2013年4月30日火曜日

第566話 想い出のスクリーン (その1)

 ♪ 赤く赤く ああ 燃える炎に
   あなたの横顔が 浮かんで消えた
   遠く遠く ああ せつない程に
   目を閉じればいつか 想い出のスクリーン
   愛しているのなら 愛していると
   言葉にすれば よかった
   少し素直な私を
   もう一度 Um 見つめて     ♪
           (作詞:三浦徳子)

八神純子を覚えていますか?
デビュー曲は「思い出は美しすぎて」。
大ヒットしたのは「みずいろの雨」と「パープルタウン」だ。

披露した歌詞は「想い出のスクリーン」の一番。
日本女性のシンガーソングライターは
叙情に流される傾向にありがちだが
彼女はスケールの大きさを感じさせた。
日本を飛び出してイギリス人の音楽プロデューサーと家庭を作ったが
判るような気がする。

いきなり八神純子に登場願ったものの、今日のテーマは歌に非ず。
そう、”スクリーン”と題したのだから映画である。
最近、アトランダムに観た映画作品に
なつかしいシーンが次々と現れ、想い出にドップリと浸かってしまった。
ゆえに「想い出のスクリーン」、しばしおつき合いくだされ。

「勝利者」(日活=1957年)は石原裕次郎、黎明期の作品。
のちに夫人となる北原三枝も顔を出しているが
主役は三橋達也と南田洋子。
ただし、裕次郎のカッコよさの前で三橋はいまひとつ冴えない。
南田の美しさも完璧ながら北原の持つ存在感には欠ける。
三橋&南田にはない何かをすでに裕次郎&三枝は備えていたのだ。

映画の舞台は銀座。
三橋はボクサー上がりのナイトクラブ経営者。
自らの手でチャンピオンを育てる夢を捨てきれていない。
銀座の店の名前も「クラブ・チャンピオン」と、
力道山でも飲みに来そうな珍名だ。

この店で裕次郎が間抜けなドリンク・オーダーをやらかす。
何と注文したのは「ハイボールの水割り」だとサ。
ウイスキーを水で割るのが水割り、
ソーダで割ったらハイボールだから
ハイボールの水割りなんてありえへん。
若い裕次郎はともかくも監督や脚本家、
先輩の三橋まで揃って気がつかない・・・というより、
ハナからその程度の知識がないんだネ。

「長崎ブルース」(東映=1969年)は青江美奈の同名ヒット曲の映画化。
往時、連作された「夜の歌謡シリーズ」のひとつだ。
青江の歌声に乗って映画は新宿駅前で始まる。
カメラが東口から伊勢丹方面の街並みをしっかりととらえている。
学生運動華やかなりし頃、彼らに強く支持された「新宿の女」で
藤圭子が彗星の如く現れたのも同じ1969年だった。

=つづく=

2013年4月29日月曜日

第565話 これがガーリック・ヌーボー

本日はにんにくのハナシ。

1997年の秋も深まる頃、
15年に及んだ海外生活を終えて帰国した。
東京での仕事は決まっていたから、まずはねぐら探しだ。

隅田川の川っぺり、
さびれ果てた旧花街・柳橋の賃貸マンションを住まいとして
日本橋のオフィスに通うようになった。
浅草橋から秋葉原へJR総武線でひと駅、
JR山手線外回りに乗り換えて神田へひと駅、
たったふた駅ながらワン乗り換えのすし詰め電車である。

海外赴任の長かったビジネスマンが帰国するに当たり、
大きな恐怖感を抱くのは通勤時の満員電車じゃなかろうか。
案の定、ラッシュはかなりツラく1週間ほどでバスに切り替えた。
陽気のいい季節だと歩いたがドア・トゥー・ドアで25分ほどだった。

初めて電車通勤をした日。
乗り込んだ電車の混雑もさることながら車内の匂いにたじろいだ。
ヤケににんにく臭かったのだ。
ハハァ~、こいつは前夜に朝鮮焼肉を食った人間がかなりいるんだな、
即座に思い当たった。
1980年代から’90年代にかけて焼肉人気が沸騰したんだろうネ。
遠く日本を離れているあいだ、いつの間にか列島津々浦々、
老いも若きも半島の食文化に侵食されていたわけだ。

日本人はすき焼きやしゃぶしゃぶより焼肉を好むようになってしまった。
本場・韓国だと韓流すき焼きともいうべきブルコギが主流なのに
本邦のすき焼き屋は衰退の一途をたどるばかり、彼我の差は歴然だ。
牛肉は煮るより焼くほうが手っ取り早くて旨い。
しかも焼肉の場合、にんにく風味のタレが旨さに拍車をかける。
ビールにも白飯にも相性は抜群だからネ。

わが家でもにんにくはよく使う。
ステーキ・すき焼き・カレーには必須の薬味になっている。
肉だけでなく、かつおのタタキや〆さばなんかにも生にんにくの助けを借りる。

春まだ浅い時候だからずいぶん前になるが
みちのくは仙台の駅ビル地下でこんなモノを見つけた。
見るからに清純な若採りにんにく
まさにガーリック・ヌーボーである。
初めてお目に掛かった逸品を即買い求めて帰京し、
その夜、エシャレットやノビルを食べるように味噌を付けて生のままかじった。
口中にフレッシュなにんにくの風味が拡がったものの、
いや、辛いの辛くないのっ! とてもじゃないが生食はムリだった。

翌日、薄くスライスして和牛の切り落としと一緒にバターで炒めたが
通常のにんにくには望めぬ鮮烈な香りが卓上に漂い、
再会の機会があれば必買の一品と相成った。
女房とにんにくは若いのに限るということですな。

「S-Pal 仙台店」
 宮城県仙台市青葉区中央1-1-1B1
 022-267-2111

2013年4月26日金曜日

第564話 迷ったときは日本そば (その3)

上野動物園・池之端門を出て昼めしの算段。
根津にも湯島にも行かずに
手っ取り早く目的を遂げるに恰好の店を思いついた。
ものの1分も歩けばそのそば屋に着く。
まったくもって迷ったときには日本そばだ。

屋号は「新ふじ」。
”新”を冠していても創業は明治42年と百年以上も前。
四日前の「柏屋」が明治37年だから老舗に次ぐ老舗と相成った。

 ♪ チョコレートは 明治 ♪
 ♪ 日本そばも 明治 ♪

「新ふじ」には何度か来ている。
初訪問は三年前。
三階建ての立派な日本建築に只者ではない雰囲気が漂っていた。
それは今も変わらない。

コンパクトな店内は晩酌に打ってつけながら
店じまいが早いせいか、夜に訪れたことは一度もない。
昼に来て小丼とそばのランチセットをいただいている。
いか、もしくは海老の天丼に冷やかけか温かけのセットだ。
確か初回はかつ丼のセットだったな。

この日の注文もいか天丼と冷やかけ。
これが900円。
いか天丼といってもキスが1尾寄り添ってるし、ピーマンも1片。
冷やかけには揚げ玉がパラリと振られて
冷やし小だぬきの様相を呈している。
良心的な値付けは老舗の底力なのだろう。

セットにつき、新香(たくあん・きゅうり)と
サラダ(トマト・きゅうり・キャベツ)が付いている。
あまりうれしくはないけれど、野菜不足を補うにはいい。
つまみの役目も果たしてくれるから、つい頼んでしまうのがビールだ。
その日もご多分にもれずであった。

目の前の棚に小田原の蒲鉾メーカー「鈴廣」の小冊子を発見。
題して「板わさでつながる心と心 かまぼこ術」。
そういやあ、一度ここで板わさを所望したことがあったっけ。
かまぼこはともかくも粉わさびには落胆、哀しい思いをした。
残念ながら”心と心”はつながらなかった。

「鈴廣」といえば今は昔、東京オリンピックの年だから昭和39年。
舟木一夫の主演映画「君たちがいて僕がいた」では
この会社が大々的に取り上げられた。
舞台は小田原、実名で登場し、社屋や大看板がアップで映し出され、
何よりも舟木自身がここでバイトをしてるんだから
「鈴廣」のプロパガンダ映画と断じてもおかしくないな。
相手役の本間千代子が可愛かった。

冊子をパラパラめくると、飾り切りや彫り細工が美しく見ていて楽しい。
板わさの注文は見送ってビールをゆっくり味わいながら
いか天って海老天より好きかもしれないなァ・・・
ぼんやりと思いながら、のんびり独りめしの昼下がり。

=おしまい=

「新ふじ」
 東京都台東区池之端2-8-4
 03-3821-3913

2013年4月25日木曜日

第563話 迷ったときは日本そば (その2)

明治37年創業の日本そば屋、北千住の「柏屋」で
深くコウベを垂れた日から四日後のこと。
好天のその日は上野にいた。
北へ帰るのみともを上野駅に送ったあと、独り公園を散策していた。

上野公園に来たのだから動物園に寄らぬ手はない、
真っ直ぐに正門へ向かった。
すると門前で今まさに始まろうとする猿回しに遭遇。
若い女性があやつる猿の名は何てったっけな、
忘れちゃったがこのコンビ、けっこう笑わせてくれた。
じゅうぶん楽しんだのでご祝儀は野口英世を1枚はずんじまった。
500円以上奮発した観客には猿の写真の絵葉書を1枚くれた。

正門から入るとさすがに土曜日、人出はかなりのものがある。
パンダ舎には行列ができていた。
パンダの前に案内所があったのをこれ幸いに
以前から気になっていたことを訊ねてみた。

J.C.の質問はこうである。
「何年か前までペンギンの隣りにビーバーがいましたよネ」
3人の女性スタッフ、互いの顔を見合わせて何やらうなずき合っている。
年かさの女性が応えて曰く、
「数年前に死んでしまったんですヨ」
「何年くらい前でしょう?」
「今お調べしますから少々お待ちください」
「じゃあ一回りしてあとで寄りますネ」

15分後に戻って聞いたところによれば、
1匹のアメリカンビーバーが2008年6月に死亡して
以来、替わりのビーバーはやって来てないそうだ。
そう、そう、あのビーバーは狭い縄張りにもかかわらず、
ちゃんとダムを作って愛くるしく、子どもたちにも人気があった。

腕時計を見ると早くも正午前、昼めしの時間である。
東園からイソップ橋を渡って西園を抜け、池之端門を出た。
ここから北上すれば根津、南下すると湯島の町。
さて、進路をどちらに取るとしよう。
店の数では湯島に分があるが
根津には谷中と千駄木という強い味方が控えている。
この3エリアを総称して谷根千というくらいだからネ。

湯島だとインドカレーか支那そばだ。
天丼・かつ丼の旨い店もそれぞれにある。
根津となれば町の中華屋か豆腐料理店、
あるいはうどんの人気店が2軒も揃っている。

これといった決め手に欠けて、どうにも行く先が定まらぬ。
ぼんやりと四日前の北千住を思い出していた。
おっと、そうだ、そうでした、お誂え向きの一軒があるじゃないの。
しかも池之端門のすぐ近くに。
”灯台もと暗し”とはこのことであった。

=つづく

2013年4月24日水曜日

第562話 迷ったときは日本そば (その1)

このところ昼めしにチカラが入らない。
昼にガッツリ食べると晩めしというか
実質は晩酌なんだが・・・悪い影響が出てしまう。
なので、軽めに抑えるようにしている。
となると、お世話になるのは麺類だ。

その日は北千住にいた。
駅西口のメインストリートと十文字に交差する商店街は
北側が宿場町通り、南は本町通りと別の名を名乗る。
その界隈を昼めしを求めてウロウロしていた。

宿場町にはこの街のランドマークの大衆酒場「大はし」、
銀座の高級焼き鳥店「バードランド」から枝分かれした「バードコート」、
近頃建て替えられてしまった槍かけ団子の「かどや」などがある。
一方の本町には有名店がまったくない。
孤軍奮闘の婆ちゃんが作る牛すじ煮込みが旨い「葵」、
レトロでキッチュな洋食店「ニューあわや」があるくらいだ。

これといった的を絞れないまま、本町通り商店街に独り。
店頭のメニューがシッチャカメッチャカな日本そば屋の前で立ち止まる。
迷ったときには日本そばがいちばん無難。
でもねェ、山賊そばとか海賊そばなんてキワモノを見せつけられると、
たじろぐというより、シラケちゃうんだよなァ。
まっ、いたずらに時間を浪費しても仕方がない。
入店に勇ましい決断を必要としない点もそば屋のいところだ。

暖簾をくぐった。
ややっ! 4月も中旬にならんとするのにかきそばが生き残っている。
かきそば・・・もちろん牡蠣そばのことだ。
壁の品書きには750円とあった。
かきフライ定食(850円)もやってるじゃないか。
でもネ、他店と比較してずいぶん安くないかい?
ダイジョウブだろうか?

胸の奥に疑念が湧いたものの、
そこは無類のかき好き、すぐに払拭して注文した。
本当はかきせいろが食べたかったが
温かいつゆを張ったかきそばしかない。
妥協を余儀なくされた。

隣りの卓は家族四人ののどかな食事風景。
両親が天ざるで子ども二人は素っ気ないもりそば。
これでいいんじゃないの、正しい一家団らんの姿なんじゃないの。
子どものうちから天ざるなんか食わしちゃいけないヨ。

横目でちらちら観察する間にかきそばが出来上がった。
うわっ! デカッ!
小麦粉をはたいてサッと揚げた大粒のかきが5粒も乗ってる。
あまりのデカさにそばが隠れて見えないや。
都心のあざといそば屋なら1750円は取られるゾ。
どうみたって適正価格は1400円であろうヨ。
それが半額近い750円とは! 
しかもみっちりプックリ、身肉はきわめて良質だ。

帰り際に気がついたが、この「柏屋」の創業は明治37年。
げっ、日露戦争が勃発した年じゃん!
これはお見それしちゃいやしたネ。
明治の老舗の底力に、深くこうべを垂れるJ.C.でありました。

=つづく=

「柏屋」
 東京都足立区千住2-32
 03-3881-2807

2013年4月23日火曜日

第561話 あの人に逢いたい (その2)

「週刊現代」のコラムから借用した<私のいちばん>。
Q10まであるうち、Q2の”いちばん会いたい人”のことである。
誰にいちばん逢いたいかなァ?
まぶたを閉じると、さまざまな顔が浮かんでは消える。

実生活に関わった人物よりも
俳優や歌手など著名人に落ち着きそうだ。
そのほうが無難というか、関わった人はすでに逢った人で
あらためて逢えば再会だからネ。
画家・作家のセンはあるけれど、
絶対にないのが政財界、これだけは断言できる。

「週刊現代」の回答者には歴史上の人物を挙げる人もいた。
気持ちは判るが大昔の人は実体がつかみにくく、
たとえ興味が湧いたとしても逢いたいとまでは思わない。

もしも願いが叶うなら
せっかくだから酒を酌み交わしたいものだ。
逢いたい人は一緒に飲みたい人、
候補者をリストアップしてみよう。

永井荷風 坂口安吾 升田幸三 岡本太郎 鶴田浩二 
市川雷蔵 フランク永井 林家三平  古今亭志ん朝

故人ばかりが脳裏をよぎってゆく。
荷風なら浅草のそば屋か洋食屋でせいぜいお銚子1本。
太郎だと場所にこだわらず、
底に顔のあるグラスでウイスキーのロック。
フランクは有楽町のティールームだが
ティールームだってビールくらいは置いているだろう。
志ん朝であれば湯島の天ぷらか森下のケトバシで燗酒がピッタリだ。

と、ここまで列挙して思い返した。
どうせならやっぱ女性でしょ。
そうと決まればさっそく吟味、ぎんみ。

高峰秀子 団令子 有馬稲子 桑野みゆき 小川真由美
加賀まり子 ザ・ピーナッツ 

女性の候補は少数精鋭、女優が目立つが存命者も少なくない。
う~ん、いずれがアヤメかカキツバタ、迷っちゃうな。
でもネ、誰か一人に絞るとなると、
大好きな小川真由美をしのいで江利チエミということになった。
彼女の歌を聴けば聴くほどハマッてしまう。
いや、歌だけでなく、踊りも演技もすばらしい。

先週の”七面鳥シリーズ”の最後で
映画「ひばり・チエミの弥次喜多道中」にちょこっとふれたが
同じまげものミュージカルの「ひばり・チエミのおしどり千両傘」を観て
ほとほと感じいった。
天才などという月並みなフレーズでは片付けられないや。
歌手として女優として、あれほどの才能に恵まれながら
実生活では災厄と不幸せの連続、心から気の毒に思う。
晩年のヒット曲「酒場にて」の歌詞が現実とモロにカブッてしまうのだ。
チエミにとってこの曲は、ひばりの「悲しい酒」と同じ意味合いを持っている。

陽のあたる場所が明るければ明るいほど、
闇の暗さもまた深いということだろうか。

2013年4月22日月曜日

第560話 あの人に逢いたい (その1)

「週刊現代」のコラム、「日本一の書評」の中に
<インタビュー 書いたのは私です>というのがあり、
話題の新著の著者に対するインタビューが
2ページに渡って掲載されている。

<私のいちばん>と題する10の質問と
その回答で締めくくられるが、そこがいちばん興味深い。
J.C.に取材の申し込みが舞い込むとは思えないので
勝手に自問自答してみた。
しばしおつき合いを。

Q1 最近、いちばん気になったニュースは?
A1 ボストンの圧力鍋爆弾テロ

Q2 いちばん会いたい人は?
A2 実はこれが今回の狙いにつき、後述

Q3 いちばんよく読む雑誌は?
A3 週刊現代

Q4 いちばんよく見るテレビ番組は?
A4 サッカー日本代表の試合
   (これは先週号の回答者、乙武洋匡サンとビンゴ)
   あとはスポーツニュース

Q5 いちばん行きたい場所は?
A5 ルーマニアとブルガリア
   (両国は狂犬病のリスクがあって怖いんだが・・・)

Q6 いちばん大切にしている時間は?
A6 夕暮れどきの晩酌タイム
   (睡眠時間と応える人の気が知れない、バッカじゃねェの)

Q7 いちばん消したい過去は?
A7 イヤなことは忘れるようにしているから消したも同じこと

Q8 いちばんの野望は?
A8 日本全国47都道府県すべてで、これぞという酒場を制覇

Q9 いちばん執筆に集中できる場所と時間は?
A9 真夜中のリビングルーム

Q10 いちばん気になる作家は?
A10 永井荷風と迷った末に松本清張

ザッとこんな具合でありました。
問題はQ2、いちばん逢いたいヒトである。
これはその人の生死にかかわらず、
選んでよいことになっているのだ。
サァ、どなたでしょう?

=つづく=

2013年4月19日金曜日

第559話 七面鳥を慕ってる (その4)

昭和30年代のまんま、時空がとまった「七面鳥」。
類いまれなる酢豚に出会ってひと目ぼれの巻である。
なんつったって魅力の根源は主役の豚肉だ。
素材の質、火の通し、味付け、三拍子揃えられちゃうと、
食べ手としてはシャッポを脱ぐ(死語ですな)ほか手立てがない。
ひと言で表現すればロースとんかつのブツ切りに
野菜の甘酢あんかけが掛かっているカンジかな。

コレを書いていてキラリひらめいた。
近々、わが家でこしらえてみよう。
いえ、家で揚げものは難儀やから
近所の精肉店でロースかつを揚げてもらい、
アンだけ自分で作ってかつブツにぶっかけてみよう。
パン粉のコロモは酢豚本来の姿と異なっても
けっして大きくは外さないと思う、その点は自信がある。

以来、中野・杉並方面に来ると、立ち寄るようになった。
直近の訪問は先週のことだ。

 ♪ 気軽に飲める店は多いし
   気の合う仲間も沢山いるから
   私はこうして 東高円寺
   このやすらぎにひたっています
   近頃なぜか寝つかれないのは
   あなたを思い出したせいでしょうか ♪
           (作詞:吉田健美)

ピンキーとキラーズのピンキーこと、
今陽子がソロで歌う「東高円寺」の二番だ。
今陽子&ピンキーとキラーズ全曲集のCDを聴いていて
この曲が耳に残った。
アップテンポのちょっぴりホロ苦いラブソング、
今も書きながら聴いている。

そんなこって当夜は地下鉄丸の内線・東高円寺から歩いた。
誘ったのはその日、高円寺で仕事をしていたN藤サン。
普段は地方にいるが
新規事業の立上げで月に1~2度は上京してくるようになった。

例によってビールを抜くとオバちゃんニッコリ笑い、
カボチャの煮付けと飛竜頭のあんかけを出してくれた。
飛竜頭というのは上品ながんもどきのことだ。
お願いしたのはもちろん必食の酢豚。
そしてN藤サンご所望の木耳(きくらげ)玉子炒め。 
自分ではまず注文しない木耳ながら
口元に運んで先ほどのオバちゃん同様ニッコリ。
この料理も推奨品のリストに加えておこう。 

必殺の酢豚を食べて感無量となった相方には
昔ながらにケレンのないラーメンをすすってもらい、お勘定。
とここまで書いて一度は=おしまい=と締めたのだが
2時間半後にDVDで観たのが
東映映画「ひばり・チエミの弥次喜多道中」(1962年)。
映画はラストシーンの1カット前、京都は鴨川のほとりである。

あるときは乞食坊主の法界坊、
またるときは麻薬密売団に潜入する密偵、
しかしてその実体は南町奉行・筆頭与力、秋月七之丞。
扮するは中村錦之助と並ぶ東映時代劇の二枚看板、東千代之介だ。

与力に向かい、チエミ演ずる江戸寶楽座の下足番・おとしが言い放つ。
「ずいぶんしょっちゅう変わるのネ、七面鳥みたいだワ」―
アハハハ、つい楽しくなって一筆書き添えた次第であります。

=おしまい=

「七面鳥」
 東京都杉並区高円寺南4-4-15
 03-3311-5027

2013年4月18日木曜日

第558話 七面鳥を慕ってる (その3)

強風の毎日が続きますなァ。
風が流行ってます。
風・・・いやネ。

それはそれとして古着屋と阿波おどりで知られる街・高円寺。
曹洞宗の名刹・高円寺の門前で
一羽の七面鳥に遭遇したのは去年の五月のことだった。
べつに門前の七面鳥、
習わぬ経を読んじゃおりやせんでしたがネ。

白状すればこの七面鳥、
レトロスペクティブな町の中華屋さんなのだ。
誰の発案か、おそらく笑顔を絶やさぬご亭主であろうが
食べもの屋の店名が何と「七面鳥」でっせ。
どうにもこうにも衝撃的じゃございやせんか。
もっともそのおかげでJ.C.の目にとまったわけでありんす。

地下鉄丸の内線・新高円寺の、やはり町の中華屋で一食したあと、
テクテク歩いてこの”中華ターキー”にやって来た。
当夜の相方はフードライターのH.S子チャン。
酒はあまり飲めない彼女だが胃袋はヘビー級、
そこに期待を寄せてご同行願った次第だ。

古びたというより、古び果てたという外観。
でもネ、目にしたときにゃ、胸は弾んで心はときめいた。
たびたび言及しているから読者には耳タコだろうが
こういうのには本当に弱いわが懐旧の情よ。

店内もいいカンジ、いいカンジ。
この空間で酒食の歓びにひたれるシアワセよ!
ビール・缶酎ハイの類いは冷蔵ケースから客が自分で取り出す。
王冠を抜くのもセルフサービス。
好きなんだなァ、こういうの。

グラスを重ねて飲み始めたら
見るからにシャイで人の佳さそうなオバちゃんが
出汁巻き玉子と菊花&レタスのサラダを運んでくれた。
支払い時に判明したがアテの小鉢はすべて無料。
好きなんだヨ、こういうの。

2本目のビールを抜くと
今度はお新香(きゅうり&たくあん)を出してくれた。
これらの小鉢だけで大瓶3本は飲めちゃうネ、自慢じゃないけどヨ。

2軒目だというのにオムライスと酢豚定食を注文しちまう。
酢豚定食は当夜のサービス品である。
普段は単品で780円のところ、定食仕立てで同値ときた。
好感持てるなァ、こういうの。

オムライスはめったに食べないのでS子嬢にオッツケる。
奮闘努力の末、大半を平らげてくれた相方曰く、
かなりの水準に達しているんだと―。
J.C.が惚れこんだのは酢豚である。
そんじょそこいらの中国料理店など足元にも及ばない旨さだ。

そしてその瞬間だった。
中華「七面鳥」に対する好感が突如として恋慕に昇華したのは!
Oh, Yes !  I love this shop !

=つづく=

2013年4月17日水曜日

第557話 七面鳥を慕ってる (その2)

今は昔、J.C.が若かりし頃の配膳係時代。
ホテルの結婚披露宴の正餐における七面鳥が
厄介だったというハナシのつづきだ。

とにかく若鶏なんかと違って重いの重たくないの。
プラッターに半羽がドンと乗っているのを左手で支え、
右手に持ったサーバーでサーブしてゆくわけだ。
だいたい10人前を一気に持ち回るが
ときには11~12人前になることもあった。

自分でいうのもなんだが、こう見えても(見えてないってか!)
現役時代はなかなかのギャルソンぶりで
けっこうスマートなサービスをしたものである。
よって披露宴ではメインテーブルを任されることがほとんどだった。

最初にひな壇上の新婦と媒酌人令夫人。
壇を降って新婦側の主賓とその卓の同席者の順で
料理を皿に盛付けてゆく。
ずっしりとした七面鳥には
ガルニテュール(付合わせ)もふんだんに盛込まれており、
慣れない頃は8人目あたりになると、
左腕はしびれ、額には脂汗がにじみ出してくる。
外科手術の執刀医みたいに
汗をぬぐってくれる看護婦などいるわけもない。
まあ、そんな苦い思い出が詰まった七面鳥なのだ。

それでは表題にあるように
何がどうして七面鳥を慕うようになったのか?

ここでいきなり舞台はJR中央線・高円寺へと飛ぶ。
老婆心ながら書き添えておくと、これは”こうえんじ”と読みます。
”たかまどのてら”ではけっしてありません。

駅でいえば新宿から行って中野の一つ先、阿佐ヶ谷の一つ手前になる。
駅名になったくらいだから当然、高円寺なるお寺がある。
宿鳳山高円寺は曹洞宗の寺院で開山は1555年。
時代降って徳川幕府三代将軍・家光ゆかりの寺ともなった。
禅宗にくみする曹洞宗の本山は福井の永平寺と横浜・鶴見の總持寺。
總持寺は石原裕次郎の墓所としてつとに有名だ。

若者の街・高円寺は線路の北側がざわついているものの、
南口はお寺のご利益(りやく)か、落ち着いたたたずまいを見せる。
東京都民なら一度や二度は高円寺を訪れた経験がおありだろうが
意外にも寺院の存在はあまり知られていない。

おしなべて禅寺は涼やかな表情をしており、高円寺も例外ではない。
もみじの並木と竹笹の緑に抱かれて
しばし都会の喧騒を忘却の彼方に押しやってくれる名刹である。
お寺に愛着を感じるほうではないけれど、大好きだ。
ただし、座禅は遠慮しときますがネ。

名刹のすぐそばに、いや真ん前といってもいいくらいのところに
一羽の七面鳥を見初めたのはおよそ一年前であった。

=つづく=

2013年4月16日火曜日

第556話 七面鳥を慕ってる (その1)

なんだ!  なんだ?
だしぬけに七面鳥とはこれいかに?
いや、ごもっとも、いぶかしがられても仕方ありませんな。
いえネ、ふと思って今日の主役に七面鳥をお迎えした次第なんざんす。

ちぇっ、また動物園ネタかヨ! ってか?
いえ、いえ、上野にペリカンはいても七面鳥はいやしません。
ちなみにニワトリやチャボなど、家禽類を見掛けることもありません。
まあ、先をお読みくだされ。

J.C.と七面鳥の関わりはさかのぼること42年、
ホテルでバイトしていた学生時代が最初だった。
今じゃトンと見掛けぬが当時の結婚披露宴でひんぱんに登場したのが、
ダンドノー・ロティ、いわゆるロースト・ターキーだ。
ホテルの披露宴ともなれば、仏・中・和の三通りが一般的。
七面鳥がお出ましになるのは仏料理の上等なコースで
これが並のコースになると
プーレ・ロティ、いわゆるロースト・チキンが取って替わる。

1970年代のホテルにおける仏料理の披露宴コースはこんな具合であった。

 新郎新婦ウエディングケーキ入刀後シャンパーニュで乾杯
         ↓
 ビール・水割り・ソフトドリンクなどのサービス
         ↓
 冷たいオードヴル盛合わせ
 上等だとたらば蟹脚肉か小海老のカクテル
         ↓
 コンソメ・ロワイヤル(コニャック風味の100%ビーフコンソメ)
 このとき一緒にパン(バゲットとバターロール)
         ↓
 ロブスター・テルミドール(伊勢海老のオーヴンチーズ焼き)
 上等なコースだと伊勢海老の冷製・マヨネーズ添え
         ↓
 和牛フィレ肉のポワレ・温野菜添え
         ↓
 氷菓(シャンパーニュのソルベ)
         ↓
 若鶏のロースト
 上等だと七面鳥のロースト
         ↓
 季節の野菜サラダ・フレンチドレッシング
         ↓
 フルーツ(マスクメロン)
         ↓
 グラッス・ド・モン・フジ(富士山のアイスクリーム)
         ↓
 デミタス・コーヒー
 上等だとコニャックとコアントローの食後酒も

以上の料理をウエイターがスプーン&フォークを駆使して持ち回る。
富士山をかたどったアイスクリームなどは
ナイフとスプーンで切り分けながら持ち回るから
かなりの技量を要求されるのだ。
でも一番厄介なのが何を隠そう、七面鳥だったんですネ。

=つづく=

2013年4月15日月曜日

第555話 ひとりわが家で食うメシは (その3)

上野動物園でひとり飲みを楽しんだあと、
たまたま寄り道した魚のデパート「吉池」である。
おかげでひとり飲み転じて、ひとりメシと相成った。

北海道産栗蟹のペアが蒸しあがったところだ。
そのまま室温で冷ましたら、冷蔵庫で1時間ほど冷やす。
蒸し立ても悪くはないが適度に冷やしたほうが
身は締まって繊細な旨味も生じる。

続いてエイ(カスベ)の煮付けに取り掛かった。
水・日本酒・砂糖・醤油を適当に鍋に張り、
火にかけて煮立ったら、根生姜の皮数片とエイを投入。
しばらくしてアルミホイルの落としぶたを魚身にかぶせた。

大した時間は掛からないのでその間に
韓国産赤貝と富山産蛍いかの盛り付けを済ませておく。
小ぶりながら色あでやか

肥えた内臓で身がはちきれんばかり

ともにラップして冷蔵庫へ戻し、室温に戻るのを防ぐ。

そうこうするうち、エイが煮上がった。
火を止める直前に常備してある実山椒の醤油煮を振り掛けた。
これがアルとナシでは大違い。
鰯でも秋刀魚でも鯖でも、
とにかくひとクセあるサカナの煮付けにはわが家の必需品だ。
キレイな出来映えに頬がゆるむ

同じものをもう1皿作り、これは冷蔵庫に一昼夜寝かせる。
そうすると庫内の冷たさに煮汁が凝固して
すばらしい煮凝(にこご)りが完成する。
その旨さたるや尋常ではない。
ゆっくり味わっても全然溶けない市販のニセ煮凝りなんぞ、
金輪際食いたくなくなること請け合いの逸品となる。

でき上がった4品のうち栗蟹だけを食卓に運び、
サァ、ひとりメシのスタートだ。
といってもメシを炊くわけでもなく、缶ビールをプシューッ。
そうしておいてしばらくは蟹と格闘である。
個体が小さいからむきにくさは、はなはだしいものがあった。

生酢に生醤油を数滴垂らし、蟹肉をちょいとつけて口元へ。
上海蟹より一回り大きいくらいのサイズでは
毛蟹を食べるときのようなダイナミズムは望むべくもない。
それでも北海の幸を実感できた。

韓国の赤貝も悪くない、悪くない。
大分産に似た淡白な味わいながら

 吾(われ)も亦(また) 紅(くれない)なりとひそやかに

ちゃんと主張すべきは主張している。

富山湾の蛍クンもいいじゃないの、いいじゃないの。
添え付けの酢味噌、おろし立ての生姜醤油、
これまたおろし立てのわさび醤油と、
三つの味でいただき、甲乙丙つけがたし。

さてドンジリに控えし、レ・オ・ニツケ・ド・ポワヴル・ジャポネ。
いわゆるエイの有馬煮ですな。
これを菊正の樽酒と飲って驚いた。
両者が口中であられもなく絡まり合い、
カーマストラにおける男女の肉体の如し。
味わう当人とてすっかり羞恥を忘れて
人目のないのを幸いに身悶えしちゃったのでありました。

=おしまい=

「吉池」
 東京都台東区上野3-11-7
 03-3836-0445

2013年4月12日金曜日

第554話 ひとりわが家で食うメシは (その2)

JR山手線・御徒町駅南口の「吉池」にいる。
この店は当ブログにたびたび登場させた。
珍魚と出会えるチャンスが多く、
何も買わずに店内を巡回するだけでも楽しい。

栗蟹・蛍いか・赤貝とそそられるものが目白押し。
ガード下の立ち飲み処に赴く前に
たまたま立ち寄ったのが運の尽き、
あいや、開運の兆候だったかもしれない。

決め手となったのは北海道産のエイ、いわゆるカスベであった。
ダイヴィングをなさる方ならマンタと聞けば判るハズ。
エイは大好きなんだ。
乾き物のエイヒレはともかく、日本では煮付けるのが一般的。
これがフランス料理となると、レ・オ・ブール・ノワール。
エイの黒バターソースに大変身する。
洋の東西で味わいはまったく異なるが
甲乙つけがたいほどに美味である。
何しろJ.C.は手抜き派、簡単だからほとんど煮付けちゃう。

常時、店頭に並ぶサカナではないゆえ、どうしても買いたくなった。
結局は薬局、前記の3品を含め、全部購入しちまっただヨ。
こうなったら立ち飲んでる場合ではない、
一目散にゴーイング・ホームと相成った。

レシートの内容を明記しておくと

 かに          520円
 お刺身用赤貝    250円
 富山産ホタルイカ  320円
 エイヒレ        172円

締めて1262円也。
おっそろしく安いでしょう?
小ぶりとはいえ、栗蟹なんか雌雄1尾ずつ買ったんだもんネ。

まずは栗蟹のペアの蒸し上げである。
皿の上で片方が泡を吹き始めた
と思ったら逃亡を企てる
逃げ出したのは♂の方だ。
雌雄をどうして見分けるかというと
仰向けに返せば歴然

腹部のふんどしの幅が広いほうが♀(左)、狭いほうが♂(右)だ。
そこをめくって塩をひとつまみしのばせ、仰向けのまま蒸す。

蒸し器など不要で深め大きめの鍋の底に少々水を張り、
皿を一枚引っ繰り返して置く。
その上に皿盛りの栗蟹を乗せて着火。
湯気が出始めてから約15分で蒸し上がるが
今回は個体が小さいので13分に短縮した。
よお~し、よしよし、首尾よく蒸し上がったゾ。

=つづく=

2013年4月11日木曜日

第553話 ひとりわが家で食うメシは (その1)

上野の山下、不忍池は三分割されていて
それぞれ蓮池・ボート池・鵜の池という。
鵜の池のほとりでガンとしばし戯れたあと、
出口専用の弁天門を出た。
すぐ近くに弁財天があるから弁天門。

蓮池づたいに歩いて上野広小路に出た。
もうちょいと東に行けばJR山手線の高架にぶつかり、
ガード下を中心に多くの飲み屋が軒を連ねている。
立ち飲み処が値段の安さを競い合って庶民には歓ばしい限り、
何せ、ビール大瓶が390円なんて店があるんだから―。

そうだ、一杯飲る前に魚のデパート「吉池」をのぞいてみよう。
御徒町駅北口前の店舗はただ今、建て替え中、
南口の仮店舗で営業している。
半分ほどの広さになったから扱う品数は減ったものの、
並みの鮮魚店では太刀打ちできない品揃えを誇る。

かにコーナーで珍しい蟹を見つけた。
北海道産の栗蟹である。
毛蟹によく似ているが四角い毛蟹に比べてこちらは五角形、
栗のカタチをしている。
似ているのも道理で毛蟹の別名は大栗蟹。
食味も毛蟹にそっくりなのに値段はずっと安い。
特にこの日のモノは小ぶりで蟹とは思えぬ値段だ。
そのぶん食べるのに手こずること間違いナシ。
でも、ここで逢ったが百年目、見過ごすことはできない。

なおも店内を鵜の目鷹の目でウロウロ。
春を告げる富山湾の蛍いかが出回りだした。
蛍いかはまず、兵庫産のモノが店頭に並び始める。
味は富山に到底かなわない。
しっかし不思議だねェ、富山と兵庫で獲れる蛍いかが
両県にはさまれた石川・福井・京都のモノはまったく見ることがない。
市場に出なくとも地元では地産地消しているのかな?

刺身用赤貝の色つやがよろしい。
産地は韓国でも見た目は国産モノと遜色がない。
宮城は閖上(ゆりあげ)産のように
油絵を思わせる濃密な色彩感には欠けても見るからに美味しそう。
蟹・いか・貝と、買いたいものだらけになってきたゾ、やべエ。

蟹は調理とさばきに手間ひまが掛かる。
J.C.は活きた毛蟹を絶対に茹でない。
必ず蒸すから余計に面倒だ。
とにかく”茹で”と”蒸し”では仕上がりに雲泥の差が生じるからネ。

蛍いかと赤貝は見送り、栗蟹だけを確保し、
一晩活かしといて翌日蒸し上げようか・・・。
でもなァ、活きた蟹をぶら下げて飲み歩くのもなァ。
サカナ屋の片隅で思案投げ首である。

=つづく=

2013年4月10日水曜日

第552話 ひとり園地で飲む酒は (その2) 動物園こそわが楽園 Vol.6

上野動物園は西園カフェテリアで早めの晩酌を終え、
自分のテーブルをクリーンナップしているとき、
二つ隣りの卓で食事中の若い娘たちが視界に入った。
目線でなめ回した(イヤらしいネどうも)わけではないが
美醜入り混じった顔立ちの四人組である。

そのうちの比較的可愛い娘がソフトクリームを食べている。
なめているんじゃなくて食べている。
何となればプラスチックのフォークですくって口に運んでいるからネ。
やれやれ、近頃の娘はフォークでソフトかい?
こんなん育てた親の顔が見たいヨ。

あれれっ、よくよく見りゃ一緒に鳥の唐揚げを突ついてんじゃんか。
そうか、フォークはソフトのためならず、チキンのためであったのネ?
それなら納得、なっとく、、結構、けっこう・・・。
ン? ンン? エッエエ~!
おい、おい、ちょいと待てや! 唐揚げとソフトと一緒食いかい?
嬢ちゃん、嬢ちゃん、オメエ、いったいどういう味覚してんのヨ?

こういう連中をずっと観察してると、アタマがヘンになるので早々に退散。
クロサイの元へと移動である。
こちらは♂のほう

おやまあ、人の佳さそうな、もとい、性格の佳さそうな顔をして―。
サイやサイ、オメエのほうがさっきのギャルよりよっぽどマトモだヨ。
よっぽど人間くさい面貌をしておるヨ。
写真でお判りだろうが、上唇が発達しており、
木の葉を引き寄せて食べるのに役立っている、

こんなやさしい動物をたかが角(つの)のために密猟する極悪人は
とっつかまえて縛り首に処するがよろし。
角が漢方薬の原料になるのだが
実際に薬効などまったくないから生まれざるべき悲劇というほかはない。
アフリカのタンザニアやジンバブエに生息するクロサイは
ジャワサイ、スマトラサイと並んで絶滅危惧種に指定されている。
サイの仲間はほかにシロサイとインドサイの計5種しかいない。

ひとり飲みのあと、クロサイくんの顔も拝んだことだし、
上野・御徒町あたりでもう一杯とまいろうかの。
鵜の池づたいに出口専用の弁天門に向かった。
道すがら、より自然に近い環境で飼育されている、
タンチョウやコウノトリなど大型の鳥類を観るのも楽しみだ。

人なつっこいシジュウガラガンもあたりに何羽か放し飼いにされている。
来園者をまったく怖れていない

小鳥のシジュウガラに羽毛の色合いが似ているところから
名付けられたようだが、何だか奇妙なネーミングだなァ。
一般的にカナダガンと呼ばれているのがこれで
ニューヨーク近郊のゴルフ場では草を食む姿をよく見掛けたものだ。
鳥類とは思えないデッカい糞には往生したっけ・・・。

おや、おや、一羽のガンが近づいて来たかと思ったら
いきなり膝を噛みつかれたヨ。
痛テテテ!(ハハ、痛くはないけどネ)
おい、おい、ガンよガン、
そこはグリーングラスじゃないんだヨ、ブルージーンなんだヨ。

とっても可愛いヤツラで、
J.C.にとっては園内の気に入りスポットになっている。
ここだけのハナシ、たまさか飼育係の目を盗み、
サンドイッチ作成後に残った食パンの耳を与えたりもしているのだ。
動物園のスタッフのみなさん、しょっちゅうじゃないから許してたもれ。

=おしまい=

2013年4月9日火曜日

第551話 ひとり園地で飲む酒は (その1) 動物園こそわが楽園 Vol.6

風は冷たくとも柔らかな陽射しに恵まれた昼下がり。
三ノ輪・入谷と歩いてわが心のパラダイス、上野動物園に到着。
時刻は15時45分を回っている。
あぶない、アブナイ、あと15分遅れたら入園不可能だった。
閉園時間は17時でも最終入園は16時と決められているからネ。

この日の来園目的を白状すると、動物もさることながら晩酌である。
よって近所のスーパーに立ち寄り、
ビールのロング缶を二つに樽酒の一合瓶を買い込んだ。
つまみは自宅から持参した。

 ① 自分で作ったハムサンド
 ② 小さな真空パック入りチーズ3種類
   ③ ちょいとあぶったたら子

以上3点である。

1年ほど前からちょくちょくサンドイッチを作るようになった。
ほとんどの場合、ハムサンドでこれが一番好き。
バターと辛子を塗った10枚切りの食パンにロースハムを3~4枚しこむ。
この際、パセリと玉ねぎも少々はさむ。
マヨネーズは使ったり、使わなかったり、そのときの気分次第。
きゅうりのピクルスを薄くスライスして用いることもある。
手間ひま掛けての調製は市販のサンドイッチに不満があるからで
中の具材をケチられるとシャクにさわるのだ。
紙のように薄いハムでは恥ずかしくて飽食のアメリカ人には出せない。

もうちょっと暖かくなったら
鵜の池のほとりのテラスに落ち着くところなれど、
まだまだ春は名のみの風の寒さよ。
よって冬場の指定席、西園のカフェテリアの椅子に腰を下ろした。
外を眺めるのに好都合の窓際のテーブルで一杯飲りながら
ピープル・ウォッチングとまいりましょう。

人の流れを見ていると、一番多いのはコンパクトな家族連れ。
若い夫婦にチビッ子1匹という組合せだ。
それに続くのはヤングカップルのデートになろうか。
同じ逢びきでも中年の不倫みたいなのはトンと見掛けない。
ああいう連中は上野の隣りの鶯谷へ直行するのだろう。
鶯谷は都内有数のラブホ・タウンなのであります。

意外に目立つのが若い女性の二人連れだ。
レズには見えないから、彼氏レス同士のいたわり合いといった趣きがある。
逆にいないのが男同士、老若問わずにまったく見掛けない。
たまにそんなのがいたとしたら、おおかたヤクの密売取引であろうヨ。
見つけ次第、刑事に成りすまして職質でも掛けてやろうかの。

たったの1時間でもひとり飲みはノンビリした気分になれる。
樽酒のほのかな酔いが心地よい。
動物園でまったく動物を観ないのもなんだから
カフェテリアのすぐ前にいるクロサイのゴキゲン伺いでもしとこうか・・・。

=つづく=

2013年4月8日月曜日

第550話 風さそう 花よりもなお・・・ (その4)

 ♪   花よ綺麗と おだてられ
   咲いてみせれば すぐ散らされる
   馬鹿なバカな 馬鹿な女の怨み節 ♪
            (作詞:伊藤俊也)

いきなりの「怨み節」は梶芽衣子主演の映画、
「女囚701号/さそり」(1972年)の主題歌。
歌唱はもちろん梶芽衣子で
作詞の伊藤俊也は本作品のメガフォンも取っている。

先週のテレビ東京、「木曜8時のコンサート」。
彼女が初めて歌う姿を映像で観た。
いや、上手ですねェ、女優の歌い手としては屈指の歌唱力、
加えてステージ上の存在感も並大抵ではない。

実はJ.C.、この番組が大好き。
木曜夜に在宅していると、まず見逃すことはない。
おう、おう、大木英夫&津山洋子が「新宿そだち」だヨ。
あら、あら、長山洋子&水森かおりで「恋のバカンス」かい。
にしきのあきら(現・錦野旦)は「空に太陽があるかぎり」、
これしかヒットがないからネ。

デュエット・コーナーでは、山川豊&長山洋子が「銀座ブルース」。
菅原洋一&秋元順子は「アマン」ときたぜ。
この2曲はJ.C.のデュエット用持ち歌ながら、ちっとも上手かない。
おやおや、小柳ルミ子は「瀬戸の花嫁」だ。

当夜の出演者はほかに松平健、森昌子、氷川きよしと、
チョー豪華版でこれにはNHKも真っ青だろう。
それにしても津軽三味線を手にした、
長山洋子の「じょんがら女節」は圧巻だった。
か細い身体にパワーがみなぎっている。
キリがないからこのへんでやめとくか・・・。

浅草はすし屋通りの「三岩」にいる。
気に入りのにしん酢がないから、いきなりのたらちりだ。
「ん? 何だって? エッ、こっちも売切れかい?」―
商売する気があんのかネ、お願いしますヨ、ホントに。
仕方なく湯豆腐で手を打った。
豆腐だけじゃもの足りないのでかきの土手鍋も注文。
「三岩」の鍋ものは小鍋仕立てにつき、二つ頼んでも問題ない。

かきがタップリ入った土手鍋は滋味もタップリ。
追加のキスと穴子の天ぷらは近所の天ぷら屋の上をゆく。
下町風に胡麻油香る天ぷらが安くて実に旨い。
浅草名物・デンキブランを飲っておもむろにお勘定。

夜のエンコをぶらぶらと歩き、行き着いたのはなじみの「正ちゃん」。
真冬でも野外のテーブルが定席だが
この夜はツレをいたわって店内のカウンターへ。
生ビールをお願いしたらママ(正ちゃんの奥さん)が
まぐろの中落ちをサービスしてくれた。

中ジョッキ2杯で切上げ、浅草から秋葉原までつくばエクスプレスだ。
千葉へ帰ってゆく相方を見送り、
さてこれから上野あたりで最後の1杯とまいろうかの。
花よりもなお、酒を愛でるJ.C.でありました。

=おしまい=

「三岩」
 東京都台東区浅草1-8-4
 03-3844-8632

「正ちゃん」
 東京都台東区2-7-13
 03-3841-3673

2013年4月5日金曜日

第549話 風さそう 花よりもなお・・・ (その3)

昨日4月4日は「あんぱんの日」だった。
たまたま近所のスーパーで珍しさに惹かれて買った、
桜あん入りあんぱんの包み紙で知った。
日本記念日協会(こんなのあったの?)に
登録済みのレッキとした記念日と明記されてもいた。

ときは1875年4月4日。
明治天皇が花見のため茨城県・水戸に行幸の際、
侍従であった山岡鉄舟の発案によって
初代・木村屋店主、木村安兵衛がお出ししたのがあんぱん。
明治天皇が丸ごとかぶりついたのか、
ナイフ・フォークを駆使して召し上がられたのか、
定かではないけれど、
とにかくそれが昨日J.C.が買い求めた桜あんぱんだった。

ぱんをパックリ割ってみると、中には薄紅色の餡。
桜葉が混入されており、包みには”伊豆産「刻み桜葉」使用”とあった。
食べてみると、季節限定商品としての風情はあるものの、
通常のあんぱんのほうがおいしい。

明治天皇が初めて桜あんぱんを食べた4年後の同日。
琉球藩が廃されると同時に沖縄県が生まれ、
この日は「沖縄誕生の日」と定められてもいる。

おっと、こちらも花見のつづきであった。
地下鉄で浅草にやって来たわれわれ。
お花はもうじゅうぶんじゃないの、とばかり、
大川べりの並木を一べつしただけで落ち着く場所の物色に励む。

秋の夜はつるべ落とし。
春の夜の気温もまた、つるべ落とし。
桜花の季節も宵闇せまれば、急激に冷え込んでくる。
鍋でも囲んで燗酒といきたくなるのが人情だ。

赴いたのはすし屋通りの大衆酒場「三岩」。
ここはエンコの隠れた庶民の憩いの場。
浅草の伝統を引き継いで鍋も鮨も天ぷらもフライも供する。
いわゆるナンデモ和食の店なのだ。

温かい店内にいると、さっきは燗酒を欲したカラスがコロリと変身、
お願いしたのはビールの大瓶だ。
浅草はアサヒのお膝元、銘柄は当然スーパードライ。
と、ここまで書いて急にビールが飲みたくなった。
ちょいと筆を休めて冷蔵庫へひとっ走り。
といっても走るほど広いウチじゃないがネ。

プッファ~! こりゃ、たまらんわ。
あいや、失礼! 急いで先へ。

まずは必食の一鉢、にしん酢を所望する。
するとオバちゃん、口ん中でモゴモゴ。
「ん? 何だって? エッ、売切れってか?」―
それはないぜ、ババリータ!

=つづく=

2013年4月4日木曜日

第548話 風さそう 花よりもなお・・・ (その2)

その日は桜を求めて文京区から台東区へ。
上野において桜花を愛でるならば
お山で宴会を張るよりも池畔をそぞろ歩くのがよろしい。
風情が段違いですもの。

ここ数年、不忍池で幅を利かせている水鳥はユリカモメとオナガガモ。
そして黒子に徹しているためにあまり目立たないが
けっこうな数を誇るのがキンクロハジロ。
キンクロは池の愛嬌モノ

うれしいことに今年はマガモの姿が目立つ。
マガモのオスの美しさはカモの中でもナンバーワンだ。
他の水鳥より警戒心が強いために
めったにお目に掛かれないバンも例年より多い。
聞きなれない鳥の名は見なれない漢字で鷭と書く。

小柄な鷭は江戸の昔、美味の象徴だった。
江戸のうまいものを三鳥二魚と称した。
内訳は雲雀・鷭・鶴の三鳥、鯛・鮟鱇の二魚である。
鴨が鳥になく、河豚も魚にいない。
それにしても江戸のお大尽、魚は今と変わらぬが
トンデモない鳥を食べてたんだねェ、ビックリしちまうヨ。

池づたいに歩いた二人は弁財天のお堂にやって来た。
短い参道に屋台が軒を連ねている。
年を経るごとに屋台で商う食べものが多様になった。
「なんか食べたいモンあるかい?」
「うん、チヂミが食べたい」

チヂミのついでにドネルケバブも買い求める。
トルコ由来の垂直あぶり削り肉だが
日本ではオリジナルの羊肉に出くわすことはほとんどない。
ビーフかチキンのどちらかに限られる。
よりマトンに近いビーフを選んだ。

弁財天前の野外カフェで生ビールを買い、
残りの赤ワインとともに購入した物品を味わう。
桜海老入りのチヂミはもったりした生地が許しがたく不デキ。
ピタパンにキャベツと一緒に肉をはさみ、
ヨーグルトソースをかけたケバブは殊のほかグッドだ。

屋台のケバブを買うのは
ロンドンの街頭のスタンド以来だから実に38年ぶり。
今でこそ世界を席巻するドネルケバブは意外と新しい料理で
本場・イスタンブールに現れたのが1940年代だという。

かなりの距離を歩き、相方はさすがにへばり気味。
歩くのはもうたくさんのご様子だ。
なおも散策を続けるのは酷というもの、
上野から日本最古の地下鉄・銀座線に乗り込み、浅草へ。
昭和2年、最初に開通したのがまさしくこの上野―浅草間であった。

=つづく=

2013年4月3日水曜日

第547話 風さそう 花よりもなお・・・ (その1)

今年の春はヘンな春。
桜は咲き急いで散り急ぎ、早くも東京を通過していった。
芭蕉が詠んだ”花の雲”の下で
人々が宴を催したあとに空模様は花曇りから花冷えへ。
こんな春はトンと記憶にございませぬな。

マイ・フェイバリット・ブロッサムの沈丁花にしたって
例年通り都内をあちこち散策しているのに
嗅ぎ初めは3月9日土曜日のことだった。
これはずいぶんと遅い。
場所は道灌山から田端に向かう千駄木四丁目。
谷根千もここまでくるとハズレのはずれだ。
かぐわしい匂いを今年はほとんど嗅げなかった。

千葉県・内房在住の旧友・N美と花見の段取り。
この人物はたびたび出てくるのでご記憶の読者もおられよう。
最近では第490話の「東京だよママさん」にご登場願った。

岡山生まれが千葉に嫁いできたわりに
東京の街をまったく知らないのが彼女だ。
桜の名所にしたって上野・浅草はおろか
九段・新宿・目黒・王子、どこへも行ったことがない。
実に哀れをさそう。

憐憫の情につまづいて
キレイな桜を見せてやろうという気になった。
よって都内屈指の桜並木を誇る小石川は播磨坂にご案内。
地下鉄丸の内線・茗荷谷駅の改札で待合わせ、
目の前のスーパーマーケット「Santoku」で
調達したのは缶ビールに赤ワイン。
酒の友はローストビーフと多彩なチーズの袋詰めだ。

播磨坂へはほぼ毎年来ている。
昨年は肌寒い夜で、坂をひと降りしたあと、
角打ちの「柄沢酒店」に駆け込んで暖をとった。
もっとも飲んだのは冷たいビールだったけど・・・。

花見客であふれるなか、
何とか坂の中ほどにスペースを見つけ、しばしの花見酒。
相方が歓んでいるのが何よりだ。

そこへ突然、民主党の幹事長が現れたものだから
ミーハーの相方が色めき立った。
政治に無頓着でも”モナちゃんとチューしたヒト”はご存知だった。
道行く人々と握手を交わす姿を見てこちらはそっちのけ、
彼のもとに走って行っちゃったぜ。
やれやれ。

播磨の坂では1時間と少々を過ごし、散歩を始めた。
小石川植物園を抜け、春日は西片の交差点から本郷菊坂へ。
湯島天神に詣でて男坂を降り、天神下の交差点で北に左折、
やって来たのはちょくちょく訪れる不忍池だ。
池畔に桜花咲き乱れ、水面(みなも)に水鳥が遊ぶ。
むろん相棒がこの池を目にするのは初めてのことである。

=つづく=

2013年4月2日火曜日

第546話 自由に歩けぬ自由が丘 (その3)

歩道がほとんどないため、
歩行者が不自由な思いをする自由が丘。
駅そばの佳店「金田」で一杯飲ったあと、
自由通りをまっすぐに北上していった。
このまま行けば、駒沢公園を経て
田園都市線の駒沢大学駅にたっする。

公園の手前、自由通りに面して中華料理店「わさ」がある。
なんでも店主は岐阜市の有名店「開化亭」の出身で
目黒区・八雲に開業して4年になるそうだ。
岐阜の「開化亭」に行ったことはない。
食道楽の友人はとにかくバカうまでバカ高い店だと強調する。
良いのか悪いのか、賛否の判然としない意見ではあるがネ。

当夜はめしとも”SKYAMKO”、久々の定例会。
J.C.にとって「わさ」はおよそ3年ぶりの再訪となる。
前回は今は無き月刊誌「めしとも」のO編集長と
取材に現れたのだった。
そのとき美味しかった海老春巻と麻婆豆腐は
はずせないから幹事の森チャンにきちんと報告しておいた。

通常は都心の銀座・日本橋・六本木あたりで
開催の運びとなる食事会が目黒区に遠征するのは初めてのこと。
というのも、ここは森チャンの自宅から至近距離にあるのだ。
そこは幹事の特権、文句を言うものなどいやしない。

乾杯の生ビールはキリンのハートランド。
下町から山の手にやって来ると、いつもビールに不満が残る。
瓶なら問題はないけれど、
生だとあまりにもジョッキというか、ほとんどの場合はグラスだが
とにもかくにもサイズが小さすぎ。
それでいて料金はしっかり取るから泣く子と地頭にゃ勝てないんだ。
ビール好きのJ.C.、最初の乾杯で早くも完敗の様相を呈している。

五香粉餃子とよだれ鶏で料理がスタートした。
よだれ鶏というのは蒸し鶏の前菜。
他店ならば胡麻だれの伴々鶏(バンバンジー)となるところを
当店は醤油・辣油・白胡麻・香菜でいただく。
べつによだれが出るほどの見映えもないし、
実際にさほど美味しいものでもない。

ところがお次の仔豚のローストはまことにけっこう。
仔豚の特性が活かされ、当夜のベストがコレ。
竹の子とキャベツの豆鼓炒め、くだんの海老春巻、
帆立貝柱の塩味炒め、くだんの麻婆豆腐ときて
締めは玉子と長ねぎのシンプルな炒飯、
そしてデザートが杏仁豆腐だ。

春巻・麻婆は相変わらずのブレない旨さ。
でもねェ、やはりねェ、巷の評価は高すぎやしないか。
紹興酒と赤ワインもいただいたが
これで支払いが一人1万円ではなァ、何だかなァ。

そう、そう、ワインの品揃えがあまりにもみじめ。
同じものをお替わりしてもストックがナシ。
それではこちらをと選んだボトルもありません。
優良店にあるまじき失態というべきで
あっけなく馬脚をあらわすんなら紹興酒に専念して
早いとこワインなんかやめちゃいなさいヨ。

=おしまい=

「チャイニーズレストラン わさ」
 東京都目黒区八雲3-6-22
 080-3027-4937

2013年4月1日月曜日

第545話 自由に歩けぬ自由が丘 (その2)

昔なじみの町だけど、歩きにくさは都内屈指につき、
好きではない町、自由が丘にいる。
ただし、こちらは好きな居酒屋「金田」のカウンターだ。

品書きのつづきであった。

<揚げ物>
 活け〆穴子唐揚げ      800円
 白魚唐揚げ           700円 
 桜海老かき揚げ         750円
 かに団子(ずわいがに)    800円
 いわし香梅揚げ        700円
 キス天ぷら           700円

<その他一品料理>
 生うに1箱(オホーツク)    1200円
 サバたたき(大分)       750円
 いかなご             450円
 なまこ親子和え(このわた)   800円
 チャーシュー(当店製)     600円
 ワサビ菜おしたし        450円
 ゆり根の梅肉和え       550円
 ウドの皮キンピラ        400円
 田ぜりおしたし          450円

<飲物>
 酒                 420円
 ビール(大)            650円
 生ビール               550円
 樽酒                 950円

ざっとこんな具合である。

われわれは二人でビール大瓶(サッポロ赤星)1本に
菊正樽酒(300ml)2本を飲んだ。

つまみはお通しの小さな湯豆腐に始まり、
鍋好きの相方が選んだ鳥なべに
J.C.の好物の甘鯛かぶと焼と桜海老かき揚げである。

鳥なべはメニューのアタマに(美味)と銘打っただけあって
小鍋仕立てでは足りないくらい、冷えた身体にしみ通る。
甘鯛かぶとは小ぶりにすぎて可食部分があまりにも少ない。
京都の割烹あたりのソレに比べると大きく劣って不満が残る。
桜海老は上々でコレに玉ねぎでも加えてくれたひにゃ、
盆と正月がいっぺんにやって来るのだが
そりゃぜいたくというものであろうヨ。

春まだ浅い夕べ、冷たい外気にさらされて
自由が丘のメインストリート(だと思う)、
自由通りを駒沢公園方面に歩く。

駒沢公園かァ、
あれは中学二年の天皇誕生日(現・昭和の日)。
季節はずれの寒い雨の日のこと。
駒沢第二競技場におけるサッカーの都大会だ。
0-1で敗れはしたが、これがわが人生、
最初で最後の芝のピッチでのゲームであった

=つづく=

「金田」
 東京都目黒区自由が丘1-11-4
 03-3717-735