2013年10月31日木曜日

第698話 黒いにんにく 双子の玉子 (その2)

八戸から届いたみやげのつづき。
包みを開いて現れたにんにくにビックラこいた。
とくと、ご覧くだされ。
これが青森名物の黒にんにく  
火を入れすぎて焦がしちまった天津甘栗かと思ったぜ。
噂には聞いたことがある黒にんにくながら口にするのは初めてだ。

一粒じっくり味わってみて
どんなプロセスを経て、かような熟成をとげたのだろう、
まったりとしたコク味が舌の上に広がった。
子どもの頃、腹をくだしたときに
飲まされた梅肉エキスに似てないこともない。
食物なのか? クスリなのか? 第一感はこのことだった。

通販のサイトでは一応、健康食品のカテゴリーにおさまっている。
でもネ、このままでは少々無理があるんじゃないかなァ。
殊に女性や子どもにはキビしいんじゃないかねェ。
ただし、ただしですヨ、南部味噌を一つまみ添えてやれば、
それだけで酒のつまみにも、飯のオカズにも変身しそうだ。
わが家に南部味噌はないから信州味噌で代用したら
ハイッ! バッチグー(死語か?)でありました。

うれしいじゃないか、みやげの中に納豆があった。
青森の隣県、岩手は二戸市の生産者による、
国産大豆使用の小粒納豆は文字通り粒揃い。
見るからに、おのれの美味をささやきかけてくるかのようだ。
こんな逸品をこのまま味わってはもったいない。
まずは炊飯の準備から・・・ということでござる。

一緒に届いた宮城産ひとめぼれを磨ぎ、炊き上げて茶碗によそう。
同時にくだんの納豆をこれでもかとかきまぜる。
おもむろに、きざみねぎ、練り辛子、生醤油を添加し、さらにかきまぜる。
上記3品は添加しても
据え付けの添加物、納豆のタレは封も切らずにサヨウナラだ。
ここがポイント!

いやはや、この納豆の旨かったこと。
なんで青森・八戸に岩手・二戸の納豆があったのか存ぜぬが
旨いモノは旨いっ! 
掛け紙に”日本の大豆を食べませんか”とあった。
ちなみに大豆は北海道産の雪静、造り手は「高橋豆腐店」。
おかめ、くめ、あづまの御三家とは別物だぜ。
J.C.の知る限り、唯一対抗できるのは
山形産の確か、”おいしい納豆”といったかな? 
北千住の「食遊館」で出会った、それだけだ。

そして、みやげのなかで最大のインパクトがコレ。
デッカい五つの鶏卵
左端の赤玉は自宅の冷蔵庫にあった玉子(Mサイズ)。
何でこんなに大きいの?
合鴨のソレならいざ知らず、
ニワトリの玉子でこんなんは見たことないわい。
明日はこのデカ玉を主役にしたいと思います。

=つづく=

2013年10月30日水曜日

第697話 黒いにんにく 双子の玉子 (その1)

このところ東京もめっきり涼しくなりました。
のみともと待合わせても
みんなハーフコートなんぞ羽織って来るもんなァ。
いえ、薄着派のJ.C.は相変わらずシャツ1枚で
「バッカじゃなかろか!」―
なんて周りから白い目で見られている。
いいんだもんネ、このほうが風邪引かないんだもんネ。

みちのくののみともがみやげの山を抱えて上京して来た。
何でも前日まで青森県・八戸に居た由。
港の朝市や「八食センター」で珍品に遭遇し、
我慢できずにいろいろ買い込んじゃったらしい。

ああいう場所で売られている物品は
名もない酒の肴一つとっても
都会のスーパーとは比べものにならないほど実がある。
実際に袋もののつまみを食べてみて
チーズ&いかの松葉や
のしほたて(のしいかの帆立バージョン)の秀逸さに
八戸漁港の底力を思い知らされた。

ふ~む、八戸かァ!
思い起こせば、訪れたのは20年以上前の真冬だった。
迎えてくれた友人のクルマで
三沢空港から凍結した道路をツルツル滑りながら
何とか市内に入ったっけ・・・。
朝の市場じゃ、腹を割かれて白子をさらした、
新鮮な真鱈がところ狭しと並んでいた。

タラ、サバ、イワシ、イカ・・・季節の移ろいとともに
揚がるサカナは異なれど、八戸港は大衆魚の宝庫。
もっともここ数年、タラの値段は高騰の一途で
もはや大衆魚とは呼べなくなった。
タラ大好き人間としては心もフトコロも痛むが
世の人々がようやくタラの旨さに
目覚めてくれたのかと思うと、うれしい限りなりけり。

おっと、八戸みやげのハナシであった。
とにかくいただいたのはすべて食べもの、それもドッサリ。
前述の袋もののほかに、まず大量のにんにくがあった。
魚介以外の青森名産は第一にりんごだが
どっこい、にんにくは国内総生産量の8割を占めている。
ブランド化された田子町産がつとに有名で
十和田市と天間林村を加え、青森にんにく三大産地と称する。

今回運び込まれたのはフツーのにんにくだけじゃなかった。
空けてビックリ玉手箱、こんなヤツが出て来たヨ。
と、ここまで書いてスペースが尽き、
写真はまた明日お目にかけましょう。
焦らすんじゃないヨ! ってか? ごめんね、ゴメンネ!

=つづく=

2013年10月29日火曜日

第696話 歳をとったら日本そば

以前の仕上がりとは似ても似つかぬほどに変わり果てた、
かつての名酒場「山利喜」の牛もつ煮込みに
傷心の決別をして店先の森下交差点。
清澄アヴェニューと新大橋ストリートの十文字だ。
ちょいとキザな表現ながら
ニューヨークのマンハッタンにおいては
南北に走る通りがアヴェニュー、東西がストリートだ。

通りの向こう側に手を振る和雄サンの姿が見えた。
隣りにさだおサンもご一緒だ。
三人揃って日本蕎麦舗「京金」の暖簾をくぐる。
予約したテーブルには先着の熟女二人が待ち受けていた。
五人合わせて320歳近くになろうか。

熟女と呼ぶにはまだ早い、
いわゆる半熟のパン子だけは仕事帰りでまだ未着。
とりあえずエビスの生で乾杯だ。
苦手な銘柄ながら1杯だけおつき合い。
そうこうするうちパンちゃん駆けつけ、あらためて乾杯となる。

一息ついてそば前の吟味に入った。
といってもこの店の品書きはバッチリ把握しているので
J.C.がパパッと仕切らせてもらった。
注文品はかくのごとし。

出汁巻き玉子 そばの実入り焼きみそ 
*白菜新香 蛍いか沖漬け わかさぎ天ぷら

ベストは*赤字の白菜である。
秋の深まりとともに風味を増して卓抜な漬け上がり。
芋焼酎・蔵の師魂のロックとシンクロナイズド・マッチングであった。
ほかの料理もおしなべてよく、一同エビス顔である。
べつにエビスビールのおかげじゃないけどネ。

締めのせいろはやや平べったい形状、
パスタのリングイネを想起させる。
老舗には珍しく、盛りがよろしい。
”藪”や”砂場”の諸店はこの精神を見習っていただきたい。

つゆもキリッとしていながら下町の俗っぽさを内包してなかなか。
本わさびはありがたいけれど、
おろしてから時間が経っており、キレ味に欠けた。
とはいえ、旨いそばに舌鼓の老頭児(ロートル)たちは大満足。
まっこと、歳をとったら日本そばである。

交差点を少しく南下して活魚と季節料理の「杉」に移動する。
うれしくもアサヒの大瓶に息を吹き返したJ.C.であった。
われながら単純だネ、ジッサイ。
刺身の盛合わせを大皿でお願いしたが
盛りのよいせいろを1枚やってきたもので
男性陣はほとんど箸がすすまない。
その点、女郎衆はスゴいや、パックパクだもんねェ。

2皿で登場した栃尾の油揚げはさすがにこたえたようで
1人前は誰かがお持ち帰りしたようだ。
ビールのあとは東海林御大の意向もあり、珍しくウイスキーの水割り。
銘柄は国産のスーパーニッカだ。
スーパードライに続いてスーパーニッカ。
こうして森下のスーパーナイトは更けていったのでした。

「京金」
 京都江東区森下2-18-2
 03-3632-8995

「杉」
 東京都江東区森下1-5-7
 03-3634-2578

2013年10月28日月曜日

第695話 国破れて山河あり (その2)

夕暮れの森下の町にいる。
「またビールのハナシかヨ」―
そう、そしられても弁解するつもりはござらんが
まあ、お聞きくだされ。

何もエビスが悪いわけじゃない。
世に、この銘柄を好むビール党は星の数ほどいるだろう。
ただ、J.C.が主張するのは濃厚なビールを置くのなら
真逆にある軽快なタイプも用意すべし、その一点だけだ。
同じサッポロでもエビスと黒ラベルはガソリンと軽油ほどの差がある。
飲食店を経営するみなさん、
そこんとこを、よお~くわきまえておくれでないかい?

日本そばの「京金」はエビス一辺倒ながら
近所の大衆酒場「山利喜」にはサッポロラガー、いわゆる赤星がある。
よってこのクラシックなビールでのどを潤してから
そば屋に移動を試みるのが手筋というものだ。

「山利喜」は数年前に建て替えられた。
新築後は初めての訪問になる。
記録を紐解いてびっくりしたのは
何と10年以上のブランクがあったこと。
好きな森下の町にはちょくちょくやって来るにもかかわらず、
かくも長きあいだ、無沙汰をしていたとは!
先週紹介した天ぷら「満る善」や洋食「深川煉瓦亭」を
何度も再訪しているだけに、わが目を疑ってしまった。

とにかく入店した。
以前のように店先に行列なく、心なしか人気のかげりを感じる。
いきなり短い階段をのぼらされ、
カウンター席に身を置いたが、隣との間隔が狭すぎでしょうヨ。
いや、まいったな、昔のほうがずっと居心地がよかった。

気を取り直してくだんのサッポロ赤星である。
大瓶の620円はけっして高くない。
むしろ良心的な値付けといえる。
突き出しは鳥肉入りの筑前煮で、これが300円。
下町の大衆酒場に有料のオッツケ突き出しはそぐわないが
300円なら目クジラを立てるほどのこともあるまい。

名代の煮込みは500円。
東京三大煮込みの一翼を担うと讃された傑物を十数年ぶりに味わう。
ややっ、食べてびっくり玉手箱、コクも風味もあったものではない。
脂っこい牛のシマ腸を使う煮込みは
もともと好きなタイプではないけれど、こりゃ、あまりにヒドいや。
旨みがどこかにすっ飛んで駄品と堕している。
適正価格は350円がいいところ。
哀れ、煮込み王国の崩壊を見る思いがした。

国破れて、山河あり。
障子破れて、サンがあり。
早いとこ障子サン、もとい、東海林サンのもとに向かおうっと・・・。

「山利喜」
 東京都江東区森下2-18-8
 03-3633-1638

2013年10月25日金曜日

第694話 国破れて山河あり (その1)

深川は森下の天ぷら屋「満る善」と
「深川煉瓦亭」をハシゴした日から2日後、
再び森下の町にJ.C.オカザワの姿を見ることができた。
そんな姿、見たくもないってか?
まあ、そうおっしゃらずに先をお読みくだされ。

当夜は恒例の食事会。
面子は漫画界の重鎮のさだおサンと
「キン肉マン」の特殊キャラで名を馳せた和雄サン、
そしてJ.C.が野郎ども。
ハーピストのI﨑サン、専業主婦に徹するちーチャン、
フードアナリストのパン子チャンが女郎衆である。
この会は男女比3対3であることがほとんだ。

2ヶ月に一ぺんほどの不定期開催ながら
第1回が震災の年の正月だったから
かれこれ3年近く続いていることになる。
初回は本所吾妻橋のどぜう屋「ひら井」であった。

番たび19時のスタートながら
男性陣は30分ほど前に別の場所で落ち合い、
生ビールで乾杯するのが半ば慣習化している。
たまたまその夜はJ.C.に夕方から所用が入ってしまい、
零次会ナシということになった。
ところが所用はキャンセル、2時間近くも身体が空いた。

17時過ぎには森下に独り到着して
まずは二次会会場の下見である。
森下の交差点近く、腹積もったバーがあるはずなのに見つからない。
おそらくクローズしたのだろう。
サァ、困ったゾ。
ぶらぶらしたところで適当な店が見つかるわけもなし、
ましてや下町にバーはきわめて少ない。
方針変更して小粋な居酒屋にでもしようか。
一次会は日本そばの佳店、「京金」に予約を入れてある。
”和”と”和”で重なるが、「魚三酒場 常盤店」のそばに
「杉」なる和食店を見つけ、女将に21時頃の訪問を伝達した。

ときに17時45分、1時間以上も時間が空いた。
しかし、すでに算段があり、立ち寄る店も決めていた。
森下で一番有名な酒場、「山利喜」である。
いきなり会場の「京金」に出張るつもりは毛頭なかった。
何となればこのそば屋、料理は上々ながら
ビールが生・瓶ともにエビスしか置いてないのだ。

どうして日本そば屋には
「エビスビールあります」派が多いのかネ。
うなぎや焼肉ならいざ知らず、そばや鮨にエビスは濃厚過ぎる。
サッポロの営業マンにそそのかされた酒類に疎いそば屋の主が
二つ返事で契約した結果がこの惨上、やれやれである。

=つづく=

2013年10月24日木曜日

第693話 天ぷら屋から洋食屋

下町は深川の北辺、森下の町にやって来た。
深川の南端、門前仲町から歩いて来たのだ。
行く先は下町情緒漂う天ぷら店「満る善」。
何たってこの屋号がいいやネ。

初めて訪れたのは2002年のこと。
もう11年の月日が流れたんだねェ。
そのときと変わらず、老夫婦二人だけの切盛りである。
当時すでに老夫婦だったから、かなりのお歳になるハズだ。

胡麻油香る天ぷらは江戸前の正統派。
したがって色どりのしし唐以外に野菜類は揚げない。
天種は海老・きす・めごち・いか・穴子が常備されており、
秋口からハゼが登場し、冬場には牡蠣が加わる。
J.C.が好むのはサカナたちすべてと牡蠣である。

当夜はわれわれのすぐあとに
近所のオジさん5人組が現れ、店主は大忙し。
注文品がなかなかでき上がってこない。
突き出しのゲソワサでビールを飲みながら待つ。
ゲソはゲソでも柔らかな墨いかのそれがうれしい。

やっと運ばれた、あじ酢と墨いか刺しはやや疑問。
本わさびを持込んでいたが、それでもイケなかった。
この10年の間に変わったものは
生モノのレベルダウンとぬか床のゆき過ぎた熟成化だ。
以前の浅漬けのほうがはるかによかった。
というより、苦手なタイプの酸味・風味が立ってしまっている。

海老・きす・めごち・穴子と揚げてもらい、ベストは穴子。
穴子の上半身だけは天つゆにくぐらせたが
ほかはみな大根おろしと生醤油でいただいた。
この食べ方が一番好きなのだ。
あとは注文する料理がないので2軒目に移動する。

森下の交差点を西に進み、洋食の「深川煉瓦亭」へ。
銀座3丁目の老舗中の老舗、本家「煉瓦亭」ののれん分けがここ。
もっとも都内のあちこちにのれん分けは散在している。
さっそく献立表を見ると、10年前に比べて
マカロニグラタン(950円)、ミックスフライ(1250円)、
ビーフシチュー(1700円)は100円の値上がり。
ラーメン(600円)、五目そば(930円)、
オムライス(900円)、カツ丼(930円)は50円値上げだ。

銘柄を失念したが赤のハウスワインをボトルで開けた。
2/3をJ.C.が、残りを相方が飲んだものの、いや、これが不味い。
「満る善」では軽くつまんだ程度だったので
ハンバーグステーキ(780円)に
ブラック・オムライス(価格不明)というのを所望してみる。

ハンバーグは以前と変わらぬ味。
初顔のブラック・オムライスには
黒胡椒タップリの照り焼きソースが掛け回されていた。
だけどサァ、照り焼き味のオムライスはないだろうヨ。
怒った相方はカレーライス(750円)で口直しときたもんだ。
何だか不完全燃焼に終わった森下の夜。
たった2軒でお開きといたしました。

「満る善」
 東京都江東区森下1-18-1
 03-3631-1931

「深川煉瓦亭」
 東京都江東区新大橋2-7-4
 03-3631-7900

2013年10月23日水曜日

第692話 茄子と胡瓜があればシアワセ (その2)

ちょい悪オヤジがちょい飲みできる街・上野。
それも茄子と胡瓜の浅漬けで一杯ときたもんだ。
J.C.みたいにハシゴ好きの飲んだくれにはたまりませんな。

まず1軒目、地番は上野5丁目ながら
実際はJR御徒町駅のガード下にある「味の笛 御徒町店」。
ちょうどプラットホームの真下だ。
駅の改札は北でも南でも大差ないが
上野寄りの北口を出たほうがより近い。
1階(16時開店)は立ち飲み、
2階(15時開店)は座り飲みとなっている。

サカナのデパート「吉池」の直営店だから
良質のつまみ類が廉価でズラリと並んでいる。
中でもイチ推しは新潟産の十全茄子(300円)。
別名・梨茄子といわれるくらいでジューシーこのうえない。

いや、このうえあった。
それは泉州・岸和田産の水茄子だ。
スマートな水茄子をハクチョウに例えれば、
十全茄子はさしづめアヒルの子。
でも、けっしてみにくいアヒルの子ではないですゾ。
味も甲乙つけがたく、小粒で可愛い見てくれから
こちらに愛着する向きが少なくないのである。

まずはご覧いただきましょう。
茄子紺に辛子の黄色が美しい
これで工場直送、スーパードライの生をグビッと飲るのだ。
ビールは鮮度がイノチ、新しければ新しいほどよい。
見た目、300ccほどのプラコに入った冷たいのが破格の250円。
夏場のJ.C.なんざ、4~5杯飲んじゃうもんネ。

残念ながらこの十全茄子、9月半ばに姿を消してしまう。
旬は7~8月でもうちょっと早く紹介すればよかった。
その代わりといっては何だけれど、お新香(200円)が悪くない。
きゅうりぬか漬け・赤かぶ・野沢菜・新しょうがであることが多く、
値段が値段だけにすばらしい陣容と言うほかはない。
「味の笛」はJR神田駅のガード下に支店があるが
雰囲気・味ともに御徒町に軍配が挙がる。

2軒目は上野駅に近い、これまたガード下の「大統領」が
数年前に開店した「もつ焼き 大統領 支店」だ。
名代の馬もつ煮込みがこちらにも健在。
入口前のスペースにテーブル席。
店内はうなぎの寝床のような長いカウンター。
常に独りか二人連れのJ.C.は上がったことはないが
グループ客は2階に通されるから
階上にもかなりの席数がありそうだ。

ここでは胡瓜の浅漬け(280円)で
スーパードライの大瓶(580円)を飲む。
薄切り胡瓜がみずみずしい
いつぞやはこの胡瓜をお替わりし、
それだけで大瓶を3本飲んだ。
いえ、自慢じゃないけどネ。

あとはもつ焼き(1種2本が180円)のシロとレバを
タレで注文することが多い。
この店の隣りは「フジクラ」、その向かいは「たきおか」。
どちらも立ち飲みで大瓶が400円を切る安さ。
給料前にはその2店、給料後には「大統領」、
それが上野の酒場の正しい使い方であります。

「味の笛 御徒町店」
 東京都台東区上野5-27-5 1&2F
 03-3837-5828

「もつ焼き 大統領 支店」
 東京都台東区上野6-13-2
 03-3834-2655

2013年10月22日火曜日

第691話 茄子と胡瓜があればシアワセ (その1)

 ♪ 去年のあなたの 想い出が
   テープレコーダーから こぼれています 
   あなたのために お友達も 
   集まってくれました 
   二人でこさえた おそろいの 
   浴衣も今夜は 一人で着ます 
   せんこう花火が見えますか 空の上から  ♪
            (作詞:さだまさし)

さだまさしの「精霊流し」を聴きながらコレを書いている。
今日は季節はずれのお盆のハナシで始めませう。

仏さまをお迎え、お送りする精霊馬をご存知ですか?
胡瓜と茄子に割り箸を刺して馬と牛に見立てたものだ。
迎えるときはなるべく早くお着きになるように足の速い馬。
送るときはなるべくゆっくり帰れるようにのんびり屋の牛。
ただし、牛馬ともに精霊馬というらしい。
何だかガミを食ってるみたいで牛は立場がないなァ。

ともあれ、夏場(過ぎ去ったけど)は茄子と胡瓜がめっぽう旨い。
どちらも典型的な夏野菜だからネ。
何を隠そう、J.C.は浅く漬けたぬか漬けが大好きで
殊に上記2品は目に入れたら痛いが口に入れたら最高なんざんす。
酒にも飯にも、これ以上ないほどの相性を見せつけてくれるし・・・。

しょっちゅうボヤいてるから読者には目タコ・耳タコだろうが
東京にはサクッと飲める場所が少なすぎる。
それを何とか補ってくれてるのが上野と浅草。
特に上野はスゴい。
その気になりゃ朝から晩まで飲み続けられるもの。
いえ、アル中じゃないからそんなに飲まなくてもいいんだが
いつでも飲めるエリアを報っていて損をすることはまずない。

上野から御徒町にかけての、いわゆるアメ横界隈には
使い勝手のよい店が相当数存在している。
ビールでも焼酎でも日本酒でも、軽く1、2杯飲って
すぐ勘定のできる佳店がゴロゴロしている・・・うれしいねェ。
しかも猫がまたぐどころか雀すらつままん、
ゴミお通しを出さないのがエラい。
これこそが大衆酒場本来の真っ当な姿でありまっしょう。
大衆から営利をむさぼらないのが大衆酒場。
大衆から金を巻き上げたらそいつは回収酒場だ。

おっと、
 お盆→精霊馬→胡瓜と茄子→浅漬け→大衆酒場
と来て、書いてる本人が何が何だか判らなくなっちまった。

そうだった、本日の主役は上野にあってサクッと飲め、
なおかつ、胡瓜と茄子の浅漬けが抜群の飲み屋であった。
しかもこれが2軒もあるんです。
明日の当コラムをお楽しみに―。

=つづく=

2013年10月21日月曜日

第690話 合い合い挽きのハンバーグ 男やもめのキッチン Vol.8

ふと思いついてハンバーグが食べたくなった。
子どものときは好きだったのに最近はまず注文しないハンバーグ。
てなわけで今日は
=男やもめのキッチンシリーズ=いきます。

作るのは幼き頃に食したお子ちゃま仕様ではない。
もっと大人っぽい、そして男っぽいヤツである。
赤ワインにバッチリ合うようなネ。
したがって用意する挽き肉からして市販のものとは全然違う。
サブタイトルの”合い合い挽き”というのは
ミスプリでもなんでもなく、あれで正しいのだ。

牛・豚の合い挽き肉に羊を加えるのがミソ。
まずはラム肉を販売する店を探さなければならない。
J.C.の場合は北千住・マルイの地下、
「食遊館」の精肉売場「柿安」に行くことが多い。

ジンギスカン用の仔羊肉120gに牛・豚の合い挽きが240g。
これを合わせて挽いてもらう。
したがって牛・豚のほうは二度挽きと相成る。
当然、目方は減って割高となるが多少の無駄は致し方ない。

用意する食材(2人前)は
 上記の挽き肉・・・・・340g(1割近くのロスが出る)
 生玉子・・・・・1個
 玉ねぎ・・・・・適量
 パン粉・・・・・適量
 ニンニク・・・  適量(嫌いな方は不使用可)
 塩・胡椒・・・・適宜
 ハーブ(パセリ・ミント・タイム・マジョラムなど)
 スパイス(クミン・カルダモン・クローヴなど)
 ブランデー少々

①細かくきざんだ玉ねぎとニンニク、挽き肉、生玉子、
  パン粉、塩・胡椒をよく混ぜる。
  ビニール袋を使うと手が脂臭くならない。
②肉塊を3つに分け、1つはそのままプレーン。
  あとはそれぞれハーブとスパイスを別々に練り込み、カタチを整える。
③フライパンに油を引いて3つ一緒に焼き上げるが
  上げ際にブランデーでフランベする。
④フライパンに残った肉汁にバターを加え、
  溶けたらウスターソースと醤油をホンの少々。
  半分を小皿に取っておく(ソースA)。
  残りには温めながらケチャップを混ぜ込む(ソースB)。

ハーブ・ハンバーグはソースを使わずビールとともに―。
残ったフレッシュ・ハーブを添えてもいい。
スパイスはソースAをかけて赤ワインとともに―。
挽き立ての黒胡椒でワインが引き立つ。
プレーンはソースBをかけてライスとともに―。
懐かしい昭和の洋食屋の匂いがする。

ほかにもいろいろアレンジしてみよう。
ハーブにバジルを使うとトマトソースがピッタリ。
スパイスにはカレー粉を混ぜ込んでもよい。
プレーンに五香粉を振り入れたらアッという間に香港風だ。
2人前につき、2人で半分づつ分け合うのが好ましい。
やもめの場合は半個×3を冷凍保存する。

ガルニテュール(付合わせ)は、手を抜くなら「マック」のポテト。
次いで冷凍のインゲン、これはなかなかのすぐれモノですゾ。
凝りたい向きはキャロット・ヴィシー(にんじんグラッセ)を作りましょうか。

ハンバーグでん、餃子でん、せっかくの手作りなら
味や香りをワンパターンにせず、ヴァリエーションをつけると
食卓がより華やぐこと請け合いですヨ。
それではどちらさんも、ボナ・ペティ!

2013年10月18日金曜日

第689話 越前そばには大根おろし (その2)

三味の爪弾き絶えて久しい神楽坂の昼下がり。
都内にそう多くはない越前そばの「九頭竜蕎麦」に独り。
越後・新潟のへぎそばはちょくちょく見かけても
越前・福井のおろしそばはある意味、とても貴重だ。

”ふくいの味”と銘打たれたリストに
”すこ”なる不審なも物品を見つけ、
接客のオニイさんを手招いたところ。
訊けば、里芋(ハスイモ)の茎を甘酢で漬けたもの。
里芋の茎となりゃ、かの有名なずいきじゃないか。
泣く子も黙る、もとい、世の女性たちが
こぞって泣いて歓ぶというあの肥後ずいき。

何だそれは? ってか?
まっ、世間一般のシロウト衆は
知らないほうが身のためでござんす。
けっして上から目線でもの申すわけじゃござんせんが
この手のものの使用は積極的にオススメできない。
それでも興味のある方はググッてみてくんらまし。

ずいきを食したことがないわけではない。
でも、訊ねた以上は注文しなきゃならない空気が漂った。
すると可愛いカップリングで現われた。
味は別段取り立てて評することもない
ごく脇役の箸安め的存在だ。

昼酌もそこそこに締めのそばをいただこう。
注文したのはもちろん越前おろしそば。
初見參ならこれでいくしかなかろうヨ。

そばはいわゆる挽きぐるみ、田舎そばに近い。
素朴な風情漂えり
木鉢に盛られたそばにはねぎと削り節が、
そばつゆにはあらかじめ大根おろしが投入されている。

食べ方は鴨せいろやつけ麺みたいに
つゆにくぐらせるのではなく、つゆをぶっかけて食べる。
とはいえ、かけずにつけて食べても文句を言われることはない。
その点は客の好きずきだ。
そばは噛みしめ感を楽しむタイプでおろしとの相性もピッタリだった。

3種の味を味わえるおろしそば三昧が人気。
おろしそばより一般的なざるそばを頼んだ場合、本わさびが添えられる。
ざるそばを所望し、わさびとおろし板を確保したうえで
刺身をお願いするのは賢いオーダーの仕方と言えよう。

店舗は2階だが窓が大きく内装もしゃれていて居心地がよい。
日曜ということもあり、カップルや家族連れが入れ替わり訪れ、
地元の常連に支えられているさまがうかがえる。
そば屋には恵まれている土地柄ながら、神楽坂にまた1軒、
そばの佳店を発見した歓びは大きいものがあった。

「九頭竜蕎麦」
 東京都新宿区神楽坂3-3
 03-6228-1886

2013年10月17日木曜日

第688話 越前そばには大根おろし (その1)

今もわずかに花街の匂いを残す神楽坂。
厳密に言うとJR飯田橋駅前の坂下から
大久保通りと交差する坂上までの早稲田通りを神楽坂と称する。
その1本北側を平行して走る短い通りが芸者新路で
神楽坂仲通りと本多横丁を結んでいる。

オツなネーミングの芸者新路をぶらぶら歩いていて
ふと目にとまったのが「九頭竜蕎麦」。
九頭竜と聞くと、九頭竜伝説なんぞも思い浮かぶが
第一感は福井県の九頭竜川に九頭竜ダムだろう。
その名を冠するそば屋だから
これは当地の越前そばを供する店に相違なしと踏んだ。

わさびには人一倍うるさいJ.C.だが
それは鮨や刺身に関わることで
そば屋においてはあまりこだわらない。
もっとも本わさびがあれば越したことはないけれど、
粉やニセの場合は無視するから、そば屋ではどうでもいいのだ。
個人的に日本そばにはわさびよりも大根おろしのほうが合うと思う。

福井県の越前そばに大根おろしは欠かせない。
信州そばもおろしとの関わり浅からぬものあれど、
越前そばほどではなかろう。

その日は日曜日。
「九頭竜蕎麦」に遭遇したのは昼めしどきだった。
ちょうど落ち着き場所を物色中で渡りに舟と入店した次第だ。
休日につき、昼間からビールを1本。
つまみはちょいと気になった越前海老の刺身を所望した。
一般的にはガサ海老と呼ばれる
わりと大型だが見映えはパッとしない。
味のほうも似た食感のボタン海老より落ちるし、
北海縞海老には到底およばない。
それでも寒流に棲む海老特有のトロリとした甘みを備えていた。
混ぜわさびがものスゴく利いて涙がこぼれそう・・・。

これまた福井名物のソースカツを追加すると、
接客のオニイさんが親切なことに半人前でも可だと言う。
この一言がありがたく、即ハーフポーションをお願いする。
豚肩ロース使用のカツは薄め
あっさりとしたソースだれにくぐらせてあり、これはなかなかだ。
思わずビールのお替わりである。

厚みのある品書きをめくっていたら
”ふくいの味”と称して、らっきょとすこというのがあった。
らっきょは誰でもすぐ判る、らっきょうであろう。
だが、すこというのはいったい何だろうか?
先刻の親切なオニイさんを手招きで呼び戻した。

=つづく=

2013年10月16日水曜日

第687話 東京の下町ってどこなのサ?

友人・知人からよく訊かれることに
「東京の下町ってどこからどこまでなの?」というのがある。
この応答がなかなか厄介だ。
下町をキッチリ区分するのはきわめて難しい。
江戸っ子、あるいは東京人の間でもイメージは人それぞれで
とてもとても一括りにできはしない。

J.C.にも自分なりの下町イメージがあり、
それをつまびらかにするため、
9年前に上梓した「J.C.オカザワの下町を食べる」、
そのまえがきをご披露したい。

「食べる」シリーズ第4弾は下町。
漠然と下町といってもどの地域を下町と限定するのか、
行政区分もなければ、ましてや法的根拠などあるハズもない。
こればかりは著者の独断的なフィーリングで
区切りをつけたエリアというほかはなく、
読者の中には異論を唱える方、違和感を抱かれる方もおられよう。
そのあたりは著者の不明をお笑いいただいた上で、
寛大なご理解を賜りたい。

対象は主として隅田川の両サイド、
川からそれほどの離れない地域とした。
都内23区のうち、隅田川右岸の中央区と台東区、
左岸の江東区と墨田区の計4区にまたがり、
中央区では、銀座・豊海町・晴海を除く全エリア、
台東区は、上野・下谷・台東・秋葉原を除くエリア、
江東区全体のおよそ4分の1、
墨田区全体の3分の1を占めるにいたっている。
主な地番を記しておくので参照していただきたい。

   □隅田川右岸            □隅田川左岸
    築地・新富・入船・湊        勝どき・月島・佃
    京橋・八丁堀・新川         門前仲町・深川・清澄
    八重洲・柳橋・浅草橋        白河・森下・菊川
    蔵前・駒形・寿・雷門        両国・本所・吾妻橋
    松が谷・千束・入谷         業平・押上・向島
    竜泉・三ノ輪・日本堤        東向島

右岸では日本橋人形町・日本橋箱崎町・東日本橋など
地番名に日本橋を含む全地域と、
元浅草・西浅草・東浅草など浅草を含む全地域をカバーしている。

東京の中心が東から西へシフトを始めて久しい。
時代の流れに取り残された感の否めない下町でもある。
確かにフレンチやイタリアン、あるいはエスニック料理に関しては
六本木・青山・代官山あたりに太刀打ちできやしない。
しかし、すし・天ぷら・うなぎ・そばなら、西に負けるものではないゾ。
どぜう・馬肉にいたっては東の独壇場だ。
まだまだ下町には大正・明治はもとより、
江戸の名残りをとどめる料理店が少なくない。
江戸庶民の味をぜひ味わっていただきたい。

わが心の下町を食べ歩いたこの半年は心底シアワセだった。
思いのいかばかりでも、
本書を通して読者に伝えられたなら、それにまさる歓びはない。
今はホッとひと息、おのれの舌と胃袋に
ねぎらいの言葉をかけてやったところです。

2004年4月 J.C.オカザワ

ということでございます。

2013年10月15日火曜日

第686話 翼よ!あれがペリカンだ 動物園こそわが楽園 Vol.9

3連休の中日、上野のZooは大変な人出であった。
落ち着き先のカフェテリアは野外も屋内も長蛇の列。
よしんば疲れ果てた家族連れのパパが一汗かいて並び、
やっとこさ飲食物のトレイを手にしても座るテーブルがない。
野外のベンチでさえ、なかなか空席がみつからない。
行楽シーズンの休日、あゝ無情!

かく言うJ.C.、昼過ぎの2時間をここで過ごさなければならない。
この日は自宅に掃除のオバさんが来ているからだ。
Zoo近くのコンビニで購入した、
缶ビール・おにぎり・マカロニサラダをぶら下げてはいても
とてもじゃないが食卓にはありつけないネ。

そこで園内の過疎地に向かう。
出口専用の弁天門に続く道筋は比較的入園者の影が薄い。
カワウやシジュウガラガン、
それに飛べなくなったオオワシのつがいが居たりもする一角だ。
タンチョウやコウノトリのケージもある。

コウノトリの真ん前で何とかベンチを確保、といっても相席。
やれやれと、缶ビールをプッシュー!
缶から直に飲むのは大嫌い、よって家からちゃんとプラコを持参した。
プラコって何だ? ってか? ハハ、プラスチックのコップでんがな。

つまみ用のマカロニサラダが不味い。
憎たらしいことにパックの上には
”店長おすすめ”なんてシールが貼られていやがる。
店長の顔が見たいものよのぉ。

昼めし用に買ったおにぎりは1個だけ。
中身は焼きたら子だ。
パクリとやって驚いた。
何となれば中から顔を見せたのはたら子にあらず昆布だヨ。
あらためて袋を確認したら
”焼きたらこと日高昆布”なんて書いてあるじゃないの。
ケッ! 今日はとことんツイてないぜ。

休憩もそこそこに辺りをブラブラ。
池のほとりにカワウが数羽たたずんでいる。
それもそうだヨ、3つある不忍池のうち、ここは鵜の池だからネ。

翼を休めているカワウの向こうにはペリカンの姿も見える。
翼よ!あれが巴里の灯だ
もとい、もとい、カワウよ!あれがペリカンだ。
ん? 人間に言われるまでもなく、知ってるってか?
すりゃ、すうだ!

カワウにせよ、ウミウにせよ、ウは好きな鳥。
ほとんど群れないところがいいし、
たたずまいに風情があるものなァ。
孤高の品格とでもいいましょうかねェ。
人も鳥も群れ過ぎちゃイケないってこった。

おや、カワウの食生活を明記したボードがあるヨ。
主食はサッパことママカリ

ちょいとしたグルメ鳥はザリガニや鯉まで食ってるじゃないか。

 あののどで 真鯉のむかや やせ川鵜

お粗末!

2013年10月14日月曜日

第685話 暗黒街のカクテル

今日は珍しく酒の、それもカクテルの話。
仙台のピッツェリア「パドリーノ・デル・ショーザン」で
イワシの生臭みをゴッドファーザーで消したことは前回書いた。
店名のパドリーノはゴッドファーザーのことだから
これ以上の選択はなかったろう。
実はその店で2杯目の食後酒にゴッドマザーを所望したのだった。

接客してくれたカメリエーレ(ウエイター)くん、
当惑した面持ちで問うて曰く、
「それはどのようなカクテルでしょうか?」ー初めて耳にした様子だ。
ファーザーとマザーは暗黒街の匂いのする二大カクテル。
片方だけでは文字通り片手落ちとなろう。

J.C.応えて
「ファーザーのウイスキーをブランデーに代えればいいんだヨ」
「アッ、そうですか、ハイ、聞いてきますっ!」
すぐに戻った彼が言うにはブランデーがなくて作れないんだとー。
イタリアンにブランデーがなくても文句は言えない。
仕方ないからグラッパを1杯飲って仕上げとした。

ところがこの悶着には後日談がある。
恥ずかしながらマザーのレシピは
J.C.の完全な思い違いだったのだ。
アマレットにブランデーはフレンチ・コネクションで
ゴッドマザーのベースとなるスピリッツはウォッカが正しい。
フレンチ・コネクションはカクテルよりも映画のほうが有名だ。

いや、まいったなァ、カメくんに嘘を教えちゃったヨ。
蒸留酒の王様がウイスキーなら女王様はブランデーだろうと
勝手に抱いた先入観が災いしちまった。
しっかしウォッカには意表を衝かれた。
ウォッカ・ベースならロシアン・マフィアとでも
名付けてくれればよいものを―。

ゴッドファーザーと似た味わいのカクテルにラスティ・ネイルがある。
錆びたナイフならぬ、錆びた釘を意味する酒は
スコッチ・ウイスキーと
スコッチを原料とする甘いリキュール、ドランブイで作られる。
使用されるウイスキーは絶対にスコッチでなければならない。

ちなみにゴッドファーザーのレシピにウイスキーの特定はない。
スコッチでもアイリッシュでもカナディアンでも構わないわけだが
ここはやはりニューヨークっぽくバーボンに定めてほしい。
そのほうがハードボイルド感が増す。

ついでにふれておくと、生アーモンドような香りのおかげで
アマレットの原料はアーモンドと思われがちだが
実際はアンズの種の核から作られる。

生まれた場所ははロンバルディア州のサロンノ。
したがってこの酒の正式名称はアマレット・ディ・サロンノだ。
ときに1525年のことで、実に500年近い歴史に彩られている。
16世紀前半に北イタリアで活躍したフレスコ画家、
ベルナルディーノ・ルイーニと
彼の絵のモデルとなった女性とのラブ・ロマンスが生んだ銘酒である。

2013年10月11日金曜日

第684話 北国の旅の空 (その3)

みちのく仙台、旅空の下にいる。
「ふじ松食堂」の品書きにボロニア・ソーセージを見つけた。
このソーセージがなぜニューヨークを連想させるのかというと、
ウォール街で仕事をしていた1987~97年、
朝食時にずいぶんお世話になったからである。

往時のJ.C.の朝食はオフィスに到着してから
「Stage Door」なるデリに出前を頼むのが常。
メニューはかくの如しである。

 軽くバターをぬったビアリーのトースト
 3分ゆでのソフト・ボイルドエッグ
 軽くバターで炒めたボローニー
 よく冷えたパイナップルジュース

ビアリーというのはレバノンのベーグル。
通常のベーグルより質感が軽く、ノドを通りやすいのだ。
しっかし、ニューヨークでポピュラーなビアリーを
日本でまったく見掛けないのがまったく不思議。
見つけたら即刻買い求めるのになァ。
たまさかビアリーがイングリッシュ・マフィンに替わることもあった。
ボローニーはもうお判りですネ?
トーステッド・ビアリーにはさんで食べるのが好きだった。

てなこって、ボロニアを看過すること能わず。
所望してみると、想像とは違う姿で登場した。
ブツ切りでダイナミック

スライスじゃないから食べ応えがあり、色もずいぶんと濃い。
ウォール街のそれには及ばぬともビールにはよく合った。

昼食時によく出るというメンチカツを追加する。
つなぎ多めのメンチカツもよし

菊正の燗を同時に頼んだがメンチと日本酒ってのもねェ。
まっ、いいか、と流したものの、相性はけして悪くない。

さて、3軒目。
酒友に連行されたのはイタリアンである。
「ピッツェリア・パドリーノ・デル・ショーザン」、
たいそうなお名前だ。
何でも東北一のリストランテのピッツァ部門とのこと。

めったに食せぬピッツァながら、嫌いではない。
殊にもっともシンプルにして王道をゆくマルゲリータはネ。
当夜は相方のススメにより、ピッツァ・ラルテを注文。
名前の意味は知らないが、察するに”下町風”かもしれない。
具材は豚バラのコンフィとモッツァレッラとバジル。
キリンの銘柄の中で一番好きなハートランドとともに楽しむ。

順序が逆になったものの、魚介のマリネをお願いすると
サーモン、帆立は許せたけれど、イワシのヤツが生臭い。
これだから青背のサカナはヤバいんだ。
まったくもって余計なモンを頼んじまった。

カクテル・リストにあったゴッドファーザーを口直しに。
ウイスキーとアマレットを合わせたカクテルは
ディジェスティフ(食後酒)に最適、
即座にイワシの臭みが消し飛んだ。
かくして仙台の夜は大団円を迎えたのでした。

=おしまい=

「ふじ松食堂」
 宮城県仙台市青葉区上杉2-4-29
 電話不明

「ピッツェリア・パドリーノ・デル・ショーザン」
 宮城県仙台市青葉区上杉2-1-50 勝山館1F
 022-222-7834

2013年10月10日木曜日

第683話 北国の旅の空 (その2)

杜の都・仙台随一の盛り場、国分町の「地雷也」にいる。
小じゃれた突き出しでビールを飲んでいるが
店の予約が詰まっており、長居のできない不自由な身体だ。

ひと品だけと決めた肴を吟味していて
強く惹かれたのがハダカレイの昆布〆。
ハダカレイって何だ?
昆布〆とあるから、ハダカのレイちゃんじゃないことは判る。
耳慣れぬ、というより初耳のカレイにつき、
お運びのオネエちゃんに訊ねた。
訊ねはしたが、まったく要領を得ない。

結局は薬局、板長が応えて曰く、俗に言うホシガレイなんだとサ。
じぇ、じぇ、これには正直驚いた。
ホシガレイは金輪際、干し鰈に非ず、平目よりも高級な星鰈だ。
漁獲量が少ないうえに食味がよいため、
銀座の鮨屋でつまもうものなら、
目ン玉はぶっ飛び、財布の中身もぶっ飛ぶ。

いくらだったか忘れちゃったが、そんなに高くなかったと思う。
千円前後じゃなかったかな?
迷わずに所望したら、出汁醤油とポン酢の両方が運ばれた。
わさびはニセにつき、ポン酢のほうがいいが
昆布〆にポン酢は合わず、痛し痒しのジレンマに陥る
はたしてハダカレイは・・・
すばらしくはなかったけれど、悪くもなかった。

2軒目は街の中心部を離れ、北仙台方面へ10分ほど歩く。
到着したのは「ふじ松」なる居酒屋風食堂だ。
看板に”食事処”とあったから食事がメインなのだろうが
店内はオジさんリーマンたちの宴会が真っ盛り。
この情景を高見の見物とシャレ込むと
断髪式を終えたばかりの高見盛だ。
エッ、判んな~い!ってか? 判らへんのかい(清原風に)!

盛上がりを尻目にわれわれは静かにカウンターへ落ち着く。
そうして見上げた壁の品書きがコレだ。
単品メニューの数々

国分町の「地雷也」ではハダカレイに目を奪われたが
「ふじ松」でわが目を釘付けにしたのは何あろう、
ボロニアソーセージ炒めであった。

ここでJ.C.の心ははるかニューヨークのウォール街へ翔ぶ。
ボロニアとはなんぞや? ボロニアとはボローニャのこと。
イタリア中北部はエミリア=ロマーニャ州の州都だ。
スパゲッティ・ミートソースがスパゲッティ・ボロネーゼだということを
ほとんどの読者の方々はご存知でありましょう。
ボロネーゼはボローニャ風という意味なんです。

それは判ったがニューヨークとボローニャがどうつながるんだ!ってか?
ハイ、ごもっとも、それはまた明日。

「地雷也」
 宮城県仙台市青葉区国分町2-1-15 猪股ビルB1F
 022-261-2164

2013年10月9日水曜日

第682話 北国の旅の空 (その1)

所用で仙台へ。
早々に仕事を片付け、夕間暮れの街にうって出る。
見上げた北国の空は、あいにくと灰色によどんでいた。

 ♪ 風にまかれた 私の髪に
   野バラの甘い かおりがせつない
   北国の 空と湖
   二人の愛は ここにねむる
   あなたのために 私は祈る
   二度と帰らない 夏の日の恋よ 恋よ
   白い小舟に 野バラをかざる
   北国の青い空は ないてる   ♪
        (作詞:橋本淳)

奥村チヨが歌った「北国の青い空」はベンチャーズの作曲。
メロディーと歌詞がふいに脳裏をよぎり、旅愁を誘う。
この曲のリリースは1967年8月。
そのときJ.C.は高校サッカー部の合宿で
やはりみちのくの福島市にいた。
苦しかったあの日々は身体にしみ込んで生涯忘れることはない。

翌月にはジャッキー吉川とブルーコメッツの「北国の二人」が
追いかけるように発売された。
思えば1967年はグループサウンズの全盛期。
レコ大は「ブルー・シャトー」が受賞した。

「バラ色の雲」、「君に会いたい」、「僕のマリー」、
「風が泣いている」、「遠い渚」「哀愁の湖」
「愛のリメンバー」、みなそれぞれになつかしい。
ちなみに赤字の曲をご存知の方はその道の達人です。

洋楽ではA・ウイリアムスの「恋はリズムにのせて」と
ヴィッキーの「恋はみずいろ」がヤケに耳朶に残っている。
まだビートルズがバカスカ楽曲を発表していた時代。

いけネ、また脇道にそれた。
こういうハナシになるとキリがないや。

とにかくやって来ました、杜の都・仙台である。
その日は宮城県在住の酒友がもてなしてくれた。
落ち合ったら仙台随一の繁華街、国分町に直行だ。
週末のことで道行くサラリーマンの数が普段より多いとのこと。

1軒目は行き当たりばったりの居酒屋「地雷也」。
名古屋名物の天むす屋にも同名の店がある。
魚介の炭火焼きがウリだが予約が立て混んでいるらしい。
長居はしないからと、何とかカウンターに席を確保した。
それでも着席後、こっちにズレろ、今度はあっちだと
二度も小移動を余儀なくされて、やれやれの、やれ。

泡少なめでお願いした生ビールの突き出しは秋刀魚のぬた。
わかめとつるむらさきのひたしが小さな鉢に同居している。
秋刀魚の鮮度が高く、なかなかのお味、期待がふくらんだ。
予約が異様に詰まっていて
滞在を3~40分と約したため、肴は1品にとどめるつもり。
品書きに目をやると、ややっ! もとい、じぇじぇ!
耳なれぬ名前のカレイに目を奪われた。

=つづく=

2013年10月8日火曜日

第681話 大好きな町 西荻へ

旧きわが友、アナリストのフタちゃんに誘われて
やって来ました西荻窪は通称ニシオギ、
中央線沿線でもっとも好きな町だ。
今宵は彼の主催する食事会に飛び入り参加である。
集結したのは手下(てか)のみなさんで
舞台は女性スタッフだけが運営する和食店「しおとと」だ。

夕刻、時間に余裕ができ、これ幸いと隣りの荻窪で
依頼されたミッションを手際よく片付ける。
そしてそこからテクテク歩いて来た。

「しおとと」に到着すると開店間もないせいか、
先客はカウンターに常連らしきオジさんが独りのみ。
用意された予約席ではなく、こちらもカウンターに陣取って
サッポロの生ビールを飲みながら
先ほど調査したばかりのデータを自宅のPCに送信する。
ほどなく到着した面々とテーブルに移動して
小宴会の始まり、はじまり。

最初に運ばれたのは胡麻油和えの長ねぎを乗せた冷奴。
無難なスタートといえる。
続いて鳥ささみと長芋の梅肉和え。
2品を味わった限り、本格的な和食ではなく、
いかにも女性の手になる家庭料理といった感じだ。
帰宅しても暗い部屋だけが待っている独身者に
こういう品々は恰好の口なぐさみとなろう。

サーモンマリネ入りサラダのあとにお造り。
真鯛・中とろ・帆立の陣容で質はまずまず。
ここで能登の白菊なる冷酒に切り替えた。
加賀にせよ、能登にせよ、
石川県の清酒からはエレガントな香りが立ち上る。
さすがに多くの美女を輩出するプリフェクチャーだ。

言い出しっぺが誰か存ぜぬが
日本海に面する県は不思議なことに
秋田・新潟・石川・京都と飛び石で美人の産地。
飛ばされた青森・山形・富山も負けず劣らずと思うけれど、
あえて世の通説に逆らうのは遠慮しておく。

牛もも肉のタタキ、おでんの盛合わせときて
締めは生玉子ごはん。
これでおまかせ料理は4千円だったかな?
お食べ得といってよい。

後着の女性たちが加わり、
飲むほどに酔うほどに座は盛上がる。
部外者として参加したJ.C.を温かく迎えてくれたメンバー、
肥を掛けて・・・もとい、声を掛けてくれた旧友に
深く感謝の西荻の夜でした。
みなさん、どうもありがとう。

「しおとと」
 東京都杉並区松庵3-38-20 KURA尾崎B1
 03-6796-9

2013年10月7日月曜日

第680話 一年ぶりに大宮へ (その6)

埼玉・大宮の夜も深まり、佳境に入った。
とっくに子どもは家へ、カラスはねぐらに帰って
いよいよ大人の時間である。
ここでJ.C.、なけなしの知恵を絞る。
どこへ行こうか?
よお~し、最後はバシッと決めたろうじゃないか!

二、三の候補が浮かんだものの、
締めはガラリ趣きを変え、アメリカン・キュイジーヌにしてみた。
店の名は、らしからぬ「HAMACHO」。
なんでこんな名前にしたのか訊きそびれたが
米国料理店で「ハマチョウ」とはこれいかに?

まっ、難しいことは考えずに入店。
2階の奥の居心地のよいテーブルに案内される。
飲みものはワインでいこうと、意見の一致をみた。
互いに酩酊しているため、
ここはふところにやさしい廉価なワインでじゅうぶんだ。
そこで選んだスペインの赤はフルボトルで2500円也。

CPの高さが自慢のスペインワインは
テンプラニーリョが主力セパージュ。
おそらくそれに間違いなかろうと
安易に考えたのがしくじりのもとで
登場したのは苦手なカベルネ・ソーヴィニョンだ。

案の定、舌になじまない。
タンニンが口中で暴れてしまう。
カベソー好きの相方はシレッとグラスを重ねている。
やれやれ、こういうこともたまにはあるぜヨ。

さて、フードである。
惹かれたのはNYチャンクでハーフ・ポーションが400円。
コンビーフとじゃが芋を炒め合わせた料理は
アメリカ的といやあアメリカ的だ。
チリビーンズのハーフポーションも400円。
これは確か、刑事コロンボの大好物じゃなかったかな?
まずはこの2品をワインの友とした。
めったにお目に掛からぬ料理はどちらもそこそこ美味しい。

2皿の小品ではワインを飲みきれない。
赤によく合う骨付き仔羊のソテー(1500円)を追加する。
記憶はおぼろげながら、フレンチやイタリアンのように
あまり香草を使ってなかったように思う。
羊肉の脂をカベソーの渋味がサラリと洗い流すのを実感できた。

羊を食べてるうちに酔いが回ってくる。
羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹・・・頭の中に羊雲が湧き出てきた。

 ♪ あゝ日本のどこかに
   私を待ってる人がいる
   いい日旅立ち 羊雲をさがしに
   父が教えてくれた 歌を道連れに ♪
          (作詞:谷村新司)

どこからか百恵チャンの歌声まで聴こえてくるのでした。

=おしまい=

「HAMACHO」
 埼玉県さいたま市大宮区大門町1-10-2
 048-641-0002

2013年10月4日金曜日

第679話 一年ぶりに大宮へ (その5)

大宮屈指の立ち飲み処「角打ち 酒屋の隣」では
いぶりがっこが盛られたポテサラをだいぶ残してきてしまった。
反省。

次いで向かったのは「たちのみ いしまる」だ。
「酒屋の隣」は酒屋「石丸商店」の直営店だが
「いしまる」のほうはその酒屋で働いていた人が
独立して開いた店と聞いた。

これがまた目立たないところにあるんですわ。
狭い階段の入口に小さな立て看板があったっけかな?
記憶はおぼろげではっきり覚えちゃいない。
かなり酔いも回ってきていたしネ。
相方と二人して周りをグルグル回ってしまった。

とにかくたどり着いて2階に上がると常連客で賑わっている。
3軒目では日本酒と芋焼酎に徹したのと
少々歩いたのとでノドが渇いた。
まずはキリン一番搾りの中瓶(450円)をお願いして
本日4回目の乾杯である。

料理ボードに北海縞海老を発見し、即オーダー。
これはハーフサイズで350円也。
車海老より上とは言わぬが生で食するなら
甘海老はもとより、ぼたん海老や越前海老(ガサ海老)より美味しい。
大好きである。

信州は塩尻宿の地酒、笑亀本醸造の冷たいのに切り替える。
これはショット350円で、「酒屋の隣」とほぼ同じ価格設定のようだ。
長野生まれのJ.C.としては信州の酒の悪口を言うわけにはいかない。
もっともそんな気を使うこともなく、ハナからこれは旨かった。
パートナーのN堂女史は
富久長の温州みかん酒(400円)をロックで飲っている。
まあ、女性らしい選択といえよう。
と言うか、少しくアルコールの摂取を制御して中休み状態なのだろう。

彼女が在庫の残り少ない生がきに興味を示した。
この時期なのに岩がき(夏がき)ではなく、早くも真がきだ。
当然、産地は北の方ということになる。
店主に訊ねたら山形と 仙鳳趾(せんぽうし)との応え。

ふむ、山形といってもいささか広うござんす。
「山形のどこなの?」
「それがちょっと判らないんです」
まっ、仕方ないか、とにかく日本海であることに間違いはない。
一方の仙鳳趾は北海道・釧路の東、厚岸湾の端っこにある。
あれはかれこれ5年前。
NHKの海外向け番組のロケで釧路を訪れた際、
このかきに出会って舌鼓を打ちまくったけ・・・。

でもって1個づついただいてみると、
どちらも500円なのに山形産がずいぶん小さい。
こりゃ、せいぜい200円が適正価格だろうヨ。
味のほうは仙鳳趾の圧勝だった。
あまり山形のかきなんて聞かないもんなァ。

さて、さて、大宮のはしごはまだ続く。
夜の街に出て、再び東口方面に進路をとった。

=つづく=

「たちのみ いしまる」
 埼玉県さいたま市大宮区桜木町2-305 日の出ビル2F
 048-871-7244

2013年10月3日木曜日

第678話 一年ぶりに大宮へ (その4)

埼玉県・大宮に来ている。
3軒目の「角打ち 酒屋の隣」に入店したところだ。
店内はそこそこの賑わいを見せていた。
何とかカウンターに止まることができたのは幸い。
あとのスペースは壁際しかないが
壁に向かって飲むのはなるべく避けたい。

最初ににいただいたのはよく冷たえたまんさくの花。
出自はもちろん1981年4月にスタートした、
NHK連続TV小説「まんさくの花」である。
ドラマの舞台は秋田だった。
この2年後、山形が舞台の「おしん」が放映されて
とんでもない視聴率を勝ち取るわけだが
「まんさくの花」もけっこうな人気だったと記憶している。

相方のセレクトはこれも秋田の角右衛門。
まったりとしたまんさくの花は好みではなく、
キリッとした角右衛門のほうが好きだ。
値段はどちらも1ショット350円也。

つまみは刺身三種盛り(600円)。
内容はすずき・かつお・〆さば
角打ちで刺身とは豪気なものだが
下手な居酒屋のレベルを超えている。
少々もの足りないので、〆さば(400円)を単品で追加した。

1切れ100円の計算になる

2杯目は愛知のこなき純米(400円)。
ゲゲゲの鬼太郎に登場するこなきじじいがラベルに描かれていた。
これもまんさくの花同様に好みではなかった。
普段は菊正宗や櫻正宗を飲んでるから
銘酒が口に合わなくなってしまったのかもしれない。
昔ながらのオーソドックスな銘柄は飽きがこなくていいのだ。

そこで芋焼酎の甕伊佐錦(300円)にチェンジ。
焼酎発祥の地といわれる鹿児島県・伊佐地方の産で
3年甕貯蔵の末、瓶詰めされた逸品である。
ロックで飲ってこれは素直によかった。

二人で刺身10切れではさすがにさみしい。
自家製ポテトサラダ(400円)をお願いする。
何かがパラパラと乗っている

薄暗い店内で最初は何だか判らなかったが、つまんでみてすぐに判明。
これは大根、しかもたくあん、そして燻香が立ち上る。
たくあんの燻製となれば秋田名物のいぶりがっこしかない。

でもネ、言っちゃなんですけど、
ポテサラにいぶりがっこは合わないんだなァ。
むしろジャマになるくらい。
こういうものは別々にいただくほうがずっとよい。
いじり壊したというか、余計な手を加えちまったというか、
策士、策に溺れた感、否めずなんです。

=つづく=

「酒屋の隣」
 埼玉県さいたま市大宮区桜木町2-403
 048-664-0622

2013年10月2日水曜日

第677話 一年ぶりに大宮へ (その3)

大宮駅東口のランドマーク「いづみや本店」にやって来た。
前回訪れたのは去年の9月上旬だから丸一年ぶりだ。
周りを見渡すと、みな旨そうにビールを飲んでいる。
暑い日のことで、殊に埼玉県はスゴかったから
ビールが旨いのなんのっ!
おまけに当店のサッポロ生中(600円)は他店の大ジョッキ並み。
グビグビやってもすぐになくならないのがうれしい。

近所の「多万里」では瓶だった。
今さら生ビールに戻すのもなんだし、そのまま瓶でゆく。
サッポロはサッポロでも赤星ラガーの大瓶(510円)が来た。
レトロ感につい惹かれ、あれば頼む赤星ながら
両方並べて飲み比べれば、黒ラベルのほうが断然好き。
製造しているサッポロさんだって
”赤”が”黒”より上だと思ったら、
”赤”を主力として売り込むだろうしネ。

さっそく相方が所望したのは、いづみや名代もつ煮込み。
これがたったの170円

前回は一日に二度も来たのに煮込みは試していなかった。
そのとき食べたのは冷奴(180円)とイカフライ(360円)だけ。
どちらも値段のわりに悪くなかったのを覚えている。

互いにもつを一箸つまんで顔を見合わせた。
あとはなかなか箸がすすまない。
まあ、何と申しましょうか・・・う~ん、値段が値段だからねェ・・・
ハッキリ言っちゃえば、ちっとも旨くないんですわ。
独特の臭みがあって、これには二人ともまいりました。

夜は長いがあっちゃこっちゃとめぐりまくるから
一箇所に長居はしない。
何か軽いものをもう一品と、追加したのがめざし(300円)。
小さめのが4尾、小皿に乗って到着した。
再び互いに1本づつつまんで頭からかじった。
ゲッ! またもや顔を見合わせたぜ。
いや、まいったな、こりゃ煮込みどころのハナシじゃないや。
生臭いうえに脂焼けしちゃって、もうどうにもならない。
生まれてこのかた初めて不味いめざしを食べやした。

おかげでJ.C.の面目は丸つぶれ。
いい雰囲気の大衆酒場だが
今度来たときゃ、生中・冷奴・イカフライの三点セットに限り、
ほかには手を出さないことを心に誓う。

逃げるようにして退店し、線路の反対側、西口に回った。
目指すはあらかじめ調べておいた立ち飲み屋だ。
「石丸商店」直営のその名も「角打ち 酒屋の隣」。

ほう、なかなか立派な店構えじゃないの。
店内もそれなりの雰囲気がある。
でもネ、酒屋の隣りなんだから角打ちじゃないんじゃないの?
東京の下町や芝界隈にある庶民的な空気は流れていないし、
名物オヤジもオカミもいない。
何となく近頃流行りのカフェバーってな感じだ。
まっ、嫌いじゃないけどサ。

=つづく=

「いづみや本店」
 埼玉県さいたま市大宮区大門町1-29
 048-641-0211

2013年10月1日火曜日

第676話 一年ぶりに大宮へ (その2)

埼玉は大宮駅にほど近い中華食堂「多万里」にいる。
心和む空間に身を置き、冷たいビールを楽しんでいる。
ただ、この店には難点が一つあった。
実はつまみ類がいっさいないのだ。
いわゆる一品料理もなく、麺・飯類がすべてなのである。

すでに相方とはとことん飲む約定を交わしている。
落陽前の明るい時間に
いきなりチャーシューメンや中華丼を食うわけにはいかない。
かといって食堂に来てビールだけというのも非常識だ。

そこで思いをめぐらせた。
まずお願いしたのが野菜炒め定食のライス&スープ抜き。
これは問題なかった。
豚小間ときくらげ入り

とかくはしご酒は野菜不足に陥りやすい。
早めにビタミンと植物繊維を補給しておくのも一案だ。

二人で来店して料理一品では体裁が悪い。
何か策はあるまいか・・・思いついたのが中華丼のライス抜き。
言い忘れたがこの店は食券制。
食券販売機ではなく、入口そばの窓口で
接客を兼ねるオバちゃんから買うのである。

「中華丼のライス抜きを作ってくれますか?」
「ハァ~? 何でしょうか?」
「中華丼のアタマだけでごはんのないヤツ」
「上のほうだけ? ちょっと訊いてきますネ」
「アッ、値段は一緒でいいですヨ」
「エッ? はい、はい!」

ちなみに中華丼は800円、野菜炒めは650円である。
オバちゃんすぐに厨房から戻って来て曰く、
「それだと600円ですって・・・」
おやまあ、良心的なお店ですこと。
それにしてもこんな注文をしたのは当店始まって以来の様子だ。

そうして登場したのがコレ。
具の種類が少ないが八宝菜風
野菜炒めはもやしが主体。
いっぽうこちらはキャベツがメインだ。
どちらも味はそれなりながら
しっかりと野菜を摂取することはできた。
中瓶2本を含め、支払いは総額1800円也。

2軒目は東口駅前の大衆酒場「いづみや」。
本店と支店が他店数軒をはさんで並んでいる。
向かって右側の本店に入る。
去年、一日で二度おジャマしたのもこの本店だった。

=つづく=

「多万里」
 埼玉県さいたま市大宮区大門町1-62
 048-641-3551