2019年2月28日木曜日

第2078話 北千住に「いもや」があった! (その1)

学生時代に御茶ノ水や神保町界隈を
ウロウロした経験を持つ者ならば、
みな1度や2度は天ぷら「いもや」のお世話になったでしょう。
J.C.とて例外ではありまっしぇん。

白山通りに面して本店を構える「いもや」は
系列店やら暖簾分けやら詳細は存ぜぬが
とんかつ専門も含めて近所に何軒か看板を掲げている。
われわれの世代は「いもや」といえば、
一に天丼、二に天定、
三、四がなくて、五にとんかつではなかろうか。

週末の北千住。
丸井地下の「食遊館」へ食料の買い出しに出掛けた。
その前に遅い昼めしである。
宿場町通りから1本西の道筋に
とんかつの佳店ありと聞きつけて向かうと、
ターゲットの手前に「いもや」の暖簾を発見。
ええ~っ、こんな所に何だってまた「いもや」があるの!
ちっとも知らなかったヨ。
店構えをよくよく見れば、ずいぶんと年季が入っており、
ここ数年の新参店には到底見えない。
とんかつと天ぷら、少々迷った末、意外な遭遇に軍配を挙げた。

店内はL字のカウンターのみで8~10席ほどだろうか。
鍋の前には店主と思しき若者が1人。
接客と調理補助担当のオバちゃんは
おふくろさんかパートの主婦か、ちと判断がつきかねる。

「ごはんが炊き上がるのに15分ほど掛かりますが・・・」
店主に言われて
「ああ、構わんヨ」
相手が若いものだからぞんざいな口利きになってしまった。
いや、失敬!

1時間は困るけど、どうせビールを飲みながら待つ身、
20~30分はへっちゃら、へっちゃら。
スーパードライの大瓶をトクトクしてグイ~ッ。
おや、おや、サービスの突き出しは板わさじゃないか。
神保町の本店ではこんな心配りはなかったヨ。

品書きには天ぷらのほかに
〆さば・いか刺し・たこ刺しがあり、いずれも450円。
値段も値段だし、天ぷら店であることだし、
ちょいとばかり二の足を踏んだものの、
意を決して〆さばをお願い。

若き店主が冷蔵庫から三枚おろしの切り身を取り出した。
まごうことなき自家製である。
粉わさびは承知の上で、期待に胸がふくらんだ。

=つづく=

2019年2月27日水曜日

第2077話 雪やみて 巣鴨の街 (その3)

魔が射して相方の誘いに乗ったお好み焼き。
やはりそれなりの因果があったのだ。
スーパードライの中ジョッキで本日3回目の乾杯。
とにもかくにもミックスお好み焼きを通す。

接客のオネエさんが
鉄板にブチまけた具種(ぐだね)を手際よく整えてゆく。
シングル盤のレコードみたいな円形がキレイに形作られた。
ふ~ん、修練というのは怖ろしいものだネ。
コテで引っくり返すと、薄い焼き目が均等に付いていた。

「絶対にさわらないで下さいネ」―
そう言い残した彼女は
ひとまず別のテーブルのケアに立ち去った。
取り残されたわれわれ二人は目を合わせて苦笑するのみ。
何だかお預けを食らったワン公の気分である。

待つこと2分、手持ち無沙汰につき、
手持ちのコテで焼かれつつある物体を突っつこうとすると、
怖い顔した相方があわてて止めに入った。
多少動かしたからって味が変わるもんでもなかろうが
言われたことを律儀に守り抜く人も世の中には必要だ。
(この御仁はA型だろうな)・・そう確信した。

戻ってきたオネエさんのお許しを得て割り箸を割る。
一切れいただいての印象は可もなく不可もなく。
もともとお好み焼きは好みじゃないんだ。
年に1度も食べないんじゃないかな。
つらつらと思い出すに、去年もおととしも食した記憶がない。
あれは3年前、浅草は観音裏の「立花」が最後だろう。

相方4分の3、当方4分の1の割合で完食。
ジョッキは2杯目に突入している。
「もんじゃいってみたいネ」
「ハッア~?」
「せっかくだからサ」
止めるひまもあらばこそ、
今度は店長らしきオニイさんを呼び止め、
「オススメのもんじゃは何ですか」
こう来たもんだ。

問われた仮に店長、応えて曰く
「明太子チーズですっ!」
「じゃ、それ下さい」
あわててJ.C.、
「明太子が苦手なんで、ほかには?」
「ミックスもんじゃですかネ」

結局、追加したそのミックスもんじゃ、
今度は5分の4対5分の1で食べ終える。
これならハナから相方の求めた明太チーズでよかったかもネ。
こうして巣鴨の夜は更けてゆきました。

=おしまい=

「鉄板焼 味千」
 東京都豊島区巣鴨3-28-8
 03-3915-3333

2019年2月26日火曜日

第2076話 雪やみて 巣鴨の街 (その2)

Kとブルンネンといっても今となりゃ、
知ってる人はほとんどいないと思われるので
デビュー曲「何故に二人はここに」をちょいとご紹介。

♪   なぜに僕たち二人 
   生まれて来たの
   だれもこたえてくれず 
   海が青いだけ
   なぜにこうして二人
   愛しているの
   だれもこたえてくれず 
   波が寄せるだけ

   だけど二人いつの日も
   若いからだ寄せて
   生きてゆくの風の中も
   支えあって生きる    ♪

     (作詞:山上路夫)

日本青年Kとアメリカ娘ブルンネンのデュオは
1979年7月、この曲でデビューした。
当時、活躍目覚ましかった、
ヒデとロザンナの向こうを張っての登場だったのだろう。

確かブルンネンとは
ドイツ語で泉や噴水のことじゃなかったかな?
そのラストネームから、てっきりドイツ人だと、
一人合点していたが彼女はアメリカ・コネティカット州出身。
おそらくドイツのバイエルン州・ブルネンから
合衆国にやって来た移民の末裔と思われる。

巣鴨南口駅前の「鉄板焼 味千」にて
相方・Fチャンと差し向かいとなり、
「何故に二人はここに」が脳裏をよぎったとき、
ハタと思い当った。

そう、あれは奇しくも1979年7月。
高校三年生だったJ.C.は夏休みに入ると、
遅ればせながら受験勉強を始めたのだった。
当時のGFと毎日、図書館通いをしてネ。

それが巣鴨図書館。
「味千」からそう遠くない場所に今もある。
彼女は地蔵通りの精米店の娘で
夕方になって勉強を終えると、
いつも立ち寄ってお茶をするのが
「コージーコーナー」の2階席。
驚いたことにこちらは
「味千」の同じ並び、数軒隣りなのである。

どうした歴史のいたずらか、
今はオッサンとサシでお好み焼きときたもんだ。
振り返れば、これもすべてKとブルンネン、
そして米屋の娘のお導きなのであろうヨ。

=つづく=

2019年2月25日月曜日

第2075話 雪やみて 巣鴨の街 (その1)

「江戸一」をあとにした2人のオッサンに
酔いの回りがドッと押し寄せてきた。
それでも足元に注意を払いながら
くぐったのはすぐそばにある、
もつ焼き「富久晴」の縄のれん。
J.C.的には大塚とくれば、
「江戸一」&「富久晴」はワンセットになっている。

ところが店内は立錐の余地もなく、
哀れ、焼きとん難民が約2名、
雪上がりの街に放り出されたのであった。
いいサ、いいサ、大塚がダメなら巣鴨があるサ。
てなこって、隣り駅の巣鴨に移動の巻である。

南口ロータリー近くのワインバー「プティ・ポワ」へ。
あれっ、内装は変わってないが、どこか雰囲気が違う。
以前はバーカウンターに女性が2人いたのに
現在は男性が1人のみ。
相方・Fチャンの落胆ぶりが手に取るように伝わってくる。

察したJ.C.、おもむろに
「ワイン1杯だけ飲ませてください」
「お通しがつきますけど・・・」
「ああ、いいですヨ」
てなこって、アルゼンチンの赤ワイン、アラモス マルベックを。
あまりつままずにしこたま飲んできたものだから
飲み口をまったく覚えていない。

ついでにOKしたお通しすら何が出たのか、
手をつけたのか、つけなかったのか、
まったくのアウト・オブ・メモリーでありました。
これは相方も同じこと。

下を線路が走る、水のない巣鴨橋を北へ渡り、
JR山手線の外側へ。
お婆ちゃんの原宿として名高い、とげぬき地蔵方面だ。
地蔵通りには「巣鴨ときわ食堂」をはじめ、
飲み処はいくらでもある。

空腹を訴える相方が
「この店どう?」
見れば、2階へ続く階段の入口に看板あり。
「何だヨ、お好み焼きともんじゃじゃないの」
「腹減っちゃって、お好み焼きが食いたいな」
(チッ、オンナ子どもじゃあるまいし)と思ったものの、
飲み始めると、あまり食べものを口にしない身につき、
冷えた生ビールがありゃ、それでじゅうぶんなのサ。

てなこって、落ち着いたのが「鉄板焼 味千」の小上がり。
スーパードライの中ジョッキであらためて乾杯だ。
ここでふと気がついたが、お好み焼きの鉄板をはさんで
男とサシで向かい合うのは人生初なんじゃなかろうか?
何故に二人はここに?
Kとブルンネンの歌声が右脳と左脳のあいだで
こだまし始めたのでありました。

=つづく=

2019年2月22日金曜日

第2074話 雪がチラホラ 大塚の街 (その4)

J.C.がこよなく愛する大塚「江戸一」。
真澄から浦霞の、やはり上燗に切り替える。
ぬるくもなく熱くもない、
ちょうど中間の上燗が絶対の好みである。

千代の光をお替わりした相方・Fチャンが訊いてきた。
「浦霞ってどこの酒? 茨城?」
「ええ~っ、どっから茨城が出て来んの、宮城ヨ、宮城っ!」
「だって、霞ヶ浦の辺かなと思って・・・」
バカバカしくもハッとする自分がいた。

浦霞→霞ヶ浦ねェ。
今まで何十回も口にしている銘柄ながら
この連想はまったくのノーマーク、言われて初めて気づいた。
このオッサン、まんざら馬鹿にしたもんじゃないな。
そしてなぜかこの日の浦霞は一味違った。
コルテーゼ種を使用したピエモンテ産白ワインの如き風味。
初めてそう感じたのだった。

そろそろ蟹のとも和えを通そうと思ったその矢先。
品書きの木札が裏返された。
アン〇○○〇ング・ビリーヴァブル!
むろん、頼んだ客に罪などないが
トンビに油揚げをさらわれたような心持ち。
いやはや、痛恨の出遅れであった。

よって新香盛合せにハンドルを切る。
「江戸一」の必注種目の1つは
手造り感満載にして葉菜・根菜の彩りが美しい。
隣りは和風ポタージュみたいなごぼう汁を
満足気にすすっている。

今度は浦霞から惣花に移行。
宮内庁御用達の老舗酒問屋「加島屋」の銘酒は
先の皇后陛下、香淳皇后がご愛飲なされていたとか—。
そう言われてみれば、
なるほど、ふくよかで高貴な口当たりですこと。

真澄1、浦霞2、惣花2。
いつの間にやら目の前に空の銚子が5本並んだ。
千代の光以降の相方の分まで覚えちゃいないが
やはり5本の銚子。
トータル10本が2人の前に林立している。

当店は空いた銚子を最後まで下げない。
会計の際、これを見て女将が算盤パチパチするわけだ。
でもネ、客の立場からすると、このシステムには難点が1つ。
誰がどれだけ飲んだのか一目瞭然で隠しようがない。

これが客たちの競争心をあおりにあおる。
そのすさまじきこと、あおり運転の如し。
ためしにカップルで訪問して目の前に2本くらい並べて
長居でもしてごらんなさい。
周りからの冷たい視線にいたたまれなくなっちゃうから。

その点、われわれは2人で10本、心なしか誇らしい。
別段、背中に尊敬の眼差しは感じなかったが
意気揚々と引き揚げた。
いや、ひょっとしたら尊敬どころか軽蔑だったかもしれない。
(2人揃って馬鹿だなあいつら。つける薬がないヨ)ってか!

=おしまい=

「江戸一」
 東京都豊島区南大塚2-45-4
 03-3945-3032 

2019年2月21日木曜日

第2073話 雪がチラホラ 大塚の街 (その3)

大塚南口の「あさちゃん」で通した焼きとんは3本。
いや、正確には焼き鳥1本、焼きとん2本。
焼き手が珍しくも若い女性で
火種は備長炭ではなかったが炭火だった。

最初はぼんじり(140円)を塩で。
いわゆる鳥の尾羽のつけ根だが予想以上の佳品だった。
2本目は豚のカシラ(140円)を同じく塩。
これは赤身部分と脂身部分が2ピースづつ、
交互に串打ちされており、見た目は紅白豚合戦だネ。
そして豚レバー(120円)はタレ。
じゅうぶんに水準に達している。
取り急いでの会計は(820円と、
ちょい飲みには恰好の店といえる。

時刻はちょうど16時半、すでに遅刻である。
いつの間にやら雪が降り始めている。
歩きながらチラリ眺めた南大塚通りの反対側。
「江戸一」には暖簾が出ていた。
店先に人影がないから第一陣は入店済みということだ。
まっ、この空模様にこの寒さ、
天下の「江戸一」といえども中はガラガラであろうヨ。

大塚駅で相方をピックアップし、
取って返した店内は・・・
何だ、何だ、満席状態じゃないか!
それでもやさしい笑みを浮かべた女将が
若い常連サンを移籍ならぬ移席させて
スペースを作ってくれた。
むろん、紳士のわれわれ2人、
彼にお礼の言葉を掛けることを忘れない。
かくして残りは椅子1つのみ、いや、危ないところだった。

着いた席は引き戸に背を向けて入口のすぐそば。
それこそ今日のような雪の日に突然、
狼藉者に討ち入られたひにゃ、
真っ先に背中を袈裟懸けに切り裂かれそうなポジションだ。

「あさちゃん」では量がやや少なめの中ジョッキを
1杯しか飲めなかったが
想定通りにビールをパスして燗酒でいく。
アルバイトと思しき娘さんに
相方が千代の光のぬる燗を通した。

続いて当方、真澄の上燗を告げると、
「冷やですか?」―訊き返された。
「じょうかんって伝えて。女将さん、判ってくれるから・・・」
はたして数分後、2本の銚子が燗度バッチリで運ばれた。
すべて女将の鋭い感度のなせる業である。

つまみは蕗のとう味噌焼きと赤なまこ酢。
実は品書きの木札を目にして
イの一番に心惹かれたのは蟹のとも和えだったが
蟹→蕗のとうよりも、蕗のとう→蟹のほうが
スマートなラインに思えたのだ。

=つづく=
「やきとん あさちゃん 大塚店」
 東京都豊島区大塚3-52-7
 03-5956-2911

2019年2月20日水曜日

第2072話 雪がチラチラ 大塚の街 (その2)

JR大塚駅を北口に出た。
相方と落ち合うまでに早いとこ、
ちょい飲みを済ませにゃならない。
ビールという名の聖水で
寒風に耐えているノドをいたわらにゃならない。

実はこのあと訪れる「江戸一」には
唯一無二のウイークポイントがある。
他客なら意にも介さぬ些細なことだが
J.C.にはとても重要なんざんス。

数十年来、その夜の酒は(ときには昼から)
何が何でもビールで始めている。
ところが、わが愛する「江戸一」ときたひにゃ、
小瓶はエビス、大瓶はキリンラガーの取り揃え。
サッポロなら黒ラベルで文句はないし、
キリンだったらせめて一番搾りであれば
どうにか折合いがつくというのに—。

ハイッ! 無いものねだりは打っちゃっといて0次会へ。
北口から徒歩1~2分の立ち飲み「ゆる酒場」に来ると
シャッターが閉ざされて開く気配すらない。
16時開店のハズだが営業時間の変更があった模様だ。

こりゃ、いかん。
時間に追われる身につき、ちょいと焦った。
舞い戻って駅舎を抜け、今度は南口へ。
そうして飛び込んだのは「やきとん あさちゃん 大塚店」。
大塚店を名乗るからにはヨソに姉妹店があろうが
利用したことは一度もない。
とにもかくにも入店を決断した理由は3つ。

① 時間がない
② やきとん大好き
③ 中ジョッキ199円

へへッ、③の理由はわれながらセコいよネ。
加えて”慌てる乞食は貰いが少ない”のことわざ通り、
勝手に早とちりした生ビールはアサヒじゃなくてキリンだった。
まっ、生ならキリンもけっこう。
しかも飲みやすい一番搾りならなおさらだ。

泡が多めのジョッキとともに
運ばれたオッツケのお通しは切干し大根。
これが税込みで208円。
ちなみに中ジョッキも税をプラスすると214円。

うれしくも何ともない切干しだが
こういうタイプの店にありがちなおざなり感は薄い。
マジメに作りました感すら漂う。
にんじんのほかにさつま揚げや油揚げも散見される。
思いのほかこの店、イケちゃうんじゃないだろうか。
希望という名のほのかな灯りが点った瞬間でありました。

=つづく=

2019年2月19日火曜日

第2071話 雪がチラチラ 大塚の街 (その1)

数日前から気象庁が盛んに
「雪が降る、雪が降る」と警鐘を鳴らし続けていた。
われわれの世代は「雪が降る」と聞くと
その第一感は天気予報じゃなくって
シャンソン歌手のサルヴァトーレ・アダモ。
そう、「Tombe la Neige」なんですネ。

♪   雪は降る あなたはこない
  雪は降る 重い心に
  むなしい夢 白い涙
  鳥は遊ぶ 夜は更ける
  あなたはこない いくら呼んでも
  白い雪が ただ降るばかり  ♪
     (作詞:安井かずみ)

だいたいが当庁の予報は常にオーバーめ。
うがった見方をすれば、
予期せぬ大災害につながった場合に備え、
少しでも自庁の責任を逃れる、軽くする、薄める、
そんな自己防衛本能が作用するために相違ない。
いや、本能というより策略だネ、あれは—。

備えあれば憂いなし。
確かに一理ありますがネ。
だけど突然、予約をキャンセルされる、
飲食店の身にもなってあげなさいヨ。

先々週末の土曜日。
都心でも積雪5センチに達すると予報されたものの、
案の定、大したことはなかった。
フン、やっぱりな、またヤられたぜ。
そう、舌打ちしたことだった。

世の中の女性や子どもがおやつを食べる時間に
傘も持たずに家を出ると、
降雪の形跡は残っていたが積もるというほどではない。
ただ、気温はかなり低かった。
伊達の薄着が自慢(?)のJ.C.も思わずもらしたネ。
「お~、さむっ!」

かかりつけの歯科医で定期健診を済ませたあと、
JR山手線で大塚駅へ。
この日はのみとも・Fチャンから
都内随一の酒亭「江戸一」に案内せよとの要望があり、
それに応える手筈となっていた。

駅の改札を抜けるときに時計を見上げると、まだ16時前。
待合せは16時25分である。
「江戸一」の開店は平日が17時。
土曜だけは30分前倒されて16時半なのだ。

早めに到着したのにはワケがあり、
そう、賢明な読者はすぐにピンと来たことでしょう。
例によって独り0次会を
ささやかに執り行う腹積もりでありました。

=つづく=

2019年2月18日月曜日

第2070話 ごま油の匂いに誘われて(その2)

「はちまき」に戻って上天丼をピックアップ。
ついでにレジ脇にあった店のビジネスカードと
月刊文化情報誌「本の街」をいただく。
天丼を買い求めたおかげで、
もう何処にも寄らない踏ん切りがついた。
今宵の酒量も抑えられることだろう。

冷蔵庫から缶ビールを取り出し、包みを拡げた。
看板に偽りのない天ぷらがごはんの上に並ばっている。
ごま油の香ばしい匂いが食卓から立ち上がる。
まずは2本ある海老からだ。
コロモの花の散り具合よろしく、
海老本体は火の通しが浅すぎるほどに浅い。
おそらくベトナムあたりのブラックタイガーだろうが
じゅうぶんに美味しい。

ホロホロのきすもなかなかイケる。
ぶっとい棒状のいかだって、けして悪くはない。
ここでビールをもう1缶。
飲みながら食事に移った。
残された海老・蓮根・ピーマンにたっぷりのごはん。

味噌汁を作るのは面倒だけど、何か吸い物がほしい。
こんなときに重宝するのが、おぼろ昆布だ。
わが家はこの昆布を切らしたことがない。
今宵は静岡産のしらす干しを加えてみた。
あとは熱湯と生醤油のみで、出汁などとらない。
ごはんは半分ちょっとでギヴアップ。
もともと多いんだから仕方ないやネ。

食後、ウイスキーのハイボールに切り替え、
「はちまき」のビジネスカードを手に取った。
”江戸川乱歩ゆかりの店”とあって
現在の代表は三代目。

主な常連様のリストが記されている。
乱歩のほかには
海音寺潮五郎 山岡荘八 佐野周二
三国連太郎 辰巳柳太郎
といった面々。

学生服姿の学生たちを前に
揚げ場に立つのは初代だろう。
トレードマークのねじりはちまきがキマッている。
よく撮れたもんだと感心するほど、
カードに刷られたスナップ写真はグッショットだ。

小冊子「本の街」には三代目の寄稿文が掲載されていた。
初代と二代目は戦前・戦中・戦後にかけて
大変な苦労をされたようだ。
”上質の食材・油・粉でおもてなし”
”創業昭和六年 寅吉・文雄の蒔いた種は今日も花開く”
古本の街・神保町に今もさり気なく咲く、
散ってはほしくない花一輪が「はちまき」である。

「はちまき」
 東京都千代田区神田神保町1-19
 03-3291-6222

2019年2月15日金曜日

第2069話 ごま油の匂いに誘われて (その1)

紹介していただいたS村サンには申しわけなかったが
”驕る鳥家”をあとにして、独り歩く神保町の街。
時刻はまだ18時10分過ぎである。
どこかもう1軒、軽く飲っていこう。
飲食店が軒を連ねるすずらん通りにやって来た。

白山通りの向こう側、「加賀屋」のもつ煮込みで一杯。
そう、心づいたものの、鳥と豚の違いはありこそすれ、
ハツやレバーをさんざ食べたあとに白もつもないもんだ。
すぐに考え直す。

ロシア料理の「ろしあ亭」ねェ。
ザクースカ(冷前菜)でウァッカかズブロッカという手もあるな。
ガラスのドア越しに店内をうかがうと、けっこうな混雑ぶりだ。
こんなシチュエーションでの単身客はあまり歓迎されない。
ランチタイムならともかくも
夜の単独訪問者はまれだろうしネ。

「揚子江菜館」、あるいは「スヰートポーヅ」で餃子かァ。
いや、そうじゃないな。
短い行列の出来ている「キッチン南海」は
ボリュームあり過ぎだしねェ。

すずらん通りも終わりに近づき、
駿河台下の交差点が見えてきたとき。
鼻腔をくすぐるごま油のいい匂い。
匂いのもとは昭和6年創業の天麩羅店「はちまき」だ。

つい誘われて店先に立つと、
出されたテーブルに持ち帰り用の天丼がいくつか。
もちろん包装だけで中は空っぽである。
さあ、どうしよう?

お好みで揚げてもらって燗酒でもいただくとするか?
ちらり外からのぞけば客は皆無。
これでは落ち着かないし、やはり歓迎されないだろうな。
立ち去ろうと思ったが、いや、ちょいと待てヨ。
天丼ぶら下げて家に帰り、静かに飲み直そう。
よしっ、そうしよう。

テイクアウトは上天丼(800円)1種のみ。
店頭のテーブルに内容が記されており、
海老2・きす・いか・野菜とあった。
具材の半分を酒の肴に、残りを飯のおかずにしよう。

調製に2~3分かかるとのことで支払いを済ませ、
「5分ほどしたら戻ります」—こう告げて夜の街へ。
すぐそばの神保町シアターでは近々、
「君の名は」が上映されるという。
佐田啓二と岸恵子のオリジナル版である。
観に来る、来ないは別として
パンフレットだけはもらって来た。

=つづく=

2019年2月14日木曜日

第2068話 驕る鳥家も久しからず (その3)

 「焼鳥 酉たけ」にて2杯目の生ビールを。
手元にはレバーの醤油煮がまだタップリ残っている。
デキはよいのだが、だんだん飽きてきた。
よって第二ラウンドにレバーの選択肢はなくなった。
あらためて焼き鳥のラインナップに目を通す。

皮・ハツ・砂肝―110円  
ねぎま・ささみ・せせり・はらみ・ぼんじり・
レバー・手羽先・ヤゲン軟骨―140円
つくね・はつもと・さえずり―160円
おまかせ5本―650円

全14種、それほどの品揃えではない。
何よりも大好物の背肝の不在が痛い。
追加したのはともにめったに注文しない皮とつくねだ。
この際に芋焼酎のロックを1杯。
銘柄は農家の嫁である。

明るい農村は飲んだことがあるが農家の嫁は初めて。
こいつが実に旨い。
ガツンと来たあと、奥行きが拡がってコク味を残してゆく。
まことにいまいましい、もとい、
芋々しい口当たりであり、ノド越しである。
願わくば、製氷機の氷でなく、ロックアイスを使ってほしい。

帰宅後、調べると、鹿児島は霧島町蒸留所の手になるもので
何と明るい農村の姉妹品だった。
鹿児島産黄金千貫を100パーセント使用し、
通常は蒸したさつま芋を原料とするところ、
焼いたさつま芋、いわゆる焼き芋を用いる。
黒麹を使った、かめ壺仕込みとあった。
道理で一味も二味も違うハズだ。

皮(塩)とつくね(タレ)が焼き上がった。
ところがこの皮が本日のワースト。
焦げた部分にチョキチョキ鋏みを入れないものだから
食感は悪いし苦々しい。
剪定不足が不出来の原因であることに疑いの余地はない。

つくねはまずまずながら、特筆には当たらない。
それにしても当店のチョコレート色のタレは
照りといい、コクといい、深味を感じさせる。
一朝一夕には作れない代物のようだ。
ただし、J.C.の好みとは少々異なるがネ。

「ご注文、ラストになりますが・・・」—
突然、女将に肥掛け、もとい、声掛けされた。
「エッ? エエ、けっこうです」—
とっさのことで反射的に応えてしまったが
コレって早いとこ勘定済ませてお引き取りを—
ってことなんだよよネ。
掛け時計を見上げたら、まだ18時08分であった。

そりゃ予約の際、確かに1時間そこそことは言いましたヨ。
でもネ、先客のグループもカップルもまだ悠々とお食事中。
丁寧な言葉ではあったが、ちょいとばかりシャクにさわった。
金3260円也を支払い、店をあとにしたとき、
焼き場で忙殺されていた店主からは一言もなかった。

まっ、やってなさいヨ、こういう商売。
驕る平家は久しからず。
驕る鳥家(とりや)もまた久しからず。

=おしまい=

「焼鳥 酉たけ」
 東京都千代田区神田神保町1-46
 03-5577-4182

2019年2月13日水曜日

第2067話 驕る鳥家も久しからず (その2)

神田神保町の「焼鳥 酉たけ」。
オッツケられたお通しは
茹でた鳥もも肉のしょうがソース。
柚子の香りの鬼おろしポン酢。
そして青菜のおひたし。

この際、女将に
「この野菜は何ですか?」—訊ねると
彼女、とっさに応えられず、しばし言葉を失った。
そこへ焼き場の店主が叫んだネ。
「菜の花っ!」

おい、おい、
「菜の花でございます」とまでは求めないが
「菜の花です」くらいは言って欲しいネ。
最低限の言葉遣いってもんがあるでしょに―。
まっ、気を取り直して箸をつける。

鳥肉はシンガポールの海南鶏飯、
あるいはタイのカオマンガイのパクリだな。
鬼おろしはごくフツー。
菜の花は茎が太くて硬い。

焼きモノの第一ラウンドは
はらみ(140円)・ハツ(110円)・
はつもと(160円)・さえずり(160円)を1本づつ。
店のスタイルを確認したかったので
当方からは塩 or タレの指定をしなかった。

最初の1皿は、はつもと&さえずり。
どちらもタレである。
続いて、はらみ&ハツが塩で来た。
通常は塩モノが先なんじゃないの?
アッサリからコッテリへ進んだほうが舌にやさしいからネ。

読者に想像していただくために食感だけでもお伝えする。
はつもと―クニュクニュ さえずり―クニュコリ
はらみ―クニュシットリ ハツ―ヤワコリ
何だかよく判らん! ってか? そりゃそうでしょうネ。
上質な素材にていねいな焼き上げが
水準をじゅうぶんにクリアしていた。

当店の名物らしきレバー醤油煮(390円)をお願い。
霜降り程度でほとんど生の状態は
今まで出会わなかった食感を生み出している。
味付けは醤油と砂糖かみりん、そしてしょうがの風味。
なかなかに美味しいけれど、かなりの量がある。
10片はあったと思うが、この半分でいい。
これじゃ焼き鳥のレバーが食べたくなくなっちゃうヨ。
いやマイッたな。
マイりながらも中ジョッキをお替わりした。

=つづく=

2019年2月12日火曜日

第2066話 驕る鳥家も久しからず (その1)

新宿区在住のS村サンからいただいたメール。

J.C.さんは以前よく、
神田神保町で飲まれてらしたですよね?
神保町と水道橋の中間にある、
「焼鳥 酉たけ」には、もう行かれましたか?
先日、夫とおじゃましましたら
とても美味しかったのです。
接客に多少の問題がありましたが
そこには目をつむって
まだ未訪でしたら行かれてみてください。

いや、知りませんでした。
ネットで所在地を調べてみたら
前は違う屋号の焼き鳥屋だったか、もつ焼き屋だったか、
とにかく1度だけ訪れた店があった場所だ。
そのときは二次会か三次会だったため、
軽く飲んだだけなので記録に残っておらず、
店名も思い出せない始末である。

予約必須と聞いて電話を入れ、独りで赴いた。
その際、店主と思しき受け手から
「混み合いましたら2時間制になりますが・・・」
「いや、そんなに長居しません、せいぜい1時間そこそこで―」
こんなやり取りが交わされたのだった。

開店の17時を数分過ぎて引き戸を引くと、すでに先客あり。
カウンターの右端に1カップル、座敷に1グループだ。
カウンターの左から2番目の席に案内され、
おもむろに中ジョッキを通した。
生がアサヒ、瓶はキリンの取り揃えである。

接客担当はまだ若いけど、女将サンかな?
いや、そんなタイプじゃないが仮に女将としておこう。
焼き手は店主で2人の切盛り。
彼らが夫婦かどうかは判らない。
ひとしきり他客の注文を取った女将が
金350円也のお通し3点セットを用意してくれた。

このとき気になったことがある。
小鉢を左手に2つ、右手に1つ、
両手で女将から手渡されたが問題は左手。
左の人差し指が片方の鉢の中に入っちゃってるヨ。

例えば接客係がビールのグラスを下げる際に
片手で2つ持つ場合、親指・中指・薬指で1つをはさみ、
もう1つは人差し指をグラスの中に引っ掛け、
2つををカチンと合わせるように持つ。
これは飲食店でよく見る光景だ。

しかし2人客にビールとグラス2つを出すときに
上記の持ち方は絶対にしないだろう。
ああいう仕業は下げ物だけに許される。
なるほどねェ、雑だなァ、こりゃ接客に問題ありだ。
ここは心してかからにゃならんゾ。

=つづく=

2019年2月11日月曜日

第2065話 作るアホウに食うアホウ

作るアホウに食うアホウ
同じアホなら食わにゃあ 損々

何のこっちゃい? ってか?
いえネ、アホウの極み、愚の骨頂とも言うべきアホウ巻、
もとい、恵方巻のことでんがな。

年が明けたと思ったら早や如月。
毎年、2月がやって来ると不快な気分にさせられる。
ここ20年、節分の主役は豆まきから
恵方巻に取って変わられた態を示している。
今年も大きな神社仏閣では盛大に豆まきが行われたが
一般家庭ではどうだろう?
子どもの2~3人もいれば絵になるけれど、
倦怠期を迎えた夫婦二人が家で豆なんかまいてごらんなさい。
鬼が出てゆく代わりに、しらけ鳥が舞い込んで来るって―。

忘れもしない2006年2月2日、節分の夜。
六本木の「寿し処 くに」(現在は西麻布に移転)をGFと訪れた。
引き戸を引くと店内右側のつけ台にいたカップルが
揃ってこちらを振り向くじゃないの。
と思ったのは、われわれの勘違い。
二人の手にはぶっとい恵方巻がつかまれていた。
ちょうど玄関の方向がこの年の恵方だったわけだ。

何も高級鮨店でアホウ巻、
再びもとい、恵方巻なんぞ食わなくてもいいじゃないか―。
第一、あんなぶっといのをやっつけたら
ほかが入らなくなるだろうに―。

調べてみたら1989年に広島のセブンイレブンのスタッフが
大阪の古い習慣にヒントを得て発案し、
’98年頃から急速に全国普及したとのこと。
まったくもって罪づくりな発明をしたもんだ。

恵方を向いて言葉をもらさず、一気に食べ終える。
フン、こんなんで願い事がかなったり、
福が呼び込めたら誰も苦労はしないヨ。
むしろ、食べものを粗末に扱っている感拭えず、
逆にバチが当たって、災厄に見舞われるのが関の山だ。

今年もまたコンビニを中心に悲劇的愚行が繰り返された。
”本部”の無謀かつ横暴な売上計画が破綻し、
アホウ巻(もう、もといは入れない)を余りに余らせ、
しわ寄せは従業員に押し付けられて
なけなしの給料なのに自費購入を強制される始末。

しっかし、あの”本部”ってのはいったい何なのかネ。
民、百姓の血涙を搾り取る悪代官の生まれ変わりかい?
どうせ愚かな社長はじめ、
無能な役員たちのアホ軍団だろうが
きゃつらこそが諸悪の根源なのだ。

哀れ、大量に廃棄されたアホウ巻は豚のエサと化し、
その豚肉を人間が食べるという笑えない食物連鎖。
ねェ、みんな、いい加減にアホウ巻とはオサラバしようヨ。
あんなん食い続けてると、本当にバチが当たるヨ。

われ生きる世から消えてほしいモノいくつか―。
家庭や学校にはびこるイジメと虐待。
アホ首相とアホウ財務相、そしてアホウ巻でありまする。
その願いかなうよう、今夜はおでんで一杯飲るとしよう。
ごぼう巻と鳴門巻を入れたヤツでネ。

2019年2月8日金曜日

第2064話 軽食&喫茶に白レバー? (その3)

中瓶のビールが残り少なくなる頃、
白レバーのニラレバ定食が運ばれた。
ん? いったいどこが白いんだヨ。
大量のもやしに混じって散見されるレバーは
ごくごくフツーの当たり前のもの。
ちっとも白くなくて、むしろ黒いくらいだ。
しかも見るからに鶏ではなくて豚のレバーである。
やっぱりなァ。
白レバーは売切れちゃったんだヨ、きっと。

それにしても「花家」の2人用テーブルは幅が狭くて
縦に長いもんだから、殊に定食は並べにくい。
それでもどうにかセッティングして食事のスタート。
ごはんは半分でお願いしたのにまともな量。
小さめのどんぶりだが茶碗1杯より多い。
清湯はしょうがの風味が利いている。
白菜の浅漬けはちょうどよい漬かり具合だ。

さて肝心のニラレバである。
色黒のレバーは完全に豚のもの。
しかも火の通し過ぎにより、硬くてパッサパサだ。
とにかく許し難いのはもやしばかりで
主役の一翼を担うべきニラはホンのちょっぴり。
彩り役のにんじんもちょっぴり。
そして全体に味付けが薄い。
化調責めのおそれはなくともプロの調理ではない。
腕に多少の覚えある主婦なら、もっと上手に作るだろう。
いや、マイッたな。

当店に限らず、昨今は
もやしまみれのニラレバが大手を振って歩いている。
大島の「亀戸餃子」しかり、日ノ出町の「第一亭」またしかり。
もはやニラレバは死語化しており、
モヤレバに改称してほしいくらいのものだ。

結果、白菜漬けがベストであった。
量が少ないから、これを2皿もらって
中瓶を2本飲んだほうが、よっぽどどシアワセ。
ひと月前に打包(ターパオ)した餃子もイマイチだったし、
ここは麺類が無難なのかもしれない。

支払いの際、レジ担当のオバちゃん(おそらく女主人)に
「アレは白レバーですか?」—訊ねると
「ええ、そうですヨ。入荷したときしか出せないんです」—
悪びれた様子もない。
そりゃあ、ないヨ、セニョーラ!
白レバーは鶏特有のもの。
豚の白レバーなんて聞いたことないし、
もしもあったとしたら肝硬変の豚の脂肪肝だヨ。

壁に掛かった昭和27年の祭りの写真。
神輿のバックに写った「花家」の2階に見物人が鈴なりである。
右手には「あづま家」、左手には「一本堂薬局」。
今は更地になっているが「一本堂」って老舗薬局だったんだ。
「マツモトキヨシ」もそうだけど、
”薬局に歴史あり”—そのことをあらためて教えられた気がした。

=おしまい=

「花家」
 東京都荒川区西日暮里3-2-2
 03-3821-3293

2019年2月7日木曜日

第2063話 軽食&喫茶で白レバー? (その2)

ビール&かつ煮からひと月後。
またまた「花家」の店先を通りすがった。
何気なしに店頭のサンプルケースに目をやると、
小さなボードが立て掛けられており、

”白レバーのニラレバ定食 ¥880 数量限定”

とあった。

ハアッ? 白レバーとな。
まっことかいな。
ときどき焼き鳥屋で見かけるけれど、
鶏の稀少な脂肝のことでっせ。

ずいぶん以前のことだが
名古屋だったか、大阪だったか、
デパ地下の精肉コーナーに
血肝(ちぎも)と脂肝(あぶらぎも)が
分かれて売られていた。
関東ではまず見ない光景に少なからず衝撃を受けた。

ということは「花家」のニラレバは鶏レバーを使ってたんだ。
これはやすやすと看過できやせんぜ。
此度はまだ13時ということもあって
本日のランチはこれで行こう!
すみやかに決断した次第なり。

ひと月前と同じオバちゃんがお冷やを手にやって来た。
「白レバー、まだありますか?」
「ええっ、ええ、、ニラレバ定食ですネ」
心なしか、とまどうような物言いに
ちょいと引っ掛かりを覚えたものの、
「ごはん半分でお願いします」
そのままオーダーを通した自分がいた。

胸のうちで、実は白レバーは売切れて
もうないんじゃないだろうか?
数量限定と明記されてるしなァ・・・。
わだかまっても仕方がないので中瓶を飲みながら待つ。
またしてもサヤの硬い枝豆をつまみながらネ。

卓上の品書きをあらためて手に取ると、
餃子はやはり主力メニューであった。

日暮里餃子定食 ¥830
女子栄養大学短期大学部 共同開発
あらかわ満点メニュー

とあったが、写真は単なるフツーの定食で
餃子ライスにサラダと清湯が付くだけだ。
せっかく女子短大生に一肌脱いでもらったんなら
せめて片方の乳房くらい、もとい、
もう一ひねりほしいところではある。
わざわざ短大に入って、餃子の研究開発もないもんだ。

=つづく=

2019年2月6日水曜日

第2062話 軽食&喫茶に白レバー? (その1)

JR日暮里駅の北口改札を出て
進路を西にとると、傾斜ゆるやかな御殿坂がある。
谷中の名所、夕焼けだんだんに向かう道筋は
左手(南側)が台東区、右手は(北側)は荒川区。
坂を上り切った右手に
2軒の老舗が軒を連ねて今も営業を続けている。
手前が「あづま家」、その先が「花家」だ。

軽食&喫茶を謳う両店はどちらも昭和20年代の開業。
軽食といっても、昔懐かしの中華料理を提供しており、
町中華&喫茶の看板を掲げたほうがより実態に近くなる。
アルコール類の提供もあり。

しばらく会ってないが
のみともの元横浜カレーミュージアム名誉館長、
O野チャンが谷根千散歩のお休み処として
「花家」をたびたび利用すると言っていた。
もちろんJ.C.も何度かオジャマしている。

建て替えでしばらく休業していた「花家」が
数か月前にリオープンした。
旧臘、近辺を徘徊した際、たまたま昼食に立ち寄った。
いや、15時を過ぎていたから昼食とは言えないな。
早めの晩酌のほうが実状を表している。

アサヒの中瓶を頼むと、お通しとして枝豆のサービス。
なかなか気が利いており、ありがたいものの、
サヤが硬くてワンプッシュでは豆が飛び出てこない。
ちょいとばかり苦労しながら噛み締めたら
サヤ同様に豆も硬かった。
まっ、茹で過ぎよりはナンボかマシで
そもそもサービス品にとやかくいうべきではないやネ。

ビールの友にかつ丼のアタマ、いわゆるかつ煮を注文。
こんな時間にごはんモノを食べたひにゃ、
このあとの本格的晩酌に
はかりしれない悪影響を及ぼすため、
ここはあえてかつ丼でなく、かつ煮。
すばらしくはなくとも甘辛い味付けにグラスが進む。

30分ほどの滞在中、テイクアウトの客が何人も現れた。
注文するのは判で押したように餃子だ。
生あり、焼きあり、人それぞれに
嬉々として包みを持ち帰ってゆく。

記憶の糸をたどってみたが当店の餃子は食べたかな?
たぶん、食べてないんじゃないかな?
客足に誘われて焼き餃子を1人前包んでもらった。

この日は谷中銀座とよみせ通りで
つまみをさらに何品か買い増しし、
おとなしく帰宅してCDを聴いたり、DVDを観たりして過ごす。
もちろん、本格的晩酌を遂行しながらネ。

ふと気づいたら、この日はクリスマスイヴじゃないか!
わびしくうらぶれて、さびしいモンだわ、ジッサイ。
いつしかエルヴィスの「ブルー・クリスマス」が
耳の奥で鳴り始めましたとサ。

=つづく=

2019年2月5日火曜日

題2061話 ハマの波止場に帰って来たが・・・ (その3)

「ザ・ホフブロウ」のニシンとサーモンはまずまず。
ニシンに関しては1週前に食べた、
田園調布の「メッツゲライ ササキ」のほうが上。
何せあちらはオランダ王室御用達だかんネ。

マリニエールのムール貝は痩せこけてしまって
身肉に張りというものがない。
これも1月前に笹塚のクイーンズ伊勢丹で購入し、
自分で料ったものに届かない。

むしろボストンあたりの港から
東京湾に間違えて運ばれ、
そこを終の棲家として大繁殖したホンビノスがよい。
ボストニアンやニューヨーカーは
コイツを生で食べるからネ。

J.C.も生はまぐりは大好物。
正直言って生がきより好きだ。
ただし、酢で〆た酢がき(かき酢に非じ)となると、
ハナシはまったくベツ。
酢はまぐりにしたらどうなるだろう?
たぶん、ダメだろう。

赤ワインに切り替える。
イタリアはヴェネト州の産、
ヴァルポリチェッラ・クラシコ
カンティーナ・ディ・ネグラーレ ’16年である。

ヴァルポリチェッラはアメリカでポピュラーなワイン。
記憶が確かならば、小説「マディソン郡の橋」に登場する。
映画のほうが通りがよいので
そのときの演者に置き換えると、
ストリープがイーストウッドのために
デモインの町に出向いて2本買い求めたモノだ。
ただし、映画では銘柄名が出なかったと思う。

軽い口当たりは万人受けするがJ.C.の好みではない。
やはりイタリアの赤は、一にピエモンテ、
二にトスカーナ、三、四がなくて、五もないかな。

赤ワイン用に牛ハラミのステーキを追加する。
合わせてクリーミーサラダといったかな?
生野菜も通したがハラミもサラダもいな一つ。
当店はもともとバーだったのだから
カウンターで静かにグラスを重ねるのが
正しい使い方と言えよう。

せっかくの横浜につき、飲み歩いてもよかったけれど、
向かったのは1週前同様に都立大学のスナック「S」。
そう、「愛は限りなく」、「再会」、「裏窓」を歌った、
世にも不思議なママのいる、あのスナックでありました。

=おしまい=

「ザ・ホフブロウ」
 神奈川県横浜市中区山下町25-1
 045-662-1106

2019年2月4日月曜日

第2060話 ハマの波止場に帰って来たが・・・ (その2)

港横浜は山下町の「ザ・ホフブロウ」にて
ドイツビールを飲みながらメニューを吟味している。
”ホフブロウ”というのはドイツ語で
”ビールの館”、あるいは”ビールの中庭”を意味するが
ここは単に”ビヤホール”と軽く受けとめるべきだろう。

思い出されるのはドイツ・バイエルン州の州都、
ミュンヘンにある国営ビヤホール、「ホフブロイハウス」。
新市庁舎の動く時計塔に並び、
街のランドマークとして観光名所となっている。

J.C.は「ホフブロイハウス」を過去に2度、
1971年と’97年に訪れている。
殊に初回の体験は忘れがたいものになっている。
今では観光客のまるで集会所の如しだが
当時は地元の人たちも大勢、
気軽にビールを楽しいんでいた。
その日の日記を抜粋して紹介してみよう。

1971.4.11

朝11時に新市庁舎の時計塔で踊り出す人形を見物した。
ヘンケルの刃物を物色したり、マリア聖堂に入ったりする。
中央駅の前のカフェで時間をつぶし、
午後3時半頃、「ホフブロイハウス」に行ってみた。
グリルチキンのじゃが芋添え、野菜サラダ。
味・量ともに満足のいくもので7.5マルク。
ビールの大ジョッキは1.85マルク。
大テーブルで相席したスウェーデン人、オランダ人と話したり、
地元の人たちに何杯もビールをおごってもらったり、
実に楽しい半日を過ごした。
ドイツの少年とオーストリアのオバちゃんに
旅先から絵葉書を送る約束をした。
長時間の滞在後、川のほとりで酔い覚ましして駅へ。
軽食スタンドでレバーケーゼ、パン、コカコーラの夜食をとり、
ヴェネツィア行きの夜行列車に乗り込んだ。

このあとどうなったかというと

同年 4.12

朝8時頃にヴェネツィア到着。
二日酔いで気持ちが悪い。
イタリアリラへの両替を済ませるや否や、
ファンタやコーラをガブガブ。
大運河前の石段にへたり込み、
ゴンドラやら水上バスやら
出舟、入舟を眺めてしばらく過ごす。

タダ酒にガッツくと、どうなるかの典型ですな。

てなこって、ハナシを横浜に戻す。
当店の一番人気であるらしいピザスパは外せない。
だが、その前に何か冷菜がほしい。
生ニシンとスモークサーモンのマリネをまず通した。

そうしておいて、ホンビノスとムール貝のマリニエール、
蟹&海老のクリームコロッケ、上記のピザスパだ。
これはナポリタン風のスパゲッティにチーズを乗せ、
オーヴンで焼き上げたもの。
素人でも思いつきそうな料理ながら
これが名物ということは
客層の若さを嫌でも感じさせるよネ。

=つづく=

2019年2月1日金曜日

第2059話 ハマの波止場に帰って来たが・・・ (その1)

♪   霧の波止場に 帰って来たが
  待っていたのは 悲しいうわさ
  波がさらった 港の夢を
  むせび泣くよに 岬のはずれ
  霧笛が俺を 呼んでいる   ♪
    (作詞:水木かおる)

トニーこと赤木圭一郎が歌った「霧笛が俺を呼んでいる」。
1960年に封切られた同名映画の主題歌である。
当の本人はこの翌年、不慮のゴーカート事故により、
21歳の若い命を散らせてしまった。
小学二年生だったJ.C.は
事故当日のことを今でもよく覚えている。

歌はあまり上手じゃなかったけれど、
なぜか見る者を惹きつける個性的な風貌の持ち主で
好きな俳優の一人だった。
彼の映像を観たくって、ときどきカラオケでこの曲を歌うが
幼い日の吉永小百合に逢えるのも理由の一つ。
芦川いづみ、葉山良二、西村晃など懐かしい顔ぶれも―。
まさか悪役だった西村が後年、
黄門さまを演ずるとは夢にも思わなかったがネ。

てなわけで「第一亭」をあとにした御一行は
野毛の町に舞い戻り、カラオケ館でマイクを回し合ったあと、
霧の波止場に帰って来たのだった。
いや、ベツに霧は発生しちゃいませんでしたけどネ。

横浜市中区山下町。
ここは大桟橋と山下公園の町である。
(中華街もあるけれど)
1971年、ソ連の船で初めて日本を出国したJ.C.は
ここへ来るたびに懐かしくて心の疼きを覚える。
船が離れた大桟橋は様変わりしているし、
ブリッジやらタワーやら観覧車やら賑やかなことだが
あの日の波止場の姿は今でも生きている、わが胸の中に―。

外国船の船乗りが集うエキゾチックなバーだった、
「ザ・ホフブロウ」は現在も営業中。
マイナーチェンジが施されたとはいえ、
雰囲気は昔のよすがを偲ばせるにじゅうぶん。
ハマに不慣れな御一行もお気に召した様子だ。

ドイツビールのクロンバッハで乾杯。
すっきりとしたピルスナーは好きなタイプ。
小瓶だからすぐになくなり、
お次は小麦が原料のヴァイスビール、エルティンガーを。
ヴァイスのわりに酸味が比較的少ない。
たまにゃ、変わった銘柄も悪くない。

J.C.以外はみな初来店。
例によって料理選びの主導権を握りつつ、
おもむろにメニューを開いた。

=つづく=