2018年2月28日水曜日

第1817話 チキンライス・アゲイン (その2)

杉並区・西荻窪の「夢飯」にいる。
シンガポール産ラガービール、「タイガー」で乾杯。
注文したのは
海南チキンライスとマレー風カレー&ロティ。
それにご当地料理のオタオタ。

最初にオタオタが登場。
サカナのすり身をバナナの皮で包み、
蒸し上げたものだ。
レモングラスの香りがサカナの匂いを和らげて
なかなかオツである。

チキンライスはさすがに本格的。
しかも当日は末尾が 0 or 5 の日に当たり、
ライスが日本米からジャスミンライスに変わる日。
いや、うれしいネ。

加えて中国醤油・レッドチリ・生姜汁の3点ソースもバッチリ。
野菜のピクルスまで添えられていた。
大塚とは打って変わり、
肝心の蒸し鶏は旨みじゅうぶんのシットリと仕上げ。
素晴らしいとは言わないまでも合格点を差し上げたい。

マレー風カレー&ロティは「ラムリ」の稿でもふれたが
マイ・フェイヴァリット、こちらにも及第点。
本当はシンプルなカレーソースで
ロティ・プラタの素朴な味を楽しみたいんだけどな。
とまれ、大塚の敵(かたき)を西荻で討ち果たせり。

時は過ぎてその日の夕刻。
いまだ西荻を離れられずにいた。
あっちゃこっちゃフラフラした挙句、
たどり着いたは地蔵坂の「葉地(はち)」なる和食店。
東京女子大の近くに店はあった。

さっそくの1杯はサッポロ黒ラベル。
真っ先に所望したのは鯛塩辛&クリームチーズ。
実はJ.C.、かつおの酒盗は得意としない。
いか塩辛もそれほど好まない。

しかしながら真鯛の塩辛、
そして真鯛の真子の塩辛は大好きで
これは母親ゆずり。
せっかく出会った稀少な鯛塩辛、燗酒に切り替えなきゃ。
上喜元の本醸造を上燗でお願いした。
チョコッとつまんでニンマリ、クイッと飲ってニッカリ。
傍目にもシアワセそうなオッサンがそこにいた。

酢の浅い〆さば、丁寧に焼かれた真鯛のカマ、
どちらも申し分ございやせん。
う~ん、良い店だネ、ここは―。

酒盃を重ねた末、順序があと先の感ある冷奴を。
何でも千葉県産の”月のとうふ”使用とやらで
粗塩・きざみねぎ、そしてオリーヴオイルのあしらい。
ふ~む、素性を明らかにするだけのことはあるネ。

JR中央線沿いの首都圏内では一番好きな西荻窪。
今回もこの町に対する愛情の深さを
あらためて認識した次第にござんす。

「夢飯」
 東京都杉並区西荻北3-21-2
 03-3394-9191

「葉地」
 東京都杉並区西荻北4-32-12
  03-5382-0443

2018年2月27日火曜日

第1816話 チキンライス・アゲイン (その1)

二月としては穏やかで
ときおり陽が射す好日の正午過ぎ。
東京メトロ丸ノ内線の終着駅、荻窪に降り立った。
進路を西に取って歩みを進める。
荻窪から西に向かって20分も歩けば、
そこは西荻窪の町である。

途中、善福寺川を渡りながら川面に目を落とすと
番(つがい)のカモがが仲睦まじい。
小室サンと真子サマの如しだ。
あまり見慣れない小柄なカモである。
オスの茶色い頭を記憶にとどめて
帰宅後、調べてみたらコガモだった。

2羽のコガモのほかにはセキレイが1羽。
飛び跳ねては着石するたびに
尾羽が小刻みに上下に揺れる。
コガモもセキレイもカワユい。

ここに突然、水面を滑空する無粋者が現れた。
その姿は全身真っ黒けのけ。
浅い流れは潜水に不向きだし、
大した獲物もいなかろうに・・・
そう思うのだが、とにかく1羽のカワウが飛び去った。
不忍池に帰るのかもしれんネ。

JR中央線・西荻駅で相方と待合せ、
向かったのは北口の「夢飯(ムーハン)」。
シンガポール名物、海南チキンライスの専門店だ。
ちょうど1週前、大塚の「ラムリ」で外しに外し、
その弔い合戦の意味も多少ある。

店先に行列はないが10人近くがたむろしている。
ウェイティング・リストに名前を書き込むシステムにつき、
列は形成されない。
われわれも記名し、界隈の散策に及んだ。
順番を飛ばされるリスクは多少あるがネ。

おう、おう、かつ丼で有名な「坂本屋」には5人の行列。
その向かいの「ソーセージハウス もぐもぐ」も
繁盛している様子でまことにけっこう。
駅前の老舗「WINE&FOODS 喜久屋」は
建物老朽化のため、2月末で閉業する由。
(2月末って明日じゃないか!)

「夢飯」に戻り、待つこと数分でカウンターに案内された。
当店の最終訪問は2007年2月、実に丸11年ぶりだ。
少なからず店内の様子が変わった。
スタッフは女性ばかりで5~6人。
以前はみんな男だったような気がする。
隔世の感否めずの巻である。

=つづく=

2018年2月26日月曜日

第1817話 府中なる神社の隣り (その2)

「直会スタンド 宮」のカウンターに独り。
府中で飲むのは初めてのことなのだ。
壁に見つけたのは”神社拝”の貼り紙。
ジンジャハイと発音するのだろうが
ジンジャーハイ、いわゆるジンジャーハイボールだネ。

もう1枚、そそられた貼り紙は
”府中の農工大で栽培原料使用の焼酎”
である。
品書きをよくよくみれば、賞典禄なる銘柄なり。

麦と芋が揃っており、麦は大麦のさやかぜ、
芋はパープルスイートロードが原料とある。
ともにショットで450円。
ロックで1杯づつ、いただいた。
つまみは自家製ハーブオイルに漬けたドライトマト(200円)。
意外な品目ながら賞典禄との相性はよい。

その間にも客が入れ替わり立ち替わり。
けして立て混むというのではなく、
上手い具合に回転している感じ。
立ち飲みテーブルが二つほどあるが
詰めても十数人入ればいっぱいだろう。

切盛りするのは店主とアルバイト(?)の女性の二人。
店主が揚げものなどの調理、
女性が作り置きのつまみと飲みものを担当している。

45分ほどの滞在で店をあとにした。
支払いはその都度のキャッシュ・オン・デリバリーなので
あとから暗算してみたら2240円だったと思われる。
焼酎は安くないし、肴類にしてもチョコチョコつまむと
それなりの金額になる。
でも、また来たくなる「直会スタンド 宮」であった。

2軒目は同じ並びの数軒先にある「ビアハウス ケン」。
ビール専門の立ち飲み酒場だ。
客が冷蔵ケースから好みのボトルを取り出すシステムだが
本日の生ビールもある。

その日は<国産>が金鬼ペールエール。
北海道の鬼伝説のビールとあった。
そんな昔からビールは飲まれていたのかい?
<海外>はヴラスコップ。
ベルギーのヴァイス(白)ビールだ。
ヴァイスの原料は大麦ではなく小麦。
軽く白濁して、さわやかな酸味が特徴だ。
ハーフパイントが350円、こちらを1杯だけいただいた。

当店でも壁の貼り紙に目がいった。
”泥酔禁止! とことん飲みたい方は飲食店へ!”
ハハハ、ここは飲食店じゃないってこった。
初飲み府中は立ち飲み府中に終始したものの、
楽しくも孤独な夕暮れどきをすごすことができました。

「直会スタンド 宮」
 東京都府中市宮町2-3-8
 042-306-9030

「ビアハウス ケン」
 東京都府中市宮町2-3-8
 042-369-7710

2018年2月23日金曜日

第1816話 府中なる神社の隣り (その1)

ある日の午後、京王線・府中駅に降り立った。
大化の改新(645年)後、
武蔵国の国府が置かれた府中である。
その頃、現在の東京都心は
ひなびた漁村・農村にすぎなかったであろう。

競馬に興味がないから
日本最大の府中競馬場(東京競馬場)に行ったことはない。
世間に悪さをしないから
日本最大の府中刑務所に入ったこともない。

人がぎょうざん集まる祭りもあまり好きじゃないから
大國魂神社のくらやみ祭も見たことがない。
そんな男が府中に現れた。
いえ、べつにフチュウ意からではなく、
一杯飲るために・・・でありました。

訪れたのは「直会スタンド 宮」。
直会は”なおらい”と読む。
では直会とは何ぞや?
ブリタニカ国際百科事典によれば、

神祭りの終了後,司祭者と氏子のおもだった者が
神供を降ろして共同飲食することをいう。
相嘗 (あいなむ) るの意のナムリアイが
ナウリアイとなまり、さらにナオライに転じたという説もあり。

ということだった。

大そうな店名だがスタンドとあるようにここは立ち飲み酒場。
何を名乗ろうと店主の勝手だし、
大國魂神社のすぐ隣りに位置しているから
さもありなんと納得できるものがある。

ビールはサッポロラガー、赤星の中瓶。
つまみは穴子と狐の甘煮(280円)だ。
狐はご存じ油揚げ。
うるいの青い部分が少々に柚子皮が1片。
なかなかにシャレている。

庄内あさつきの天ぷら(200円)もオツなものである。
つまみ類がずいぶん安いと思われようが
小皿にホンのちょっぴりなのだ。
多種を少量づつ、つまみたいJ.C.には好都合ながら
ボリュームにこだわる向きは
皿を投げつけたくなるかもしれない。
そこはグッとコラえてつかあさい。
塩もつ煮ハーフ(200円)なんざ、二箸でおしまい。
ウチの猫なら5秒で完食だろう。

壁に面白い貼り紙を見つけた。

=つづく=

2018年2月22日木曜日

第1815話 人生ワーストのチキンライス (その2)

南大塚の東南アジア料理店「ラムリ」にいる。
チャージされるのかサービスなのか判然としないが
干し小魚入りのピーナッツ、エビせんがテーブルに―。
あんまりうれしくないけれど、ベター・ザン・ナッシング。

最初に大根餅をオーダー。
英語ではキャロットケーキと呼ばれるが
にんじんは使われない。
大根(ホワイトキャロット)、玉子、小麦粉を
油で炒めたローカル・スナック的存在だ。
現地ではチャータオクエと称される。
耳で聞きおぼえた発音だから自信はないけどネ。
この大根餅に手作り感はさらさらなく、いきなり外した。

あらかじめ狙いを定めていた海南チキンライスと
マレーシア風チキンカレー&ロティ・プラタをお願いする。
ところがどちらも大外し。
まずチキンライスだが肝心のチキンがパサつくうえに
味も香りもどこかへすっ飛んじゃってる。
まるで出汁殻だネ。

本場では中国醤油・レッドチリ・生姜汁の3点ソースが
必要不可欠なのに
デフォで醤油がチキンに掛けられているだけ。
しかもその下にはボリュームアップのためか
茹でたもやしがドッサリ。
海南チキンライスにもやし?
生まれて初めて見たぜ。
とにかく我が人生、最悪のチキンライスがそこにあった。

カレーのほうも感心しない。
赤いパプリカなど余計な野菜が入っているし、
前述のごとく鶏肉自体が不味い。
出来合いのロティ・プラタだけが現地に近いものの、
これだって手造りならば、はるかによい。

実はJ.C.、このロティ・プラタが大好き。
シンガポール滞在時はよく朝食とした。
シンプルな具ナシのカレーソースに浸して食べる、
その美味しさは今も忘れられない。

あとで判ったことながら
「ラムリ」のスタッフはシンガポール系じゃないネ。
おそらくメインランド・チャイナだろう。
中華料理の亜流くらいのつもりで
調理しているとしか思えないフシがある。

まったくもってK枝サンに対する面目は丸つぶれ。
お詫びの印に近々、埋め合わせを余儀なくされた。
リクエストは焼き鳥である。
いいでしょう、いいでしょう、汚名挽回とまいりましょう。

「ラムリ」
 東京都豊島区南大塚3-48-11
 03-6883-8485
 

2018年2月21日水曜日

第1814話 人生ワーストのチキンライス (その1)

今は昔、1980年代半ば。
シンガポールに4年ほど赴任していた。
当時より交友していた、
なが~い友だちのK枝サンと久しぶりの夕食。
せっかくだからシンガポール料理を食べましょう。
そんな流れも自然の成り行きだった。

彼の地の国民食は海南鶏飯。
ハイナネーズ・チキンライスと呼ばれる。
タイ料理のカウマンガイとほぼ同じだ。
都内で供する店も次第に増えてきて
六本木、中目黒、神保町、西荻窪あたりの専門店を
何度か利用している。

落ち合ったのは豊島区・大塚の「ラムリ」。
お互いに初訪問である。
待合せまで余裕があり、例によって行き掛けの駄賃、
小一時間、近くの居酒屋で独り飲みに及んだ。

「伊勢元」は都内あちこちに散在している。
「三州屋」と同様にチェーン展開ではなく、
暖簾分けだろうから、独立採算制をとっているハズ。
刺身・焼きもの・揚げものなど、
和食全般に渡る豊富なつまみ類が自慢だ。

ここ大塚店は珍しくも焼きとんが主力メニューだった。
生ビールの中ジョッキを所望すると
突き出しは高野豆腐・いんげん・にんじんの煮もの。
高野豆腐は好きな食材ながら、
野菜は火の通しすぎでクッタリ、あまり箸がすすまない。

シロとレバをタレで1本づつ。
シロは下ごしらえ浅く、なかなか噛み切れない。
ビールで流し込もうとするも、いつまでも口中に残る。
こりゃ、歯の悪い老人にはムリがあるな。
反してミディアム・レアのレバはなかなかだが
なぜかレバには白胡麻が散っている。
余計だ、いや、ジャマだ。

酎ハイに切り替えた。
氷抜きの琥珀色は天羽の梅入りだろうか?
半月切りのスライスレモンが浮かんでいる。
生モノは、かつおたたき、〆さば、たこ酢の3品。
みな390円だったかな?
次があるので早めにお願いした勘定は1260円。
まずまずの駄賃と言えよう。

北大塚から南大塚に移動。
「ラムリ」は天祖神社の並びにある。
K枝サンはすでに到着しており、
手ぐすねを引いていたが下戸につき、
乾杯のビールが精一杯。
こちらも今宵はビールだけにしておこっと―。

=つづく=

「伊勢元」
 東京都豊島区北大塚1-33-20
 03-3918-4646

2018年2月20日火曜日

第1813話 江戸川越えて市川&本八幡 (その3)

千葉県・本八幡の「馬越」。
隣りに座ったオッサンにいきなり肥を掛けられ、
もとい、声を掛けられ、振り向いた単身女性。
驚かせちまったかなとも思ったが
意外な言葉が返ってきた。

「飲んでみます?」
「えっ! いいんですか?」
「どうぞ」
「んじゃ、一口だけ」

ん? やっぱり漬けしょうがだヨ。
だけど、けっして旨いもんんじゃないネ。
訊けばガリ酎というんだそうだ。
しっかし、見ず知らずのオッサンに
よく味見させてくれたもんだな。

ガリ酎をキッカケとした二人の会話は続く。
本八幡在住の彼女は
界隈の飲み屋に精通している様子だ。
流れで判明したのはお名前がT子サンで
長野県・上田市のご出身。
そちらが上田市ならこちらは長野市。
ここからハナシが急速に盛り上がる。

黒ホッピーの(中)をお替わりし、
お次の瓶ビールはサッポロの赤星。
その後、レモンハイやら、そこにクエン酸を加味した、
”すっぱレモン” と、ずいぶんグラスを重ねてしまった。

結局は薬局、彼女の行きつけで飲み直すこととなる。
訪れたのは徒歩1分の「わさび」。
ワインバーの居抜きみたいな店は”酒肴蕎麦”を名乗る。
金宮の酎ハイで再乾杯。
突き出しの煮ごぼうには擂り胡麻がまぶしてある。

つまみは真鱈の白子ポン酢&かきの天ぷら。
どちらも一介の居酒屋のレベルではない。
他人をとやかく言えるガラじゃないが
ちょいとクセのある店主は歯に衣着せぬ物言い。
それでもカウンターの客は常連ばかりだ。

すぐに彼女の金宮ボトルは底をつき、
ニューボトルをお入しれて差し上げる。
いやはや、なかなかの酒豪だねェ。
とにかく二人ともよく飲むわ。

ふと気がつけば時計は23時半を回っていた。
最終電車にはまだ間があるものの、
そろそろ帰宅の途につかなくちゃ―。
連絡先の交換もないままに辞去したが
本八幡でハシゴしてれば再会の機会もあろう。

駅までの数分間、
頭の中で裕次郎と川中美幸の歌声が響いていた。

  ♪    帰ろうよ 灯りも消えた
     逢えるじゃないか またいつか  ♪

=おしまい=

「大衆酒場 馬越」
 千葉県市川市南八幡3-2-7
 電話ナシ

「酒肴蕎麦 わさび」
 千葉県市川市南八幡3-5-5
 電話ナシ

2018年2月19日月曜日

第1812話 江戸川越えて市川&本八幡 (その2)

この土・日は柄にもなく、ハラハラドキドキ。
理由はもちろん羽生&小平だ。
とにもかくにもホッと一息、よかった。

さて、JR総武線・市川駅そばの「朝日屋」。
焼きとん&焼き鳥主体の居酒屋である。
よほどの信頼感が生まれないと、
めったに頼まぬ刺身ながら
ここなら大丈夫という感じはしていた。

生モノは黒鯛とうまづらはぎ、それに〆さば。
皮はぎ類には目がないので迷わずうまづらを―。
おっと、薄切りが8枚ほどに肝もたっぷりじゃないの。
臭みと無縁の新鮮な肝がうれしい。
1人前450円なのに穂紫蘇まで添えられている。
じゅうぶんに楽しんだ。

生ビールをお替わりして焼きとんに移行する。
振り塩軽めのタンとカシラから。
どちらもかなりのレベルで殊にカシラが秀にして逸。
市川にこんな店があったとは驚きだ。

レバーをタレ、焼き鳥のボンジリを塩で追加。
これもいいや。
タレはアッサリとして
ここ以上に薄味のタレは記憶にないくらい。
ボンジリは櫛切りのレモンとともに供された。
炭火じゃないのに実に旨い。

3杯目はデンキブラン。
コイツを飲ると浅草にいる気分になる。
とにかく市川に来たら必訪の1軒を見つけた。
いや、「朝日屋」のために市川に来る価値ありだ。

駅に戻って本八幡へ移動。
目当ては大衆酒場の「馬越」である。
うわっ、混んどるな。
混んどる、コンドル、コンドルは飛んでゆく。
コの字カウンターの中を独りで仕切る太目のオニイさんが
先客を詰めさせてスペースを作ってくれた。

ここでは黒ホッピーと串カツをお願い。
右隣りの女性客がアイコスをくゆらせている。
どうやら単身の様子だ。
ナンパしちゃおうか?
ハハ、冗談、ジーダン、マイケル・ジョーダン。

すると、彼女が世にもキテレツなドリンクを注文。
うわっ、何だよコレ!
ジョッキの酎ハイの中に漬けしょうみたいなのが
これでもかとばかりに投入されている。
鮨屋でおなじみの漬けしょうが、
いわゆるガリだがJ.C.はガリなる呼び方を嫌う。

考える間もあらばこそ、つい口が先に出てしまった。
「いったい何ですか、ソレ?」

=つづく=

「朝日屋」
 千葉県市川市市川1-2-1
 047-326-5931

2018年2月16日金曜日

第1811話 江戸川越えて市川&本八幡 (その1)

上野公園で所用を済ませ、JR上野駅の改札を通った。
今宵は”こち亀”の亀有でハシゴの予定。
候補を3店に絞り、いざ出陣の巻である。
広小路近くのメトロ千代田線・湯島駅を利用すれば、
一本で行かれるものの、何となく常磐線に乗りたくなった。
これだと北千住で乗り換えが必要なのにネ。

プラットフォームに降りると、
ダイヤの乱れで15分以上も待たねばならない。
木枯らしに吹きざらされるのはイヤだなァ・・・。
こういうケースはすみやかに予定変更の方向転換が賢い。

秋葉原で総武線に乗り換え、向かったのは千葉県・市川。
しばらく訪れていないが、この町には少なからぬ縁がある。
最初は1970年代初め、そして1990年代の終りだった。
GFの住まいがあり、”君棲む町”へとよく通った。
まっ、そんな思い出話を語っても仕方ないから先を急ぐ。

駅から徒歩2分の「朝日屋」なる居酒屋に入店する。
日本そば屋みたいな屋号だが市川では指折りの佳店だという。
カウンターとテーブル合わせて20名は入れようか―。
5席だけのカウンター、その左端に落ち着いた。

落ち着いたといっても接客通路の脇でしかもトイレのそば。
目の前ではTVの大画面が相撲中継を流している。
おかげで栃ノ心が優勝する瞬間をライブで観ることができた。
僥倖なり。

栃ノ心といえば同じ春日野部屋に属した昭和の名横綱、
栃錦は隣り町の小岩出身。
改札口の前には銅像まであるもんネ。

画面の脇には映画のポスターが
これまたデカデカと貼られている。
東映スコープの「金獅子紋ゆくところ 魔境の秘密」は
 1958年末に劇場公開された。
この年の正月に大ヒットしたのが
裕次郎の出世作、「嵐を呼ぶ男」だ。

「魔境の秘密」の主演は
今も活躍している里見浩太朗(当時は浩太郎)。
人気TV番組「水戸黄門」では5代目・水戸光圀を演じた。
それに花園ひろみ。
この人は同期デビューした山城新伍と二度結婚し、
二度離婚している珍しい履歴の持ち主だ。
J.C.にとって東映のお姫さまスターは
花園ひろみと丘さとみが双璧である。

わっ! 悪役の両巨頭、吉田義夫と原健策も出てるヨ。
殊に吉田義夫は幼稚園生の頃に観た、
中村錦之助のチャンバラ映画によく出ていて
子ども心にすっごく怖かった。
後年は寅さんシリーズで旅回りの芝居一座の座長や
冒頭の夢シーンに登場したりもした。
ちなみに市川市の北に隣接する松戸市は
江戸川をはさんで葛飾・柴又と相対している。

サッポロの中ジョッキを傾けながらつまみの吟味に入った。

=つづく=

2018年2月15日木曜日

第1810話 美女応援団 ロシアに現る! (その2)

満員御礼のロシア料理店「海燕」に4人。
ショットグラスに注がれたウォッカを
おのおの口元に運びながらオーダーを通してゆく。
それにしてもこれだけの客をベテラン・シェフと
バイトの女の子の2人でさばくのだから
並大抵の労苦ではなかろうに―。

セリオトカ&カルトーシカ(1200円)はわが好物で
ニシンの酢漬けとゆでたじゃが芋のコンビネーション。
マリノーバ・ヤケタ(1200円)がスモークサーモン。
クリスナヤ・イクラ(1500円)はそのままイクラ。
もちろん醤油漬けなどではなく、
塩漬けで日本のものと差異はない。
ベーレツ(700円)はにんじんを詰めたピーマンである。
以上4品に加えて必食のブリヌイ、
いわゆるそば粉のパンケーキと自家製ライ麦入り黒パンを。

すると接客係の女の子曰く、
「すみません、今日はブリヌイできないんです」―
おい、おい、またもやフラれかや。
読者の中には黒パンがありゃ、
パンケーキは要らないんじゃないの?
そう思われる方もおられよう。

でもネ、脇役のブリヌイはある意味、最重要の一品なんですわ。
コレがないと、サーモンやイクラの魅力が半減する。
できない理由は多くの客が同時に押し掛けたから
シェフの手が回らないことのようだ。
「レバンテ」で生かきに固執したごとくシェフに交渉をお願いすると、
1時間ほどして手が空いたらという合意をもらった。
よってイクラはブリヌイと一緒に運んでくれるよう、
メンバーにはサーモンを一切れづつ残すよう、司令した。

ザクースカをストーリ(ストリチナヤの俗称)で堪能する。
殊に1時間後、
スメタナ(サワークリーム)をたっぷり塗ったブリヌイで
イクラとサーモン(親子だネ)をくるりと巻いたヤツなんか
日本の愚かなる悪習の産物、
恵方巻なんぞと比べようもないほどの美味であった。
もっとも恵方巻を食したことは一度もないけどネ。
あんなん食ってシアワセになれるほど人生は甘くないぜ。

スペインの赤ワイン、コロナス’12年を抜栓してもらう。
ここからは温かい料理だ。
牛ヒレ肉のビーフストロガノフ、
グルジア(ジョージア)風羊肉串焼きのシャシーリク、
それに応援団がどうしても食べたいと、
ダダをコネたボルシチ&ピロシキを追加する。
これだからお子ちゃまは困るヨ。

いや、食った、食った、飲んだ、飲んだ。
この顔ぶれの晩餐会は常に楽しい。
器量はともかくもそれぞれに良い性格の持ち主だからネ。
今回もみなさん集まってくれて、カムサハムニダ!
じゃなかった、スパシーバ!

「海燕」
 東京都文京区本郷4-28-9
 03-6272-3086

2018年2月14日水曜日

第1809話 美女応援団 ロシアに現る! (その1)

平昌冬季五輪たけなわ。
予想通りとはいえ、女子スケート陣の活躍は歓ばしい。
しっかし、開幕前後のTVは北朝鮮の美女応援団一色。
猫も杓子もそればっかりだ。
国技・相撲のあとはノース・コリアンってか!
こういうことを言うと、また非難されそうだが
まったくもって日本のメディアは馬鹿丸出しである。

さて、平昌開幕の10日ほど前だった。
美女応援団がロシアに現れている。
いえ、北朝鮮じゃなくって日本の応援団がネ。
それも正しくはロシアじゃなくってロシア料理店に―。

半年に一度ほどのペースで集まり、
飲んで食って歌う美女3人。
いや、美女と呼ぶには多少の無理がありますけどネ。
とにかく今回の会場は本郷菊坂下の「海燕」である。
店名はロシアの作家、マクシム・ゴーリキーが
1901年に発表した詩、「海燕の歌」に由来している。

彼女たちのたっての望みでロシア料理に決定したのだ。
つらつらと思い出すに今まで訪れたのは
浅草のお好み焼き屋、駒込の海鮮中華、王子の大衆酒場、
後楽園のフレンチ・ビストロ、西日暮里の鉄板居酒屋、
などなどである。

18時の開店と同時になだれ込み、
さっそくロシアのビール、バルティカNo3で乾杯。
軽い口当たりは日本のどの銘柄よりもスッキリしている。
デンマークのカールスバーグに似ており、
北欧タイプと言っていいかも。

先陣を切ったのはわれわれだが
続々と客が詰め掛け、テーブルがどんどん埋まってゆく。
さして広くもない店内はアッというまにワイワイガヤガヤ。
そのほとんどが、もとい、J.C.以外はみな女性だ。

ビールのあとはロシアン・ウォッカのストリチナヤを
オーダーしたものだからJ.C.にとっては
酒池肉林の大盤振る舞い、てなことになった。
独りで全員こなすのはミッション・インポッシブルなりけり。
(ナニ、考えてんだか―)

美女たちのリクエストに沿いながら選択してゆく。
ロシア料理はザクースカと呼ばれる、
冷たい前菜が必注中の必注。
これなくしてロシアン・キュイジーヌの真髄に
ふれることはできない。
なぜなら温製料理は冷えたウォッカに合わないからだ。

=つづく=

2018年2月13日火曜日

第1808話 フラれぐせがついちゃいまして・・・ (その3)

こよなく愛する的矢湾産生がきに袖にされ、
それでも火を通されたソレを食べ継ぐ。
燻製のマリネにフライと、かきモノを連続していただき、
締めには定番のかきピラフをお願いしてある。

相方に好きなモノの注文を促すと
彼が選んだのはサーモンのチーズ焼き。
適度な焦げ目をまとった姿は
一見、サーモンステーキ風である。

こちらは箸をつけなかったので
お味のほうは何とも言えぬが
ここで突然、ある記憶がよみがえった。
たまたま旧友から聞いた笑い話だ。

もう20年以上も前、博多出身の彼と博多で
博多ラーメン(長浜ラーメンじゃないヨ)を食べてたとき。
その日の晩は肉でもガッツリ食べようか?
てなことになり、話題はビーフステーキに―。

彼が初めてステーキを口にしたのは
かつて銀座にあった仏料理店、
「コック・ドール」だったとのこと。
メニューにステーキと名の付くものは1種のみで
しかもワリと安かったため、即注文したそうだ。

テーブルに運ばれた一皿に彼は言葉を失った。
なぜならシャケの切身が目の前に横たわっていたから―。
メニューにはサーモンステーキと記されていた由。
サーモン=鮭、これが理解できなかったんだ。
いや、笑いました。

J.C.の「コック・ドール」デビューは1969年。
紅顔の高校三年生だった。
クラスメートと伊豆大島に旅した帰り、
竹芝桟橋から銀座に乗り込んだ。

注文は四人揃ってポークカツレツ。
本当はライスを食べたいのに
無理してパンなんかお願いしちゃってネ。
人生初体験の高級レストランがここだった。

そんなこんなを回想しながら
サーモンのチーズ焼きを平らげる相方をながめていた。
ここでハッと思い当たった。
再び前述した松本清張の「点と線」である。

殺人事件の犯人が東京駅のプラットフォームにて
目撃者に仕立て上げる料亭の仲居二人。
「レバンテ」でお茶を一喫したあと、
彼女らを夕食に伴うのが何たる偶然、
「コック・ドール」なのであった。
こちらも小説に実名で登場している。

しっかし、こんなこともあるんだねェ。
S口クンがサーモンなど頼まなければ
たどれなかった記憶の一すじ。
人生は実に小説より奇なり。
かきのピラフに舌鼓を打ち、
みちのくに帰る彼と握手を交わして別れました。

=おしまい=

「レバンテ」
 東京都千代田区丸ノ内3-5-1
 03-3201-2661

2018年2月12日月曜日

第1807話 フラれぐせがついちゃいまして・・・ (その2)

三重県・的矢湾産の極上かきを
冬場のウリにしているビヤレストラン「レバンテ」。
十数年ぶりに再会したS口クンと
卓を挟んで生ビールを飲み始めた。

訊いておきたいことは間髪入れずに訊く性分、
さっそく鼻の頭に残った傷痕の由来を質すと、
何のこたあない、木工細工の作業中に
轆轤(ろくろ)から木片が飛んできたんだとー。
とにかく喧嘩(でいり)でなくてよかった。

さて、的矢の生がきをいただくとしますかの。
1人3個づつで計半ダース、注文に及ぶと、
ウエイターのオニイさんの口から
思いもよらぬセリフが飛び出した。

「すみません、生がきのご提供は
 12月いっぱいで終了させていただきました」―
あっけにとられて言葉がとっさに浮かばない。
いえ、口には出さぬが胸の奥で叫んでいたネ。
(アン〇ァッキング・ビリーヴァブル!)と。

三月末ならまだしもシーズンたけなわの年末に
メニューから外す暴挙を看過すること能わじ。
年を越えてこれからプックリ太ってくる矢先に
何てことしてくれるのサ。

代わりに数年前から都内に侵食してきた、
浜焼きなんぞを推奨されても
振り上げた拳は宙に浮いたまま。
ここで素直に引き下がるJ.C.ではない。
執拗に食い下がったネ。

「自己責任でけっこうだから
 何とか生で食べさせてくれとシェフに交渉してみて」―
懇願すると、困惑に眉を寄せたオニイさん、
仕方なく厨房に向かう。
無言のうしろ姿なれど、
おそらく彼も胸の奥でつぶやいていたろう。
(やれやれ)と。

結局は薬局、返された答えはノー!でありました。
代替品の浜焼きは火の通し浅く、旨みじゅうぶんながら
生を求めて来店した身には隔靴掻痒の感否めず。
不完全燃焼がくすぶり続ける。

まったくもってこのところ、
何処へ行ってもフラれているヨ。
中でも的矢の生がきにフラれた痛手は
ほかとは比べようがないほど大きいものがあった。

=つづく=

2018年2月9日金曜日

第1806話 フラれぐせがついちゃいまして・・・ (その1)

カレー店、食堂、小料理屋に
三連続でフラれたその翌週であった。
日本橋の日本そば屋で軽い昼食を済ませ、
京橋から銀座へと歩いてきた。
寒がりではないから普通人より薄着のJ.C.だが
いや、この午後は寒かった。

帝国ホテルのロビーでビールの小瓶でもと
やって来たら順番待ちの人々多数。
かといって、すぐにオモテに出たら
再び木枯らしにさらされる。

とりあえず地下のトイレを借用し、
そのままショッピング・フロアをぶ~らぶら。
断っておくが、この際のぶ~らぶらは
タンタンたぬきのぶ~らぶらとは異なるので念のため。
(何か最近、シモネタ多いな、反省しまッス)

この日は旧知の若き友人と晩メシの予定。
相方はむかし一時期、銀座で一緒にシゴトをしたS口クン。
彼は現在、生まれ故郷の岩手県・洋野町で
木工細工の職人として働いている。
洋野町は岩手県沿岸部の最北端に位置して
県庁所在地・盛岡よりも青森県第二の市、八戸にずっと近い。

有楽町は東京フォーラムの「レバンテ」で待合せ。
冬場は三重県・的矢湾の牡蠣がウリのレストランとなる。
J.C.の大好きな店は通い始めて40年にもなろうか。
かつては駅の反対側でイトシアの辺りにあり
古く良かりし昭和の空気が濃密に漂っていた。
松本清張の出世作「点と線」の冒頭にも実名で登場している。

集合時間にまだ余裕があった。
同じ有楽町のビルの地下にある立ち飲み酒場で
この寒いのに冷たいビールを飲んで過ごす。
宵が浅いせいだろう、店内は閑散としている。
けだるい時間だけが流れてゆく。

昨秋、再び移転を余儀なくされた「レバンテ」。
といっても東京国際フォーラムの2階から
地下のコンコースへ至近距離の移動だ。
ところがこれが判りにくい。
東京駅とのあいだに新設されたコンコースは
界隈に慣れていてもかなりマゴつく。

およそ10年ぶりの再会をはたした。
彼の風貌はそんなに変わっていないが
鼻の頭の傷跡が目に入った。
ちょいとヤバいヨ。
職人は気が荒いっていうけど、
まさか刃傷沙汰じゃないだろうな。

=つづく=

2018年2月8日木曜日

第1805話 カニでも食おうカニ? (その2)

カレーにフラれて蟹炒飯を食べ、理髪に向かう。
年明けにつき、店主から灘の銘酒を1杯振る舞われた。
めでたし、うれし。
カット&シャンプーは1時間足らずで整った。
はて、身の振り先を何としょう?

サロンはただ今再建中の渋谷区役所前。
その脇の小さなロータリーに
コミュニティ・バスの停留所があり、
ここは始発にして終着のバスストップなのだ。

台東区や文京区のバスはときどき利用するが
渋谷区では乗ったためしがない。
いっちょう、身をまかせてみるか―。
幡ヶ谷や笹塚方面に行くバスに乗り込んだ。
女性の運転手さんが「あと10分ほどで発車しまぁす!」
ほかに乗客はいないから、J.C.のためだけのアナウンス。
「ハイ」蚊の鳴くような声で応えた。

バスは幹線道路だけでなく、裏道もスイスイと抜けてゆく。
四半刻も走ったろうか・・・笹塚駅前に到着。
そうだ! ここには「ときわ食堂」があったな!
一度だけしか訪れていないが好印象を持っている。

ところが行ってみたら何と定休日。
何だヨ~、よくフラれる日だぜ、ったく。
しばし思案の末、ひらめいたのは幡ヶ谷の「のっこい」。
みちのく出身の女将が切盛りする小料理屋である。

ひと駅歩くもシャッターは閉ざされていた。
ありゃ~、ツブれちまったんか!
茫然と立ち尽くすも貼り紙に気づく。
何のこたあない、いまだ長い正月休み中だとサ。
本日3発目のフラレ・パンチときたもんだ。

ことここに及び、笹塚・幡ヶ谷に見切りをつけた。
改札を通ったのは都営新宿線・幡ヶ谷駅である。
反対側だと、調布・高幡不動方面に行っちゃうから注意。
電車は無事、新宿を経て曙橋を過ぎてゆく。

またもやひらめいたのはJR神田駅そばの「三州屋 駅前店」。
ヒントはランチで食べた、かにチャーハンだった。
カニつながりで、ここのかにサラダ(1300円)を思い出した。
久しぶりにいただくプレートはトマト・レタスの野菜がたっぷり。
酸味ひかえめの自家製マヨネーズが舌にやさしい。
この1皿と突き出しのいか塩辛だけで
サッポロ黒ラベルの大瓶を2本空けちゃったヨ。

さらにもう1軒と行きたいところなれど、翌日も飲み会。
今宵は自重しておこう。
2018年、今年は自重をモットーにして過ごそう。
今までJ.C.の辞書にはなかった文字だからネ。

「三州屋 神田駅前店」
  東京都千代田区内神田3丁目22-5
  03-3252-3035

2018年2月7日水曜日

第1804話 カニでも食おうカニ? (その1)

渋谷区は富ヶ谷から神山町、俗称・奥シブを歩いていた。
理髪のため、ヘアサロンに向かったのだが
予約は中途半端な午後3時。
その前に遅いランチを食べとかなきゃ。
目指したのは道玄坂上のカレー店だ。

食べもの屋の前で立ち止まっては
品書きに目を通すものだから到着したのは2時2分。
悲しいかな、ドアには=CLOSED=の札が―。
ランチタイムは2時終了だった。

目当てにはぐれて歩く渋谷は人だらけ。
これといったすべり止めの候補はない。
やみくもにさまよっても仕方ないから
サロンのそばの適当な店で済ませることにした。

ゆき当たったのは「かにチャーハンの店」である。
はて? どこかで会ったなこの店は―。
記憶をたどると、それは5年前。
埼玉県・大宮駅のecute 内だった。
彼の地で1泊した翌朝、ブランチ代わりに
「かにチャーハンの店」でかにチャーハンを食べたっけ。

ほとんど覚えちゃいないが不味くはなかったと思う。
そうだなァ、カニでも食おうカニ。
迷わずにビルの3階へ―。
4階にはかつて一酌に及んだ佐賀料理店、
その名も「佐賀 雑穀」がある。

注文したのは主力メニューのかにかにチャーハン。
かに味噌汁が付いて820円也。
目の前の厨房で豪快に中華鍋を振る、
料理人のパフォーマンスを見ながら出来上がりを待つ。

チャーハン自体に具は少なめ。
かにと玉子、それに珍しくもきゅうりが
飯粒の間に見え隠れしている。
目映えがするのはトッピングの蟹肉である。
おそらくベニズワイであろう、けっこうな量だ。
かにチャーハンにカニのトッピング、
よってかにかにチャーハンと称するわけだ。

ふんだんに蟹肉を使いながら手頃な価格に抑えられるのは
かに卸し店直営だからこそ。
でなきゃ、この値段はムリだろう。

チャーハンは薄味仕上げ。
飯は硬めのパラパラ系でまずまずの食味だ。
脇役の味噌汁はなかなかに美味しい。
ひっきりなしに客が訪れるのもうなづける。
意外にも女性の単身やカップルの姿が目立った。
使い勝手のよい店なのだろう。

=つづく=

「かにチャーハンの店 渋谷店」
 東京都渋谷区宇田川町31-4篠田ビル3F
 03-5784-24

2018年2月6日火曜日

第1803話 うなぎで暮れて うなぎで明けた (その3)

高幡不動のうなぎ屋「羊の羽」にて新年会。
乾杯はビールだがクルマで来たメンバーはノンアルだ。
前菜は昆布佃煮、京揚げと水菜の煮びたし、
そして塩辛をあしらったクリームチーズ。
すべて可も不可もナシ。

あとはうな重かと思いきや、
どうやらコース仕立ての模様である。
真鯛とぶりの刺身が運ばれた。
続いて半身のうなぎ白焼きは蒸しを入れない関西風だ。
江戸の匂いを残す下町から遠く離れた多摩市。
日本橋・築地・浅草の名店・佳店には遠く及ばない。

今度はおでんがやって来た。
種はいろいろあったが
隣りに座った幹事のY子サンが
取り分けてくれたのは玉子・大根・がんもどき。
おやっ、これはいいネ。
うなぎよりもおでんが美味しい店とみた。
普段、おでん屋でがんもは滅多に注文しないけれど、
その旨さに目覚めた感あり。

ここでよほど日本酒の燗に切り替えようと思ったものの、
女子会に独り参加して
それも明るいうちから聞し召すのははばかられる。
涙は呑まなくとも一応、自重しておいた。

すると中には焼酎のお湯割りを所望する方が数人。
何だヨ、みなさん、けっこう飲むんじゃない。
遅ればせながら熱燗で追い掛けるとしようか―。
いや、待て、待て、夜も予定が入っているし、
昼の酒は思いのほか回るから、あとでダルくなる。
機先をそがれたせいもあり、ビールで通すことにする。

しんがりは小さなうな重というより、うな丼だ。
白焼きに使った半身の片割れである。
「さっき私は上の方だったから今度は下にするネ」―
そんな声があがる。
ほう、よく判ってらっしゃるじゃないの。
どんなサカナもそうだが
カミとシモでは味わいが微妙に異なるものだ。

J.C.のうな丼はシモだった。
うなぎも穴子もシモを好む身、ほくそ笑んでみたものの、
あれれ、ずいぶん焦げ目が目立つなァ。
いくら何でも火の入れすぎだヨ。

一口いただいてやっぱりアウト。
過ぎたるは及ばざるが如し。
焼け焦げの苦み満載の蒲焼きであった。
てなこって
今年はほろ苦い幕開けになりましたとサ。

=おしまい=

「羊の羽」
 東京都多摩市高幡150
 042-506-9982

2018年2月5日月曜日

第1802話 うなぎで暮れて うなぎで明けた (その2)

さいたま市浦和区で
江戸前うなぎを謳っている「彦星」。
ヒレと肝のたれ焼きをいただき、
肝わさに食指を伸ばそうとしている。
たまたま隣りの客が注文した実物を拝み、
ちょいとばかり、ちゅうちょしたところだ。

T栄サンはそれならば、う巻きのほうがいいと言う。
ですよねェ。
すんなり要望を受け入れて
自分ではめったにオーダーしない一品をお願い。
概して玉子焼きは好きだが
蒲焼きの前に、う巻きやうざくは頼まない主義。
いわゆるモツに当たる肝やヒレは別扱いだ。
はたしてキレイに仕上がったう巻きはお味も上々。
つい、誘われて熱燗のお替わりである。

そうこうしているうち、持ち帰りの客が出たり入ったり。
けっこうな繁盛ぶりだ。
すると、店主が在庫の匹数を数え始めるじゃないの。
なんかオーバーブッキングして慌てている様子。
ここで状況を察した人の好い(?)J.C.が
協力の手を差し伸べた。

「大将! われわれのうな重は一人前でいいからね」
「エッ? そりゃ、どうも!」
よって、うな重(梅)は相方に進呈する。
もっとも二口ほどいただきましたがネ。
これが2017年、最後の外食になったわけです。

明けて2018年。
またたく間に三が日が過ぎ去り、その週末。
ここのところ月に一度は遠征している高幡不動へ向かった。
同好の士による新年会のために―。

会場はお不動さまの正前に構える「羊の羽」で
これまたうなぎ屋さんだ。
奇妙な屋号は”翔”の字を分離させたものらしい。
店主の名前かもしれないな。

集結したメンバーは総勢8名。
J.C.以外はすべて女性である。
それも奥の座敷にギュウギュウ詰めときたもんだ。
「上手いことやりやがって!」などと誹るなかれ。
みなさんかなりのご年配だからサ。

仲間の一人が
「紅一点の正反対、黒一点ネ」―
のたまわったが紅白歌合戦に倣えば、
白一点が正しいんじゃないかな?
まっ、こういうものは敢えて黒白(こくびゃく)を
つけぬほうがよろしいのでありましょう。

=つづく=

「彦星」
 埼玉県さいたま市浦和区高砂2-8-9
 048-825-9157

2018年2月2日金曜日

第1801話 うなぎで暮れて うなぎで明けた (その1)

もう、ひと月以上も前のこと。
その日は小晦日(こつもごり)だった。
早いハナシが12月30日ですな。
旧年中はいろいろとお世話になった、
友人のT栄サンを感謝の意をこめて夕食に誘うと、
互いのスケジュールが合致したのが小晦日である。

相方のリクエストがうなぎときたので
ここぞという店の物色にかかる。
佳店が居並ぶ埼玉県・浦和に的を絞り、
当たってみたら有力店はみな28日、
せいぜい29日で年内の商売を終了する。
何とか射止めたのがレトロな小アーケード、
ナカギンザセブンに暖簾を掲げる「彦星」である。

JR京浜東北線・浦和駅で待合せた。
行き掛けの駄賃とばかり、
浦和レッズのサポーター御用達の「酒蔵 力 本店」に立ち寄る。
シーズンオフにつき、店内はわりと静か。
それでも席の八割方は埋まっていた。

北海道産赤しそを使用するレッズサワーに興味が湧いたものの、
長居するわけでもないから無難に瓶ビールを選択。
グラスを合わせておいて定番のもつ煮込み、
それに焼きとんはシロとレバをタレで注文。
どちらも東京の下町のレベルに達していた。

サッと切り上げ「彦星」へ。
前回、浦和でうなぎを食べたのは15年前。
東京・神田に支店を持つ「満寿家」だった。
とてもよいうな重に舌鼓を打ったっけ・・・。
そんな経緯があり、今回も楽しみにしていた。

小体な店内のカウンターに案内される。
先客は一人だったが次々に客が現れてほぼ満席に―。
ビールを頼むと、突き出しは切干し大根だ。
嫌いじゃないが、うなぎ屋で切干しってのも何だかなァ。

うな重よりも期待していた串焼きから攻める。
ヒレと肝をまず2本づつ。
ともにそこそこの焼き上がりながら大満足ではない。
硬い骨が気になるカブト(半助)は回避した。

地元の酒、旭正宗を常温で飲ってみたら、いま一つ。
熱燗に切り替えると、銘柄は松竹梅のみだ。
ふ~む、松竹梅かァ・・・
裕次郎と宇野重吉のTVコマーシャルが懐かしい。
けっして旨い酒ではないものの、熱めの燗が心地よい。

お次は肝わさでもいただこう。
そう思ったとき、隣客にソレが供された。
う~ん、見た目があんまりよくないねェ。

=つづく=

「酒造 力 浦和本店」
 埼玉県さいたま市浦和区仲町1-3-7
 048-822-9443

2018年2月1日木曜日

第1800話 忘れ得ぬ March (その2)

be on Saturday」の”もういちど流行歌”
1971年3月、そのつづき。

「知床旅情」が圧倒的な支持を受けている。
昭和の名優・森繁久彌が作詞・作曲した、
不朽の名歌を知らぬ人はいないだろう。
お子ちゃまはベツとしてネ。

J.C.はこの曲をライヴで聴いたことがある。
それもマンハッタンのカーネギーホールで―。
あれは20数年前。
ステージではアンコール・ナンバーとして披露された。
お登紀サンがギターを抱えて登場したものだ。
好みのナンバーではないが、けっして嫌いではない。

先月亡くなったはしだのりひこの「花嫁」も素敵だ。
彼がからんだ「風」、同じく「悲しくてやりきれない」と合わせ、
マイ・ベスト3になるかな。

オリコンでは上位にランクされた「望郷」や「女の意地」、
そして「さいはての女」がランキング外なのは
いかに演歌離れが進んでいるかの表れだろう。
かと思えば「京都慕情」は根強い人気。
これはベンチャーズによるモダンな曲調の賜物といえよう。

例によってマイ・ベスト10を選んでみた。
3月には限定しかねるので
1971年の上半期ということにしたい。

① よこはま・たそがれ  五木ひろし
② ざんげの値打ちもない  北原ミレイ
③ さいはて慕情  渚ゆう子
④ 傷だらけの人生  鶴田浩二
⑤ ブラック・マジック・ウーマン  サンタナ
⑥ 女の意地  西田佐知子
⑦ わたしの城下町  小柳ルミ子
⑧ この胸のときめきを  エルヴィス・プレスリー
⑨ おんなの朝  美川憲一
⑩ 霧の中の二人  マッシュマッカーン

「よこはま・たそがれ」や「わたしの城下町」、
それに当年のレコ大受賞曲、
「また逢う日まで」(尾崎紀世彦)さえも春先の発売なので
3月のオリコンにはまだ反映されていない。

そして忘れ得ぬこの3月は、25日の午前11時だった。
J.C.はソ連船「ハバロフスク号」に乗って
横浜の大桟橋を離れ、人生最初の渡航を試みる。

船は大間崎の北を抜け、ひたすら津軽海峡を西へ、西へ。
遠くに函館の灯がチラチラと輝いている。
はるかクナシリはもとより、知床さえも見えなかったが
生まれて初めて目にする北海道であった。