2018年10月31日水曜日

第1992話 中華がウリのそば処 (その2)

昭和6年創業のそば処「春木家本店」にいる。
ちなみにラーメンの「春木屋 荻窪本店」は
「春木家」で修業した初代店主が
昭和24年に開業したそうな。

相方が味噌田楽を主張したため、
心のうちで抗いながらも、うなづく気弱な自分。
まっ、しっかたなかんべサ。
案の定、コンニャクの大来襲を招いた。
だっから言わんこっちゃない。
せめて豆腐と半々にしてほしい。

当方も負けじと通したのは角煮あんかけ。
中華料理の東坡肉(トンポーロウ)とは異なり、
出汁で炊いた豚肉にモヤシの餡が掛かっている。
あちらのコッテリに対してこちらはアッサリである。
日本そば屋ではあまり見ることのない品目だ。

白鶴の枡酒に切り替えて湯葉刺しを追加した。
角煮のあとの湯葉では
何だか順序があとさきのきらいはあるが
樽香の残る清酒との相性を考慮した次第なり。

途中、単身の若い男性が来店して
中華そばを食べ終わると、すぐに出て行った。
その間、15分と少々。
この夜はわれわれと合わせ、客は3名きりだ。

そろそろ仕上げに入ろう。
もはや名代となった中華そばは抑えておくとして
日本そば屋でそばを食べぬ所業はあり得ぬ。
厨房から出て来てつかの間、
世間話を交わした店主に伺いを立てると、
十割そばを試してもらいたいとのこと。
ここは素直に従った。

中華そばはいわゆる支那そば。
中細麺にすっきり味のスープ。
具はチャーシュウ・シナチク・焼き海苔。
そうだヨ、ラーメンはこうでなくっちゃいけないヨ。
脂まみれや魚粉だらけは
食いたくないというより、見るのもイヤだネ。

中華がウリと聞き、さほど期待しなかった十割そば。
ところがどっこい、店主の力量が存分に発揮されていた。
北海道と秋田のそば粉を合わせた細打ちは
なめらかな舌ざわりとしなやかなコシが共存する。
中華そばも旨かったが、その上をゆく。

こんなそば屋があるのに来客が3名だけとは
近隣の住民の見識を疑ってしまう。
天沼在住のみなさん、あなた方の眼は節穴ですか?

「春木家本店」
 東京都杉並区天沼2-5-24
 03-3391-4220

2018年10月30日火曜日

第1991話 中華がウリのそば処 (その1)

かつてJR中央線・荻窪駅界隈はラーメンの都であった。
”荻窪ラーメン号”の両翼を担ったのが「丸福」と「春木屋」。
ともに長蛇の列を成す毎日だった。
日毎、遠方からも多くの客が押し寄せたのだ。

2軒の間にしょうもない「佐久信」という店があり、
これがまったくの不人気。
メディアの声掛けでプロジェクトチームができ、
一時は再生をはたしたものの、
結局は薬局、長く続かずに消えた。

十数年前に「丸福」の不祥事が公となり、
衰退の一途をたどることになったが
その影響だろうか、
「春木屋」からも往年の輝きが失われたように思う。

さて、久々に遠征した杉並区・荻窪の街。
当夜のターゲットは「ハルキヤ ホンテン」だ。
しかしながら「春木屋 荻窪本店」ではありまっしぇん。
訪れたのは「春木家本店」でありました。

駅北口に出て青梅街道を東に歩く。
相方と
「あれ~、『春木屋』あんまり並んでないねェ」
「そだねー!」
な~んて会話を交わしながらほどなく左折。
住宅街に入り込んだらホンの2分で到着の巻。

なんか立派なビルに建て替わってるヨ。
「今晩は~」―
暖簾をくぐると先客はゼロ。
そうおっしゃったかどうか覚えていないが
女将サンが
「お好きな席へどうぞ」―
とにかくそんな感じで4人掛けのテーブルに着いた。

ビールは瓶がサッポロ黒ラベルで
生は確かエビスだったハズ。
当然、黒ラベルを所望した。
グビリンコのプッファ~! やっぱり美味いや。
ここんとこひんぱんに
キリンラガーの襲来を受けていたから尚更である。

つまみには何をいただこうかな・・・。
額を寄せて品書きに見入る。
相方がイの一番にリクエストしたのは味噌田楽だった。
ふ~ん、田楽ねェ。
上野池之端のそば屋「新ふじ」の田楽は
コンニャクばかりが大量に来て辟易とした経験あり。
一瞬、その悪夢がよみがえったのでありました。

=つづく=

2018年10月29日月曜日

第1990話 永遠の山口百恵

朝日新聞・土曜版の「be」。
先週のbeランキングは山口百恵特集だった。
読者アンケートによる、
「私の好きな山口百恵さんの歌」である。

朝日の読者には重複を押し付けてしまうが
そのベスト5を紹介させていただこう。
実際はベスト20 ながら
それでは興味のない方に負担をかけるものネ。

① いい日旅立ち
② 秋桜
③ 横須賀ストーリー
④ プレイバックpart 2
⑤ さよならの向こう側
 次点:ひと夏の経験

ということで、あつかましくもJ.C.のベスト5をついでに―。

① 横須賀ストーリー
② パールカラーにゆれて
③ 秋桜
④ いい日旅立ち
⑤ 愛染橋
 次点:愛の嵐

となりました。
ちなみに「パールカラー~」は読者ランキング18位。
「愛染橋」と「愛の嵐」は圏外に消えている。

彼女を育てた音楽プロデューサーの酒井政利サンが
『花の中三トリオ』を評するコメントを寄せており、
さすがプロ中のプロの見る目は鋭いな、と感心させられた。
引用してみたい。

土の匂いの森昌子さん、
空からの笑顔の桜田淳子さん。
百恵さんには2人にない海からの強さのイメージがある。

おっしゃる通りでござんすネ。
そして、こうまとめている。

少女が愛を知る大人の女性になり引退するまで
節目の歌が上位に並ぶ結果に
成長を見守ってくれた人々の愛を感じる。
本当に幸せな歌手でした。

堅実に歩む『三浦百恵』の存在が
『山口百恵』のイメージを守り、新鮮さを保つ。
二度と表舞台に出ぬ『勇気』を
彼女が持っていたからこそと思います。

”二度と表舞台に出ぬ勇気”、言い得てお見事。
女優だったらさしづめ原節子でありんすな。

2018年10月26日金曜日

第1989話 鍋屋横丁のとんかつ屋 (その2)

新中野は鍋屋横丁の「かつ金」。
カウンターの隅でビールを飲みつつ、
あらためてメニューを眺めているところ。
ところが店内のメニューは
シーフード・ミックスが真っ黒に塗りつぶされていた。
一応、接客の娘サンに確認すると、
すでに提供を終えた由。
あきらめるほかはない。

それではと再びランチメニューから
これもミックスフライと記された定食をお願いする。
海老フライ・串カツ・コロッケ、
今度は三人官女のお出ましである。
そう、お嫁にいらした姉さまに
よく似た白い顔の持ち主たちだ。

その間にも出入りの客が引っ切りなし。
自動ドアの騒音がどうにも耳障り。
なのにほかの客は全然気にしていない。
自分だけが神経質なんだろうか・・・。
いや、相方もウルサいと言っておる。

われわれの目の前にフライヤーがあり、
揚げ手はご主人ではなく女将サン。
まことに珍しいケースといえる。
よくよく見れば、肉の筋切りからパン粉付けまで
すべて独りでこなしているではないか。
ダンナはといえば、
ごはん・味噌碗・キャベツなどの盛付けと
皿洗いに徹している様子。
ときどき娘にああせい、こうせいと指導を受けている。

聞くともなしに聞いた常連客との会話から
店主は先日、体調不良で病院に運ばれたとのこと。
病み上がりだったのだ。
いや、勢いを失った男はつらいよ、ジッサイ。
身につまされるなァ、まったく。

同時に運ばれた2つの定食膳はボリュームたっぷり。
揚げものの下には油切りの網が敷かれている。
ときどき見かけるこの網は油の溜まり除けよりも
キャベツの水気回避に効力を発揮する。

さっくり揚がってパン粉の立ったロースカツは
ビールにもライスにもピッタシカンカン。
縦切りに二分された串カツは
玉ねぎでなく。長ねぎが使われている。
クリーム系のコロッケと大きめの海老フライも含めて
三人官女はまあそれなりの味わいなり。

たくあん&白菜漬けの香の物と
しじみ味噌碗に手抜かりは寸分もなかった。
遠方からわざわざ出向くほどではないにせよ、
地元の人々をけして失望させない、
優良店であることは確かであろう。

「かつ金」
 東京都中野区本町4-31-10
 03-3383-3729

2018年10月25日木曜日

第1988話 鍋屋横丁のとんかつ屋 (その1)

空に星があるように 
浜辺に砂があるように
上野にアメ横あるように
中野に鍋横ありました。

てなこって今回は鍋屋横丁にあるとんかつの人気店、
「かつ金」を目指して家をあとにした。
降り立ったのは東京メトロ丸の内線・新中野駅。
地上に出ると目の前は青梅街道。
街道の向かい側に大きな看板が見えた。
「とんかつ丸福」のそれである。
界隈には「きしめん丸福」なんぞもあったりして
しかも隣り町の中野新橋には日本そばの「丸福」まである。
それぞれ縁戚関係で繋がっているらしいが詳細は知らない。

相方と待合せてさっそく鍋屋横丁に向かった。
ときに13時過ぎ。
店頭での順番待ちはカップル1組のみ。
これならそうは待たされまい。
でも15分は待った。

細めのL字カウンタ―とテーブルが数卓で
キャパは20席内外だろうか。
われわれはLj字の底辺の右端に案内された。
入口に近い席でとにかく気になったというより、
悩まされたのは自動ドアの開閉のたびに発せられる、
ガラガラ、ガラガラという騒音。
店の客というより、スタッフは気にならないのだろうか?

初老のご夫婦と娘サン、親子3人だけの切盛りと見受けた。
慣れというのは恐ろしいもんだ。
かなりの騒音なのに揃いも揃って無頓着。
われ関せずの馬耳東風であった。
いや、それにしても癇に障るな。

気を取り直して冷たいビールで一息入れよう。
さて銘柄はいかがでしょう?
ナヌッ、キリンラガーの中瓶のみ?
いや、サイズの大中はあるにせよ、
ここんとこコレばっかりだヨ。
アサヒよ、サッポロよ、もちっと奮起せんかい!

外で並んでる間にオーダーは決め手あった。
ランチメニューのラインナップから
まずは上ロース定食。
通常プライスより200円ほどお安くなってのお食べ得だ。
もう1皿は割引はないものの、
陣容に惚れ込んだシーフードのミックスフライである。
海老・白身・キス・いか・ホタテ、
五人囃子の笛太鼓ときたもんだ。

=つづく=

2018年10月24日水曜日

第1987話 傾きかけた老舗そば店 (その2)

藍染川通りが尾竹橋通りに合流する、
花の木交差点を過ぎてほどなく、
目にとまったのが見るからにヨレヨレの日本そば屋だった。
ピサの斜塔ほどではなくともかなり右に傾斜して
隣りの民家にもたれかかってるじゃないの。

   ♪ あんまり傾きが ヒドいので
   さぞや民家サン 重たかろ
   サノ ヨイヨイ    ♪

てな光景にしばし目を奪われた。
何となく興味を持って店先にたたずむ。
店頭設置のTVモニターがグルメ番組の録画を流している。
何でもこの「京屋」は創業80年を超える老舗で
今は若き四代目が奮闘中とのことである。

ふ~む、一訪の価値ありかもしれんゾ。
空腹感にも後押しされて何の抵抗もなくスルリと入店。
ところが世の中甘くはなく、はからずも満席である。
入口に直立してしばし待つこととなった。
このとき脳裏をかすめたのは森昌子の「立待岬」である。

  ♪  待って待って 待ちわびて
   立待岬の 花になろうと
   あなたあなた 待ちます
   この命 涸れ果てるまで  ♪
      (作詞:吉田旺)

一瞬、函館市郊外の岬の景色がよみがえる。
昌子が「立待岬」なら、J.C.は「立待店先」ときたもんだ。

待つこと5分でカウンター席が空き、
キリンラガーしかないビールの大瓶を仕方なく飲みながら
注文したのは、もりそば&ミニ親子丼のセット(800円)。
ミニ丼はほかに牛丼とカレーからも択べる。
厨房内は四代目が孤軍奮闘。
接客も彼の母親だろうか、古希前後の女将サン独りきり。
それにしても最近はキリンラガーとの遭遇ばかりだ。
2切れ付いたきゅうりの浅漬けがせめてもの救いか。

待つこと今度は10分で整ったそばは
ほどほどのコシを備えたツルツル系。
つゆは下世話感を残してちょい甘め。
子どもの頃によく食べた庶民の町の日本そばである。

親子丼はそば屋の出汁が効いており、いいカンジ。
どんぶりモノのつゆだくは大嫌いだが親子だけは赦す。
もともとつゆ気の多いかつ丼・牛丼はもとより、
天丼・うな丼においても
ごはんの上に丼つゆ・丼たれは掛けてほしくない。

いずれにしろ傾いているのは建物だけの「京屋」。
経営に傾きが見られないのはご同慶の至りである。
お二人ともどうぞ頑張ってくらしゃんせ。
その命、涸れ果てるまで―。

「京屋」
 東京都荒川区荒川7-43-2
 03-3895-2680

2018年10月23日火曜日

第1986話 傾きかけた老舗そば店 (その1)

その日の午後は上野台地を歩いていた。
桜木から谷中を突き抜け、
諏訪神社脇の坂を下って西日暮里駅前へ。
頭をよぎるのはフランク永井の「西銀座駅前」だ。

  ♪   霧にうず巻く まぶしいネオン
   いかすじゃないか 西銀座駅前  ♪

でありますが、このくらいでやめときやす。
西銀座と西日暮里じゃ、似ても似つかんし、
そうひんぱんに昭和歌謡を取り上げると
ひんしゅくも買うしネ。

長いこと東大進学率ナンバーワンを誇っている、
開成高校の丘を仰ぎ見ながら
JR山手&京浜東北線が並んで走るガードをくぐり、
線路沿いを北に歩いて冠新道の西端にたどり着いた。
外来者の姿を見ることまれなる、
むか~しの商店街が
いくばくもない余命を(いたずら)にやり過ごしている。
というのはあまりに言い過ぎで
焼き鳥「鮒忠」も割烹「熱海屋」も健勝の様子であった。

京成線・新三河島駅前で明治通りを渡り、
歩行者の姿もまばらな藍染川通りに入った。
藍染川となれば、
われら”谷根千ウォーカー”にとっての第一感はへび道である。
今は暗渠となった川に覆い被さって走る、
迷い道クネクネのへび道である。
だいじょ~ぶ、だいじょ~び、
ここで真知子姐サンは出さへんから。

だけどサ、何でこんなとこに藍染川通りがあんの?
当然、地下を川が流れているハズで
まるで方向が違うじゃないか!
あとで調べてみたら道灌山下近くの、
よみせ通り入口辺りで分流していることが判明した。
へび道下の暗渠が不忍池に注ぐのに対して
こちらは隅田川へと流れ込む由。
ふ~ん、そういうことなのネ。

しばらくして道は尾竹橋通りに合流。
このまま行けば、JR、都営、私鉄の3線が乗り入れる、
荒川区のプチ・ターミナル、町屋駅前に至る。
ずいぶんな距離を歩いたために
のどは渇くし、腹も空いた。
そろそろ”要一服”であろうヨ。
  
=つづく=

2018年10月22日月曜日

第1985話 やきめしという名のチャーハン (その2)

豊島区・池袋のはずれ、板橋区に近い「なみき食堂」。
ビールを飲みながら、やきめしが来るのを待っていた。
ここで当店のメニューを紹介しておこう。
品目があまり多くない中、
名代と言い切っていいのかどうか判らないが
とにかくやきめしから。

やきめし・カレーライス(各540円) 
とんかつ・生姜焼き(各320円)
ハムエッグ・目玉焼き(各180円) 
オムレツ(220円) オムライス(760円)
チキンライス・ドライカレー(各650円)
かつ丼・親子丼(各650円)
ラーメン(490円) 夏季限定:冷やし中華(650円)

ほかにも惣菜類があるものの、メニュー掲載はナシ。
このあと、支払いの際に厨房をのぞくと、
焼き魚やら煮物やらの皿が並んでいた。
客が好きなものを取るシステムも
ピークの時間が過ぎたため、片付けられていたらしい。

二十歳前後の若いアンちゃんが入店して
やきめしと生姜焼きを通した。
この2品にラーメンが加われば、
当店の人気御三家の揃い踏みだ。

続いて近所の常連と思しきオッサンが来店。
「酎ハイ!」と叫ぶやいなや、
棚から新聞を2紙ピックアップ。
日刊紙とスポーツ紙のようだが、こういうのっているよネ。
1紙づつ読めばいいものを独占したがる輩(やから)。
ヒドいのになると、3紙なんてのを見掛けたりもする。
まさしくお里が知れるというヤツで
公的マナーの欠落というほかはない。

やきめし登場。
具材は、豚バラ肉・玉ねぎ・玉子の3種。
加えて仕上げに散らしたグリーンピース。
見た目はそれこそ何の変哲もない。

さっそく一匙すくってみるとベースは塩味。
醤油が少々にあとは化学の子だ。
上手いことまとめてあるものの、
やはりちょいともの足りない。
例えば、先月出会った川崎の佳店、
「成喜」のチャーハンとは比べるべくもない。
それでも完食して、お腹はいっぱい、イッパイ。

昭和2~30年代、まだみんな貧しかった頃。
町の中華屋の味を出せない家庭の主婦が
化学の力を借りつつ、夫や子どもたちのために
ひたすら鍋を煽ったやきめしという名のチャーハン。
懐かしさだけはしっかり舌に残った。
これもまた良き哉。

「なみき食堂」
 東京都豊島区池袋3-37-1
 電話ナシ

2018年10月19日金曜日

第1984話 やきめしという名のチャーハン (その1)

J.C.が先に席を立ったおかげで
かのキャバクラ嬢はポークソテーの鉄板皿を
ちゃんと横に戻して食べられたのだろうか?
そんなことを思いながら西池袋の街を北に向かった。

ラブホ街を抜け、住宅街を突き進んで
古ちゃけた商店街に入った。
青果店や精肉店が並び、
さすがに鮮魚店は見当たらなかったが
古き良き昭和の時代を偲ばせる通りに
「なみき食堂」はあった。

「キッチン チェック」同様、ここも初訪問。
引き戸を引くと、想像通りの光景が浮かび上がった。
先客は酎ハイだかサワーだかを飲みながら
スポーツ新聞に見入る近所の常連サンと
小さな男の子を連れた若い夫婦の計4人。

家族の隣りの卓を占めて
さっそくのビールは恨めしくもキリンラガーの大瓶。
キリンならせめて一番搾りであってほしかった。
まっ、仕ッ方なかんべサ。
ベター・ザン・ナッシングってこった。

時刻は13時を過ぎていた。
あれっ! TVがNHKの「素人のど自慢」を映してるぜ。
何で土曜日に「のど自慢」やってんの?
先週のビデオかな?

いや、違う、違う、本日のオン・エアそのものだ。
この時間は「西郷どん」のハズだが
どうも最近、NHKのやることはよう判らん。
受信料の値下げはありがたいけどネ。

注文の品はハナから決めてあった。
フツーの飲食店ではまず見ることなく、
大衆食堂からもほとんど姿を消した絶滅危惧種、
そう、やきめしである。

「キッチン チェック」で半ライスに抑えたものの、
すでに腹は八分目、ここでやきめしのハーフなんて
頼めるハズもなく、勇気を奮い起こしてオーダーに及ぶ。
これにより、腹十二分目になること、ミエミエである。

隣りの卓ではパパがやきめし、ママはチキンライス、
子どもはラーメンをすすっている。
一家揃って嬉しそうに美味しそうに食べている。
平和でシアワセな家庭なんだねェ。

=つづく=

2018年10月18日木曜日

第1983話 鯛やほたての舞踊り (その3)

池袋西口、ロサ会館1階の「キッチン チェック」。
鯛とホタテのミックスフライが届いたところだ。
たっぷりのタルタルソースと櫛切りレモンが1片。
それにレタス主体のサラダが大きな皿を埋めている。
あとはわかめ・豆腐の味噌椀に半ライス。
どれ、いただきましょ。

両サイドとの間隔が狭いため、
ナイフ&フォークの両刀使いは断念する。
右手に持ったフォークだけで
フライを切っては突き刺し、口元へと運ぶ。

アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」で
相手役のモーリス・ロネがドロンに
フィッシュ・フォークの使い方を指南するシーンがあったが
ロネ曰く
「もともとサカナにナイフは使わんもんだ」―
その通りかもしれない。
そのほうが断然スマートだ。

鯛はきわめて淡白。
特有の臭みもなく、言われなきゃ鱈と間違える向きもあろう。
ホタテもファイバーが立って質の良さをうかがわせる。
ライスと味噌碗はごくフツー。

ビールを矢継ぎばやに注文していたカップルの料理が到着した。
すぐ左隣りの娘はポークソテー、
そのまた左のオジさんは海老と何かのミックスフライだ。
いや、狭いネ、モノの置き場がないヨ。
娘のポークは木製の受け台に乗った鉄板で来たが
彼女、本来の姿である、横に置けずに縦に置いたヨ。
これは食いにくいことこの上あるまい。
J.C.は生まれて初めて目にしたネ、
ビーフステーキ、ポークソテーの類いを縦向きで食う人間を―。

しかし現代の若い娘はメゲないなァ。
両肩をすぼめているのは狭い空間のせいで
よくしゃべり、よく食べる。
そしてよく飲むんだ。
彼らの前には早くもビールの空瓶が4本並んでいる。

聞くともなしに聞いていると、
彼女、最近どこからか恵比寿に越してきたらしい。
ふ~ん、いいトコに棲んでるなァ。
けっこう稼いでるんだねェ。

ここで連想したのは深夜のTVのコント番組。
志村けん扮するお財布オジさんが
優香演じるキャバクラ嬢に
なんだかんだとタカられまくるヤツ。

(フフフッ)、笑いをかみ殺しながらの支払いは
1800円でありました。
いえ、これはJ.C.のぶんだけネ。

=おしまい=

「キッチン チェック」
 東京都豊島区西池袋1-37-12
 03-3985-1926

2018年10月17日水曜日

第1982話 鯛やほたての舞踊り (その2)

創業丸半世紀の「キッチン チェック」のカウンター。
時刻は11時45分、ピーク前だが席は8割方埋まっている。
人気店でありながら、その後、正午を回っても
順番待ちの客が列を成すことはなかった。

ここのビールはスーパードライの小瓶のみ。
なぜか1本300円とずいぶん安い。
メニューを眺めて迷った。
第一感はひらめムニエル(1500円)。
近年は洋食屋からすっかり姿を消した絶滅危惧種のひらめ。
遠い昔、どこでも目にしたひらめのフライとムニエル。
出世魚でもないのに今や最高級魚種に出世したからなァ。

シーフードフライの2種ミックスにも惹かれた。
単品だと海老が1700円で鯛とホタテがそれぞれ1500円。
上記3品から2つ択べるミックスは一律1500円になる。
一見して海老を含むミックスがお食べ得と知れる。
たべともの1人に海老フライ・フリークがいるが
J.C.は海老フライにほとんど魅力を感じない。

さすれば、ひらムニor 鯛・ホタテのミックスしかない。
悩むこと数分、珍しい鯛フライを試したい気持ちも手伝って
ミックスフライに決める。
ビールを飲むし、このあともう1軒、
つぶしておきたい未訪店があるため、半ライスでお願いした。

小瓶のビールなど、すぐに飲み干してしまう。
それこそキリがないから、少し間を置いてオーダーする。
右隣りに座ったリーマン風のハンバーグがとどいた。
鉄板上の熱々に素早くナイフを入れている。

ここで心づいたことに椅子と椅子の間隔がずいぶん狭い。
フォークを持つリーマンの左肘が
ときどきこちらの右手に当たる。
「おい、おい、そんなに肩肘張るなヨ」とも言えんしなァ。

2席続きで空いていた左隣りにカップルが着いた。
親子ほど歳が離れているが親子ではない。
娘の声が高く大きいから
聞き耳など立てなくとも会話の内容は筒抜け。

はは~ん、これはホステスと客だネ。
それも銀座の高級クラブとかじゃなくて
もうちっと場末のキャバクラじゃないかな?
とは思ったものの、
キャバクラには行ったことがないから定かではない。

シーフードフライ・ミックスが運ばれ来た。
おう、おう、プレート上で鯛とホタテが舞い踊ってるぜ。
中サイズの鯛が1切れ、かなりデカいホタテは3個と、
こりゃ、けっこう食べ応えがありそうだ。

=つづく= 

2018年10月16日火曜日

第1981話 鯛やほたての舞踊り (その1)

   ♪  むかしむかし浦島は
    助けた亀に連れられて
    龍宮城へ来て見れば
    絵にもかけない美しさ


    乙姫様のごちそうに
    鯛やひらめの舞踊り
    ただ珍しく面白く
    月日のたつのも夢のうち ♪


         (作詞不詳)

ご存じ、小学唱歌「浦島太郎」の1、2番。
この歌は5番まであるが、すべて紹介しちゃうと
何かと口うるさい向きに
「子どもの歌を長々とやってんじゃねェ!」―
な~んて、どやされそうだからやめとく。

冒頭に掲げた歌詞のワケはあとで明かすとして
3連休の初日、
千駄木からバスに乗ってブクロに着いた。

  ♪ 長崎から船に乗って 神戸に着いた
    ここは港町 女が泣いてます    ♪

ハイ、ハイ、判りやしたヨ、ここでやめときますヨ。

到着したのは池袋東口である。
線路の下のガードをくぐって駅北口に出た。
ここは思い出深い場所だ。
中学・高校時代の週末、
級友たちとの待合せに何度も使わせてもらった。
ミーティング・スポットである北口階段上の景色は
今もまったく変わることがない。

徒歩数分、やって来たのはロサ会館。
ここも懐かしいビルである。
階上にボーリング場があって
いや、今もあるんだが高校時代は実によく遊んだ。
殊に受験勉強を始める前の1968年は
ほとんど毎週利用した。
こっちは週末ではなく、平日限定の早朝割引狙い。
当時は1ゲーム=100円だったと記憶している。

そのロサ会館の1階に路面店「キッチン チェック」がある。
奇しくも1968年創業の洋食屋は今年で創業50周年。
半世紀前の高校生に外食など高嶺の花だから
オープンしたことさえ知らなかった。

その後しばらくして存在に気づいたものの、今回が初訪問。
入口は表通りとビル内の両側にあった。
客席は珍しいJ字形カウンターのみ、テーブル席はない。
調理担当はオジさん2人にアンちゃん1人。
接客はマダム風の女性が1人きりだった。

=つづく=

2018年10月15日月曜日

第1980話 「千住の永見」と「やっちゃbar」(その2)

北千住の人気店「千住の永見」のカウンターに独り。
待っていたレバ串ではなく、
あとから頼んだ串かつが先着した。
不自然にカタチの整った細長い長方形が2本である。

練り辛子をつけてパクリとやったとき、レバも運ばれた。
おや、意に反して鳥のレバである。
本来は豚のレバが好みなれど、鳥も嫌いじゃない。
そこそこ美味しくいただいて
皿の上には4本の竹串が空しく残された。
さあ、河岸を変えよう。

「やっちゃbar」に舞い戻る。
店名の由来はかつて千住にあった、
やっちゃ場、すなわち青果市場に疑いの余地はない。
逆L字カウンターが7席ほどと2人用テーブルが2卓のみ。
本格的なフレンチをも供するカフェバーといったふうだ。

先客はおらず、店主とサシ向かいである。
まずはチリの白ワイン、ロス・ガンソスのシャルドネを1杯。
壁のボードに書かれた本日の品書きから
海老とズッキーニの水餃子 サフラン・クリームソースを択ぶ。
これがクリーンヒットで、皮・餡・ソースが三位一体。
とりわけサフラン香るソースに二重丸を付けたい。

続いての1杯はアレグリア・カルメネール。
同じくチリの赤ワインだがカルメネールの原産地はボルドー。
カベルネ・ソーヴィニヨンの流れを汲む品種であるため、
ブルゴーニュ派のJ.C.には重々しい。
赤ワインのラインナップは揃って重いタイプのみ。
選択の余地がまるでないが
店主の趣味にケチなどつけられんもんネ。

ガッシリタイプの赤に合わせて何かもう1品ほしい。
お肉の田舎風テリーヌは一般的な田舎風パテ、
いわゆるパテ・ド・カンパーニュと同意だろう。
力強いワインに力負けしない1皿に助けを求めた。
バゲットも忘れずにネ。

ベーコンだかパンチェッタだか、
豚のバラ肉に包まれたパテは肉々しいこと極まりなく、
カルメネールと土俵中央でがっぷり四つ、
互いに両まわしを引きつけ合う格好となった。
結局、勝負はつかずに水入り引き分けの態を成す。

パテに添えられた粒マスタードと
きゅうりのピクルスがまたピッタリ。
マスタードはディジョンの粒入りに和辛子を混ぜ込んだ由。
店主、なかなかに芸が細かい。
既製品のピクルスがその上を行って
甘味と酸味のハーモニーはこれ以上望めぬほどのもの。
瓶ごと買って帰りたいくらいだった。

北千住に来たらちょい飲みに立ち寄りたい「やっちゃbar」。
課題はグラスの赤の取り揃えで
ビールも気に染まぬ銘柄だから
シャルドネでサフランを使った、
料理をいただくほかに手立てがないんだがネ。

「千住の永見」
 東京都足立区千住2-62
 03-3888-7372

「やっちゃbar」
 東京都足立区千住2-52
 080-4320-9977

2018年10月12日金曜日

第1979話 「千住の永見」と「やっちゃbar」(その1)

”棲みたい街”として最近とみに
人気の高まる足立区・北千住。
老人と若者が上手いこと共存しているらしい。
やれ、恵比寿だ、吉祥寺だ、武蔵小杉だと、
都の西や南ばかりがクローズアップされる昨今、
古い人間には北千住の健闘がよろこばしい。

簡単な所用を済ませて時刻は16時。
千住の街には冷たい雨がシトシト降り続いている。
こんな秋の夕暮れには早めの晩酌が何よりだ。
ただし、時間が時間なので
いかに東京の北東のターミナルといえども
飲ませる店は限られてしまう。

裏通りを物色していて「やっちゃbar」なる未訪店を発見。
店先のメニューに惹かれるもの数品あれども
開店は17時と、まだいささかの間があった。
ここはあとで寄ることにしてひとまず立ち去る。

街随一の繁盛店、「千住の永見」は15時半開店のハズ。
ヨシッ、軽く下地を作っておこう。
旧日光街道の飲み屋ストリートに廻った。

暖簾をくぐると、ウワッ、何だヨ、これ!
1週前に訪れた新丸子の「三ちゃん食堂」がよみがえった。
テーブルは客で埋め尽くされている。
カウンターも空席は2つほどだ。
まだ開けて30分そこそこでっせ!

冷たい雨の日に熱いおしぼりがうれしい。
顔を覆ってしばし蒸しタオル状態。
さすがにこのあと髭は剃らないけれど、
ビールが格段に美味くなること受け合いだ。

アサヒの中瓶を飲りながら品定め。
ここへ来ると、名物の自家製さつま揚げ、
その名も千寿揚げのニンニク入りを取るのが常。
しかし、その日は違った。
たまには初物(当店での初注文品)を
試してみようという気になっていた。

ここでは焼きとん・焼き鳥の類いを食べた覚えがない。
壁の短冊に何種か並んでいたが
豚or 鳥の明記がされていない。
いずれにしてもレバなんてあったかな?
あいまいな記憶をたぐり寄せつつ、
タレで2本お願いしてみた。

瓶がカラになってもレバは未着。
千客万来のため、厨房は大わらわだ。
そうか、時間が掛かるならこれも初物の串かつを
2本目のビールとともに追加に及んだ。

=つづく= 

2018年10月11日木曜日

第1978話 すじがき通りにいかぬ夜 (その5)

目黒新橋のたもとのバー「aki」にて
ビールとハイボールを飲み終えたところ。
こういうタイプの店ではダラダラと長居をせずに
サッと引き上げるのが粋にして鯔背(いなせ)。
さっき降りた坂を昇ってゆく。

今宵の相方はかなりの呑ん兵衛につき、
夜はまだ終わらない。
とは言っても、そろそろ最後の1軒で締めたい。
終らざる夜の帳(とばり)を無理にでも下ろさねばならない。

先刻、目星をつけていたスペインバルの店先を通りすがると、
中から接客係の女性が元気よく飛び出してきた。
さして美人というでもなく、少々薹が立っても(失礼!)いるが
語り口によどみなく、滑舌に長けている。
オッサン2人、彼女に好印象を持ちましたネ。
ってゆうか~、相方はすでに店内へ足を踏み入れちゃってるヨ。
やれやれ。

一目見たときにスペインバルと思いきや、
ここはJapanese Pinchos Bar を謳う「目黒バル ぴんちょ」。
ピンチョとは通常ピンチョスと
複数形で呼ばれることの多いスペインの酒の肴。
串に打たれたつまみだがイタリアのブルスケッタのように
薄切りパンに載せる場合もあり、いわばタパスの類いだ。

入口近くの長テーブルにいざなわれた。
相席といえば相席なんだが距離を置いて若い娘が3人、
飲みつ語りつ、楽しい時間を過ごしている景色。
女性とあらば老若を問わず、興味を示すFチャン、
早くも相好を崩している。

エイリアス ピノ・ノワールなるカリフォルニアの赤をグラスで。
1人当たり380円のチャージは突き出し付き。
ハモン・セラーノのほかにチョコチョコと3点盛りだった。
ヒルダというピクルスをあしらったピンチョ、
オニオングラタンのピンチョ、かに入りのプティコロッケを通す。
特筆するものとてないが、まっ、酒のアテだからネ。

2杯目は大好きなサントリー知多のハイボールを。
この頃にはFチャン、何をとっかかりにしたのか
三人娘と打ち解けちゃってるヨ。
いや、実に本領発揮ですな。

訊けば、彼女らは関西方面からの来訪者。
いずれにせよ、イヤな顔一つ見せずに
オッサンの相手をしてくれるんだから性格のよい子たちだ。
帰り際には揃ってハイ・ファイヴ(タッチ)を交わして行った。

むろんのことに相方はご満悦。
終わりよければすべてよし。
人生などと大げさなことを言わずとも
一夜の晩酌もまた、すじがきのないドラマでありました。

=おしまい=

「aki」
 東京都目黒区目黒1-24-9
 03-5496-1289

「ぴんちょ」
 東京都目黒区目黒1-6-13
 03-6420-3312

2018年10月10日水曜日

第1977話 すじがき通りにいかぬ夜 (その4)

野球談議のつづき。
現状のジャイアンツにあまり執着しないのは
やはり高橋由伸監督に不満があるからだ。
好人物なのだろうが彼の性格は勝負の世界に不向き。
解説者にでも転ずるほうが本人のためにもベターだろう。
てなことを「三ちゃん食堂」で相方・Fチャンに語った数日後、
ホントに辞任しちゃったヨ。

それはさておき、八海山のお替わりとともに
チキンチーズ大葉巻き揚げというのを通す。
ハナシの種は野球からSF小説に飛んだ。
SFはまったく興味のない世界につき、
どうにかミステリー小説への転換に成功する。

冷酒から生ビールに戻す。
キリンの一番搾りだが不満はない。
締めに何かもう1品ほしい。
「かに玉か、揚げ焼きそばでいかが?」―
二者択一を促すと、彼が択んだのは焼きそば。
いわゆるかた焼きそばである。

6千円弱の支払いを終えて新丸子駅のプラットフォーム。
中目黒あたりで飲み直そうという腹積もりだ。
ところが入線してきた電車は東横線ではなく目黒線。
地下鉄・南北線に直通、いや、都営三田線だったかな?
どちらにせよ、この電車は中目黒を通らず、
目黒方面に向かう。

せっかち野郎は待つのが苦手、とにかく乗り込んだ。
来るもの拒まずの精神で中目黒から目黒に切り替えた。
李(すもも)も桃も桃のうち、
中目も目黒も目黒のうちである。
これでまたすじがきが崩れたわけだ。
もっとも自分で勝手に書き換えてるんだがネ。

目黒駅前の権之助坂を下ってゆく。
目黒川に架かる目黒新橋のたもとにある、
プチ飲み屋街を目指した。
入居する数軒の店を冷やかしたのち、
入口そばの「aki」なるバーの止まり木に―。

スーパードライの中瓶で一息ついてハイボール。
ウイスキーはサンピースというヤツで
これはキンミヤ焼酎の宮﨑本店製造。
つい先日は東中野の「丸松」にて
同じく宮﨑本店の手になる清酒、
宮の雪をいただいたばかりである。

焼酎メーカーが日本酒ならともかくも
ウイスキーにまで手を拡げているとは
よほどキンミヤで儲けているんだなァ。
逆を言えば、あの大サントリーでさえ、
ビールがせいぜいで
自らは酒・焼酎に手を出さんもんねェ。

=つづく=

「三ちゃん食堂」
 神奈川県川崎市中原区新丸子町733
 044-722-2863

2018年10月9日火曜日

第1976話 すじがき通りにいかぬ夜 (その3)

神奈川県・川崎市の新丸子にいる。
武蔵小杉を皮切りに飲み歩く予定が
早くも崩れたカタチとなった。
予定は未定にして確定に非ず。
所詮、すじがきなんてものは
書き換えられるためにあるのかもしれない。

生ビールをお替わり。
急に相方が豚足を食べたいと言い出した。
何でも幼少のみぎりから
近所の朝鮮焼肉店で食べ親しんだそうな。
だよねェ、川崎は焼肉屋が多いからなァ。

壁のメニューには豚足煮込みがあった。
まさかモツ煮込みの豚足版ではあるまい。
実際は煮込みというより、茹でた豚足だった。
あっさりしていてなかなかの美味。
少なくとも当店の焼きとんより好きだ。

3千円ちょっとの会計を済ませ、さて、移動である。
当初は溝の口の焼きとんの予定だったが
互いに焼きとんはもういいや、という心境。
それにわざわざムサコに戻るのも面倒だし・・・。
溝の口から三茶の三角地帯はまたの機会にした。

ここでひらめいたのが「三ちゃん食堂」だ。
新丸子のランドマーク的存在は
ジモティーに愛されてやまぬ食堂兼酒場。
しかも「小国」からは歩いて5分の距離にある。
相方に異論とてあるハズもなく、速やかに向かった。

時刻は18時前後だったろうか―。
引き戸を引くと、店内は大盛況の極みだ。
まるで芋の子を洗うが如くで空席が見当たらぬ。
しばし立ちすくむ二人であった。

立って待つこと5分余り、どうにか着席の巻である。
ビールは飽きたから八海山の冷酒でスタートした。
つまみは赤貝刺しと小肌酢。
それにグリーンアスパラ・マヨネーズ。
これは独り者のFチャンが
野菜不足を補うためのリクエスト。

ワイガヤの店内でわれわれも負けてはいられない。
話題はもっぱらプロ野球である。
熱烈なDNAファンの彼は
ジャイアンツとの3位争いが最大の関心事。
J.C.は消極的巨人ファンだが
DNAがクライマックス・シリーズに
勝ち進んでも構わないと考えている。
なぜならば・・・。

=つづく=

「やきとん 小国」
 神奈川県川崎市中原区丸子通1-640
 044-411-5677 

2018年10月8日月曜日

第1975話 すじがき通りにいかぬ夜 (その2)

ものの5分と歩かぬうちに新丸子駅前着。
無機質な武蔵小杉とは対照的に
庶民の息吹きすら感じさせる、
シタマチックなリトルタウンである。
どちらの町が好きかと問われれば、
応えずとも読者にはお判りでしょう。
 
やって来たのは初訪の「焼きとん 小国」。
これは「ショウコク」ではなく「オグニ」と訓ずる。
到着したのは開店時間の17時ちょい前。
すぐに中から店主が現れ、暖簾を掲げた。
 
あちこちに予約札が出ている中、2人用卓に促された。
これでテーブルはいっぱい。
カウンターに数席残るのみである。
したがってわれわれのあと、
入店してきたカップルは奥のカウンターへ。
 
スーパードライの中ジョッキで乾杯。
突き出しは生のキャベツ。
ありがちでおざなりなモノにちょいとガックシ。
ヒューマン・ビーイングは
カナリヤやジュウシマツじゃないんだからネ。
 
それはそれとしてFチャンとサシで飲むのは
暑い、もとい、熱いさなかの7月以来。
あのときは上野の銘酒屋だった。
この人の好いところは居酒屋だろうがバーだろうが
周りの人々とすぐに会話を始めて仲良くなること。
環境に溶け込む才覚に長けているのだ。
 
長丁場を余儀なくされる夜のこと、
サッサと飲み食いして次に移らねば―。
主力メニューの焼きとんだけにしておこうか。
レバだけをタレでお願いし、
ハラミ、パイ、シロは店の方針に任せた。
 
ちなみにパイとはオッパイ、牝豚の乳房のこと。
有楽町のガード下に「八起」なる名酒場があるが
あすこのオッパイ炒めとコブクロ(子宮)炒めは
バツのグンにして、シュウのイツである。
 
最初にハラミ、これは塩できた。
かなりの大ぶりで食べ応えじゅうぶん。
本音を言えば、大塚の「富久晴」みたいに
小ぶりな串のほうが好きだ。

前述のようにレバはタレ、これもデカいや。
パイもタレで当然大きめ、しかも硬い。
「八起」とはまったくの別物に期待はしぼんだ。
またもやタレのシロは下茹で不十分につき、
いつまでも口中に残り、なかなか飲み下すことができない。
それとも自分の歯が弱くなったんかいな?

=つづく=

2018年10月5日金曜日

第1974話 すじがき通りにいかぬ夜 (その1)

のみとものFチャンは
世田谷区在住ながら生まれは川崎市。
結婚までの30年間を川崎市民であり続けた。
だのに川崎市内の武蔵小杉や溝の口で
ただの一度も飲んだことがないという。
世にはかような御仁もいるんだねェ。

彼の言い訳がまたふるっている。
「ずっと市の西側より、川の北側を向いてたからネ」―
川は多摩川、その北側は東京都である。
ふ~ん、そんなもんかねェ。

ハナシがどこでどう、こんがらかったか、
武蔵小杉&溝の口をJ.C.が案内する破目に陥った。
主客転倒とはこのことをいう。
まあ、それもまた良し。

その日のプランは東急東横線。武蔵小杉の待合せ。
駅前の中華屋にて餃子でビールを飲み、
その後、JR南武線に乗って武蔵溝の口に移動し、
焼きとんをつまみにホッピー&日本酒。
あとは田園都市線・三軒茶屋の三角地帯というもの。
一度、三角地帯に連れてって以来、
奴サンはあのラビラントにハマッてしまったのだ。

夕闇せまるムサコの北口に出た。
見上げれば人気のタワーマンションが
あちこちにその雄姿(?)を晒している。
目指すは駅前のレトロ中華「大三元」である。
「大三元」となると、思い浮かぶのは錦糸町の本格中華。
続いて日暮里駅前の同名店となろうか―。

行ってみたら、ありゃりゃ開いてないぜ。
両手をブリンカー(遮眼帯)のようにして
いえ、遮るのは両眼でなくて光のほうだがネ。
窓ガラスに顔を近づけ、のぞき込むと中は真っ暗だった。
まだ中休みの時間帯らしい。

「大三元」がダメでも「七面鳥」があるサ。
そのまま東横線の高架脇を新丸子方面に歩く。
「七面鳥」なら何たって高円寺。
高円寺(中央線の駅)の高円寺(禅宗の寺)門前にある、
「七面鳥」は気に入りの町中華。
思い出したら久々に行ってみたくなった。

おう、おう、ちゃんと営業してた。
ところが何たる不運か、予約で貸し切りだとヨ。
いきなり2球続けて空振りときたもんだ。
さすがにここで思案投げ首。
武蔵小杉―新丸子の距離はやたらに短いから
前者に戻らず、後者に向かうことにする。
目指すは1軒の焼きとん屋であった。

=つづく=

2018年10月4日木曜日

第1973話 盆の敵(かたき)を長月で討つ

さて葉月、長月と連月で
川崎に遠征(そう遠くはないけれど)した理由である。
先のお盆に田園調布から蒲田を経て
川崎に到達したのはすべて街随一の大衆酒場、
「丸大ホール」で飲みたかったがため。
それをお盆休みのせいで袖にされたのだった。

浅野内匠頭じゃないが
「この間の遺恨、覚えたか!」―
そんな気構えで夕刻の酒場を訪れた。
当店は朝から晩まで通し営業していながら
どの時間帯も客足が途絶えることがない。

ほぼ満席につき、知らない人と袖振り合うこと必定。
これも多生の縁ということだろうか。
昼の「成喜」も相席、夜の「丸大」も相席。
昼のカップルとは言葉を交わさなかったが
夜の先客、単身のオッサンはやたらに人懐っこかった。
出し抜けに話し掛けてきて
まるでハナから3人で飲んでるみたい。

口角泡を飛ばされながら当方も負けずに飲んだ。
大衆酒場のオキマリ、ビール大瓶の銘柄は
スーパードライとあとは一番搾りだったかな?
キリンのお膝元にアサヒが存在感を放つ。

おっと、かきフライがあるじゃないか!
いよいよシーズン到来か!
とは思ったものの、ここには通年あるらしい。
それでもいいやとばかり、見切り注文に及ぶ。

相方がついでに頼んだのは平凡なポテトサラダ。
まったくもってオンナって生き物は冒険をしないネ。
世の平和のためにはそれでいいのかもしれない。
現実に臨んでディフェンシヴな姿勢の保持は
ある意味、必要なことなのかもしれない。

結局は薬局、
そのポサラもかきフも加えて追加したホヤ酢までも
けして悪いものではなかった。
さすがに「丸大ホール」である。
腐っても鯛、安くっても丸大であった。

長居は無用とばかり、
腰を上げ掛かったとき、オッサンに訊かれる。
これからの予定、行く先のことだ。
相方は名にし負うスナッキー、
「蒲田あたりのスナックかな?」―
京急蒲田の呑川沿いは大田区有数のスナック地帯だ。

再び結局は薬局、
驚いたことにオッサン、蒲田までついて来ちゃったヨ。
袖振り合うも多生の縁。
いえ、いえ、少なくとも”多少の縁”ではなかったネ。
いや、お疲れの夜となりました。

「丸大ホール」
 神奈川県川崎市川崎区駅前本町14-5
 044-222-7024

2018年10月3日水曜日

第1972話 37年ぶりのジャージャーメン (その2)

川崎はチネチッタ近くの「成喜」で
キリンのハートランドを飲んでいる。
心身ともに解放された至福の昼下がり。
昭和の匂いが店内のそこかしこに立ち込めて
古く良かりし中華料理屋そのものだ。
むろん頭上を中国語が飛び交うこともない。

届いた第一便は焼き餃子。
こんがりと焼き目が付いているのに油っ気がない。
シンプルかつ上品な姿に笑みがもれた。
包む皮は厚くなく薄くなく、
餡にしても肉々しさや菜々しさに偏ることなく、
巧みなバランスの妙を楽しませてくれる。

海老炒飯がまたけっこう。
これも油控えめにしてパラリと炒められ、
海老への火の通し浅く、噛めば身肉がプリッと弾ける。
ケレンなき塩味仕立ては炒飯の王道をゆく。
旨味調味料が使われていようが主張させてはいない。
家庭では出せない味がここにあった。
炒飯に付きものの清湯に青海苔が散っており、
微細なところにも気配りが感じられた。

以上2品で期待はより高まった。
”近所にあったら通っちゃうお店”―
よく耳にする言葉ながら
この店にはピッタリのフレーズだろう。

いよいよ37年ぶりのご対面だ。
ザージャーメンの具材は肉味噌、きゅうり、長ネギ。
湯切り麺につき、これにも青海苔入りの清湯が添えられた。
注文の際に平打ち麺を択ぶこともできたが
ずっと無沙汰していたアイテム、通常の細麺をお願いした。
食べてみて気に入ったら次回は平打ちにずればよい。

はたして・・・う~ん、フツーに美味しいネ。
別段、懐かしさに襲われることもなかった。
意外にあっけなく食べ終えて、ちょいと拍子抜けした次第。
しかしながら丁寧に作られているため、
見た目はキレイだし、完成度も高い。
ジャージャーメンとして、かなりの水準に達していよう。

焼き餃子・海老炒飯・ザージャーメンと3品いただき、
マイ・ベストは海老炒飯。
このためだけに再訪してもいいくらいだが
その際はあえて焼き餃子を海老餃子に
海老炒飯を蟹炒飯に代えてみたいと思う。
今回食べられなかった湯麺・炒麺系も試したい。

創業80年のキャリアはダテじゃなかった。
川崎名物のフーゾクとギャンブルには無縁の身。
よってこの街に来たならば、
時の流れを生き延びた佳店に身をまかせたい。

「中華 成喜」
 神奈川県川崎市川崎区小川町2-11
 044-244-4888

2018年10月2日火曜日

第1971話 37年ぶりのジャージャーメン (その1)

お盆から2ヶ月近く、また神奈川県・川崎を訪れた。
思い入れの深い横浜とは異なり、
川崎に特別な感情はないが
再度の襲来にはそれなりのワケがある。
その理由は次々話にゆずるとして・・・。

ギャンブルとソープと映画の街、神奈川県・川崎。
JR川崎駅の南西に位置する小川町に
チネチッタ(映画街)がある。
スクリーン数、席数、観客動員数、
すべてにおいて国内有数のシネマタウンだ。
十数年前、デート相手のリクエストに従い、
ぶらぶらした記憶があるが映画を観た覚えはない。

同町に1937年創業の中華料理店「成喜」が
時を超えて今も繁盛を極めている。
何でも川崎で初めて餃子をメニューに載せた店だそうで
いまだに焼き餃子・水餃子ともに店の名物となっている。

当店の存在に気付いたのはワリと最近。
川崎の古い町中華に興味を抱き、発見した次第だ。
「大利根無情」の平手造酒よろしく、
「行かねばならぬ、行かねばならんのだァ!」―
そんな心境に陥った。

旧知の友に肥を掛け、もとい、声を掛け、
おっと、「きったねェなァ!」 ってか?
これは自分が悪くありました、素直にお侘びします。
てなこって、とにかく「成喜」を訪れた。

アイドルタイムに差し掛かる13時半だというのに
店先には順番待ちの客が5名ほど。
10分足らずで相席気味ながら案内された。
ビールは一番搾りor ハートランドのキリン系のみ。
迷わずハートランドの中瓶を―。

食するモノはあらかじめ決めてあった。
焼き餃子、海老炒飯、そして炸醬麵(ジャージャーメン)。
ただし、ここではザージャーメンと称される。
記憶が確かならば、この麺を最後に食べたのは1981年。
芝公園は東京プリンスホテル内の中国料理店、
「満桜日園(マロニエ)だった。
はるか37年前のことである。

甜麺醤の肉味噌が主役の、言わば中華風ミートソースだが
スパゲッティ・ボロネーゼはさんざん食べたのに
炸醬麵とはかくも長き空白をおいてしまった。
要するに魅力を感じないというか、
早いハナシがあまり好きじゃないんだネ。
それが此度、トライする気になったのは
餃子と並ぶ当店の人気メニューと知ったからだった。

=つづく=

2018年10月1日月曜日

第1970話 時間がとまった商店街 (その2)

江戸のはずれの江戸川区、そのまたはずれの下篠崎町は
新町商店街の大衆酒場「大林」にいる。
「大林」とくれば、第一感は台東区・山谷の同名店だが
相互関係のアル・ナシは知らない。

おっと、お通しのそうめんを口にしたところだった。
紛れもないオリーヴ油の風味は冷製カッペリーニを思わせた。
コイツは考えましたネ。
シャレてるわりにコストはかからんし、手間もかからん。
居酒屋のお通しにはもって来いかもしれない。

注文は、かつお刺身、まぐろ山かけ、
やりいかトマトバター炒め、鳥ハツ塩炒めの4品。
客が紙片に記してオネエさんに手渡すシステムだ。
何せ、接客は彼女一人だから大忙し。
手を煩わせないためにも、まとめて通す。
つまみ類はそれぞれ水準に達していたが
特筆に値するものとてなし。

追加の酒はカリフォルニアの赤、コスタルッシの小瓶。
それと冷たい月桂冠生酒(300ml)である。
気がつけばカウンターは満席。
みな地元客のようでヨソ者はわれわれ二人だけだ。
会計は4500円ほどと大衆価格。
近くにあれば、ときどき伺いたいが
わざわざ遠征するほどではない。
ただし、この新町商店街自体は一訪の価値、大いにあり。

バス通りではなく、裏道を瑞江方面に向かって歩く。
次のターゲットは、とんかつ&串揚げの「冨岳」。
ロースカツが絶大な人気を誇っているらしい。
高田馬場の「ひなた」で食べたばかりのとんかつながら
ボリューム的にも相方がいると心強い。

サッポロ黒ラベルで、まずは和牛のたたき。
別段、どうということもなく、ピンとこない。
とんかつ屋に来て牛肉など食べるべきではなかった。
ロースカツは半分づつ分け合う。
サイズ的に「ひなた」と同程度でこれまた期待を下回る。

海老やら白身やら盛り込まれた串揚げ5本セットは
チーズをいただき、あとの4本は相方にオッツケた。
これも何だかなァ。
ほかにグラスの赤が1杯だけで6000円超はちと高い。

都営新宿線・瑞江駅前のロータリーに戻ってきた。
健啖家の相方はまだいける様子だ。
ロータリーに面した生麺工房「鎌倉パスタ」に入店。
サンマルクカフェが展開するチェーン店である。

当方はサッポロ中ジョッキ、相方はまたしてもグラスの赤。
スパゲッティは”海老の伊勢海老風味クリームソース”などと、
何だかよく判らないのを注文した。
けして不味くはないが伊勢海老の香りは感じられない。
まっ、こんなものでありましょう。

半年ぶりの江戸川区飲みの収穫は新町商店街の佇まい。
焼肉好きなら有名な「ジャンボ本店」の真ん前だから
本命のあとさきに軽く立ち寄っても損はありませんことヨ。

「大林」
 東京都江戸川区下篠崎町10-10
 03-3676-4983

「冨岳」
 東京都江戸川区南篠崎町4-29-12
 03-3698-3001

「鎌倉パスタ」
 東京都江戸川区瑞江2-3-2
 03-6638-2309