2014年11月28日金曜日

第979話 巨星は星の彼方に (その4)

そう、兵隊もヤクザも結局は薬局、
母親が心のふるさとってこった。
砲弾や白刃の下で命を張れば張るほど身にしみる親心。
荒海稼業の船乗りだって帰る港があらばこそ、だろう。

それもそうだヨ、
何たって、おっ母さんは子ども製造工場の工場長。
それに引き換え、お父っつぁんは一介のしがねェ油差しだもん。
シガネー・オイリーなんちって・・・。

さて「唐獅子牡丹」だが、さらにもう一番、
「昭和残侠伝 血染めの唐獅子」だけに流れた歌詞がある。
「たいがいにせいっ!」―
そんな声が聴こえてきそうだからやめときますか。
エッ? 「もったいぶらずに吐け!」ってか?
ですよネ、ファンの方なら聴きたいッスよネ?

 ♪  鳶に命の 三番纏 
   ジャンが鳴り出しゃ 捨て身の稼業 
   とった火口は 根性で守る 
   浅草(エンコ)生まれの 男伊達 
   背中で燃えてる 唐獅子牡丹
       =間奏=
   祭囃子に詫びて行く
   背中に血染の唐獅子牡丹 ♪

何だか「昭和残侠伝」と「唐獅子牡丹」一色になっちまいやしたが
なおもここで健サン映画のマイ・ベストワン、
「昭和残侠伝 死んで貰います」でありやす。
1970年9月に公開された作品の舞台は
関東大震災前後の東京・下町でありやした。

まず、イの一番に相手役・藤純子との息がピッタリ。
シリーズ最高のコンビネーションを見せてくれる。
この頃の純子ハンはまっこと、ええオナゴやった。

高倉健・池辺良ともに料亭の板前という設定もユニーク。
健サンが玉子焼きを焼いたりもする。
ラストじゃ結局、二人して包丁をドスに握り代えるんですがネ。

脇がまたすばらしい。
中村竹弥、加藤嘉、長門裕之、荒木道子(荒木一郎のお母さん)、
みんなよかったなァ。

加えて敵(かたき)役が”群の抜”でありやした。
純ワルの諸角啓二郎、半ワルの山本麟一、
ともに一世一代のハマリ役ではなかったか。
ちなみに山本は明大ラグビー部の出身。
そう、健サンはこの大学の先輩を
立てて慕って厚い信頼を置いていたという。

=つづく

2014年11月27日木曜日

第978話 巨星は星の彼方に (その3)

俳優・高倉健の真骨頂は昭和残侠伝シリーズに尽きる。
1965年から1972年まで全9作が公開された。
すべてを紹介するわけにはいかないので
未見の方には主題歌からイメージをふくらませていただこう。
言わずと知れた「唐獅子牡丹」であります。

 ♪  義理と人情を 秤にかけりゃ
   義理が重たい 男の世界 ♪

ヤクザ映画なんか観たくもない!
そんな方でも一度や二度は
耳にしたことがあるんじゃないかな?
まずはその3番から。

 ♪  おぼろ月でも 隅田の水に
   昔ながらの 濁らぬ光
   やがて夜明けの 来るそれまでは
   意地でささえる 夢ひとつ
   背中で呼んでる 唐獅子牡丹 ♪
     (作詞:矢野亮・水城一狼)

レコードにせよ、カラオケにせよ、収録されているのは3番まで。
中ではこの3番が一番好きだ。

今でも浅草に出向いた晩に
”川向こう”のビヤホールでひとしきり飲んだあと、
吾妻橋を渡り返して、”川こっち”に戻る道すがら、
隅田の水に映る光に残侠のよすがを偲ぶJ.C.なのだ。

ヨタもたいがいにしておくか。
しかしこの歌詞、背中(せな)に墨さえ背負(しょわ)なけりゃ、
竜馬か、レーニンか、はたまたチェ・ゲバラか、
革命児を喚起させるほどの異彩を放っている。
とてもヤクザの思想ではない。

佳曲「唐獅子牡丹」はほかに
映画のクレジットタイトルとともに流れた歌詞が
1番から5番まで存在するものとされている。
しかも”5番は3番と同じ”なんてワケの判らぬ扱いだ。
通しで5番まで聴いたことがないから
こんな位置づけは疑わしいと思う。
思いはするけれど、5番(実質4番まで)のうち、
好きな2番を紹介しておきたい。

 ♪  親にもらった 大事な肌を
   墨で汚して 白刃の下で
   積もり重ねた 不孝の数を
   なんと詫びよか おふくろに
   背中で泣いてる 唐獅子牡丹 ♪
    (作詞:水城一狼・佐伯清)

”親にもらった大事な肌を”、
”なんと詫びよかおふくろに”、
たとえ大日本帝国の軍人だろうが、
ご法度の裏街道をゆく渡世人だろうが、
トドのつまり、戻るところはおっ母さんなのだ。
母は父より偉大なり!

=つづく=

2014年11月26日水曜日

第977話 巨星は星の彼方に (その2)

やくざ路線から足を洗って以来、
「幸せの黄色いハンカチ」、「駅 STATION」などの名作にも恵まれ、
国民的スターの道を着実に歩み始めた健サン。
山田洋次監督もさることながら
やはり降旗康男監督とのコンビによるところが大きい。

わがポン友、米国在住のホケンからメールが届いた。
彼の東京の実家は降旗邸のすぐそば、
当然、近所づき合いの間柄なのだ。
もっともジェネレーションからしてホケンのご両親とだろうがネ。
ここで彼からのメールを紹介したい。
高倉健とはつながりのない部分も含め、全文を―。

岡ちゃん

帰国した際には会えず、マージャンする機会も無く誠に残念でした。

貴殿のブログは勿論、毎日拝見してます。
最近はこちらからはこれといった面白いニュースもなくMLBもPGAも。。。

相撲も毎晩観てますが、つまらないね。
テレビでも観てる人まで力が入り、
興奮し、疲れてしまうような昔はよくあった力相撲が
最近、全くないのが寂しいですね。

健さんもいなくなり寂しいかぎり。
我々の青春時代に夢中になって観ていたヤクザ路線の終焉後、
「幸福の黄色いハンカチ」で真の日本男児らしさを演じたのに驚きました。
40年くらい前だったよね?
その時、たまたま2週間ほど日本へ帰国しており、
初演のロードショーで観ることが出来、ラッキーでした。

こちらのJAPANテレビでは来週末、再放映するとの事で楽しみです。
例の降旗さんとの作品(複数の)はあまり好みではありません、
健さんにはイマイチかと・・・。

次回は来春になりそうです。それまで達者でいて下さい。

ホケン

① 相撲がつまらない・・・同感。
② 健さんいなくなり寂しい・・・同感。
③ 降旗さんとの作品好みではない・・・反感、いや、半感かな?

まあ、③の意見が判らないでもない。
誰が何と言おうと、”任侠モノ”ですからネ。
鶴田浩二、若山富三郎、高倉健、以上日本の任侠御三家也。

シリーズは「昭和残侠伝」のほかにも「日本侠客伝」があった。
永遠の相手役・藤純子を陰で支えた「緋牡丹博徒」もけっこうだった。
次話は主演映画を少々掘り下げてみましょう。
殊にマイ・ベストスリーはネッ!

=つづく=

2014年11月25日火曜日

第976話 巨星は星の彼方に (その1)

ここ数日の日本列島は
”健サン追悼”一色に染め抜かれた感あり。
あれだけの人だから、さもありなん。

俳優・高倉健で好きな映画は
何をおいても昭和残侠伝シリーズ。
侠気、あいや、狂気の疾る三白眼、
墨が似合う逆三の背中、たまりませんな。

人間・高倉健で好きなところは
偉大なる歌手・江利チエミを愛したこと。
何せ、J.C.は江利チエミを
日本の生んだ流行歌の最高峰と認知しておりやすからネ。

ハイ、お待たせしました。
待ってねェっ! てか?
まあ、そうおっしゃらずに聞き流して、流して。

ここで健サン映画のマイ・ベストテンであります。
数日前、
「近々ベストファイブをお届けします」と書いたらば、
「大スターにたったの5本は失礼やろ!」と
便りをくれたのは奈良市のK木サン。
いいでしょう、いいでしょう、10本選んでみやしょう。
どちらさんも、おひけェなすって!

① 昭和残侠伝 死んで貰います
② 夜叉
③ 駅 STATION
④ 新幹線大爆破
⑤ 人生劇場 飛車角
⑥ 幸せの黄色いハンカチ
⑦ 居酒屋兆治
⑧ 君よ憤怒の河を渉れ
⑨ 三百六十五夜
⑩ 冬の華
 次点:八甲田山

残侠伝シリーズには
ベストテンに値する作品がほかにいくらでもあるが
それでは残侠伝一色に染まるので1本にしぼった。
その代わりというのもヘンだけれど、
なぜか網走番外地シリーズに該当作はなかった。
また、「飢餓海峡」、「日本暗殺秘録」は好きな作品ながら
健サンの占める位置が狭いため外した。

初めて健サンをスクリーンで観たのは
美空ひばり主演のべらんめえ芸者シリーズ。
おそらくシリーズ2作目の続編で、まだ下積みの時代である。
ほぼ同時期、北海道アイヌの人々に焦点をあてた、
「森と湖のまつり」なる異色作も観た。
あの頃の映画や流行歌には
アイヌがしばしば登場したものだった。

=つづく=

2014年11月24日月曜日

第975話 廉価に敬意ははらえども (その2)

深川は門仲の「魚三酒場」で独り、
壁の品書きに見入っている。
いつものように紹介してみよう。

刺身
 いなだ 310円  いわし・飛び魚・しゃこ 各340円 
 新子 350円  あじ 360円  
 赤貝・とり貝・ほっき貝・まぐろ 各410円
 ほうぼう・いさき・こち 各440円  真鯛・平目 各460円
 かんぱち・しまあじ・ミンク鯨 各490円  
 天然真鯛 570円  まぐろブツ 240円  
 同中落ち 310円  同中とろ 650円  同大とろ 770円

塩焼き
 あじ 360円  いわし 390円  はまぐり 410円

天ぷら
 なす・玉ねぎ・ピーマン 各290円  
 あじ・いわし・わかさぎ 各330円 
 しゃこ・穴子 各390円  はぜ・きす 各410円

フライ
 あじ・いわし・串かつ 各330円  いか・穴子 各390円
 鮭・平目・くじら 各430円  海老 570円

その他
 エシャレット・トマト・べったら漬け 各150円

注文したのはしまあじ刺し。
到着を待っているあいだ、
驚いたことにくだんのウルサい女将がお酌をしてくれたヨ。
歳とともにま~るくなっちゃったのかもしれない。

1階は細いコの字カウンターが二つ。
ともに18席ほどだからキャパは36席になる。
客の回転は比較的スムースなほうだろう。
そこへ団体客がドバッと現れた。

どうやら3・4階は予約を受け付けているらしい。
それも10名くらいからでコースのみだという。
大衆酒場がコース料理かえ?
店も店なら客も客、世も末だぜ。

白鹿の枡酒をお願いしたとき、しまあじがやって来た。
分厚いのが8切れ、皿の上で所狭し、豪気だなァ。
ところがコレがちっとも旨くない、むしろちょいと生ぐさい。
口直しに頼んだべったら漬けもかなり水っぽい。

何だかなァ・・・。
安さに敬意をはらえども
なかなか満足できない深川の超人気店「魚三」なのでした。

「魚三酒場」
 東京都江東区富岡1-5-4
 03-3641-8071

2014年11月21日金曜日

第974話 廉価に敬意ははらえども (その1)

小学校時代の一時期、下町は深川の門前仲町に住んでいた。
正確には門仲から牡丹町を抜けた古石場なる、
その町名からして古ぼけた場所。
隣り町の木場はあれほど有名なのに
古石場なんて東京人でも知らないほうがはるかに多い。
まっ、それはそれとして
江戸の昔から木材は木場、石材は石場だったのだろうヨ。

かれこれ半世紀にもなるが
当時の飲食店舗で今も記憶に残っており、
なおかつ営業を続けているのは
深川不動尊参道入口、甘味処の「伊勢屋」と
そのはす向かいの「魚三酒場」くらいのものだ。

林芙美子が最後の晩餐に訪れたうなぎの「宮川」。
お不動様と八幡宮を結ぶ脇道にあった八ツ目うなぎの屋台。
それと何といったかな? う~ん、思い出せない・・・
お婆ちゃんが独り細々と参道で商っていたきんつばの小舗。
み~んな無くなってしまった。

その夜は門仲の北に隣接する清澄で宴席があった。
天竜川の天然鮎を楽しんだのだが実はその前、
例によって独り早めに深川に現れたJ.C.は「魚三酒場」にふらり。
昭和29年創業の飲み処だが、それ以前は鮮魚店だったという。

店先には順番待ちの呑ん兵衛が4~5人並んでいたものの、
10分と待たずに1階のカウンターに着席の巻である。
30分は覚悟のうえでやって来たこの身、上々のすべり出しと言えよう。

おっとォ~、目の前に名物女将の雄姿である。
女嫌いのこの女将は殊更若い娘とみるや、
イビるわ、イジメるわで、傍で見てると、
ギャルたちが哀れに思えてならなかった。

それがどうしたわけか、今宵の女将は元気がない。
しばらく来ないうちに虎が猫に変身したのかい?
こうなっちゃうと何だか張り合いがないねェ・・・。
女の客に対するあしらいもごくフツーだし・・・。
エニウェイ、世のオヤジギャルには朗報であろうヨ。

さっそくスーパードライの大瓶である。
これが520円、安いといえば安いが
上野・御徒町界隈には敵わない。
何せ向こうは400円代前半だからネ。
東京で一番安いんじゃないかな。

こののち宴会が控えているからつまみは1品に限ろう。
いや、どう転んでも2品に抑えねばならん。
そうして見やった壁の品書きであった。

=つづく=

2014年11月20日木曜日

第973話 都内に「ときわ」は数あれど (その3)

駒込アザレア通りの「食堂 ときわ」。
突き出しのコンポテだけでビールの大瓶を空けてしまった。
この店は千葉県産黒毛豚を使用したロースカツがウリだが
そんなモンを食べてしまったら、あとがどうにもならない。
胃袋のちぢかまった老頭児(ロートル)はつらいネ。

ぼんやり店内をながめていると若い来訪者は
酒も飲まずにもくもくとロースカツ定食を頬張っている。
いいねェ、Oh, Young men !

お願いした肴はホヤである。
三陸の海の幸、ホヤの塩辛である。
朱鷺色、鮮やかなり!
アザレアのホヤはアザやかであった。

必然的に日本酒が欲しくなり、小さな徳利を上燗でお願い。
ついでにらっきょうも頼んでしまった。

 燗酒に ホヤとらっきょの 浮世かな

テヘッ、句のデキ稚拙なれども、いい気分。

独りごちていると、M鷹サンが現れた。
意外に早いご到着じゃないか。
心なしかまなじりに疲労が見てとれる。
遅れてきた青年ならぬ、遅れてきた中年である。
大江健三郎のあの小説も読むには読んだが
ストーリーはきれいサッパリ、忘却の彼方だ。

グラスを合わせ、近況を報告し合ったあと、
相方はいきなり肉野菜炒めを注文。
おう、いいとも、いいとも、疲れてるんだねェ、
身体が野菜を求めているんだねェ。
見るからに健康的 
中華屋のソレとは微妙に異なる装いである。
特徴としては各種野菜のバランスのよさ。
ニラがうれしい、ナスが珍しい。
雑な中華屋なんぞに行ったら
廉価でカサの出るキャベツとモヤシばっかりなんてケースが多い。
豚小間も薄切りではなく、小塊というのがユニーク。
都内に数ある「ときわ」でも駒込店は指折りの1軒だ。

もう一品はつぼ鯛の一夜干し。
大根おろしは必要不可欠
つぼ鯛はここ10年くらい脚光を浴びている魚種で
ほとんどのケースが一夜干しか、粕漬け・西京漬けになる。
北海道辺りでも漁獲されるようだが
一大産地は太平洋のミッドウェー。
日米海戦の転機となったあのミッドウェーだ。
連合艦隊の艦船が海底にねむる海域で獲れたサカナを肴に
一しきり酒盃を交わした。

2軒目は駒込からそう遠くない動坂下のスナック「K」と決めてある。
久しぶりに軍歌でも歌うとするかの。

=おしまい=

「食堂 ときわ」
 東京都北区田端4-1-1
 03-3824-6070

2014年11月19日水曜日

第972話 都内に「ときわ」は数あれど (その2)

高倉の健サンが逝ってしまった。
ここ1年ほど、姿を見せなかったので心配はしていた。
もともと衰えた様子をさらすタイプの人ではないから
ヒドく健康を害して闘病生活を送っていたんだと思う。
渥美の寅サンのときもそうだったが
巨星の訃報はある日突然やって来る。

ここでさっそく、健サン映画のマイ・ベストファイブと
いきたいところなれど、それはまた日をあらためたい。
ご期待あられたし。
期待なんかしてねェってか?

それはそれとして、駒込はアザレア通りの「食堂 ときわ」。
相棒の到着を待ちながら独りビールを飲りつつ、
突き出しのコンビーフ・ポテトを口元に運んだところだった。

「ややっ、何だよコレッ!」
咀嚼(そしゃく)した直後、言葉を失った。
おそらくおおかたの読者はトンデモないモンを口にして
ゲッとばかりに吐き出したんだろうと、思ったんではないかな?

いえ、いえ、それは違います。
意に反してこのコンポテがびっくりするほど美味だったんだわサ。
その勝因は新じゃがクンである。
丸ごとではなかったから、新じゃがとは気づかなかったが
コンビーフとの相性もよく、とってもよかった、旨かった。

ちょくちょく訪れる浅草の「神谷バー」。
腰を落ち着けるケースはべつとして
サクッと飲みの場合はだいたい、大か中のジョッキを2杯。
つまみはおおかたポテトサラダか、
ジャーマンポテトか、串かつということになる。

「ときわ」のコンポテに一番近いのは
「神谷」のジャーマンポテトだが
今宵のコンポは、あの夜のジャーポの上をいった。
讃えるべし。

ふ~む、コイツはいいや。
恥も外聞もなくオバちゃんに訊ねたネ。
「すいませんけどこのお通し、つまみで一人前はムリだよネ?」―
オバちゃんイコール女将なのだが
「そんなに作ってないんですよォ」―
そりゃそうでしょう、わがままホザいたオイラが悪かった。

このときズボンの左ポケットがぶ~るぶる。
相方のM鷹サンからのメール着信である。
仕事上のリトル・トラブルにより遅刻、ゴメンなさいとのことだった。
いいでしょう、いいでしょう、こちとら独り飲みも大好きなんだ。

=つづき=

2014年11月18日火曜日

第971話 都内に「ときわ」は数あれど (その1)

都内に「ときわ」は数あれど

その宵は豊島区・駒込に出没。
比較的立ち寄る機会の多い町だが
久方ぶりにのみとも・M鷹サンと酒盃を交わすことになった。

訪れたのはこの町の飲み屋街・アザレア通りだ。
たかだか100mほどの短いストリートながら
飲み処に事欠くことはまったくない。
焼き鳥店「松本」、和洋居酒屋「駒っこ」などのチョイスがある中、
入店したのは「食堂 ときわ」だった。

およそ2年ぶりになろうか。
都内に50軒近く存在する「ときわ」のうちでも料理の質が高い1軒だ。
お運びのオバちゃん(女将であろう)による、
着かず離れずの接客ぶりにも好感を抱いている。

もともと大衆食堂兼大衆酒場で飲むのは大好き。
晩めしと晩酌が入り混じる空間は居心地がきわめてよろしい。
なぜか?
飲み一辺倒になると、
遅かれ早かれ、きこしめした酔客の発する騒音に
我慢できなくなるなることもしばしば。
そんな酔っ払いも隣りで学生が静かに食事中とあらば、
文字通り自ずと自制心が生まれるものなのだ。
公共の場においてはセルフ・コントロールが必要不可欠であろうヨ。

「ときわ」グループとなれば、
巣鴨のとげぬき地蔵通りに2店ある「ときわ食堂」は
母と息子の姉妹店ならぬ親子店。
ここだけは互いにサポートし合って共同経営みたいなものだろうが
ほかはみな独立採算、別経営のハズだ。

最近はあんまり見掛けないものの、
町の中華屋・「生駒軒」みたいなケースだと思われる。
もっと判りやすい例は日本そばの「藪」系列だろうか。

待合わせの時間より30分も先着したJ.C.、
気ままにビールを飲り始めた。
好みの銘柄の大瓶がうれしい。
夜も更けてからなら中瓶でも構わないが
晩酌のスタート時点では大瓶に如くはなし。

ともに運ばれた突き出しの小鉢は
和風食堂には珍しいコンビーフ・ポテトであった。
松阪牛や米沢牛使用の高級品ならともかく、
普及品のコンビーフはイヤな匂いの伴うものがあり。
あまり好みの加工品ではない。
近年はじゃが芋が混入されたニューコンビーフを見掛ける。
芋好きには手間が省け、アレはあれで便利かもしれない。

大した期待もせずに箸でつまみ上げたコンポテを
舌の上に乗せてから、ひと噛み、ふた噛み、
「ややっ、何だよコレッ!」― 一瞬、言葉を失いました。

=つづく=

2014年11月17日月曜日

第970話 まぐろづくしの折詰 (その3)

先話は「演歌の花道」もどきで失礼しました。
さいわい、読者からの苦言はなく、よかった、よかった。

それにしても昨日の逸ノ城はヒドかった。
先場所のように横綱・大関相手ならまだしも
平幕相手に注文相撲は情けない。
相撲取りなら電車道を Goやろ! 
逃げ道はあかんのとちゃうかっ!

でもって北酒場から、もとい、北千住から
お持ち帰りの”まぐろ食べ比べ鮨”である。
写真は先話をご覧いただくとして、その陣容は

 本まぐろ中とろ2カン 本まぐろ赤身2カン
 まぐろ赤身2カン まぐろ赤身中巻4ヶ

本まぐろは言わずと知れた黒まぐろ。
世界七つの海に君臨するまぐろ界の王者だ。
単にまぐろとあるほうはまず間違いなくバチまぐろであろう。

バチはメバチ、目パッチリのまぐろのこと。
コク味も深みも淡白にして
まぐろ類特有の酸味まで薄いがこれはこれで悪くない。
殊に本まぐろが品薄になる夏場は
キハダまぐろとともに貴重な代役を果たす。

ところでこの週末に何名かの読者よりお便りをいただいた。
そのうちの1通、山形県・酒田市のK坂サンにはマイッたな。

オカザワさんは辛いものが苦手なんですか?
わさびもからしもダメなんですか?

いや、マイりました。
そこで取りい出しましたる伝家の宝刀がコレだっ!
わが家の冷蔵庫の牢名主
どうです? 立派な”わさ右衛門”でありましょう?

かれこれ数十年、
マイ・フリッジに君臨していたのがこの生わさび。
十年余りにわたったニューヨーク在住時代も
ほとんど切らしたことがない。
おかげでニューヨークに到来した友人たちのみやげは
おおかた生わさびであったのだ。

まぐろづくしの折詰は
おろし立てわさびの効用もあって十二分に楽しめた。
だけどネ、2割引で800円のまぐろづくしよりも
1本のわさびのほうが高価というのは本末転倒ではあるまいか。

=おしまい=

2014年11月14日金曜日

第969話 まぐろづくしの折詰 (その2)

古くは江戸四宿の一つ、千住のデパ地下にいる。
目の前のすし折を買うべきか、買わざるべきか、
 To buy, or not to buy・・・that is the question.
J.C.の心境はほぼハムレットのそれに近かった。

店内を一周して戻ったとき、
まだそこに残っていた折詰は
健気(けなげ)にも俺を待っていてくれたのだろう。

 ♪  霧が流れて むせぶよな波止場
   思い出させてヨー また泣ける
   海を渡って それきり逢えぬ
   昔馴染の こころと心
   帰りくる日を たたそれだけを
   俺は待ってるぜ    ♪
     (作詞:上原賢六)

好きだなァ、裕次郎の「俺は待ってるぜ」。
曲も映画も好きだ。
映画の中の裕次郎は波止場でバーを営みつつ、
海を渡った兄貴の帰りを待っていたが
まぐろづくしのすし折は俺を待っていた。
 ♪ 俺は待たれたぜ ♪

こりゃ買わんわけにゃいかんやろ。
”待っている女”を抱かぬわけにゃいかんやろ。

 ♪  消え残る街灯り 女は待ってる
   肩すぼめ襟を立て 冷たいほら風の中 ♪
           (作詞:山口洋子)

晴れて折詰一つ、マイ・バスケットに投入されました。

 ♪  これで心が 晴れました
   あなたなしで生きることに 決めました
   沖を走る潮の流れ 見つめながら
   南国土佐の 昼下がり   ♪
         (作詞:阿久悠)

この時点で北千住における”北酒場”の線は消えた。

 ♪  北の酒場通りには
   長い髪の女が似合う
   ちょっと お人よしがいい
   くどかれ上手な方がいい ♪
     (作詞:なかにし礼)

てなこって
「大はし」の肉豆腐よ、サヨウナラ。
「永見」の千寿揚げよ、さようなら。

 ♪  さよならあなた 私は帰ります
   風の音が胸をゆする 泣けとばかりに
   ああ津軽海峡・冬景色   ♪
       (作詞:阿久悠)

てなこって
自宅に私は帰ります。

あいや、どうもスンマセン。
何だか今話は「演歌の花道」みたいになっちまいやした。

=つづく=

2014年11月13日木曜日

第968話 まぐろづくしの折詰 (その1)

その夜は葛飾区・亀有で軽く飲んでいた。
お開き早めにつき、2軒目は必須。
隣りの綾瀬に移動するか、も一つ先の北千住、
あるいはさらにその先の町屋だろうか、ちと迷った。

結局、落としどころは北千住。
何となれば立ち寄りついでに
駅前の丸井デパート地下にある食遊館にて
買い物を済ませる腹積りがあったのだ。

調達すべきはサンドイッチ用のハムと葉野菜とハーブ、
それにつぼ鯛か鰰(ハタハタ)の一夜干しあたり。
必買の食材を揃えたあとで
何気なしに鮮魚売場とその脇の鮨コーナーをのぞくと、
目に入ったのがコレ。
まぐろづくしの折詰 
商品名は”まぐろ食べ比べ鮨”。
にぎり鮨の折はたまに買うことがある。
見逃せないスポーツイベントがTV中継される夜など、
観ながら晩酌の友とするためだ。

当夜はさようなスポーツもなく、単にスルーすれば済むこと。
ところが看過できなかった。
ここで多くの読者はこう思われるかもしれない。
(ハハ~ン、20%オフに目がくらみやがったな!)と―。
いや、マイッたな。
ご指摘の思惑がまったくなかったとは言わないけれど、
ポイントはそこにございません。

何より惹かれたのは”さびぬき”、実にこれなんですわ。
刺身ならともかくも
真っ当なまぐろのにぎりを自宅で食べるのは簡単ではない。
なぜならテイクアウト可能なにぎりは
ほとんどが粉かニセのわさびを使う。
よしんば生わさびがカマされていてもキが抜けたり、
まぐろの脂っ気に犯されたりして
わさび本来の機能を失ってしまうからだ。

さび抜きにぎりにはなかなか遭遇しないのが実情。
J.C.しばし考える人となった。
千住に来たからには
「大はし」の肉豆腐、「永見」の千寿揚げ、「加賀屋」のもつ煮込み鍋、
「葵」のさんま塩焼き、「徳多和良」の白身お造り、
「ボケロン」のボケロネス(ひしこいわしの酢漬け)、
選択肢の広さは半端ではないのだ。

思いを整理するため、あらためて店内を一周したくらい。
さび抜きまぐろづくしは一折しかなかったから
逡巡してる間に売れたら売れたでそれもよし、
あきらめがつき、決心もつくからネ。

舞い戻ってみたら、その一折はそのままそこにありました。

=つづく=

2014年11月12日水曜日

第967話 女性に人気の親子丼

女性に人気の親子丼

先週、にっぽんの五大どんぶりを好きな順に並べたら
さっそく2名の女性からお便りをいただいた。
東京都・杉並区のA原サンと神奈川県・大和市のA田サン、
どうもありがとうございました。

内容はほぼ異口同音。
ワタシの大好きな親子丼が最下位にランクされて
淋しい、悲しいというもの。
申し訳ない限りながら、食べものは好きずきですからねェ。
お二人を代表してA原サンのお便りを割愛して紹介したい。

平日は毎日楽しく読ませていただいております。
週末の更新を期待いたしますが
オカザワさんも休まれないと疲れてしまいますものね。

先日の五大どんぶりをワタシの好みで並べてみました。

 親子丼→天丼→鉄火丼→かつ丼→うな丼

の順になりました。
ショックだったのは大好きな親子丼が
一番最後にランクされたことです。
同じように玉子とじのかつ丼が2番なのに
親子丼が5番というのも残念に思いました。

どうして親子丼がお嫌いなのですか?
何か理由がございましたら、お聞かせくださいませ。

ふむ、ふむ、そうですか。
では、お応えいたしましょう。
鳥肉を玉子でとじた親子丼、味覚的に嫌いではありませんが
何とも困ってしまうのが割下の量なんですヨ。
5種類のどんぶりの中にあって
もっとも”つゆだく率”の高いのが親子丼です。

数ヶ月前のことでした。
牛丼チェーンの「松屋」がプレミアム牛めしというのを新発売。
ちなみに「松屋」は牛丼ではなく、牛めしを名乗っています。
ポスターの写真が美味しそうだったので食べる気になりました。

牛めし”並”の食券をお店の女性に手渡す際、
「つゆ完全切りで!」―こう伝えるのと同時に
左右から鋭い視線を感じましたネ。
どちらも若いアンちゃんでしたが、おそらく”つゆだく派”なのでしょう。
(珍しいなこのオッサン!)―心の中でそう思われたに違いない。
それくらい、つゆの多いどんぶりが嫌いなんですわ。

A原サン、A田サン、がってんしていただけましたでしょうか?

それにしても親子丼は女性に人気。
女性好みの食べものではオムライスに匹敵しよう。
これが男だったら親子より断然、かつ丼のハズ。
もっともかつ丼好きの女性には
どこか勝気で勇まし過ぎるイメージがつきまとう。
その点、親子だとやさしくおしとやかな感じ。
つき合うなら後者のほうがずっと無難でしょうヨ、ネッ?
 ♪ そうじゃないかえ、皆の衆 ♪

2014年11月11日火曜日

第966話 昔ながらの天丼 (その4)

台東区は入谷と千束を結ぶ金美館通りの「千束いせや」。
かつてこのストリートには金美館なる映画館があり、
それが通りの名前の由来となった。

「いせや」の小上がりで独りくつろいでいる。
座布団まくらに寝っ転がりたいくらい。
そんなことはともかく、
品書きを丹念にチェックして選んだのは海老穴子天丼でありました。
天ぷらにせよ、うなぎにせよ、重箱は好まず、どんぶりを愛している。

実を言うと、味覚的にセレクトしたかったのはキス穴子重。
でも前述の通り重箱は嫌いだし、
キスを袖にしてまで海老を指名したのにはワケがあった。
サカナたちは見た目に華がなく、写真映りがあまりにも悪い。
どんぶりの表面は焦げ茶一色に染まること必定。
殊に「いせや」のコロモは魚介にタップリまつわりついているから
たとえカメラにおさめたとしてもキスなんだかハゼなんだか判別不能。
そんな写真を掲載してもなァ・・・よって苦渋の選択を余儀なくされた。

天丼の出来上がりを待っているあいだ、
隣りの卓には若いアンちゃんが単身で着席した。
見るともなし、聴くともなしにぼんやり惰想に耽っていると、
そのアンちゃん、海老穴子天丼を注文したではないか。
おい、おい、いい若いモンが
老頭児(ロートル)のマネしてどうすんのっ!
瞬間、思ったものの、何となく親近感が湧いたことも事実。
そうかい、そうかい、いいでしょう、いいでしょう、
チミも穴子が好きなのかい? 心境はかように変化した。

ほどなく天丼の前に新香が到着。
きゅうり・大根・キャベツもみの三点
冷奴同様、キチンとしていておざなり感がまったくない。
新香はあくまでも天丼の箸休め、
ビールのアテじゃないから食べちゃいかんのだが
きゅうりと大根を1切れづつ、つい先ヅモしてしまった。

間を置かずに海老穴子天丼が運ばれた。
海老の尻っぽの紅色がうれしい
隣りのミヨちゃんの紅花緒のごとくだ。
大き目の海老は真ん中開き、小海老2本はいかだ、穴子は丸1本付け。
あしらいの青唐が2本だ。

どんぶりを俯瞰していて思った。
天丼の主役が海老であるのはやはりこの尻っぽの賜物ではなかろうか。
掃き溜めに鶴とは言わないけれど、紅一点が視覚に訴える効力は絶大だ。

さっそく箸を付ける。
うむ、うむ、濃い目の丼つゆは好みでいうことはない。
ただねェ、コロモがやはりくっつき過ぎなんだなァ。
浅草一の行列店、「大黒家」のそれと同じく、
中身よりコロモのウエイトが大きいってのもなァ。
しかし、これこそが昔ながらの天丼なんだよねェ。
白米と小麦粉、炭水化物のWパンチを
昔の人々は歓んで食べてたというわけサ。

=おしまい=

「千束いせや」
 東京都台東区千束2-23-5
 03-3872-5588

2014年11月10日月曜日

第965話 昔ながらの天丼 (その3)

この週末、浅草で天丼の旨い店を思い描いてみた。
あとは、「富士」、「あかし」、「多から家」、「大塚」あたりだろうか。
それぞれにそれなりに個性を主張した独自の美味しさが自慢だ。

でもって、今回訪れたのは「千束いせや」。
三兄弟の次男が営む店舗である。
ちなみに長男はもっとも有名な「土手のいせや」。
三男が「蔵前いせや」ということになる。

やはりイチ推しは「土手のいせや」。
吉原大門の正面に見ほれてしまうほどの立派な大正建築。
何でも裏手の生け簀では穴子を大量に活かしている由、
その天丼の出来映えは弟衆を圧倒する。
亀の甲より年の功(われながら古いなァ)、
長男の面目躍如といったところであろう。

さて、「千束いせや」。
正午過ぎにオジャマすると、
日曜日のおかげもあってほぼ満席のご盛況。
カウンターに空席はなく、小上がりの四人掛けに通された。
胡坐(あぐら)をかくのは好きだからいそいそと靴紐を解いたが
こちらは単身、何だか一人で四人掛けを占めるのは気が引ける。
もちろん、立て込んできたら相席を厭うことはしない。

ビールの中瓶をお願いすると、小さな冷奴が添えられた。
薬味&器にセンスを感じる
ほお~っ、なかなかじゃないですか。
おろし生姜、削り節、千切り大葉の気配りがうれしい。

何はともあれ、残暑のおりにキュ~ッと飲ったビールの旨いこと。
すかさず二杯目を独酌して、品書きの吟味に入った。
かいつまんで紹介しましょう。

■ランチサービス
 天丼 980円  定食 1200円
 (どちらも海老・キス・イカかき揚げが入ります)

■天重
 天重(海老2・キス・イカ) 1300円
 上天重(大海老2・貝柱・野菜) 1900円
 穴子天重(穴子2) 1700円
 キス穴子天重(キス2・穴子) 1600円
 海老天重(大海老2・小海老) 1700円
 かき揚げ天重(海老・イカ) 1300円

■天丼
 海老穴子天丼(大海老・小海老・穴子) 1700円
 はぜ天丼 1600円
 白魚天丼 1300円

J.C.はいったい何を注文したのでありませうか?
推理してみてくんらまし。

=つづく=

2014年11月7日金曜日

第964話 昔ながらの天丼 (その2)

日本の誇る(誰も誇りはしないか?)ファーストフード、
五大どんぶりのハナシのつづき。

J.C.の好むのは第一に天丼である。
なぜか?
あらためて考えてみてハタと思い当たった。
どんぶりという名の狭い宇宙にあって
そのヴァリュエーションという意味では
他のどんぶりの追随を許さぬものがあるからだ。

親子・うなぎ・鉄火の各丼は
最初から最後までずっと同じ味、
めりはりというものがまったくない。
かつ丼の場合はまだマシで
とんかつ部分と玉子部分では味も食感も違うし、
豚肉の部分に限っても赤身・脂身の変化がある。

どんぶりモノはそれ自体が完全な一食であって
せいぜい味噌椀と香の物がつくくらい。
他の副菜とはまず無縁だ。
だからこそ変化がほしい。
天丼の親戚にかき揚げ丼があるが
わが身を振り返ると注文した記憶がほとんどない。
かき揚げでは鉄火や親子と変わらないからだ。

ではどんな天丼が理想かと問われれば、こう応えましょう。
キス・メゴチ・穴子がそれぞれ1尾づつ。
彩りに青唐が1本あってもいいかな。
そば屋の天丼のように大海老2本というのはどうもねェ。

そもそも江戸前の天丼は
江戸湾(東京湾)に揚がった小魚だけをその食材とするもの。
陸(おか)から収穫された野菜類は使わないのが本筋である。
しかも切り身は使用しない。
1尾丸ごとが暗黙の諒解となっている。
唯一の例外はイカなのだが、まあ、イカは魚ではないからネ。

これは察するに江戸の武士が
斬り身に繋がる切り身を嫌ったためではなかろうか。
うなぎにしても関東の背開き、
上方の腹開きという違いがあるくらいだ。

ずいぶんとプロローグが長くなったが
江戸前の天丼が食べたくなって浅草へ出向いた。
かれこれふた月も以前のことであるけれど―。

浅草の天丼となれば、有名どころでは
「大黒家」、「三定」、「葵丸進」が一応、御三家。
ほかには値が相当張るが、豪華絢爛な江戸前天丼を誇る「まさる」。
三兄弟がそれぞれ別経営する「いせや」。
この三店は吉原・千束・蔵前と
浅草の中心を微妙に外れるところがきわめて面白い。

あとはそうですねェ・・・。
週末休みを利用してちと思い浮かべてみまッス。

=つづく=

2014年11月6日木曜日

第963話 昔ながらの天丼 (その1)

誰が決めたのか皆目見当もつぬが
日本五大どんぶりをご存知でしょうか?
いや、そもそもそんなキマリがあるのかどうか、
かなり疑わしいんですけどネ。

先日、あるレストランに講師として招ばれた際、
若いスタッフの面々に
「日本の五大どんぶりを選びなさいっ!」―こう質問を投げかけてみた。
現代の若者の常識を推し量るつもりだったのだ。

その答えがふるっている。
誰しも天丼とかつ丼はまず外さない。
ところがそのあとがいけまへんのや。
普通なら三番手に親子丼あたりがくるハズ。
でもネ、牛丼ってのが意想外に多いのだ。
「吉野家」、「すき家」、「松屋」が日本の若者を制覇した感あり。

中華丼や麻婆丼なんて突拍子のないのもあった。
読んで字の如し、中華丼は和食じゃなくて中華だろうに―。
焼肉丼やビビンパもあったが、こりゃ明らかにコリアンでアリラン。

J.C.が選べば、かようになる。

 天丼 かつ丼 親子丼 うな丼 鉄火丼

以上がフツーの日本人の常識であろうヨ。
五大どんぶりに準ずるのが

 玉子丼 深川丼 開化丼 他人丼 木の葉丼
 たぬき丼 舞子丼 東(あずま)丼 焼き鳥丼 
 かき揚げ丼 海鮮丼 北海丼 

といったところか―。
聞き覚えのないどんぶりがいくつか登場したので
少々、解説を加えておこう。

深川丼はあさりの味噌煮(ほとんど味噌汁)をぶっかけたもの。
開化丼は俗にいう牛丼もあるが、玉子でとじるケースが主流。
親子の鳥肉の代わりに豚肉(牛肉もあり)を使うのが他人丼。
木の葉丼はきつねそば(うどん)のどんぶり版。
舞子丼はごはんの上にどぜうの柳川を載せる。
鉄火丼のまぐろが赤身のヅケになれば東丼。
海鮮丼はちらしに似ていても煮モノや〆モノはあまり参加しない。
北海丼は海胆・いくら・かになど北海道の素材が主役を張る。

もし、どんぶりモノの人気投票を広く実施すれば
天丼とかつ丼が東西の横綱格に落ち着くこう。

J.C.が好きな順は

 天丼→かつ丼→鉄火丼→うな丼→親子丼

となろうか。

=つづく=

2014年11月5日水曜日

第962話 ブルースに寄せて (その4)

日本のブルースにおけるマイ・ベストテンのつづき。

「上海ブルース」
 往時の上海情緒が満ちみちている。
 ディック・ミネの声音にピタリと合った。
 ♪ 何にもいえずに 別れたね 君と僕 
   ガーデンブリッジ 誰と見る 青い月 ♪
 惜しむらくは二番までは短かすぎだろう。

「長崎ブルース」
 ♪ 石のたたみを あるいたときも
   二つの肩が 離れない
   ザボンのかおりの うす月夜
   死んでも忘れぬ 恋すがた
   ああ 忘れぬ長崎 ブルースよ ♪
 青江三奈のナンバーでは「池袋の夜」と双璧。
 
「昭和ブルース」
  かなり野暮ったい詞と曲ながら
  それが文字通り、昭和の匂いを放つ。
  天知茂の主演ドラマの主題歌となり、
  Wヒットの恩恵にあやかった。
  聴き比べると、オリジナルのブルーベルがベターかな?

「暗い港のブルース」
  この曲についてはすでに多くを語った。
  どこから見ても聴いても名曲であることに寸分の疑いもない。

ほかにもブルースをタイトルに含んだ曲は多い。
思いつくままに列挙してみよう。

別れの~、雨の~、想い出の~、満洲~(淡谷のり子)、
夜霧の~(ディック・ミネ)、黒い傷痕の~(小林旭)、
新宿~(扇ひろ子)、柳ヶ瀬~、新潟~(美川憲一)、
東京~、博多~(西田佐知子)、加茂川~(フランク永井)、
港町~(森進一)、思案橋~(中井昭・高橋勝とコロラティーノ)、
宗衛門町~(平和勝次とダークホース)、
中の島~(内山田洋とクールファイブ)、
恍惚の~、伊勢佐木町~(青江三奈)、あなたの~(矢吹健)、
受験生~(高石友也)、女の~(藤圭子)、
スニーカー~(近藤真彦)、夜明けの~(五木ひろし)

アメリカのディープ・サウスで生まれたブルース。
綿花畑で労働に勤しんだ黒人たちにより、
ギターで弾き語られたのが発祥ということらしい。
ゴスペルが黒人霊歌ならば、ブルースは黒人哀歌。

そんなルーツを持つブルースだが
日本では独自の道を一人歩き始めて
独特のジャンルを形成するまでに至った。
そう、日本人は哀歌を心から愛するのですなァ。
ご清聴、もとい、ご清読ありがとうございました。

=おしまい=

2014年11月4日火曜日

第961話 ブルースに寄せて (その3)

連載中の「ブルースに寄せて」―。
またまた反響がありました。
J.C.の選んだベストテンについて
若い読者からは
「君に捧げるほろ苦いブルース」なんて
長いタイトルの曲は初めて耳にしたゾ!
年配の方からは
エゴ・ラッピンっていったい何処のドイツなんだ!
ハイ、ごもっとも。

歌は世につれ、世は歌につれ、西郷さんは犬をつれ。
ハハ、世代のギャップはそう簡単に埋められないもんでごわす。
せっかくですからここで
心揺さぶるブルース、マイ・ベストテンの寸評とまいりましょう。

「君に捧げるほろ苦いブルース」
 「梅の実」、「海」、「マックスへの手紙」と並ぶ、
 荒木一郎の気に入りナンバー。
 アリスの「帰らざる日々」はこの曲のパクリだと確信している。
 あの才能が途中下車してしまったのは残念至極なり。
 
「色彩のブルース」
 フルタイトルは「~Midnight Dejavu~色彩のブルース」。
 独創的な歌詞とメロディーを創作した中納良恵に敬意を表したい。
 夜、独りで酒をたしなむときにピッタリ。
 ビール、ワイン、もちろん日本酒もダメ。
 シングルモルトやコニャックでもなく、ジンかウォッカ限定

「山谷ブルース」
 フォークはあまり好まぬが、これだけは別格。
 なぜってフォークの域を超えてるからネ。
 ♪ 一人酒場で 飲む酒に 帰らぬ昔が なつかしい ♪
 孤高の、いや、単に孤独な酒飲みにはたまりませんや。
 山谷を訪れることなくして、この曲の真価を解すること能わず。

「君忘れじのブルース」
 ブルースの女王・淡谷のり子には
 「別れの~」、「雨の~」等のヒットがあるが、この曲こそマイ・ベスト。
 戦後の曲ながら、戦前の流行歌に劣らぬ格調を備えている。
 作曲者が「大利根無情」の長津義司と知ったとき、
 椅子からもんどり打って転げ落ちそうになった。

「銀座ブルース」
 たそがれどきの銀座を活写している。
 オリジナルより松尾&フランクのバージョンが好み。
 デュエット曲だがカラオケでJ.C.と一緒に歌ってくれるのは
 ときどきオジャマするスナックのママだけというマイナーさ。

「赤と黒のブルース」
 ♪ カルタと酒に ただれた胸に ♪
 ♪ 倒れて眠る モロッコ椅子に ♪
 吉田正の曲もさることながら、宮川哲夫の詞が白眉。
 鶴田浩二の甘い声色とシンクロナイズしている。

以下、次話です。

=つづく=

2014年11月3日月曜日

第960話 ブルースに寄せて (その2)

もうお一方のお便りは
滋賀県・長浜市にお住まいのN宮W子サンから。
長浜といえば、寒い時期の鴨鍋が有名。
未訪ながら、いつの日か訪ねたいと思っている。

友人のススメで「生きる歓び」を愛読し始めまして2年になります。
もちろん、それ以前の第1話までさかのぼって読ませていただきました。

 「暗い港のブルース」を初めて聴きました。
キングトーンズでは
「グッド・ナイト・ベイビー」しか知らなかったわたしには
とても新鮮な素敵な曲でした。
リードテナーの内田さんの声が印象的で
バックのトランペットも心に響きます。

拙宅は琵琶湖に近いこともあり、
聴いていて暗い湖面が目に浮かびました。 

わたしは「生きる歓び」に♪マークが出てきますと、
今回はどんな曲だろうとわくわくします。
オカザワさんは賛否両論とおっしゃいましたが
わたしは絶対に賛成派、これからもぜひ、続けてくださいましね。

ハイ、続けますとも。
ちなみにN宮サンの耳朶に印象を残した声の持ち主、
内田正人は横浜の出身である。

ものはついで、タイトルに”ブルース”を冠する日本の楽曲を調べてみた。
いや、かなりの数があるもんですな。
そこで例により、マイ・ベストテンを選んだ。
ただし、ここ2~3日の即席チョイスゆえ、
もれている曲もあろうし、じっくり聴きこむヒマもなかった。
よって10曲ピックアップはしたものの、さすがに順位はつけがたい。
それでもトップスリーだけは明記しておいた。
赤字の3曲がソレである。

 君に捧げるほろ苦いブルース(荒木一郎)
 色彩のブルース(エゴ・ラッピン)
 山谷ブルース(岡林信康)

 君忘れじのブルース(淡谷のり子)
 銀座ブルース(松尾和子&和田弘とマヒナスターズ)
 赤と黒のブルース(鶴田浩二)
 上海ブルース(ディック・ミネ)
 長崎ブルース(青江三奈)
 昭和ブルース(ブルーベル・シンガーズ)
 暗い港のブルース(キングトーンズ)

手前ミソで恐縮ながら
いやはや、珠玉の名曲がズラリ勢揃いの景色であります。

=つづく=