2014年10月31日金曜日

第959話 ブルースに寄せて (その1)

前話で行きががり上、紹介した「暗い港のブルース」。
さっそくお二人の読者から反響があった。
いただいたお便りを披露してみたい。

最初に北海道・函館市のY村M明サン。

突然のメールで失礼します。
いつも楽しく「生きる歓び」を拝読しております。
今日は突然、「暗い港のブルース」が出てきて驚きました。
この曲は私の思い出の曲なんです。

当時、私は札幌のレストランに勤めていました。
そこへ何人かのアルバイトの女子大生が入ってきました。
ほとんどが夏休み期間だけの短期採用でしたが
私は一人の女性を好きなってしまいました。

一度だけデートをしました。
映画に誘ったのです。
それが何と、J.C.さんがいっておられた「ある愛の詩」で
二度びっくりです。
失恋みたいなかたちではかない夢に終わりましたけど、
彼女のことは今でもときどき思い出します。

働いていた店にジュークボックスがあって
20円か50円か忘れましたがコインを入れて楽しみました。
そこに「暗い港のブルース」があったんです。
彼女の去ったあと、面影を慕いながらよく聴いたものです。

青春時代にスリップさせていただき、
まことにありがとうございました。

こういう便りはうれしいなァ。
実はJ.C.、Y村サンのメールにびっくり仰天したのである。
忘れもしない1972年、
「暗い港の~」がリリースされた翌年だが
芝公園のシティホテルでこちらもバイトをしていた。

ビヤガーデンのはずれに「プリンス ビラ」なる別館レストランがあり、
しばしばその店に配属された。
そこにはやはりジュークボックスが設置されていて
しかも「暗い港の~」がカバーされていたのだ。
そしてY村サン同様、よく聴いたのだった。

いやはや、こんな偶然ってあるんですねェ。
ホントにびっくらこきました。

それにしても1960年代から’70年代前半にかけて
都内の(日本全国だろうが)飲食店には
けっこうな数のジュークボックスが置かれていた。
シティホテルのレストランでさえそうだから推して知るべしだろう。
ジュークが消えていったのは
カラオケが世に現れた’70年代後半だったように記憶している。

=つづく=

2014年10月30日木曜日

第958話 よこはま・たそがれ 酒場のはしご (その9)

「市民酒場 常盤木」で”巨肌”の”暴巨”を許し、
寛容に支払いを済ませ、夜の岩亀横丁を往く。
開いている店舗が少ないせいか、
あたりには暗い空気が流れている。
とても往時、盛りに盛った道筋とは思えない。

短い横丁につき、ほどなく大通りに出た。
京浜国道は第一も第二も横浜で終わりだから
以降はおそらく横浜街道であろうヨ。
北へ上るか、南へ下るか、行く先は二つに一つ。
ここは一番、野毛や関内が控える南に向かって歩く。

JR京浜東北線・桜木町駅前に来たとき、相方がつぶやいた。
「さっきのパン、食べたいな」―岩亀横丁の「開勢堂」で買った、
とんかつドッグとメンチカツバーガーのことである。
野毛の飲み屋街に廻る心積もりではいたが
ふむ、その手があったか・・・悪くはないな。

ここでJ.C.、思いをめぐらす。
山下公園は遠すぎるが
横浜港に注ぐ大岡川の河口に近い弁天橋の下には確か、
川に向かってベンチが並んでいたハズ。
行ってみたら案の定、ありました、ありました。

橋のたもとのコンビニで缶ビール、赤ワイン、チーズを調達し、
並んでいたベンチの一つに二人は並んだ。
大岡川の川面は暗く、その先の横浜港はもっと暗かった。

 ♪  いとしいひと あなたはいま 
   名前さえ告げずに 海にかえるの 
   白い霧に 目かくしされ 
   遠い船の汽笛 ぼくは聴いてる 
   かりそめの 恋をさけんだけれど 
   あふれくる 涙 涙 涙 
   切れたテープ 足にからめ 
   あなたの影を追う 暗い港  ♪
      (作詞:なかにし礼)

キングトーンズが歌った「暗い港のブルース」は1971年4月のリリース。
詞・曲(早川博二)ともにずばらしく、日本歌謡史に輝くブルースである。

当時、19歳のJ.C.は初めての海外旅行の途中。
ソ連・北欧からドイツを経て
イタリア・スイス・フランス・スペイン辺りをさまよっていた。
ただし、常に頭の中を駆け巡っていたのは
出発直前の3月下旬に観た米映画、「ある愛の詩」のテーマ曲。
フランスでもミレイユ・マチュウの歌唱で大ヒットしており、
シャンゼリゼの映画館で再観したものだった。

暗い港を眺めながら
パン(なかなかだった)とチーズでワインを飲み干し、
長かったはしご酒の一日はこれにてお開きと相成りました。

=おしまい=

「市民酒場 常盤木」
 神奈川県横浜市西区戸部町5-179
 045-231-8745

2014年10月29日水曜日

第957話 よこはま・たそがれ 酒場のはしご (その8)

みなと横浜のちょいと先、戸部四丁目は
岩亀横丁の「常盤木」で小肌酢と対面している。
いや、マイッたな。
何がマイッたんだ! ってか?
とにもかくにもご覧くだされ。
コイツはすでにコノシロだ!
コノ、いいかげんにシロ! であった。
東京の下町ではこの手のシロものは小肌とは言わない。
This is a Kyohada!
そう、小肌じゃなくて巨肌である。
もう、見ただけでイヤ、イヤ!
ウチ、こんなん食べられへん!
浪花は法善寺のイトはんなら、ま~ずギヴアップだろう。

だけどねェ、箸もつけずに返品ってわけにもいくめェヨ。
われわれ善人カップルは
おそるおそる1切れずつ、口元に運んだべサ。

グワッ!
何なんだヨ、コノ生臭さツ!
二人、天を、もとい、天井を仰いで絶句の巻であった。
それもそうだ、添えられてるのはわさびじゃなくて生姜だもの。
いや、マイッたぜ。

「P子ッ、オマエ何だってこんなモン頼むんだヨッ!」
「あらッ、J.C.も賛成したじゃないッ!」

軽くいなされたが、いやはや、もめた、モメた、二人は揉めた。
近頃、ウチワで辞職した法務大臣がいたが
こちらもウチワもめであった。
結局は薬局、こいつは口直しが必要不可欠という結論にいたる。

そこは気心の知れた仲、キッスで口直しという妙案もあったが
公衆の面前でハレンチな所業は避けておきたい。
何かもう一品、つまみに託すことにした。

「生モノはいかんヨ」―言い捨てると、
「判ってる、ここは揚げモノでしょっ!」―ふむ、学習効果てきめんだ。

でもって相方が追加注文したのはコレ。
そうは見えないイカのかき揚げ
そうなんです、コレがイカのかき揚げなんですゥ!
先刻、いただいたニラ天と同じ技を使ってるな、こりゃ。
イカより玉ねぎが主張してるけれど、
ニラ天同様にサクサクした歯ざわりが魅力であった。

ニラ天とイカかき揚げ、この二品の殊勲により、
巨肌の失策を免責することにした。
許す、許す、J.C.は許す。

=つづく=

2014年10月28日火曜日

第956話 よこはま・たそがれ 酒場のはしご (その7)

たそがれの横浜ではしご酒を楽しんでいる。
舞台は岩亀横丁、「市民酒場 常盤木」だ。
前話でふれた店にまつわる違和感だが
店内の雰囲気が期待というか、予想とはまったくの真逆、
都内ならどこにでもありそうな、
ごくごくありふれた何の変哲もない居酒屋然としているのだ。

時代遅れのすばらしき酒場、
「みのかん」から流れて来たせいもあろう。
でもネ、落差の激しさにとまどい、
もの足りなさを感じてしまう自分がいる。
岩亀横丁随一の酒場でありながら
J.C.的には”横丁抜群、酒場それなり”でしかないのだ。

気を取り直して壁に貼りめぐらされた短冊を見やる。
例によってみなさんのお目に掛けておこうか。

 自家製新香 200円  ポテトサラダ ニラ天 しらすおろし 各300円
 枝豆 いか塩辛 玉葱フライ 各350円  シューマイ 小肌酢 各400円
 野菜天 いかかき揚げ あじフライ ニラ玉子焼き もつ煮込み 各400円 
 さば塩焼き ねぎチャシュー 各450円  まぐろブツ ミックスフライ 各500円

てなところ。
気になったのはまずニラ天で女将に訊ねると、
「ニラの天ぷらです」とのお応え。
まっ、そりゃそうでしょうヨ。
くわえて事前調査ではシューマイが名物と聞いており、
以上2品をお願いする。
世にも珍しいニラ天
これがサックリと揚がって実に軽妙な歯ざわり、
まことにけっこうでありました。
「常盤木」名物のシューマイ
この日の昼に食べた「廣州亭」のそれよりずっとなめらか。
相方ともどもコチラに軍配を挙げた。
訊けば店主は横浜中華街で修業を積んだとのことだ。

店内は徐々に立て混み始めた。
カウンター4席、テーブル4人掛け4卓の8割方が埋まった。
界隈の人気店であることに間違いはない。

相方に何かもう1品選ぶようにいうと小肌酢を選んだ。
もちろんひかりモノは好きだから異存はない。
異存はなかったが運ばれ来たるブツを一べつして
胸の置くからクエスチョンマークがプッカリ浮かびあがった。

小肌は言わずと知れた出世魚。
 シンコ→コハダ→ナカズミ→コノシロ
以上の順で成長とともにその名を変える。
ところがであった。

=つづく=

2014年10月27日月曜日

第955話 よこはま・たそがれ 酒場のはしご (その6)

「岩亀楼」の亀遊の亡霊に
誘い込まれるようにしてやってきた岩亀横丁。
それにしても「岩亀楼」の遊女で亀遊というのは
ちょいと出来すぎの感、無きにしも非ず。

横丁に入ってすぐ、目を惹かれたのは1軒のパン屋だった。
これが何とも言えず、よかたたずまい。
まずはご覧くだされ。
その名も「開勢堂ベーカリー」
”開く勢い”とはいかにも文明開化の発祥地、横浜ならではだ。
J.C.はこういう店舗にきわめて弱い。
パリの街角にありそうな、
オサレなブーランジェリーなんぞには目もくれないのに
とろとろレトロのパン屋にはコロリとやられてしまう。
ハハ、誰しも弱点はあるもんでごわす。

店先に設置されたITOENの自販機に鼻白むが
これはこれで新旧を際立たせる効果的装置と言えなくもない。
むろんのこと、看過すること能わず立ち寄った。
ツレのP子もこういう店は大好きなのだ。

結局は薬局、「開勢堂」ではいつ食べるあてもなく、
とんかつドッグとメンチカツバーガーを購入。
見た目、かなり美味しそうだったし・・・。

それにしても岩亀横丁に漂い流れる寂れ感はどうしたものか?
かつて栄えたこの通りは
完全に終わっちゃいないけど、ほとんど終わってる。
すでにシャッターを下ろした飲食店、ビジネスホテルが軒並みだ。
そんななかで目当ての「常盤木」が暖簾を掲げていた。
ココも「みのかん」同様、市民酒場を自称している。

ここでふと思い当たったが横浜に市民酒場があるのに
なぜ東京に都民酒場や区民酒場がないのだろう?
べつに都や区の行政が阻止してるわけじゃなし、
誰か”都民酒場”を開店してくれないものかいな。

「常盤木」は開店後間もないせいか先客ゼロ。
横浜らしくビールはキリンのみで大瓶をもらう。
相方はビールに飽きた様子、梅酒ソーダを注文している。
突き出しはワカメ刺し
店の切盛りは家族3人。
三代目夫婦に、どちらの実母か訊きあぐねたが
二代目の未亡人の大女将という顔ぶれだ。
ただし、入店したときから
肩透かしを食らったような違和感がつきまとっていた。

=つづく=

2014年10月24日金曜日

第954話 よこはま・たそがれ 酒場のはしご (その5)

 ♪ よこはま たそがれ ホテルの小部屋 
   くちづけ 残り香 煙草のけむり 
   ブルース 口笛 女の涙 
   あの人は 行って行ってしまった 
   あの人は 行って行ってしまった 
   もう帰らない         ♪
       (作詞:山口洋子)

以前に語ったやもしれないが
五木ひろしのナンバーではこのデビュー曲がマイ・ベスト。
サブタイトルからしてそろそろ出る頃だろうと
待ちかねておられた諸兄のご期待に応えた次第である。
エッ、待っちゃいねェヨ、ってか?

そうッスヨねェ、読者の中には♪マークが登場すると、
あ~あ、また始めやがって!
ゲンナリする向きが少なくないように聞き及んでいる。
大阪で歯科医院勤めのらびちゃんなんざその最たるもので
彼女は演歌なんかまったく聴く耳持ずだもんネ。

歌の歌詞にもあるごとく、たそがれどきのよこはまには
ホテルの小部屋がピッタリなんだろうが
生憎、われわれ二人はホテルよりも酒場を好む。
今しがた出た「市民酒場みのかん」から
岩亀(がんき)横丁を目指し、
けっこうな道のりをテクテクと歩いて行った。

そうして到着した岩亀横丁。
まずは特異な名前の由来から語りまっしょう。
現在、横浜球場のある辺りにかつて港崎(みよざき)遊郭があった。
開業したのは幕末の1859年。
幕府に開設を依頼したのは当時のオランダ公使だったという。
オランダ人は好きだからねェ。

その港崎遊郭でもっとも豪奢な大まがきが「岩亀楼」。
経営者は幕府に請われて品川宿から乗り込んできた岩槻屋佐吉だ。
姓は岩槻、屋号は岩亀ということなのだろう。

この大店(おおだな)は客の少ない日中に
入場料をとって内部を見学させていたほどのもの。
遊女も日本人向けと外国人専用(羅紗緬)の2組に分別していた。
「岩亀楼」で働く遊女たちの静養所があった町がこの横丁で
いつしか岩亀横丁と呼ばれることとなる。

一つの悲しい逸話が残っている。
往時、「岩亀楼」には亀遊なる遊女がいた。
或る夜、佐吉かどうかは定かでないがマネージメントに
アメリカ人の一夜妻を命じられる。
そのミッションをきっぱりと拒否し、自害して果てたのだ。
そのとき残したのが

 露をだに いとう大和の 女郎花
 ふるあめりかに 袖はぬらさじ

世に有名な辞世の句であった。
有吉佐和子が小説化したので、ご存知の方も多かろう。

それにしても”大和の女郎花(おみなえし)”、
見上げた心意気と言わずばならない。
亀遊よ、そこもとの憾みはしっかりと、
なでしこジャパンがはらしてくれたぞヨ。

=つづく=

2014年10月23日木曜日

第953話 よこはま・たそがれ 酒場のはしご (その4)

昨話のラストはもったいぶってしまい、ゴメンなさい。

「市民酒場みのかん」でハイボールの原酒となるウイスキーだった。
相方・P子が読み取ったところによれば、
”オークマイスター 樽香る辛口ウイスキー”という代物。
造り手は国産ワインを手がけるメルシャンである。
口当たりは悪くなかった。

ここでまたP子が妙なことを指摘した。
昨話の最後の写真を見ていただくとお判りになろうが
数本のボトルは底に何センチか、液体を残したままになっている。

Why?
この答えが見つからない。
都心にせよ、場末にせよ、バーならどこでも
ウイスキーは最後までキッチリと消費するハズ。
なぜだろう? なぜかしら?
そんな疑問もしょせんはマイナー・プロブレム。
2時間余りを過ごしてお勘定だ。

外へ出ると、店先に小ぶりのダンボール箱が一つ。
それも玄関の正面にあった。
誰が置いたのか存ぜぬが、店を訪れる客にはジャマな位置にある。

酔いも手伝って好奇心に捉われたJ.C.、
箱を開けてみたら、中に2個のペットボトルあり。
1つ引き出してみると、
ラベルはラッキー・オーシャン・ウイスキー。
それも2.7 リットルのデカいヤツだ。
このサイズはもはやペットボトルとは呼べんわな。

ここでハタと思い当たった。
「みのかん」のハイボールの原酒はブレンドだったのだ!
おそらくメルシャン少々に
オーシャンたっぷりのブレンドを使っているのだろう。
だからこその底に何センチかのメルシャン、ふ~ん、なるほどな。

街はたそがれどき。
通常、この界隈で飲むとなると、野毛に赴くことがほとんど。
しかし、この日は心に定めた店があった。
横浜から京急なら一つ目の戸部、
市営地下鉄でも一つ目の高島町、
両駅から近い岩亀横丁が目指すポイント。
ちなみに”岩亀”は”いわかめ”ではなく、”がんき”と読む。

=つづく=

「市民酒場みのかん」
 神奈川県横浜市神奈川区青木町10-13
 045-461-6618

2014年10月22日水曜日

第952話 よこはま・たそがれ 酒場のはしご (その3)

JR京浜東北線は東神奈川と、
神奈川のちょうど中間に位置する「みのかん」。
このステキな空間に身を置けることの歓びをかみしめている。
すばらしきかな時代遅れの酒場

 ♪ この街には 不似合いな
   時代遅れの この酒場に
   今夜も やって来るのは
   ちょっと疲れた 男たち
   風の寒さを しのばせた
   背広姿の 男たち

   酔いがまわれば それぞれに
   唄の一つも 飛び出して
   唄を唄えば 血がさわぐ
   せつなさに 酔いどれて
   気がつけば 窓のすきまに
   朝の気配が しのびこむ

   あ~あどこかに 何かありそうな
   そんな気がして
   俺はいつまでも こんな所に
   いるんじゃないと      ♪
   
      (作詞:加藤登紀子)

健サンが店主、登紀子サンが女将の「居酒屋兆治」。
この映画の主題歌が「時代遅れの酒場」だ。
作曲も登紀子サンで、唄ったのは健サン。

そう、「みのかん」は時代に取り残された酒場であった。
唄の歌詞と異なるのは
やって来た男たちがちっとも疲れていないこと。
みんな元気いっぱいでそれぞれに
ビール・酎ハイ・ハイボール・日本酒に挑んでいる。
古き良き空間にたたずむ男たち
夏が過ぎ、役割を終えた扇風機がいい味を出している。
そう、そう、書き忘れたが、この店の床は三和土(たたき)だ。
ちょいと足元をパチリ
ビールからハイボールに切り替えた。
酎ハイではなく、ウイスキーハイである。
グビッと飲って、どうもサントリーの角ハイではなさそうだ。
このとき目ざといP子が見つけたのがコレ。
見なれぬウイスキーボトルが並んでいる
視力が衰えたせいかラベルの文字が読み取れない。
若い相方に訊ねると、このウイスキーの銘柄は・・・
と、ここまで書いて以下、次話と相成ります。

=つづく=

2014年10月21日火曜日

第951話 よこはま・たそがれ 酒場のはしご (その2)

神奈川県・仲木戸の「市民酒場みのかん」。
噂に聞いていた通り、黙ってても出てくる突き出しはおでん。
厚揚げとちくわぶ
われわれが陣取ったカウンター席の真ん前はデシャップ台、
いわゆる料理の出る窓である。
いまだ入所したこたあないけんど、
拘置所だったらシキテンと呼ばれてるヤツだネ。

でもって出来上がった注文品は
すべて手に取るように拝見できる。
見ていると、くだんの突き出し用おでんの種はコロコロと変わる。
じゃが芋とさつま揚げだったり、そこにこんにゃくが混じったり、
まあ、適当な2品の組合せなのだ。

つまみのラインナップはきわめてシンプル。
ちょいと紹介しておこう。

 かまぼこ まぐろさしみ たこさしみ もつ煮 
 おしんこ 冷ややっこ ゆどうふ ゆでたまご 
 きんぴらごぼう メンマしなちく トマト

目についたところでは、これでおしまい。
ゆでたまごがメニューに載っている店は初めてかもしれない。
好きなモンを選ぶように相方に告げると、ゆどうふとのこと。
それがコレである。
一見、冷ややっこと変わりナシ
ところがコイツが熱々だった。
湯豆腐ではなく、いわゆる温やっこというヤツだ。
削り節がたっぷり掛かり、悪くなかった。
何せ、180円なんだからネ。

J.C.はまぐろの刺身を所望した。
たっぷり盛られて400円
ずいぶん安いや。
市民酒場の面目躍如じゃないか。
ついでに頼んだメンマしなちくは200円ときたもんだ。

ちなみにドリンクメニューはかくのごとし。

 ビール大 490円  同小 290円
 ハイボール 260円  同W 430円
 酎ハイ 340円  酒上撰 260円
 酒 200円  ウーロンハイ 390円 

せんべろ酒場も真っ青だ。

ひょいと、カウンターの隅を見やると、
アサヒスーパードライのラックがキリンラガーのそれとともに積まれていた。
店主に訊ねたら、アサヒも置くようになったと言うではないか。
なぜ、初手からそう言わぬ!
と思ったが早合点した当方が悪いわな、こりゃ!

=つづく=

2014年10月20日月曜日

第950話 よこはま・たそがれ 酒場のはしご (その1)

弘明寺をあとにして、やって来たのは京急・仲木戸駅。
JR京浜東北線・東神奈川駅に隣接している。

あれは去年の8月。
暑い盛りに横浜の魚河岸、中央卸売市場へ出張ってゆき、
場外の食堂、「浜膳」で昼めしを食べた。

そこから相方と仲木戸経由、東急東横線・白楽まで歩いたのだった。
今回はかつて来た同じ道を逆行している。
しかも相棒はあのときと同じP子だ。
それもまたヨシ。

滝の川の向こうに目当ての飲み処が見えてきた。
その名も「市民酒場みのかん」。
川添いに風情のある姿を見せている。
市民酒場の名にふさわしい  
訪れるのは初めて。
来たいと思い続けていたが、やっとのぞみがかなった次第だ。
しばし店先にたたずみ、感慨にふける。
というのは、少々大げさだがネ。

気持ちを整えておもむろに入店した。
おう、おう!  中の雰囲気もすばらしい。
向かって右側に長めのカウンターが一気通貫。
左手には小卓が四つほど並んでいた。
テーブルはみな二人掛けで、七対子ならぬ、四対子といった趣きだ。
んなこと言っても、麻雀卓を囲まぬ向きには意味不明であろうヨ。

時刻は15時前。
時間が早いせいか、客入りは3~4分といったところ。
そうこうするうち、ポツリぽつりと客足がのび、
店内はそこそこの活況を呈してきた。

店主と常連客が言葉を交わしている。
「こんな時間から混むのは珍しいネ、オヤジさん!」
「ホントだなァ、今日はどうしちゃったんだろう?」
まっ、われわれみたいなプラスα もオジャマしてることだし・・・。

エニウェイ、さっそくの瓶ビールだ。
この手の心ある大衆酒場のビールは常に大瓶。
中瓶のような中途半端なモンは金輪際出さない。

ただし、ここは東神奈川といえども横浜のはずれだ、
銘柄は当然キリンに定まろう。
周りを見渡すと、やはりみんなラガーを飲んでいる。
最近、とみにコイツの苦みが鼻についているJ.C.ながら
とにかく、ベター・ザン・ナッシング、お願いはしておいた。

=つづく=

2014年10月17日金曜日

第949話 観音に 裏があるなら 下もある (その5)

弘明寺の「廣州亭」でビールを飲みながら
料理の出来上がりを待っている。
ふと気がつけば悩みでもあるのか、
接客担当の店主が思案にくれていた。
にわか仕立ての考える人
「開業は何年くらい前ですか?」―声を掛けてみた。
「親の代からだから戦前ですねェ」―ハッキリとしたことは判らない様子だ。
「オヤジさんが二代目ってこと?」―なおも踏み込むと、
「ええ、でもアタシで終わりかな?」―笑いに悲哀がにじんでいた。

いかにも手造りといった風の焼売が運ばれた。
ゴツゴツとしていて肉々しい  
もうちょいと、つなぎとしての片栗粉や
玉ねぎが主張するタイプが好みなんだがなァ。
味にインパクト薄く、添えられた辛子だけではもの足りない。
そこで酢・醤油・辣油の助けを借りた。

サンマーメンは小ぶりのドンブリで登場。
 これで400円は大バーゲン
具の野菜炒めにトロみがかかり、典型的なサンマー・スタイル。
ストレートで色白な麺は横浜中華街における主流タイプだ。
しかし、シウマイ同様、どことなくパンチ力不足。
相方が酢を掛けたいと言うので、ご自由にどうぞ!である。

料理に特筆すべき点はまったくないものの、好きだなこういう店。
この古き良き空間に身を置けただけでもシアワセだった。 
 客層も年配者ばかり
会計を済ませて外へ。
目の前に懐旧の情を誘う「ジャーマン・ベーカリー」があった。
P子はしきりにホットケーキを食べたがる。
しかし、そんなものは間髪入れずに冷たく却下だ。

駅へ戻る道すがら、弘明寺観音に立ち寄った。
この寺は瑞應山蓮華院と号し、
実に1300年の歴史を有する横浜市内最古の寺院。
見たところ、それほどの古刹(こさつ)とも思えぬが、
やはり名刹なのであろう、端正なたたずまいを見せていた。
相方もお気に召したようだ。
仁王門から本堂へつづく階段
二人、手を合わせたら
観音下から坂を登り、京急の駅に舞い戻った。
ここから河岸を代えて、本格的な酒交が始まる気配なり。

=おしまい=

 「廣州亭」
 神奈川県横浜市南区大橋町3-66
 045-731-391

2014年10月16日木曜日

第948話 観音に 裏があるなら 下もある (その4)

横浜市・南区の弘明寺で昼めし。
町の老舗中華、「廣州亭」の店先にたどり着いたところだ。
その入口ドアの貼り紙にはこう記されていた。

”本日臨時休業”

というのは悪い冗談で

”本日 サンマーメン 400円!”

であった。
あとでメニューを見たら普段は500円だから2割引になる。

横浜名物というか、神奈川の郷土食と呼ぶか、
とにかく東京都内の中華屋では
まず見かけないサンマーメンが弘明寺にもあった。
鎌倉在住のP子にとっちゃ、珍しくも何ともないだろうが
せっかく本日のサービス品でもあることだし、ここは抑えておきたい。

ガラスのドアを押すと同時に
かなり年配の男性二人が声を揃えて「いらっしゃいませ!」。
その日の天気は快晴につき、
外が明るすぎたせいか、店内は目がなれるまでずいぶん暗く感じた。

時間が止まったような空間は心なしか空気までよどんでいるみたい。
先刻、肩透かしを食らった「天華」では
自家製シウマイを注文するつもりだったので
すでに気持ちがシウマイ・モードに入っており、避けて通ることはできない。
シウマイとサンマーメン、横浜名物の代表格を2品お願いした。
それに瓶ビールである。

横浜は国産ビール発祥の地。
製造したのはキリンだから今もほとんどの飲食店がキリンを置いている。
ダメもとで店主に訊ねると、意外にもアサヒがあった。
僥倖を歓ぶべし。

菜譜(メニュー)を簡単に紹介しておこう。

ラーメン ワンタン 各400円  タンメン カレーソバ 各500円
叉焼メン シイタケソバ 天津メン 五目ソバ バンメン 各600円
ヤキソバ ヤキメシ 中華丼 天津丼 カレーライス 各600円 
五目ヤキソバ エビヤキソバ 五目ヤキメシ エビヤキメシ 各800円
定食(料理2品・スープ付き) 1200円
カニ玉 酢豚 肉団子 エビ豆腐 マーボ豆腐 各1300円
アワビのウマニ 3000円  フカヒレスープ 3500円

バンメンなる聞き慣れない一品は広東麺のことだ。
マーボ豆腐がちょいと高いように思う。
同値なら注文はエビ豆腐に流れるのではなかろうか・・・。

=つづく=

2014年10月15日水曜日

第947話 観音に 裏があるなら 下もある (その3)

原因不明の「天華」の休業で出鼻をくじかれはしたが
そこは粘り腰の二枚腰、「廣州亭」に移動した。
すると、ドアに1枚の貼り紙であった。

 ♪ 誰もが物語 その1ページには
   胸はずませて 入ってゆく
   ぼくの部屋のドアに 書かれていたはずさ
   ”とてもかなしい物語”だと

   窓の外は雨 あの日と同じ
   肩を濡らした君が 
   窓の向こうに 立っていたのは  ♪

イルカが歌った「雨の物語」は1977年のリリース。
イルカといえば、
日本音楽史にその名を残す「なごり雪」がイの一番だろうが
J.C.は同じ伊勢正三の手になる「雨の物語」が一番好き。

マイ・フェイバリットにつき、出だし一番の歌詞も披露しちゃおう。

 ♪ 化粧する君の その背中がとても
   小さく見えて しかたないから
   僕はまだ君を 愛しているんだろう
   そんなことふと 思いながら
  
   窓の外は雨 雨が降ってる
   物語の終わりに 
   こんな雨の日 似合いすぎてる  ♪

毎度のごとく、ハナシは脇道にそれるが
もう20年も以前、往時の恋人がよくこの歌を口ずさんでいた。
いつものように何気なしに聴き流していたある日、
ふと思いついた。
ヒロインは何だって別れ間際に化粧なんかしてるんだい?
そしてオトコは何でまたその様子を観察してるんだい?

疑問を素直に歌い手に質すと、
彼女、あきれ顔でこちらを見つめ、さげすむように言ったネ。
「そんなことも判らないの?」―こりゃ明らかにこころの中で
(デリカシーのないやっちゃナ!)―こう思っているに違いない。

恋人曰く、彼女は水商売でこれから出勤なんだと。
生活力のないオトコを支えていたけど、
とうとう嫌気が差して別れを決心したんだと。

へェーッ! 何でこの短い歌詞からそんなことまで判っちゃうワケ?
以来、演歌だろうが、Jポップだろうが、
歌の歌詞には神経を配るようになりましたとサ。

弘明寺に戻る。
「廣州亭」のドアの貼り紙にはこうあった。

と、ここまできて紙面尽きました。
ハナシがちっとも前に進まず、ごめんなさい。
以下、次話!

=つづく=

2014年10月14日火曜日

第946話 観音に 裏があるなら 下もある (その2)

神奈川県は横浜の先にある弘明寺に出掛けることになった。
横浜市営地下鉄も通っているが
昔ながらの京浜急行だと
横浜から6つ目で、上大岡の一つ手前になる。

さて、昼めしの身の置きどころであった。
惹かれるのは昭和の匂いプンプンの中華屋2軒。
この日は相方・P子ともども終日フリーで
昼めしとは名ばかりの、
実質は昼飲みになること必至の情勢だ。

よって「天華」と「廣州亭」の両方やっつけることにした。
ガッツリ食べるとなったら、昼に2軒は相当キツい。
若い相棒はともかく、老頭児(ロートル)にはムリ。
それがそれぞれの店で一品料理と麺類を一つづつ取り、
ビールを楽しむぶんには2軒など楽勝だ。
うん、このラインでまいろう。

P子にその旨伝達すると、
わが意を得たり! とニッコリ笑顔の絵文字が返ってきた。
フフッ、この呑みスケめがっ!

京急・弘明寺駅で待ち合わせたのは金曜日の正午前。
陽は高々と昇っちゃいるが、吹く風涼やかにして快適な秋の日だ。
当然、観音さまへのお参りは中華のあとにした。
あくまでも飲み食い優先である。

急でもないが、なだらかでもない坂を下って「天華」の店頭へ。
ありゃりゃ、暖簾が出てないゾ。
店内に人の気配なく、”本日休業”の札も出てない。
第一、金曜定休の店はきわめてまれだろう。
これはあきらめるしか手立てナシ。

気を取り直してアーケードを進む。
洋食の「マコト」は営業中だ。
テイクアウト・コーナーには
カツサンドとハンバーグサンドが1箱づつ置かれ、
用命のある客はベルを鳴らすシステム。
横着といえば横着なハナシではある。

ハナから買うつもりはないから
ベルは鳴らさずにサンドの箱の中身だけチェックする。
あまり美味しそうには見えなかったなァ。

なおも商店街を往く。
ピザ風サンド、ディジェッラの店が見当たらない。
おそらく店仕舞いしたのだろう。
ピザ風サンドなんて、とても当世の売れスジとは思えんもの。

そうして到着した「廣州亭」。
おや? 入口のドアに何やら貼り紙が貼ってある。

=つづく=

2014年10月13日月曜日

第945話 観音に 裏があるなら 下もある (その1)

急に肌寒くなった今日この頃。
鎌倉ののみとも・P子より、メールが来信。

”J.C.は横浜エリアの弘明寺(ぐみょうじ)を知ってる?”

ふむ、質問の意図を計りかねたが、取りあえず返信。

”ああ、知ってるとも!”

実は数年前に弘明寺観音から
観音下のアーケード商店街を散策したことがあった。
わがホームグラウンドの浅草が観音裏なら
弘明寺は観音下である。

先日、とあるフリー雀荘で順番を待っているあいだ、
たまたま手にとった麻雀劇画の舞台が
弘明寺なのでヒドくびっくりしたばかり。
どうしてこの町が雀士の修羅場の舞台になるの?
弘明寺観音は勝負の神様なのかい?

それはそれとして、再びP子から来信。

”行ってみたいんだけど、つき合ってくれないかな?”

どうもコヤツの意図がつかめぬ。
弘明寺観音に参拝したいのか、
あるいは観音商店街でめしでも食いたいのか、
いったい、どっちなんだい?
質してみたら、その両方であった。
ただし、目当ての食事処があるわけではないらしい。
はて? どこに連れ込むかの?

かつて散策した折に一応、マークしておいた店舗は4軒。
桑港ののチャイナタウンにでもありそうな中華屋が2軒、
にっぽんの洋食屋が1軒、
ディジェッラなる、ピザ風サンドイッチを商う店が1軒である。

百聞は一見に如かず。
散策の際、たまたまカメラに収めておいたのでご覧くだされ。
撮影したのはおよそ3年半前であった。
そのうち来よう来ようと思っているうちに
かくも長き月日が流れていたのだ。
商店街入口の「天華」
アーケードの先にある「廣州亭」
洋食屋の「マコト」
店名定かでないディジェッラの看板

四者択一だネ、こりゃ!

=つづく=

2014年10月10日金曜日

第944話 秋の日の厨房 (その3)

乗りかかった舟、あるいは毒食わば皿まで。
とにかくこの日は昼も夜もホーム・クッキングと心に決めた。
午後も自宅にこもり、
資料の整理やらメールのやりとりやらに追われ、
気がつけば灯ともし頃となっていた。

缶ビールをプシュンと開けて晩めしの献立に思いをめぐらせる。
残っている豚バラ肉をメインに据えるのが妥当な線だろう。
バラ肉は薄切りにつき、第一感はしゃぶしゃぶ。
そうだ! それでいこう。

たらちりやしゃぶしゃぶ、
いわゆるちり酢(ポン酢)でいただく鍋ものには
刻みねぎと大根おろしが不可欠。
野菜庫をのぞいてみたら両方ともバッチリだ。

足りないものといえば豆腐で、これは調達せねば―。
あとは副菜に何を持ってこようか?
冷蔵庫で栽培(?)している生わさびを活用するために
何か刺身を一品かな?
豆腐は必須だから、どっちみち出掛けなけりゃならん。
近所のプチ・スーパーへ向かった。

木綿豆腐を一丁購入する。
このとき目にしたのが鳥のもも肉だ。
ひらめいたのは豚のしゃぶしゃぶから鳥の水炊きへの二段活用。
もともとあきっぽい性格だから
ずうっと豚しゃぶで通すのは出来ない相談だったかも・・・。
でもって、鳥もも肉のブツ切りも買い求めた。

刺身のほうは、これゾというのが見つからない。
代用としてかまぼこにした。
本わささえあれば、安価なかまぼこも見違えるように美味となる。
ついでに静岡産(おそらく用宗)の釜揚げしらすもバスケットの中へ。
しゃぶしゃぶのために大根をおろすのだから
それを利用してしらすおろしを一品加えるのだ。
あとは箸休めに味の濃いものを何か・・・。
うん、昆布の佃煮が冷蔵庫にあったな。

そうしてこうして決めた夕食の献立は下記の通り。

 板わさ しらすおろし しいたけ昆布 
 豚バラ肉しゃぶしゃぶ 鳥もも肉水炊き

いや、このラインナップも実によかった。
ほぼ7割の確率で外食よりも内食のほうが美味なのだから
J.C.はかなりの料理上手なのだろうヨ・・・と自画自賛。

鍋を洗っていて気がついた。
昼に炊いた飯が炊飯器に保温されている。
このとき、料理上手(?)は少しもあわてず、
まず、ガーリックバターライスを作成。
水炊き用に買った鳥もも肉の残りはスパイスで和える。
クミン・クローヴ・カルダモン・カイエンペッパー・ガラムマサラを使用。

それをグリルして先ほどのガーリックライスと盛合わせ、
その夜の締めとしたのであった。
う~ん、旨しッ! たまりませなんだ。

=おしまい=

2014年10月9日木曜日

第943話 秋の日の厨房 (その2)

厨房に入ったのは終日、
家にステイしなければならない日であった。
閉じこもっていても腹はへるからメシは食わにゃならない。
となったら昼夜ともに自炊を決め込む。
ここ十数年、出前は取ったことがないからネ。

この日に備えて前夜のうちに買出し。
自宅からそう遠くないスーパーマーケットに出向いた。
おや? ずっと高値止まりしていた生鮮野菜がずいぶん安くなっている。

まずは野菜からと、買い求めたのは、
なす・ピーマン・トマト・きゅうり・レタス。
豚のバラ肉の薄切りも買った。

翌日、朝早く起きて一仕事終えたときはすでに10時半。
米を磨(と)ぎ、惣菜の仕込みに入る。
昼めしの献立はかくの如し。

 豚バラ・なす・ピーマンの鉄火味噌
 納豆 豆腐とレタスの味噌汁 

鉄火味噌は亡き母親の得意料理で
子どもの頃からさんざん食べさせられた。
作り方はきわめて簡単。

中華鍋に油(わが家では胡麻とコーン半々)を引き、
なすとピーマンを炒め、砂糖を振り掛ける。
一度野菜を取り出し、洗わぬ鍋で豚バラにサッと火を通す。
野菜を戻して日本酒で溶いた信州味噌を投入し、
しっかり混ぜ合わせれば出来上がり。

めしのオカズによし。
ビール・日本酒・赤ワインにもピッタリ。
中国料理に回鍋肉あらば、日本料理に鉄火味噌あり!
なのである。

納豆はスーパーだか、コンビニだかで買い置いたヤツ。
賞味期限を2週間も過ぎている。
それを食べたのだ。
読者の中には、ゲッ! と思われる方もおられよう。

フフッ、旨いんだなコレがっ!
殊に柔らかめの納豆には効果を発揮する。
豆に歯ごたえが生まれ、ちょうどよくなるのだ。
買い立てのモノに比べ、風味もずいぶんと増している。
腐敗と発酵は紙一重、食いモンは上手に食いましょう。

レタスの味噌汁ってのはあんまりパッとしない。
これは夕食時ににサラダを食べようと思って
買ったレタスの転用に過ぎない。
男やもめがレタスを丸ごと買っちまったら往生する。
よって苦肉の策と相成ったワケ。
外側の青い葉を胡麻油で炒め、豆腐の味噌汁に落とし込んだ。

炊き立ての宮城米を1膳半いただき、
とっても美味しいランチでございましたヨ。

=つづく=

2014年10月8日水曜日

第942話 秋の日の厨房 (その1)

昨日は早起きして朝7時からTVのWOWOW。
メトロポリタンオペラの「アイーダ」を丸3時間かけて観た。
いや、懐かしい。
何せわが人生、初のオペラがメトの「アイーダ」。
ときに1991年12月28日であった。
’94年には2月にメト、5月にはベルリンのドイッチェ・オーパーでも
この「アイーダ」を観た。

三度観た中では’94年のメトがベスト。
何となれば、王女アムネリス役のドローラ・ザジックが
大の気に入りメゾソプラノだからだ。

昨日観た「アイーダ」でもザジックは
その健在ぶりを余すところなく見せていた。
進行役のルネ・フレミングのインタビューに応えて
「まだまだ上を目指さねば―」―いや、ご立派。

ザジックのアムネリスを語り出すと、
「アイーダ」ばなしはC.C.こと、
クラウディア・カルディナーレの主演映画、「鞄を持った女」にまで及び、
キリがないからまたの機会にゆずる。

 ♪ つたのからまるチャペルで 祈りを捧げた日 
   夢多かりしあの頃の 想い出をたどれば 
   なつしい友の顔が 一人一人浮かぶ 
   重いカバンをかかえて かよったあの道 
   秋の日の図書館の ノートとインクのにおい 
   枯葉の散る窓辺 学生時代    

   讃美歌を歌いながら 清い死を夢見た
   何のよそおいもせずに 口数も少なく
   胸の中に秘めていた 恋への憧れは
   いつもはかなくやぶれて 一人書いた日記
   本棚に目をやれば あの頃読んだ小説
   過ぎし日よ私の 学生時代   ♪

          (作詞:平岡精二)

オペラからいきなり流行歌とはわれながら支離滅裂。
お許し願いたい。
「学生時代」はペギー葉山のナンバー中、
大ヒットした「南国土佐を後にして」より好きな曲である。
作曲も平岡精二で詩・曲ともに非の打ちどころナシ。

それにしても女学生というのはスゴいなァ。
讃美歌を歌いながら、清い死を夢見るんだからねェ。
オトコの学生だったらさしずめ、
春歌を歌いながら、みだらな性を夢精、
もとい、夢想するのがオチだろうヨ。

ヨタばなしはさておき、とある秋の日。
図書館の代わりに厨房に入るJ.C.がいた。

=つづく=

2014年10月7日火曜日

第941話 東大前の食レベル (その5)

東京大学・中央食堂で赤門ラーメンのつもりが
東大前の日本そば店、「まるそ」に旧友と二人。
早くも後悔のほぞを咬んでいる。

そばに利点がまったくない。
つゆはつゆで一般家庭で使われる出来合い風。
日本そば屋ならではのコク味と奥行きが感じられない。
結局は薬局、そばもつゆも立ち食いそば屋レベルだ.。

さて、好奇心を刺激された酢そばである。
こんな出で立ちで登場した。
ちょいとばかりオサレ 
具材は油揚げ・みょうが・きゅうり・
かまぼこ・貝割れ・おろし・大葉・白胡麻といった面々。
発想はおそらく仙台発祥の冷やし中華にヒントを得たのだろう。
少なくとも朝鮮半島の冷麺ではなさそうだ。

前菜は見てガッカリだったが酢そばは食べてガックシ。
遠来の友にすまない気持ちでいっぱいだ。
次回、といっても、いつになるか判らんけれど、
名誉挽回につとめるから此度は許せ、友よ!

そして、トドメはセットの付属品、そばめしであった。
コレを供する意図がつかめぬ
そばめしといやァ、確か十数年前のリトルヒット商品。
一時期、ブームを引き起こしたこともあった。
焼きそばを細かく刻んで焼きめしと混ぜ合わせたようなヤツ。

カップヌードルの日清(今や錦織クンのだネ)だか、
魚肉ソーセージのニッスイだか、
すでに忘却の彼方ながら
冷凍食品を一度食したことがある。

いったいどこがどう旨いのか皆目、見当がつかず、
こんなキワモノが世にはびこるようじゃ世も末だぜ!
というのが率直な実感だった。
それをケロリと忘れて注文してしまったこちらが悪い

そばにしたって、めしだって、
互いにゴチャ混ぜにされて人間のノドを通ることなど、
まったく想定外に相違ない。
実に迷惑なハナシだ。

そんなそばめしがあろうことか、日本そば屋に生存していた。
ファミレスあたりならまだしも、そばを商う専門店でそばめしとはネ。
日本の伝統料理の継承を担う、
矜持もへったくれもあったものではない。

日本が誇る最高学府周辺の食レベルは
さように高いものではない。
いいモン食ってねェなァ! なのである。

=おしまい=

「まるそ」
 東京都文京区本郷6-17-8
 03-6801-8233

2014年10月6日月曜日

第940話 東大前の食レベル (その4)

お詫びです。
この稿のアップを火曜朝に設定したまま、
一日、遊びほうけておりました。
今、帰宅して再設定した次第です。
ごめんなさい。

さて、先週金曜日にアップした前話をご覧になられた、
読者の方々より、さっそくお便りをいただいた。
もちろん東大前に暖簾を掲げる、
日本そば屋「まるそ」の前菜に関してだ。

いや、いろいろなご意見、見方があるものだと
深く感じ入った次第である。
せっかくだから
おっしゃるところ両極端のお二人にご登場願おう。
最初に東京都・町田市のY川K実サン。

 どことなく手作り感があって温かさを感じました。
 私には美味しそうなお写真でした。
 そんなにガッカリなさることも
 ないんじゃないでしょうか、J.Cさん!

ハイ、ガッカリはちと大げさでしたかネ。
でも、そんなもんですかねェ。
食欲の”ショ”の字もわかなかったんですがねェ。
ちなみにY川サンは専業主婦にして二児のママである。

そしてもう一方は滋賀県・大津市のA崎H之サン。

 本当ですね、プロの料理人の仕事には見えません。
 素人の女性のお惣菜みたいで
 盛り付けセンスにも疑問符が付きます。

そうなのである。
Y川サンには申し訳ないけれど、
A崎サンのおっしゃる通りなのだ。
厨房はのぞかなかったが、おそらく作り手は女性であろうヨ。

味のほうも推して知るべし。
箸をつけてみても料理人の意図がまったく伝わってこない。
相方も呆れたというか、
困り果てて彼女の眉は20時20分を指していた。
さもありなん。
こんな前菜なら、ないほうがずっとマシだ。

メインのそばに対する期待感は消し飛んだが
こちらの思惑とは関係なしにそばが茹で上がった。
おや? 見た目は悪くない
冷水に打たれてシャキッとしている。
そう、そば屋はそばに撤するべきなのだ。
客単価を押し上げるための策を弄してはいけない。

しかしながら味わってみた、もりはごくフツー。
香り・のどごし・舌ざわり、特筆すべきものは何ひとつない。
この日、われは大きな間違いを犯してしまったのかも・・・。

=つづく=

2014年10月3日金曜日

第939話 東大前の食レベル (その3)

東京大学正門前の日本そば屋「まるそ」はほぼ満席だが
店内をザックリ見渡して気がついたことがあった。
年配客の姿がないのはこれいかに?

もう一度、今度は念入りにチェック。
すると、われわれ以外にオジさん・オバさんはゼロだ。
いわゆるそば通風や、そば屋飲み愛好者がまったくいない。
これじゃダメじゃん・・・と思ったものの、
目の前が大学のキャンパスではそれも当然、
というか、必然であろうヨ。

隣りの卓は女性二人連れ。
彼女たちの皿がチラリと目に入る。
とにかくテーブルとテーブルの間隔が狭いから
のぞくつもりなんてなくても目の中に飛び込んできてしまう。
何やらチマチマっとした前菜の盛合わせのようだ。

相方は萩市に帰る前にもう1件、
所用があるため、飲酒を控えるという。
こちらもその品行に倣う。
故・池波正太郎翁の
―そば屋に入って飲まぬくらいなら、そば屋には入らぬ―
あえてこの名言を封印する。

手にとった品書きに酢そばというのがあった。
相方のK恵がさっそく疑問をぶつけてくる。
長い人生の中、おそらく日本そば屋で初めて見る一品であろう。
接客の女性に問い質してもあまり要領を得ない。
百聞は”一食”に如かず、まずは一人前をお願いすることにした。
もう一つはオーソドックスにもりである。

品書きにセットというのがあった。
何を注文してもセットにすることができ、
前菜・そば飯・飲みものが付く。
追加がいくらか忘れてしまったが
もりセットが750円、酢そばセットは1200円也。

15分は待たされたか・・・前菜が運ばれた。
先刻、隣りの女性たちが食していたものだ。
あらためて目の前の皿を見た瞬間、
わが心は失意のズンドコ、もとい、どんぞこに堕ちていった。

 ♪  まっさかさまに 堕ちて desire
   炎のように 燃えて desire   ♪

いけネ、どうしても明菜の「DESIRE」がついて回るな。

とにもかくにもガッカリ。
まずはご覧くだされ!
キノコと根菜と玉子焼きの盛合わせ
コレをご覧になって
読者諸兄はどう思われたでありましょうか?

=つづく=

2014年10月2日木曜日

第938話 東大前の食レベル (その2) 

東大安田講堂地下の広大な中央食堂に降りた。
なかなかのスペクタクルなシーンが拡がっている。
味はさて置き、見掛けだけは日本一の学食ではなかろうか? 

ここへ来ると必ず思い出すのが
マンハッタンは東18丁目9番地のアメリカン・バー&レストラン。
その名も「AMERICA」だ。

あの空間に身を置いてグラスを重ねるのが好きだった。
一番奥はせり上がったステージのごとくに設らえられたバー。
このカウンターこそマイ・ホームグラウンドであった。
ここでわが毒牙にかかった乙女は数知れず。
なあ~んてネ。 

 ♪  なんてね  淋しい ♪  

おっと「DESIRE」は昨日やった。

東大中央食堂に戻ろう。
遠来の友を案内したのはいいが
ちょうど昼めしどきにつき、順番待ちは長蛇の列だ。
見ただけでウンザリしてしまい、食欲が失せる。 

食堂に未練を残してうらめしそうな相方をなだめすかし、
通ったばかりの正門を逆に出た。
はて、どこへ行ったらよかんべサ? 
第一感は本郷菊坂下の「海燕」である。
たまに立ち寄るロシア料理店ながら、いささか距離がある。

でもねェ、近場の東大前にはコレといった店がないのよねェ。
東大生に支持されているという「もりかわ食堂」はイマイチだし、
フルーツパーラー「万定」、
あるいは喫茶店「ルオー」のカレーライスじゃなァ・・・。
第一、両方ともちっとも旨くないんだ。

かように東大前の食レベルは低い。
行きたいと思う店が皆目見つからないもの。
時間的制約があるから、そうのんびりとしてもいられない。

苦肉の策で選んだのは日本そばの「まるそ」。
実はこの店、数年前に一度訪れており、
そのときの評価はけして高いものではなかった。

東大正門前の本郷通り沿いには繁盛している店がほとんどない。
そんな環境下で生き延びているのだから
それなりの進化を遂げているかもしれない。
淡い期待を抱いて喫茶店風の店内に入った。

昼のピーク時だからか、あるいは評判がよいからか、
にわかに判断しかねるが、ほぼ満席の盛況ぶりである。
ほほう、なかなかじゃないのと一安心。
いや、ちょいと待てヨ、ここで胸のうちに暗雲が拡がり始めた。

=つづく=

2014年10月1日水曜日

第937話 東大前の食レベル (その1)

山口県・萩市から
ニューヨーク時代ののみとも・K恵が上京してきた。
ふるさとに帰る日の昼に
時間が取れるというのでランチをともにすることに―。

訊けば前夜はドームの巨人戦を息子と観て
ドームホテルに宿泊したという。
ふ~ん、ジャイアンツねェ。
まったく興味が失せたワケじゃないけれど、
小・中・高の頃は巨人戦をしっかりフォローしていた。

ほとんど観なくなったのは
江川が現役を退いたあたりだったかも・・・。
その後、ミスターが監督に復帰した数年間は
若いときほどではないにせよ、
TVの前にけっこう座るようになった。

待ち合わせたのは東京大学正門前。
何年ぶりの再会だろうか・・・。
中国地方を漫遊した折に逢ったのが最後だから
かれこれ10年は経ってるな。

懐かしさの余り、セイガクの行き交う正門で固くハグである。
べつにくちづけを交わしてもよかったのだが
セイガク、殊に晩熟(おくて)の東大生には
刺激が強すぎるのでやめといた。
なあ~んてネ。

 ♪   ~なんてね 淋しい
   Get up, Get up, Get up, Get up, 
   burning heart      ♪
      (作詞:阿木耀子)

これまたニューヨーク時代に親交を深めた明菜は
完全復活するのだろうか・・・気になるところではある。
彼女のナンバーでは上記の1986年レコード大賞受賞曲、
「DESIRE―情熱―」をしのいで
その2年前の「十戒」が一番好きだがネ。

さて、東大である。
キャンパスに入ると正面には
かつて大学紛争の舞台となった安田講堂がそびえている。
高層ビル立ち並ぶ今の世となっては
”そびえている”は少々オーバーながら
周りに高いモノ皆無につき、
それなりの屹立感がないこともない。

向かったのは講堂地下の中央食堂だ。
赤唐辛子粉をザバッと振りかけて食す、
名物の赤門ラーメンをK恵に食べさせてやりたかった。
大して旨いモンじゃないが、一応、ハナシの種になるし・・・。

ところがであった。

=つづく=