2016年4月29日金曜日

第1349話 ズブロッカは桜餅の匂い (その1)

池袋の酒場でヘンなオジさんに話し掛けられた。
おかげで昼から飲み過ぎた。
そういやあオジさん、
志村ケンにちょっと似ていなくもなかったな。

さて、その日の夜である。
男と女が二人づつ、計四人集結したのは
本郷菊坂下のロシア料理店「海燕」。
店名はゴーリキーの詩、「海燕の歌」にちなむ。

数週間前にもここでニューヨーク時代の仲間たちと
リユニオンを開催したばかりである。
その夜はウォッカとズブロッカを痛飲したが
今宵も二の舞を踏みそう。
何せ顔ぶれが顔ぶれ、四人が四人とも酒飲みだからネ。

池袋から帰還したあと、
”夜戦”に備えて1時間ほどうたた寝をした。
「海燕」の最寄り駅は地下鉄の都営三田線・春日。
身体がダルいのであえて電車を使わず、自宅から歩いて行った。

定刻に全員集合となり、乾杯はキリン・ハートランドの生ビール。
アルバイトの女の子が注いだジョッキは泡だらけで
泡嫌いのJ.C.にとって最悪の状態だった。
欧米人ならまず間違いなく文句が出るネ。

他の三人はべつに気にもせず飲んでいるが
こちらは即刻、ロシアの瓶ビール、バルティカを注文する。
自らの手で静かに注げるシアワセよ。
瓶のありがたみを実感しながら自分で自分にあらためて乾杯。

普通ならここで長渕剛の「乾杯」となるところなれど、
好みの歌ではないから割愛する。
一方、庄野真代の「モンテカルロで乾杯」は好きだが
今回は自粛しておくとしよう。

集まったメンバーは以前、ワイン会をともに催したり、
自著の編集担当だったり、遠慮の要らない連中。
それぞれ互いに初対面はなくとも
まったく同じ顔ぶれの集まりは初めてかもしれない。
近況の報告後、話題はワインの掘り出し物や
長引く出版業界の不況などに移ってゆく。

電話予約の際にお願いしてあった、
ザクースカの盛合せが運ばれ来た。
「海燕」に限らず、ロシア料理店を訪れたら
いの一番にこのプレートである。

ザクースカは冷前菜のこと。
フランス料理の前菜ならば、冷・温揃っているが
ロシア料理に温前菜はまずない。
なぜか?
温かい料理は国民酒・ウォッカに合わないからだ。
合わないどころかジャマになるくらいなのだ。

=つづく=

2016年4月28日木曜日

第1348話 池袋の昼 (その7)

「ふくろ本店」のカウンターに独り。
ホッピーを飲んでいる。
この店はほとんどが独り客である。

さて、前回はラーメンを食べての来店だった。
今回は天丼だから、かなりヘビーだ。
再びチョイ焼きたら子のお世話になるかな?
しかしねェ、それもまた芸のない選択だよなァ。

つらつらと壁の品書きを目で追ってゆく。
おっと、そうだ、コイツにしよう。
目がとまったのは数の子わさび漬である。
ハハ、タラの子からニシンの子にシフトだネ、こりゃ。

子どもの頃から魚卵好きだったからなァ。
おふくろの煮つけた助宗鱈や真鯛の真子で
ごはんを食べるのが大好きだった。
今じゃ彼らを肴に酒を飲むのが至福である。

焼きたら子と違って3分と経たずに届いた数の子わさびだが
数の子の姿がほとんどない。
割り箸で中を突ついても見当たらない。
はっきり言って不満である。
それが証拠に半分以上残したもの。
天丼のあとでつまみを必要としないから、まっ、いいか。

ビールが飲みたくなったがホッピーの”外”がまだ残っている。
よって”中”の焼酎をお替わり。
ほんのりと酔いが回っていい気持ち。
昼酒の良さはここにある。

隣りのオジさんから話し掛けられた。
「よく来るんッスか?」
「ええ、ときどきですけどネ」
「アタシゃ近所だからしょっちゅうですわ」
「池袋にお住まい?」
「いえ、電車に乗って・・・その、大山っちゅうとこです」
「ああ、東上線のネ、ボクも子どもの頃、
 中板橋にいたことがありますヨ」
「それじゃお隣りさんだ、どっかの飲み屋で一緒だったかも?」
「いえ、いえ、子どものときですから・・・」

こんな調子で始まって
何のこたあない、1時間近くも世間話をしてしまった。
おかげで生ビールを2杯も追加飲みする羽目に―。
いや、マイッたな。

実はこの日の夜は予定あり。
本郷菊坂下のロシア料理店「海燕」で小宴を張ることになっている。
そこではロシアのウォッカ、ストリチナヤが待っている。
だのに真ッ昼間からこんなに飲んじまって・・・

♪ どうすりゃいいのさ 思案橋 ♪

オラ、もう知らねェ!

=おしまい=

「ふくろ本店」
 東京都豊島区西池袋1-14-2
 03-3986-2968

2016年4月27日水曜日

第1347話 池袋の昼 (その6)

池袋西口の「天丼ふじ」。
穴子天丼に満足の昼下がりである。
10席ほどのカウンターは席の休まるヒマがない。
次から次へと客が入れ替わり立ち替わり状態だ。

揚げ場で揚げ続けの店主にとってはシンドい仕事なれど、
かなりの儲けが出ているのではないか。
それがエネルギーの源泉となっているのだろう。
肉体疲労時にはリポビタンDやオロナミンCなんかより、
何と言ってもお金が一番。
そうでなけりゃ、こんな仕事を日々続けることなどできやしない。

勘定時、食べ終わったドンブリを
カウンターの上にリフトアップすると、
ミャンマー(?)女性がニッコリ。
「ありがとゴザイマ~ス!」―
満面の笑みに送られる。
アナゴとオナゴ、どちらもまことにけっこう。
とにかく入ってよかった「天丼ふじ」でした。

次に向かったのはまたもや「ふくろ本店」。
その日の晩酌、たまには昼酌、ごくまれに朝酌もありうるが
とにもかくにも始まりは常にビールである。
いきなり日本酒やワインということはまずない。

しかるに、ここでちょいと考えた。
いきなりホッピーというのはどうだろう?
ビールの兄弟分みたいなモンだから
引っ掛かることもなく、スッと飲めるに違いない。

よってモノは試し、ホッピーをお願いした。
氷入りのジョッキをグッとあおって・・・
ふむ、なかなかであるぞな。
でも、ビールには及ばないネ。
そんなことを思いながら
傍らの愚にもつかない突き出しは例によってパス。

10日前とは打って変わったポカポカ陽気につき、
湯豆腐を注文している客は見当たらなかった。
代わりに冷奴が人気を集めているかと思えば、
そうでもない。

あれっ、感じのいいオネバさんが居ないゾ。
裏口方面、カウンターの奥まで
彼女の姿を求めたものの、やはり不在だ。
まあ、ほかのオバちゃんたちの接客だって
悪いわけじゃないからべつに構わないけど少々ガッカリ。

正月以外は年中無休のフル稼働店、
スタッフは交代で休まなきゃネ。
まさか突然の退職ってこともなかろうヨ。
でも、ちょいとばかり心配にはなった。

=つづく=

「天丼ふじ」
 東京都豊島区西池袋1-28-6
 03-3985-0844

2016年4月26日火曜日

第1346話 池袋の昼 (その5)

池袋西口の「ふくろ本店」をあとに
埼京線に乗って北区の酒場に向かおうとするところ。
JRの改札口にてポケットから
パスモを取り出した瞬間、突如として気が変わった。

そのまま人混みの中を抜け、
東口のバスストップへ直行の巻。
乗り込んだのは浅草寿町行きの都営バスだ。
北区をやめて向かったのは台東区。
何となれば、雷門の「神谷バー」で
生ビールを飲みたくなったからだった。

実は恥ずかしながら浅草でも
「神谷バー」の店先で気が変わってしまい、
吾妻橋を渡り、アサヒビールの直営店「隅田川 Lill」へ移動。
結局は薬局、氷点下のスーパードライに切り替えた。
やれやれ、おのれの浮気性にはほとほと呆れる。
いや、これは浮気性どころじゃないネ、
言わば精神分裂症ですな、もはや―。

その日から数えて10日後。
池袋西口に再び.C.オカザワの姿を見ることができた。
訪れたのは10日前に見初めた天丼屋で
屋号を「天丼ふじ」という。

店内はコンパクトなコの字型カウンターのみ。
空席がなくしばら くの間、立ちん棒を余儀なくされた。
カウンターの中にバイトと見られる若い女性が一人。
アジア人だがチャイナではなさそうだ。
いや、店の前が池袋チャイナタウンの入口だから
やはりチャイニーズかな? 
ここ数年、急激に増えつつあるミャンマーの人かもしれない。

奥の狭い揚げ場で初老の店主が黙々と天ぷらを揚げている。
日本人店主とアジア女性のアルバイト。
この組合せは昨今、小規模な飲食店の定番に定着した感あり。
 
穴子天丼には主役の穴子が丸一尾。
春菊・しし唐・海苔の小片トリオが脇を固めている。
それにわかめの味噌汁が付いた。

ビールが欲しいところなれど、
誰も飲んでいないし、あるのか無いのかも判然としない。
訊ねる気にもなれず、
左手に持つドンブリの小宇宙に集中することにした。

800円としては上々の穴子天丼である。
他の客が注文するのは海老が主役の天丼ばかり。
いや、実に日本人は海老好きでありますな。
確かにルックスは穴子やキスやイカよりも
海老のほうがはるかに見目うるわしくはありますがネ。

=つづく=

2016年4月25日月曜日

第1345話 池袋の昼 (その4)

池袋西口の「ふくろ本店」。
あまりにヒドい突き出しは無視する。
「福しん」で手もみラーメンを食べてきたから
つまみなんかほしくないが、そうもいかない。
べつに注文せずとも文句は言われないけどネ。

少々、肌寒い日だったせいか、
周りを見回すとオジさん&ジイさん連中はほぼ例外なく、
湯豆腐の小鍋をつついている。
鍋はいいよネ。
殊に単身来店の「孤独のグルメ」にはピッタリだ。
身体のみならず、心まで温めてくれるからねェ。

すでにお腹がくちくなったJ.C.
なるべくカサの張らないものを選ぼうとする。
壁の品書きから見い出したのはお手軽なたら子だ。
好物でもあることだし、チョイ焼きで頼んだ。

久しぶりに飲むホッピーがなめらかにノドをすべり落ちてゆく。
ホッピーには白・黒・赤の3種類がある。
数年前に発売開始された赤を置くところは少ないものの、
白と黒は多くの店が揃えている。

ところが当店には白しかない。
もっともJ.C.はホッピーでもビールでも黒より白を好む。
ビールでいう白はピルスナー系、黒はスタウト系だ。
ピルスナーはラガーと呼び代えてもいいだろう。
それはそれとして
忘れ去られたんじゃないかと思うほどにたら子の到着が遅い。

オバさんばかりのスタッフの中、
一人だけオバさん手前のオネエさん、
言わゆるオネバさんがいる。
とても感じのいい人で言葉遣い、客あしらいが丁寧。
加えて器量なかなかにして
掃き溜めに鶴(失礼!)の感すらある。

注文を通したのはこの人だったから
まず間違いはなかろう・・・なんて思ううちに
白い皿に乗せられて一腹(ひとはら)の赤いたら子が運ばれた。
一腹はワンペアである。
一切れのみの片割れは半腹という。
それがたら子の数え方だ。

”外”(ホッピー)は1本だけ、
”中”(焼酎)をお替わりして短い滞在を終えた。
はて、どこへ回るとするかの?

埼京線に乗って十条か赤羽かな?
前者なら「齊藤酒場」か「天将」。
後者だと「まるます家」か「まるよし」であろうヨ。

=つづく=

2016年4月22日金曜日

第1344話 池袋の昼 (その3)

池袋東口の「福しん」にいる。
どちらもめったに利用することはないが
ラーメンに関しては「日高屋」よりも「福しん」のほうが好き。
前者は煮干しというか魚粉というか、
とにかくサカナ臭さがイヤだから
もっぱらタンメンに逃げることになる。
ただし、ビールの合いの手にはボリューム過多が難だ。

この値段でよくぞここまで!
称賛に値するラーメンをツルツルッと食べ終えた。
とにかく遅ればせながら昼食を取ったし、
お次は早めの晩酌にしちまおうか・・・
乗り掛かった舟ならぬ、飲み掛かった酒だしねェ。

都内屈指の繁華街、池袋といえども
15時過ぎに開いてる酒場はそう多くない。
前述のビヤホールのほかは酒屋の角打ちあたりに限られる。
ところが一軒、昼過ぎどころか早朝から飲める酒場があった。

その名も「ふくろ」、そう、池袋の「ふくろ」である。
本店は西口の東京芸術劇場そば。
乗降客でごった返す駅構内を避け、
駅手前のガードをくぐって西口へ抜けた。

途中、一軒のひなびた天丼屋の前を通過すると、
店内から一組のカップルが出てきた。
開いた引き戸の隙間から中をのぞけば、
ほぼ満席の盛況ぶりである。

店先に貼り出された写真メニューをチェックしたら
好物の穴子天丼が800円だと!
食指が動いたものの、ラーメンのあとでは到底ムリ。
近いうちに食べにこよう。

そうしてやってきた「ふくろ本店」。
本店があれば当然、支店がある。
支店は東口で、所在地が何と、
「池袋の夜」の歌詞に出て来る美久仁小路なのだ。
こちらは歌の題名に忠実、夜だけの営業となる。

本店の1階カウンターは珍しく空いていた。
いつもなら瓶ビールでスタートするが
気分をちょいと転換してホッピーを所望した。
客の大半がコレを飲んでいる。

ホッピーのボトルは1合瓶に入った焼酎とともに供される。
このスタイルならば、自分のその日の酒量が把握できてよい。
ダラダラお替わりしてると、
どれだけ飲んだか判らなくなるからネ。
いつものように中身不明の突き出しが出てきた。
枝豆の周りをドロリとした何かが覆っている。
以前、一箸つけてあまりのお粗末さに言葉を失った。
庶民の味方「ふくろ」の弱点はこの突き出しに尽きるのだ。

=つづく=

「福しん 区役所前店」
 東京都豊島区東池袋1-35-1
 03-3987-1504

2016年4月21日木曜日

第1343話 池袋の昼 (その2)

しばしば出没する荒木町だが
ここを新宿とは言わないネ。
同じ新宿区内でも四谷になる。
夜更けて人が引いたあと、
杉大門や車力門の通りを歩くのは風情があってよい。

渋谷へは二(ふた)月に一度、ヘアカットに通う。
ただし、メガステーションには寄り付かず、距離をおく。
かの有名なスクランブル交差点なんか金輪際渡りたくない。
おかげで気に入りの立ち飲み酒場、
「富士屋本店」に行く機会を失ってしまった。
哀しむべし。

そこへゆくと、人混みだらけでも池袋だけは許せてしまう。
自分を育ててくれた街だからネ。
仰げば尊し、わが師の恩。
けっして忘れることはない。

その日は上池袋で所用を済ませ、
明治通りを一路、池袋東口に向かっていた。
時刻は14時半を回っている。
まだ昼めしを食べていなかったが
この時刻になると、行き場所が限定されてしまう。

学生時代によく利用した「銀座ライオン 池袋東口店」で
生ビールを飲みながら、何かつまむとするかな?
そんなアイデアが浮かんだときである。
目の前にラーメン・チェーンの「福しん」が現れた。

都内各地にあるチェーンのラーメン店というと、
誰しもが「日高屋」を思い浮かべるだろうが
この「福しん」も城北を中心にかなりの展開力を発揮している。
池袋周辺、東武東上&西武池袋沿線が主な勢力圏だ。

ラーメンにせよ、牛丼にせよ、チェーンのありがたい点は
中休みがなく深夜まで営業していること。
そしてわが身にとっては何よりもビールが飲めること。
東京には昼日中(ひなか)から気軽に飲める場所がない。
ロンドンのパブ、パリのカフェ、ローマのバール、
ニューヨークのバーに匹敵する酒場がほとんどないのだ。
嘆くべし。

「ライオン」のことなどすっかり忘れて
「福しん 区役所前店」に飛び込んだ。
さっそく生ビールの中ジョッキである。
これが390円。
ありがたし。

グビビッ、プッファーとジョッキ半分ほどを飲み下し、
注文したのは手もみラーメンである。
これまた390円。
再びありがたし。

=つづく=

2016年4月20日水曜日

第1342話 池袋の昼 (その1)

 ♪   あなたに逢えぬ  悲しさに
   涙もかれて しまうほど
   泣いて悩んで 死にたくなるの
   せめないわ せめないわ
   どうせ気まぐれ 東京の
   夜の池袋 

   他人のままで 別れたら
   よかったものを もうおそい
   美久仁小路の 灯りのように
   待ちますわ 待ちますわ
   さよならなんて いわれない
   夜の池袋

   にげてしまった 幸福は
   しょせん女の 身につかぬ
   お酒で忘れる 人生横丁
   いつまでも いつまでも
   どうせ気まぐれ 東京の
   夜の池袋         ♪
        
     (作詞:吉川静夫)

青江三奈、最大のヒット曲「池袋の夜」が池袋のみならず、
日本全国に響き渡ったのは1969年。
当時、受験勉強中のJ.C.の耳にもガンガン飛び込んでおりました。

小学校6年から大学2年まで東武東上線沿線に住んでいたため、
遊び場は何処を差し置いても、もっぱら池袋だった。
殊に1969年は

 ♪ あゝ あゝ あゝ 高校三年生 ♪

でありまして、運よく部活にも予備校にも無縁の身。
下校後は巣鴨に棲む当時のGFと
板橋・豊島の区境にある高校から
池袋までよく歩いたものだった。
思春期のランデヴーですな。

若い頃に芽生えた愛着は月日を経ても
おいそれとは失われないもの。
池袋は特別な街なのである。

都内で人が集まる三大タウンといえば新宿・池袋・渋谷。
人混みを極力避けたいわが身としては近づきたくないエリアだ。
これといった用事のない新宿には最近トンとご無沙汰。
何となくラッキーな心持ちである。

もっとも新宿三丁目の先の御苑前、
そのまた先の四谷三丁目、
いわゆる荒木町へはときどき出向く。
いや、御苑界隈はともかくも
荒木町は二週に一度は訪れる。
十数年前に馴染んだ町に復刻の匂いを嗅いでいるのだ。

=つづく=

2016年4月19日火曜日

第1341話 チューブばっかり三兄弟 (その5)

見るともなしに見た「今一」のカウンター内。
オヤジAのササミが焼き上がり、串が6本、皿に並んだ。
ここまではよかったんだが問題はこのあとだ。

店主が差し出した串にアシスタントよろしく、
バイト娘がチューブのわさびを搾り出した。
エッ? エッ?
何も生わさびをおろせとは言わないが
それはないじゃろに。

お次も同じくチューブの練り梅ときたもんだ。
(ゲゲッ、こりゃたまったモンじゃないぜよ)―
もちろん口には出さず、胸の奥でつぶやいただけである。
だけどさァ、いったい店主はどういう神経してるんだろう。

極め付きは先刻アラサーが確認した明太子だ。
これまたお察しの通り、チューブをグニュグニュ。
見ていて気色が悪くなっちまった。

とにもかくにもこれにて三兄弟の揃い踏み。
呆れ果てたJ.C.、言葉がとてもみつからない。
焼き鳥屋といえども(けして見下しているわけではない)
一応は料理人のはしくれ、
せめてプロのプライドのかけらくらいは残しておいてほしい。

それにしても作るほうも作るほうだが
こんな駄品をありがたがって頼むほうも頼むほう。
しかも二人で6本だヨ。
他人事ながら一部始終を目撃していてドッと疲れた。
やれやれ。
 
ササミをしきりに噛みながら
オヤジAが店主に肥を掛け、もとい、声を掛けた。
「女の子、また変わったんだねェ・・・」
「ええ、彼女で5人目です」
「よく変わるんだねェ・・・」
「ええ、でも、みんな辞めるときは
 次の娘を紹介してくれてるんですヨ」
 
何だ、なんだ、1年そこそこでバイト娘が早や五代目だとサ。
再び思ったネ、いったい店主はどういう神経してるんだろう。
浅草の江戸前鮨店、
「弁天山美家古」なんぞ、150年掛けてやっと五代目だぞ!
 
入店してすぐ彼女がフロム・チャイナと判ったが
どうやら5人すべてがそうらしい。
いや、恐れ入りました。
観光客による”爆買い”だけじゃないんだヨ。
居留者の”爆働き”もまた、この島国を席巻しちゃってるんだヨ。
 
=おしまい=
 
「今一」
 東京都台東区3-18-5
 03-3828-0200

2016年4月18日月曜日

第1340話 チューブばっかり三兄弟 (その4)

よみせ通りの「今一」。
焼き鳥自体はそこそこながら見映えに難があって
町なかでときおり見掛ける鶏肉専門店、
そのお持ち帰り用といった水準だろうか。
焼き鳥屋としては店名通りイマイチ、今一つなのである。

2串を食べ終え、今一度品書きを手に取ったが
品目貧弱にして食指の動きを誘発する料理は何一つない有り様。
ここはあらかじめ想定していたタレ焼きに絞るしかない。

焼き鳥屋でも焼きとん屋でも
来れば絶対に外さないレバー(130)。
そして当店唯一の稀少部位、ハツモト(180)を追加した。

ハツモトは心臓に通ずる大動脈である。
これをラインナップに加えてるんなら
「今一」も捨てたモンじゃないかもなァ。
何でや? ってか?
”脈”があるっちゅうことでんねん、へへ。

  ♪   上目使いに 盗んで見ている
    蒼いあなたの 視線がまぶいしいわ
    思わせぶりに 口びるぬらし
    きっかけぐらいは こっちでつくってあげる

    いわゆる普通の 17才だわ
    女の子のこと 知らなさすぎるのあなた
    早熟なのは しかたがないけど
    似たようなこと 誰でもしているのよ

    じれったい じれったい
    何歳(いくつ)に見えても 私 誰でも
    じれったい じれったい
    私は私よ 関係ないわ
    特別じゃない どこにもいるわ
    ワ・タ・シ 少女A            ♪

           (作詞:売野雅勇)
    
中森明菜がブレイクしたのは1982年。
彼女2枚目のシングル、「少女A」がその起爆剤だった。
どちらも佳曲、来生えつこ&たかおの姉弟コンビによる、
デビュー曲「スローモーション」、
3枚目「セカンド・ラブ」にはさまれて
より明菜の本質に迫り、
個性を前面に押し出した「少女A」は大好きな曲だ。
とは言うものの、マイベストは第9弾の「十戒」だがネ。

おっとっと、少女Aじゃないヨ、オヤジAだヨ。
アラサーとの会話がだんだんエスカレートしてきた様子。
ちょいとばかりやかましいが
まっ、どうにか許容範囲ではある。

このときであった。
異様な光景を目にしたのは―。

=つづく=

2016年4月15日金曜日

第1339話 チューブばっかり三兄弟 (その3)

近頃はホームグラウンドの浅草以上に
出没する機会の多い谷根千。
谷中のよみせ通りはその道路イコール、
台東区と文京区の区境だ。

数週間前に焼き鳥「今一」のカウンターで独酌したときのハナシ。
スタッフ二人を前に独りで飲んでいるのは
いささか尻の座りが悪い。
リラックスにはほど遠い感覚がある。

そこへ一艘の助け舟よろしく、
一組のカップルが入って来た。
中高年のオッサンにアラサー女の組合わせは
職場の上司と部下だろうか?
不倫感は漂わないけれど、実のところはよく判らない。
オトコは店主と親しげに言葉を交わしているから
おそらく近隣の常連なんだろう。
彼を便宜上、オヤジAと呼ぶことにしよう。

当方はバイト娘に焼き鳥を注文。
最初はもも肉(130円)とハツ(150円)を塩で―。
もちろん焼き手は店主だが
所作にキビキビしたところが見られないのは
経験不足のせいらしい。
こりゃ、期待できそうにない。

カップルは一番奥のテーブルに着き、生ビールを飲み始めた。
声高の会話が耳に届いてくるものの、聞こえそうで聞き取れない。
まっ、べつに興味があるわけじゃなし、どうでもいいけどネ。

やおら振り向いたオヤジAが店主に問い掛けた。
「マスターさァ、このあいだ食べたササミ、またやってくれる?」
「エッと、何でしたっけ?」
「ほら、いろんな味が混ざったヤツヨ」
「アッ、はい、はい、判りました」
ここでアラサーが追い打ちを掛ける。
「明太子とかも入ってたわネ」
「ええ、はい、はい」
「とりあえず3本づつなっ!」

おい、おい、ササミだけ6本も注文するのかや。
耳をダンボにするまでもなく、やりとりのすべてが把握できた。
コイツは見ものだゾ、
なんて予期せぬイベントを楽しみにしているうち、
自分のモモとハツが焼き上がった。

ありゃりゃ、小ぶりなのはいいんだが
串打ちがあまりにも稚拙で見た目が貧相きわまりない。
ダメだ、こりゃ!
と、思いつつもハツをかじってみたら味はなかなかである。
意外に食材はちゃんと仕入れているらしい。

=つづく=

2016年4月14日木曜日

第1338話 チューブばっかり三兄弟 (その2)

あいにくその日は曇りがち。
夕焼けだんだんの上から西の空をのぞんでみたが
さして高くもないビルが何棟か建っているのみだ。

はるか大利根から
見てはいけない西空を見上げた剣豪・平手造酒の目には
江戸へひと刷毛、あかね雲が映ったのだった。
何のこっちゃい? 
首を傾げつつも興味のある方は
三波春夫の「大利根無情」をググッてみてください。

階段を降りて谷中銀座。
平日だから人出はイマイチである。
それでも近頃増えた外国人の姿が目立つし、
メンチカツをウリにしている2軒の精肉店と
格安の惣菜店の前には客たちが
それなりの人だかりを作っている。

100メートルほどの谷中銀座を突っ切れば、
突き当りはT字路、よみせ通りにぶつかる。
右へ行ったら道灌山通り、左に折れると三崎坂。
商店の数がより多くにぎやかな右手に進路を取った。

地方都市の商店街ならとっくの昔に
閉業に追い込まれていそうな老舗が何軒か生き残っている。
大阪寿司の「宝家」、うなぎの「山ぎし」、
ハム・ソーセージと精肉の「腰塚ハム」、
それぞれに元気いっぱいで営業を続けている。
ご同慶の至りというほかはない。

ほどなく 一軒の焼き鳥屋に差し掛かった。
1年前、いや、もう2年近くになるかな?
いずれにしろオープンからさほど経っていないはずだ。
店名は「今一」、”いまいち”と訓ずるのだろう。
どんな経緯で命名したのか存ぜぬが
食べもの屋としては縁起のよい屋号ではない。

実は半月前にここで一酌を喫したのだった。
期待を大きく下回ったため、
当ブログではスルーするつもりでいたが
たまたま再び通りすがったのも何かの縁、
一筆したためることにした。

入店時に先客はナシ。
中年の店主とアルバイトらしき若い女性が
カウンターの内側で手持無沙汰の様子。
意識しすぎかもしれないが
何となく二人に見張られているような気がした。
 


突き出しの枝豆とともにビールが運ばれた。
とにかく焼き鳥を何本か注文しなければ―。
とそのとき、一組のカップルが来店して
ホッと一息ついたJ.Cなのであった。

=つづく=

2016年4月13日水曜日

第1337話 チューブばっかり三兄弟 (その1)

満開の桜もほぼ葉桜となって美しさも半減。
振り返れば今年は花見の宴がゼロだった。
こんな年も珍しい。
もっとも日程が合わず不参加となった誘いは
2件ほどありましたけどネ。

ただし1件、不忍池のほとりで親しい友人と二人、
桜の枝越しに水面のボートを眺めながら酒を酌み交わした。
たまたま二人とも浅い時間から都合がついて
それなら今が盛りの桜を愛でようじゃないかとなったわけだ。

缶からプラスチックのコップにビールを注ぎ、再会を祝す。
つまみはJ.C.が買って来た、
「京樽」の穴子寿司にバッテラ。
それと相方が持参した、
「ポール・ボキューズ」のオードヴル盛合わせ。
もうそれだけでじゅうぶんだ。

曇り空の下、まだ空気がひんやりとしている。
ときおり冷たい風が首筋を撫でてゆく。
こちらはともかく、相方の身体が冷えてきたのを潮に
小一時間で切り上げることにした。

その後、上野広小路の居酒屋で一酌に及んだのだが
今度は隣りの卓の酔客たちがやかましく、
「チャンチキおけさ」まで出る始末。
それが上手きゃいいけど、みなド下手。
ここも一時間が限界だった。
結局は薬局、チェーンのイタリアンに上がってキャンティを開ける。
何のことはないこの店が一番落ち着けた。

翌日。
独り、谷中霊園の桜並木を歩む。
途中、出逢った2匹の猫が人なつっこく、しばし戯れる。
彼らは霊園内に棲みつき、
しかも食事を運んでくれる愛猫家が何人もいるというから
幸薄き野良猫とはちょいと違うのだ。

そういやあ、この国にはまだまだ野良猫がたくさんいるが
野良犬は完全にその姿を消しちゃったネ。
子どもの頃、悪さをするたびに大人たちから
「”犬殺しのオジさん”に連れて行かれちゃうヨ!」―
イヤ~な言葉で驚かされたものだ。
子ども心に、いや、子どもだったからこそ、怖かったぞなもし。

霊園を抜けて夕陽の名所、夕焼けだんだんにやって来た。
ここにも常に猫が何匹かいる。
谷中の猫はよく人になついていてお人好し、あいや、お猫好し。
中には呼びもしないのに勝手に向うから近づいてくるヤツまでいる。
地域に住む人々の愛情に育まれてきた証しなのであろうヨ。

=つづく=

2016年4月12日火曜日

第1336話 アイスランドの鯨 (その3)

ナガスクジラの赤身がおよそ250グラム。
まずは薄めに包丁を入れてカルパッチョ仕立てだ。

ニンニクのスライスを添えるて
ヒマに任せて撮影上、
ニンニクをまんべんなく散らせてみたものの、
実際はいったんニンニクにどいてもらったりしながら
いろいろヴァりエーションをつけて味わった。
カルパッチョとなると、第一感は牛肉だが
食味の似ているのは馬肉だ。
 
本わさび、根しょうがは生醤油とともに。
ポン酢の場合は大根おろし&きざみ長ねぎがパターンA。
新玉ねぎのスライス&大葉の繊切りがパターンB。
ホースラディッシュには岩塩。
バルミジャーノ・レッジャーノは
ヴァージン・オリーブオイルといった塩梅である。
 
肝心かなめのニンニクは生醤油の助けを借りるが
胡麻油、もしくはオリーブ油もまたよし。
オイル系には日本の醤油よりフランスの岩塩がまさった。
 
合わせる酒もビール、日本酒、赤ワイン、
はてはマール、ダークラムと多種多彩。
予想した通り、楽しい一夜と相成った。
 
イヌイットさながらにひとしきり生肉を堪能したあと、
半分弱残しておいた鯨肉を
南蛮風のガーリックステーキにしてみると、
これもなかなかだったが生には及ばない。
小学校の給食でなじんだ竜田揚げがチラリ脳裏をよぎったが
こんな良質のクジラにはもったいない気がして忘れた。
 
後日、再び「吉池」で見掛けて即購入。
もちろんアイスランドの村娘、もとい、長須鯨である。
部位の違いからか色合いがずいぶん異なっていた。
何せ体長20メートルもある巨大な鯨だから
あっちゃとこっちゃじゃ違うのも当り前。
ちょっと見はまぐろの中落ちみたいだ。

 い色がより鮮烈
先日のが肉っぽい深紅とすれば、
此度は魚っぽい真紅だネ。
前回はいろいろ試したけれど、手が掛かるため、
今回は本わさびとアイオリ(ガーリックマヨネーズ)の2種のみ。
むろんどちらも Very good!
 
味をしめるとはまさにこのことで
以来、ナガスクジラとランデヴーに及ぶことたびたび。
しかしながらモノがモノだけに
安定的な供給は難しいのではなかろうか。
或る日突然、消えてしまわれそうな不安感がつきまとう。
願わくば、チリのサーモントラウト、
ニュージーランドのラムみたいに定着してほしい。
そう思うほどに素晴らしかった。

=おしまい=

2016年4月11日月曜日

第1335話 アイスランドの鯨 (その2)

またもや古いハナシで恐縮ながら時は1974年。
スカンディナヴィア半島の西端、
ノルウェー王国の首都・オスロへは
フィヨルドの街、ベルゲンから入った。

その日はユースホステルの質素な夕食をとり就寝。
翌日はランチを奮発して市内のレストランに入店したのだった。
レストランといっても大衆的でカジュアルな店である。
しかし、さすがに捕鯨大国、
ホエールステーキがちゃんとメニューに載っていた。

現地の人々が鯨肉をほおばる姿をただ、ただ、
指をくわえて眺めるしかて手立てがなかった。
オメエも注文すりゃいいじゃねェか! ってか?
それができりゃ苦労はしないヨ、セニョール!

食べたい気持ちは山々なれど、
ビーフステーキですら手が出ないのに
その倍もするホエールは夢のまた夢。
先立つモノにに恵まれなくては如何ともしがたし。
日本国外で初めて出逢った鯨なのに
哀れJ.C.、見逃し三振の巻である。
今振り返れば貴重なチャンスに
手も足も出なかったことが残念無念。

現在に戻ろう。
アイスランドに捕獲されたナガスクジラに
図らずも遭遇したのは
いつも海産物のお世話になっている御徒町「吉池」だった。
その直後に近所の松坂屋でも見たし、
北千住・丸井の「食遊館」にもあった。

今までアイスランド産の鯨、
あるいはナガスクジラをまったく見掛けなかったのに
いきなりワァーッと市場に出回ってきた感じ。
どこぞの商社、あるいは水産会社が
新しいパイプを敷いたものと思われる。
 
ナガスクジラは200グラムで800円ほど。
わが国の調査捕鯨で和歌山県・太地町に揚がる、
ミンククジラとほぼ同値じゃなかろうか。
もちろん食味はナガスが数段上である。
嫌な臭みもまったくなくて実に美味しい。
稀少部位の尾の身でも何でもないのに
テイスト、テクスチャーともに申し分なく、
食べ手に幸せを運んでくれる。
 
パックを開き、指先で身肉にふれてみた。
柔らかさの中にもほどよい弾力。
食べる前からその美味を確信させ、
今宵はラグジュアリー・ナイトの予感がしたのであった。
 
=つづく=

2016年4月8日金曜日

第1334話 アイスランドの鯨 (その1)

 ♪    花籠抱えて 誰を招く
    アイルランドの村娘
    夢見る瞳よ 君が抱く
    野ばらの花は 愛の花
    変わらぬ誓いを 囁けば
    うるむ涙で じっとみてる
    心の底まで みつめてる
    愛の瞳の いじらしさ   ♪
    (作詞:H.Ruby / 訳詞:島田馨也)

ハワイアン調のメロディーに乗せて
ディック・ミネの歌声が列島に流れたのは1937年。
盲目の大日本帝国が
自壊の道をまっしぐらのご時勢だった。
前年には二・二六事件が勃発してもいる。

「アイルランドの娘」の演奏は
バッキー白片とアロハハワイン・トリオ。
バッキーは日本におけるハワイアンの宗主で
松尾和子と組むことの多かった、
和田弘とマヒナスターズの育ての親でもある。

それにしても「アイルランドの娘」が
どうしてハワイアンなのか理解に苦しむけれど、
この曲はアメリカ映画「恋の走馬燈」(1929年)の主題歌で
ハナからハワイアン・タッチだったそうだ。

前フリが長くなったが本日の主役は
アイルランドの娘ならぬ、アイスランドの鯨。
2~3ヶ月前にたまたま遭遇してからぞっこん、
入れ込むことじんじょうではあらしまへん。

とにかく見た目も食味もすんばらしい。
それほどの機会に恵まれたわけではないが
今まで食べてきた鯨たちを
いっぱ一からげにして軽く一蹴するほどの美味だった。

なぜだろう? なせかしら?
それはでんなァ、
長いこと日本人が食することのできなかった、
大型ヒゲクジラの雄、ナガスクジラだったからざんす。
調査捕鯨の名のもとに日本の捕鯨船が持ち帰るのは
ほとんどがミンククジラで体長10m以下の小型種。
惑星最大のシロナガスクジラを筆頭に
二番目に大きいナガスクジラもまた、
日本人には高嶺の花だったんですヨ。

1974年、J.C.はノルウェーの首都・オスロのレストランで
大勢の客がホエール・ステーキ(鯨種は不明)に
舌鼓を打つ光景を目の当たりにしたことがある。
揃いも揃って旨そうに食うんだな、これがっ!

=つづく=

2016年4月7日木曜日

第1333話 どっこい生きてた レーズンバター (その4)

葛飾区・堀切の「きよし」。
ボールを飲りながら数十年ぶりのレーズンバターをつまむ。
う~ん、やっぱりあんまり旨いもんじゃないなァ。
しかもこいつはバターじゃないゾ、マーガリンだヨ。
そりゃマーガリンだって子どもの頃、
小学校の給食に出てきたヤツより、
ずっと改良されてはいるけれど、バターには到底かなわない。

頑張って数ピースをやっつけたものの、
とても完食とはまいらなかった。
こういうモンは食べすぎると気持ちが悪くなるしネ。
ハナシのタネというか、
ブログのネタを280円で買ったというわけだ。
安いっちゃあ、安いわ。

ボールは2杯目。
普段よりピッチが上がっているのは
口内に残る脂っ気を流したいがためだろう。
まったくもって余計な注文をしたものよのぉ。

何かほかのつまみが欲しい。
桜海老玉ねぎ天(480円)に惹かれたけれど、
油モノはちょっとねェ。
いえ、レーズンバターのせいばかりでなく、
「綾瀬飯店」でラーメンを食べてから
まだ2時間と経っていないのだ。

何かあっさりといきたい。
よって海老は海老でも甘海老刺し(300円)をお願いした。
これもまたずいぶん安いけど、大丈夫かいな?
おそらく冷凍の解凍だろうが大ハズレはなさそうに思えた。

ところが運ばれ来たるは甘海老に非じ。
まぎれもない赤海老が5尾であった。
赤海老となるとまず100%、アルゼンチン産だ。
南日本から東南アジアにかけて漁獲される、
小型の赤海老とは別種の大型赤海老である。

アルゼンチンといえば、マツイカを思い出す。
1982年に勃発したフォークランド紛争の頃、
盛んに冷凍輸入されていたイカである。
最近は海老にとって代わられてトンと耳にしないが
今でも市場に出回っているのだろうか?

とにかく大味な赤海老をしゃぶってみた。
しゃぶってはみたけれど、旨くも何ともないネ。
旨くも何ともないけれど、5尾で300円って
いったいどこから仕入れてるのだろうか?
スーパーですら5尾500円が相場じゃないの?

まっ、今宵は忘却の彼方にあったレーズンバターに
遭遇しただけでも良しとしようか。
ところが驚いたことに偶然ってヤツは重なるもんですネ。
意外なところでレーバタに再会したのだ。
それはまた近々のお楽しみというこって―。

=おしまい=

「きよし」
 東京都葛飾区堀切5-23-6
 03-3690-9947

2016年4月6日水曜日

第1332話 どっこい生きてた レーズンバター (その3)

京成本線・堀切菖蒲園駅から徒歩3分の距離にある「きよし」。
6年前まではガード下で独特の雰囲気をを醸し出していたが
移転後の店舗はごくフツーの酒場となった。

照明のせいだろうか、店内は何となく暗め。
卓上に品書きがない代わり、壁にぐるりと貼りめぐらされている。
つまみはやたらめったら280円モノが多い。
ところてん、しらすおろし、みそおでん、あじひらき、
ハムかつ、若鷄から揚げ、椎茸天、あさり酒蒸し、
これらすべて280円だ。

ほかにはブリ、カツオの刺身がそれぞれ300円。
豆腐・茄子・春雨の”麻婆三兄弟”は一律380円である。
人気メニューの馬刺しとめごち天もまた380円。

あれは今世紀初め、2001年か02年だったと思うが
このめごち天を食べた記憶がうっすらとよみがえってきた。
小ぶりのめごちが10匹ほども皿に盛られていたハズだ。
そのときはたまたま二人飲みで助かったものの、
単身だったらまず余すこと必至。
でも、懐かしいなァ。

懐旧の情につまずきそうになりながらもこらえた。
いつまた再訪できるか不明ながら、次回はぜひ二人で来よう。
同姓の友人、異性の恋人、
どっちでも構いやしない、1人5尾づつ食べるんだ。

壁を見上げていて目が一点に貼りついた。
そう、サブタイトルにあるレーズンバターを発見の巻。
語句に死語があるように
食べものにもデッド・フードがあってしかるべき。
その意味でレーズンバターはとっくに死んどるやろ。

とにかく今世紀に入ってから見たことも聞いたこともない。
連想ゲームだったら

 レーズンバター → 場末のスナック

J.C.の場合これっきゃない!
ベツに好きでもないし、食べたくもないけど、
ここで会ったが100年目、
見過ごしたら一生逢えなそうな、そんな気がして衝動注文。
J.C.オカザワ、相変わらずアホやねん。
これもまた280円也
もはやおつまみ界のシーラカンスと言っても過言ではない。

ここでビールからハイボールに移行する。
ハイボールといってもウイスキーのソレではなく、焼酎のソレ。
東京でも墨田・葛飾・江戸川区あたりでは
単にボールと呼ぶ店が多い。
これが1杯250円と城東の平均価格であった。

=つづく=

2016年4月5日火曜日

第1331話 どっこい生きてた レーズンバター (その2)

都道314号線を一路南下する。
ちなみにこの道路、1年前に川の手通りと命名された。
ピンとこないがウィキペディアには

道路の延伸や変更を受け、
通称名設定の約30年ぶりの改定として
「東京都通称道路名検討委員会」が平成25年に設置。
議論・検討とその報告を受けて都が決定したもの。


とあったが何だかねェ。
しょせん、お上のやることといったらこの程度だわな。

とまれ、「きよし」に到着したのは16時前。
ちと早すぎるんじゃないの?
そう思われる方も多かろうが、ちっとも早くない。
何せ開店が15時ですからネ。

その証拠に先客は地元の常連が3名もー。
そしてみんながみんな独り飲みである。
ただし、うらぶれ感もなければ孤独感も伝わってこない。
それぞれ独りで飲むシアワセを
控えめにエンジョイしているる様子なのだ。

 白玉の 歯にしみとほる 秋の夜の
 酒はしづかに 飲むべかりけり

若山牧水・・・ほとんどアル中ならではの名歌だが
秋の夜ならぬ、春の夕暮れもまたしかり。
もっともご本人は”しづかに”どころか
飲むとかなり荒れてたそうだがネ。

”しづかに”で思い出したが
最近、新聞か雑誌か忘れたけれども目にした名句。

 お客さま お食事買い物 おしずかに

ホントだよねェ、よくぞ詠んでくれました。
山田クン、ザブトン3枚!
もちろん”中寇”のことぞな、もし。

今の時期は大挙して爆買いならぬ、
爆花見にいそしんでおられるようだ。
いいヨ、いいとも、お花見なら許す、許す、J.C.は許す。
大いに大声張り上げて目いっぱい騒いでちょうだい。
本国まで聞こえるほどに―。

細長いコの字カウンターに1席を得て
ビール大瓶は好みの銘柄、これが550円也。
それにしても「串のこたに」の安さが際立つなァ。
でも、ここだって庶民の味方、
これから誰にもじゃまされずに独酌を楽しむんだもんネ。

=つづく=

2016年4月4日月曜日

第1330話 どっこい生きてた レーズンバター (その1)

その日は夜明け前に目が覚めて、しかも目が冴えてしまった。
朝刊を丹念に目を通していたら空腹を感じ、朝食を作る。
といっても8枚切り食パンのトーストとミルクティーだけですがネ。
一応、トーストにバターだけはたっぷりと塗った。
食後、寝不足がたたったのか眠気に襲われ、
歯を磨いて再びベッドにもぐり込む。

もっそりと起き出したのは昼過ぎ。
バスタブに湯を溜めてるあいだに冷たいソーダ水を飲む。
入浴後、またもや訪れた空腹感。
はて、どこに行ったらよかんべサ。

脳裏を横切ったのは出向いたばかりの綾瀬である。
いえ、晩酌に出掛けるのではなく、あくまでも昼めしだ。
前回の綾瀬では「大松」、「串のこたに」とはしご酒。
そのあと当町の気に入り店、
「綾瀬飯店」のことを思い浮かべたものの、
そのまま帰宅の途に着いてしまった。
そうだ! あそこのラーメンにしよう。

久しぶりに「綾瀬飯店」の洗練されたラーメンが食べたくなった。
すでに当ブログで何回か紹介しているから多くを語らないが
とても町の中華屋さんとは思えぬ逸品は
高級中国料理の大店というより、
ホテル内にあるチャイニーズのそれに近い。
たとえばオークラの「桃花林」や
東京プリンスの「満楼日園」のような―。

叉焼など、よくありがちな煮豚ではなく、
ちゃんと紅麹をまとわせた焼き豚だし、
きざみねぎ一つをとっても
青い先っちょを粗っぽく輪切りにするような不心得をせず、
白い部分を細かく微塵にする。

ほぼストレートの細打ち麺は
チキンコンソメにも似たスープとの相性もバッチリ。
このデリカシーが食べ手を魅了するのだ。
何だかんだと結局は薬局、多くを語ってしまった。

14時半に到着するといつものように先客はゼロ。
もっとも時間が時間だからネ。
女将であるお婆ちゃんの素っ気なさと
親切心が同居する接客を受けながら
どんぶり1杯を美味しくいただきハッピー!
どうもごちそうさまでした。

この日は家を出る前から漠然と思っていた。
綾瀬から南へ歩いて葛飾区・堀切菖蒲園へ出張ってみようと―。
綾瀬はるか(まだやってるヨ)、もとい、はるか十数年も以前、
一度だけ訪れた大衆酒場「きよし」を再訪するつもりなのだ。
当時、京成線のガード下にあった店舗は
近年、近所に移転したと伝え聞く。

=つづく=

「綾瀬飯店」
 東京都足立区綾瀬2-23-10
 03-3603-9948

2016年4月1日金曜日

第1329話 綾瀬はるかと二人飲み (その6)

思い出したのはこの曲であった。

♪  マイルド・ウォッカを 
  ロックでちょうだい
  マイルド・ウォッカを
  今夜は

  キザなセリフの 切れはしばかり
  ひとの胸に 置き去りにする
  きのうの言葉が
  ああまたグラスに 溶けてゆく  ♪

        (作詞:仲畑貴志)

サントリー樹氷のCMソング、
「マイルド・ウォッカ」が列島に流れたのは1978年。
歌ったのはチェリッシュの二人である。

樹氷はこの1年前に宝酒造が発売した純とともに
一大焼酎ブームを巻き起こしたのだった。
もっとも当時のサントリーは焼酎製造の免許を取得できず、
マイルド・ウォッカは苦肉の策の賜物だったというわけだ。

さて、「串のこたに」。
串揚げは海賊セットの5本でじゅうぶん。
若者ならば山賊セットを追加するのだろうが
揚げ物をそんなには食べられない。
第一身体に毒だ。

品書きとにらめっこの末、こたに風八宝菜(380)を選ぶ
これまたずいぶん安く、とても八宝菜の値段ではない。
あまり期待もせずに待つこと10分。
白菜の芯部分が主役の一皿が運ばれた。
やっぱりなァ、そりゃそうだよねェ。

まっ、いいや。
一応、小海老や豚バラやうずら玉子の姿も見え隠れしてるし、
野菜だって白菜のほかに
きくらげ・竹の子。にんじん・ヤングコーンが投入されていた。
ここは植物繊維の摂取に励もう。

結局、こたにサワーを3杯飲って
けっこうな酔い心地となった。
椅子から立ち上がった瞬間、ちょいとヨロケた自覚があった。
はるばる綾瀬まで遠征したけれど、
そろそろお開きにしたほうが身のためだ。
よってお勘定!

エッ?  綾瀬はるかはいつ出て来るんだ! ってか?
それがまことに申し訳ございませぬ。
サブタイトルの綾瀬はるかと二人飲み」
「はるか綾瀬で一人飲み」の間違いでした。
ここに訂正して、お詫び申し上げます。

=おしまい=

「串のこたに」
 東京都足立区綾瀬2-24-9
 03-3604-4546