2014年9月30日火曜日

第936話 西日暮里の止まり木で (その3)

荒川区・西日暮里の「菊一」で
キリン満点生の中ジョッキを立て続けに2杯飲んだところ。
何だかあまり飲んだ気がしない。
メニューをチェックするとジョッキは440円、
サッポロ黒ラベルの中瓶は580円とあった。
ついでに酎ハイは380円である。

ちなみに葛飾区・金町の「ブウちゃん」では
ズドンと存在感のある中ジョッキが550円。
キリンorアサヒの大瓶は500円、酎ハイは300円だ。
西日暮里と金町、2軒の店は値付けにかなりの差があり、
「菊一」は庶民的な店とはいいがたい。
そんな店の中ジョッキが
440円の低価格ということは容量も推して知るべしなり。

さあ、何を飲もうか?
越後の銘酒、八海山と〆張鶴はともに950円。
察するに正一合ではあるまい。
そこで酎ハイにした。
下町ではこの焼酎ハイボールを
単にボールと呼ぶケースが多い。

つまみの欄に目を移すと、
キムチ、豆もやしなど、コリアン色が強い。
これもリトルコリア・三河島が至近のせいだろうか・・・。
コリアンフードを好まぬJ.C.ゆえ、
このまま飲むだけでもいいや、てな感じではあった。

そこへ突然、登場したのは恰幅のよい常連客だ。
女将が社長サンと呼んでたから、近隣の社長サンなのだろう。
いや、この御仁が迫力あったネ、
とにかく食欲がものスゴい。
恐るべき健啖家であった。

「焼いてくれ!」―こう一言。
すると見繕いの焼きとんがおそらく塩だろう、5本きた。
またたく間に平らげて
「タレをくれ!」―また一言。
今度はタレで5本きた。

計10本の焼きとんに加えて枝豆・冷奴・豆モヤシのトリオだ。
社長サン、奴に醤油を注しながらまたホザいた。
「醤油注しにはもっと醤油を入れとけヨ」―
カチンときたのか女将が言い返した。
「近頃の若い人は醤油よりポン酢なんですヨ」―
言い訳にはなってない言い訳だな、こりゃ。

説得されたのか、あきらめたのか、
もう何も言わぬ太っちょ社長は
携帯電話であちこち連絡をとり、
15分後には友人やら部下やらが数人集まった。
そしてまたいろいろと、料理の追加注文である。

店内にわかに活気づくとともに騒々しくなったので
止まり木の単身客は退散するとしよう。
まだ宵の口だし、向かうのは金町だな、こりゃ。

=おしまい=

「菊一」
 東京都荒川区西日暮里5-6-10
 03-3803-4405

2014年9月29日月曜日

第935話 西日暮里の止まり木で (その2)

日暮里・舎人ライナー、西日暮里駅のそば
「菊一」のカウンターに独り。
開店まもない様子でほかに客はいない。
巣鴨から歩いてきたから、ノドはカラカラのカラ。
ここは一番、生のジョッキでしょう。

銘柄は”キリン満点生”ときた。
いつの頃からか、この”満点生”を見かけるようになった。
生中としては小さめのジョッキに塩豆が添えられる。
心ある正統派バーではちょくちょく供されるチャームが塩豆だ。
ジョッキの容量は350mlに満たないのではなかろうか。
ほとんど一気に飲み干してお替わりクン。

そうしておいて焼きとん(店ではもつ焼きと呼ぶ)の注文だ。
ここの串はほぼ一律120円、軟骨入りつくねのみ140円。
つくねは店の看板商品であるらしい。
何となればこれだけは
塩・タレ・辛味噌・レモンと四択の食べ方があるからネ。

普段からあまりつくねは食べない。
というよりも焼き鳥屋でポピュラーなつくねながら
焼きとん屋ではまず見掛けない。
焼きとんは”ミニマム週イチ”のペースで食するものの、
焼き鳥は”マックス月イチ”がせいぜいとあっては
そこに絶対的な差が生じてしまう。

初っ端はカシラとハツを塩でー。
この店ではカシラをペテンと称する。
言わずと知れた頭肉だがペテン師扱いもないものだ。
おそらくテッペンを引っ繰り返したネーミングだろう。

歯を押し返すハツの弾力を楽しみながら感じた。
備長炭使用店、「菊一」の”焼き”は深い。
気に入りの金町「ブウちゃん」がミディアムレア仕上げだから
余計に”焼き”の深さが強調され、気になる。
素材の鮮度に自信がないのかな?

お次ぎはシロとレバをタレで―。
タレはかなり濃い、よって、かなりしょっぱい。
しかもタレものになると焼き目はさらに深くなり、
必然、焦げ目もキツくなる。
備長炭がもったいないんだヨなァ。

焼きとんにおいては部位的に
上半身は塩、下半身はタレが合うように思う。
例えば”上”はアブラ・ツラミ・タン・ナンコツ。
”下”はガツ・コブクロ・テッポウ。
これは単なる偶然ではないハズだ。
ないハズではあるけれど、その裏づけが未だに見つからない。

=つづく=

2014年9月26日金曜日

第934話 西日暮里の止まり木で (その1)

その日の散歩は巣鴨でスタート。
帝都に唯ひとつ残るチンチン電車の都営荒川線、
三ノ輪橋発、早稲田行きに乗り、庚申塚で下車した、

もっとも電車に乗る前、
三ノ輪のジョイフル商店街を行ったり来たりしたから
すでに散歩は始まっていたともいえる。
この商店街は昭和の匂いを今に色濃く残す、J.C.好みのストリート。
東京最古の「砂場」(日本そば屋の)や
都内屈指のレトロなパン屋があったりもして
行き交いのあいだに足を止めることたびたびである。

さて巣鴨。
庚申塚からとげぬき地蔵通りを真っすぐ南下する。
途中、お地蔵さんの高岩寺を参拝することもなく、
JR巣鴨駅前で山手線の跨線橋を渡った。

かつては駕籠町ちと呼ばれた千石を過ぎ、
旧白山通りを通って白山上に達した。
南に向かえば本郷、東なら千駄木である。
少しく迷って千駄木は団子坂下へ。

道灌山下を抜けて西日暮里までやって来た。
日暮れの里に到着したとき、
陽は西の方(かた)に沈もうとしていた。
夕雀としてはそろそろどこぞの止まり木に止まらなければならない。
この町になじみの店はないから田端か日暮里に移動しようか、
それとも久しく訪れていないコリアンタウンの三河島にでも行こうか。
めったに入らぬ焼肉屋で独りさびしくちびちびカルビでも焼きながら
マッコリでも飲むとするかの。

これといった目当てがあるわけでもないのに
三河島方面へと歩を進めた。
日暮里舎人ライナーの高架をくぐってほどなく、
あっさりと看過はできない店舗に遭遇する。

店の名は「菊一」。
京都の祇園あたりなら割烹、
東京の下町だと小料理屋を想起させる屋号である。
ところが西日暮里ではもつ焼き屋であった。
焼きとん好きのJ.C.のアンテナに今まで引っかからなかった店だ。

焼肉なら焼きとんでしょうヨ。
巣鴨からここまで歩いて来たのだ、
いつ入るか・・・今でしょ!

焼肉よサヨウナラ、マッコリよサヨウナラ。
かくして偶然見つけた止まり木に止まった。

 ♪ 流れ女の さいごの止まり木に
   あなたが止まって くれるの待つわ
   昔の名前で 出ています   ♪
        (作詞:星野哲郎)

=つづく=

2014年9月25日木曜日

第933話 そば屋で昼酒 (その2)

不忍池北畔の日本そば舗、
「新ふじ」に独りたたずむ昼下がり。
もつ煮込みをつまみにビールを飲んだところだ。
以前、「食」にまつわる月刊誌で
煮込みの連載を担当していた立場上、
23区内の煮込みはイヤというほど食べ歩いた。

東京の煮込みには2本の本流がある。
味噌仕立ての豚モツと、醤油仕立ての牛スジだ。
都内に相当数の店舗が散らばる、
「加賀屋」グループは前者の代表格。
ホッピーストリートを中心として浅草界隈は後者が主流となる。

J.C.が好むのは豚モツの味噌仕立てだ。
幸い、「新ふじ」の煮込みはわが嗜好にピタリと寄り添う。
もしもこの店にもつ煮込みなかりせば、
たびたび訪れることはないだろう。

その昼下がりも当たり前のように煮込みを注文した。
半分ほど食べ進んだところでビールの大瓶がカラになる。
移行したのは清酒・菊正宗だ。

当店の日本酒の銘柄は三択。
一合瓶が大関と菊正宗。
300ml入りの冷酒は大関だ。
煮込みの残り半分で菊正を味わった。
それから大関切り替えてお願いしたのはもりそばだ。

このために生わさびと鮫皮のおろし板を持参した。
周囲のお客に目立たぬように
ゆるり、そろりとわさびをすりおろし、
酒の肴にしながらも
時おりそばにまぶしてはつゆにくぐらせる。

いや、たまりませぬな・・・。
昭和30年代にありがちだった下世話な甘みを残したつゆ。
ひ弱にささやかにコシを残したそば。
仲を取り持つ香り高いわさび。
素朴な美味しさに日本人であることのシアワセを実感した。

「新ふじ」
 東京都台東区池之端2-8-4
 03-3821-3913

2014年9月24日水曜日

第932話 そば屋で昼酒 (その1)

代々木公園に端を発したデング熱ウイルスが
順に新宿御苑、外濠公園と東北東に進路を取り、
とうとう、わが散策の庭、上野公園にまで伝播してきた。
うっとうしいことよのぉ!

でも、あんまり心配してないんだもんネ。
何となれば、コンサートホールからミュージアム界隈、
動物園の園内、上野のお山から山下、不忍池のほとりと
それこそ上野恩賜公園の隅から隅まで
ずず、ずいっと徘徊しているが
蚊に食われたことなど一度もないからだ。

 したがって細菌、もとい、最近も平気の平左、
上野では涼しい顔して緑の中を闊歩する、
J.C.オカザワの姿を見ることができる。

8月の末のある日、朝までTVを観てしまい、
目覚めたときにはお天道さまが天高々と昇りつめていた。
倦怠感と空腹感を同時に受けとめながらシャワーを浴び、
昼めしを食べるために自宅を出た。

第一感はせいろ、いわゆるもりそばだ。
やって来たのは不忍池の北畔、
上野動物園・池ノ端門から至近の「新ふじ」である。
当ブログでも紹介済みの店は
一見、何の変哲もない町場のおそば屋さん。
しかし、それなりの歴史はちゃあんと刻んできている。
そんな日本そばの老舗だのに気取ったところがまったくない。
つかず離れずの接客ぶりにも好感が持てる。

当日のスケジュールは一日中ガラ空き。
せっかく気に入りのそば屋の暖簾をくぐったことだし、
ここで一杯やらぬ手はあるまい。
かの池波正太郎翁も断言している。
「そば屋に入って飲まぬくらいなら、そば屋には入らぬ」―
そうでしょう、そうでしょう、
それが東京人のそば屋の使い方というものでありましょう。

明るいうちどころか、
正午ちょうどの真っ昼間から飲もうと心に決めた。
この日は終日、酒池に溺れちまおうと決心したのだ。
われながら見上げた男意気と言わずばなるまい。

例によってスーパードライの大瓶で、よ~いドン!
小皿の柿ピーをつまみながら注文したのはもつ煮込み。
ここの煮込みはとてつもなく旨い。
下地は赤味噌と八丁味噌のブレンドだろうか?
とにかくめっぽう旨い。
日本そば屋にあるまじき快挙といえよう。

七色を振りかけ、豚の小腸の滋味を深々と味わう。
大瓶はすぐカラになり、菊正宗の1合瓶に切り替えた。

=つづく=

2014年9月23日火曜日

第931話 テキーラを飲む (その2)

テキーラにまつわるハナシのつづき。
テキーラベースの代表的カクテルはマルガリータ。
コアントローとレモンジュースを加え
シェイクしてカクテルグラスに注(そそ)ぐ。
コアントローをホワイトキュラソー、
レモンジュースをライムジュースに代えると
より本格的というか、メキシコらしさが増す。

ハードリカーとオレンジリキュールと
レモンジュースの組合わせはカクテルの王道である。
テキーラの代わりにジンを使用すれば、ホワイトレディ。
ウォッカならバラライカ。
ブランデーはサイドカー。
ラムになるとX・Y・Z。

ウイスキー・ベースはないのか? ってか?
ございますヨ、
ただし、ウイスキー・サイドカーなるつまらんネーミングですがネ。
ちなみにサイドカーのブランデーを
りんごから造るカルヴァドスに替えるとアップルカーになるが
J.C.はこの幼稚なネーミングが大嫌い。
数年前、毎晩のように銀座のバーに出没していたときは
勝手にカルヴァサイドと呼んで愛飲していた。

数ある王道カクテルのうち、
マルガリータだけはグラスを化粧塩で縁取る。
いわゆるスノー・スタイルだ。
そう、テキーラと塩はまことに相性がよろしい。

でもってこの夏、わが家で飲んでいたテキーラだが
マルガリータでもないのだ。
頻度の高かったのは
パインジュースとソーダで割ったヤツである。

テキーラとパインジュースのカクテルにマタドールがある。
両者の相性もまた抜群だ。
パインはもっばらサントリーGokuriのお世話になった。
この商品は夏期だけの限定販売らしいがずいぶん重宝した。
そしてこのミックスドリンクには純度の高い氷が不可欠。
間違っても冷蔵庫で作った氷を使ってはならない。

前述したようにテキーラには塩が合う。
みかんのPOMジュースで有名な愛媛県松山市のえひめ飲料。
ここの製品に伯方の塩使用の塩サイダーがある。
”すっきりとほんのり塩味できました”の謳い文句の通り、
なかなかの出来映えでテキーラにもピッタシだった。

サントリーのGokuri、えひめ飲料の塩サイダー、
おかげでビールの消費量が若干減少した、
わが家の夏でありました。

2014年9月22日月曜日

第930話 テキーラを飲む (その1)

前話でドラゴンフルーツはサンカクサボテンの果実と書いたところ、
世田谷区在住のT木H恵サンから
「主産地はテキサスやメキシコでしょうか?」とのお問い合わせ。
テキサスは存じませんがメキシコは仰せの通りであります。

T木サンはベトナムのホーチミンシティ(旧サイゴン)で食された由。
J.C.も20年前にこの街を訪れた際、市場でたびたび見掛けた。
そう、ドラゴンフルーツの主な産地は中南米と東南アジアなのだ。
ちなみに前話で食べたヤツは沖縄産だった。

それにつけても長いこと滞在した東南アジアで
サボテンを見ることはついぞなかった。
どこか人里離れた土地で栽培されているものと思われる。

サボテンといえばメキシコが世界に誇る、
銘酒・テキーラの原料がサボテンだと信じている方が多い。
実はテキーラは竜舌蘭なる植物から造られる。
この大型の植物の出で立ちが
サボテンに似ていなくもないから誤解が生じたのであろう。

竜舌蘭という和名の由来は定かではない。
蘭とは似ても似つかなぬブチャイクな潅木である。
見た目はむしろアロエに近い。
あるいは含有する豊富な糖分から
古来、砂糖きびのように利用されてきた。
酒の製造には非常に適していたわけだ。

テキーラといえば、この夏はずいぶんお世話になった。
わが家には現在2本のテキーラがある。
ブランドはともにサウーザでゴールドとシルバーの2種類。
ラム酒同様に当然、色の濃いゴールドのコク味が深い。

ところがこの夏、お世話になったのはシルバー。
何となれば、こちらのほうが他の飲料と割るときに
クセがないぶん好都合なのだ。

もう半世紀近くも前、「スター千一夜」だったかな?
TVでメキシコ帰りの三船敏郎がテキーラの飲み方を披露していたっけ。
左手の甲に一つまみの塩を乗せ、
こにレモンを一搾りしたら一口なめる。
すかさず右手に持ったグラスのテキーラを一気飲みするのだ。

三船がメキシコを訪れたのは
おそらくチャールズ・ブロンスン、アラン・ドロンと競演した、
映画「レッド・サン」のロケだったと思われるが
レモンはライムの間違いであろうヨ。

J.C.が夏のあいだに愛飲していたテキーラは
世界の三船が体験したようなストレートのショット飲みではない。
テキーラベースのカクテルとなれば第一感はマルガリータ。
エッ、ピッツァのハナシかヨ!  ってか?
アレはマルゲリータっ!

=つづく=

2014年9月19日金曜日

第929話 燃えたドラゴン (その2)

♪   まっかに燃えた 太陽だから 
  真夏の海は 恋の季節なの 
  渚をはしる ふたりの髪に 
  せつなくなびく 甘い潮風よ 

  はげしい愛に 灼けた素肌は 
  燃えるこころ 恋のときめき 
  忘れず 残すため 

  まっかに燃えた 太陽だから 
  真夏の海は 恋の季節なの  ♪  

       (作詞:吉岡治)

美空ひばり&ブルコメの「真赤な大陽」がヒットした1967年夏。
当時、高一だったJ.C.は福島市にいた。
サッカー部の合宿で遠征した福島大学経済学部のグラウンド。
真っ赤な太陽は頭上でギラギラと燃えていた。
いや、キツかったなァ。
今まで長いこと生き長らえてきてが
肉体的に一番ツラかったのはあの帰らざる日々である。

この翌年の夏はピンキーとキラーズの「恋の季節」が日本列島を席捲する。
作詞者の岩谷時子は「真赤な太陽」をパクッたとまでは言わないが
相当に触発されていることは確かだ。

さて文京区・千駄木で衝動買いしたドラゴンフルーツ。
福島の太陽のごとくドラゴンも燃えていた。
前述したように果肉の白い品種しか見たことがなく、
そこであわてて写真を撮った。
強烈な色彩
真っ赤な果肉の色は想定の範囲外。
ブログネタになるとは思っていなかったため、
包丁を入れる前の姿は撮影していない。

ハナシは変わるがグローバルに一世を風靡した、
ブルース・リーの「燃えよドラゴン」を観たのは1973年。
英国・ロンドンはオックスフォード・サーカスの映画館だった。
彼のブームもスゴかったなァ。
何せロンドンっ子が揃いも揃って
「オチョォ!オチョォ!」の連発だもの。

でもって、真っ赤に燃えたドラゴンを食してみた。
すると意外に甘さは控えめ。
色彩は強烈だが、味のほうは今ひとつであった。

いろいろ調べてみると、
このサンカクサボテンの果実は完熟させると日持ちが悪く、
市場に流通させにくいことが判った。
しかも収穫後は他の果物のように追熟(ついじゅく)しないという。
なるほどそういうことであったのか。
見た目がスゴいだけに
何だか拍子抜けの巻でありました。

2014年9月18日木曜日

第928話 燃えたドラゴン (その1)

NHKのBS放送を何気なしに観ていたら
画面に永六輔サンが現われて
台東区・谷中の町を歩いている。

JR日暮里駅から谷中銀座に向かう一本道。
途中、あちらこちらに種田山頭火の俳句をしたためた色紙を
何枚も行き当たりばったりに置きながら・・・。

ほどなく永サンは目的地の夕焼けだんだんに到着。
夕陽の絶景を愛でる番組なのだった。
この石段は都内有数の夕陽の名所。
カメラがとらえた夕焼けに思わずJ.C.、
「うわっ、キレイだなや!」―西空が黄金色に染まっている。

同時に頭の中でスパイダースの「夕陽が泣いている」と
裕次郎&ルリ子の「夕陽の丘」のイントロが入り混じって鳴りだした。
ともに歌詞の冒頭のみ紹介してみましょう。

 ♪   夕焼け  海の夕焼け  
   真っ赤な 別れの色だよ
   誰かに恋をして 激しい恋をして 
   夕陽が泣いている    ♪    
     (作詞:浜口庫之助)


 ♪   夕陽の丘の  ふもとゆく  
   バスの車掌の  襟ぼくろ  
   わかれた人に 生きうつし ♪  
     (作詞:萩原四朗)

その数日後、実際に夕焼けだんだんを訪れた。
ナマの夕陽を見るつもりでやって来たものの、
あいにくの曇り空に期待を裏切られた。
残念ではあったが、そのまま散歩を続ける。

谷中銀座からよみせ通りを抜けて、不忍通りを根津方面に向かう。
たまたま通りすがった青果店で足がとまった。
珍しいトロピカル・フルーツをに遭遇したのだ。
その名もドラゴンフルーツ。
見た感じはショッキングピンクの火の玉小僧といったふう。

最後に食したのは
1980年代半ばのシンガポールだから30年も以前になる。
懐かしさに背中をプッシュされ、ほとんど衝動買いと相成った。
ついでに隣りに陳列されていた紅オクラなる珍品も買い求める。

その夜、包丁で切り分けてみてビックラこいた。
通常のドラゴンフルーツは白い果肉にゴマ状の粒々のハズ。
ところがコレは真っ赤っかのカッ!
初めて見たぜ、こんなのっ!

=つづく=

2014年9月17日水曜日

第927話 こち亀タウンに出没 (その13)

「ときわ食堂」についてはつい先日、
当フログでも町屋店と動坂店を取り上げた。
屋号は同一でも中身はそれぞれに異なる個性の持ち主ばかり。
都内を代表する大衆食堂にして大衆酒場の二面性を持つ。

食事よりも晩酌(ときには昼酌も、エヘへ・・・)に主眼を置くJ.C.は
大衆酒場の匂いを放つ上記2店の利用が多い。
したがって入谷店や巣鴨店に出向くことは非常にまれだ。

ところがかつてはひんばんに朝めしを食った店舗があった。
雷門の脇にある浅草店である。
ロケーションがいいから、昼夜を問わず客が押し寄せている。
朝から飲んでいる輩(やから)ばかりだ。

まだ若い頃のマイ・デートコースは銀座か浅草がほとんど。
別れてそれぞれの家路をたどる予定の夜は銀座、
オーバーナイトを過ごして朝を迎える場合は浅草になる。
田原町や西浅草のラブホに泊まった翌朝の、
ブレックファーストを提供してくれたのが浅草店だった。
めしを食べる相方を眺めながら飲む朝のビールは
けだるい味がしたが、けして悪いものではなかった。

亀有の「ときわ食堂」に戻ろう。
家族連れのおかげで騒々しい店内を見回すと、
気にする者とてなく自分の世界に入っている。
これぞ「ときわ食堂」の典型的風景
酒を飲む客、めしを食う客、半々の様相を呈している。
TVはスポーツニュースで夏の甲子園を報じていた。

こちらも独り、壁の品書きを吟味し始める。
そそられた料理は3品。
 新さんま塩焼き(450円)
 なす肉生姜焼き(500円)
 かつ鍋(550円)
であった。

さんまは今シーズン初めてだ。
豚肉の生姜焼きはときどき食べるが
これに茄子が加わるのはうれしい。
茄子と生姜は相性がいいからねェ。
かつ鍋はかつ丼のアタマ、いわゆるかつ煮であろうヨ。

しばし沈思黙考の末、かつ鍋に白羽の矢を立てた。
550円というお手頃価格もよろしい。
ただし、この値段ではコロモばかりが厚くて
肉は薄いとんかつが登場しかねない。
一見、かなりのボリューム
ところが立派なとんかつに玉子のとじ加減もよく、
下に敷かれた玉ねぎもタップリであった。

甘辛醤油味に白飯が欲しくなったが
ここはガマンしてビールのお替わりクンと相成ったのでした。
長かった”こち亀タウン”シリーズもこれにて千秋楽でございます。

=おしまい=

「ときわ食堂 亀有店」
 東京都葛飾区亀有3-11-13
 03-3603-7041

2014年9月16日火曜日

第926話 こち亀タウンに出没 (その12)

亀有のおでん屋「まづいや」のカウンターに独り。
壁の品書きに馬刺し定食を見とめた。
ふ~ん、こりゃまたスゴいもんがあるんだねェ。
新吉原は土手通りの桜肉専門店ならいざしらず、
ここはこち亀タウンでありんす。
しかもおでん&お好み焼きを商うお店でありんす。

こんな場末(葛飾区民のみなさん、失礼っ!)で馬刺し定食でっか?
想定の範囲を超えてやすぜ。
そんなことをつらつらと考えながら日本酒に切り替えようと思った。

おでんには何たって燗酒である。
J.C.の好みはぬる燗と熱燗の中間の上燗(じょうかん)。
もっともありきたりの居酒屋で上燗を所望してもまず通じない。

このあいだなんか、足立区・梅島の日本そば屋で
お運びのオネエさんにお願いしたら、
ほどなく厨房から店主が出て来て
「あのっ、ジョウカンって何のことでしょう?」―
すかさずJ.C.、あきれもせずに説明したけどネ。

でもって、おでんのセカンドラウンドとともに
日本酒を注文しようとした矢先、
団体客が押し寄せてきたのだった。
騒がしくなりそうなのと
料理の出が遅くなりそうなのとで、即刻お勘定。
ビール1本におでんが3品、
たったそれだけで退店の憂き目をみることになった。
短い滞在ではあったが
「まづいや」はけっしてまづくはなかった。

ガラス戸をうしろ手に締めて夜の町へ出る。
振り返れば、出てきたばかりの店が
月夜にポッカリと浮かんでいる。
なかなかの景色に誘われ、こち亀、
もとい、デジカメでスナップショットをパチリ。
雰囲気のあるお店でしょう?
二軒目はちゃんと目星をつけてある。
数話前に紹介した旬魚・旬菜の「遊膳」、そのすぐ隣りにあるのが
都内に50店舗ほどもある「ときわ食堂」の亀有店だ。

台東区や文京区の「ときわ」よりも明るい感じがする。
そで看板からしてド派手だ
入店するとヤケに騒々しい。
それもそうだろう、小上がりでは二家族が合体して
宴会を繰り広げているではないの。
それぞれのジャリンコが計6人ほどはいようか。
こりゃ、にぎやかにならざるを得まへんな。

=つづく=

「まづいや」
 東京都葛飾区亀有3-17-1
 03-3690-3759

2014年9月15日月曜日

第925話 こち亀タウンに出没 (その11)

乗り込んだのは三ノ輪行き電車だ。
途中、町屋で千代田線に乗り換え、こち亀タウンに到着。
西の空は夕焼け小焼け。
山のお寺の鐘は鳴らずとも日はとっぷりと暮れていた。
ここでJ.C.、
 ♪ カラスと一緒に帰りましょ ♪
というわけにはいかない。
目指すは先日、空振ったおでんとお好み焼きの「まづいや」だ。
地元では知らぬ者とてない人気店である。

ビールの大瓶をお願いし、おでんのみつくろいに入る。
ラインナップは全29種類
一番安いなるとが50円で
一番高いたこは500~800円と幅広い。
はて、何にしようかな・・・。

あまりおでん屋には行かないが、一応、好みのおでん種はいくつかある。
トップファイヴは順不同で
白滝・つみれ・すじ・揚げボール・ふき。
セカンドファイヴが
昆布・厚揚げ・はんぺん・ごぼ巻き・ちくわぶ。

上記はすべて関東地区の庶民的なおでん屋でのハナシ。
これが関西風の高級店になると選択肢がグッと広がる。
鯨のコロやサエズリ、冬場の真がき、
真鱈の白子、助宗鱈の真子などが必食アイテムになるのだ。
ただし、調子に乗ってこういうぜいたく品をバカスカ食べると、
会計時に目ん玉が飛び出てしまう。
よってこの手の店はなるべく避けるようにしている。

銀座の有名店の中には同じ銀座の鮨屋並みとまではいかずとも、
浅草の鮨屋と同等の金額を請求してくるところが少なくない。
コロや白子はよくぞ日本に生まれけりの珍味ながら、
支払い額が変わらないのならば、
下町の鮨屋で江戸前シゴトを施された小肌や穴子を味わうほうがよい。
それが東京のの酒呑みの矜持でもあろうヨ。

ビールを飲みながらしばらく店内の様子をうかがっていた
どうやら「まづいや」は家族経営のようだ。
亭主と女将、それに息子だろう、3人で切盛りしている。
この息子がなかなかに面白い。
いえ、言葉を交わしたわけじゃないけれど、
とにかくユニークなヘアスタイルをしている。
ギタレレ漫談のピロキとおんなじヘアなのだ。
気になる方はググッてみてください。

最初に選んだおでん種はかくの如し。
つみれ・はんぺん・白滝  
なかなかのボリュームで
殊に2カン付けのつみれは食べ応えあり。
早くも満腹感に見舞われる。
そこへドヤドヤと団体サンのご入来であった。

=つづく=

2014年9月12日金曜日

第924話 こち亀タウンに出没 (その10)

ハナからお詫びです。
なぜか昨日アップされてしかるべきアーティクルが
手はず通りにいかず、ご迷惑をお掛けしました。
まことにすみません。

 ♪  横たわるきみの顔に 
   朝の光が射している 
   過去の重さを 洗おうとして 
   たどりついた 深い眠りよ 
   別れようとする魂と 
   出会おうとする魂と 
   あゝ心より躯のほうが 
   確かめられるというのか
    モーニング モーニング 
   きみの朝だよ     ♪
     (作詞:岡本おさみ)

岸田智史の「きみの朝」を聴いた1979年は
金融界に身を投ずる前の最後の年。
配膳会に籍を置き、ホテルで宴会係を担当していた。
ちょうどこの頃(’78年か’79年)、
五木ひろしのクリスマス・ディナーショーで
長嶋監督夫妻のテーブルを受け持った。
いや、うれしかったなァ。何せ2時間余り付きっきりだもの。

うっとうしいと思われぬ程度に声を掛ける。
たとえばロゼワインを飲んでいる夫妻に肉料理を配膳する際、
「長嶋さま、ローストビーフでごさいます。
 赤ワインをお持ちいたしましょうか?」―
こう水を向けるのである。
ミスター応えて
「え~と、ああ、コレでいいです」―
さすがに”いわゆる一つのコレ”とは言わなかったがネ。

目白台の千登世橋であった。
実はJ.C.、年に一度はこの橋の上に立つ。
毎年10月になると、近くの鬼子母神で御会(おえ)式が催され、
インドチックな山車(だし)が参道を埋め尽くす。
何年か前から見物に出向くようになった。

その前に橋の東詰にある「熱烈上海食堂」で食事会が開かれる。
主催するのはのみとも・K木クン。
何となれば、K木夫人のA子サンの実家が雑司が谷。
彼女は御会式を観ながら育った。
今でも欠かさずその時節には実家に帰るという。
夫妻に誘われて飲み仲間が便乗しだしたのだが
以来、常に十人前後が集う秋の恒例行事となった。

さて、その夕べ。
千登世橋を東へ渡り、
「熱烈上海食堂」を右に見ながら左折して鬼子母神の参道をゆく。
お参りはせずに荒川線・雑司が谷駅に直行したのだった。

=つづく=

2014年9月11日木曜日

第923話 こち亀タウンに出没 (その9)

旬菜・旬魚の「遊膳」にて
真子がれい&金目鯛の昆布〆で飲んだ夜から2週間が経った。
その日は所用で目白に赴いていた。
身体が自由を得たのは陽が沈んでほどなく。

学習院の学食にでも立ち寄るか・・・、いや、やめとこ。
ランチタイムならまだしも
晩酌どきにリカー抜きではたとえ夕餉が
天下の美味であっても味気なさを拭うことはできない。
学食に缶ビールを持ち込むのもねェ・・・気が引けるしなァ。

目白通りを東に歩む。
数分後、千登勢橋の橋上にJ.C.オカザワの姿を見ることができた。
エッ、そんなつまらんモン、見たかねェってか?
それもそうでござろう。
スルーして先をお読みくだされ。

 ♪ 駅に向かう学生たちと 
  何度もすれ違いながら
  あなたと歩いた目白の街は 
  今もあの日のたたずまい

  指を絡めいつもとちがう 
  あなたのやさしさに気付き
  もうすぐ二人の別れがくると 
  胸がふるえて悲しかった

  電車と車が並んで走る 
  それを見下ろす橋の上
 
  千登勢橋から落とした 
  白いハンカチが
  ヒラヒラ風に舞って 
  飛んで行ったのは
  あなたがそっとさよならを 
  呟いた時でしたね     ♪

    (作詞:門谷憲二)

JR山手線・目白駅前にある女子校の名門、
川村学園出身のシンガーソングライター、
西島三重子の佳曲「千登勢橋」が世に出たのは1979年。
この年のレコ大受賞曲はジュディ・オングの「魅せられて」だ。

1979年はヒット曲の大豊作だった。
ザッと挙げてみると、

夢追い酒(渥美二郎) おもいで酒(小林幸子) 北国の春(千昌夫)
ガンダーラ(ゴダイゴ) YOUNG MAN(西城秀樹)
チャンピオン(アリス) いとしのエリー(サザンオールスターズ)
みちづれ(牧村三枝子) HERO(甲斐バンド) 花街の母(金田たつえ)
いい日旅立ち(山口百恵) セクシャルバイオレット(桑名正博)
カリフォルニア・コネクション(水谷豊

キリがないからこのへんでやめるが
J.C.のベストワンは「きみの朝」(岸田智史)だもんネ。

=つづく=

2014年9月10日水曜日

第922話 こち亀タウンに出没 (その8)

夕陽がニューヨークの西空を金色に染めていた。
マンハッタンの高層ビル群が美しいシルエットを描いている。
その上空をラガーディア空港に舞い降りるのだろう、
ジェット機がゆるゆると降下しながら横切ってゆく。

とうとう錦織圭が力つきてしまった。
チリッチの爆烈サーヴに手も足も出なかった。
あまりにも一方的に過ぎて
手に汗を握るシーンはついに訪れなかった。
グレート・サーヴァーがスマート・ストローカーを翻弄した恰好、
柔よく剛を制すること適わずであった。

Kには来年、
ローラン・ギャロス(全仏)で頂点に立つことを期待したい。
すでに彼はクレーコートのスペシャリストだからネ。
とにかく陽はまだ昇りきらずの感、大いにあり。

われに還って、こち亀タウンのつづきである。
読者諸兄もそろそろ飽きられてきた頃合いながら
いま少し、ご辛抱をお願いいたしまする。

和食店「遊膳」の金目鯛に触発されて
はるか昔の夕食メニューがまざまざとよみがえった。
当時はまだ食日記を付けてもいないのに
瞬時に思い出せたのは記憶力の賜物、
と言いたいところなれど、そうではない。

当時、金目鯛は広く世に流通しており、
比較的ポピュラーな魚種だったものの、
ほとんど煮付け専用といった位置付け。
あとは冬場の鍋ものに使われるのと、
市販の西京漬けがせいぜいだった。
やはり刺身とバタ焼きは新鮮にしてインパクトが強かったのだろう。

当夜の晩酌を先に進めなければ―。
ビールから日本酒に切り替えた。
”ひめでつる”なる聞きなれない銘柄だ。
これをぬる燗にしてもらった。

サカナ系以外の一品が合いの手にほしい。
となると、豆腐か野菜か肉系か・・・。
慎重に選んだのは牛スジと新じゃがを使用した肉じゃが。
店で肉じゃがを注文することはめったにない。
ましてや独りのときに頼んだ記憶はまったくない。
好きではないのだろう・・・いや、むしろ嫌いなのかも・・・。
ポテトサラダはしょっちゅうお願いしてるのにネ。
此度は牛スジより新じゃがに惹かれたのだと思う。

日本酒によく合ういかの塩辛を母親がサービスしてくれた。
景気が悪く客足が鈍いと嘆く彼女のボヤきをしばし聞かされる。
そうしてのお勘定は締めて3740円也、まあ、妥当な線と言えよう。

夜の町に出て駅へと急ぐ。
都心に戻る電車はすでに最終の1本前であった。

=つづく=

「遊膳」
 東京都葛飾区亀有3-11-14
 03-3603-1060

2014年9月9日火曜日

第921話 こち亀タウンに出没 (その7)

こち亀タウンの「遊膳」に入店した。
出てきたオーナーと思しき初老の女性に
先客のいるカウンターへと導かれる。

ザッと見、店内の雰囲気は喫茶店と洋食屋の中間感じ。
居心地は悪くなさそうだ。
そもそも散策の途中、
「遊膳」に心惹かれたのは店頭にあった品書きだった。

その日は、コチ・真子がれい・ホウボウと、
白身魚の品揃えが充実していた。
白身の有無はその店のデリカシーを推し量るバロメーターなのだ。
刺身に限ったことではなく、
白身を使いたがる料理人の料理はデキのよいことが多い。
これは長年の経験から自身を持って断言できる。

ビールを1杯飲み干すと突き出しの3点セットが供される。
鳥皮ポン酢、大きめのじゃこ、小松菜のびたしだ。
いずれも可も不可もないといったところか。
今後の料理に期待を抱かせるほどではない。

いかにもJ.C.好み、
昆布〆2種盛合わせを目にとめて店主に内容を訊ねた。
この店は母と息子の二人三脚で切盛りしている様子。
店主応えて曰く、
「金目鯛と真子がれいになります」―
思い描いたベストコンビはコチと真子だったが
金目が代替しても不足はない、即刻お願いした。

ニセわさびが残念ながら、
まずまずの仕上がりにビールを追加する。
同時に水茄子を注文した。
何だかこの夏、あちこちで水茄子を食している。
さすがに泉州・岸和田の銘産も飽きつつあるが
恰好の箸休めにつき、つい食指が動いてしまう。

ここは亀有、サカナはおそらく、
千住大橋の足立市場で仕入れるのだろう。
店主に確認すると、千住ではなく松戸だという。
「エッ、松戸!松戸に市場はないでしょう?」  ―
「野菊野に団地があるんですが
 そこに小さな市場があるんですヨ」 ―
野菊野かァ、懐かしいなァと感じた瞬間、
ハタと思い当たって膝ポン!

あれは34年前。
金融界に身を投じたときは二十代の終わりだった。
職場に野菊野団地に住んでいる先輩がいて
一夜、自宅に招かれたことがあった。
奥さんの手料理を馳走になったが
その中に金目鯛の刺身とバタ焼きがあったっけ・・・。
野菊野の金目、タイムマシーンに乗り込んだような気分である。

=つづく=

2014年9月8日月曜日

第920話 こち亀タウンに出没 (その6)

いやあ、NYの夏は熱いなァ。
Kの夏はもっと熱い。
いえ、いえ、地球全国津々浦々、
観ている日本人の夏はさらにもっと熱い。

マドリード・オープンであのナダルを
あと一歩まで追い詰めたとき(故障がなきゃ間違いなく優勝)、
クレーコートでは世界ナンバーワンを確信した。
四大大会を制覇するなら全仏が最も近く、
逆に遠いのは芝のウインブルドン(全英)のハズだった。
どころがハードコートの全米で決勝に駆け上がってくるとは―。

決勝にはチリッチではなく、フェデラーに来てほしかった。
フェデラーが相手なら、6・4、いや7・3で錦織有利だったと思う。
過去の対戦成績はフェデラーより分のよいチリッチながら
上り調子の勢いが何とも不気味だ。

それにつけても心強いのはスタジアムの観客で
ジョコヴィッチ戦は9割方がK派であった。
ジョコにしてみりゃ、完全アウェー状態だ。
何でこんなに応援の歓声が違うの?
そんな気持ちを引きずりながらプレイしていたハズだ。
決勝も準決同様にサポーターのあと押しがあれば、
Kは栄光により近づく。

テニスのネタは決勝戦後にあらためるとして
こち亀タウンの続きとまいりましょう。

再訪はおよそ1週間後のことだった。
到着したとき、時刻はすでに22時を回っており、
この時間まで営業している店舗は限られる。
とにかくダメ元で目星を付けた2軒を訪ねるつもりではあった。

1軒目は「まづいや」。
案の定、店は夜の闇の中に沈んでいた。
ここはおでんとお好み焼きの二本立てをウリとしている。
お好み焼きはともかくも、おでんは嫌いじゃない。
おでんにピッタリなのは燗酒だろうが
ビールでつまむ真夏のおでんもまた一興だ。
そんな楽しみも暖簾をしまわれてはいかんともしがたい。

あまり期待せず近くの「遊膳」へ回ってみる。
するとオヨヨ、店先に灯りが点ってるじゃないか―。
ガラスのドア越しに奥をうかがうと、
カウンターに男性客の姿が見える。

しかしここで安心はできない。
入店と同時に
「あい、すみません、もうお仕舞いなんですヨ」―
今までそんな体験を何度も重ねてきたからネ。
幸運を念じてドアに手を掛けた。

=つづく=

2014年9月5日金曜日

弟919話 こち亀タウンに出没 (その5)

大した深酒もせずにその夜は日付変更時刻前に帰宅。
どこにも置き去りにされなかったカツサンドは傍らにある。
翌日のブランチに回してもよかったが
小腹がすいていたこともあり、ボックスをオープン。
大きめカットが2切れ
見た目がちょいとオサレだ。

やっぱり今日中に食っちゃうか・・・食っちゃおう!
袋から取り出す
となると、飲みものである。
缶ビールが一番手っ取り早いけれど、
黄色いチーズがチャーミングなサンドイッチに敬意を表して
ミルクティーを淹れようと思った。
そう思った途端、山口百恵の冷めた美声が耳に鳴り響き始める。

 ♪  話しかけても 気づかずに
   ちいさなアクビ 重ねる人
   私は熱い ミルクティーで
   胸まで灼けて しまったようです

   これっきり これっきり もうこれっきりですか
   これっきり これっきり もうこれっきりですか
  
   あなたの心 横切ったなら
   汐の香り まだするでしょうか
   ここは横須賀          ♪
 
       (作詞:阿木燿子)

さっそくお湯を沸かす。
家のフリッジにミルクはないからクリープでがまん。
紅茶だって缶入りの香り高いヤツに代わってティーバッグの間に合わせだ。

準備万端整い、勢いよくパクリとやった。
うむうむ・・・もぐもぐ・・・。
飲みくだしての感想は・・・まっ、こんなものでありましょう。
けして不味くはないが、それほどの美味でもない。
これで700円は割高に過ぎ、適正価格は450円といったところだ。
「高いですヨ」―
調整していたオネエさんの一言は適正であった。

サンドイッチの箱の裏に貼り付けてあったシールを見たら
製造元は(株)インテグレーションとあった。
「キムカツ」と「ゲンカツ」の”下請け”だけで
会社は成り立たないだろうと思い、
調べてみたら何と上記2店の経営母体であった。
本社は港区・赤坂だが、製造所が葛飾区・亀有にあった。

カツサンドを買い求めた日、
いろいろ歩き回った末、気になった店は2軒。
その名を「遊膳」、「まづいや」という。
近々、歴訪しようと心に決めたことであった。

=つづく=

「インテグレーション」
 東京都葛飾区亀有3-31-10
 03-6740-8888

2014年9月4日木曜日

第918話 こち亀タウンに出没 (その4)

でもって、ほとんど衝動買いしたカツサンドだったが
たちまち後悔の念にとらわれる。
夜には宴会が控えているというのにこれから半日、
こんなモンをぶら下げてるのは煩わしいことこのうえない。
第一、酔いにまかせてハシゴでもしようものなら
どこぞに忘れてくるのがオチだろう。
かといって、今この場で食っちゃうわけにもいかないし・・・
はて、どうしたものかのぅ。

このとき脳裏をかすめたのが牧村三枝子のこの曲。

 ♪ 水にただよう 浮草に 
   おなじさだめと 指をさす 
   言葉少なに 目をうるませて 
   俺をみつめて うなづくおまえ 
   きめた きめた 
   おまえとみちづれに   ♪
     (作詞:水木かおる)

サンドイッチとの道連れを決意した瞬間でありました。

結局、その夜は町屋の居酒屋にて一次会のあと、
一同、地下鉄・千代田線とJR山手線を乗り継いで鶯谷に流れた。
鶯谷は東京を代表するラブホテル・パラダイスである。

詳しいことは存ぜぬが
カップルでチェックインする客のほかに
単独のオトコが乗り込んで
春を売る女性を呼び込むシステムが構築されているという。

そんな鶯谷ながら、かつて「恋の山手線」で
裕次郎に準ずる日活スターの小林旭がこう歌った。

 ♪ 上野オフィスの かわいい娘 
   声は鴬谷わたり 
   日暮里笑った あのえくぼ 
   田端ないなア 好きだなア 
   駒込したことア ぬきにして 
   グッと巣鴨がイカすなア  ♪
      (作詞:小島貞二)

秀でた作詞と言えなくもない。

ここでもしも二次会メンバーの中に
ラブホでの憩い(あるいは激しい)の時間を強要、
もとい、共用、再びもとい、共有できる美形がいたらば、
その夜の展開はコペルニクス的転回を見せたやも知れぬ。

あにはからにんや、一夜のアバンチュール能わず、
コップ酒を2杯ほどたしなんで解散と相成った。
人生、TVドラマのように
ドラマチックには運ばんものよのぅ。
やれやれ。

=つづく=

2014年9月3日水曜日

第917話 こち亀タウンに出没 (その3)

亀有駅南口の散策を始めてほどなく、
違和感のある光景に出くわした。
亀有南口は駅から大通りが放射線上にのびており、
これは戦前から変わらない。
それぞれがメインストリートといった風情で
商店街の態(てい)を成している。

奇妙な現場は一本脇道に入った短いアーケードにあった。
間口は2間はあろうか・・・
ガラス張りの作業場で
男女二人が仲良く並んで何やら愛の交歓ときたもんだ。
子づくりに励んでるんだからビックラこいた。
というのは真っ赤な嘘で
彼らが励んで作っていたのはベイビーじゃなく、
サンドイッチでありました。

ちょいとぶしつけながら、モロにのぞきこんでみると、
けっこう旨そうな厚切りのサンドでありました。
喫茶店にありがちな、ひ弱なミックスサンドには似ても似つかない。
こりゃ看過するわけにまいらん。

ガラス戸のすき間から声を掛けてみた。
「あの、すみません、このサンドイッチは買えるんでしょうか?」―
とまどいを見せながらも
並んでた二人のうちの女性のほうが応えたネ。
「ええ、でも高いですヨ」―もちろん値段のことである。

考えようによっては失礼なハナシだ。
アンタには高価すぎるからやめときなさいヨ、ってこと?
落ちぶれ果ててもJ.C.はオトコじゃ!
いかに高くともサンドイッチくらい買えるわい!

おそらく彼女の伝えたい主旨はそうではあるまい。
察するところ、以前にも近所のオバさんが
同じ質問をしたのであろうヨ。
でもって値段の高さに驚かれた挙句、
皮肉のひとつを見舞われたのではなかろうか。

作り手みずから”高い”と宣言したサンドの値段は700円。
まずはそのボックスをご覧くだされ。
カツさんど 〔ちーず〕とある
恵比寿・キムカツ、銀座・ゲンカツともある。
訪れたことはないが、キムカツの名は知っていた。
薄切り豚肉を重ねて揚げた、いわゆるミルフィーユ・カツの店だ。

ふ~ん、そういうことか―。
おみやげ用のカツサンドは外注だったんだ。
でも、考えてみりゃ、こういうことってよくあるんだろうな。
鮨屋の折詰なんかと違って、立て混むとんかつ屋が
いちいちテイクアウトのカツサンドを調整していたら、
イート・イン客を速やかにさばくのは至難となるものねェ。

=つづく=

2014年9月2日火曜日

第916話 こち亀タウンに出没 (その2)

こちら「葛飾区亀有公園前派出所」、略して「こち亀」。
その舞台となっている亀有。
戦後、城東有数の紅燈街としてにぎわった。
紅燈街とはレッド・ランターン・タウンのこと。
これじゃ余計に通じないか―。

いわゆるカフェー街、あるいは慰安所、
ハッキリ言ってしまえば赤線地帯である。
新吉原のように遊廓と呼ぶのはしっくりこない。
なぜなら日立製作所の社員寮2棟を
特定業者がそっくり買い取って開業したからだ。

亀有駅・南口から徒歩2~3分の距離となれば、
当時、省線にもっとも近い赤線だったであろう。
社員寮を改装したため、部屋はアパート形式。
部屋へ出はいりの際に
知った顔と鉢合わせするリスクが高かったそうだ。

亀有のカフェー街が隆盛したのは戦後と前述したが
実際に認可が下りて開業したのは
無謀極まりない戦争の末期も末期、1945年8月8日だった。
トルーマンが落とした2発の原爆のはざま、
スターリンが条約を破棄して侵略を始めた前日である。
そんなさなか、すでに焦土と化した帝都の片隅に
新たなる赤線がオープンし、客を集めたという事実に驚く。
人間のあくなき欲情はとどまるところを知らない。
もはや業(ごう)というべきか―。
いや、ことがセックスだけに性(さが)なのであろうヨ。

赤線地帯の解説はほどほどにしておこう。
コミック誌「少年ジャンプ」の連載における、
最長不倒距離を現在も更新中の「こち亀」である。
何せスタートしたのが1976年だからネ。
もっとも同じコミック誌「ビッグコミック」の「ゴルゴ13」には及ばない。

とにもかくにも「こち亀」のおかげで
一躍、全国区に上り詰めた葛飾区のローカルタウン亀有。
駅前の北口と南口には
警察官・両津勘吉ののスタチューが訪れるファンをお出迎えだ。

数年ぶりにこの町に出没してみた。
最近、隣り駅の金町にはちょくちょく出掛けるから
毎度まいど素通りでは
何だか悪いみたいで気が引けていたこともある。

その日は夕刻から荒川区・町屋にて小宴会が控えており、
久方ぶりの亀有ながら散策だけにとどめた。
南口を出て商店街をウロつき始める。
するとまもなく奇妙な現場に遭遇したのだった。
この光景を目にしてスッと立ち去れる散歩者、
殊に食いしん坊は絶対にいないでしょうヨ。

=つづく=

2014年9月1日月曜日

第915話 こち亀タウンに出没 (その1)

 ♪ しゃれた日焼けに 涙が流れる
   あ~ 秋かしら
   やさしく説くように 別れを告げた
   あなたでした
   心の水面に さざ波が立って
   あ~ 秋ですね
   鏡を見つめて小さな声で
   一人でつぶやく 秋の詩
   季節の変わり目を
   あなたの心で 知るなんて
   もう恋も もう恋も 終わるのね ♪
         (作詞:中山丈二)

高田みづえが歌った「秋冬」のリリースは1984年。
大関・若島津の女将さんとなって
芸能界を退いた彼女だが、この曲がヒットするまでは
一流ヒットメーカーの作曲力に
それこそオンブにダッコに肩車状態だった。

歌手としてのパーソナル・ヒストリーをたどってみると、
デビューは1977年、宇崎竜童作曲の「硝子坂」。
それからほとんど鳴かず飛ばずだったが
復活したのはご存知、サザンの桑田による、
「私はピアノ」で、それが1980年。

翌年のリトルヒット、「涙のジルバ」は作詞・作曲ともに松宮恭子。
コレはいい曲だったけどねェ。
そのまた翌年、1982年の「ガラスの花」は谷村新司の作曲。
佳曲ながら”谷村色”が強すぎるきらいがあって永くは続かない。
そしてそのまた翌年の「そんなヒロシに騙されて」は再び桑田だ。

しつっこいけど、その翌年の1984年が上記の「秋冬」というわけ。
なおもしつこいけど、翌年の1985年初頭には
若島津との婚約発表により、歌手生活の幕を閉じることになる。

おっと、今話のテーマはみづえチャンに非ず。
先日、本郷のそば屋でせいろを1枚いただいて
西片方面に歩み出すと、東大のキャンパス方向から
ゆく夏を惜しむかのようにミンミンゼミがかしましい。

ところが陽が沈んでしばらく、こんどはコオロギが鳴きすだく。
昆虫界でもオスは過酷な”人生”を送っている。
セミとコオロギ、水商売の早番・遅番じゃあるまいし、
うまいこと、昼夜をすみ分けて生きているんだネ。
一年を通じてこの時期だけの現象で
今はまさしく季節の変わり目なのでしょう。

それにしても「秋冬」の歌詞にあるように
季節の変わる毎に男女が別れを迎えていたんでは
男も女も気の休まるヒマがない。
殊に男の場合は身体の休まるヒマがない。
おっと、不本意ながら、またシモネタの雲行きになった。
本題はサブタイトルにある如く、こち亀タウンなのでした。

=つづく=