2018年3月30日金曜日

第1839話 変わりゆく大井町 (その5)

大井町はゼームス坂のビストロに入店。
ちなみにゼームス坂ははるか昔、
浅間坂(せんげんざか)と称して
ずいぶん急な坂道だったという。

それを明治時代に英国人技師にして仏教徒、
M・ゼームスさんが私財を投げ打って
ゆるやかな勾配に造り替えたのだそうだ。
何とも奇特な方である。

さて、カウンターに陣を取り、ワインリストに見入った。
5千円ほどのブルゴーニュ ルイ・ジャドを択ぶ。
ルイ・ジャドは創業150年の伝統を誇る、
ボーヌのネゴシアンである。

畑の名すら無い普段飲みのブルゴーニュながら
紛れもないピノ・ノワールの香りが
グラスから立ちのぼった。
本日3度目の乾杯に及ぶ。

フードはすべて相方の言うがまま。
最初に運ばれたのはズワイ蟹のマカロニグラタン。
アクセントに蟹ミソがあしらわれている。
蟹好きのJ.C.に不満などまったくない。
予想した旨みが舌の上に拡がり、
ピノとの相性もなかなかなり。

続いては兵庫県産カキのアル・アヒージョ。
長いこと理髪を任せているK子チャンによれば、
ここ数年、若い娘のあいだではアヒージョと
バーニャ・カウーダが人気料理の双璧なんだと―。

ひたひたのオリーヴ油に
ガーリックの風味がタップリと溶け出している。
これにはパンが必要不可欠。
自家焼きの盛合せをお願いした。

今でこそアヒージョは日本でも定番化されたが
この料理に初めて出逢ったのは1974年夏。
アンダルシアはセビリアの街だった。
リスボンから列車で到着し、
ホテルを抑えてから夜の街に出た。

真夜中の零時を回っていたと思う。
小さなバルの道に張り出たテーブルで
若いカップルが海老のアヒージョをシェアしていた。
バスケットにはバゲットに似たパンがテンコ盛り。
これだけで立派な夜食に成り得ていた。

蟹にはマカロニ、牡蠣にはパン。
ブルゴーニュを1本空けてそこそこの満足感。
当夜は3軒で打ち止めとする。
だけどなァ、どこかシックリこないねェ。

小路には人気の老舗が何軒も生き残っちゃいるが
新店が続々と開業して昔のイメージはだいぶ薄れた。
老舗の「肉のまえかわ」ですら
父さん・母さんが外国娘に取って代わられちゃ、さもありなん。
しばらくの間、再訪する気の起らない大井町。
次回来たときにはもっと変わっているんだろうヨ。


=おしまい=

「BISTRO MACHERONI」
 東京都品川区東大井5-5-8
 03-5640-9209

2018年3月29日木曜日

第1838話 変わりゆく大井町 (その4)

品川区・大井町の飲み屋街にいる。
お次は東小路の奥にある平和小路だ。
目指したメキシコ料理店の前に来ると、
扉が閉ざされているじゃないの。
時刻はすでに18時半を回っている。
臨時休業かいな?

バカ面下げて待っていてもオープンの保証はないし、
ワカモレを食べたいと言った相方には
あきらめてもらうしかない。
ちなみにワカモレはメキシカンの定番で
アボカド主体の一種のサラダ。
ディップというか、ペーストというか、
アボカドはすりつぶされて、そんな状態になっている。

日本ではトンと行かないがニューヨークでは何度も
メキシカンやテクス・メクス(テキサス&メキシコ)の
料理店を訪れたものだ。
ニューヨーカーはこのアボカド料理を
グァカモーレと発音する。
しかし相方はワカモレと音じて譲らない。
よって本稿はワカモレで通す。
おっと、メキシコ料理屋にはフラれたのでした。

ワカモレを空振ったあと、傷心の相方を慰めねばならない。
リクエストを訊ねたらワインが飲みたいとのこと。
それもフランスのブルゴーニュが望みなんだと―。
ふ~む、大井町のディープスポットでフレンチでっか!

駅の反対側、三ッ又交差点方面に
思い浮かんだ店が1軒あった。
それほど遠いわけでもないし、ひと歩きするか?
でもなァ、この混沌エリアをあとにするのは
何となくもったいない気がする。

ところが世の中、けっこう上手くコトが運ぶもんですな。
平和小路から東小路に戻るには
ゼームス坂通りを横断するのだが
そこに1軒のビストロを発見の巻である。

当方はその外観に高級感がないから
取りあえずここにしようかと思案していると、
相方はスキップまでは踏まないものの、
ルンルン気分で店先にまっしぐら。
こうなったらもう止めることはできない。

店の名は「BISTRO MACHERONI」。
「ビストロ マケローニ」だネ。
そのカウンターに二人、横並んだのでした。

=つづく=

 

2018年3月28日水曜日

第1837話 変わりゆく大井町 (その3)

2個目の缶ビールを飲みながら
まだ「肉のまえかわ」にいる。
以前より客たちに若いカップルが目立つようになった。
料理が旨いわけでもなく、居心地がいいわけでもない。
気軽に安く飲めるからだろうか?
メディアでたびたび取り上げられたからだろうか?

さて、そろそろ河岸を替えるとするか。
おっと、大事なことを欠き忘れた。
苦言ばかりで気が引けるが
この店には割り箸がない。
もちろん使い回しの利く塗り箸もない。

代わりに焼き鳥用の竹串が用意されている。
客たちがこれを2本使って焼き豚や牛タタキを食べるのだ。
コストカットもここまでくると、不便だねェ、不快だねェ。
30分足らずの滞在で退散した。

東小路には戻らず、すずらん通りを行った。
ちなみに「肉のまえかわ」は
東小路とすずらん通りの角に位置しているのだ。
ホンの15メートル先にある「磯平」に入った。

比較的珍しい赤ホッピーのセットをお願いする。
ホッピーには白・黒・赤とあり、
赤が売り出されたのは10年ほど前と記憶する。
製造元は焼酎の割り材の役割もはたすが
そのままストレートで飲んでも美味しいホッピーとして
開発したのだった。
まっ、そういう飲み方ではあまり旨くないがネ。

相方のレモンサワーとグラスを合わせる。
つまみは牛もつ煮の”課長”(350円)というヤツ。
つらつら思い出すに確か、
シンプルなもつ煮が”平社員”で豆腐入りが”課長”。
大根が入ると”部長”で全部入りは”社長”。
まったく具材ナシのつゆだけは”会長”でこれはロハ。
ロハは只(ただ)のことである。

豆腐好きの相方があえて”課長”を支持したのだが
肝心の豆腐の中心部分が冷たい。
この一点だけ取っても大した店でないことが判る。
それでも安いから客入りはそこそこだ。

ダメ元で河豚の薄造り(390円)を所望してみた。
世の中に390円の河豚刺しがあるものだろうか。
いったいどんな河豚なのか、見当もつかない。
接客係を問い質すのは野暮だから未だに判らない。

ところがこの薄造り、
多少水っぽいものの、想像以上だった。
ホッピーの中(焼酎)をお替わりして次へと向かう。
ターゲットは珍しくもメキシカンであった。

=つづく=

「肉のまえかわ」
 東京都品川区東大井5-2-9
 03-3471-2377

「磯平 すずらん通り店」
 東京都品川区東大井5-2-7
 03-6433-2527

2018年3月27日火曜日

第1836話 変わりゆく大井町 (その2)

大井町は東小路の角にある「肉のまえかわ」。
ビール用のグラスが貸してもらえない。
チャイナ娘にはハナからそういう発想がないから
一向にラチがあかない。

仕方ねェなァ・・・交渉はあきらめた。
こういうときは実力行使に出たほうが早い。
娘たちを無視してやおらグラスに手を伸ばす。
すると驚いたネェ、「飲みますよぉ!」のネエちゃん、
いきなりJ.C.の手を思いっきり引っぱたきやんの。
イテッ! イテテテッ!

ハハ、ってのは真っ赤な嘘、いえ、冗談、ジョーダン。
いくら何でもそこまではしないわな。
角界に限らず、飲食業界においても暴力は許されんもん。
おっと、グラスに手を伸ばしたってのも冗談でっせ。

J.C.が取った行動とは相方をしばし待たせての外出だ。
近くのコンビニまでひとっ走りの巻である。
買い求めたプラスチックのコップは
10個も入って108円でありました。

意気揚々(でもないか)と舞い戻った。
おう、おう、チャイナドレス、じゃなかった、
チャイナ娘が見てるヨ、見てるヨ。
あの客、いったい何処へ行ったんだろう?
そう思っていたに相違ないネ。

悠々とプラコにビールを注いで乾杯。
ハッハッハ、どんなもんだい!
コップを掲げながら娘たちを見やると、
揃ってプイッと横を向いたネ。

でも、よくよく考えりゃ、
いい歳こいて何やってんだろう。
ホンのちょっとだけど、自分で自分がイヤになる。
ポテサラをつまみながら、そう思った。

気を取り直し、きゃつらの元に出向いた。
ケンカを売りに、もとい、串カツを買いにネ。
この串カツがちっとも旨くない。
再びきゃつらの元に―。
いえ、文句を言いにじゃなくって
カンビールを二つぶら下げて―。

それにしても昔は居たオジさんやオバさんは
いったいどこに消えたのだろう。
人件費を抑えるため、外国人労働者に任せて
自分たちはラクしているんだろうか?

=つづく=

2018年3月26日月曜日

第1835話 変わりゆく大井町 (その1)

しばらく無沙汰していた品川区・大井町に出没。
今宵のターゲットはこの町きってのディープスポット、
東小路飲食店街である。
グルメ番組のルポルタージュみたいになっちゃうが
この狭い横丁をふらふらと飲み歩きたい。
その一心で参上つかまつった次第なり。

終戦直後の闇市を想起させる当エリアは
葛飾区・立石のソレと並んで
ロートル呑ん兵衛が抱く、懐旧の思いを鷲づかみにする。
わが身を一帯に解き放つ歓びにひたるとしよう。

当夜、といっても待合せたのは16時。
まだ、ぜんぜん明るかった。
相方はかなりの酒豪につき、心してかからねばならない。
二日酔いに備え、ウコンをバッチリ飲んできた。
もっとも毎朝、欠かさないんだけどネ。

J.C.が摂取するサプリメントはウコンと亜鉛。
少なくともかれこれ15年は続けている。
それもこれも肝臓と味蕾の機能を補助するためだ。
てきめんとは言わないまでも
それなりの効果はあるんじゃないかな?
いや、あるヨ。

1軒目は界隈でもっとも有名な「肉のまえかわ」。
はるか昔に精肉店だったのが
立ち飲みスポットに鞍替えして久しい。
ここで軽く1~2杯という腹積もりだ。
Just have a drink or two である。

冷蔵庫からビールのレギュラー缶を取り出し、
肉屋の名残りのショーケースの上で待ち構える、
オネエさんに差し出して清算。
ケース内に陳列された和牛ランプのたたきと
ポテトサラダも購入した。

たびたび書いたがビールを缶から直接飲むのは大嫌い。
それなら飲まないほうがいい。
よって、グラスをお願いするとネエさんの反応がない。
どうやら拒否された模様だ。

スタッフは若い娘が3人で
いずれも東シナ海の向こうから渡来したものと推察される。
言葉の上のミス・コミュニケーションかな? 
そう思って、なおもグラスの提供を求めると、
横から割って入った先輩格が
「ビールは缶から飲みますよぉ!」―だって。
声高に決めつけられちまったぜ。

いや、アンタはそうかもしれんけど、
あえてグラスを貸しとくれとお願いしとるでしょ。
なかなか思いは伝わらない。
いやはや泣く子と地頭とチャイナにゃ勝てんなァ。

=つづく=

2018年3月23日金曜日

第1834話 お次の下車は千歳烏山

京王線・柴崎駅より、
つつじヶ丘駅のほうがずっと近いのに
なぜか「柴崎亭」を店名とするラーメン店で
500円の中華そばを食べたあと、
再び新宿行きの各駅停車に乗って
やって来たのは千歳烏山。

あまり耳にしないが若い人はチトカラと呼ぶんだそうだ。
「てらすチトカラ」なんて
喫茶店兼食堂みたいな店もあるからそうなのだろう。
この町は十数年前に一度だけ歩いたが飲食した覚えはない。
夜の帳が降りかかる中、
見覚えのある駅前商店街をぶらぶらと―。

ラーメン店では生ビールを我慢したので
早いとこ渇いたノドをなだめたいが
意に染まる店がなかなか見つからない。
1本裏道に入って遭遇したのは「やきとり仲屋」。

中をのぞくとけっこうな入りである。
焼き鳥に食指は動かずとも中華そばのあと、
つまみは少量でいいからターゲットはビール。
カウンターに空席を確かめ、入店した。
品書きをチェックすると”やきとり”を名乗りながらも
実際は”焼きとん”の品揃えが多彩、これはありがたい。

キリンの中ジョッキとともに串の注文を通す。
パイパイ(牝豚の乳房)を塩、
シロ、ハツ元、網レバーをタレでお願いする。
パイパイと聞くと有楽町ガード下、
「八起」のオッパイ炒めを即時に連想してしまう。

近頃、レバーを網脂で巻いた網レバーを
あちこちで見掛けるようになった。
グッドアイデアだと思うが当夜のベストはシロだった。
シロといえどもほとんどテッポウで下ゆでの塩梅よろしく、
クニュクニュの歯応えが楽しめ、
脂分は昔懐かしい下世話なタレによくなじんでいる。

生ビールとシロのお替わり、そしてガツをタレで―。
シロとガツの見た目はそっくり。
ちょっと見では区別がつかない。
食べてみるとシロはウェット、ガツはドライだ。
こちらはこちらでまたよし。

串は塩、タレのほか、醤油、味噌ダレが選べる。
でもネ、オッサンにはやはりタレが一番。
子どもの頃に覚えた味が舌に脳にしみついている。

当店で人気の飲みものは
シャリキンレモンとバイスサワーのようだが
中ジョッキ2杯、焼きとん6本で仕上げた。
そうしておいて、みたび京王線。
ただし、今度は準急に乗りました。

「やきとり仲屋」
 東京都世田谷区南烏山6-6-24
 03-5313-2964

2018年3月22日木曜日

第1833話 初めて降りたつつじヶ丘

高幡不動での寄り合いの帰り、
京王線の各駅停車を降りたのはつつじヶ丘。
初めて訪れる町である。
春風そよ吹く夕まぐれ。
空腹を満たすために狙いを定めたのは
当エリアで人気のラーメン店。
とにかく旨くて安くて速いそうだ。

駅北口を出て線路沿いを西へ。
ホンの1分で「柴崎亭」に到着した。
ガラス張りの店舗はそのガラスに沿って
横一文字のカウンターのみ、テーブル席はない。

券売機の前に立って品定め。
ユニークな玉ねぎ中華そばなんてのに
そそられつつもベーシックな中華そばを購入。
これがワンコインの500円だ。

厨房の様子をうかがっている間に中華そばが出来上がる。
ストレートの中細麺は
梳(くしけず)られた乙女の髪の如くに整っている。
整髪料なんか使わずとも美しい。

プルプルの薄切りチャーシューは
豚肩ロースをゆがいたようだ。
シナチクと小松菜も丁寧に配されている。
とてもワンコインのルックスではない。

さっそくスープを味わう。
ややっ、ファーストアタックは酸味だ。
鶏ガラ主体の支那そば味を予想したが
アッサリめでも複雑な出汁が絡み合っている。

中細麺は驚くほどの硬ゆで。
俗に言うバリ硬に近く、
スパゲッティのアルデンテを超えている。
こりゃ、入れ歯使用者には難儀だネ。

半ば食べ進んでふと厨房を見やると、
麺の上に具材を並べる係のアンちゃんが
やおら鼻をほじくり出したじゃないの。
いや、ヤなもの見ちゃったなァ。

ハリルホジッチの采配には不安を覚えるけれど、
ハナヲホジッチの配膳は不潔だヨ。
無意識のうちに指が伸びたのだろうが
食品の提供を生業(なりわい)とするものとして
自覚が足りないねェ。
こういうことが二度とないよう、
あえて苦言を呈した次第なり。

「柴崎亭」
 東京都調布市西つつじヶ丘3-25-52
 電話ナシ

2018年3月21日水曜日

第1832話 隠し文書の三悪人 (その2)

昨年の衆院選で自民党は圧勝したが
首相の続投を望む選挙民は逆にマイノリティだった。
なのに党は大勝。
この結果はひとえに選挙民の損得勘定の賜物と言える。

森友・加計問題で汚辱まみれの首相はイヤだが
自民党には政権をキープしていてもらいたい。
さもなくば自分の日常生活に悪影響が及びかねない。
急な変化はどう転ぶか予想がつかず、
不安定要素となり得るから迷惑なのだ。
現状にそこそこ満足、ささやかなシアワセを
守りたい人がマジョリティを占めている。

選挙民はイの一番におのれの損と得を秤にかけて
政党及び候補を選び、投票所に向かう。
この行動は諸外国でもまったく同様。
古今東西、永遠にして不滅の心理だろう。
1票をどこに、誰に、投じようが選挙民の勝手。
与えられた権利の行使は当然だ。
清き1票も濁れる1票も、その価値に何ら変わりはない。

内閣人事局の発足以来、
国家公務員は内閣の手駒となった。
公務員は常に”上”を見ることを半ば強要され、
海の底のヒラメと化したわけだ。
手駒は忖度を余儀なくされる。
選挙民は損得を計算する。
現内閣を支えたのは
ソンタク&ソントクの相乗効果と言わざるを得ない。

朝から晩まで究極の悪相、
あの財務相のひょっとこヅラを
見せつけられるのは不快千万。
いや、おかめ・ひょっとこのひょっとこには
まだ愛嬌という救いがあるが
あの悪代官にはそのカケラすらない。
願わくば、一日も早く暴れん坊将軍に成敗してほしい。
そこんとこ何とかなりませんかネ、マツケンさんよっ!

最後に、悪人とは呼ばないが
とある三人に対して短いコメントを残しておこう。
いえ、最近、友人・知人からいろいろ訊かれるんでネ。
この場を借りて、まとめてお応えしときましょう。

最初に、このところこちょいと逆風が吹き始めた総務相。
やはり国会でのあの態度、所作はよくないな。
TVカメラを意識したうえでの談笑や腕組みは理解に苦しむ。
どうやら女狐ぶりを発揮し始めた様子だが
北朝鮮の議会でアレをやったら銃殺刑が待ってるぜ。

続いて、借りてきた猫みたいになっちゃった都知事。
政治生命の終りを示唆する声がたびたび耳に届くけれど、
しばらくは忍耐の一手。
ただ、このまましぼんで終わってほしくはない。
ひと冬かふた冬、耐え忍んだあとに
穴蔵から這い出して春の陽を浴びる女狸の姿を見てみたい。

お仕舞いは、日銀総裁。
日経新聞に目を通さなくなって久しいから
あまりエラそうなことは言えないが
感覚的にとらえると、とても通貨の番人には見えない。
あれは通貨の番人じゃなくって官邸の番犬だ。

書きたいこと書いたら少しは心が晴れました。
今話もおつき合いいただき、ありがとうございました。

2018年3月20日火曜日

第1831話 隠し文書の三悪人 (その1)

長嶋茂雄がプロデビューした1958年。
年末に黒澤監督の「隠し砦の三悪人」が公開された。
あとに続いた「用心棒」、「椿三十郎」に比して
ずいぶん見劣りするように感じたが
’59年のキネマ旬報ベストテンでは第2位に輝いている。
観る目がなかったのかなァ・・・
なんて振り返る今日このごろである。

それはそれとして「隠し文書の三悪人」。
こういうテーマはあまり語りたくないけれど、
温厚なJ.C.もとうとう堪忍袋の緒がプッツン。
ほかにもいろいろ悪いのがいるものの、
代表格三人をお白洲に引き立ててみたい。
三人が誰を指すのか、言わずもがなでありましょう。

大悪たちは一番の小者である、
理財局長にすべての罪を引っ被らせる魂胆。
哀れ小者はスケープゴートにされている。
野党が追及したり、各種メディアが論評していることを
上塗りしても仕方ないから矛先の角度を変えたい。

まず、三悪人に共通するのはその悪相である。
いや、いずれをとっても悪い顔をしてるよなァ。
ああいうのを毎日見せつけられる善良な市民は
やりきれんヨ、ジッサイ。

顔の良し悪しは持って産まれたもんだから
仕方ないんじゃないの?
そう思われる向きも少なくなかろう。
いや、けっしてそうではない。

文豪・森鷗外だったかな?
人間、四十を過ぎたら
自分の顔に責任を持つべし、と言ったのは―。
アメリカの第16代大統領・リンカーンもまた、
同じ主旨の言葉を残している。

産まれたときからあんな顔であるハズはなく、
その後の生き方が悪相のモトで
人倫の道を正しく歩まなかった結果がアレなのだ。
この点、フランスの哲学者、
ジャン=ポール・サルトルの唱えた実存主義に通ずる。

加えて三悪人はすぐキレる。
痛いところを突かれると瞬時に逆ギレする。
あの醜態は女房に浮気がバレたときの亭主さながら。
恥ずるべし。

振り返れば、先の衆院選はいったい何だったんだろう?
首相は「国民の力強い支持をいただいた」、
なあんてうそぶくけれど、
票を集めたのは党であって、首相本人ではなかろう。

=つづく=

2018年3月19日月曜日

第1830話 雛祭りの夜 (その2)

雛祭りの夜。
入谷の「あかぎ」では蛤のみぞれスープが供された。
雛祭りにおける主役級食材のハマグリは
古くからお姫様の象徴とされてきた。
なるほど、庶民的なアサリ・シジミとは別の品格が漂う。
姫様のお味、もとい、
吸い物のお味はまことにけっこうだった。

冷酒に切り替える。
銘柄を吟味して純米吟醸原酒を謳う、
山本6号酵母というのを択んだ。
秋田県・八峰町の産は実に飲み応えがあった。
アルコール度数も高いようだ。

料理のほうはお造りでめじまぐろと平貝(たいらぎ)。
ユニークな組合せは6号酵母との相性もよろしい。
殊に本まぐろの幼魚、めじは格別。
珍しいのはこの店、
本わさびをフレーク状にすりおろすこと。
読者の方にはパスタの上から削り落とされる、
白トリュフを想像していただきたい。

エッ? ちょっと何言ってんだか判らないってか?
それじゃタルトゥーフォ・ビアンコの代わりに
パルミジャーノ・レッジャーノでいかがでしょう?
もっと判らん! ってか?
ハイ、ふんじゃパスして先をお読みくだされ。

続いては鴨つくねと蒸しあわびの葛あんかけ。
鴨が主張してあわびが陰に隠れちゃってる。
旨いっちゃ旨いが、ちと残念。
ここで日本酒の2種め。
リストにはトンデモないのが載っていた。

岩手の酒はその名もタクシードライバー。
こんなのアリ?
ご丁寧にラベルにはデ・ニーロの写真だか、
イラストだか、よく判らん顔が刷られている。

それにしても何てネーミングだい!
血迷った製造元は北上市の喜久盛酒造で
昨年発売の新銘柄である。
ところがコイツ、意に反してなかなかよかった。
少なくとも6号酵母より舌に響いたネ。

締めの一品は春巻。
おそらく鴨のつくねだろう?
そこにフキノトウ・ウルイ・行者ニンニクが
合わせてあるそうだが山菜の香りはほとんどしない。

さすがにおつまみコースだけではもの足りない。
アラカルトメニューから平貝肝のバター焼きを追加した。
何だか今夜は貝ばっかり食べてるなァ。
滅多にないことでもそこは雛祭り。
春の珍事ならぬ、春の珍味を満喫いたしたということで―。

「あかぎ」
 東京都台東区北上野2-29-3
 050-5890-6304

2018年3月16日金曜日

第1829話 雛祭りの夜 (その1)

    ♪ 泣かない約束を 
    したばかりなのにもう涙
    ひとりでお祭りの人ごみを逃れて
    紅い鼻緒がなぜかうらめしくて
    あの人あの町に行っちゃうなんて
    今日はじめてきかされたの
    遠い笛太鼓

    恋人どうしなんて
    まだいえない二人だけれど
    いつしか心に決めていた人だった
    線香花火がなぜか目に浮かぶの
    あの人あの町で働くなんて
    祭りの歌が手拍子が
    胸につきささる        ♪

       (作詞:安井かずみ)

小柳ルミ子の「お祭りの夜」は1971年9月のリリース。
デビュー曲「わたしの城下町」に続くシングル第2弾は
前曲同様、安井かずみ&平尾正晃のコンビによる。
詞・曲ともに大好きなナンバーで
目をつぶって聴いていると、
祭りの情景が手に取るように浮かんでくる。
流行歌は常にこうあってほしい。

おっと、その日は3月3日。
祭りは祭りでも雛祭りであった。
旧知のたべともと落ち合ったのは
台東区・入谷、地番は北上野の和食店「あかぎ」。

ここ数年、エリアでの人気上昇は急なものがあると聞いた。
電話予約を入れると、最近はコース主体の提供となった由。
ともに大食漢ではないから、ここでちょいとヘジテイトしたが
もっとも軽い構成のおつまみコース(3000円)をお願いしておく。

リクエストしたカウンター席に。
カウンターはたったの5席しかない。
ラッキーではあった。
料理人の一挙手は一目瞭然。
しかし一投足までは目が届かない。
瓶ビールを満たしたグラスを合わせた。

初っ端の3種前菜盛合せは
青大豆醤油仕立て・卯の花・春筍塩麹和え。
ふむ、フム、まあ、フツーかな。
別段、驚きはないし、舌が歓ぶ様子もない。

続いての吸いものはよかった。
蛤のみぞれスープと称するのだそうだ。

蛤のふたみに別れ行く秋ぞ

芭蕉の「おくの細道」、その結びの一句は
蛤の蓋身と、ここから向かう伊勢・二見浦(ふたみがうら)を
巧みに掛けている。
芭蕉師匠、さすがでありますな。

=つづく=

2018年3月15日木曜日

第1828話 今年で引退のチヨちゃん

奥村チヨが今年いっぱいでの引退を表明した。
初めて彼女の歌声に接したのは中学二年生のとき。
「ごめんね・・・ジロー」である。
名前を忘れちゃったが
ちょうどその頃、同学年に彼女そっくりの子がいて
かなりの評判と人気を得ていたっけ。

あれから早や半世紀、
ずいぶんと長いこと歌ってきたんだネ。
例によってチヨちゃんのマイ・ベスト5。
あんまり聴きこんでいないから、5でご勘弁を。

① 北国の青い空・・・ベンチャーズの作曲。
② 中途半端はやめて・・・ほとんど唯一の演歌
③ 終着駅・・・歌手人生を賭けた勝負曲
④ 川の流れのように・・・ひばりのカバーに非じ
⑤ スワンの涙・・・オックスのカバー
次点:花になりたい・・・珍しくも平尾正晃作曲

①は初期の佳曲、好きだ。
有名な”恋3部作”より以前、1967年にリリースされている。
世はグループサウンズ全盛時代で
ちなみにその年のレコ大受賞曲は
ジャッキー吉川とブルーコメッツの「ブルー・シャトー」。

のちの③に通ずる大人の歌だから
彼女自身はこの路線を継承したかったものと想像される。
本人も歌うのを渋ったといわれる、
”恋3部作”は無用の長物だったワケだ。

   ♪  風にまかれた 私の髪に
     野バラの甘い かおりがせつない
     北国の空と湖
     二人の恋は ここにねむる

     あなたのために
     私は祈る 二度と帰らない 
     夏の日の恋よ 恋よ

     白い小舟に 野バラをかざる
     北国の青い 空はないてる  ♪

          (作詞:橋本淳)

息の長いヴォーカリストながら
紅白歌合戦にははるか昔、
たったの3回しか出場していない。
行きな計らい(?)をみせるNHKのことだから
今年は4回目の出場が確実視される。

でもねェ、あの放送局はときとして
肩透かしを食らわしてくれるからなァ。
おっと、それは大相撲のハナシでした。

2018年3月14日水曜日

第1827話 江戸のはずれの江戸川区 (その5)

地下鉄・都営新宿線・船堀駅そばの食堂に始まり、
大衆酒場を2軒回って、駅近くに舞い戻ってきた。
新宿線終点の本八幡にでも移動しようか・・・
 相方と合意に至ったそのとき、
進行方向左手の小道にほのかな灯りの点りをみとめた。
飲み屋か料理屋に相違ない。
電車の移動は面倒だからと入店を決意する。
 
店の内外に「伊勢周」や「カネス」のような大衆感はなく、
れっきとした割烹は「三河屋」。
カウンター、ちょうど主人の正面に席をとる。
30分は歩いたから冷たいビールが旨い。
酔いも醒めてきたのでまだ酒は飲めるが
スパゲッティ・グラタンとワンタンメンをやっつけちゃ、
食べものは何もほしくない。
 
ビールは何だったっけ?
キリンラガーの大瓶だったような・・・。
こういう店において
飲みものだけで済ませることなどできやしない。
何か軽いつまみを物色せねば―。
主人のオススメは活けの車海老。
これなら胃に負担が掛からない。
ちょいと出費がかさむものの、渡りに舟とお願いする。
 
1人当たり2尾の計4尾。
身は活け造り、いわゆるオドリだ。
カブトは塩焼きにしてくれる。
どちらも不味いワケがない。
 
日本酒に移行した。
広島県・福山市の天寶一(てんぽういち)をいただく。
相方は山形県・酒田市の上喜元を選択。
互いに互いのグラスをちょいと味見してから乾杯。
本日4回目ともなれば新鮮味はまったくない。
 
さて、車海老だけでは愛想がないし、
次は何をお作りしましょう?
とばかりに手ぐすね引く料理人も張り合いがなかろう。
もう一品注文するのが礼儀であり、作法でもある。

やはり小品の鰻肝焼きを追加する。
効果のアル・ナシは定かでないが
とにかく栄養&ビタミンの宝庫といえる鰻。
しかも良いモノが凝縮していそうな内臓だ。
今宵もまた酷使してしまったわが肝臓を
多少なりとも労わらねばならない。
 
振り返って車海老の味はよく覚えているけど、
肝焼きのほうはほとんど記憶にない。
酔いは醒めてなかったんだネ。
てなこって長い夜もこれにてお開きと相成りました。

=おしまい=

「三河屋」
 東京都江戸川区船堀4-12-15
 03-3687-3949

2018年3月13日火曜日

第1826話 江戸のはずれの江戸川区 (その4)

店全体が鰹出汁と醤油で煮しめられたような「カネス」。
この味わいは似非レトロのチェーン居酒屋なんかが
一朝一夕に醸せるものではけっしてない。
ここは江戸のはずれの江戸川区、
最寄りの一之江駅から徒歩十数分の距離にある。

グラスを上げ下げするピッチがガクンと落ちた。
「伊勢周」の酎ハイが利いてきた。
まっ、しばらくスローダウンしたあと、
徐々に復調していくんだけどネ。

実を申せば当店訪問の狙いはラーメン。
昭和の頃の支那そばみたいな素朴なラーメンだ。
前回食べて意想外の美味しさに驚いた。
よって、今回はワンタンを加えたワンタンメンを試したい。
さりとて、だしぬけに麺類は気が引ける。
どちらも軽めのイナゴの佃煮と湯豆腐を通す。

イナゴ? 何だってそんなモン?
いぶかしがる読者の気持ちはよおく判る。
でもネ、昨今は海外でも注目を集める昆虫食。
スイスだったかな?
昆虫を粉末にしてクラッカーに混ぜ込むらしい。
オトコの強壮のみならず、
オンナの美容にも効果があるそうだ。

そうしておいてワンタンメンを締めとしたらしい。
”らしい”と曖昧な表現をあえて使うのは
このあたり、記憶が飛んじゃっているから。
おそらく1杯のどんぶりをシェアしたのだろうが
麺をすすったのは覚えちゃいるが
ワンタンはつまんだかな?

翌日、相方に確認してみると、間違いなく食べてたとのこと。
ついでに「カネス」に居たときが一番酔って見えたんだとサ。
そうだったんだァ。
近頃、酒が弱くなったのかなァ。
少々、自信に揺らぎを感じてしまう。

「カネス」をあとにして目の前のバス通り、
今井街道を都営新宿線・一之江駅方面に歩く。
よせばいいのにあわよくば、
駅周辺でもう1軒という腹積もりだ。

北西から南東に走る街道を
真っ直ぐ行くと、駅に到達するが
大通りを嫌い、脇道に入ったせいで
新大橋通りに出ちゃったヨ。
船堀・一之江の真ん中あたりと思われた。

道行くチャリンコのオバさんに訊いたら
船堀のほうが近いんだと―。
結局は薬局、振り出しに戻っちまったわけだ。

「大衆酒場 カネス」
 東京都江戸川区一之江6-19-6
 03-3651-0884

2018年3月12日月曜日

第1825話 江戸のはずれの江戸川区 (その3)

創業六十有余年、よくぞ続けてこれましたの、
大衆酒場「伊勢周」にて名代の酎ハイをあおっている。
L字のカウンターは客が鈴なりとなってきた。
どの駅からも遠いからみな地元のなじみ客だろう。

面白いのはこの店、3人以上の訪れには
カウンターの中にも客を引き入れて
にわかテーブルの差し向かいで対応すること。
よそではめったに見られない光景である。

酎ハイのお替わりに乗じて料理を追加する。
ハゼの天ぷらとスパゲッティ・グラタンをお願いした。
たぶん江戸前だろう、
小ぶりのハゼはカラリと揚がっている。
江戸湾の小魚は小ぶりに如くはない。
キスとメゴチの中間的食感が歯に舌に心地よい。 
 
都内有数の歴史を誇る酒場てスパゲッティ、
しかもグラティネしちゃうってんだから
客は意表を衝かれる。
月並みな料理が並びがちな大衆酒場で
こういうのに出会うと、つい頼みたくなる。
舌先に変化がほしくなるのだ。
まっ、あまり美味しいもんではなかったがネ。

幹線道路を離れ、
住宅街に迷い混んで3軒目を目指した。
こちらも地域を代表する酒場「カネス」だ。
店の内外に昭和の痕が著しい。
煮込まれたおでん種みたいな趣がある。

酎ハイの酔いが回ってきたが
相方はケロッとしている。
にこやかな笑みを絶やすことがない。
いったいアンタ、どれだけ飲めるんだ!
 

ここでは瓶ビールを所望した。
「伊勢周」でスパゲッティ・グラタンをシェアしたが
腹八分目までは至らず、六分目あたりかな。
飲むとあまり食べないJ.C.ながら
ストマックのキャパにまだ若干の余裕がある。
 
生モノはもう欲しくないし、
当店の煮込みは以前に試して
口に合わなかったことを記憶している。
 
そういえば煮込みの鍋の前に陣取っていた、
婆ちゃんはどこへ行ったのだろう。
かなりのお歳とお見受けしたからすでに隠居、
いや、ひょっとしたら鬼籍に入られたかもしれない。
おっと、めったなことを口走るもんじゃないネ。
 

=つづく=

2018年3月9日金曜日

第1824話 江戸のはずれの江戸川区 (その2)

江戸の東端、江戸川区は船堀に来ている。
この町随一の大衆食堂兼大衆酒場「百味家」に独り。
まず入口に重なったトレイを持って
ボードに並ばったつまみ類をピックアップする。

いずれも小鉢のらっきょと酢のもの、
そして小皿のピーマン肉詰めを選んだ。
小さいポーションが好都合である。
飲みものはスーパードライの中瓶。
こちらはオバちゃんがテーブルに運んでくれた。

らっきょはシンプルによい。
酢のものはわかめときゅうりにタコがちょこっと。
ひたひたの酢にごま油が香り、瞬時にコリアンの風が吹く。
わかめと酢は身体にもよさそうだ。
チンして温めてくれた肉詰めはジューシーでなかなか。
中瓶はすぐに空いた。

待合せの時間になったのでダイヤル。
道筋を説明してお越し願う。
数分後、現れた相方がトレイに乗せたのは
マカロニサラダと厚揚げ焼きであった。

いや、それにしても喧しい。
ジモティがあっちゃこっちゃで飲み会を催しているから
騒音のデシベルは半端じゃない。
先が長いし、長居は無用と次に向かった。
二人で飲んだのはビール3本なり。

船堀街道を北上する。
真っ直ぐ行けば道は二又の追分となり、
右は千葉街道、左は平和橋通りとその名を変える。
追分の手前右手の松江3丁目に「伊勢周」はあった。
数年前に建て替えられたが
以前は昭和の酒場そのものだったという。

昭和29年の創業時と変わらぬ風味を保つ酎ハイで乾杯。
焼酎を割るのは天羽の梅。
梅エキスの含有はないけれど、
東京の、主として東部でポピュラーな割り材だ。

突き出しは少量のもつ煮込み。
これなら煮込みは要らないと思われるものの、
つい誘われてオーダーに及ぶ客が多いようだ。
店側からすれば、お味見をどうぞという腹積もりだろう。

数ある品書きから、われわれが頼んだのは
つぶ貝の刺身とまぐろぶつ、それに山芋の漬物。
つぶは軽く湯通ししてあり、本来の魅力を失い気味。
まぐろのほうがよかった。
山芋はぬか漬け・塩漬けではなく、
漬け汁にひたしてあるらしい。
何よりも居心地のよさに酎ハイのピッチが上がっってきた。

=つづく=

「船堀食堂 百味家」
 東京都江戸川区船堀3-2-3
 03-3869-6610

2018年3月8日木曜日

第1823話 江戸のはずれの江戸川区 (その1)

東京23区、ところ嫌わずに何処へでもゆくが
出没率の低いのは世田谷区・練馬区・品川区あたりか。
中でも江戸川区ではめったに飲まないなぁ。
たまさか訪れるのは小岩くらいのものだ。

そうだ! 江戸川区へ行こう!
心に決めて出掛けて行った。
思えば、ここひと月以内に市川市、江東区、
そして江戸川区と、江戸城の東ばかりを攻略している。

声を掛けたのは酒豪の友人。
このヒトはいくら酒盃を重ねても乱れない、崩れない。
それ以上に舌を巻くのは
ハシゴをしてもどこで何を飲み、何を食したか、
一品もらさず記憶しているのだ。
シャッポを脱ぐとはこのことである。

待合せるのは都営新宿線・船堀駅。
例によって小半刻ばかり早く到着した。
駅の周辺をぶらぶらするのも一興なれど
ノドの渇きに耐えかねて
あらかじめ目星をつけていた1軒目に向かう。

南口に出て船堀街道沿いをゆく。
短い距離ながら都内には珍しいクスノキの並木道を歩く。
徒歩数分で「百味家」に到着。
店先で十数台のチャリンコの出迎えを受けながら入店した。

うわっ! たくさん居るネ、
みんな飲んでるネ、とてつもなく喧しいネ。
明るい時間にかようなドリンキング・シーンに遭遇するのは
新丸子の「三ちゃん食堂」以来じゃなかろうか。

陽気な飲み手のJ.C.はこんな情景を苦にしないが
陰気な飲み手には相当ツラいかもしれない。

白玉の歯にしみと ほる秋の夜の
酒はしづかに飲むべかりけり

若山牧水の名歌が思い起こされる。
秋の夜はいざ知らず、春の宵なら静かでなくともよい。
こよなく酒を愛した牧水だが
日に一升は飲み過ぎだろう。
そのせいか、四十路半ばにして亡くなっている。
病名は肝硬変、さもありなん。

かく言うJ.C.も毎晩、一升酒を浴びている。
ただし”升”と”酒”の間に”麦”の一字が入りますけどネ。
そう、一升麦酒ですな。
よって肝硬変とは無縁、と言いたいところなれど、
ガンマGTPの数値はかなり高い、いや、異常に高い。
自慢じゃないけどネ。

=つづく=

2018年3月7日水曜日

第1822話 三匹のおっさん (その4)

おっさん会も3軒目。
江東区・白河の「実用洋食 七福」に入店した。
飲み疲れと歩き疲れでぐったりしている、
ブウブウおっさんの背中を手荒く押し込んでネ。

その様子を通行人が目撃したならば、
「鬼平」、「暴れん坊」、「桃太郎」、
まあ何でもいいんだけど、
時代劇の一シーンを思い起こしたことだろう。
そう、下手人を牢屋に押し込む牢番の如くであった。

驚いたことにブウブウも立小便も、もとい、
先刻、用を足されたおっさんも
まだ日本酒を飲む気でいるヨ。
止めても仕方ないし、ハナから止める気もないし、
羊飼いは2匹の老羊を放し飼いにした。

そうしておいて羊飼いはサッポロ黒ラベルをお願い。
大衆的な店の常として
オネエさんが運んで来たのは大瓶である。
いや、他人をとやかく言う資格はないねェ。
よくも飽きずにビールばっかり飲んでいられるもんだ。
あきれるけれど、反省はしない。

振り返れば、当夜はもっぱら飲みに徹して
あんまり食べていない。
飲むばかりでは身体に毒、二人に注文をうながす。
ブウブウが即座に餃子。
立小、もとい、もとい、用足しは迷った挙句に
七福ランチの(上)を選んだ。
「みんなで突っつこうヨ」の言葉を添えて―。

実はこの「七福」、自著で詳しく紹介したことがある。
家族経営の店なので
ファミリー3人(両親&娘)の写真撮影を頼み込んだら
気安く応じてくれた経緯があった。

J.C.自身は顔を合わせていないが
3人の尊顔は目に灼きついている。
さっきビールを運んでくれたのが
年齢を重ねた、その娘さんである。

夜も昼と同じ内容の七福ランチ(上)は
海老フライ、ハンバーグ、鳥唐揚げ、
それにハムだったかな? そんな陣容だった。
それらを一切れづつ、加えて餃子を1カン。
大瓶2本を空けるにじゅうぶんのつまみとなった。

一人が脱落したのを機に当夜は3軒で打ち止め。
またの機会を約したものの、
半年先くらいにしておきたい。
何だかおっさん会は疲れるんだ。
そうだ! 次回は美女軍団と混ぜてみようか。
いや、いや、ダメ、ダメ、
老羊が老狼に変身したら、お手上げだからネ。

=おしまい=

「実用洋食 七福」
 東京都江東区白河3-9-13
 03-3641-9312

2018年3月6日火曜日

第1821話 三匹のおっさん (その3)

江東区は木場の「夢乃家」で飲んでいる。
まぐろぶつも悪くはないが
1軒目の門仲「ますらお」のかつお刺しには及ばない。
むしろアラ大根がよかった。
アッサリ味の塩仕立てが効を奏している。

18時過ぎにはほぼ満席となった。
うしろの小上がりを振り返ると、
座敷がずいぶん低い位置にあって
上から目線で客たちを見下ろす感じ。
こりゃ小上がりじゃなくって小下がりだネ。

2杯目は一番搾りの黒小瓶。
日本酒に移行すると、おっさん三匹、
枕を並べて討ち死になりかねないので
自重した次第なり。

いつの間にか店の中が中国・北京の大気汚染状態。
焼きとんのケムリが充満してきた。
これはかなわん。
料理の追加もないまま、勘定は3人で5千円とちょっと。
まっ、そんなものでしょう。

木場方面に大門通りを戻るのは
抵抗があるからそのまま北上する。
といっても吉原まで行く気はさらさらない。
頭の中には1軒の食堂が浮かんでいた。
歩くにはちょいとばかり距離があるけどネ。

10分も行くと案の定、
一人のおっさんがブウブウ言い出した。
「いったい何処まで歩かせんの?」
「もうちょい、もうちょい」
なだめすかしの一手である。

そうこうするうち、もう一人は立小便ときたもんだ。
橋の上からじゃなくて植込みの陰だから
まっ、いいか・・・いや、よくはないわな。
チャリンコのお廻りが通らなくてよかったヨ。
やれやれ。

おっさんの、しかもヨッパライの脚だから
30分はゆうに歩いたろう。
やって来たのは白河3丁目。
清洲橋通りと三ツ目通りの交差点、
カドに位置する「実用洋食 七福」である。

「何なのコレ? 食堂じゃんか!」―
ブウブウおっさんが口をとんがらかした。
(うっせい、黙って入れ!)
口には出さず、背中を押した。
いや、正しくは背中を押しこくった。

=つづく=

「夢乃家」
 東京都江東区5-16-2
 03-3644-2402

2018年3月5日月曜日

第1820話 三匹のおっさん (その2)

三匹のおっさんは永代通りを東へのんきに歩いた。
東陽3丁目の交差点をを左折して
大門(おおもん)通りへ入る。
洲崎遊郭と吉原遊郭を結ぶ道筋がここ。

芝増上寺の大門(だいもん)と読みを異にするのは
いくら何でも遊郭と仏閣を一緒くたにはできないから。
そりゃ”性”と”聖”をごちゃまぜにしちゃいかんわな。
とは言っても古今東西、
聖職者による性食はあとを絶たんがネ。

15分以上歩いたかな?
到着したのは
夜な夜な近隣の住民が押し寄せる「夢乃家」。
江東区で”夢”と聞くと、
第一感は夢の島だが、ここは「夢乃家」だ。

引き戸を引けば、左手にカウンター、
右には4人掛けテーブルが2卓、
奥には一般家庭のお茶の間みたいな小上がり。
下町ならではのレイアウトといえよう。

人気店につき、念のため、開店時刻の17時半に
カウンターの席を予約しておいたのだが
奥のテーブルに案内された。
手前の卓上にも予約札が置かれていた。
初老の夫婦、二人だけの切盛りである。

そこそこ立て混んでいるから
なるべく女将の手をわずらわせまいと、
サッポロ生ビールの大ジョッキをお願いする。
いや、これがまたデカい。
まっ、J.C.の手に、もとい、
ノドにかかれば、どうということもないがネ。

おっさん二人は相も変わらず日本酒だ。
ともに筋金入りの呑ん兵衛だから
心配は無用だけど、いささか飲み過ぎ、
ちと心配になってきた。

つまみの注文は客がメモ用紙に
ボールペンで書きこむスタイル。
イチ推しの焼きとんはシロとレバを3本づつ。
まぐろぶつを1人前にアラ大根を2人前、
ササッと記入してスッと提出した。

炭火で焼いたわりに串はそれなり。
焼き魚が旨いらしいが
当夜は鮭ともう一つは何だったっけなぁ・・・。
食指が動かずスルーしたのだった。

=つづく=

2018年3月2日金曜日

第1819話 三匹のおっさん (その1)

”三匹のおっさん”と言ったって
TV東京のドラマじゃございやせん。
ここからは東京下町に現れた、
”三匹のおっさん”のドキュメンタリーにござんす。

夕暮れせまりきて町も色づく門前仲町。
深川不動の参道に三匹が集結した。
時刻は16時過ぎだった。
永代通りを横断し、門仲のランドマーク、
「魚三酒場」に群れなす呑ん兵衛を尻目に
分け入ったのは、その裏路地にある立ち飲み酒場。
何度か紹介したことのある「ますらお」だ。

派手な看板もなく、店舗は2階なのでまったく目立たない。
階段を上がると店先に一人の女性がたたずんでいる。
立ち飲みながら卓にスペースがなくて
順番を待っているとのこと。
開店1時間でもうこの混みようだ。

15分後、案内されて入口近くの小卓を前に立つ。
J.C.はキリン一番搾りの大瓶、
ビールを好まぬほかの二人は冷酒をお願い。
サイズの異なるグラスを合わせた。

つまみは初がつおの刺身とうなぎ白焼きの短冊。
アッサリとした上りがつおは
脂の乗った下りがつおより好きだ。
ニンニクが欲しいが生姜で我慢する。

うなぎも上々。
何たって添えられた本わさびがうれしい。
銀座の鮨屋で修業した店主の矜持がうかがえる。
立飲みだから値付けは抑えめ。
粉わさに妥協しない姿勢を称えたい。

仲間の頼んだ江戸春菊ひたし、
牛すじ煮込みにも箸を出した。
どちらも実に旨い。
雰囲気や使い勝手に多少の難があるものの、
東京一の立ち飲み酒場と言い切ってよい。

こちらも冷酒に切り替えて菊正の樽と
屋号の由来にもなった益荒男を1杯づつ。
益荒男は石川県・加賀市の産だ。
以前にいただいたが風味を忘れてしまったので
再トライに及んだのだ。
ちょいとばかり重さを感じて好きなタイプではないネ。
まっ、いいか。

1時間弱の滞在で2軒目へ。
東京メトロ・東西線で門仲の一つ先、
木場方面へ歩いて向かう。
地番は東陽町5丁目である。

=つづく=

「ますらお」
 東京都江東区富岡1-5-15
 03-5809-8256

2018年3月1日木曜日

第1818話 焼き鳥で汚名挽回

1週間ほど前、大塚の海南チキンライスで大きく外し、
旧知の友の面前で面目を失ったJ.C.、
汚名を返上するため、
約束した焼き鳥屋の吟味に入っていた矢先だ。

当のK枝サンからメールが来信。
知人に推奨された1軒があるとのことで
その店に落ち合った。
千駄木は団子坂の「どど彦」である。

「どど彦」? 何という屋号であろう。
漫画家・楳図かずおの「まことちゃん」に登場する、
女人の乳房を持ったブルドッグ、
いや、いや、ブルドッグの面相をした女人だわな。

とにかくカウンターに二人横並びでスーパードライ。
下戸の相方は例によって乾杯の1杯のみである。
お通しは鶏手羽元の醤油煮が1本。
手羽元・・・、ドラムスティックってヤツだネ。
レシートにはこれが350円とあった。
う~ん、何だかなァ・・・。

そもそも鶏手羽はモモに近いほうから順に
手羽元・手羽中・手羽先の三部位。
最も美味なるは手羽中だろう。
よって、ここが一番高価だ。

まっ、手羽元と相方が注文した味噌キャベツで
自分だけビールのグラスを重ねた。
どこのどの鶏だか素性の知れない、
ハツとハツモトがそれぞれ90円。
鳥取県産・大山(だいせん)鶏使用の
モモとボンジリは倍の180円。
その4本から始めた。

ベストは安価なハツモト。
のちほど再リクエストしたときには売切れを言い渡された。
おそらく1人1本限定なのだ・・・残念。
ないと言われると余計に欲しくなる。

レバ、つくね、うずら玉子と食べ継ぐ。
佳店のレベルには達している。
達してはいるが何か未到達な部分があることも確か。
K枝サンの知人オススメの厚揚げ焼きもイマイチだ。
もっともこれは既成の厚揚げを焼いたのではなく、
既成の豆腐を油で揚げた”自家製厚揚げ”だった。

芋焼酎・晴耕雨読のロックを2杯たしなみ、
滞在時間は1時間とちょっと。
近所の中華屋に移動して餃子と肉そばで締めた。
海南チキンライスの汚名挽回も何だかうやむやになり、
お別れしたのは21時前でJ.C.にはまだ宵の口。
だけど、こういうのも悪くはないネ。
わが身の健康を保つには毎晩、
下戸と晩飯食ってりゃ、それで済むもんねェ。

「どど彦」
 東京都文京区千駄木3-36-11
 03-5834-2553