2016年10月31日月曜日

第1480話 ラブホ街の入口で (その2)

江戸情緒を残す下町を擁する東東京の住人にとって
ラブホ街といえば第一感は鶯谷である。

 ♪    上野オフィスのかわいい娘
    声は鴬谷渡り
    日暮里笑ったあのえくぼ
    田端ないなぁ好きだなぁ
    駒込したことぬきにして
    グッと巣鴨がイカすなぁ   ♪
       (作詞:星野哲郎)

小林旭が歌った「恋の山手線」が世に流れたのは・・・
おっと、こいつはいつぞや紹介したのでありやした。
よって省略。

とにもかくにも鶯谷の大ラブホ街入口にある、
居酒屋というか、小料理屋と呼ぼうか、
そんな店のカウンターにいる。

なかなかに可愛らしい(すでに顔を忘れちゃったけど)ママと
相方の会話を聴き流しながら生ビールを飲んでいる。
ああ、今頃この街では何組の男女が
組んずほぐれつしてるんだろうか・・・数百組はくだるまい、
なんてくだらないことをボンヤリと考えながら―。

突き出しの小海老は悪くない。
これなら懸念材料だったつまみも何とかイケるであろうヨ。
M鷹サンが最初に注文したのは串焼きで
鮭のハラスと今がハシリの牡蠣だった。
J.C.にとって今シーズンの牡蠣初めである。

飲むときの合いの手はチョコチョコいろいろつまむのがよい。
一ぺんにどっさり頼んでハズすと修正が効かないからネ。
何事も始まりは小当たりに当たるのがよく、
これは食いモノに限ったことではない。
人の恋路にだって当てはまるのだ。

種を蒔いたら水をやり、適度にお日様にも当てて
期が熟したときにようやく果実を享受する。
これが鉄則にもかかわらず、だしぬけに大告白した挙句、
ドン引きされて、ハイ、永遠にサヨウナラ、
こういうバカがあとを絶たないんだよねェ。
この手じゃないの? しまいにゃストーカーに変身するのは―。

さてハラスはともかく牡蠣であった。
焼き上がりがレアもレア、ほとんど純生に近い。
たらこのチョイ焼きは好きなくせに
牡蠣やレバの半生が苦手の相方は
即座に二度焼きをお願いしている。
これでじゅうぶん旨いのになァ・・・
そう思いつつ黙って見ておった。

=つづく=

2016年10月28日金曜日

第1479話 ラブホ街の入口で (その1)

その宵はのみとも・M鷹サンとJR山手線・鶯谷駅で落ち合った。
乗降客の少ない南口は閑散としている。
以前、この場所でアホ警官の職質を受けたことがあった。
それも真っ昼間に―。

東京芸大方面に坂を上り始めたJ.C.に向かって
何をトチ狂ったか若いオマワリが
「もしもし、どちらへ行かれるんですか?」―こうききやがった。
カチンときたJ.C.、すかさず言い返したネ。
「ボクって、そんなに怪しい人間に見えますか!」―怒気を含ませた。
結局、アンちゃんとペアを組んでたベテラン警官の取りなしで
アホ警との真昼の決闘は避けられたんだがネ。
まっ、この顛末は以前にも書いたから、このへんでやめておく。

反対側の鶯谷駅北口には大衆酒場が軒を連ねている。
「信濃路」、「加賀屋」、「養老の瀧」、
ふむ、長野に石川に岐阜か・・・中部地方一色じゃありませんか。
3軒ともにせんべろ、せいぜい、にせどろ(二千円で泥酔)を
約束してくれる庶民の味方である。

そのうちの1軒でもよかったが
両者協議の結果、隣り街の日暮里に向かうこととし、
言問通りに通ずる駅前の階段を降りていった。
階段下には焼きとんの佳店「ささのや」がもうもうと煙を上げている。
安くて旨いが騒がしく、おちおち会話を交わしていられない。
よって今回は見送りの巻。

「ささのや」の手前を左折した。
このルートだと都内有数のラブホ街を縦断することになる。
するとラブホ街の入口、1軒の小料理屋の店先でツレが立止まった。
怪訝な顔の当方に向かって曰く、
「店のママがけっこう可愛いヨ」―何考えてんだ、この人?
ベッドの相方を選ぶワケじゃなし、
少しばかり美形の女将やママを見るたびに入店してたらキリがないぜ。
困ったものよのぉ・・・。

まあ、つられて店内をのぞき込んでみたら
なるほど、可愛いっちゃ可愛いかもネ。
結局は薬局、ラブホ街縦断を断念、
その店のカウンターに仲良く横並びと相成った。

さっそくママと言葉を交わし始める不肖ののみともであった。
やれやれ。
発音&ボキャブラリーからしてママは明らかに異邦人。
おそらく中華人民共和国の出であろう。
ただし、かの民族固有のつっけんどんな態度など微塵もなく、
接客ぶり丁寧にして所作もソフトだ。

しかしねェ、肝心の料理のほうはダイジョブかいな?
一抹の不安を抱えながら中ジョッキをカチンと合わせた。
供された突き出しは小海老のマリネである。

=つづく=

2016年10月27日木曜日

第1478話 そうだ、草加に行こう! (その3)

埼玉県・草加市のそば店「大村庵」。
天もりが運ばれ来たところ。
天ぷらの内容は、海老・キス・なす・かぼちゃ。
ここにしし唐の青味が加わればよかったかな。

我慢するつもりだったビールもこらえ切れずに後付けで追加する。
ドリンクとフードを比較するのもなんだが
ビールの旨さたるや天もりの及ぶところではない。
中瓶2本に天盛り(天もりに非ず)だけで
そばは省いてもいっこうに構わないのだけれど、
昼間っから飲んだくれるのはみっともないから自重している。

あらためて品書きに目をやると、つまみの用意も何品かあった。
板わさ・餃子・目玉焼き・あじフライ、
どこかとりとめがないというか、センスはいいほうじゃないネ。
店主は名古屋の出身だるか?
そばに並んできしめんのメニューも目立つ。

食後、なおも市内を散策すること1時間半。
強い西陽を浴びて一汗かいた。
しからば再びビールであろうヨ。
昼めしどきの1本が呼び水となったことは確かだ。
そう、自分に弁解しながら店探しを始めた。

探索エリアは線路をはさんで東口と西口、駅の両サイドである。
およそ30分を要して「珍来西口店」に入った。
本店は東口にあり、
ほかにも都内の足立区などにチェーン展開している。
といっても新興の外食チェーンとは異なり、
昔ながらの町の中華屋然とした店舗だ。

天もりを食べてから2時間ほど、空腹感はまったくないから
ビールのつまみに餃子でも注文しよう。
そう思っていたら、ビール・餃子セット(750円)というのがあった。
中瓶か中ジョッキに5カンの餃子が付いてくる。
ビールは瓶(ラガー)も生(一番搾り)もキリンだ。
ここは中生を選択した。

餃子は水準に達していてなかなかイケる。
近所の主婦がテイクアウトしていったりもする。
駅前のスーパーで買えるものより旨いんだろうな。
財布の紐の固い主婦がわざわざ持ち帰るんだから
そこそこの評判を得ているものと思われた。

手持無沙汰につき、メニューを吟味し直すと、
その隅にアサヒスーパードライを発見。
なあんだ、ビール・餃子セットにも組み込まれているじゃないか。
すかさず1本注文して好みのテイストに頬をゆるめた。

初めてにしてはそれなりに満足できた草加の街。
訪問を諒として帰りの電車に乗ったが
おそらく北千住あたりで途中下車だろうネ、きっと―。

=おしまい=

「大村庵」
 埼玉県草加市神明1-9-26
 048-925-1686

「珍来西口店」
 埼玉県草加市氷川町2102-9
 048-922-5583

2016年10月26日水曜日

第1477話 そうだ、草加へ行こう! (その2)

埼玉県・草加市の千本松原を歩む。
並木道はほとんど遊歩道といってよい。
歩道にに架かる二つの太鼓橋は百年橋と矢立橋。
ともに江戸の昔からあったわけではなく、
たかだか四半世紀前に架橋されたものだ。

松並木の美しさに後押しされ、かなりの距離を歩いた。
草加・松原団地間の一往復に加え、
あっちフラフラ、こっちブラブラで2時間余り。
なのにちっとも疲れない。
これこそが”知らない町歩き”のダイゴ味だからだ。

時刻は14時半、にわかに空腹を感じ、
遅ればせながらのランチをとることとする。
駅前はともかくも旧市街に食事処は少ない。
ただ1軒のみ、目星をつけておいた店があった。
日本そば屋の「大村庵」である。

霞ヶ浦のほとり、土浦に出掛けたときもそうだったが
こういった土地柄に接すると、つい日本そば屋に入ってしまう。
午後に中休みを設けない店が多いため、
使い勝手のよさが大きな要因になっている。
ところが最近はちゃんと休憩をとる店が増えた。
かといって遅くまで営業するでもなく、そば屋の夜は浅い。

15時近くなのに「大村庵」の暖簾は仕舞われてなかった。
ここでも先客は皆無。
よくこれで商売が成り立つものよと余計な心配が先立つ。
まっ、時間が時間だから当然といえば当然か―。
ザッと品書きをながめて別段惹かれるものはない。
凍える真冬を除いて温かいそばまず食べないので
選択肢は”冷た系”に限られる。

結局は薬局、土浦の「吾妻庵本店」に続いて
頼んだのは天もりだった。
われながらまったく芸というものがない。
だけどネ、もりそばじゃ寂しいし、
冷やしたぬきやきつねは好みではない。
とろろにも食指が動かない。
やはり天ぷらがビールの友になってくれる、
天もりに落ち着いちゃうのだ。

天もりが整った。
アレ、そばは何処に?
写真では判りにくいが器が二段重になっており、
そばは天盛りの下に潜んでいた。
土浦の「吾妻庵総本店」における、
海老天&かき揚げ合体版といい、
地方都市の天もりは意外な姿で現れるネ、ジッサイ。

=つづく=

2016年10月25日火曜日

第1476話 そうだ、草加へ行こう! (その1)

夏の終りの或る日。
TVのワイドショーを見ながら朝食をとっていた。
献立は? ってか?
イングリッシュ・マフィンのトーストとミルクティーでござるヨ。
ふん、シャレたモン食ってんじゃねェか! ってか?
うん、まあネ。

秋、真っただ中だってえのに
晩夏とはずいぶん古いハナシで恐縮ながら
話題によっては、つい長話になってしまい、
そこそこの日にちを要するために
ときとしてこんな現象を巻き起こす。
ご了承くだされ。

さて、その日は丸一日、何の予定もなかった。
いわゆるドヒマである。
そこでふと思い立ったのが、”草加へ行こう!”だったのだ。
草加は何度も通りすがった街ながらゆっくり歩いたことがない。
半日訪れるにはちょうどいいや・・・そう考えたのだ。

常磐線で北千住に出て
東武伊勢崎線(通称・スカイツリーライン)に乗り換えた。
埼玉県では、さいたま市、川口市にははるかに及ばずとも
県内第六位の人口を有する草加市である。

古くは千住に続く日光街道第二の宿場町として栄えた。
その後はやや停滞したものの、
近年、東京のベッドタウンとして住む人が増加し、
伊勢崎線で草加の一つ先、松原団地など、
そのまま駅名になっているマンモス団地である。

多少の下調べをして赴いたから
江戸時代の名残りある地域に向かって歩を進めた。
都心から30分そこそこの近場にもかかわらず、
のどかな地方都市といった風情は散策していて楽しい。

綾瀬川に沿って松並木が続いている。
昔から千本松原と呼ばれ、
街道筋の名所として旅人たちの心をなぐさめてきた。
かの松尾芭蕉も「おくのほそ道」の道すがら足跡を残している。

 月日は百代の過客にして 行きかふ年もまた旅人なり

「おくのほそ道」冒頭の名文から拝借したのだろう、
百代橋という太鼓橋が架かっている。
その先には矢立橋もあって、こちらは

 行く春や鳥啼き魚の目は泪 
 これを矢立の初めとして行く道なほ進まず

からであろうヨ。

=つづく=

2016年10月24日月曜日

第1475話 湯島の仇を根津で討つ (その2)

東京メトロ千代田線・根津駅そばの「楽翠荘」で
紹興酒を飲んでいる。
根津の町に美味しい店は少ない。
これは文京区の宿命かもしれない。
酒場・居酒屋にいたっては不毛地帯といっても過言ではない。

そんな文京区の根津では
串揚げの老舗「はん亭」がランドマーク的存在になっている。
ただし「はん亭」は高級店につき、
庶民が気安く利用することはむずかしい。

コスパを考慮すれば「楽翠荘」はまぎれもない優良店。
まことに貴重だ。
食事だけでなく、ちょい飲みを可能にしてくれるところが
呑み助には殊更ありがたい。

1軒目でそこそこつまんだため、
お互い、箸の進みはゆるやかである。
もうほかに料理は要らないくらいだが
それじゃ愛想ナシだから
レバニラ炒めと焼きビーフンを追加した。
これまたどちらもハーフポーションで。

しばらく焼きとん屋に行っていないから豚レバは久しぶり。
ニラとの相性の良さは
この料理の普及度をみれば明らかだろう。
海老チリにせよ、レバニラにせよ、
もともと中国大陸にはなかった料理のハズ。
日本人だか中国人だか判然としないが
考案者には敬意を表したい。

レバニラは水準に達している。
もやしは必要ないんだが
使用量は許容量の範囲内につき、不問に付す。
紹興酒のよき合いの手になってもくれてるし。

一方の焼きビーフンはやや凡庸。
味付けがレバニラに似てやや濃く、
これなら軽い塩味にしてほしかった。
ただし、相方は残りの紹興酒をオッツケる代わりに
ビーフンをヤッツケてくれた。
物事を成し遂げるには一致協力せなばならぬ。
とにもかくにも湯島の仇を根津で討ち、
本懐を遂げることができて目出度し。

近所のバーに移動した。
合わせたグラスはドライマティーニとホワイトレディで
どちらもベースのスピリッツはジンである。
昔ばなしに今一度花を咲かせて今宵はお開きとした。

「楽翠荘」
 東京都文京区根津1-1-15
 03-3821-7422

2016年10月21日金曜日

第1474話 湯島の仇を根津で討つ (その1)

不発に終わった湯島の「喜羊門」。
目の前の「デリー」で口直しという手もあったが
中華の仇をインドで討つんじゃ三蔵法師も納得すまい。
それに腹六分目といえどもこれからカレーライスはあり得ない。
かといって妙案はすぐに浮かばない。

エニウェイ、どこか近場に移動しなけりゃ。
湯島天神下からだと選択肢は広い。
広小路から御徒町にかけては飲食店が目白押し。
神田明神下も悪くないし、末広町方面だってある。
排除すべきは風俗店の客引きあふれる仲町通りだけだ。

このときひらめいたアイデアに思わずヒザポン。
そうだ、隣り町の根津に行こう。
このことであった。
不忍池のほとりを歩いていけば、たかだか十数分の距離。
そこにはかつてひんぱんに利用した広東料理の「楽翠荘」がある。
かなりの品目をハーフポーションで提供してくれ、
2軒目として使い勝手がとてもよろしい。
中華の失策は中華で挽回するのが手筋というものだ。

不忍通りと言問通りが交わる根津交差点そばの「楽翠荘」に到着。
店内は八分の入りながら、4人掛けのテーブルに案内される。
幸運だったが奥のダイニングからは団体客の嬌声が流れくる。
やれやれ、今宵はつくづく騒音に見舞われる夜だこと。

初秋の暖かな日。
飲みものは当然、ビールに逆戻りである。
遅れてやって来た、二人の春に乾杯を!
タハッ、まだ言ってるヨ。

初っ端のオーダーは青菜炒めと海老のチリソース。
ともにハーフサイズである。
青菜は小松菜だった。
八月の台風襲来以来、青物の価格は高どまり。
ビタミン補給はできるときにしとかなきゃネ。

海老チリもなかなかである。
ゆるいソースの店が少なくないなか、滋味に満ちている。
白いごはんが欲しくなるくらいだ。
まさか芝海老ではなかろうが海老自体も良質。
何だかホッとした。

1軒目の「喜羊門」同様、ここでも紹興酒に移行する。
ちょいとぜいたくして陳18年を所望した。
もちろん常温で―。
心なしか海老チリの美味しさが増すようだ。
この時点で失地回復の意を強くした。
やれやれ、よかった、よかった。

=つづく=

2016年10月20日木曜日

第1473話 ウサギに惹かれて湯島の夜 (その5)

だだっぴろい中国全土の料理をカバーする、
多彩なメニューを誇る「喜羊門」。
最初に選んだ前菜はラオフーサイであった。
中国語では老虎菜と書くのだろう。

年老いて歯の衰えた虎でも
食べられる野菜料理という意味合いを持つネーミングらしい。
聞くところによると、
神戸に「老虎菜(ラオフーツァイ)」なる人気料理店があるそうだ。

内容は細切りの玉ねぎ・きゅうり・ピーマンに
香菜(パクチー)と青唐辛子が散っている。
大した工夫のない一皿ながらスターター、
あるいは箸休めとしては悪くない。

紹興酒に切り替えた頃に目当てのウサギ辛味炒めが登場。
サイの目に切られたウサギ肉と野菜が同居している。
この皿を目にした客は十人が十人、鶏肉と思うに違いない。
味もメリハリに欠けてイマイチ、ピンとくるものがまったくない。
かなりの量で完食に至らなかったこともあり、
ハッキリ言ってミスチョイス。
強烈な肩透かしに哀れJ.C.、黒房下に転げ落ちの巻である。。

追加料理は相方の選んだ小籠包子と
当方が反対を押し切って強行採決した羊のキドニー(腎臓)。
実は腎臓と睾丸で迷った末の決断だった。
もっとも睾丸だったら相手を説得できなかったろう。
それにJ.C.はかつて紅顔の美少年、
紅顔に睾丸は似合わないよネ。

ところがこのキドニーで再び大失敗。
仏料理店で見掛けたら必注の好物ながら
臭みの除去が不十分なうえ、ほとんど素焼きに近いから
どうにも手に負えず、半分以上残してしまった。

やはり下処理は大事だヨ。
フレンチやイタリアンでは丁寧な処理のあと、
マスタードやクリームで上手に味付けするもんネ。
それに使用される素材はたい仔牛の腎臓。
親か仔か定かでないが羊はキビし過ぎるものがあった。

せっかく誘いに乗ってもらったのに、これでは面目丸つぶれ。
何か妙手はないものか?
ここは一番、早目の損切りであろう。
世に見切り千両なる先人の名言があることだし、
河岸を替えるしか手立てはあるまい。

取り合えず会計を済ませ、階下に降りる。
春日通りをへだててハス向かいにカレーの人気店、
「デリー本店」に賑わいが見えた。

=おしまい=

「喜羊門」
 東京都文京区湯島3-38-11 エスパス上野広小路4F
 050-5785-9836

2016年10月19日水曜日

第1472話 ウサギに惹かれて湯島の夜 (その4)

 ♪    桜の花のような
    小雪がふりかかる
    お前のおくれ髪を
    この手で なでつける
    まわり道を したけれど
    めぐり逢えたら いいさ いいさ
    遅れてやって来た
    二人の春に 乾杯を あああ・・・ 
         (作詞:なかにし礼)

現役の大関・琴風豪規が歌った、
「まわり道」がリリースされたのは1982年10月。
関係者の予想をいい意味で大きく裏切り、
驚くなかれ、50万枚を売り上げた。

この年のレコード大賞受賞曲は細川たかしの「北酒場」。
好みの楽曲ではないが1982年は流行歌の当たり年、
例によってマイ・ベストテンを選んでみる。

① 誘惑(中島みゆき)
② 夏をあきらめて(研ナオコ)
③ 匂艶 THE NIGHT CLUB(サザンオールスターズ)
④ ねじれたハートで(桃井かおり&来生たかお)
⑤ 恋人も濡れる街角(中村雅俊)
⑥ スローモーション(中森明菜)
⑦ 愛しつづけるボレロ(五木ひろし)
⑧ 聖母たちのララバイ(岩崎宏美)
⑨ さざんかの宿(大川栄作)
⑩ シルエット ロマンス(大橋純子)
 次点:あの場所から(柏原芳恵)

であります。

第一位の「誘惑」は
星の数ほどある中島みゆきのナンバーにあってもマイ・ベスト。
次点の「あの場所から」はさかのぼること12年、
日本人の男の子とアメリカ人の女の子のデュオ、
Kとブルンネンのオリジナルを柏原がカバーした作品。
多くの歌手が取り上げている佳曲である。

また”まわり道”をしてしまった。
湯島の「喜羊門」であった。
牛に引かれて善光寺参りよろしく、
ウサギに惹かれて「喜羊門」。
そういえば、女優の吉田羊は好きだなァ。
おっと、またまた”まわり道”しそうになるのを抑えておさえて。

べつに二人の春が遅れてやって来たわけでもないが
とにかくビールで乾杯。
突き出しの小皿が運ばれた。
南京豆・キムチ・小松菜炒めの三点盛りだ。
ん? 中華でキムチかや。

=つづく=

2016年10月18日火曜日

第1471話 ウサギに惹かれて湯島の夜 (その3)

文京区・湯島の「喜羊門」である。
丸焼きにされて食われてしまう羊が喜ぶとも思えぬが
店名は喜ぶ羊の門出なのである。

さて、大グループで羊をいくか、
小グループに抑えてうさぎにするか、
迷うところでありました。

ところがHPをつぶさに眺めていると、
羊足の丸焼きもウサギの丸焼きも
3~4人前で4800円(税抜き)とあった。
写真で見ると羊は
とても3人の手に負えるものではないように映るが
それほどのボリュームではないようだ。
ほかにも羊背中丸焼きというのもあり、
こちらは2~3人前で3800円とあった。

でもねェ、惹かれたのはウサギだし、
ここは初心貫徹でいこうじゃないの。
仕方がない、3~4人集めてみようか・・・。
頭の中で候補者選びを始めた。

なおもメニューをチェックしていたら
ウサギの辛味炒めというのが目に飛び込んできた。
ん? これはいいじゃないか。
本来は丸焼きをいきたいところなれど、
わずらわしさを考慮すれば、
落としどころをわきまえることこそ肝要なり。

大グループでガッツリでなく、
小グループでジックリでもなく、
たった二人でシッポリに切り替えることにした。
思い立ったが吉日、
食友のT栄サンに誘いのメールを発信する。

1週間後、二人してエスパス上野広小路の4階に上がる。
週末のせいか店内には家族連れが目立つ。
それもほとんどファミレス状態で
ワイワイガヤガヤ騒がしいったらありゃしない。
数のうえでは日本人より中国人がはるかに優勢だ。

 お客様 お食事買い物 お静かに

かのヒット川柳が脳裏をよぎる。
それにしてもこの騒音、何とかならないものだろうか。
部屋の隅でヒッソリと食事を進める老夫婦は
しかめっ面こそしてないが相当に迷惑そう。
(トンデモない店に来てしまったな)
(ホントにそうですネ)
心の内でそうつぶやき合ってるに相違ない。

多勢に無勢ながら、負けてはならじとわれわれ、
殊更声を大きくして
「乾パ~イ!」―グラスを合わせたのでありました。

=つづく=

2016年10月17日月曜日

第1470話 ウサギに惹かれて湯島の夜 (その2)

野うさぎの料理となると第一感はリエーブル・アラ・ロワイヤル。
フランス料理である。
直訳すれば野うさぎの王家風だから
断頭台の露と消えたルイ・エ・マリーも召し上がったことであろう。
何だ、それは! ってか?
16世とアントワネットでんがな。

アラ・ロワイヤルはフランス革命史のごとく、きわめて血生臭い。
それもそのはず、うさぎ自身の血液が使われてるからネ。
加えてけっこうな量の赤ワインが併用されるから
おのずとソースの色は赤黒くなる。
とにかく赤ワイン無くして美味しく味わえるものではなく、
下戸には無縁の料理だと、
飲めない方はハナからあきらめてくだされ。

ある昼下がり。
その日の散歩は神楽坂上から始まった。
東京メトロ東西線・神楽坂で下車。
坂上から坂下に向かって一直線に下降する。

飯田橋→水道橋→春日→本郷→湯島

そんな道程だった。
上野か御徒町の大衆酒場で1杯、いや2杯、
いやいや3杯ほど引っ掛ける腹積もりであった。

湯島天神下から上野広小路に向かって歩いていると、
比較的新し目の瀟洒なビルに差し掛かった。
飲食店だらけの建物には
焼肉の有名店「叙々苑」なんぞも入居している。

その階上に「喜羊門」なる中国料理店を発見。
何となく気になって帰宅後(もちろん上野で飲んだあと)、
検索してみたら俄然、興味が湧いてきた。
名物料理は第一に羊もも肉のあぶり焼き、
第二にうさぎの丸焼きである。

羊はうさぎよりずっと大きいから
1尾丸ごとというわけにもいくまい。
それでも片足が1本ド~ンと運ばれて
卓上で焼き上げられるという。
こりゃ行かずばなるまいヨ。

この店の利用法として二つのアイデアが浮かぶ。
 その1・・・グループで羊をガッツリと
 その2・・・小グループでうさぎをジックリと
さあ、どうするか?
でもなァ、発案者がそのまま幹事になること必定。
それも面倒くさいしねェ。
最近、生来の面倒くさがり屋に拍車がかかっちまってる。

ここでJ.C.オカザワ、明神下の平次親分よろしく、
胸に思案の月を見たのでありました。

=つづく=

2016年10月14日金曜日

第1469話 ウサギに惹かれて湯島の夜 (その1)

ウサギが好きである。
いえ、飼うんじゃなくてウサギの料理ですがネ。
鶏の胸肉と大して変わらんじゃないか、
そういう方がおられるのはじゅうぶん承知しているが
実際の食味は微妙に違う。
ウサギのほうがチキンより肉質がキメ細かくデリケート、
上品な味わいがある。

忘れられないのはニューヨーク滞在時に
ちょくちょく出向いた一軒のトラットリアだ。
グリニッジヴィレッジにある、その店の名は「Il Cantinori」。

ここに行ったら外せないディッシュが二皿あった。
第一にスパゲッティ・ルスティカ(田舎風)。
第二は仔ウサギのローストである。
それがいつの間にかともにメニューから姿を消して大ショック。
ガッカリしたのが昨日のことのようだ。
自著「ニューヨークレストラン Best 225」からその稿を紹介しよう。

「Il Cantinori」(イル・カンティノーリ)

すでにメニューから消えてしまった、
仔ウサギ鞍下肉のローストは大好物でかえすがえすも残念。
トマトのシンプルな旨味が際立つ、
スパゲッティ・ルスティカも消えたが
こちらは今でも注文すれば作ってもらえる。

夏場に限り、プロシュート(生ハム)に
メロンとイチヂクの両方を添えてくれ、おいしさ倍増。
焦がしバターとサルヴィア(セージ)が食欲をそそる、
アニメッレ(仔牛の胸腺肉=リードヴォー)も上出来だ。

秋から冬へかけて
キジのローストと骨付きイノシシのグリルが
”本日のスペシャル”に顔を見せたら必食中の必食である。

おすすめ
蟹のタリオリーニ・クリームソース 
仔牛のラヴィオリ・サルヴィア風味

でありました。

ウサギには飼いうさぎと野うさぎがあり、まったくの別物。
英語ではラビットとヘア、仏語ではラパンとリエーヴル、
伊語だとコニッリオとレープレとなり、
それぞれ似ても似つかぬ単語が当てられている。
両者の区別に無頓着なのは日本語くらいなのである。

飼いうさぎの身肉が白身なのに比して、野うさぎのそれは赤身。
香りというか臭みもまったく異なる。
これは食べるエサの違いに起因するものと思われる。
フツーの人がいきなり野うさぎ料理を出されたら
まずお手上げ状態になること間違いなしだろう。

=つづく=

「Il Cantinori」
 32E. 10th St. Manhattan NewYork
 673-6044

2016年10月13日木曜日

第1468話 八年ぶりの石神井公園 (その4)

「辰巳軒」の多種多彩なメニューに圧倒されている二人であった。
さすがにこの日はくだんのカレーライスは回避しておく。
J.C.ははあらかじめ心に決めていた一皿があった。
自著でもオススメとして選んだBセットを注文の巻である。
海老好きの相方はベツに迷う素振りも見せず、
予想した通りにエビフライを選択。
この二皿を分け合って
ビールのつまみとするのがわれわれの腹積もりだ。

真夏日に練馬の奥まで遠征してきたかいあって
冷たいビールが飛び切りの美味しさ。
のどチンコがオーガズムに達している。
あいや、失礼!

またたく間に大瓶がカラになって追加する。
すると二本目とともに運ばれたのが一つの小鉢である。
さてコレは何でしょう?
シチューでもないし、グラタンでもない。
まっ、ほとんどの読者がお判りでしょう。
そう、エビフライ用のタルタルソースでありました。
別鉢にたっぷり盛られているところが実にエラい!
洋食は常にこうありたいものですな。

追いかけて到着したエビフライを一べつして
O戸サンは満面の笑みである。
美しさにおいて完璧の盛付け
ぷっくりと肉付きのよいエビ2尾。
ポテトサラダを忍ばせて、きゅうりとレモンにエッジが立っている。
パセリさえもみずみずしいではないか!
こんな料理が不味いワケがありまっしぇん。

相方の大好物は何を差し置いてもエビフライ。
そしてこちらは理解に苦しむのだけれど、明太子である。
とにかく銀座あたりの洋食屋でもなかなかこうはイカないもの。
あらためて当店の優良性を認識した次第だ。

続いてイチ推しのBセットが登場。
何ともバランスに秀でたワンプレート
酒飲みにはたまりませんな。
一辺にほどよい脂身をたたえた焼き豚。
適度なサイズの一口カツ。
目玉焼きとスライスハムもありがたい。
もちろん、お味のほうも文句なしである。

いやあ、おかげで真っ昼間から
ビールをしこたま飲んじまっただヨ。
こんな店が近所にあったら
休みの日には浅い時間から入りびたること間違いなし。
ある意味、遠くにあってよかったのかもねェ。
まことにまことにご馳走様でした。

=おしまい=

「辰巳軒」
 東京都練馬区石神井町3-17-20
 03-3996-0425

2016年10月12日水曜日

第1467話 八年ぶりの石神井公園 (その3)

練馬区・石神井公園の「辰巳軒」。
記憶がそれほどはっきりしているわけではないが
八年前と変わらぬ光景が店内に拡がっている。
接客のオバちゃんも同一人物であろう。
丁寧な応対ぶりが快適な空間に彩りを添えてくれる。

ビールの大瓶が500円。
町の食堂にふさわしい良心的な値付けといえよう。
卓上に置かれたメニューは実に多彩だ。
一部だけでも紹介してみよう。

=洋食の部=
 カツレツ― (並)1100円 (上)1300円
 ヒレカツ― 1300円
 ポークソテー― (並)1100円 (上)1300円
 エビフライ― 1100円
 カキフライ― 時価
 ハンバーグステーキ― 700円
 オムレツ― 700円
 ローストチキン(モモ焼)― 700円
 アスパラサラダ― 500円

=ライスの部=
 カレーライス― 600円
 カツカレー― 700円
 オムライス― 700円
 ハヤシライス― 600円
 ランチA― 850円
 ランチB― 700円
 あじフライ定食― 700円
 すき焼き定食― 1000円

=中華の部=
 ラーメン― 450円
 五目そば― 750円
 チャーシューメン― 750円
 かたい焼きそば― 750円
 餃子― 400円
 ニラレバ炒め― 600円
 酢豚― 1100円
 炒飯― 600円
 中華丼― 700円
 冷やし中華― 800円
 五目冷し中華― 1100円

このほかにも各種盛合せ料理に定食類やつまみの単品、
それに豊富なアルコール類の品揃えが
壁にビッシリと貼り出されているのである。
これじゃ迷いに迷うし、
すべて目を通していたら10分はラクに掛かってしまうだろう。

=つづく=

2016年10月11日火曜日

第1466話 八年ぶりの石神井公園 (その2)

「J.C.オカザワの昼めしを食べる」から
「辰巳軒」のつづき。

誰が金を払ったか存ぜぬが
頼んでしまった安吾は自業自得としても
家主の檀一雄こそいい面の皮で
おそらく支払いも檀であったろう。
と到着するライスカレーが
庭の芝生の上に次々と並べられたという。

100人前のライスカレーを出前したのが
この「辰巳軒」と同じ並びで数軒先の「ほかり食堂」。
よくぞ2軒とも廃業もせず、
今日まで生きながらえてくれたものと
感心するとともに感謝までしたくなる。

ライスカレーはもはや死語なのだろう、
メニューにはカレーライスと記されていた。
600円也である。
豚肉がしっかりと入って
真っ赤な福神漬けが添えられ、なかなかにおいしい
 
そんな歴史を秘めたカレーよりも
推奨したいのがBセット。
ワンプレートにいろいろと盛合わされている。
一口カツ・焼き豚・目玉焼き・ロースハム・
ポテトサラダと盛りだくさん。
それに炒飯でおなじみの清湯スープにライス。
それぞれが丁寧に作られていて充実度抜群。

これに鳥の唐揚げが追加されるとAセット(850円)になる。
店を切り盛りするオジさんとオバさんが
人情味あふれる好い人たちだった。

というこである。

今回も八年前同様に
「辰巳軒」と「ほかり食堂」のハシゴを試みるつもりであったが
残念ながら後者は午後の中休みに入っており、
願いはかなえられなかった。
さすれば一極集中の一手あるのみだ。

当日の相方はのみとものO戸サン。
J.C.の発案に快く応じてくれたのだった。
西武池袋線・石神井公園駅の待合わせながら
池袋からの準急電車にたまたま同乗して到着した。

駅は前回と様変わり、すでに高架化が済んでいた。
景色の激変に少々とまどいながらも
無事に暖簾をくぐることができた。

=つづく=

2016年10月10日月曜日

第1465話 八年ぶりの石神井公園 (その1)

 わが母校、上板橋第一中学校は校舎・校庭の三辺を
東武東上線、環状七号線、石神井川に囲まれている。
残りの一辺も旧川越街道にほど近く、
きわめてまれな位置に立地している。

毎年、入学式のシーズンになると、
川のほとりの桜並木がいっせいに花開く。
かといってべつにのどかな岸辺の風景が広がるでもなく、
氾濫防止のためにコンクリートで護岸され、
都会を流れる川の典型ともいえる姿をさらしている。

この川の水源は小金井市花小金井。
小金井カントリー倶楽部の敷地内に湧く水である。
途中、富士見池や三宝池などの湧水を集めて水量を増し、
隅田川に合流している。

かつては石神井公園の三宝池が主源となった時期もあったが
今は枯渇しつつあり、池の水さえポンプで吸い上げている始末。
東京の地下水はいったいどこに消えたのだろう。
おそらく網の目のように張りめぐらされた地下鉄がその主因。
東京五輪以前はそこかしこで当たり前のように
利用されていた井戸水が今はほぼ絶滅、
オバちゃんたちの井戸端会議も殉死の憂き目をみている。

八年ぶりに石神井公園を訪ねた。
いや、公園も三宝池もあくまでついで、
主目的は一軒の食堂である。
その名を「辰巳軒」という。
自著「J.C.オカザワの昼めしを食べる」より、
「辰巳軒」の稿を引用してみたい。

ときは1951年。
無頼派の巨匠でありながら
狂人の異名もとった坂口安吾が起こした騒動に
ライスカレー大量発注事件がある。

石神井公園にほど近い、
同じく無頼派の作家・檀一雄宅に居候として同居していた際、
何を思ったか100人前のライスカレーを
出前注文してしまったのである。

最近ときどき見掛ける、
電子トレードによる株式売買の誤発注ではない。
100人前という数字を
じゅうぶんに認識した上での確信犯である。

犯人の安吾を筆頭
おり悪しく居合わせた者は総勢10人に満たない。
それでもみな果敢に大量のライスカレーに挑んだそうだ。

以下次話で。

=つづく=

2016年10月7日金曜日

第1464話 初めて歩く土浦の街 (その4)

土浦は「吾妻庵総本店」に居る。
先客もなければ後客も現れない。
天ぷらでも頼もうかと思っていたら
ビールの突き出しに蓮根がやって来た。
醤油味の煮もの
蓮根は土浦の名産で国内随一の収穫量を誇るらしい。
ビールの友としてそれほど旨いものでもないが
ベター・ザン・ナッシングではある。

品書きを吟味してみたが、これといって惹かれるつまみはない。
そば屋で飲むのは好きだが酒飲みを嫌うそば屋もあろう。
店内には小上がりのほかに入れ込みの座敷まである。
これだけの設いがもったいないくらい。
いえ、酒飲みなら誰しもそう思うだろう。

結局は薬局、選んだのは天ざるだった。
いや、海苔抜きをお願いしたから正確には天もりだ。
品書きに天もりがないのでそうした。
そばと海苔の相性はけしてよくないからねェ。

2本目のビールを飲みつつ、天もりを待つ。
10分後に運ばれた天もりはかくの如し
見るからにバランスが悪い
どこかヘンだな。
天ぷらの盛合せというか、抱き合わせというか、
とにかく立体感に乏しい。

まっ、あまり細かいところを指摘しても何だし・・・。
取りあえず、いただいてみましょ。
そして海老をつまんだときだった。
ありゃ海老がかき揚げから離れない
両方が一心同体でくっついちゃってるぜ。
造り手はいったい何を考えてんだか・・・
その意図が読み取れない。

海老の天ぷらと小海老のかき揚が
密着した揚げものに出会ったのは生まれて初めてだ。
デメリットこそあれ、メリットはないだろうに。
あえてその理由を問い質さなかったが
心の中にクエスチョンマークを抱えつつ、海老に箸をつけた。
なかなかに良質の海老である。
反してかき揚げはよくない。

もっちりとした食感のそばが旨い。
のど越し感より噛みしめ感で味わうタイプだ。
ただし、つゆは甘すぎて感心しない。
およそ45分の滞在中、とうとう客は一人も来なかった。

はしごをせずに土浦駅へ。
駅ビル内のスーパーに立ち寄る。
霞ヶ浦産の新わかさぎを見つけ、購入した。

帰宅後、醤油と清酒を同割りにしてわかさぎを漬け込み、
翌日の昼食時に唐揚げとしてビールを楽しむ。
ベツに料理上手じゃないけれど、
前日の合体海老の上をいったことに間違いはなかったぞなもし。

=おしまい=

「吾妻庵総本店」
 茨城県土浦市中央1-6-11
 029-821-0161

2016年10月6日木曜日

第1463話 初めて歩く土浦の街 (その3)

初めて歩く土浦の街。
時刻は17時半になった。
目星をつけた「食堂 亀屋」に舞い戻る。
しめしめ、店内に灯りが点って先客が1名。
渇いたノドが麦酒を熱望している。

かつ丼は濃い目で甘じょっぱい味付けだろうな・・・。
そんなことを想像しながら引き戸を引いて入店。
今朝のスポーツ紙を手に取り、大きなテーブルに席を占める。
厨房内に人影を確認したがホールに接客係の姿はない。

すると、厨房から出て来た料理人がすまなそうに
「すみません、夜は営業していないんです」
「エエ~ッ! そうなの?」
「昼だけなんですヨ」
当方、ビックリしながらガッカリした。

何のこたあない、この店は隣りで仕出し弁当も商っており、
料理人はその仕込みに勤しんでいたわけだ。
するってえと、店内の先客は?
彼は客ではなくスタッフで賄いを取っていたところ。
なるほど、ナットクの巻。

仕方ないから「亀屋」から徒歩1分の「エルベ」に向かう。
独りでドイツ料理もないもんだが
アタマの中はアサヒビールとかつ煮から
ドイツビールとソーセージに切り替わっている。
変わり身ならぬ、替わりアタマの素早さよ!

ところがギッチョンチョン、「エルベ」は扉を閉じたまま。
開店前なのか、定休日なのか、休業中なのか、
はたまたツブれちゃったのかも判らぬ状態。
いやはや、何てこったい!

こうなったら残るは2軒。
そば屋か天ぷら屋の二者択一である。
天ぷらだとサクッといけなそうな予感、
日本そばの「吾妻庵総本店」を選択した。
歴史を感じさせる建物にも惹かれたし・・・。
こりゃ入ってみたくもなるわな
暖簾をくぐったのは18時前、先客はゼロである。
概して土浦は人が少ない。
いや、クルマはそこそこ走っているから
車内に最低一人は居るわけで、少ないのは歩行者なのだ。
もっともこれは日本国中、都会以外はどこにでも言えること。

よおく冷えたビールを飲みながら品書きに目を落とす。
そこには”創業百四十余年 吾妻庵総本店”とあった。
さすれば、幕末か明治初頭の開業ということになる。
よくもまあ、生き残ったものよのぉ。
気を引き締めて注文品を選ばねばならぬ。

=つづく=

2016年10月5日水曜日

第1462話 初めて歩く土浦の街 (その2)

何でも今をときめく小池百合子都知事が環境大臣時代、
制定に一役買った特定外来生物法のおかげで
釣り上げたアメリカナマズやブラックバスの持ち出しが禁止された由。
よって、ほとんどが現地で魚粉に加工され、
飼料や肥料に回されているのだという。
言われてみれば、上記の2種をスーパーで見掛けることは皆無だ。

湖畔に釣り用のボート乗り場があった。
スタッフの人たちが
前夜の台風から避難させるために陸揚げしておいたボートを
釣り場に戻す作業に励んでいた。

コンクリートの岸壁に腰を下ろし、ぼんやりと湖面を眺める。
水面に反射する陽光がまぶしい。
ジャンプする小魚は外来の肉食魚から逃れているのだろうか?
水中での生活も楽じゃなさそうだ。

さて、街中に戻るとするか。
再び桜川の沿って歩く。
やって来たのは桜町二丁目あたり。
かつての遊郭があったのはこの界隈である。
今は東京の新吉原の如く、ソープランドがやたらに多い。
時間が早かったせいか活気は感じられない。

街道筋には霞ヶ浦の名産を商う店舗が散見され、
海老せんべいや新わかさぎの煮干しの貼り紙が見える。
さすがに天然うなぎはまとまった漁獲がなく、
愛知県産養殖と明記されている。

亀城(きじょう)は別名・土浦城。
そのコンパクトな城址を散策してみた。
なぜか動物を飼育する檻があって、中にはニホンザルが2匹。
オスとメスが仕切られて別々に暮らしている。
オスはりょうた、メスはすみれという名である。
陽の当たらない陰気な場所をあてがわれて2匹ともつまらなそう。
どう見てもシアワセそうには見えない。
誰の発案か知らないけれど、こりゃ動物虐待だろうがっ!
ずいぶんな仕打ちをするものだ。

2時間は歩いたろう、
さして広くもない土浦の街をさまよいながら
晩酌の候補店を物色していた。
「食堂 亀屋」、「天ぷら ほたて」、日本そば「吾妻庵」、
そしてドイツ料理「エルベ」。
4軒ともほぼ同じ一郭に点在している。

「亀屋」は亀城の脇にあって、いかにも昭和の大衆食堂。
店頭にファンが書き込んだコピーが貼り出され、
当店のかつ丼を激賞している。
つい、つられてしまい、晩酌はここに決めた。
かつ丼では腹いっぱいになるから
かつ煮にしてもらい、ビールのアテにする腹積もりだ。
30分ほど待てば夜の開店時間が訪れるハズである。

=つづく=

2016年10月4日火曜日

第1461話 初めて歩く土浦の街 (その1)

  ♪    若い血潮の 予科練の
     七つボタンは 桜に錨
     今日も飛ぶ飛ぶ 霞ヶ浦にゃ
     でっかい希望の 雲が湧く  ♪
        (作詞:西條八十)

軍歌の代表歌の一つ、「若鷲の歌」が世に出たのは
太平洋戦争も敗色が濃くなりつつあった1943年。
歌は波平暁男と霧島昇の共演だった。
戦意高揚のために作られた映画「決戦の大空へ」の主題歌で
作詞の西條八十と作曲の古関裕而は
土浦海軍航空隊に一日入隊して曲作りのヒントにしたそうだ。

「若鷲の歌」は「予科練の歌」とも称される。
舞台は霞ヶ浦のほとりにあった土浦の航空隊。
多くのパイロットを育成した教育機関でもあったが
敗戦の年、1945年6月10日の米軍による空襲で壊滅し、
180名を超える戦死者を出している。

今話の舞台はその茨城県・土浦市。
土浦は10年ぶりの再訪になる。
その折は街を散策する機会に恵まれなかった。
仕事がらみで欧風レストランと韓国料理店で連食したあと、
駅前のボテルに一宿、翌朝の電車で東京に戻った。

今回、到着したのは14時すぎ。
さっそく進路を東にとり、霞ヶ浦へ向かう。
浦へ注ぐ桜川の土手沿いを歩いていった。
その名の通り、土手には桜並木が。
シーズンに訪れたらさぞ美しかろう。

川面に多くの水鳥たちを見ることができた。
数多いのは漆黒のカワウと純白のコサギ。
彼らは別段、黒白(こくびゃく)をつけようともせず、
のどかに共存している。
この平和主f義、どこかの国の指導者に見習わせたいものだ。

アオサギが岸辺で小魚を狙っている。
河口にはオオバンの番(つがい)が共泳している。
その真っ白な鼻筋は歌舞伎役者さながら。
体験したことはないが
ちょいとしたバードウォッチングを楽しんだ気分だ。

30分ほど歩いて霞ヶ浦に到着。
ときおり湖面から小魚が跳ね上がる。
近年、霞ヶ浦ではワカサギ・シラウオなど、
特産の魚種はその漁獲量が激減しており、
漁業生産者はエビ・アミ類に頼らざるをえないのが現状らしい。

代わりにのさばってきたのが
ブラックバスやキャットフィッシュ(アメリカナマズ)の外来種。
ナマズなんかは食味がよく有効利用されそうだが
ここに一つの問題があった。

=つづく=

2016年10月3日月曜日

第1460話 納豆はアンビバレント (その2)

何だって、ここで納豆が出て来るんや!
そうでしょう、そうでしょう、あまりに唐突ですもんネ。
実はJ.C.、この発酵食品が大好きでありながら大嫌い。
まことにアンビバレントな感情を抱いているのであります。

そもそも納豆を食べるのは朝食限定。
しかも炊き立てのごはんと一緒というのが絶対条件。
昼めし・晩めしの際には金輪際食べない。
居酒屋で目にするつまみ、まぐろ納豆・いか納豆の類いは
いまだかつて一度もオーダーしたことがない。
鮨屋の納豆巻きなんぞは嫌悪の対象ですらある。
第一、納豆巻きを供する鮨屋を真っ当な鮨屋とは認めていない。
余人の反感を買うことを承知のうえでの偏見である。

納豆のどこが嫌いかって、とにもかくにもあの匂い。
いや、臭いと書くべきか―。
朝食時、ごはんに乗せて食べてるぶんには
なかなかの風味なのだが食べ終えてしばらくすると
空気に触れることにより、イヤな臭いが発生してくる。
したがって納豆の容器だけはスグに下げて洗ってしまう。

いつぞやは文京区にある、
白山神社前のパスタ屋でヒドい目にあった。
カウンターの隣りの席のサラリーマンが
何と、納豆スパゲッティの大盛りをかき込んでいた。
その臭気たるやすさまじく、こちらの食欲は大減退。
こらえきれずに昼食を中途で切り上げる破目に―。
世の中に嫌煙権があるのなら
嫌臭権があってしかるべきではないか。

でも不思議なんだよねェ。
和食の朝めしには、そうしょっちゅうではないにせよ、
無性に納豆が食べたくなるんだよねェ。
ほかには熱い味噌汁、それも油揚げと絹さやがいいな。
あとは、きゅうりかなすの浅漬けがあればそれでよい。

何でまた納豆について一筆したためたのかというと、
近頃、その品質の劣化に不満を抱いているからだ。
殊にスーパーでもコンビニでも簡単に手に入る、
トップメーカーのモノがいけない。
豆が柔らかすぎたり、いくらかき混ぜても糸を引かなかったり、
こりゃ不良品じゃないかと疑うことすらある。

奮発(といってもタカが知れているけど)して
高級品を買い求めても肩透かしを食ってばかり。
その中で気に入っているのは
栃木県・宇都宮市のあづま食品の小粒納豆・舌鼓で
ここ数ヶ月はこれ一本やりだ。

脇役は、練り辛子・きざみねぎ・生醤油が三種の神器。
欲しくもないのに必ず付いてくる、
化調まみれの”たれ”は絶対に使いまっしぇん。