2018年7月31日火曜日

第1926話 インドまぐろの三種盛り (その2)

上野駅の東側、旅館の並ぶ界隈の地番は東上野3丁目。
思い出すのは東宝映画「駅前旅館」(1958)だ。
”駅前シリーズ”第一作に位置付けられる名作は
森繁&伴淳のゴールデンコンビによる掛け合いが素晴らしい。
殊に江の島を舞台にした客引き口上の見事なセリフ回し。
当時は客引きの腕を磨くため、
全国の旅館から番頭たちがこの狭い島に集結したと聞く。
ホンマかいな?
それはそれとして
あゝ、わが国に名優絶えて久しい。

相対的に数を減らしたものの、
エリアには中小のホテルや旅館がいまだに残る。
代わりに浅草通りの北側、東上野4丁目あたりに
続々と新しいホテルが生まれている。

まっ、東から西から日本が今まで経験したことのない、
膨大な数の来訪者が押し寄せているから
東京オリンピックまでは上野に限らず、
23区の繁華街はこんな状況が続くのだろう。

旅館街を抜けてリトル・コリアに出た。
コリアンの料理店・食料品店・精肉店などが並んでいる。
J.C.より一つ年かさの老舗、
「板門店」も健在で盛業を続けている様子だ。

昭和通りを西に渡って昼飲みのメッカへ。
この界隈は上野6丁目。
線路をはさんでアメ屋横丁の反対側に当たる。
しっかし、何処からやって来たものか、
明るいうちからよくもまあ、
これだけの呑み助が集まったものよのぉ!

上野・浅草において
昼酒で後ろ指を指されることはない。
むしろ東京の二大聖地に来て
飲まない人のほうがバカにされる・・・
何てことはないけれど、
J.C.は飲まぬくらいなら上野・浅草には行かない。
敬愛する池波正太郎翁がのたまう、
「飲まぬくらいなら蕎麦屋には入らぬ」
その至言と同じことなのだ。

さて、やって来た「かのや」。
前回は広々とした2階テーブル席だったが
今回は単身につき、1階のカウンターに通された。
あれ~、この場所は以前、
「一力」という焼きとん屋だったハズだがなァ。
レイアウトに見覚えがあるから間違いない。
いつのまに侵食されちまったんだろう。
思わず首を傾げたものである。

=つづく=

2018年7月30日月曜日

第1925話 インドまぐろの三種盛り (その1)

「らーめん 稲荷屋」でブイヤベース・ラーメンをいただき、
次回、8・9月の限定商品が気になって店主に訊ねると
まだ決定ではないとしながら
おそらく冷たい野菜のポタージュになるとのこと。

ふ~ん、じゃが芋のヴィシソワーズかな?
グリーンピースをふんだんに使った、
ポタージュ・サンジェルマンの冷製だろうか?
冷たい野菜のスープとなれば、
イベリア半島のガスパチョがピンとくるが
あれはポタージュとは言わんわな。

それはそれとして身の行く末であった。
ノガミに戻るか、エンコに往くか
そのことである。
ここでひらめいたのが1軒の大箱居酒屋。
「かのや」といって上野随一の人気酒場、
「大統領 支店」の正面に位置する。

10日ほど前、ここで開かれた飲み会に遅れてジョイン。
メンバーはみな、かなりの酩酊ぶりである。
席に着くやいなや、隣りにいたへべれけのS子嬢が
卓上のまぐろを一切れ箸でつまみ上げ、
「これ美味しいのヨ、ハイ、アア~ン!」と来たもんだ。

当方、紀州の老ドンファンじゃないから
やんわりとお断りしたものの、
なおもアア~ンとやられ、角を立てるのも何だし、
のちのち介護されたときの予行演習もいいかな?
と思って素直に応ずる。
するとビックリ、この赤身が本当に旨かった。
居酒屋のレベルをはるかに超えている。

生ビールが届いたところでメニューをチェック。
どうやらインドまぐろ三種盛りだったらしい。
中とろ・大とろの姿はすでになく、
赤身だけが残されていたようだ。
てなこって、あらたに三種盛りを独り占めしたくなり、
「かのや」の再訪を決断した次第である。

稲荷町から上野に引き返す途中、
浅草通り左手の路地に数軒の日本旅館を見とめた。
そう、かつてここは東京有数の旅館街だったのだ。
敗戦後まもなく、焼け野原に建ち始めた安直な旅館は
東京を訪れる庶民の人気を得ることになる。
中・高生の修学旅行でも大いに利用された。

昭和も30年代半ばになると、
キャパの大きい本郷の旅館に修学旅行生は流れてゆくが
ビジネスマンや観光客の支持を失うことはなかった。
ほとんどビジネスホテル化されたものの、
昭和の匂いが立ち込める懐旧の一画である。

=つづく=

2018年7月27日金曜日

第1924話 猛暑日のブイヤベース・ラーメン (その2)

Tシャツに汗を吸わせながら歩いて来た「稲荷屋」。
店内は涼しく快適である。
いかに辺鄙な場所でも棲めば都。
どんなに猛烈な暑さでも涼めば天国。
人はそうして環境に適応してゆくのだ。

そんなことよりブイヤベース・ラーメンだった。
皿の海から丘に目を移す前に
海には小さな花が散っていたのを思い出す。
数片の可憐な薄紫は花穂である。

花穂というのは紫蘇の葉(大葉)の花のこと。
刺身のあしらいに添えられる紫蘇は3種類。
一般的なのは大葉。
茎に実を成らせたのが穂紫蘇。
つぼみが開いたのは花穂。
である。

ナスタチウムにマーシュに花穂。
これだけでも人気ラーメン店のアルジが併せ持つ、
センスとデリカシーを垣間見ることができた。
前回食したワンタンメンのワンタンはいただけなかったが
ラーメン・アラ・フランセーズに期待の高まりを覚えた。

皿の丘には3種類のフリュイ・ド・メール(海の幸)。
ブイヨンでゆでられた黒鯛・いか・帆立である。
2切れの黒鯛ははじめ鰆かと思ったが特有の臭みがない。
何だろう、黒むつかな? それにしちゃアッサリしている。
店主に訊ねて判明した次第だ。

いかは森永ミルクキャラメルのような粒が2片。
かなりの厚みからコウイカであることが判る。
それもモンゴイカだろうな。
帆立は貝柱が1つほっこりと―。
よく見れば魚介の下にうっすら黄色いソースが敷かれている。
これはブイヤベースに付き物のアイオリ(ニンニクマヨネーズ)。
願わくばもっとタップリ添えてほしかった。

券売機の貼り紙にあるように限定フレンチ版は量が少なめ。
これはラーメンで満腹にしたくない向きにはむしろ好都合。
すんなり居酒屋へ移動できるからネ。
美味しく食べ終えて考えた。
さて、どこへ向かうとしようか?

稲荷町は上野と浅草のちょうど中間点。
思いをめぐらせていたら芭蕉師匠の名句が脳裏をかすめた。
 花の雲 鐘は上野か 浅草か
J.C.の心境を詠むと
 花の午后 酒は上野か 浅草か

これがもし高倉健扮する昭和の残侠、花田秀次郎なら
 ノガミに戻るか エンコに往くか
そんなセリフが口をつくのでありましょう。

「らーめん 稲荷屋」
 東京都元浅草2-10-13
 03-3841-9990

2018年7月26日木曜日

第1923話 猛暑日のブイヤベース・ラーメン (その1)

こう毎日、猛暑日が続いたひにゃ、
いちいち猛暑日とことわりを入れてもあまり意味がない。
半月前に予告しておいた、
台東区・稲荷町の「らーめん 稲荷屋」。
そこのブイヤベース・ラーメンを食べに出向いた。
6・7月限定のスペシャル・メニューである。

JR上野駅の2階部分にある広場から延びる歩道橋を渡り、
浅草通りに降りて東へ歩く。
その名の通り、上野から稲荷町・田原町を経て
浅草に続く大通りである。

街路樹にポツンポツンと百日紅(サルスベリ)が混じっている。
濃紅に染まった花が殺風景な道に彩りを添えている。
杏(アンズ)の花は薄紅色だが百日紅は濃紅色だ。
例年ならば8月に開花する百日紅。
異常に早い梅雨明け、それに続く猛暑の影響は
人だけでなく、草木にも及んでいる。

予約した13時を回ること10分。
思いのほか店内は空いていた。
券売機の限定メニューは1日10食のみの提供につき、
すでに売切れの赤ランプが点っているが
店主に900円の食券の購入を促された。
え~っと、900円、900円・・・あった、あった。
2週前にいただいたワンタンメンのボタンを押す。

カウンターの一番奥に着席。
サービス台の上に食券を置くと、ワンタンメンが2つ並んだ。
隣客の注文は正真正銘のワンタンメン。
J.C.のはワンタンメンに名を借りたブイヤベース・ラーメン。

待つこと5分少々。
ブイヤベース・ラーメンはドンブリではなく、
周りに平たい縁のあるスープ皿で供された。
紛れもないサフランの香りが立ち上った。
スープにやや縮れの中太麺が浸っている。

麺の上を飾る1枚の葉はナスタチウム。
丸く可愛い蓮にも似たこのハーブは
その形状から金蓮花の別名を持つ。
数多いハーブの中にあって
もっともチャーミングなルックスの持ち主がナスタチウムだが
東京で市販されているのを見たことはない。

ほかに小さな葉が3枚。
こちらはマーシュだネ。
20年前に離れたニューヨークでは
スーパーやグロッサリーでよく見かけたハーブながら
これまた東京ではめったに拝めない。
食の大都・東京も食用ハーブの普及度には限りがあるようだ。

スープひたひたの皿の海から
縁どる丘に目を移してみよう。

=つづく=

2018年7月25日水曜日

第1922話 成増ではかき揚げを (その3)

「やまだや」のあさりかき揚げに大満足。
とてもユニークな揚げ上がりで
酒のつまみにピッタリだし、
飯のおかずにもバッチリだろう。
現に家族連れのチビッ子がお茶碗片手に食べていた。
 
ひっきりなしにといったふうでもないが
客足はなかなか衰えない。
カウンターはなく、小卓もないから
単身で訪れる客は相席を余儀なくされる。
一つのテーブルで晩酌と晩飯が同居する景色は
東京広しといえども、そうそうお目に掛かれまい。
 
さて、さて、
たこ揚げ@中村橋→カラオケ@練馬→かき揚げ@成増
と流れきて、そろそろ仕上げに取り掛からねば―。
手っ取り早いのは近場のスナックだ。
移動にあまり時間をさかれたくない。
 
昼下がりから飲み続けたが、ずっとビールで通した。
この夜はW杯の決勝戦が待っていたからネ。
酔いが回って居眠りなどしたら目もあてられん。
最後はスナックに相方を置き去りにして
早めの帰宅を決め込んだ。
 
家でシャワーを浴びながら気づいた。
今夜は食事らしい食事を取らなかった。
冷蔵庫から缶ビールを取り出したはいいが
何か作るつもりはサラサラない。
 
缶詰のつまみ、いわゆる缶つまでも開けようか―。
何だかそれすら面倒くさい。
だいたいサッカーというスポーツは
食事をしながら観るに不向きなのだ。
 
米人が好きな野球のように攻守交替がないし、
日本人の愛する大相撲のような仕切り直しもない。
とにかく画面に集中することが大事で
ロンドンのパブでは客はみんな立ったまま。
何も食わずにビールを飲みながらゲームを楽しむ。
 
襟を正してTVの前、さァ、キックオフである。
ところがギッチョン、
好事魔多しとはこのことで、いつの間にやら白河夜舟。
小唄の佳曲、「置炬燵」の文句じゃないが 
   ♪  ついうたた寝の耳元に  ♪
歓声で目を覚ますとクロアチアのゴールシーンだった。
やったぜクロアチア!
一瞬、歓んだものの、スコアはすでに4ー2。
あ~あ、やっちまったヨ。
自慢じゃないがゴールはただの1つも観てないぜ!
 
「やまだや」
 東京都板橋区成増2-19-3
 03-3930-5760

2018年7月24日火曜日

第1921話 成増ではかき揚げを (その2)

板橋区の北のはずれ成増に
90年以上の歴史を刻んできた大衆食堂「やまだや」。
うかつにも半年ほど前まで、その存在さえ知らなかった。
とにもかくにも初訪問がかなった次第だ。

当店の休業日は珍しくも土曜日。
土曜を週に一度のの享楽日と、
そう決めている身にとって不都合きわまりない。
よって思い立った日から決行まで
ずいぶん月日を費やした。

暖簾をくぐり、引き戸を引き、
敷居をまたいでおジャマさま。
カウンターはなく、四人掛けのテーブルがいくつか、
いや、六人掛けもあったかもしれない。

卓に着いたわれわれはまずアサヒの大瓶。
いつものクセで隣卓に並ぶ料理をチラリと盗み見る。
もちろん、お客さんには覚られずにネ。
いえ、われながらイヤなクセだと自覚しているし、行儀も悪い。
判っちゃいるけど、やめられないんだな。

おっと、鯨のベーコンが旨そうだ。
輪郭を縁取る食紅が色落ちせずに鮮やか。
ウン、これは上物に違いないと判断して即注文する。
くじベコに興味を示さぬ相方は茄子の煮浸しを通した。

 
成増に来るのは何年ぶりだろう?
この町で飲食に及ぶのはいつ以来だろう?
そんなことを考えながら
答えの出ぬうちにつまみの2品が着卓した。
 
さっそく辛子をチョコンと載せた1枚を口元へ。
ングッ、モグッ、も一度モグッ・・・
なんかヘンだなァ、旨みが舌に乗ってこないゾ。
思いのほか、滋味に乏しく、これは当たりとは言い難い。
自信を持っていた目利きに誤りが生じてしまった。
そんなことを意に介さぬ相方は茄子に舌鼓を打っている。
 
気を取り直して追加に及んだのは
相方がリクエストしたあさりかき揚げだ。
中村橋ではたこ揚げだったが成増ではかき揚げである。
くじベコのいなしに軽く泳いだあとだけに
さして期待もせなんだが、このかき揚げはクリーンヒット。
食感はサクッときたあとフンワリとくる。
 
これは卵白の効能かな?
それとも造り手の技術だろうか?
いや、恐れ入りやの鬼子母神、
びっくり下谷の広徳寺でありました。
 
=つづく=

2018年7月23日月曜日

第1920話 成増ではかき揚げを (その1)

西武池袋線・中村橋から池袋寄りに1駅戻る。
降り立ったのは練馬区の中心、練馬駅である。
この日の相方は
飲む・歌う・食うの三拍子そろった人生の達人。
即刻、駅そばのカラオケボックスに潜入した。

中高年の健康に飲み過ぎ、食べ過ぎは大敵ながら
歌うのと歩くのはかなり効能が高い。
俗に歯・目・マラなどと強調されるが
声のかすれと歩行困難は衰えというか、
人生の幕引き間近とみてよかろうと思う。
読者のみなさんにおかれても
よく歌い、よく歩き、ついでによく眠られんことを―。

中村橋、練馬と遊び歩き、一行、といっても二人だが
練馬区の隣りに位置する板橋区・成増にやって来た。
めったに行かない練馬区に行ったら
こちらもめったに行かない板橋区は帰りがけの駄賃だ。

東武東上線、東京メトロ有楽町線が乗り入れる成増へは
電車を使わずにバスで入城した。
何たる好都合か、練馬駅北口発、
成増駅南口行きのバスに乗ってネ。

それはそうと成増は
1970年を挟んで5年ほど棲んだ懐かしの町である。
駅前商店街に古く良かりし大衆食堂ありと聞き、
朝から晩酌はそこに決めていた。

昭和元年創業の「やまだや」は一見、
都内各地、主として23区の東側半分に点在する、
「ときわ食堂」にも似たたたずまい。
92年もの長きに渡り、暖簾を守り続けているのは
大衆食堂としては奇跡に近い。

それにしても昭和元年というのは
1926年12月25日~31日までのたった1週間。
ホントにその短い期間にオープンしたんかいな?
猜疑心が深くなくともつい、疑りたくなる。
年の大半を占める大正15年の開業とみたほうがよさそうだ。
いずれにしても1926年創業に間違いはなかろう。

当然、J.C.が暮らした5年間にも
「やまだや」は存在していたわけだが
記憶の」片隅にすら残っていない。
もっともその頃は高校及び、大学に通っていたから
外食の機会にはそれほど恵まれなかった。
でもなァ、母親の夕餉の買い物につき合い、
たびたびこの商店街を行き来したんだがねェ。

=つづく=  

2018年7月20日金曜日

第1919話 中村橋でタコ揚げを (その2)

西武池袋線・中村橋の「大天」。
2本目のビールを飲んでるところにつまみが運ばれた。
それにしてもビールがちとヌルいな。
1本目も気になったんだが今度のはもっとヌルい。
まっ、許容範囲だがネ。

まずタコ揚げである。
”焼き”でなくって”揚げ”である。
もっとも築地の名を騙った群馬発祥の「築地 銀だこ」なんか、
油をたっぷり使うから揚げてるようなもんだわな。

デッカくまん丸いのが5カン付けで来た。
デカ過ぎて粉が多いせいか、食感はあまりよろしくない。
過ぎたるは及ばざるが如し。
掛かってるソースはオタフクだネ。
どうにか2つやっつけて
3つは真っ赤な紅しょうがともども相方に進呈した。

アジの昆布〆は小アジの半身が4枚。
それぞれの下に大根&にんじんのナマスが敷いてある。
これは酢〆ではない昆布〆の酸味を補うための工夫だろう。
鮮度のほうもギリギリOKだった。

鮮度落ちを再利用する意味合いもあろうが
手間ひまの掛かる昆布〆の一仕事を
あえて大衆食堂がこなす誠意には敬意をもって応えたい。
とはいえ、フツーの客はアジの昆布〆よりも
たたきやフライに走りがちだがネ。

ここで3本目のビール。
ややっ、こいつはよく冷えてるじゃないの。
種明かしは簡単で冷蔵ケースに並んでる瓶を
手前のほうから順にサーヴするせいなんだ。
冷たいものは奥から奥からお願いしますヨ。

そして最後に串かつ。
揚げ油に劣化とてなく、わりとアッサリ揚がっていた。
ただし、ほとんどが玉ねぎで肉感に乏しい。
まっ、玉ねぎは大好きだから問題ないが
熱の通し過ぎでベチャッとしていた。

添えられたキャベツと貝割れ大根に
市販と思われるドレッシングが掛かっている。
サウザンアイランドに間違いはないものの、
ほんのりとクミンが香る。
おかげでエキゾチックな仕上がりとなった。

1時間ほどの滞在でお勘定。
くだんのオジさん「、
「3050円だけど、3000円で―」
引き取ったJ.C.は
「いいですヨ、いいですヨ」
そう言いながらも続けて
「それじゃ、お言葉に甘えて―」
千円札を3枚取り出したのでありました。

「大天」
 東京都練馬区貫井1-2-10
 03-3990-5602

2018年7月19日木曜日

題1918話 中村橋でタコ揚げを (その1)

此度は練馬区・中村橋に出没。
滅多な事では訪れぬ練馬区である。
池袋駅の雑踏にもまれ抜き、西武池袋線に乗ってきた。
猛暑日のせいだろう、豊島園行きの車内には
プール遊びと思しき家族連れが何組も―。

途中、練馬で乗り換えて到着。
改札で待合せた相方と北口に出た。
駅前の商店街はうだるような暑さ、いや、熱さであった。
オイラもプールで泳ぎたいよぉ!
そう思いながら徒歩1分の大衆食堂「大天」へ。

店先には持ち帰り用の焼き鳥と揚げ物が並んでいる。
引き戸を引くと店内は五分の入りだ。
入口そばのテーブルと小上がりが空いており、
靴を脱ぐのは面倒だから迷わずテーブルへ。

われわれの席のすぐ隣りが小上がりで
都合のよいことにティッシュボックスが2つ。
ありゃりゃ、どちらも空っぽじゃないか!
店の隅にに積み上がったボックスを見とめたJ.C.、
よせばいいのにカラの2つを持って交換に動いた。

すると、積み上がっていたのもみ~んなカラなのだ。
おまけに厨房から出て来た接客のオジさんに制せられ、
手持ちの2つを取り上げられた。
オジさん、言葉を発せず、さっきあった場所に戻したネ。

何のこたあない、あれはゴミ入れだったんだ。
いっぱいになったらそのまま捨てるんだと―。
そりゃけっこうなことだけど、
肝心の新しいティッシュはどこにも見当たらないんだヨ。
店の方針にイチャモンはつけないが
オラ、こんな店初めて見ただヨ。

壁に貼られた短冊がずいぶんな枚数。
加えてオジさんから与えられたメニューブックが
ドリンクとフードが別々に1冊づつ。
例によってビールを飲みながら
ゆるりと拝見することにした。

ビールの銘柄はスーパードライの中瓶。
ほかに一番搾りの用意もあった。
大衆食堂では大瓶が主流なのにここでは中瓶。
早いとこ他のドリンクに誘導するつもりなのかもネ。

通したつまみは
アジの昆布〆・串カツ・タコ揚げ
である。
そう、サブタイトルのタコ揚げは
空に揚げる凧ではなくて海産物の蛸。
それも通常のタコ焼きではなく、タコ揚げと来たもんだ。

=つづく=

2018年7月18日水曜日

第1917話 一年半ぶりの焼肉 (その3)

「炭火焼肉 きたむら」の四人掛けテーブルに二人。
ビールを注しつ注されつしながら肉の到着を待っている。
卓に炭火が運ばれ、タレとレモン汁が配置された。
キャッシャーの脇に
「備長炭使用店」の札が掲示されているが
備長炭は備長炭でも紀州産の上物ではあるまい。
炭に成形の痕跡が残って自然な感じがしない。
まっ、細かいことを追求するのはよそう。

最初にハラミとカルビが登場。
どちらにもうっすらとタレが掛かっている。
互いに箸でつまみ、ハラミのほうから焼き網に乗せた。
焼き過ぎないように一度だけターンオーバーさせてパクリ。
適度な噛み締め感が快い。

近年、といっても20年は経つかな、
ある時期から急速に人気を集めたハラミだが
脂っこいのが苦手な向きの強い味方になってくれる。
アメリカではハンガー、フランスではバヴェットと呼ばれ、
ファンのあいだではサーロイン、
アントルコートよりも愛好されている。

カルビもいいネ。
ハラミに比べて噛み応えが増している。
これが上カルビとなったらどんなのが出て来るのかネ?
庶民には並でモア・ザン・イナッフじゃないかいな。

ここから二人でボトル1本はちょいと荷が重いから
グラスワインを所望する。
珍しい黒ワインを見つけた。
一般に黒ワインとはルーマニア産の暗褐色の赤ワインだ。

サントリーが手がけているカーニヴォのジンファンデルを。
うわっ、すんごい凝縮感である。
当方の好みじゃないが相方は絶賛していた。
とにもかくにも牛の焼肉との相性はすこぶるよい。

続いてロースと内臓2種。
ロースはしっとりとして懸念されたパサつきもなく、
期待を大きく上回った。
ホルモンとレバーは焼きとんのシロとレバのほうが好き。
内臓は牛よりも豚や鶏を好む。

特別メニューの角切り和牛・漬けサガリを追加。
ついでに同じく黒ワインの、今度はコスタ・ルッシを。
サガリは牛の横隔膜だからハラミと変わらない。
ただ、厳密にいうと、横隔膜(ハラミ)でも
背中(上)側をカクマク、
肋骨(下)側をサガリと区別するのが正しく、
ハラミ=カクマク+サガリ となるそうだ。

理屈はともかく、漬けサガリが旨かった。
先刻のハラミと同等、いや、それ以上かもしれない。
黒ワインはカーニヴォの圧勝で厚みがまったく違う。
何やかやと一年半ぶりの焼肉を満喫してしまった。
毛嫌いしていたことなど忘れ、近々また来よっと―。

=おしまい=

「炭火焼肉 きたむら」
 東京都北区西ケ原1-3-7
 03-5972-4170

2018年7月17日火曜日

第1916話 一年半ぶりの焼肉 (その2)

北区・西ケ原の「炭火焼肉 きたむら」にて
生ビールのグラスを合わせたところ。
当夜の財務相は焼肉好きだが野菜はもっと好き。
イの一番に白菜キムチとナムル盛合せを通した。

「つき合ってくれたのでお肉は好きなモノをどうぞ」―
泣かせることを言ってくれるじゃないの。
こちとら、真っ先にタン塩のレモン汁添えなんかを
食わせられるんだろうな・・・悲観してただけに
胸弾ませてメニューを開く。

すぐに運ばれたキムチをつまみながら吟味を重ねた。
そう言やあ、われわれ子どもの頃は
キムチなんて言葉はなかったゾ。
みな、朝鮮漬と呼んでたんだ。
朝鮮焼肉と朝鮮漬、心なしか懐かしさを覚えるネ。

J.C.が択んだ肉の部位はかくの如し。

 ハラミ カルビ ロース ホルモン レバー

すべていわゆる〈並〉である。
〈上〉や〈特上〉は優良品にぶつかる確率は高い。
ただし、柔らかい肉質は歓迎できても
脂の乗り過ぎには閉口してしまう。
A5級なんてのをよく目にするけれど、
ああいうのはホンの1切れか2切れでじゅうぶん。
本まぐろの大とろに共通するものがあるネ。

牛肉もまぐろもサシはほどほどでけっこう。
サシがビッシリ入ったのを
バカスカ食うバカとはサシで食事なんかしたくないヨ。
こっちのメシが不味くなる。
おまけに酒まで不味くなる。

それにしてもこの朝鮮漬、じゃなかった、キムチ。
あっさりしていてなかなか。
北朝鮮の水キムチにはほど遠いが
あんまり味の濃いのは苦手だ。

朝鮮通信使が日本から持ち帰った唐辛子が
半島のキムチに歴史的一大革命を起こしたハナシは有名。
カプサイシンが腐敗を防ぐため、
魚介類の添加が可能となって
キムチに多彩なヴァリエーションを生むことになる。

ぜんまい・豆もやし・小松菜のナムルも上品な仕上がり。
おざなりなところがない。
ビールにも焼肉にも寄り添う一皿と言えよう。
ふむ、フム、この「きたむら」って店は
「Lee Cook」にちょいと似てるかも?

=つづく=

2018年7月16日月曜日

第1915話 一年半ぶりの焼肉 (その1)

昨今は朝鮮焼肉とは言わぬらしいが
その焼肉を食べなくなって久しい。
ここ数年は誘われてもウンと言わなくなった。
若い頃は好きで、よく食したんだがなlァ。

一番の悩みは髪の毛や衣服に付着する匂い。
そして二番目は翌日のニンニク臭。
ニューヨーク滞在時はゴルフのあとで
シャワーも浴びずにそのまま仲間と焼肉店というか、
コリアンレストランに再三立ち寄った。
飲んで食って帰宅後、汗と埃と臭気を
きれいさっぱり洗い流すのは実に気持ちのよいものだ。

文京区・白山上に「Lee Cook」という小ジャレた店があり、
たまに訪れていたが
いつの間にかビルの建て替えとともに閉じてしまった。
しばらく経ってから
同区・向丘での営業再開を知ったものの、
何となく足が遠のき、未踏のままだ。

焼肉好きの友人から誘いを受けたのは今月初め。
いつもは他の料理に変更を願うところを
”ご馳走するから”の一言でコロリと気が変わる。
出費させといて、ああだこうだとはさすがに言いにくい。
あんまりうれしくないけど、とにかくお供することに―。

焼肉かァ・・・いつ以来だろう。
調べてみたら去年の2月初旬が最後。
偶然にも白山下の店だった。
安かろう、悪かろうの粗末な肉質のせいで
こっぴどい目にあったっけ。
このときも誘いに渋々重い腰を上げたのだった。

連れだっておジャマしたのは「炭火焼肉 きたむら」。
地番は北区・西ケ原。
JR駒込駅から本郷通りを旧古河邸に向かってしばらく、
ビルの2階に店はあった。

週末のせいか、家族連れで賑わっている。
ドリンク・メニューに目を通してイヤな予感がした。
生ビールはプレミアム・モルツ。
すぐその下の瓶ビールには銘柄が明記されていない。

ウエイター君に
「瓶ビールもプレモルなの?」―訊ねると
「いえ、スーパードライです」―ありがたきお返事。
一気に肩の力が抜けた。
心配させられたが幸先はいいゾ。

乾杯の際には
「いただきま~す!」―良い子のように元気よく発声。
何たってゴチになりやすんでネ。

=つづく=

2018年7月13日金曜日

第1914話 近年無沙汰のラーメンながら (その1)

台東区・稲荷町の「らーめん 稲荷屋」。
7~8席のカウンターには数席の空きがあった。
奥にはテーブル席もあり、そちらは満卓の様子だ。
目の前のプラスチック製コップに
ピッチャーから自分で冷水を注ぎ、ドンブリの整いを待つ。

10分と掛からずにワンタンメンがサーヴされた。
ドンブリは磁器だがソーサーと散り蓮華はプラスチックだ。
器の表面を飾るのは
チャーシュー・シナチク・焼き海苔・貝割れ・刻みねぎ。
そして5つの肉ワンタンで、盛付けははなはだ美しい。

真っ先に目を引くのはチャーシュー。
注文の都度、店主が肉塊から切り出す1枚は
厚くはなくともかなりのサイズ。
ローストビーフのイングリッシュ・カットを連想させる。
肩ロースだろう、適度な脂身を従えて食感もよろしい。

スープを一口すすると、ファーストアタックはチキン出汁。
ラーメン、いや、中華そば、いやいや、
支那そばは鶏出汁が一番。
断定はできないが鶏ガラに加えて身肉の旨みも感じた。
ここ十数年、飛ぶ鳥を落とす勢いの魚介系出汁より、
J.C.は落とされた飛ぶ鳥を好むのである。

麺は中細のストレート、相当の硬茹でだ。
これなら名うての麺硬派もじゅうぶんに満足するハズ。
最後までノビ切らなかった。
シナチクも歯応えをしっかり残して上々。
ただし、海苔と貝割れはなくともよい。

かように美味しいラーメンだが問題はワンタンにあった。
かなり大きめの5つは餃子を思わせた。
餃子の周りに雲吞皮のフリルを纏わせたが如く。
ドンブリの半分を埋め尽くしている。
ツルツルの皮は好き。
しかしながら豚挽き肉のみの餡がイケない。
生姜が香るものの、豚挽きが肉々しいほど硬く、
食感を損なうこといちじるしい。
何かツナギが必要だろう。
1つ食して直ちにワンタンメンの購入を悔やんだ。

目の前の店主に
「限定10食は午前中に売切れちゃうの?」
「いや、あるときはあるんですがねェ。
 電話してくれれば取り置きしとくんですけど、
 どなたも電話してくれないんですヨ」

間髪入れずにピンときて
「今、次回の予約してもいいかな?」
「エッ、ええ」
てなこって2週間後の予約を入れた次第。
ブイヤベース・ラーメンのリポートまで
半月ほどお待ちを!

「らーめん 稲荷屋」
 東京都台東区元浅草2-10-13
 03-3841-9990

2018年7月12日木曜日

第1913話 近頃無沙汰のラーメンながら (その1)

ここ数年、日本の国民食、
ラーメンをあまり食べなくなった。
外食はもとより、家に買い置きのカップ麺も
そろそろ賞味期限を迎えようとしている。

そんなとき、手持ちのガラケーをいじくっていて
世にも珍しいラーメンにブチ当たった。
ブイヤベース・ラーメンというヤツで
造り手は台東区の仏具店街、
稲荷町のその名も「らーめん 稲荷屋」である。

ハハ~ン、半年ほど前に
猪・鹿・野鳥のコンソメがベースの
猪鹿蝶ラーメンを創作した店舗じゃないか!
そう、思い出したことである。
花札愛好家のJ.C.はヒドく興をそそられたが
残念ながら行く機会を得なかったのだ。

ブイヤベースはもっとも好きな仏料理の一つ。
サフランの風味に目がないからネ。
今回はハズせんゾ、行かねばならんゾ、
ブイヤベースに背中を押されての決断だった。

谷中界隈を散歩したのち、
よみせ通りで台東区のコミュニティ・バス、
めぐりん東西ルートに乗り込んだ。
京成上野駅を経由して台東区役所、
さて、そろそろ稲荷町だから
次の停留所で降りようと思った矢先、
バスはJR上野駅・入谷口に戻ってしまう。
どうやら最近、ルートが変更された模様だ。

多少のロスがあったものの、
入谷口から歩いたって、そう遠くはない。
14時半には「稲荷屋」に到着した。
人気店につき、行列は覚悟。
長蛇の列の出迎えを受けた場合は
はす向かいの「大和」に流れる算段はしてあった。

時間が時間のせいか、レツはナシ。
すんなり食券機の前に進んだ。
あちゃ~、ブイヤベースはもう売切れだぜ。
6・7月限定、1日10食のみの提供ではさもありなん。
例によって、ないモノねだりは何の意味も成さない。

あきらめてワンタンメン(900円)を購入。
頭の中では7月中に再訪するかすまいか?
11時の開店前から並ぶのはイヤだなァ・・・
いろんな思いが渦巻いていたのでありました。

=つづく=

2018年7月11日水曜日

第1912話 墨田の果ての鐘ヶ淵 (その2)

行き交う人とてない鐘ヶ淵の暗く細い商店街。
ポツリと灯りを点すちょうちんは
昭和の酒場、「栄や」である。
ガラスの引き戸を引くと、
先客は四十がらみのサラリーマン風がただ一人。
その彼もわれわれと入れ違いに離店していった。

カウンター内には八十路に足を
踏み入れたと思しき女将が一人。
お歳のわりに動きによどみがない。
日頃、立ち仕事で鍛えているから
体幹がしっかりしているのだろう。
大いに見習うべし。

スーパードライの大瓶をもらった。
こういう店に中瓶は似合わない。
突き出しはにしん昆布巻きがドサッと―。
あれま、こんなには食えないヨ。
自家製じゃなさそうだから残しても文句は言われまい。

生モノもあるにはあるが当店のウリは焼きとん。
カシラを塩、シロとレバをタレで2本づつお願いした。
すると女将曰く、
「レバは豚がなくって鶏なんだけど―」
「ああ、いいッスヨ」
鷹揚に応えたものの、本音は鶏より豚が好き。
まっ、ないものねだりしても始まらない。

焼き上がった串の1本1本はかなり大きく、
皿からはみ出さんばかり。
この店はなんでんかんでんドサッとくる。
あまりつままぬ飲み手にはちょいとツラいものがある。

ほどなく入店してきた近所のオッサンがかつお刺しを注文。
このボリュームがまたスゴかった。
3人前はあるんじゃないかと見まごうほどで
われわれが2人で挑んでも完食はムリだネ。
それでもオッサン、
大量の刻みニンニクとともに平らげちゃった。
世の中にはパワフルな中高年がいるもんだ。

今度は中年女性が単身で現れた。
こちらは客ではなく女将の娘サンだった。
何でも嫁ぎ先の岐阜から里帰り中とのこと。
店の2階に棲む女将と今宵は枕を並べて討死、
もとい、就寝に及ぶらしい。
親孝行なこってす。

みんなで世間話に花を咲かせていると、
頼みもしないのにいかにも場違いなローストビーフが
これもまたドサッときた。
近所の肉屋が持って来たというが、こんなに食えないヨ。
どうにか頑張り、あらかたを胃袋に送り込む。

夜も更けてきた。
そろそろ隅田川の対岸に戻らねば―。
お勘定は3千円でオツリがくる。
墨田のはずれの鐘ヶ淵、安くて多くて平和であった。

「栄や」
 東京都墨田区墨田5-41-9
 03-3610-4592

2018年7月10日火曜日

第1911話 墨田の果ての鐘ヶ淵 (その1)

墨田区の北の果て、
墨田5丁目に東武伊勢崎線・鐘ヶ淵駅はある。
かつてここに鐘淵紡績(カネボウ)の大工場があった。
現在はさびれにさびれ、外部からの訪問者も少ない。

そんな土地柄に思うところあって出掛けて行った。
浅草で一飲を喫したあと、伊勢崎線に乗って参上。
一つ手前の東向島(旧玉ノ井)駅は
高架化されているが、こちらは地上駅。
駅舎、踏切に昭和のよすがを偲ぶことができる。

一時、店をたたんでいたものの、
近くの古民家に移転し、営業を再開した「はりや」に入店。
なるほど雰囲気は悪くないけれど、
段差のある設いは居心地がよいとはいえない。
女将と若い娘の物腰や接客ぶりに余分な媚びはなく、
あくまでも自然体ながら、
客によっては冷たさを感じる向きもあろう。
ちょいとばかりシレッとしている。

浅草でビールを飲んできたからここではジンハイ。
いわゆるジンソーダはバーの定番だが
酒亭・居酒屋ではめったに見ないドリンクである。
ジンでもラムでもウォッカでも
氷と炭酸でグラスを満たす飲み方は好きだ。

当店の名物のゲソ天とキャベツ炒めを通した。
ここの料理は名が体をまったく表しておらず、
ゲソ天はそのままイカゲソの天ぷらではない。
細かく刻んだゲソ入りのお好み焼きなのだ。
よって、粉モノを愛する相方は歓びを隠さない。

キャベツ炒めもまたしかり。
少なめながら麺が入った焼きそばである。
でも、呑み助にこういうのは意外とうれしく、
ありそうでなかった妙案といえよう。

もっと巷に普及してしかるべきで
たまさか焼きそばや皿うどんを
つまみとするJ.C.にはありがたい。
粉モノ好きの相方はさらに相好を崩している。

週末の夜ということもあり、
家族連れの姿が目立ち、徐々に立て込んできた。
酒場において1杯だけで
立ち去る不作法を極力避ける常日頃。
今回は後続に席を譲る意味合いもあって
速やかなるお勘定は2千円でオツリがきた。

2軒目へ向かう。
駅から北へ延びる、くすんだ商店街に目当ての店はあった。

=つづく=

「はりや」
 東京都墨田区墨田2-9-11
 03-3612-9888

2018年7月9日月曜日

第1910話 久方ぶりに吉原参上! (その2)

 ソープランド地帯の鼻先にある「中華・洋食 やよい」。
小上がりに胡坐をかいて料理を待っている。
座布団の用意なく、尻は床にダイレクト。
出前注文の電話がひんぱんに鳴っている。

入店からかれこれ50分は経過したろうか?
ようやく八宝菜が運ばれた。
続いてエビフライ・ランチとカツ丼も―。
当方はビール飲みながらの談笑だから間が持てるが
飲まずに独りでひたすら待つのはシンドいな。
何せ、お友だちはスポーツ新聞とTVだけだもの。

まず、醤油ベースの八宝菜。
何と9割方は白菜だった。
あとは小海老少々に豚肉数片にニンジンとピーマン。
味もどうということはなく、いや、むしろ不味い。

ラードで揚げたエビフライは香り高いが
エビ本体とコロモの状態はあまりよろしくない。
エビフライに目のない相方の表情にも不満の色が濃い。
ワカメいっぱいの味噌汁と
ケチらない白菜漬&たくあんはそれなり。

さて、みんなが頼むカツ丼〈並〉は蓋付きドンブリで登場。
カツ丼は〈並〉に限る。
〈上〉にしちゃうとカツの厚さが増して
ご飯とのバランスが崩れる。
バランスを保つためにご飯まで増量されたひにゃ、
こちらの胃腸のバランスが崩れる。

蓋を開けたら玉子でとじられたカツが美味しそうだ。
玉子の白身と黄身をあまり混ぜないルックスもよろしい。
でもネ、期待したほどじゃないんだな。
エビフライ同様にラードは香るが味はイマイチ。
インパクトに欠けるというか、丼つゆにパンチがない。

それにしてもこれほど客を待たせる飲食店はまれ。
スタッフは3人で、店主とその母親だろうか?
それに店主の息子と思しき若いアンちゃん。
アンちゃんは主に出前をこなす。

調理はほとんど店主が担っているらしく、
連携プレーがスムースにいっていない。
TVのせいで非日常の客が押し寄せたせいだろう。
これではお得意様のソープ嬢にも迷惑が掛かろう。

食事休憩にすんなり出前が届かないと、
彼女たちのシゴトに影響を及ぼしかねない。
何といってもみなさん、
かなりキツい肉体労働に従事しておられますからネ。

「中華・洋食 やよい」
 東京都台東区浅草5-60-1
  03-3872-7710

2018年7月6日金曜日

第1909話 久方ぶりに吉原参上! (その1)

かつての遊郭、吉原を訪れた。
いえ、入浴じゃなくって飲食にネ。
本日のお相手は元ソープ嬢。
んなことあるハズもなく、元デパート嬢だ。

千束通りの1本西側を走る桃園通りを行った。
ふ~ん、桃園ねェ・・・、
あまりにピタリのネーミングに年甲斐もなく心が弾む。
ほどなくおのれの若さ、もとい、
馬鹿さに気づき、弾んだ心が沈む。

「中華・洋食 やよい」に到着。
大正末年創業というからすでに百周年を超えている。
いや、スゴいネ。
客筋は近隣の住人、そして現役のソープ嬢である。
もっとも彼女たちは出前専門だから
御尊顔を拝する幸運に恵まれることはない。

店内はカウンターが5席。
ほかに小さなテーブルと小上がりに1卓。
こちらは6人ほど座れるだろうか。
そこには先客が残したグラスや皿やドンブリが
下げられるでもなく醜態をさらしていた。

テーブルにいた母と息子の二人連れ。
その母親がやおら下げ物を片付けてくれ出した。
「あっ、いや、スイマセンねェ」―
店のスタッフとわれわれの発声が重なった。

胡坐をかいてビールをお願いする。
土地柄のせいか銘柄はアサヒで、その中瓶。
入念にメニューをチェックして注文したのは

八宝菜(950円)
ランチセット―大エビフライ2本付き(850円)
カツ丼〈並〉(850円

そうしておいて他客の食べてるモノをうかがった。
うかがったっていっても訊き出したんじゃなくて
盗み見したんだけどネ。

カウンターの単身者2名はそれぞれカツ丼。
われわれのあと、すぐに入店して来た客もカツ丼。
最近、TVのグルメ番組がここのカツ丼を紹介したらしい。
上質なラードでカツを揚げるのが秘訣だという。

さて、それから待てど暮らせど料理はやってこない。
当然のようにビールは2本目。
そのあとの単身客がセットランチのトンカツw/デミグラス。
カップルはビールとカツ丼と、何かもう1品。
最後の注文は聞き取れなかった。

=つづく=

2018年7月5日木曜日

第1908話 みちのくから来た女将 (その2)

渋谷区・幡ヶ谷の「のっこい」で生ビールを飲んでいる。
ほどなく、おかあさんのらっきょうが出てきた。
女将のおかあさんの手造りだ。
小粒のらっきょうは歯ざわりよろしく、
サラリとした味付けがまたよろしい。
いや、大手メーカーの既製品と比べようがないネ。

清酒に切り替え、栗駒山の吟醸をお願いすると、
女将がニッコリ微笑んだ。
彼女は栗駒山のふもとに拡がる宮城県・栗原市出身。
ふるさとの銘酒の受注を素直に歓んでいる様子だ。

吟醸酒を飲み終える頃、マカロニポテトサラダが整う。
けっこうな時間が掛かっている。
マカロニとポテトの混浴に無粋ながら箸を入れた。
ほのかな温みを残したサラダにすぐさま舌が反応。
ややっ、コイツはイケるゾ!

「ちょっとコレって、いま造ったの?」
「ええ、冷たいと美味しくないでしょ」
手の掛からぬ作り置きを注文したつもりが
届いたのは丁寧なオーダーメードであった。
今度はこちらが微笑む番である。

「帝国ホテルに見習わせたいくらいだなァ」
女将、再度微笑む。
いえ、帝国ホテルに他意があるわけじゃなく、
常用するほどの財力もない。
ふと思いついたことが口に出ただけだ。
われながらつくづくお調子者だと思う。

続いて同じ栗駒山の純米を所望。
そして油麩の玉子とじを追加した。
栗原市の隣りにある登米市の名物が油麩丼。
そのドンブリの御飯抜き、いわゆるアタマである。
カツ煮のトンカツの代わりが
油麩になったと想像していただければよい。

10年ほど前まで神田に近い新日本橋に
宮城米をウリにした弁当屋があった。
東京で油麩を見るのはそれ以来のことだ。
特段、美味しいモノでもないが
珍しさに懐かしさが加わり、食べたくなった。

客がうまいこと入れ替わり、店は常に満席。
オッサンに混じって若い女性の単身者も少なくない。
そのうち客同士の会話に花が咲きだし、
何だかスナックで飲んでるみたいだ。
それもこれも若女将の料理の冴えと、
巧みな客あしらいによるところが大きい。

地元の常連さんへの配慮から
お出掛けの際は独りか、せいぜい二人でお願いしやす。

「のっこい」
 東京都渋谷区幡ヶ谷1-4-1
 03-3372-6550

2018年7月4日水曜日

第1907話 みちのくから来た女将 (その1)

ヘアカットのために渋谷へ。
メトロ千代田線・明治神宮前(原宿)で下車。
雨の中をビニール傘をさして歩く。
カット&シャンプーにつき、所要時間は40分ほどだ。
頭はサッパリしたが雨脚はかなりのものがあった。

この日のターゲットは京王線・幡ヶ谷の「のっこい」。
みちのく出身の若女将がたった一人で切盛りする店は
小料理屋というか日本酒バーというか、
まっ、そんな感じの佳店である。

バーの居抜きのような店内は
カウンター6席のみと超コンパクト。
よって、訪れてもフラれる客があとを絶たない。
近所ならともかく遠方からやって来て
空振りの憂き目を見るのはキビシすぎる。
転ばぬ先の杖、電話予約をしておいた。

マイ・ヘアサロンは只今建て替え中の渋谷区役所前。
ここは渋谷区のコミュニティ・バスの発着点でもある。
笹塚駅行きの路線に乗り、笹塚中学前で降りた。
雨はさらに強さを増している。
篠突く雨とはこういうのを言う。

どうにか開店時間の17時ちょうどに到着。
当然のことながら先客はいない。
いないが1分と経たずに地元の常連さんが入店してきた。
女将と交わす言葉のやりとりから
気心の知れた仲を推し量ることができた。

ビールはサッポロ黒ラベルの生か、瓶の赤星。
生をお願いした。
手入れが行き届き、清潔な店では安心して生ビールを頼める。
そうでないところは瓶に限る。
高級店だろうが場末のボロ屋だろうが
瓶は栓を抜くだけだからネ。

同じく生ビールを注文した常連さんが
立て続けに3品のつまみを通した。
当方は少々、間を置かないと女将の手が忙しくなる。
この間を利用して卓の品書きと
壁のボードを入念にチェックした。

品書きの定番に加え、チョークの文字は20品にも及ぶ。
これだけでこの女将、只者でないことが明らかだ。
只者ではないが、くノ一でないことも明らかだろう。
よって客は懐の手裏剣に手を伸ばさずに済む。

熟慮の末にお願いしたのは
おかあさんのらっきょう(200円)と
マカロニポテトサラダ(350円)。
サッと出せる作り置きを択んだ次第なりけり。

=つづく=

2018年7月3日火曜日

第1906話 西野監督を見直した! (その2)

先週の土曜日にこの稿を書き上げていたが
少々、加筆しなければならない。
そう、大和の桜が散ってしまった。
それでもつかのま、見果てぬ夢を見させてくれた。
敗軍の援者、兵を語るまい。
 夏草や兵どもが夢の跡
 夢破れて山河あり
 昌子(障子)破れてサンがあり

てなこって、前話のつづき。
オトコ西野の覚悟を決めた英断によって
グループ突破を成し遂げた日本代表。
本人は不本意な決断だったと煮え切らないが
あのコメントはあくまでも建前。
批判派に対するエクスキューズの意味合いもあろう。

ほとんどのメディアの批評はどちらつかずというか、
二股かけた安全運転に終始する姿勢が目立った。
日本のメディアは政権を報ずるときすら力不足だからネ。
もっとも逃げ切りを酷評したロシアのメディアは馬鹿丸出し。
そんなこったからロシアはいつまでもサッカー後進国なんだ。

ここでサッカーとは何か?
ではなく、W杯とは何か?
を検証してみたい。
そもそもグループに分かれた予選リーグと
勝ち抜けの16チームによる決勝トーナメントはまったく別物。
対戦相手に全力を尽くして立ち向かうトーナメントとは異なり、
グループリーグは勝ち点の積み上げが最大の目標だ。

各チームの第3戦(リーグ最終戦)ともなれば
同時進行ゲームの戦況によって
逐一、戦い方を変えるのは必要不可欠。
がむしゃらに同点狙いにいって失点したひにゃ、
0―2で”ハイ、サヨウナラ”が待っているだけ。

ではハナから甲子園の高校野球のように
トーナメント形式にしたらよかろう、というのも無理がある。
くじ引きによる組合わせの運・不運に大きく左右されるし、
長期に渡る予選を突破して
4年に1度の大会に出場したにも関わらず、
初戦敗退ではその国のファンは不完全燃焼、
どうにも納得できまい。
といってテニスのようにシード制を導入するのは不可能だ。

大会を運営するFIFAにしても
試合数を増やして収益を上げ、
出場国への分配金を確保しなければならないハズ。
経験を活かし、英知を集めた末に
現行システムに到達したわけだ。

グループリーグではエクストラタイム(延長戦)ナシ。
逆にトーナメントはたとえ決勝でもPK戦で決着をつける。
PK戦はW杯が産み落とした必要悪と言えなくもない。
かつて日本代表を率いたオシム監督なんか
自チームのPK戦を観ようともせず、
ロッカールームに引き揚げてったもんネ。

終りに老婆心ながらひと言。
それでもなお、ポーランド戦は最後まで
潔く死力を尽くすべきだったという御仁は
絶対に兵隊となって戦地に赴いてはいけない。
戦線に送られたら、イの一番に戦死するタイプだからネ。
お判りかな?

2018年7月2日月曜日

第1905話 西野監督を見直した! (その1)

ただ今、6月30日土曜日の午前10時。
朝食を食べ終えたところである。
献立は

イングリッシュマフィン・トーストw/ベーコン
フレッシュライム・ジュースw/ソーダ
ミルクティー

マフィンとライムジュースは
マイ・ブレックファーストの定番。
ミントを切らしていたため、ミルクティーにした。
この場合、ミルクはあくまでも牛乳。
クリームでは紅茶が生臭くなっていけない。

そんなことはどうでもよく、今朝の話題は西野ジャパン。
対コロンビアにおける幸運。
対セネガルの奮闘。
そして対ポーランドの駆け引きである。

にわか解説者が列島を埋め尽くしている。
もっぱら争点はポーランド戦のラスト10分で
賛否両論が梅雨明けの空に渦巻いている。
”賛”か”否”か?
J.C.はもろ手を挙げて称賛する。

って言うかァ~、アレはサッカー界の常識でしょ。
 サムライらしくない。
 退屈にダラダラ流れる時間。
 正々堂々と戦うべき。
 スポーツマンシップに反する。
み~んな、サッカーを
とりわけW杯を知らない輩の世迷言。
ただ、ボール回しが稚拙で露骨に過ぎた。
とかく決定力不足を指摘される日本は
演技力不足でもあった。

ハリルホジッチ亡きあとを継いだ新監督は
結果を出せない2試合を経て
W杯出場を逃したパラグアイにどうにか勝ったが
J.C.はその戦いぶりもさることながら
会見における彼の言動に大きな焦燥感を抱いていた。

兵を率いる一軍の将として
覇気に欠けるというか、頼りないというか、
どこかお通夜のお悔やみを聞いてるみたいだった。
それが此度はオトコ気を見せたネ。
よくぞ腹をくくってくれましたネ。

このままズルズル敗戦を認めるのか?
セネガルが1点取ったらどうすんだ!
そんなことは百も承知。
同時進行2試合の戦況と残り時間を考慮して
はじき出したより高い確率に賭けたのだ。

失敗すれば超A級戦犯として全責任を背負わされる。
切腹どころか打ち首が待っている。
はたしてこんな一世一代の大博奕を打った監督が
過去の日本にただの一人もいたろうか?

=つづく=