメンをすすったあと、
津軽に帰るるみが案の定、駅前の交番で訊問されている。
巡査は犬塚で、るみの窮地を救うのが寅さんだ。

沼津駅が往時の姿をとどめていないことは知っている。
風情のある中華そば屋がないことも承知。
だがネ、ついフラフラと降りてしまった沼津駅でありました。

漁港の近くの割烹「海王」に行きたいが、ちと遠い。
そうだ! あれは2008年10月、やはり当ブログの前身、
「食べる歓び」に初めて写真を貼付したのが
「海王」のサカナたちだった。
せっかくだからその雄姿をご覧ください。
オレンジの斑点も鮮やかなアマゴ

今にも食いつかれそうなイシモチ

アマゴは刺身と塩焼きで
イシモチは刺身をいただいたのだった。

=つづく=

「海王」
 静岡県沼津市千本港町77-4
 055-964-1213

2013年1月21日月曜日

第495話 あの駅弁が食べたくなって

気に入りの駅弁が急に食べたくなって静岡へ。
もっとも駅弁ひとつ買うのに180キロも移動するバカはいない。
自分で自分をバカなヤツだと思うことがよくあるが
そこまでのバカではないつもりでいる。
したがって静岡駅に到着後、
改札を抜けたら真っ直ぐに大衆酒場「多可能」へ足を向けた。

まだ浅い時間につき、店内はガラガラのガラ。
独り身なのでカウンターに案内された。
ビールはアサヒの大瓶、突き出しはゆでた南京豆。
品書きに皮はぎの唐揚げを見つけ、即お願いする。
小ぶりの可愛いヤツが3匹、丸揚げにされて運ばれた。
淡白な中にも繊細な旨みの凝縮が感じられる。

しばしくつろいで萩錦の熱燗とまぐろのすき身を追加した。
市内・駿河区にある萩錦酒造は明治9年創業の蔵元。
その本醸造酒を初めて口にしたが
地元ではポピュラーな銘柄であるらしい。

滞在時間1時間ほどでお勘定。
目当ての駅弁を調達に向かう。
目指すはその名も「東海軒」だ。
当ブログ「生きる歓び」の前身、「食べる歓び」でも紹介した。
2006年9月にアップした稿を引用してみたい。

前日、静岡駅に到着したときにホームから見た
大きな看板に惹かれるものがあった。
「東海軒」とは中華料理か?洋食か?
はたまた駅前にありがちな「何でも屋食堂」なのか?
店先に立って胸がときめいた。
なんとまぁ、レトロでローカルな弁当屋さんだこと。
多種多彩な駅弁に欣喜雀躍、即座に決断。
今夜の晩メシに買い求めよう。
いやいや、帰りの新幹線でこれを肴に缶ビールだ。

名代は元祖鯛めしと聞くが、鯛めしではつまみにならない。
みかんの皮の炊き込みごはんにも後ろ髪を引かれつつ、
幕の内弁当に白羽の矢を立てた。
色とりどりのおかずに弱いのだ。
多色刷りの包装紙も食欲を煽り立てる。
この掛け紙がすばらしい!

車内で紐解くと何やら懐かしい香りが立ち上る。
弁当の内容は

海老フライ・チキンかつ・さば塩焼き・肉団子・玉子焼き・
かまぼこ・わさび漬け・山菜漬け・梅干し・ごま振りごはん

いいですねぇ、こういうのって―。
懐かしの香りのみなもとは揚げものに違いない。
小学校に上がる直前、
故あって長野―上野間を列車で往復したあの頃。
駅弁は子どもにとって大のご馳走だった
あの味がそのまま変わらず、静岡に生きていた。
柄にもなく目がしらが熱くなったのも無理はない。
しまいにゃ涙まで・・・。
おっと、それはわさび漬けが効いたのでした。 

駅北口にあったレトロな店舗はなくなったが駅構内で買える。
種類は限られるものの、ホームでも買えます。

「多可能」
 静岡県静岡市葵区紺屋町5-4
 054-251-0131

「東海軒」
 JR静岡駅構内改札前
 054-253-5171

2013年1月18日金曜日

第494話 渚がシンデマッタ

 ♪ ここかと思えば またまたあちら 浮気なひとね
   サーフィンボード 小わきにかかえ 美女から美女へ
   ビキニがとっても お似合ですと 肩など抱いて
   ちょいとおにいさん なれなれしいわ     ♪
                  (作詞:阿久悠)

ピンク・レディのシングル第4弾、
「渚のシンドバッド」は1977年6月のリリース。
この曲とジュリーの「勝手にしやがれ」を合体させて
志村けんが破天荒なギャグに仕立てたのが「勝手にシンドバッド」。
そこから発想を得てそのちょうど1年後、
同名曲を引っさげ、デビューしたのがサザンオールスターズだ。

ピンクともサザンとも関係なく、
映画監督・渚がシンデマッタ。
勝手にシンデマッタ。

彼の映画を初めて観たのは1968年頃だった。
池袋の文芸座か文芸地下で
「青春残酷物語」と「日本の夜と霧」の2本を観た。
ともに1960年の作である。
そしてこの2本が彼の作品中、My Best 1&2になった。
「青春~」ではヒロイン・桑野みゆきのスッと伸びたうなじが
どこかヘプバーンのそれを思わせてまぶしかった。
ついでにBest 3は「愛のコリーダ」(1976)にしておきたい。

篠田正浩・吉田喜重とともに
松竹ヌーベルバーグの旗手として脚光を浴びた大島渚。
三人の監督に共通しているのは
いずれも当時のトップ女優をかっさらって女房にしていること。
自分とこの商品に手をつけちゃってるんだねェ、やれ、やれ。
会社もたまったもんじゃないや。

ジャン=リュック・ゴダールは世界初のヌーベルバーグ作品を
「青春残酷物語」としているが、はたしてそうだろうか。
石原裕次郎曰く、
「松竹のヌーベルバーグっていったって
 『狂った果実』のほうがずっと早いぜ!」
ここは裕次郎に1票であろう。
慎太郎原作の「狂った果実」は1956年の作、監督は中平康である。

1995年頃、ニューヨークで
まだ元気だった大島監督とお話しする機会に恵まれた。
「青春残酷物語」と「愛のコリーダ」が上映された、
Japan Society 主催の映画会後のパーティー席上だった。

J.C.が訊ねた質問は二つ。

「監督のご存命中に日本国内で
 『愛のコリーダ』のノーカット版が上映されると思われますか?」
「ハハハッ、無理だろうねェ、まず無理ですヨ」

「主役の松田英子サンは今どうしてらっしゃいますか?」
「2~3年前に電車の中でバッタリ会ったんだけどネ、
 ちょっと言葉を交わしたが元気そうだった。
 映画界に未練はまったくない様子でしたネ」

どうぞ、天国でも激情路線を突っ走ってください!

2013年1月17日木曜日

第493話 ちょいと出ましたオジャマ虫 (その2)

NHK総合TVが宮中歌会始の模様を生中継。
披講所役が朗詠する和歌を聴きながらこの稿を書いている。
印象に残ったのは最初に詠われた大田一毅クンの作。
彼は入選者のうちで最年少の12歳、中学一年だったかな?
先頭打者ホームランの感があり、紹介したい。

 実はぼく カエルを飼って いるんです 
 夕立きても 鳴かないカエル

実にほほえましい。
ちなみに今年の歌会始のお題は”立”であった。

さて、昨日の続き。
マイ・ケータイを震わせた着信電話は
当夜の忘年会を仕切るフタちゃんからだった。
仕事が早く片付き、移動もスムースだったので
みなさんすでにレストランに集結しているとのこと。
時刻は19時、予定より30分も早い。
三越前の室町から小舟町までは徒歩数分、
おっとり刀で駆けつけた。

乾杯はアサヒ熟撰の生ビール。
タハッ、銘柄に能書きこいても結局は飲んでるヨ。
恥ずかしながらお替わりまでしちゃったしィ~。

メンバーの自己紹介をうかがって宴は始まった。
初っ端の仙台牛すね肉のシチューがクリーンヒット。
いや、ヒットどころか大田クンよろしく先頭打者ホームランに近い。
添えられた炭火焼きトーストにはカルピスバターだ。
バターとなれば、西のエシレ、東のカルピスが両雄かもしれない。

シチューのコク味に赤ワインがほしくなったが
生ビールから移行したのは山口の銘酒・獺祭(だっさい)。
読んで字の如し、カワウソの祭りでる。
名前の由来に興味のある方はググッてみてください。
ニホンカワウソは絶滅してしまったけれど、
カワウソってとても可愛いヤツ、J.C.は好きだ。

料理の流れをダイジェストで綴ると、
宮崎牛サーロインのしゃぶしゃぶを柚子ポン酢で。
赤ワイン(銘柄失念)に切り替え、主役の炭火焼き。
タンの芯と中は塩とレモン、
ザブトン&シャトーブリアンは塩でいただく。
選べる焼き野菜は身厚の椎茸をチョイス。
そして焼きすき焼き(ミスプリに非ず)は生玉子にくぐらせた。
お椀代わりのオックステール・スープに牛肉佃煮&ご飯で締めくくり、
デザートは杏仁豆腐と静岡産いちごの紅ほっぺだった。

晩酌はどんどんイケてしまうのに
晩飯はそんなにイケなくなった今日この頃。
しかもビーフィーターではないJ.C.なのだが
こんなふうに目先・舌先を変えてくれると楽しめる。
オジャマ虫を心よく受け入れてくれた面子にも恵まれ、
けっこういただいちゃいましたネ。

Special thanks for Futa-chan and his satellites !

「和牛銘菜 然」
 東京都中央区日本橋小舟町11-11
 03-3249-7776

2013年1月16日水曜日

第492話 ちょいと出ましたオジャマ虫 (その1)

先のクリスマスのちょっと前。
30年来のつき合いとなる友人・フタちゃんより、
思いもかけぬ誘いがあった。
何でも仲間うち、というより、
若い部下たちと内輪のプチ忘年会を催すので
よろしかったらどうぞ、というものだ。

フタちゃんは某優良金融機関の専務取締役である。
こういったおエライさんは通常、部下たちに
煙たがられはしても、あまり慕われはしないもの。
ふむ、フム、なるほど、ナルホド、
誰とでも分け隔てなくつき合うウラオモテのない性格だから
交際範囲はおのずと拡がるし、ファンも増え続けるのでしょうネ。

たまたまその夜は忘年会の谷間だったし、
顔ぶれ的にめったにない好機ととらえ、
あつかましくも参上仕ることと相成った。
まったくもってオジャマ虫もいいところである。
ただ、中にはJ.C.のブログに立ち寄ってくれる方もいて
そんな状況に後押しされたわけなのだ。

会場は日本橋小舟町の「和牛銘菜 然」。
スタートは19時半。
やや遅めの開宴をこれ幸いと
独り神田のガード下で飲み始めた。
御徒町に本拠を構える立ち飲み酒場「味の笛」、
その神田支店である。

「味の笛」は鮮魚のデパート「吉池」の直営店で
工場直送のアサヒスーパードライが1杯250円で飲める。
プラコップは生中と生小の中間くらいだが実にありがたい。
つまみを取る必要に迫られず、軽く1~2杯飲める場所が
日本にはきわめて少ない。
ニューヨークのバー、ロンドンのパブ、パリのカフェ、
ローマのバール、バルセロナのバル、いや、もうやめよう、
東京の劣等性があからさまになるばかりじゃないか!

加えて事前の調査によると、「和牛銘菜 然」の生ビールは
同じアサヒはアサヒでも熟撰で、J.C.にはちと重すぎる
したがって「味の笛」の立ち寄りは二重の意味でありがたかった。
サッポロ黒ラベルやキリン一番搾りを置いてるところなら
ちゅうちょせずに直行する。
それがエビスやモルツ(プレミアムも含む)しかない店の場合は
必ず1軒、ヨソに寄ってから赴くことにしている。

カップを2杯空け、まだ時間があるので
三越前の書店に入ろうとしたその瞬間、携帯電話が鳴った。
いや、常にマナーモードに設定しているから
正確には携帯電話が震えたのだった。

=つづく=

「味の笛 神田店」
 東京都千代田区鍛冶町2-13-26
 03-5294-0141

2013年1月15日火曜日

第491話 東京だよママさん (その2)

「銀座ライオン7丁目店」にいる。
その日の相方は旧友のN美クン。
千葉からほとんど県外に出たことのない一児のママだ。

ライオングループは言わずと知れたビヤホールのチェーン店。
都内各所の一等地に多店舗展開しているものの、
料理はまったく冴えない。
もうちょいと真っ当なものを提供してほしいが
フラッグシップ・ショップの7丁目店に限れば雰囲気は抜群だ。
この空間で生ビールが飲めるシアワセを
肌で感じつつ、昼下がりのひとときを過ごす。
女性につまみナシのビールは少々ツラいので
ニシンのマリネを注文してあげた。

ジョッキは1杯で切上げ、新橋方面へ。
はて、これからどうしたものだろう。
オヤジタウン・新橋で居酒屋のハシゴじゃあんまりだしなァ。
ひらめいたのが1軒の店だった。
京浜急行の鮫洲にレトロきわまりない洋食屋があるから
ぜひ行ってみてくれという読者からのメールを思い出したのだ。
情報をくれたのは大田区・蒲田在住のT川サン。
新橋からは都営浅草線と京浜急行が直結しており、渡りに舟。
行く先ゆく先、初訪問の相方に
異存などあるわけもなく直ちに出発した。

降り立ったのは新馬場駅。
青物横丁を経て鮫洲まで二駅ぶん、
旧東海道を歩かせてやろうという親心だ。

昭和の香りプンプンの洋食屋に到着。
間口の狭いうなぎの寝床みたいな店の名は「木の葉」。
吹けば飛ぶよな木の葉になぞらえたのだろうか。
初老の夫婦が二人だけで切盛りしている。

メニューの吟味に入る前、瓶ビールで乾杯。
目をひかれた”ちょこっとおつまみ”というのを即座に注文した。
これはハムカツ・ポークフリッター・アスパラ天ぷらの盛合わせ。
少しずつだが300円は良心的な値付け。
まっ、味のほうはそれなりだったけど・・・。

吟味の末、お酒の友・串揚げ(500円)、
海老フライ&ポークソテーw/ライス(1200円)をお願い。
串揚げはアスパラ、ポテトベーコン、ヒレカツ、
メンチフリッター、チキン唐揚げの5本付け。
何だか初っ端の”ちょこっとおつまみ”とかぶったりもして
揚げものはもうけっこう・・・てな感じ。
海老フライは小指ほどの貧相な海老にコロモばかりが厚い。
ポークソテーのみ、まずまずであった。
紹介してくれたT川サンには申し訳ないが
雰囲気はともかくも料理がねェ・・・。

鮫洲から大井町まで歩き、京浜東北線で上野へ。
アメ横から広小路、湯島の天神下から御茶ノ水、
一日よくまあ、歩いたこと。
愛児を託児所に預けてきたママをそろそろ帰す時刻。
次回は桜の花咲く頃にまたと
御茶ノ水駅で手を振って東京見物は幕を閉じました。

「銀座ライオン7丁目店」
 東京都中央区銀座7-9?20
 03-3571-2590

「木の葉」
 東京都品川区東大井1-2-12
 03-3450-1012 

2013年1月14日月曜日

第490話 東京だよママさん (その1)

 ♪ 久しぶりに手をひいて
   親子で歩ける うれしさに
   小さい頃が 浮かんで来ますよ
   おっ母さん ここがここが二重橋
   記念の写真を とりましょね  ♪
          (作詞:野村俊夫)

この日はニューヨーク時代からの友人・N美と会った。
彼女とは一昨年の夏、16年ぶりに再会し、
当ブログでも「乙女はママになっていた」と題して紹介した。
現在、一児の母で千葉県の内房に住んでいる。

聞けば、行動範囲がおそろしく狭く、
せいぜい千葉市に出掛けるくらいで東京にはまず来ないという。
そういえば、一昨年は浅草で食事をしたが
彼女にとっては生まれて初めての浅草だった。
にわかには信じられないやネ。

待合わせたのは新装なった東京駅の丸の内南口。
高校時代の夏休みにアルバイトをした、
「東京ステーションホテル」のエントランス前である。
ママとはいえ、現役のコンパニオンだから
身体の線は崩れておらず、装いもなかなかにオサレである。

東京駅から東京見物を開始した。
最初に向かったのは皇居前広場。
 ♪ あれがあれが二重橋 ♪
指差してやったりして、まったく歌の通りだネ。
おっ母さんじゃ可哀想だから
さしずめ「東京だよママさん」といったところか。

広場から日比谷公園に移動して園内を一めぐり。
目の前に見える帝国ホテルには来たことがあると言うので
「バンケットのコンパニオンかい?」―訊ねたら
「ううん、自分の結婚披露宴!」―思いもかけぬ応えが返ってきた。
「ふ~ん、N美のダンナ、けっこう無理したじゃないか」
「ううん、それは前のダンナ」
彼女曰く、そっちとはすぐ別れたのだと―。
二番目のダンナがたまたま前夫と同姓で
何かにつけ、都合がよかったのだと―。
いや、マイッたッス。

いっときは晴れの舞台となった帝国ホテルの脇を抜け、
みゆき通り・並木通りを経て
銀座のメインストリート、銀座通り(中央通り)に到達した。
N美曰く、銀座は10年前に面接で一度来たきりで
食事も買い物もしたことないし、映画1本観ていないんだと―。
(冗談も休み休み言え!)
心の中でつぶやき、口には出さない。
世の中にはこんなオンナもいるんだねェ、いや、ジッサイ。

歩行者天国を歩み、「銀座ライオン7丁目店」に入った。
サッポロビールが直営するライオングループの旗艦店だ。
J.C.が通い始めて、かれこれ40年にもなろうか・・・。

=つづく=

2013年1月11日金曜日

第489話 小倉にハマッて サァ大変 (その4)

関門海峡に浮かぶ巌流島に棲む野性のタヌキに
運よく遭遇することができて満足、心が晴れている。
連絡船で門司に引き返し、
かつては繁華をきわめたと思しき商店街を歩く。
このストリートで営みを続けている店舗は半数に満たない。
残念がら閉業しちまってるが、たまらん店の跡を見つけた。
平民食堂ってのがスゴいなァ

こういうのに弱いから営業してたら絶対に入ってる。

小倉に戻ってきた。
駅に近い魚町の和菓子舗「湖月堂」で栗饅頭を購入。
小倉にゆかりの作家・松本清張の好物で
何となく食べたくなった。

旦過市場に赴き、予約してあった品々をピック・アップ。
そうしておいて飛び込んだのが「酒房 武蔵」という酒場だ。
宮本武蔵由来の屋号であろう。
生ビールとともに
お手軽な価格(1900円)に惹かれてふぐ刺しを注文。
東京でこの値段はムリだろう

身肉の弾力からしてトラフグだと思われる。
いや、けっこうでした。

壁の品書きにいわしのじん汰煮を見つけ、即追加した。
じん汰煮は小倉名物の一つ

いわしやさばなど青背のサカナを
糠味噌と合わせて炊いたのがじん汰煮。
じん汰の”じん”の字は米ヘンに”甚”が当てられている。
皆目見たことのない字で漢字に転換できない。

ビールから辛丹波本醸造の熱燗に移行する。
これがまたじん汰にピッタリだ。
この佳品がヨソに広まらないのは見た目の悪さだろうか。

さらにハマッてしまった小倉の夜を徘徊。
赤ワインを1~2杯飲みたくなって
立ち寄ったのはトルコ料理店の「エルトゥールル」。
明治23年、和歌山県・串本町沖で座礁した、
オスマントルコの軍艦・エルトゥールル号にちなんでいる。

小倉でトルコもないものだが月並みなワインバーや
スペインバルに行かないところがわれながらエラい。
トルコビールのエフェスが懐かしくて飲んだあと、
ヤークーツというトルコの赤ワインと赤レンズ豆のスープ、
定番のチョバンサラタ(羊飼いのサラダ)をお願いした。

トルコ人(?)のマネージャー曰く、
小1時間もすればベリーダンスのショウが始まるから
ぜひ観ていってほしいとのこと。
小倉でベリーダンスもないものだが乗りかかった船だ、
人の好いJ.C.はそのまま居残ってしまった。

ダンスはそれなりで、そこそこ楽しませてもらい、
流れたのは昨夜と同じ旦過の屋台だ。
小雨のせいか、前夜の「はる屋」は出ておらず、「こずえ」に。
学習効果が働いてコンビニより安いスーパーへ行き、
発泡酒のサッポロ北海道プレミアムと月桂冠のカップ酒を買う。
「こずえ」で食べたおでんは白滝と昆布。
何か追加したのだけれど、どうにも思い出せない。
夜が深まり、酔いも回ってきた。

たかだか急行列車で1時間足らずの博多と小倉。
J.C.は絶対に小倉派だネ。
藤圭子の「京都から博多まで」よりも
村田英雄の「無法松の一生」がずっと好きだし・・・。

=おしまい=

「酒房 武蔵」
 福岡県北九州市小倉北区魚町1-2-20
 093-531-0634

「エルトゥールル」
 福岡県北九州市小倉北区魚町1-4-9 ナガイチビル2F
 093-531-8095 

「こずえ」
 福岡県北九州市小倉北区馬借1
 電話:ナシ

2013年1月10日木曜日

第488話 小倉にハマッて サァ大変 (その3)

小倉から門司を経て下関の唐戸市場に来ている。
市場の2階にある「唐戸食堂」で昼食を取った。
もっとも昼めしというより昼飲みだけれど・・・。

この日はたまたま金曜日とあって階下の魚市場では
「活きいき馬関街」と称し、にぎり鮨中心の出店が並ぶ。
見た目明らかに東京のデパ地下以下、スーパー並みといったところ。
そこで鮨はパスした。
代わりに市場の隅の小店でふぐの唐揚げとふぐコロッケを1つずつ。
ともに1個100円ながらおいしい。
これは”当たり”の部類に入るだろう。

しばし下関を散策し、連絡船に乗って巌流島へ。
門司でパスを買ったとき、窓口の女性に
「巌流島って何があるんですか?」―こう訊ねたら
「何もありません!」―まことに素っ気ないご返答であった。
でも、賢いJ.C.は事前にちゃあんと調べてあるんだもんネ。
宮本武蔵と佐々木小次郎の像はどうでもいいとして
耳寄りな情報はこの島に野生のタヌキが生息しているというではないか。
狭い島だ、ちょいと探せば見つかるハズ・・・これが楽しみだった。

はたして・・・。
居やしないヨ、林というか藪というか、けっこう木々がこんもりしており、
とても奥に踏み入ることができない。
ものの10分で島内めぐりは終わったのでぼんやりと海を眺めていた。
巌流島から関門海峡

門司に戻る連絡船を桟橋で待つ間、ふと振り返ると、
ややっ、居たヨ、居た、居た、居ましたヨ!
遠くに2匹のタヌキを発見

2匹ともこちらを凝視しているのは警戒しているんだろうねェ。
案の定、近づくと藪の中へと逃げ込んじまった。

門司行きの連絡船が着岸。
船を操舵していたオジさんが紙袋を手に下船してきて
先刻までタヌキが居た方向へスタコラと。
何かが起こりそうな予感のJ.C.、すかさずあとを追う。
藪に近づいたオジさん、いきなりバンバンと柏手を打つじゃないの。
すると驚いたことに藪から棒、
もとい、藪からタヌキが駆け出てきたぜ!
袋の中身は彼らのエサで柏手に条件反射してるんだ。
エサがある間は人を気にしない

オジさんによれば、どこから渡って来たのか見当もつかないが
巌流島には今現在11匹生息しているとのこと。
へえ~っ、そうなんだ!
昔、TBSのドラマに「ただいま11人」ってのがあったけど、
この島は「ただいま11匹」なんだねェ。

小倉に戻る途中、門司の町をブラブラする。
小倉は街だが門司は町である。
個人的な認識としてある程度の人口とサイズを持つ大きなマチが街。
小ぢんまりとしたのが町というふうに勝手に定めている。
港から繁華街に向かうも悲惨なことに門司の町は寂れに寂れていた。

=つづく=

2013年1月9日水曜日

第487話 小倉にハマッて サァ大変 (その2)

翌朝は早く起き出し、朝の散歩である。
毎日飲んでいるウコンのおかげで二日酔いもなく、
冷え込みきびしい小倉の街を独りさまよう。
寒いけれどもすがすがしい。
もう完全にハマッてますな、この街に!
さもなくば、まだベッドでグズグズしている時間帯だもの。

旦過市場はほとんどの店がシャッターを閉ざしている。
開いていた「小倉かまぼこ本店」でこれ幸いに
赤モクと玉ねぎの天ぷら、名代・カナッペの予約を済ませる。
明日の出立が早朝になるため、
今夕にはそれらをピックアップしなければならない。

赤モクは海藻の一種、天ぷらは関東で言うさつま揚げだ。
カナッペは魚介のすり身を薄い食パンで巻き、油で揚げたもの。
コイツがイチ推しで酒にも飯にも実によく合う。
どこか可愛らしい店頭
と思いきや
建物には風格が漂う
すばらしい建築である。

朝食は魚町で24時間営業の「資さんうどん」へ。
北九州を中心に多店舗展開しているうどん屋チェーンだ。
かしわ汁うどんのつゆにもアブク
昨日のとんこつラーメンもそうだったが
小倉のスープにはアブクが付き物なのかな?。
具として鳥もも肉とごぼうと玉ねぎの塩胡椒炒めが入っている。
”資”の字を染め抜いたかまぼこが
グループのトレードマークになっており、つゆはやや甘め。
これが1杯520円だった。
大箱の店内はいつもにぎわっていて客層は千差万別。
市民に愛されている証しだろう。

門司に移動した。
NHKの海外向け番組「Weekend Japanology」のロケで
訪れて以来だから、およそ5年ぶりになる。
あのときは東京発・大分行きのブルートレインに乗り込み、
ひたすらに、ただひたすらに、駅弁を食べ続けたのだった。
そのせいで一時期、駅弁と距離を置くようになったくらいだ。

門司の連絡船のりばで
関門海峡・巌流島トライアングル1日フリーパスを購入する。
連絡船1日乗り放題で800円也。
さっそく対岸にある下関・唐戸桟橋を目指した。

まずは昼めし、唐戸市場2階の「市場食堂よし」に出向くと
かなりのキャパにもかかわらず、
何組か順番待ちの列を成している。
その隣りの隣りにある「唐戸食堂」は
一転してカウンターだけの小さな店なのに客は一人きり。
迷わずこちらに即決した。

キリン生ビールに〆さばとキツネガレイの煮付けを注文。
キツネガレイは顔がキツネに似ていることから付けられた名前で
別名を宗八ガレイという。
同じ魚市場でも築地の食堂のレベルには及ばないが値段は半値。
味のほうもまずまずで、昼下がりの一杯には打ってつけであった。
おかげで生中を3杯も飲んじまっただヨ。
旅の恥はかき捨て、旅の酒は飲み捨てであろう。

=つづく=

「小倉かまぼこ本店」
 福岡県北九州市小倉北区魚町4-4-5
 093-521-1559
 
「資さんうどん 魚町店」
 福岡県北九州市小倉北区魚町2-6-1
 093-513-1110

「唐戸食堂」
 山口県下関市唐戸町5−50
 083-222-3788

2013年1月8日火曜日

第486話 小倉にハマッて サァ大変 (その1)

 ♪ 小倉生まれで  玄海育ち  
   口も荒いが  気も荒い  
   無法一代  涙を捨てて  
   度胸千両で  生きる身の  
   男一代  無法松      ♪   
     (作詞:吉野夫二郎)

続いて
 ♪ 空にひびいた あの音は ♪
こんなふうに「度胸千両」と行きたいとこだがシツコいからやめる。

ある日突然、北九州の小倉に行きたくなったのだった。
冒頭の「無法松の一生」は好きな曲だし、
森鷗外、松本清張ゆかりの街でもあるし、
競輪やパンチパーマ発祥の地としてつとに有名で
とにかく個性あふれまくるカーオスが小倉だ。

朝、博多で目覚め、すぐ駅に向かって特急列車に乗り込んだ。
小倉駅を出ると、いや、寒い。
東京よりずっと冷えるんじゃないか。
地元の人に聞いたら、朝方は小雪が舞ったんだと―。
こりゃたまらん、飛び込んだのは鳥町食堂街の「麺家まるいち」。
たまたま入ったとんこつラーメンの店だが地元では人気らしい。
べつにここを狙ったわけではなく、
レトロな小路、鳥町食堂街で昼めしにしたかったのだ。
濃厚極まってスープにアブクが!

とんこつ系は好みじゃないが何せこの寒さだ、
はらわたにしみ通る1杯のどんぶりだった。

午後は旦過市場、小倉城、松本清張記念館などを回る。
この街はあきない、まったくあきない。
名所旧跡を訪ねなくとも単に街中を歩くだけで楽しい。

そうこうするうち、宵闇迫って「鮨 小山」へ。
予約の際、好きな銘柄のビールをお願いしてある。

つまみは
 揚げ銀杏、菊ときのこのおひたし、小さな奴、梨白和え、
 しょうさい河豚の茶碗蒸し、熟成しょうさい河豚刺し
 さわら塩焼き、かます塩焼き、松茸・帆立・百合根の茶碗蒸し 
朝日菊の燗酒に切り替えてにぎりは
 赤いか・酢小あじ・さより・熟成真鯛・しょうさい河豚・小肌・
 焼きうなぎ・きす昆布〆・平貝w/柚子胡椒・肝付き生とり貝・
 金太郎w/木の芽&白板昆布・あぶり太刀魚・あぶりさわら・玉子
赤字は特筆)

ご覧のように、まぐろがいない。
うなぎはいたが穴子がいない。
シャコも車海老もはまぐりもいなかった。
それでも満足度は高く、前夜の安吉親分よりウマが合う。
江戸前ならぬ玄海前がここにあった。

昨夜、博多で屋台にフラレて、もとい、雨に降られて
今宵こそ旦過の屋台に繰り出さねば・・・。
博多の仇を小倉で討つ気構えでのぞんだ。
小倉の屋台はおにぎりやおはぎがあるのに酒類を置かないので
まずはコンビニで好みのアルコールを調達だ。

そうして乗り込んだ「はる屋」。
口八丁手八丁のオヤジさん

大根・はんぺん・いわしボール・ロールキャベツをいただいた。
これで巷のラーメン1杯とほぼ同値だから
客は次から次へと現れては腹を満たしてすぐ店を出る。
薄利多売とはいえ、よくこれで商売が成り立つものだ。

=つづく=

「麺家まるいち」
 福岡県北九州市小倉北区魚町1-4-16  鳥町食堂街
 090-2399-1407

「鮨 小山」
 福岡県北九州市小倉北区京町3-5-5
 093-531-8311

「はる屋」
 福岡県北九州市小倉北区馬借1
 090-3663-1180

2013年1月7日月曜日

第485話 博多の一日

旧臘、九州・博多へ。
空港から直行した「カフェ・ブラジレイロ」に入店したのは
昼の12時半を過ぎていた。
ここは博多最古のカフェだそうで
名物のミンチカツレツ(880円)が食べたかったのだ。
何ともユニークな形状
オムレツライスA(780円)もお願いした。
オムライスのようなオムレツライス
Aはライスが少なめでBだと多めになる。

丁寧に作られた付合わせに好感が持てたが
ミンチカツはつなぎが多くてイマイチ。
デミグラスの洋菓子的な風味には懐かしさを覚えた。
オムレツライスはピラフがヤワい。
見た目と味はシンクロしないものなのだねェ。
しかし、そこはさすがに老舗カフェだ、
デミタスコーヒーの香りがすばらしい。
「ブラジレイロ」は食事よりも喫茶で利用するべし。

甘いものは得意じゃないのに
噂に聞いた大濱饅頭は食べてみたいと思った。
店屋町から歩くこと10分、下呉服町にやって来た。
この佇まいにシビレてしまう
何でも鎌倉時代に宋の国から渡来した、
甘酒饅頭の製法をいまだに守っているそうだ。
店先でパクつくわけにもいかず、
裏道を歩きながら人目をしのんで味わってみる。
何とまぁ、素朴な饅頭だこと
アンコはほんのチョッピリ。
1個100円だから仕方がないけどネ。
エッ? 味はどうだ! ってか?
ここはJ.C.、黙して語らず。

所用を済ませ、日が暮れるまで博多の街を徘徊しまくる。
櫛田神社もそのそばの「かろのうろん」も
柳橋の魚市場も実に久しぶり。
当夜、歓待してくれたのはこの地のホテルマン・M島サン。
希望をかなえてくれ、二人落ち着いたのは「鮨 安吉」だ。
浅田次郎の「天切り松 闇がたり」でおなじみ、
目細の安吉親分を連想させる屋号がいい。
浅じろサンの作品では何たってこのシリーズが一番好き。
って言うかァ、ほかはあんまり読んでないんだ。

ハートランドの生でグラスを合わせ、つまみのスタート。
 小やりいか印籠詰め、彼岸ふぐ昆布〆、かつおヅケw/和がらし
 わら燻し〆さばw/和がらし、さば寿司
山形の東北泉に切り替え、さらに
 あぶり穴子、穴子肝煮煮かき、あん肝ペーストw/奈良漬、
 からすみ西京漬け
 (赤字は特筆)

それからにぎりに移行する。
 やりいか・さわら・小肌・、燻しかつお・赤身ヅケ・あぶり金目・
 車海老・煮穴子・煮はまぐり・玉子・かんぴょう巻き

水準は相当に高い。
ただし、つまみはいずれも少量でほとんどが1切れずつ。
このチマチマさが気になってどうにもノリが悪い。
品数は半分でいいから2切れずつ並べてほしい。
食の太いM島サンも存外の様子、
安吉親分のあと、ラーメン店に拉致された。
博多名物の屋台に流れたかったが夜になって雨模様。
不完全燃焼に終わった博多の一日でありました。

「カフェ・ブラジレイロ」
 福岡県福岡市博多区店屋町1-20
 092-271-0021

「大濱饅頭」
 福岡県福岡市博多区下呉服町7-212 
 092-291-3773

「鮨 安吉」
 福岡県福岡市博多区博多駅前4-3-11 
 092-437-8111

2013年1月4日金曜日

第484話 2匹のブルドッグ (その2)

1匹目のブルドッグは品川区・大井町にいたが
2匹目のブルドッグは江東区・森下にいた。
こちらは「キッチン ブルドック」を名乗っている。
やはり「ブルドッグ」ではなく、「ブルドック」だ。

大井町から数日経った夜だった。
この夜の相方はみちのくから出張して来たR子サン。
洋食屋に乗り込む前につき合わせたのは
同じ江東区は木場の「河本」である。
今でも書店に並んでいる「東京冬ごはん」で
煮込みに関わる執筆をすべて引き受けたため、
連夜の煮込み責めに四苦八苦していた折も折、
有無を言わせず、身柄を下町に連行した次第である。

脂身みっしりのもつ煮込みをホッピーで楽しんだあと、
清澄通りをクルマで5分、ブルちゃんに到着した。
実はこの店、初訪問なのである。
門仲方面からだと、同じ並びで数軒手前の天ぷら屋、
「満る善」が大の気に入りだから
「キッチン ブルドック」の存在はもちろん認知している。
でもネ、店先に立つとちょいと引くんですな、これが。
とにかくTVでおなじみのキタナシュラン認定店ですからネ。
したがって森下の洋食ならば、「深川煉瓦亭」の利用が多かった。

とまどいを見せる相方の背中を押すようにして入店。
カウンターだけの狭い店内は雑然としている。
奥にスペースがあるにはあるが荷物置き場と化している。
切盛りは中年夫婦二人だけの様子だ。

ハンバーグが自慢と聞いてはいたものの、
まずは慎重にメニューの吟味から―。
穴子フライが最初に目に飛び込んできた。
天ぷらはどこでもあるけれど、ありそうでないのが穴子のフライ。
二人、意見の一致をみてビールと同時にお願いしたら
調理担当のダンナが接客係のカミさんを振り返るではないの。
すると彼女、おもむろに首を横に振るではないか。
売切れだか入荷ナシだか存ぜぬが、とにかく穴子は留守でした。

それにしても食材のアル・ナシは
通常、料理人が把握しておくべきじゃないのかネ。
カミさんが発注責任者なのかもしれないな、ここは。
”婦唱夫随”ってことだろう。
人生、そのほうが上手くいくことも少なくないから、まあ、いいや。

穴子を空振って注文したのはカキフライ。
加えてハンバーグとオムライスである。
生パン粉が香ばしいカキフライはなかなかの揚げ上がり。
その代わり、牛挽きより豚挽き優勢のハンバーグは
自慢の品とは思えぬほど不デキで、二人お手上げ状態。

結局、当夜のベストはオムライスであった。
ベースとなるチキンライスにチキンがたっぷり。
玉ねぎのシャキシャキ感もグッドで
デミグラスのコク味がこれまたけっこう。
ここではハンバーグより揚げモノとオムライスを推したい。

木場から森下へと下町を北上して来たのでここからさらに北へ。
両国ではパッとしないし、寂れはてた柳橋は見る影もない。
どうにか活気を保つ浅草橋のガード下にでも流れるとしましょうか・・・。

「キッチン ブルドック」
 東京都墨田区千歳3-1-11
 03-3633-1861

2013年1月3日木曜日

第483話 2匹のブルドッグ (その1)

普段は疎遠な知人に立て続けにバッタリ会ったり、
似たような現象が連続して起こったり、
そういうことってありますよネ?
あれはいったい何なんでしょうか、いや、不思議です。
この秋、J.C.の身にもそんなことがありました。

何と、2匹のブルドッグに続けて襲われたんざんす。
腕は引っかかれるわ、脚は咬まれるわでもう流血の大惨事、
危うく病院に担ぎ込まれるところでありました。
というのは悪い冗談(すみませぬ)で
実は2軒の「ブルドック」を続けて訪問したのです。

1軒目は品川区に残る唯一の迷宮、大井町東小路。
西新宿の思い出横丁をコンパクトにした感じで
葛飾・立石に似てないこともない。
終戦直後(生まれちゃいませんが)の闇市を偲ばせる、
この雰囲気がとても好きなんですなァ。
名店にして迷店の大衆酒場「大山」が
突然、閉業しちまったのはショックだったが
まだまだ捨てがたいラビリンスがここにある。

やって来たのは洋食店「ブルドック」。
なぜか「ブルドッグ」ではなくて「ブルドック」なのだ。
ホットドッグ、ソルティードッグ、ハウンドドッグ、
みんなドッグと発音するのにブルドッグだけはブルドック、
つくづく日本人の英語はおかしい。
これはひとえにウスターやとんかつソースの一大メーカー、
ブルドックがもたらした悪習でありましょう。
悪習と糾弾するほどではないにせよ、
あの会社が言い出しっぺであることに間違いはあるまいて。

当夜の相方はニューヨーク時代の友人・S瀬クン。
当ブログをたまたま見てレンラクをくれたのだ。
キリンの生ビールをお替わりしながら
思い出話に”花咲か爺さん”の巻である。
旧友との邂逅、そして酒交ほど楽しいことはない。

お互いにカキ好きにつき、
オーダーしたのはカキフライとカキグラタン。
この店の名代はバカデカいオムライスとメンチカツだが
個人的にはカキの二段攻めをオススメしたい。

カキフライはそれ自体もさることながら
付合わせのポテサラとキャベツがバツのグン。
殊にしどけない千切りキャベツは都内屈指のしなやかさで
浅草のとんかつ屋「ゆたか」と双璧だ。

カキグラタンはほうれん草入りのフロランタン風。
フロランタンはもともと舌平目を使用するフランス料理である。
ほうれん草とクリームで仕上げるフローレンス(フィレンツェ)風のこと。
グラタンの表面のカリカリを崩すと中はスープがたっぷり。
ちょいとしたオイスターチャウダーですな、これは。

瀬戸内では広島だけでなく、
岡山や兵庫でもカキの養殖が盛んになったそうだ。
岡山出身のS瀬クンの話を聴くうちに
いつしか夜は更けてラストオーダーの時間と相成りました。

=つづく=

「ブルドック」
 東京都品川区東大井5-4-13
 :03-3471-6709

2013年1月2日水曜日

第482話 坂の上のクスクス

北アフリカのチュニジアを訪れたのは1993年2月。
もう20年も昔になる。
隣国アルジェリアのアルジェから空路チュニスに入った。
イスラム原理主義者のテロが頻発していたアルジェリアに比べ、
小国チュニジアは平和を満喫していた。
少なくとも行きずりの旅行者にはそう見えた。
ところが実体はベン=アリーの腐敗独裁政権下だったのだ。

夕暮れどき、ホテルの窓から見下ろす、
街のメインストリート、ハビブ・ブルギバ通りの並木に
おびただしい数のムクドリが帰巣してくる。
その光景にヒッチコックの「鳥」を即座に連想、
背筋が寒くなったのをよく覚えている。

フランスの植民地だった国の食事は美味しいことが多く、
チュニジアもご多分にもれず料理の水準が高かった。
「Chez Nous(シェ・ヌー)」という名の、
フレンチ・チュニジアンが気に入り、2日続けて行ったっけ。
ツナと玉子のブリック、舌平目のムニエル、
ともにパリの優良店のレベルに達していた。

東京のチュニジア料理となると、
中野南口の「カルタゴ」くらいしか思いつかない。
東京のはずれの板橋区・志村に
「ブラッスリー・ジョルバ」の存在を知ったのはこの秋。
マグレブ諸国の国民食・クスクスが
ランチタイムに食べられると聞いて遠征した志村坂上である。

雲はかかってなかったが店は坂の上にあった。
おっ、チュニジアンビールのセルティアがあるじゃないか!
懐かしさもあってこれは見逃せない。
250mlの小さなボトル、1本だけで我慢する。

サカナ・チキン・ラム、クスクスは3種類揃う。
即決でサカナとラムをお願いした。
断っておくと現地にサカナのクスクスはまずない。
本来、クスクスは砂漠の民の日常食なのである。
カルタゴの海辺のレストランで
ルジェ(赤ヒメジ)のグリルを食べたが
ああいう小魚を煮付けてクスクスに仕立てるのだろうか。
興味しんしんで待ち受け体勢が整った。

はたして登場したのは丸1匹のアジだった。
これには失望の色、濃いものがあった。
アジなら塩焼きでいいんじゃないかい?
ブイヤベースの材料になるような白身魚がほしいところだ。
とはいっても白身の値段は半端じゃないからねェ。
スープとスムール(クスクス粒)はごくごく普通。
それではと期待したラムだったが
味も香りも明らかにパンチ不足で欲求は満たされない。

国、敗れて山河あり。
坂、上って悔いがあり。
結局は薬局、やはり板橋は板橋であったか、ハア~。

 ♪ われらのになふ 抱負を見ずや
   たてよ板橋 誇りもて すすめ 板橋 ♪
              (作詞:伊藤義雄)

あっコレ、母校・板橋の校歌です。
作詞のセンセにゃ悪いが「都の西北」のパクリじゃねェの?。

「ブラッスリー・ジョルバ」
 東京都板橋区小豆沢2-15-3
 03-6786-6187

2013年1月1日火曜日

第481話 鰻屋の鯖うまし! (その2)

明けましておめでとうございます。

さっそくですが昨年の続きいきます。
年末年始にまたがって同じハナシは当ブログの前身、
「食べる歓び」をふくめても初めてのことです。

昨日、終焉を迎えた辰年はヘンな年でした。
不景気風が吹きまくってイヤ~な年でありました。
デフレ下にして鰻の値段の高騰ぶりは目をおおうばかり。
あれよあれよという間に上昇気流に乗って
天にも駆け昇らんとする有様は龍(ドラゴン)さながら、
もう金輪際、鰻なんか食わねェゾ!
そう、心に決めた方は1億やそこいらじゃないでしょう。
(んなにいるワケないか)

ひるがえって今日からの巳年。
あれほど暴れまくった鰻も今年は蛇(スネーク)のように
しなやかにクネり下がってほしいものです。

でもって、何だったっけ?
「紅白歌合戦」観ながら飲んでるもんで酔っ払っちまいました。
何でそんなに酔ってるんだ? ってか?
フン、知ってる歌がぜんぜん出て来ねェんだヨ、悪いかっ!
あいや、失礼しました、読者にからんでどうしましょう。

そうでした、鰻屋でした。
千葉県・松戸市の「軍次家」の小上がりで
胡坐(あぐら)をかいております。
急騰した鰻を尻目にあえて鯖の味噌煮を食うわびしさよ。
と言いたいけれどトンデモない、この鯖が旨いんですわ。

お昼の定食はA・B・Cと三通り。
刺身・煮魚・かき揚げの3品から2品を選ぶシステムだ。
 A―煮魚&かき揚げ
 B―煮魚&刺身
 C―刺身&かき揚げ
というコンビネーション。
それぞれ料理の内容は日替わりで
当日は煮魚が鯖味噌煮、かき揚げは小海老、
刺身はまぐろとイカだったかな? ちょいと失念。

Aを注文すると、かき揚げもさることながら鯖味噌煮が特筆モノ。
信州味噌のアッサリ仕上げは味噌煮というより醤油煮に近い。
パラパラッとまかれた実山椒が効果できめんで
さすが鰻屋だ、山椒の扱いは手なれたものである。
小鉢の冷奴と切干し大根に手抜かりなく、
豆腐&ほうれん草の味噌椀も花マルだった。

昼の定食を始めたのは30年ほど前だという。
鰻だけでは売上が伸びないため、
煮魚や天ぷらを充実させてランチや一品料理の質を高めた。
読者におかれては一度お昼にお出掛け願い、
気に入ったら本筋の鰻を所望されてはいかがだろう。
うな重は現在のところ、3100円からである。

円安は見込めても、鰻安は望みうすの2013年。
本年もよろしくお願い申し上げます。

「軍次家」
 千葉県松戸市本町18-9
 0473-62-3153