2016年8月31日水曜日

第1437話 ふりむけばリオ (その5)

日本選手団が獲得した8個の銀メダル。
その中で忘れてならないのは
女子レスリング53kg級の吉田沙保里だろう。
年齢的にもピークを越えていただけに
四連覇を危ぶむ声は少なくなかった。

それが準決勝を勝ち抜いた時点で
失ったポイントがゼロというすばらしい躍進ぶり。
決勝では一気に期待が高まった。
でも、やっぱりなァ。

58kg級の伊調馨にすら一抹の不安を感じていたJ.C.、
驚くことはなかったが
やはり四連覇を達成させてあげたかった。
しかし、敗戦の弁を涙ながらに語る彼女に
つい、もらい泣きした視聴者は少なくなかったに違いない。
だからこそゴルフのノラリクラリが許せないのだ。

12年もの長きに渡り、
日本中を歓喜の渦に巻き込んでくれた稀代の名選手に
「ごめんなさい」を言われてはわれわれも立つ瀬なく、
今は「ありがとう、お疲れさま」―
それ以外に言葉が見つからない。
ここで感謝の気持ちを込めて彼女に一句捧げたい。

 金よりも とうとき銀が 涙(なだ)さそう

もしも伊調に続く四連覇成ったれば、
日本人を熱狂させただろうが
破れて得た銀メダルはより大きな感動を運んでくれた。
大鵬だって千代の富士だって、
あの長嶋茂雄だって、破れて去って涙したんだもの。

2020年に期待する向きもあろうが
彼女にそれは酷、というよりムリ。
このまま第一線を退くのが好ましく、
おそらく本人は引退の道を選ぶのでしょう。

さて、21個の銅メダルである。
日本選手団のドル箱とも言える体操・水泳・柔道・レスリング。
ここはやはり、それ以外の競技に注目せざるを得ない。

となると、筆頭株は
カヌー・スラローム男子カナディアン・シングルの羽根田卓也。
今や女性ファンのあいだでは
ハネタクの愛称で人気急上昇中だという。

やれやれ、キムタクの次はハネタクかい?
まったくもって、わが国のオンナどもときたら・・・。
まっ、いいか、それに値する活躍をしたんだからネ。
許す、許す、J.C.は許す!

=つづく=

2016年8月30日火曜日

第1436話 ふりむけばリオ (その4)

てなこって、柔道のルール改正は早急に望まれる。
さもなくば、これ以上の発展・普及の道は固く閉ざされよう。
競技を観る側のフラストレーションも
ほぼ限界に達していることを関係者は気づいてほしい。

苦言ついでにもう一つ。
日本勢が惨敗に終わったゴルフである。
松山英樹の出場辞退にはがっかりしたが
いくら何でも片山晋呉はないんじゃないの。

協会にはもうちょっと真面目に選手を選抜する義務がある。
そりゃ青木功やジャンボ尾崎ってわけにはいくまいが
片山ではあまり変わらないレベルじゃなかろうか―。
ちょいと言い過ぎかな?

代打ちの大叩きをとがめるものではないけれど、
他の競技では敗北に号泣する選手がいるなか、
緊張感のかけらもなかったねェ。
この温度差ばかりはいかんともし難く、
オリンピック・ムードを一気に冷却してくれた。

はっきり言ってゴルフは五輪にそぐわない。
そもそもプレイヤーが肥りすぎだヨ。
かたや鍛え抜かれた肉体。
こなた暴食のはての肥満体。
何という違和感であろう。
両者を同じオリンピックという名の土俵に上げちゃいけない。

のんべんだらりと4日間をプレーする様は
まるで物見湯山にでも来ているが如し。
1世紀以上も正式種目に採用されなかった理由がよく判った。
残念ながら2020年@東京でも実施されることが決まっている。
早いとこ決別してほしいなァ。

リオにおける日本の獲得メダル数は
 金・12 銀・8 銅・21 計・42個

金メダルを語る前に強く印象に残った銀&銅に注目してみたい。
まず銀メダル。
いの一番は陸上の400mリレー。
これは日本・海外を問わず、万人の一致するところだろう。
このレースについては何度も何度も放映されているし、
すでに語りつくされているのでスルーする。

男子卓球の銀も価値あるものだった。
かつては日本のお家芸として世界に君臨したが
当時は五輪種目からもれており、今回が初メダル。
中国がアタマ一つも二つも抜きん出ているから
実際はメダルの枠は2個に等しい。
その中での頂点ともいえるわけでまさに快挙だった。

何よりも卓球の激しさ、面白さを
日本国中に知らしめた功績は大きい。
中国との決勝で水谷隼の挙げた1勝は歴史的な勝利だった。

=つづく=

2016年8月29日月曜日

第1435話 ふりむけばリオ (その3)

オリンピックにおける、
あいや、世界選手権でも同じことだが
柔道の最大の欠点は
ときとしてワケが判らなくなる、あのイエローカード。
いわゆる”指導”であろうヨ。
1枚もらうごとに

 指導→注意→警告→反則負け

と罰は重くなり、4枚目で万事休すと相成る。
互いに技のポイントがなく、
”指導”のうえで相手より有利な立場にいる選手は
残り時間とともにひたすら逃げ回ることになる。
技のポイントでリードしているならまだしも、
格闘技でありながら”逃げるが勝ち”ってのも何だかなァ。

よってJ.C.、無い知恵を搾って考えました。
こういうのはどうでしょう?

全ての試合を無制限一本勝負とする。
技を点数に換算して

 一本=100点 技あり=50点 有効=25点

とし、どちらかの得点の合計が100点に達したとき勝負がつく。
イエローカードは4枚もらうと反則負けだが
3枚までは点数に反映されないものとする。
このルールなら”逃げるが勝ち”はまったく機能しない。

「それじゃ選手の体力が持たないでしょ?」ってか?
いいえ、そんなことはございません。
全選手、一回戦から1日1試合とすれば何の問題もない。
そもそも各階級ごとに1回戦から決勝まで
1日で決着を付けることにムリがあるのだ。
陸上でも水泳でも日を改めて進行させるではないか―。

第一日は全階級一回戦、翌日は二回戦というように進めれば、
競技に必要な日数も短縮されて余計に中身が濃くなる。
畳の上の緊張感は高まり、観る者にもより力が入る。
選手にしたってたっぷり休養を取っているから
普段の力をじゅうぶんに発揮できるというものだ。

現行ルールでは組合わせに恵まれ、
短時間で一本勝ちを重ねてきた選手と
強豪相手に延長に次ぐ延長を戦い抜いた選手とでは
肉体疲労の差があり過ぎますヨ。

早けりゃ数秒で決着がつく大相撲でさえ、
取り直しや優勝決定戦を除けば
一日一番を鉄則としてるじゃないの。
柔道よ、大相撲に学べ! である。

今まで適切なルール改正が成されなかったのは
日本の委員・役員の力不足以外の何物でもない。
柔道は日本発祥のスポーツにつき、
本邦の関係者には大きな発言権があったハズ。
それがこの体たらくでは
語学のハンディを差し引いても怠慢のそしりは免れまい。
しっかりしておくれな、山下サンよっ!

=つづく=

2016年8月26日金曜日

第1434話 ふりむけばリオ (その2)

あらためてリオ五輪を振り返りたい。
ただ、あれもこれもと取り上げるとキリがなく、
それこそ半月くらいは掛かってしまうので
大雑把に駆け抜けることにする。

最初にふれておきたいのは熱い戦いが始まる以前、
開会式の入場行進である。
メディアにも厳しく指摘されていたが
どうして日本選手団は騎手・右代啓祐のすぐうしろを
オッサンばかりの役員に歩かせたんだろう。
非常識きわまりなく、雁首揃えて馬鹿丸だし、
みっともないったらありゃしない。

すると選手団長の橋本聖子氏がこう釈明した。

 選手に負担がかからないよう、
 選手が輝ける場所でどのように環境を整えるか、
 より多くの方に歓迎される態勢作りを心がけたい。
 役員会でアスリートファーストだからと言って、
 すべてアスリートを先にというと、
 アスリートにとっても困るところがあると思う。

これっておかしいでしょ?
言ってることが支離滅裂だ。
先を行こうが後から歩こうが
どのアスリートが困るというんだい?
役員会には真っ当な神経の持ち主が
一人もいなかったものとみえる。

ロンドン・北京ともに
開会式を生でジックリ観る機会に恵まれなかったが
リオのこのシーンを目の当たりにして
なんかイヤ~な予感がしたものだ。
幸い、選手たちの大健闘もあって
杞憂に終わったのは何よりだった。
とにもかくにも4年後にあんな醜態を繰り返してほしくない。
絶対に―。

柔道では90キロ級、ベイカー茉秋の金メダルがサプライズ。
100キロ超級の原沢久喜もあと一歩だった。
逃げ回る王者・リネールを仕留められなかったのが残念無念。
しかし、五輪や世界選手権のたびに思う。
柔道のルールは何とかならないもんかネ。

日本の女子たちが活躍したから言うわけじゃないけれど、
レスリングのほうがよっぽどスリリングで、かつ判りやすい。
最後の最後まで選手たちはあきらめないし、
観ているほうも気が抜けない。
レスリングには存在する濃厚なドラマが柔道には希薄だ。

そもそも各階級を1日でこなそうとするのが
柔道をつまらない競技にしている最大の理由。
こりゃ、どぎゃんかせんとアカン!
J.C.なりの改善策を次話で―。

=つづく=

2016年8月25日木曜日

第1433話 ふりむけばリオ (その1)

 ♪    夢のつづきはおしまいですか
    全て白紙にかえるのですか
    もしも叶うなら この体投げだして
    ついて行きたい
    閉じたまぶたにあなたが映る
    別れ話を打ち消すように
    汗がにじむ程 もう一度抱きしめて
    映画のように
    恋はいつも 背中合わせ
    追えば追うほど 手の平返す
    ふりむけばヨコハマ くちびるが淋しい
    ふりむけばヨコハマ 置いてきぼりね  ♪
            (作詞:たきのえいじ)

日系三世の女性歌手・マルシアが歌った、
「ふりむけばヨコハマ」は1989年1月のリリース。
昭和天皇崩御の直後だった。
この年のヒット曲は

 川の流れのように・・・美空ひばり
 Diamonds・・・プリンセス・プリンセス
 愛が止まらない・・・Wink
 太陽がいっぱい・・・光GENJI
 ごめんよ涙・・・田原俊彦
 酒よ・・・吉幾三
 夢おんな・・・桂銀淑

といったところながら
マイ・ベストスリーは

 ① さよならベイビー・・・サザンオーススターズ
 ② シングルアゲイン・・・竹内まりあ
 ③ リバーサイドホテル・・・井上陽水

でありましょうか・・・。
どうだい、大阪のらびちゃん?
J.C.は演歌ばかりじゃないんだぜ!

さて、冒頭の「ふりむけばヨコハマ」である。
マルシアの出生地は残念ながら
リデジャネイロではなくサンパウロ。
”残念ながら”なんて言われても
彼女に罪はないし、むしろ迷惑でしょうヨ。

思えば短かったリオ五輪も閉幕。
ようやく枕を高くして眠れる。
志村けんのいいよなおじさんの登場を待つまでもなく、
スポーツはいいよなァ、スポーツはいいヨ。
心が熱くなるもんネ。

ヨコハマはさて置き、
リオデジャネイロにふりむいてみたい。

=つづく= 

2016年8月24日水曜日

第1432話 高麗人参に困った! (その7)

予期せぬ貢ぎ物の高麗人参を
ほったらかしにしておくこと能わず。
思いついた料理は参鶏湯と東坡肉である。
前者は押しも押されもせぬ正統派、
後者はアイデア先走りの亜流だ。

最近、関係がこじれつつある韓国と中国。
第三国の民としてニュートラルな立場を貫き、
それぞれの国民的料理に手を染めることとした。
奇しくも目下、日中韓の三国外相会議が開かれている。

さて、近所のスーパーマーケットで買い求めたのは
300gほどの鶏もも肉と250gの豚バラ肉。
どちらも国産で双方合わせ、750円のお支払い。
ブラジルのチキンやカナダのポークだと、
より安価ながら牛肉に比べれば安いものだ。

牛肉にしたって輸入もの、
例えば米国産のブラック・アンガスなど、
かなりのレベルで価格も抑えられているけれど、
どういうわけか、市場に出回るのは肩ロースばかり。
フィレやサーロインをトンと見掛けない。

おそらくその二部位は米国内で消費され、
本国で人気のない肩ロースのみが日本に輸出されるのだろう。
すねた言い方をすれば、
アメリカンの食べ残しをジャパニーズが処理する構図、
ちょいとばかり嘆かわしい。

東坡肉用に大根を購入しようとも思ったが、待てヨ、
高麗人参と日本の大根を一つの鍋に投入しては
呉越同舟のそしりを免れまい、よって、今回は大根をパス。

脇目も振らずに帰宅して即キッチンに立つ。
時刻は15時半を回ったところ。
加藤登紀子のCDを聴きながら包丁を砥ぎ始めた。
いざ、アラ・キュイジーヌ!

=参鶏湯=
 鶏もも肉1枚を4つに切り分け、ぶつ切りの高麗人参1本、
 長ねぎの青いところ1本分、日本酒半合とともに鍋へ。
 最弱火でおよそ1時間煮込み、味付けは塩・胡椒のみ。

=東坡肉=
 豚バラ肉を4つに切り分け、ぶつ切りの高麗人参1本、
 長ねぎの青いところ1本分、日本酒1合、適量の醤油&砂糖、
 八角(スターアニス)、丁子(クローヴ)1粒づつととともに鍋へ。
 最弱火で丸3時間煮込む。

もちろんどちらも水は必要だし、後者には差し水も―。
出汁用の長ねぎは食べない。
仕上がりは自分で言うのもなんだが、かなりの出来栄え。
これなら世話女房なんか不必要、まったくの嫁要らずですわ。
明日からはリオ五輪を振り返ります。

=おしまい=

2016年8月23日火曜日

第1431話 高麗人参に困った! (その6)

けっこうな量の高麗人参を貰っちまって困っている。
それもそうだヨ、高麗は”こま”と訓ずるんだ。
これといったアイデアも浮かばぬし、
またもや胸に思案の月をみることとなった。
まあ、すぐにイタむもんでもなし、
じっくり考えるとするかの?

それはそうと、かつて埼玉県南部に高麗郡(こまぐん)ありき。
現在は日高市とその名を変えているが
高麗川、あるいは高麗川駅に旧名をとどめている。
今は昔、西暦716年のこと。
朝鮮半島から亡命して来た高麗人がおよそ1800人、
この地に入植して原野の開墾に勤しんだのが事の始まり。
彼らは今で言う難民に等しく、
何やらロシア革命後に渡来した白系ロシア人を連想させる。

そもそも高麗は唐&新羅の連合軍に滅ぼされた高句麗後期の国名。
その後、新羅を攻め落として復興した国家が再び高麗を名乗る。
こちらは後高句麗とも呼ばれた。

ともあれ、大和朝廷はこの地を高麗郡と名付けた。
今年はちょうど建郡1300年のアニヴァーサリーに当たる。
海から遠く離れた未開地の開拓に
彼らは艱難辛苦をなめただろうが
幸い、今でいう荒川水系の河川に恵まれており、
作物の育成に寄与したものと想像される。

おっと、く高麗人参の対策だったヨ、問題は―。
とっかかりを求め、ネットでいろいろレシピを調べた。
確かにママが唱えたように蜂蜜漬けはあった。
あとはブランデーやホワイトリカーを使った人参酒。
それに先述した参鶏湯である。

一般的に参鶏湯は丸一羽のチキンを使用する。
それではサイズが大きすぎて手に余るし、
第一、食べ切れるかどうか、知れたものではない。
もち米だのナツメだの、腹に詰め込む材料の調達も面倒くさい。

そこで一案。
手抜き料理は得意だから参鶏湯もどきに挑戦してみよう。
一種の鍋料理につき、コトコト煮込めばそれで済む。
ただし、大量の高麗人参をすべて投入したらバランスを欠く。
独特の匂いと苦みとエグみが鍋全体を占拠したら
とても食べられたものではない。

ここは失敗したときのリスクヘッジが肝要だ。
思い浮かんだのは豚の角煮、
いわゆる東坡肉(トンポーロウ)でありました。
冷蔵庫の野菜庫をチェックすると、脇役はほぼ完ぺき。
おっとり刀で最寄りのスーパーに出向きましたとサ。
われながらけっこうフットワークが軽いじゃん、ヘヘ。

=つづく=

2016年8月22日月曜日

第1430話 高麗人参に困った! (その5)

桂銀淑(ケイ・ウンスク)の「私には貴男だけ」。
歌詞につたなさが目立つわりに曲調はすばらしい。
オリジナルは韓国語バージョンで作曲はキム・ヒョンウ。
おヒマな方は、ぜひ youtube を見聞していただきたい。
オススメは韓国のどこかの街におけるライヴ版、

 ♪ 歌って踊って、待っている女心、私には貴男だけ ♪         

である。
3曲メドレーの3番目に収録されており、
韓国語の作詞はユン・イクサム。
歌の魅力を引き出している点で日本語よりも優れている。
桂銀淑の歌声はもちろんのこと、
インタールードのトランペットが耳朶に快感を呼ぶ。

驚いたのは画像に映し出されるホールの観客たち。
1990年前後だろうか、一様に地味な衣服を身に着け、
行ったことはないけれど、どことなく北朝鮮の雰囲気が漂うのだ。
少なくとも近い過去のソウルや釜山ではあるまい。

まあ、そんなこんなで2~3ヶ月に1回くらい、
スナック「Y」に顔を出すようになった。
先客もなければ後客もないことが多く、
(これでよく経営が成り立つなァ)―
そんな思いを抱きつつ、ビールや焼酎を飲みながら
韓国歌謡に耳を傾けている。
時間も空間もスリップした感があり、そこが楽しい。

月初め、くだんのM鷹サンと浅草で一飲を喫したあと、
どちらからともなく「Y」に立ち寄ってみようか・・・
てなことに相成った。
クルマで到着し、扉を開けると例によって先客はゼロ。
大部屋のカラオケボックスに
ママのサービスが付加されるようなものだ。
カラオケボックスより、カラオケスナックを好むわれわれだが
ボックスと化したスナックの居心地もまた快適である。

2時間ほど滞在した帰り際、
またもやおみやげの包みを手渡される。
中身はなんと高麗人参だというではないか―。
高麗人参ねェ・・・。
はるか昔、ソウルを訪れたとき、
人参茶を何杯か飲んだ記憶がある。
釜山ではこれがたっぷり入った、
参鶏湯(サンゲタン)の昼めしも食べたっけ―。

だけど、こんなん貰ってもなァ。
ママは蜂蜜に漬けろと言うが蜂蜜を食する習慣もないしィ。
オマケに相方のぶんまで押し付けられ、困り果てたJ.C.であった。

=つづく=

2016年8月19日金曜日

第1429話 高麗人参に困った! (その4)

1年も前の話で恐縮ながら
荒川区・西日暮里のコリアン・スナック「Y」にいる。
店を切盛りするのは韓国人のママさん一人だけだ。
生まれは大田(テジョン)だったかな?
とにかくソウルでないことは確かだ。

話す日本語はけして上手とはいえないまでも
会話に支障を来たすことはない。
その夜はわれわれ二人、それなりに楽しみ、
おみやげに韓国海苔をいただいて帰った。

2ヶ月後、豊島区・千石で食事をしたあと、
たまたま来合わせたバスが浅草寿町行き。
渡りに舟ならぬ、通りにバス、これ幸いと乗り込んだ。
白山上から駒込千駄木町を経て、バスは団子坂を下っていった。

「次は道灌山下、道灌山下です」―
ネクスト・ストップを告げる声に、あの晩のことが脳裏をよぎる。
浅草まではあと30分ほどの道のりだが
予定変更を思いついて下車の巻となった。

「Y」の扉を開くと、
ママがカウンター席の隅で帳簿をつけていた様子。
先客は誰もいない。
貸切り状態である。
まっ、こういうシチュエーションはバーやスナックでよくあること。
静かな夜を静かな語らいの場とするのも悪くない。

しばらくの会話のあと、歌をリクエストしてみた。
哀愁を帯びた韓国歌謡は好きですからネ。
日本歌謡界のパイオニアにして大御所、
あの古賀政男先生の古賀メロディーにしたって
源泉は半島にあると、何かの本に書いてあった。

数曲聴いてみて彼女の歌上手に驚かされる。
声色と曲調がまさにシンクロナイズド・シンギング。
名曲揃いで日本の演歌より艶歌っぽいのだ。

 ♪   誰がいると云うの この私に
   あなたは命 こころのささえ
   逢うも別れも 運命(さだめ)だと
   いいえ私には わからない
   あなたが消えたら 生きては行けない
   行かないで 行かないで
   あなたの他に 誰もいない    ♪
          (作詞:三佳令二)

入国許可がおりないため、日本には返ってこれない、
桂銀淑が歌った「私には貴男だけ」は1988年8月のリリース。
歌詞は時代遅れなうえに陳腐な印象さえあるのだが・・・。

=つづく=

2016年8月18日木曜日

第1428話 高麗人参に困った! (その3)

いやはや、リオの男たちも頑張ったが
女たちはそれ以上ですな、マッタク。
金3個のおかげで夜も眠れず、
またもや完全徹夜と相成りましたとサ。

さて、西日暮里のスナック「Y」に入店した。
店内は右手に5席ほどのカウンター。
左側のテーブル席はらくに10人は座れるだろう。
先客は常連と思しきオジさん一人だけだった。

初見の来客に驚いた様子のママが
それでも笑顔を見せて迎えてくれた。
交わす言葉はネイティヴな日本語ではない。
ハハ~ン、この人はコリアンだネ。
ってことは、ここはコリアン・スナックなんだな。

勝手が判らないから、いきなりボトルを入れるわけにはいかない。
無難なビールを所望すると、つまみは韓国海苔である。
こういうシチュエーションは実に久しぶり、意想外な展開となった。
とにかくボックス席に落ち着いたわれわれをよそに
常連さんがマイクを手に取った。
歌うナンバーは裕次郎の「赤いハンカチ」、よい選曲であります。

 ♪   アカシアの花の下で
   あの娘が窃(そ)っと 瞼を拭いた
   赤いハンカチよ
   怨みに濡れた 目がしらに
   それでも泪は こぼれて落ちた  ♪
        (作詞:萩原四朗)

数ある裕次郎の曲の中でマイベストはこの曲。
ついでに数ある裕次郎の出演映画の中で
マイベストも同名のこの映画。
コリアン・スナックだから
「釜山港に帰れ」あたりが流れるものと
勝手に思っていたので
まことに意想外なミュージックの洗礼を浴びたことになる。

ママはちょうど四十路を超えた感じのお年頃。
気を使いすぎるくらいに接客が丁寧だ。
中瓶のビールを1本飲み終えてJ.C.はビールのお替わり。
M鷹サンはハイボールを注文する。
すると彼女が外へ出て行った。

何のこたあない、
近所でウイスキーとソーダ水を調達してきた模様である。
さり気なくバック・バーを見やると、
韓国焼酎の真露(じんろ)のボトルが並んでいる。
ふ~む、この店のメインドリンクは焼酎なんだネ。

あらためてビールとハイボールのグラスを合わせていたら
マイクとカラオケ・マシーンを携えたママが
ニッコリ笑ってやって来た。

=つづく=

2016年8月17日水曜日

第1427話 高麗人参に困った! (その2)

  ♪  道はときには 曲がりもするが
   曲げちゃならない 人の道
   どこへゆくのか どこへゆくのか
   銭形平次
   なんだ神田の 明神下で
   胸に思案の 胸に思案の
   月をみる              ♪
        (作詞:関沢新一)

毎週水曜午後8時、舟木一夫の歌声が
日本中の茶の間に響き渡った日は遠い。

さて、投げ銭自慢の平次が独り、
月をみたのは神田神社の石段を
下り切ったところに拡がる明神下であった。
今でもそれなりに古いたたずまいを見せて
江戸情緒の名残りをしのばせる。

通称・神田明神の神田神社は
根津神社・日枝神社・亀戸天神社・富岡八幡宮などと並んで
東京十社の一つ。
執り行う祭礼の神田祭は
山王祭・深川祭とともに江戸三大祭の一翼を担っている。
浅草の三社祭がもれているのは
なんだかなァ・・・という気持ちにさせられますけどネ。

もっとも赤坂の代わりに浅草を入れたら
神田・深川と合わせて下町チックになり過ぎるきらいがある。
江戸の繁華なエリアは江戸城の東側だったのだが
西側にも目配りしないと、均整を保つことができない。
よって、三大祭の選は正しかったのだろう。

その宵、酔いの回った二人が
胸に思案の月を見上げたのは道灌山下であった。
不忍通りを直進して数分歩けば、
谷中の隠れ家的スポット、すずらん通りが控えている。
ここには昔ながらのバー、スナック、小料理屋がズラリ。
身を置く止まり木に困ることはまずない。

それはそれとして、J.C.の脳裏をチラリかすめたのは
未だ入店したことのない1軒のスナックだった。
ロケーションは道灌山下と西日暮里駅の中間点辺り。
赤地に白く店名を記した袖看板がやけに目立つから
記憶に残っていたのだ。
M鷹サンも興味深々、よって決断、向かうことにした。

店の名を「Y」という。
初訪問の場合、入口の扉を開くには多少の勇気を必要とする。
中はどんな様子で、どんな魔物が棲んでいるのか
知れたものではないからネ。
今回は相方がドアノブに手を掛けてくれた。

=つづく=

2016年8月16日火曜日

第1426話 高麗人参に困った! (その1)

オリンピックのせいで寝不足の毎日が続いている。
4年に一度のことだから仕方がない。
眠たけりゃすんなり寝りゃいいんだが
眠い目をこすりにこすっても観ていたい。
幸い、期間中はスケジュールに余裕があり、
空いた時間に居眠りとうたた寝を繰り返す日々だ。

JR山手線、あるいは地下鉄・千代田線の西日暮里駅。
おっと、8年前に開通した東京都交通局が運営する、
日暮里・舎人ライナーもあったか。
当駅は山手線でもっとも新しい駅である。
隣りの日暮里駅と並び、
東京都民ですらあまり訪れる人とてない、
荒川区の交通の要衝といえる。

駅前のガード下を道灌山通りが線路と垂直に走っている。
地域のランドマークとしては通りの南側に諏訪神社がある。
文久二年(1202年)、
信州の諏訪神社から勧請して創建されたという。
勧請とは神仏の分霊をヨソの場所に移して祀ることだ。

都内各地、いたる場所に諏訪神社はあるが
日本全国となるとその数、2万5千社に及ぶという。
驚きはてて空いた口がふさがらない。
いや、ビックリしたな、もう!

通りの北側、実はここが道灌山だが
都内屈指の進学校、開成高校が雄姿を見せている。
東大合格者数において35年連続で首位を守っているというから
都内屈指ではなく、全国ナンバーワンが正しい。
これにもビックリするよなァ。
まっ、そんな荒川区・西日暮里である。

あれは1年ほど前のこと。
のみとも・M鷹サンと田端だか駒込だかで飲食したあとだった。
ちと飲み足りないので”新河岸”を物色に及んだ。
ふらふらと千鳥足が4本、たどり着いたのは動坂下。
この場所にときどき訪れるスナック「K」があるのだ。

ところがなぜか臨時休業の不運。
電話をしてから赴けばよかったものをと
悔やんでみても始まらない。
気を取り直し、なおも進軍を続けるわれらであった。

不忍通りを南下して
やって来たのは道灌山下のT字路交差点だ。
道灌山下とはいうものの、
西日暮里駅から徒歩5分以上の距離がある。

このまま真っ直ぐ行って谷中・千駄木方面、
あるいは左折して西日暮里・三河島方面、
二者択一の曲がり角にたたずみ、
銭形平次よろしく、胸に思案の月をみたのでありました。

=つづく=

2016年8月15日月曜日

第1425話 リオの男たち (その4)

錦織圭のおかげで、いや、せいで徹夜になってしまった。
ナダルのサービスゲームを二度ブレークした、
第2セットもすんなり取るかと思いきや、トンデモない落とし穴。
タイブレークの末、そのセットを落とす。

心の中のプレッシャーと戦い、
五輪に巣食う魔物に襲われながらの第3セット。
観ているこっちはハラハラドキドキの巻である。
流れは完全にナダル。
にもかかわらず、よくぞ勝ち抜いてくれたものだ。
この銅は他競技の金に匹敵すると言ったらホメ過ぎだろうか。
とまれ、実に価値ある快挙だったと思う。
いや、あっぱれ!

カヌー・スラローム、男子カナディアンシングルの羽根田卓也。
競泳男子800メートルリレーの4人。
心に響く銅メダルが続々と生まれるリオデジャネイロである。

羽田は10年の長きに渡ってスロヴァキアにカヌー留学した。
この国がカヌーの本場だったことを今回初めて知った。
首都・ブラチスラバしか訪れていないので
自然とのふれ合いがなく、
渓流・渓谷に恵まれた国とはついぞ知らなかった。

日本とはゆかりが薄い東欧の小国に
行こうと決めた本人もスゴいけど、それを許した父親も立派。
こういうのを父子鷹というのでしょうネ。
二人にあっぱれ!である。

男子800メートルリレーもよくやってくれた。
1964年、東京五輪以来の表彰台で
52年前のあの瞬間はよく覚えている。
記憶が確かならば、200m×4リレーは
競泳男子の最終種目だったハズ。
どうにかこうにか3着にすべり込み、
男女を通じて大会唯一のメダルを獲得したのだった。

振り返れば、金メダル16個を量産した開催国・日本も
水泳界は暗黒の時代真っただ中だった。
すでに最盛期を過ぎた自由形の山中毅、
女子背泳ぎの田中聡子、
二人にとってメダルは見果てぬ夢に終わる。

殊に山中はローマと東京、
五輪と五輪のすき間に
何度も世界記録を塗り替えて日本国中を熱狂させ、
長嶋・大鵬と並ぶ国民的英雄だったのだ。

驚愕すべきは当時のアメリカ。
競泳全18種目中、実に13個の金メダルをかっさらっていった。
残りの5個はオーストラリアが4、旧ソ連が1。
ドイツ・イギリス・フランス・日本、全部まとめてゼロである。
4年後のメキシコシティと合わせて、
この2大会はアメリカ水泳陣が世界を完全制覇していた。

さてリオはここでいったん休憩。
閉会後にあらためて振り返りたい。

=おしまい=

2016年8月12日金曜日

第1424話 リオの男たち (その3)

地球の裏側、リオデジャネイロでは
体操男子団体の金メダルに続いて
個人総合も内村航平が王者に輝いた。
個人の二大会連覇は実に44年ぶり。
メキシコ&ミュンヘンの加藤沢男以来だ。
両大会における加藤の雄姿は
リアルタイムで観たこの目に今も灼きついて消えない。

加藤はスゴかったが内村もスゴかった。
最終の鉄棒にあんなドラマが待っていようとは夢にも思わなかった。
それにしてもウクライナのオレグ・ベルニャエフ 。
TVの画面で初めて見ていったい、どこのどいつだ?
そう思われた方も少なくなかろう。

伏兵中の伏兵というかウクライナの秘密兵器が彼だ。
体操界ではむしろ後進国のウクライナにあって
6種目すべてをハイレベルでこなす万能選手。
詳細は知らぬがキャリアはロシアで培われたハズ。
内村をあそこまで追い詰めるとは
いやはや、トンデモない若者が出てきたものである。

ところがベルニャエフ を退けた内村の偉大さは
妙なところで実証される。
まずは団体戦のスコアをご覧いただきたい。

  日本・・・274.094点
 ② ロシア・・・271.453点
 ③ 中国・・・271.122点
 ④ 英国・・・269.752点
 ⑤ 米国・・・268.560点
 ⑥ ブラジル・・・263.728点
 ⑦ ドイツ・・・261.275点
 ⑧ ウクライナ・・・202.078点

お気づきだろうか?
ドイツとウクライナの目茶苦茶な点差に!
1位日本から7位ドイツまで13点ほどの差なのに
7位と8位は60点も離れている。
あきれてモノが言えないとはこのことだ。

ここに個人戦で内村が大苦戦した最大の要因がある。
団体総合ではメダルの望みがまったくないウクライナは
あえて団体を棄てターゲットを個人総合に絞った。
団体の金を目指して結束した日本とは真逆の戦略といえる。
唯一無二の得点源、ベルニャエフを温存した(出場2種目)結果が
無様な歴史的低得点につながったというわけだ。

相手は若さに加えて休養十分。
こちらは団体の、しかも全6種目をこなしたあとで
疲労は極限に達していたハズ。
ところが、天はそこをちゃあんと見ていてくれた。
そのごほうびが鉄棒のあの演技、
ピタリと決まったあの着地であったのだ。

=つづく=

2016年8月11日木曜日

第1423話 リオの男たち (その2)

金メダルの重さのハナシだが
昨日の朝日新聞・朝刊を開いて驚いた。
内村航平がメチャメチャ重いと語っていたのは
待ち焦がれた団体総合のせいだけではなかったのだ。

リオデジャネイロのメダルの重量は500gとのこと。
500g=1/2kg、あまりピンとこないが
ビールのロング缶と同じだと思えば実感がわく。
いえ、缶ビールを首からブラ下げちゃいませんけどネ。

ちなみに前回のロンドンのメダルは410g。
前々回の北京はたったの150g。
リオの1/3 足らずなのだ。
比べてみりゃ、500gはメチャメチャ重いわ。

それにしても軍事費だの岩礁の埋め立てだのには
莫大な資金の投入をいとわない大国が
ヨソの国に持ち帰られてしまう、
オリンピック・メダルについてはずいぶん節約した。
フンッ、あの国らしいと言えばあの国らしいわい。
親玉が替わってからというもの、
とめどなく悪くなっていくねェ、彼(か)の人民共和国は―。

ともあれ日本体操男子の面々は五人五様、
互いに持ち味をじゅうぶん発揮して頑張ってくれた。
東京五輪から52年、半世紀以上も見守り続けてきたが
こんなにユニークな日本チームは初めてだ。

心身ともに絶対的大黒柱の内村のチームではある。
そこに空から降ってきた星の王子さま、
現地ではツイスト・プリンスの異名をとる、
白井健三の存在がとてつもなく大きい。

予選の失敗によって演技種目の順序に
不利が生じたというメディアの論評が目立ったが
そうはまったく思わない。
むしろ、よかったんじゃないかな。

不得手な種目が最後にくると、
選手に大きなプレッシャーがかかるし、
これは選手の演技に関係ないけれど、
観ている側の精神状態まで穏やかじゃなくなる。

今回は言うまでもなく、次回の東京でも
願わくば日本のゆか運動を最後に観たい。
まあ、順序がどう変わろうと、
4年後の金メダルはまず動くまい。

日本に有利なのは苦手とするあん馬やつり輪では
爆発的な高得点が出にくいこと。
逆に得意な鉄棒・跳馬・ゆか運動など、
離れ技・ひねり技が主体の種目は進化に際限がない。

とにもかくにも旧人類と新人類が力を合わせ、
シナジー効果を生んでもぎ取った金であった。
個人種目を軽視するものではないが
団体競技の金メダルは格別の歓びを運んでくれる。

=つづく=

2016年8月10日水曜日

第1422話 リオの男たち (その1)

「最近トンとスポーツ・ネタがないですネ」―
そう言われれば、そうですな・・・。
「リオのオリンピック、興味ないんですか?」―
いいえ、大ありですけれど―。

読者の方々からかようなメールを何通もいただいた。
リオ五輪を語り始めたらキリがないんで封印していたが
せっかくのご要望、遅ればせながら片肌脱ぐ気になりやした。
あんまり長くシツッコく引っ張らない程度に
軽い気持ちで綴ってみようと存じやす。

21年前、お隣りのアルゼンチンを訪れたが
ブラジルに行ったことは一度もない。
リオデジャネイロの街を初めて見たのはスクリーンだった。
映画はジャン=ポール・ベルモンド主演の「リオの男」。
製作は1964年、東京五輪の開催年である。

ヒロインはカトリーヌ・ドヌーヴのお姉さんで
若くして亡くなったフランソワーズ・ドルレアック。
わざわざ南米までロケに出掛けなくてもいいんじゃないの?
てなくらいに不出来な作品ではあった。
せっかく観たけれど、
街の様子も物語のあらすじもほとんど忘れてしまった。
まっ、仕方なかんべサ。

ただ今、8月10日の午前2時。
ビールを飲みながらNHK総合テレビを観ている。
競泳男子の200m平泳ぎ予選が進行している。

現時点で日本が獲得した金メダルは3つ。
どの競技であろうと金の重さに違いはないはずだが
ここまでの3つにはそれぞれ特別な重さがあろう。
内村クンも言っていた、「メチャメチャ重い!」って―。
そうでしょう、そうでしょう、
団体の金をずっと追いかけてきたんだからネ。

男子400m個人メドレーの勝者はキング・オヴ・スイマー。
その王座に日本人が着いたのは実に画期的だ。
萩野公介は身体も容貌も日本人離れしているとはいえ、
泳史に残る快挙であった。

前回のロンドン五輪で
男子柔道は金ゼロの屈辱的敗北にまみれた。
8年越しで大野将平(73キロ級)がつかんだ金メダルにも
特別な重みが加わっていよう。

そして前述の体操、男子団体総合である。
五輪における団体総合・個人総合・種目別のしくみを
把握していない向きは
鉄棒から転落した内村を見て悲鳴を上げたに違いない。

=つづく=

2016年8月9日火曜日

第1421話 浅草の奥深し (その3)

浅草の奥も奥、橋場の「山海」のいる。
生のわさびをを得て岡山産の車子が本領を発揮する。
これでこそ本物のしゃこわさである。
しっとりとしていながらしっかりとした車子の美味を堪能した。

せっかくの本わさびだから、もうちょいと生モノをつまみたい。
青森の平目や常磐のかれいにも惹かれるが
かつおのあとで白身もないものだ。
よって、〆さばをお願いした。
三浦半島は松輪の産である。
松輪は半島の最南端、城ヶ島の西に位置している。

大分県佐賀関に揚がるのが関さばならば、
松輪漁港に揚がるのは黄金さばと称される。
いわゆるブランドさばなのだ。
車子ほどではなかったものの、水準は高い。

刺身系はもうじゅうぶん。
何か目先・箸先の変わった料理がほしい。
うなぎ好きのT栄サンが肝焼きを選んだ。
もちろん鶏のではない、うなぎの肝である。
見るからに国産の一級品
中国産みたいにバカデカくないところがよい。
白鹿の生酒とともに賞味した。

お次は品書きに江戸前と明記された穴子の天ぷら。
天つゆではなく粗塩で
身肉にプリッとした弾力があり、
食味はなかなかけっこうだ。

江戸前の穴子となれば、
羽田や金沢八景が名産地とされたが
十数年前に羽田は壊滅状態になったと聞いた。
今はどうなのだろう。
小柴の車子が消えた現在、
すぐそばの金沢八景の穴子はだいじょうぶだろうか?

白鹿をお替わりする。
それほどつまんでいないのに何となく満腹。
締めはあっさりと水茄子の浅漬けをもらう。
大阪は泉州・岸和田の特産である。
泉州以外では育たぬ特殊な茄子ながら
最近は茨城産をよく目にするようになった。

夜の帳(とばり)の降りた街を歩く。
浅草の夜はまだ浅いが浅草の奥は深い。
相方が見てみたいというので吉原をゆく。
言わずと知れた一大ソープランド街である。
女性連れなら呼び込みに声を掛けられることもない。

千束から象潟(きさかた)に抜けた。
柳通りの見番(産業組合)、その2階に灯りが点っている。
宴席、あるいは芸者さんの稽古であろう。
夜風の中にかすかな江戸情緒を嗅ぐことができた。

=おしまい=

「山海」
 東京都台東区橋場1-30-10
 03-3873-4731

2016年8月8日月曜日

第1420話 浅草の奥深し (その2)

台東区・橋場は「山海」のカウンターに二人。
ビールで乾杯するとすぐに突き出しの胡麻豆腐が整った。
たたずまいが美しい
もう、この一品だけで
当店が居酒屋の域を超えていることが伝わってくる。
そう、ここは居酒屋ではない、料理屋なのだ。
こんな風に迎えられると食べ手の気持ちがキリッと引き締まる。

しばし意見を交換し合い、最初の注文は初かつおと車子。
相方ともども、かつおは秋の”戻り”ではなく、
春先から初夏への”上り”が好み。
コッテリと脂が乗ったのよりも、アッサリと爽やかなのがよい。
これは外せない。

車子は江戸前が壊滅状態となって久しい。
シャコの水揚げ港、三浦半島の小柴は再起不能かもしれない。
江戸前滅亡のあとは瀬戸前が
この伝統的鮨種の命脈を継いでくれている。

岡山・香川が今となっては主な産地で
あとは九州・天草、北海道・小樽あたりだが
小樽のはヤケに大きくてにぎり鮨には向かない。
と言っても、香港のジャンボサイズほどではないけれど―。

胡麻豆腐を食べ終えた頃、
かつおと車子が仲良く一緒盛りで運ばれた。
どちらも見た目は上質
この時期にこのクラスの店舗で
解凍品のかつおはまずあり得ないが
品薄の車子は実際に目にするまで安心できない。
でも、これなら大丈夫。
車子が大きく、かつおが小ぶりなのは遠近感のいたずらだ。

半量のかつおは尾に近い部分(芽ねぎの下)で旨みがいま一つながら
上身(穂紫蘇の下)はとてもよかった。
生のスライスにんにくを所望すると、
おろし済みのものしかないと言う。
おそらくチューブだろうがベター・ザン・ナッシング、いただいておく。
ほとんど生姜と茗荷のお世話になりましたがネ。

問題は車子用のわさびである。
見るからにニセなのだ。
実は入店の際、カウンターの片隅に
大きめのグラスに入れられた立派な本わさびを目にとめておいた。
当然、ソイツがやって来ると思っていたから大きな期待はずれだ。

「割増しでもいいから、おろし立ての生わさびくれませんかネ?」―
厨房の板前さんに声を掛けると、
「あっ、ハイッ!」
イヤな顔もせずに即答であった。

=つづく=

2016年8月5日金曜日

第1419話 浅草の奥深し (その1)

昨日まで綴り続けた門仲の立ち飲み居酒屋「ますらお」。
故あってちょいの間つき合ってもらった、
佃島在住の盟友との約束を果たす夜がやって来た。
先述したように彼女のリクエストは
味わう料理のジャンルではなく訪れるエリアであった。

浅草の、それも観光客とは無縁の地、
観音裏、あるいは奥浅草と呼ばれる一帯だ。
まあ、この界隈はホームグラウンドにつき、
いかようにも対応できる。
ただし、恩ある相方を失望させてはならない。
それなりの店にお連れしなければならない。

いろいろ考えた末、白羽の矢を立てたのは「山海」。
浅草の奥も奥、山谷の隣り町、橋場に店はある。
吉野通りを北上してゆく都営バスの停留所が最寄りながら
土地カンのない相手には使い勝手がよろしくない。
よってJR常磐線、
もしくはメトロ日比谷線の南千住で落ち合うことにした。

いきなり雷鳴が轟いたり、驟雨が襲ったりする不穏な夕暮れ。
その隙をついてテクテク歩き、目的地に向かったのだった。
つい先日、渡ったばかりの泪橋交差点を行き過ぎ、
右手に都内屈指の酒場「大林」や喫茶店「バッハ」を見つつ、
橋場の商店街を談笑しながら進む。
今宵の相方は、のみともT栄サンである。

開店直後なので店内はガラガラ。
というより早いハナシ、われわれが一番乗りだった。
人気店につき、あらかじめ予約を入れておいたが
その際に「カウンターでしたら・・・」とのシバリあり。
基本的にカウンターは大好きだから
二つ返事で了承したのであった。

例によってビールのグラスを合わせながら
手書きの品書きを入念に吟味する。
読み取れましょうか?
細かくて見えにくいから
気になったものだけでも紹介してみましょう。

天然活平目 青森 890円
天然活かれい 常磐 780円
初かつお 勝浦 890円
白いか 長崎 750円
生とり貝 愛知 680円
車子 岡山 680円
生くじら 北大西洋 950円
穴子天ぷら 江戸前 1080円
水なす浅漬け 泉州 480円

とまあ、こんなところでありました。

=つづく=

2016年8月4日木曜日

第1418話 立ち飲み 侮るべからず (その5)

門仲の「ますらお」である。
焼きとんのカシラとシロは炭火焼きのワリにちっとも旨くない。
カシラは塩が決まっていないし、
シロは串の先と元とで焼きムラがはなはだしい。
隅田川の両サイド、いわゆる東京の下町に
焼きとんの優良店は数知れず。
だのに、このレベルじゃまったくダメじゃん。

天は二物を与えずの諺そのもの。
鮨職人に肉系は畑違いでノウハウがないから、如何ともしがたい。
まっ、店の特性を認識できただけでも
それなりの成果はあったと自分で自分を説得した。

数週間後。
またもやJ.C.オカザワの姿を門仲に見ることができた。
何とならば「ますらお」でじっくりと、
腰を落ち着けて飲んだことがないからだ。
もっともそれは、かなわぬ想い、見果てぬ夢、
当店は立ち飲み居酒屋につき、腰が落ち着くわけがない。

今宵の相棒は飲む、食う、歌うと、
三拍子完ぺきに揃った盟友・O戸サン。
待合せ場所は間違えようのない深川不動尊にしてあった。
半世紀以上も前から
ここの縁日にはなれ親しんだ思い出のスポットである。

おきまりのビールを飲んだあと、
即座に気に入りのへべす酎ハイだ。
相方もこの酎ハイにはぞっこんであった。

最初の注文はこちらの2品。
今が季節のこち刺し
淡白な中に繊細な味覚が冴えて
もっと大衆に愛されてよい夏の白身魚である。
お次は真鯛の刺身
天然モノだけに身肉が色濃い。
どちらも分量少なめながら、たったの500円。
これじゃ文句の出ようハズもない。

店名にちなんで清酒・益荒雄を冷やで所望した。
う~ん、ちょいとモッタリ感が気になって好みではない。
いまだ未食の牛すじ煮込みを追加する。
これも何だかなァ・・・やっぱり肉モノはアカンわ。

締めにはおきまりのにぎりである。
本日は珍しい煮あさりであった。
あさりは数年前、日本橋「吉野鮨本店」で食べて以来だろうか?
すばらしくはないけれど、江戸前シゴトは感じられた。
結局は薬局、
刺身と鮨に限るのがこの店の正しい使い方なのであろうヨ。

それにしても老舗酒屋の角打ちを含め、
こんな佳店があるから立ち飲みはやめられませんわ。

=おしまい=

「ますらお」
 東京都江東区富岡1-5-15伊藤ビル2F
 03-5809-8256

2016年8月3日水曜日

第1417話 立ち飲み 侮るべからず (その4)

この稿を書いている2日(火曜)の正午前。
明け方もそうだったが、いや、スンゴいどしゃ降りだこと。

  ♪   とても悲しいわ あなたと別れて
    流れる花びら みつめているのは
    どしゃ降りの雨のなかで わたしは泣いた
    やさしい人の想い出を つよく抱きしめて  ♪
            (作詞:大日方俊子)

ゴッドねぇちゃんこと和田アキ子の2枚目シングル、
「どしゃ降りの雨の中で」がリリースされたのは1969年4月。
その前年のデビュー曲「星空の孤独」はまったく記憶にないが
この2枚目は二枚目の心を強くつかんだ。
二枚目って誰のことだ! ってか?
まあ、聞き流していただきやして、ゴー・アヘッド・プリーズ!

おっとっと、「ますらお」、「ますらお」。
佃の相方もへべす酎ハイはことのほかお気に入り。
そうだねェ、和風柑橘を酎ハイにするならば、
平兵衛酢と酢橘が双璧じゃなかろうか。
かぼすや橙も悪くはないが
果汁の少ない柚子は酎ハイ向きではない。
ここに来たら、どこでも、チェーン居酒屋ですらも飲める、
レモンやグレープフルーツは避けて通りたい。

ビールのアテにはうなぎの串焼きと串カツを当てた。
うなぎは白焼き仕立てで
おろし立てのわさびがたっぷり添えられてなかなか。
串カツはあまり感心しなかった。
ビル屋上にあるビヤガーデンのレベルと変わらない。

へべす酎ハイに移行して”本日のにぎり”をお願いした。
鮨種は穴子である。
これを1カンずつシェアしたのだが
銀座の鮨屋のレベルとは言わないまでも
じゅうぶんに満足のゆくものだった。

残された時間がないので
そろそろ切り上げなけりゃならない。
わざわざ出て来てくれたのみとものために
焼きとんを注文する。

備長炭だったかな?
とにかく炭火焼きに間違いはない。
ある程度の期待を込めて
カシラを塩、シロをたれでお願いした。

当方はあとがあるため、
それぞれ1片づつ味見してみると、
ありゃりゃのりゃでありました。

=つづく=

2016年8月2日火曜日

第1416話 立ち飲み 侮るべからず (その3)

愛媛県・松山市在住のT川サンよりメールをいただいた。
昨日ふれた灘の銘酒・櫻正宗についてである。
T川サンもこの酒が大好きで
「わが意を得たり!」とのことだった。
同朋の存在は心強いものがある。

櫻正宗は1717年(享保年)の創業。
おそらく日本最古の清酒銘柄の一つだ。
少なくとも”正宗”の元祖であることに間違いはない。
読者のみなさんも機会がございましたら
ぜひともお試しくだされ。

さて、門仲の「ますらお」である。
ないものねだりしても始まらないので
菊正の冷やをいただいている。
合いの手は真鯛昆布〆のにぎり(2カンで400円)だ。

この店には必ず、”本日のにぎり”が用意されている。
元鮨職人のにぎり鮨、
しかも低料金で生のわさびを惜しげもなく使う心意気。
こういう人のにぎる鮨が不味かろうハズはない。

はたして・・・
手渡された小皿に鎮座する2カンの鮨を目の当たりにし、
再び感心してしまった。
犬が歩いて当たるのは棒だが
J.C.が歩くと佳店に当たるんだよねェ。
と、自画自賛。
自賛は見苦しいので多くは語らずに先へ。

その日はそれだけで切り上げた。
二度目が先日チラリとふれた佃島の友人との訪問である。
このあと天竜川の天然鮎が待っていたので
ホンの小一時間つき合ってもらったのだった。
後日、奥浅草で一席設けるという条件付きでネ。

当夜、飲んだのは瓶ビールとへべす酎ハイ。
へべすって何だい? ってか?
そう、そのことである。

へべすは平兵衛酢と表し、宮崎県・日向市特産の柑橘で
酢橘より一回り大きく、かぼすより一回り小さい。
何でも江戸時代末期に当地の長曾我部平兵衛サンが
野生するこの樹木を発見し、栽培を始めたとのことだ。

徳島の酢橘、高知の柚子、大分のかぼすを
和風柑橘御三家とするならば、
ここにへべすを加えて四天王としたい。
おっと和歌山の橙(だいだい)もあったか!
それじゃ橙にも参加してもらって五人囃子とするかの?

=つづく=

2016年8月1日月曜日

第1415話 立ち飲み 侮るべからず (その2)

あれは2008年の秋口だったろうか―。
日経新聞の夕刊に時代小説「おたふく」(山本一力著)が
連載され始めたのは―。

朝・夕にかかわらず、新聞の連載小説は不得手である。
今までただの一度も読み通したことがない。
何かの不都合で一度読み飛ばしてしまうと、
日をさかのぼってまでフォローする気力が起こらないのだ。

散歩の途中、たまたま涼みがてらに
飛び込んだ書店の棚にその「おたふく」を発見。
懐かしみに襲われて迷わず購入に及んだ。
徒歩数分の距離にある千代田区役所内の図書館に赴き、
利用者に紛れて読み始めた。
惹き込まれてアッというまに1時間半が経過。
おい、おい、こりゃ散歩どころじゃなくなってきたぜ。

その夕べは靖国神社の大鳥居を仰ぎ見ながらの九段坂下。
フラリと入った酒場にて一酌を済ませ、早めに帰宅した。
いただき物のスモークサーモンでブルゴーニュの白を飲る。
あらかじめ用意しておいたオニオンスライスに
買い置いてあるディル・ケッパー・レモンのトリオ。
いや、けっこうでありました。

PCも立ち上げず、TVのスイッチも入れず、
「おたふく」と二人きり、ベッドインの巻である。
途中、ノドが渇いて缶ビールをプシュッとやったが
ひたすら活字を追ってはページをめくる。
そう、厚顔無恥なる王毅のおとっつぁんじゃないけど、
ページはめくりにめくられ、
600頁に及ぶ長篇を読了したのは翌明け方だった。

「おたふく」の舞台は門前仲町である。
数ヶ月前のことながらその門仲にいたのだった。
立ち飲み居酒屋「ますらお」のカウンターで
平目の刺身(500円)をつまみに飲んでいた。
添えられた本わさびに感心しながらネ。

1本180円の串かつを追加するもこれはダメ。
店主は銀座あたりの高級鮨店の出身。
肉系より魚系を得意とするのも道理だろう。

菊正宗の冷やに切り替えた。
ふと思ったことに、菊正とはいたるところで出逢えるが
櫻正宗をほとんど見掛けないのはどうしたことか―。
大好きな銘柄だけに残念でならない。

つらつら思い起こすと、
日本橋「吉野鮨本店」、根岸の酒亭「鍵屋」、
あとは浅草の牛鍋屋「米久」くらいしか浮かんでこない。
嘆くべし。

=つづく=