2019年3月29日金曜日

第2099話 旧友 マニラより来たる (その1)

フィリピンのマニラで事業に勤しんでいる、
旧友・半チャンと久方ぶりの再会。
よく食べ、よく飲み、よく歌う友は
まさにキング・オヴ・サントモである。

J.C.はもう長いこと、競馬から遠ざかっていて
近頃の競馬界にまったく疎いのだけれど、
この人は中央競馬の大馬主でもある。
当然、持ち馬の馬券を大量に買うのは毎度のこと。
よって、食べ・飲み・歌うに加え、
打つ・買うまで完璧にこなす、
いわば天下の大悪党、もとい、大御所と言ってよい。

ずいぶん以前、特筆に値する”事件”が起こり、
当時のマイ・ブログでも紹介したのだが
いま一度、そのことを振り返ってみたい。

浅草の観音裏で仲間数人とあちこちハシゴしたあと、
最後に田原町に移動して
J.C.行き着けのスナックに収まった。
かなりの長丁場につき、
仲間たちは一人、また一人と
まるで櫛の歯が欠けるように抜けていった。

取り残されたのはわれら二人のみ。
ふと、掛け時計を見上げれば、午前3時ときたもんだ。
ここで敬愛するフランクの「東京午前三時」を
披露したいところなれど、
大阪在住のわが小姑・らびちゃんから
クレームがつきそうなので自重する。
その代わり、CDを聴きながらコレを書いている。

う~ん、やっぱりいいねェ。
あゝ、あの時代の東京に戻りたい。
ん? 何だって? 聴いてみたい?
サワリだけでも紹介しろ! ってか?
しょうがない人たちだなァ、甘えてばかりいて―。
じゃ、ちょっとだけヨ。

♪   真ッ紅なドレスが よく似合う
  あの娘想うて むせぶのか
  ナイト・クラブの 青い灯に
  甘くやさしい サキソホン
  ああ 東京の
  夜の名残りの 午前三時よ  ♪
     (作詞:佐伯孝夫)

ありゃ、ちょっとのつもりが1番全部やっちゃったヨ。
あ~、らびちゃんに叱られる!

=つづく=

2019年3月28日木曜日

第2098話 連夜の花わさび (その4)

無濾過純米・垂珠の飲み口は
ネーミングに反してすっきり爽快。
初顔合わせなのに
いつかどこかで飲んだような・・・
記憶の糸をたぐり寄せつつ、しばし沈思黙考。
おう、そうだ、思い出したゾ。

思い当たったのは同じ山形の大山(おおやま)だ。
しばらく顔を合わせてないけれど、
この銘酒に出逢ったのも
やはりマンハッタンの日本料理店「レストラン日本」。
タコの八ちゃんみたいな、
中心部に氷を閉じ込めて周りの酒を冷やす、
独特のガラス容器で供された。

「レストラン日本」は1987~8年頃、よく利用した気に入りの店。
ニューヨークきっての老舗で、鮨は今ひとつだったものの、
目の前で揚げられる魚介と野菜の天ぷらがよかった。
かの地の日本レストランは専門化が進み、
総合和食は苦戦気味と伝え聞くが
今も健在であることを祈りたい。
 
さて、串焼きは協議の末に
モモ、レバー、ラム、サメの4本を選択。
焼き上がったものから順次いただく。
添えられたミント&パクチーのチャツネとともに味わう。
ふ~む、ティッカだけにスパイスは感じる。
しかし、いずれもきわめてフツーで
香ばしさの欠如は炭火焼きではない証しだろう。

互いにほぼ満腹ながら、あえて締めのカレーを。
4種のカレーから2種択べる、
相掛けのスモールポーションを分け合うことに。
ラインナップはかくの如し。

チキンカレー
ラムキーマ・ビンダルー
サメのカレー
チャナマサラ

サメはカレーにまでなっちゃってるヨ。
ところが店主曰く、
南インドでサメはポピュラーな食材なんだと。
ホントかいな?

択んだのはサラサラのスリランカ風チキンと
ヴィネガーの効いたゴア風ビンダルー。
チキンは軽く緩く、少々もの足りない。
ここはボロネーゼのラグーみたいなビンダルーに軍配。

総合評価としては一度試せば、しばらくいいかな?
という感じ。
どうも最近、ヒットに恵まれない苦難の日々が続いている。
早いとこスランプから抜け出さなきゃネ。

=おしまい=

「スパイスバル・コザブロ」
 東京都文京区向丘2-34-8
 03-6874-1597

2019年3月27日水曜日

第2097話 連夜の花わさび (その3)

文京区・向丘は大観音通りの「コザブロ」にて
さくらんぼジュース入りのビール、
ベルビュークリークを味わっている。
もともとチェリー系の飲みものは好きで
1980年代後半、ニューヨークに着任した頃は
デンマーク産のさくらんぼリキュール、
チェリー・ヒーリングを愛飲した。

会食時、デザートを取らないJ.C.は
他のメンバーがバカデカいケーキやクレープを
平らげているあいだ、
チェリー・ヒーリングを唯一の食卓の友としたのである。
しかしながらその後、
イタリア料理屋をひんぱんに利用するようになって
くるみのリキュール、ノチェッロに転向したんだけどネ。

ベルビュークリークは魅力的な飲みものだ。
殊に女性にはオススメで
電車内で本を読む少女が賢く可愛らしく見えるように
バーでコレをたしなむ女性はオシャレにして知的に映る。
そんなハナシをしていたら
さっきまでジンジャーエールをなめていた、
下戸の相方が注文に及んだじゃないか―。

スパイス・バル「コザブロ」のウリは
カレーやアチャールのほかに鮮魚のスパイス焼き、
そしてティッカと呼ばれる串焼きがある。
インド料理屋の定番、あのチキン・ティッカの類いだ。

当店はティッカに鳥取の大山鶏(だいせんどり)を使用。
ただし部位は、モモ・砂肝・レバーのみ。
そこを補うように豪州産ラムと気仙沼産サメがある。
う~ん、サメのバーベキューねェ。

どんなサメかといえばアオザメ(青鮫)だ。
サメの仲間では最速で泳ぐ能力を持ち、人を襲うともいう。
日本のサメ類の総漁獲量に占める割合は5%前後で
高級はんぺんの材料となるほか、
ヒレは良質のフカヒレに加工されるという。

英名はマオリ語に由来するmako。
人食い鮫にしては可愛いお名前だこと。
すり身にされたり、乾貨になったり、
makoも難儀なこったが
眞子さまのご心痛もいかばかりか―。

日本酒に移行して
白露垂珠すいしゅ)円熟
藍サファイア 山形無濾過純米 
というのを所望した。
何とまぁ、大仰なネーミングだこと。
注文するほうが恥ずかしくなっちゃうヨ。

=つづく=

2019年3月26日火曜日

第2096話 連夜の花わさび (その2)

文京区・向丘のスパイス・バル「コザブロ」。
最寄りは南北線・本駒込で、三田線・白山も至近。
千代田線・千駄木からだって歩ける距離だが
帰りはよくとも、往きは急な上り坂となるので
年配者にはおすすめしない。

5種の前菜はスモールサイズにつき、みな少量づつ。
互いに小食だからちょうどよい。
いずれも予想通りの味わい。
特段の美味というのじゃないが
全体的にバランスがとれている。

本日のアチャールに数の子があった。
数の子がアチャールになるのかいな?
体格のよい店主から
アチャールはヒンディー語でピクルスだと教わる。

おっと、花わさびがあるじゃないか。
花わさびがインド風のピクルスになるのかいな?
店主はその体格のほかに
独創性も前面に押し出している。

それにしても前夜、青砥の「小江戸」で遭遇した花わさび。
あまり市場に出回らない葉野菜に
二晩続けて逢えるとは、
これを僥倖と呼ばずして何と言おう。

和食ではおひたしや醤油漬けなど、
素材の特徴を活かすために
あまり人の手を加えないが
インドのアチャールははたしてどんなモノであろうか。
これはぜひとも、いっとかなきゃならない。

実際はカレー風味のおひたしといった風で
わさびの香りが薄まり、
肝心の辛みはかなり飛んでしまっていた。
24時間前の醤油漬けが恋しくなるほどだから
行司ならみな、「小江戸」に軍配を挙げるだろうヨ。

「コザブロ」ではわりと珍しいベルギーのビール、
ベルビュークリークが飲める。
ベルビュー醸造所の手になる、
クリーク(さくらんぼ)ジュース入りのランピック・タイプで
ランピックは野生の酵母を活かして熟成させる発泡酒だ。

クラフトビールは滅多に口にしないが、コレは別物。
爽やかな清涼飲料水として1杯いただこうか。
クリーミーな泡を冠してルビー色の液体が
円いグラスに注がれて運ばれた。

=つづく= 

2019年3月25日月曜日

第2095話 連夜の花わさび (その1)

青砥の「小江戸」で独り飲みした翌晩。
北関東の地方都市から上京して来た友人と
夕食をともにすることになった。
相方のリクエストは文京区・本駒込の「コザブロ」。
何でもスパイス・バルを謳う店らしい。
アレッ、ちょっと待てヨ、利用してはいないが
数ヶ月前に店の前を通った記憶がある。

白山上から団子坂下へと続く、
大観音(おおがんのん)通りに新しめの当店を発見。
ガラス越しにのぞむ、明るい店内が好印象にして
店頭の品書きにも興味が湧いた。
こりゃ、渡りに舟だわ、そう思ったのだ。

「コザブロ」は通りの名前の由来にもなっている、
天昌山光源寺(駒込大観音)のはす向かい。
光源寺は浄土宗の寺だが
キリスト教会のチャペルみたいな造りは
夜道に通りすがると、その金色の観音像が闇に輝き、
一種、異様な雰囲気を醸して、ちょいと怖いくらいだ。
毎年7月9日と10日の両日、
四万六千日の縁日が開催されるとのこと。
縁日とは無縁の身ながら今年は出掛けてみようかな?

レイアウトは逆L字カウンターに
テーブルが2卓のコンパクトな設え。
開店時間の17時半に赴くと、先客はテーブルに1組だった。
当方スーパードライの中瓶。
下戸の相方は自家製ジンジャーエール。
再会を祝ってグラスを合わせる。

このジンジャーエールがユニークだ。
たっぷりの刻み生姜に加えて
カルダモンシードまで浮き沈みしている。
なるほどスパイス・バルですな。

最初に通したのは
前菜おまかせ5種盛りのスモールサイズ。
陣容を記せば、

スパイシー・コールスロー(紫キャベツ)
キャロット・ラペw/クミンシード
チャナチャット(ひよこ豆のサラダ)
真がきのピックル
鶏砂肝のピックル

ちなみにピックルとはピクルスの単数形。
それでは、いただくとしましょう。

=つづく=

2019年3月22日金曜日

第2094話 ウラを返しに青砥を再訪 (その3)

目指す荒川区・町屋には停まらない、
京成本線の特急電車に誤乗(ごじょう)してしまい、
図らずも三たび到達した葛飾区・青砥。
慣れというのは怖いもので、この町に親近感すら抱いた。

ちなみに誤乗とは聞きなれない言葉だが
例えば新幹線でひかりとのぞみを間違え、
結果的に大きく乗り越した場合でも
車掌さんに申し出れば、誤乗証明書を発給してくれて
超過精算しなくてもよいそうだ。

せっかく青砥に来て、このまま手ブラで引き返すことはない。
これも何かの縁、お導きだろう。
そうしてまたもやすり抜けた「小江戸」の自動ドアだった。
過去2回とは異なる席ながら何とかカウンターに落ち着けた。

生ビールを運んでくれた女将から
「いつもありがとうございます!」の一言。
「いえ、いえ、どうも」と返したが
この人、お客をよく見てるんだなァ、ジッサイ。
心なしか気持ちが浮き立ち、
今宵はじっくり飲もうという、つもりになった。

本日のオススメに花わさびがあった。
”あれば、お願い”のマイ・フェイヴァリットだ。
花わさび醤油漬けと初トライの小肌酢を通した。
当店は立石の「江戸っ子」より、
酒・つまみともに守備範囲がずっと広い。

辛みが鼻にツンと抜ける花わさびは特筆。
たった270円なのに量もそこそこあり、
これだけで中ジョッキの2~3杯はイケそうだ。
毎度、用意されるモノじゃあるまいから運がよかった。

素材の良さを実感させる小肌酢(500円)もなかなか。
酢・塩・砂糖のうち、砂糖が一番主張している。
そこがちょいと気になるけれど、
江戸前鮨の老舗でもこういうシゴトをする店はある。
「小江戸」の小肌からすぐに連想したのは
神楽坂「新富寿司」のそれだった。

氷1粒でボールをお願いした。
同時に煮込みの小サイズ(250円)を。
これがまたけっこうなボリュームで
単身客には(小)で対応するのが暗黙の了解らしい。
もっとも独りでレギュラー・サイズはそれだけで満腹だろう。

ボールを2杯、3杯と重ねてゆき、
鳥はらみポン酢(370円)を追加した。
焼き鳥屋におけるマイ・ベスト3は背肝・はつもと・はらみ。
それほどに気に入りの部位なのだ。

だんだん記憶があいまいになってきた。
スタッフと短い会話を交わしたが
何を話したのかトンと覚えちゃいない。
これはヤバいと手仕舞いしたものの、支払額は忘却。
帰りの電車も特急か何かで青砥の次は京成日暮里。
眼下に町屋の町の灯が流れてましたとサ。

=おしまい=

「もつ焼き 小江戸」
 東京都葛飾区青戸3-39-3 優和ビル2F
 03-3690-0898

2019年3月21日木曜日

第2093話 ウラを返しに青砥を再訪 (その2)

飲みたい2杯目の生ビールをあきらめて
小江戸ハイボール、通称ボールにしフトした。
おしなべて葛飾区にはボールの旨い店が多い。
そして焼酎ハイボールのことをボールと呼ぶ店が多い。
この日、いただいたつまみはかくの如し。

◎小長井産生がき2個(500円)
 焼きとんレバー(タレ)2本(220円)
◎炙りたらこ(470円)
    煮穴子つまみ(500円)

◎ジルシは特筆モノである。
小長井のかきについてはすでに書いたが
ちょいと炙ったたらこが意想外の美味しさだった。
もともとたらこは好きだから
わが家の常備菜にもなっており、
家では生、外ではちょい焼きをお願いすることが多い。

常備菜をわざわざ店で注文せずとも、と思われようが
つまみが欲しくないとき、
でも、何か1品取らなきゃいけないとき、
とても重宝するのがたらこなのである。

家では日本酒を振りかけて生食するのに
外で軽く焼いてもらうのにはわけがある。
たらこの品質は実にピンキリ。
あまり良くないのを生で食べるのはかなりキツいのだ。

焼きとんのレバーはごくフツー。
舌に残るスジが少々気になる。
穴子も期待ほどではなかった。
ちょいと臭みがあり、下処理不十分という感じ。

中ジョッキ1杯、小江戸ハイボール2杯、
芋焼酎・三岳ロック2杯をいただき、
会計は3750円也。
ちょいと飲み過ぎかもしれないネ。

しばらくしたらまた来ようと思いつつ、
都営浅草線直通の電車に乗る。
ところが縁というのは面白いものですな。
翌週も「小江戸」の自動ドアの前に立つこととなる。

その日は荒川区・町屋の酒場で飲むつもりだった。
JRやら舎人ライナーやらが乗り入れる、
日暮里駅の京成本線のプラットフォーム。
発車を知らせる音に急かされて
飛び乗った電車は特急だった。

眼下を町屋の町並みが流れてゆく。
追い打ちをかけるように車内アナウンスも流れてきた。
「次の停車駅は青砥、青砥~です」
あちゃ~!

=つづく=

2019年3月20日水曜日

第2092話 ウラを返しに青砥を再訪 (その1)

葛飾区・青砥の「こまどり」、「小江戸」とハシゴした一週後。
再びJ.C.オカザワの姿を青砥の町に見ることができた。
いえ、見たくない人は見なくてけっこうなんですが
ともあれ、先をお読みくだされ。

そう、やって来たのは「もつ焼き 小江戸」である。
今回は”売切れ責め”を逃れるために開店と同時、
いや5分前の14時55分に到着した。
そう、この日もまた土曜日であった。

店舗のある2階から階段を伝わって客の行列。
J.C.が着いた最後尾は
列がちょうど1階に着地するあたり。
ということは先頭から14、5番目あたりだろうか。

ほどなくドアが開いて待ちわびた客が店内になだれ込む。
さすがに走り出すような無粋の輩とてなく、
入場はすみやかに執り行われた。
陣取ったのは前回と同じカウンターの左端。
スタッフがひんぱんに行き交う地点である。

店長、いや、オーナーかな?
「ただ今のお時間、生ビール半額サービスですっ!」
「ハイ、お願いします」
月曜から土曜まで開店1時間以内の特別奉仕なのだ。
ハッピーアワーはいろいろな店が導入してるが
それは立て混んでくるまでのアイドルタイム限定だろう。
「小江戸」みたいに開店早々、大盛況の店舗が
かようなサービスを提供するのは極めて珍しい。
まさにサービス精神の極みである。

1杯240円の一番搾り中ジョッキを数分で飲み干す。
ここで問題が生じた。
困ったことに半額サービスは最初の1杯だけに非ず。
1時間以内なら何杯でも半額なのである。

ベツに困るこたあねェじゃねェか! ってか?
ガンガン飲めばいいじゃねェか! ってか?
いえネ、そりゃ、ビール好きのJ.C.のこと。
その気になりゃ、
1時間で中ジョッキの3~4杯はいつでも飲める。
だけどサ、そんなことはしたくないのサ。

せっかくのお店のサービスに対し、
客としてそれなりのマナーを持って応えたい。
半額をいいことにバカスカ飲むのは傍目にも見苦しい。
何よりもそんな自分に嫌気がさしてくる。
よって飲みたい2杯目を飲めないという窮地に陥った。
あゝ、何たるパラドックスでありましょうや。

=つづく=

2019年3月19日火曜日

第2091話 なにも言うまい 青砥の一夜 (その5)

京成線・青戸駅前の「もつ焼き 小江戸」。
隣り駅の立石にある人気酒場、
「江戸っ子」の流れを汲む店だ。
立石のポンパドール夫人の異名を取る、
あの有名な女将さんが取り仕切る「江戸っ子」。
「小江戸」の店名もそこに由来している。

当店のスペシャルドリンク、
小江戸ハイボール(360円)を所望すると、
氷のアル・ナシを問われた。
ここは氷ナシで—。

つまみは焼きとんで始めるが売切れが続出。
カシラもタンもレバーもすでにない。
屋号に”もつ焼き”を冠するわりに
仕込みの串数が不十分なんじゃないの。
仕方なくシロをタレでお願い。
ここも「こまどり」同様、串は2本しばりだ。
シロは下茹でを施してからカリッと焼き上げるタイプ。
炭火ではあるまいが、そこそこ水準に達している。

ビールの取り揃えが半端ではない。
リストにブルックリン・ラガーを見つけた。
ニューヨーク在住時代に何度か飲んだ銘柄だ。
ラガーを謳っていてもかなり重めでちっともラガーじゃない。
よって好きな銘柄ではない。

それでも懐かしさに背中を押され、
発注してみたたものの、在庫切れ。
おそらく注文が少ないので仕入れを取りやめたのだろう。
地元の客がブルックリン・ラガーを飲むとも思えないし・・・。
代わりにキリン一番搾りの黒生小瓶を―。

壁に”小長井産生がき”の短冊を見つけた。
長崎県・小長井は有明海に面して
諫早の東北東15kmに位置している。
対岸は島原半島の国見。
高校サッカーで全国に名を知らしめたあの国見だ。

ふ~ん、小長井のかきねェ・・・いただいてみようか。
すると、淡白な中に繊細な滋味が感じられ、とても美味しい。
思い出すのははるか昔、
ニューヨークの「オイスター・バー」で食べたクマモトである。
小粒ながら、
フランスのブロン、アメリカのブルーポイントよりよかった。

クマモトは小さいわりに貝殻が深い。
小長井は一回り大きいものの、やはり貝殻に深みがある。
同じ海で生まれたものだからルーツが一緒なのだろう。
レモンを搾ってツルリと舌の上を滑らせた。
これが2個付けで500円。

その間にも、つまみ類はどんどん売切れてゆく。
訊けば、閉店が20時半だというじゃないか。
ずいぶん早いと思ったが
土曜日は15時~20時半の営業とのこと。
こりゃ、近いうちにウラを返さにゃならんわな。

=おしまい=

「もつ焼き 小江戸」
 東京都葛飾区青戸3-39-3 優和ビル2F
 03-3690-0898

2019年3月18日月曜日

第2090話 なにも言うまい 青砥の一夜 (その4)

京成線・青戸駅前の「こまどり」で
ホイスのボールを飲んでいる。
琥珀色のベースに、冷えたニッポンサイダーの炭酸。
氷はナシでサーヴされた。
口当たり柔らかく、ほんのりと甘みがあって好きだ。

ホイスを味わうのは生涯5度目くらいかな?
ヒョンなところで、ヒョンな酒に出くわしたものだ。
また何処かでお目にかかったら
少なくとも1杯はお願いしよう。
ちなみにホイス自体はノンアルコールである。

ねぎまを2本やっつけたし、何かもう1品まいろうか。
焼きとんはこのあと「もつ焼き 小江戸」が控えているから
そちらでいただくとして、壁の品書きを目で追う。
刺身は金目鯛(690円)に北寄貝(580円)。
ほかに鳥の唐揚げ、手羽餃子、野菜炒め(各580円)など。
ここは金目か北寄だろうヨ。

二者択一に絞ったとき、大挙して客が来店。
カウンター奥の予約に加え、
テーブルのグループにも遅れて来た参加者と
一気に立て込んで騒がしくなった。
ここが潮目だな・・・。
何も言うまい、嘆くまい、気を利かせてお勘定。
恐縮した”雌のこまどり”が店の外まで見送ってくれた。

2軒目の「小江戸」は「こまどり」から30秒。
いや、もっと近いかも—。
こちらはビルの2階にある。
1階の創作和食店はガラス張りで中が丸見え。
席は8割方埋まっていた。

少しばかり急な階段を上り、自動ドアを抜けると、
丸椅子に1カップルが順番待ち。
入口で視線が合った接客中の女性(たぶん女将)に
「いっぱいだよネ?」
「ちょっとお待ちになって—」
短いやりとりのあと、彼らの隣りに腰を下ろす。

1分と経たぬうちに
「お一人様、どうぞぉ!」—
あれれ、こちらが先に案内されちゃった。
気がとがめてカップルに会釈すると、
二つの笑顔が返って来た。
青砥の住人はいい人たちなんだなァ。

着いた席はカウンターの左端。
ちょうどスタッフの動線にあたり、
彼らの動きが目まぐるしいぶん、注文は通しやすい。
ファミレスみたいに何枚もあるメニューから
まずは飲みものの品定めに入った。

=つづく= 

「こまどり」
 東京都葛飾区青戸3-39-9
 03-3604-9195

2019年3月15日金曜日

第2089話 なにも言うまい 青砥の一夜 (その3)

再び夜の町に出る。
駅チカを15分ほど徘徊して絞り込んだのは2店。
焼き鳥の「こまどり」と焼きとんの「小江戸」だ。
よおしっ、今夜はこの2軒でキマリだ。

まずは駅前商店街の路面店、「こまどり」へ。
店名から推察するに小粋な姉さんと
可愛い妹が営んでいるものと思われる。
デビュー間もない頃のこまどり姉妹みたいなネ。
まさか八十路のくまどり姉妹じゃあるまいて—。

意気揚々と敷居をまたぐと、
「いらっしゃ~い!」—
二つの声色がハモッて迎えてくれたぜ。
だけど、片方は男の声だぜ。
見ると、焼き場に立つのは30前後と思しき青年。
黒縁メガネをかけている。
接客に勤しんでいたのは同年輩の女性で
こちらも黒縁メガネときたもんだ。

二人が夫婦であることはすぐに想像がついた。
メガネに限らず、雰囲気に共通するものを感じる。
似た者夫婦そのものだから、
こりゃ、こまどり姉妹じゃなくってこまどり夫婦じゃないか。
ちょっと待てヨ、夫婦ならこまどりよりも
おしどりのほうがピッタシなんじゃないの。

カウンターが6席ほどにテーブルが3卓の設え。
カウンター奥の2席には予約札が置かれており、
その手前に腰を下ろした。
焼き鳥はオーソドックスなものが一通り。
焼きとんはカシラ・タン・ナンコツ・シロの4種。
当店の主力は焼き鳥で串はみな2本しばりだ。

ビールは生も瓶もキリンのみ。
値付けは中ジョッキが580円で大瓶は650円と相場。
ここは生中をお願い。
そして焼き鳥のねぎまを塩で通す。

焼き上がったやや大ぶりのねぎまはまずまず。
櫛切りレモンと練り辛子が添えられている。
1本で中ジョッキを飲み切り、
当店自慢のホイスハイボール、
通称ボール(400円)に移行した。

ホイスとは昭和30年代初頭にお目見えした、
ハイボールの素のこと。
港区・白金の後藤商店が創製したもので
当時、品質のよくなかった焼酎をこれで割って
飲みやすくする効果があった。

ホイス5、焼酎5、炭酸10が目安。
濃淡はホイスと焼酎の割合で調整すればよい。
ネーミングは高級酒だったウイスキーになぞらえた、
ホイスキーからきているそうだ。

=つづく=

2019年3月14日木曜日

第2088話 なにも言うまい 青砥の一夜 (その2)

そうして降り立った葛飾区の青砥駅である。
当夜の狙いは「かまとと」なる奇妙な屋号の大衆割烹。
海の幸の取り揃え豊富にして
店内には昭和歌謡が流れているそうだ。
シーフードもさることながら
惹かれたのはもちろん懐メロのほうである。
自分の家でCDを聴きながら飲めばいいじゃないか、
そう思われる読者もおられようが
それじゃ気分が今一つ乗ってこないんですわ。

駅前のメインストリートを北に歩く。
地図を持たずに向かったものだから
右折地点をオーバーウォーク。
そのせいで少々迷ってしまい、10分ほどロスしただろう。
何とか灯りの点る立て看板を見つけ、
入店前に外の品書きボードをチェックする。
よしっ、ホウボウの刺身で始めるとするか―。

引き戸を引くと、さして広くもない店内はギチギチの満席状態。
ザッと見回して席の確保は不可能と判断した。
厨房に立つ優し気な店主に
「お一人様?」と訊かれ、
「はい、そうです」と応じると、
店主、奥に居た奥様ならぬ、女将に
「お一人様で~す!」

ええっ、どこに落ち着くべきわが椅子があるの?
でも、まだスペースがあるんだなと
ほのかな期待を抱いたものの、結局は薬局。
「すみません、本日はいっぱいでして・・・」
やっぱりネ、まっ、仕方がないヨ。
ここは何も言うまい、嘆くまい。

夜道をトボトボと駅方面に戻る。
振り返れば、青砥の町で飲んだ記憶がない。
かれこれ15年以上前に
「やまぐちさん」という名の洋食店で
ランチを取って以来の来訪だ。

駅の高架下に京成直営のスーパーマーケットがあった。
数年前、茨城県・水戸市に出向いた際、
京成百貨店で買い物をしたことがあるが
今も残っているのかどうかは知らない。
それはそれとして、京成のスーパーは初めてだ。

中を一めぐりすると、生鮮食品のレベルは高い。
珍しいメキシコ産のステーキ用牛肉があった。
それも稀少なザブトンである。
一目見て質の良さを確認できたから
よほど買い求めようと思ったものの、
これから飲み歩くってえのに
持ち運ぶのはうっとうしいし、
どこかの店に置き忘れそうなのであきらめた。

=つづく=

2019年3月13日水曜日

第2087話 なにも言うまい 青砥の一夜 (その1)

♪    なにも言うまい 言問橋の
   水に流した あの頃は
   鐘が鳴ります 浅草月夜
   化粧なおして
   エーエーエーエ
   化粧なおして 流し唄  ♪
    (作詞:石本美由起) 

ザ・ピーナッツの演歌版といわれた、
こまどり姉妹のデビュー曲、
「浅草姉妹」がリリースされたのは1959年10月。
この年に設けられた第1回レコード大賞受賞曲は
水原弘の「黒い花びら」である。

長いブランクを経たこまどり姉妹だがここ数年、
それなりの活動をしており、
TVでもときどき見掛けるようになった。
八十路を迎えた年齢が年齢だけに
”化粧”もなおし過ぎて”くまどり姉妹”なんぞと
揶揄されたりもしている。

彼女たちの歌った「ソーラン渡り鳥」になぞらえた、
「ラーメン渡り鳥」なる曲がある。
J.C.はカラオケボックスに行くとよくこれを掛ける。
いや、歌うんじゃなくって画面に見入るのだ。

映像は映画「浅草姉妹」の一コマで
舞台は浅草の小料理屋だ。
それこそ浅草に今も残っていそうな店で
板前が沢本忠雄、若女将は稲垣美穂子。
三味線を手にした流しの歌い手がこまどり姉妹。
美しかった稲垣、可愛かったこまどりもさることながら
店内の雰囲気に懐旧の思いをくすぐられる。
こういう場所で酒盃を重ねるのが好きだ。

現在の浅草の店々を思い浮かべると、
雷門通りの「酒富士」、すし屋通りの「三岩」、
かんのん通り脇の「ひろ里」あたりに
往時のよすがをしのぶことができる。

ハナシはいきなり浅草から青砥へ飛ぶ。
京成本線と京成押上線が交わる青砥駅だが
界隈の地番は葛飾区・青戸と紛らわしい。
四ツ谷と四谷、市ヶ谷と市谷の例もあるように
もともとある難しい字や余計なカタカナは
変更されたり、省略されてしまう傾向にあるようだ。
愚かなお役所の策略によってネ。

その都度、地番は変えられ、
駅名に名を残すということで
この地は青砥が古くからある地名なのだ。
よって当話のサブタイトルには青砥を使う次第です。

=つづく=

2019年3月12日火曜日

第2086話 立ち飲み酒場のいわし刺し (その2)

JR総武線・新小岩駅の南口にある立ち飲み「しげきん」。
いわし刺しに舌鼓をポンと打ったところ。
コイツを浅く酢で〆て、おろし立ての本わさびでやったら
もう、たまらんだろうぜ。
一瞬、見苦しく悶えるおのれの姿がまぶたに浮かんで消えた。
いや、自分で消した。

小肌酢もかなりイケるゾ。
そうは言っても、いわしには及ばず。
中ジョッキをお替わりして、さらに品書きをチェックする。
うむ、うむ、惹かれるものが少なくないな。
昼めしをそばにしておいてよかった。

小用を足して戻ってくると、
早くも相方が先客の女性と親し気に言葉を交わしている。
予想はしていたものの、あらためてその早業に驚く。
二人の会話を尻目にこちらは勝手に追加注文。
平目の薄造りと馬刺しを。
ついでに酎ハイに切り替えた。
酎ハイは悪くなかったが、つまみは2品ともハズレ。

平目は弾力がなく、クタッとしている。
イヤな匂いはなくとも死後、相当の時間が経っている。
もともと340円の平目に期待を寄せるほうがあつかましいか。
馬刺しもまたしかりで馬肉の風味はどこかへ飛んでしまい、
質のよくないまぐろ赤身のよう。
当店は青背のサカナに限るネ。

一箸付けて2皿とも話に夢中の女郎衆にオッツケた。
われながらなかなかのワルよのぉ。
ここで遅ればせながら会話に参加する。
女郎衆すでに打ち解けており、
話題はかなりきわどい個人情報にまで及んでいる。

先客はいつもカウンターで女独り飲み。
ある日、酔っ払いが彼女のお尻を触ったんだと―。
そのときたまたまカウンターに居合わせた、
ゴリラみたいな男性客がプロテクトしてくれたんだと―。
そして、その彼が今のダンナなんだと―。
いやはや人の世の出会いは様々だねェ。
考えてみりゃ、その助平オヤジはキューピッドじゃないか。

意気投合した女郎衆は連絡先の交換を済ませ、
相方はゴリラに会いたいなどとほざいている。
深入りを怖れたJ.C.、本日唯一のスペシャルメニュー、
上さば煮付け(これのみ450円)を通す。
味噌煮かと思いきや、たまり醤油煮とのことだが
あまりピンとこなかった。
やっぱりこの店はいわしと小肌でありますな。

「しげきん」
 東京都葛飾区新小岩1-30-8
 03-5662-8536

2019年3月11日月曜日

第2085話 立ち飲み酒場のいわし刺し (その1)

さんとも・O戸サンと舞い戻った西葛西の町。
昼下がりのカラオケをしばし楽しんだあと、
路線バスで新小岩を目指した。
始発の西葛西から終着の新小岩までは
船堀街道、平和橋通りを経て、ほぼ一本道である。

明るければ窓外の景色を眺めることもできるが
すでに陽は落ちてほとんど真っ暗。
揺られること長きに渡り、所用時間は45分。
降り際、運転手さんに
もしも歩いたらどのくらい掛かるのか訊ねると、
「歩いたことないですけど、2時間くらいでしょうかネ」—
いや、歩かなくてよかった。

葛飾区・新小岩と江戸川区・小岩は
呑ン兵衛垂涎の酒場に事欠かない。
当夜の予定は小一時間を立ち飲みに費やしてから
以前、何度か利用したことのある、
庶民的な洋食屋に流れるというもの。
さっそく目星をつけていた「しげきん」に向かう。
ちょうど2年前、ぶらり立ち寄ったものの、
店内は客でごった返しており、泣く泣くあきらめた店である。

今回は懸念が払拭されて
カウンターにも小テーブルにもスペースがあった。
当然、カウンターに陣を取る。
独り飲みの女性の隣りにO戸サンが滑り込んだ。
彼女がつまんでいるいわしの刺身が光り輝いている。

スーパードライの中ジョッキにそのいわし刺し、
そして小肌酢をお願いした。
調理するのは若い女性で
手際よくいわしと小肌を切り揃える。
店主夫妻の娘さんらしい。

何度も書いてるように、J.C.はどれほど新鮮であっても
いわし・あじ・さんまなど青背の光りモノを
そのまま生で食することは非常にまれ。
必ず酢と塩で〆てから、いただくようにしている。

たまたまこの夜は気分が乗ったせいか
一箸つけると意想外の美味しさ。
きざみ葱とおろし生姜の薬味もピタリと決まって
文句のつけようがないくらい。
しかも「しげきん」のつまみ類は340円均一なのだ。

アルコールだって中ジョッキが340円、酎ハイは240円。
新小岩駅から至近の繁華街という立地、
家賃だって安くなかろうし、よく商売が成り立つものだ。
いやあ、感心することしきりである。

=つづく=

2019年3月8日金曜日

第2084話 鴨とすっぽん (その2)

レッサーパンダにオオアリクイ、
フンボルトペンギンにコウノトリ、
マダガスカルホシガメまでいる、
行船自然動物公園のすぐそばの「ひまわり」にいる。
グループ御一行が退去したので
客はカウンターのわれわれ2人だけとなった。

そば打ちには信州・安曇野の湧水を使用し、
化学調味料・着色料は99%不使用とのこと。
残り1%が引っ掛かるが
店主の主張したいところは理解できるような気がする。

事前調査で店の看板商品は
しっかり把握していたので注文をスッと通した。
鴨せいろとすっぽんそばだ。
すっぽんせいろと鴨そばにしなかったのにはワケがあり、
以前、京都のすっぽんの名店、
「大市」にうかがった際、すっぽんを炊く鍋には
強烈な火力が必要不可欠と聞いた。

かけつゆのほうがせいろのつけ汁より、
多少なりとも温度が高いハズ。
ぬるいと臭みが残るのではとの懸念があったのだ。
まっ、単なる素人の聞きかじりによる浅知恵ですけどネ。

運ばれたすっぽんそばには
絶対量が少ないものの、すっぽんのぶつ切りに南蛮ねぎ、
そして白い松の実と朱色の枸杞(くこ)の実が散っていた。
どんぶりは手で持てないほどに熱々。
箸を取ってしばらく・・・。
すっぽん、そば、つゆ、三拍子揃った美味しさに魅了された。

店主は京料理の店で修業した由。
誰も思いつかなかったすっぽんそばを手掛けるに当たり、
それなりの自信と確信があったのだろう。
京料理を極めるには
ふぐ・はも・すっぽんの三本柱が
クリアすべき課題だと聞いたことがある。

まかり間違えれば大きく外すリスクを背負って
生み出されたすっぽんそば。
1杯1200円で真っ当なすっぽんを味わえるなんて
いや、けっこうでありました。

それに反して・・・というほどでもないが
鴨せいろのほうはフツーの仕上がり。
こちらも1200円だから
オススメは圧倒的にすっぽんそばになる。

ちなみにビール小瓶ととりわさはどちらも500円。
金3900円を支払って
春の訪れを感じさせる陽射しの中を西葛西へ戻りました。

「手打ち蕎麦 ひまわり」
 東京都江戸川区北葛西3-1-21
 03-4084-1133

2019年3月7日木曜日

第2083話 鴨とすっぽん (その1)

江戸川区・北葛西に
すっぽんを出す日本そば屋があるという。
すっぽん鍋を供する高級そば割烹かと思いきや、
そうではなく、こくフツーの町場の店らしい。
ただし、もり・かけ、たぬき・きつね、おろし・とろろなどを
取り揃えて出前なんかも厭わぬ、
その町に根付いたそば屋ではないそうだ。

Eating is believing.
飲む・食う・歌うのさんとも、O戸サンに声を掛け、
待合せたのは都営新宿線・西葛西駅である。
進路を北にとって歩くこと10分。
近隣住民の憩いの場、行船公園のそばに
「手打ち蕎麦 ひまわり」はあった。

ビジネスカードには

手打ちのため、お蕎麦の形には
愛嬌があり数量に限りがあります
1日30食目処に打っております

とある。
蕎麦の形もそうかもしれないが
文言にも愛嬌がある。
それにしても1日30食でペイするのだろうか?

営業時間は10:30~15:00。
蕎麦のストックに懸念がなければ、
11:30~13:30 17:30~20:00
にしたほうがずっと売上に貢献するだろうに—。
時間だって同じ4時間半。
中休みの間にたっぷり蕎麦を打てるしネ。

13時半に入店すると、先客はグループが1組だけ。
接客は母上、調理が子息の母子経営である。
母子手帳なんぞ見なくてもすぐに判った。
面貌はあまり似てないけどネ。

瓶ビールを1本所望したらスーパードライの小瓶。
即刻、もう1本追加する。
一緒にとりわさも。
何処から来た鳥か訊かなかったが
良質のささみ肉がネットリと旨い。
残念ながらわさびはチューブだったけど―。

「ひまわり」のウリは鴨とすっぽんの二本立て。
せいろにかけ、なめこそばなどもあったが
力を入れているのは上記の2点だ。
それぞれ汁にくぐらすつけそばタイプと
熱いつゆを張ったかけそばタイプが用意されている。

=つづく=

2019年3月6日水曜日

第2082話 金八先生のお休み処 (その3)

3年B組のスタッフの面々が憩った「日の出屋」。
注文するのはシンプルな中華そばとハナから決めていた。
暖簾には大きく”中華そば”と染め抜かれているし、
袖看板にも”中華そば・御菓子”の文字が見える。
しかしながら店内の品書きはラーメン。
よってオジさんにはラーメンと伝えた。

ガラスの窓越しに見えた中庭(?)には信楽焼きのお狸様。
それも日本そば屋の店頭に置かれる立派なのではなくて
ずっとコンパクトで可愛いタヌ公である。
オバアちゃんが現れ、お供えだか、お手入れだか、
お狸様の面倒を見出した。
その足でガラス戸を引き、店内に入って来てJ.C.に
「いらっしゃいませ!」―
いえ、感嘆符を付けるほど大きな声じゃなかったがネ。

到着したラーメン(550円)には
肩ロースのチャーシューが3枚。
歯応えがあるタイプで、これは好み。
だけどラーメンで3枚付けとなると、
チャーシューメン(850円)ならどんだけ入れるつもりなの?

シナチクは懐かしい味付けだ。
円くスライスしたナルトと小さな焼き海苔、
そして1本を2つに裁断したインゲンは
揃って存在感が薄く、味のアクセントというより、
むしろ見た目のアクセサリーだネ。

中細ややちぢれの麺は粉々感があってわりと好き。
スープは思いのほか昔懐かし風ではなかった。
醤油の色浅く、化調は感じさせてもクドさはない。
総じて満足のいく1杯であった。

先ほどオバアちゃんが入って来たお狸様のほうから
常連というより昵懇といった感じのオッサンが現れた。
茶の間の脇のテーブルに着くとすぐに
オバアちゃんが透明のドリンクを用意する。
マイボトルといった感じで日本酒だろうか?
いや、たぶん焼酎の類いだネ、あれは—。

するとオッサン、持ち込んだ包みをおもむろに開く。
ここでオバアちゃん、
「わさびがいいんなら、出したげるヨ」
何だ、何だ! まぐろのブツでも買って来たんか?

支払い時にそっと盗み見すると、ボイルされたホタルイカ。
アハハ、さっき牛田駅前の魚屋で見掛けた、
1パック380円のホタルイカに違いない。
品定めする近所の若夫婦の肩越しにのぞいたんだ。
帰り際、再び鮮魚店の前を通ると、
3パックあったホタルイカが2パックに減っていた。
ハハハ、ウラは取れたネ。

=おしまい=

「日の出屋」
 東京都足立区柳原1-33-2
 03-3888-1664

2019年3月5日火曜日

第2081話 金八先生のお休み処 (その2)

都の西北ならぬ、東北の玄関口、足立区・北千住で
前フリに丸々1話費やしてしまった理髪のあと、
連絡通路を抜け、西口から東口へ移動した。
2012年だったか、千代田区・神田から
東京電機大のキャンパスが
JTの社宅跡地に移転してきて以来、街の様相は一変した。
今では中高年と若者が上手いこと溶け合う、
都内でも稀有な街として”住みたい人気度”が急上昇中、
いや、ご同慶の至りである。

電気大の立派な校舎は建っても
東口は西口に比べ、どこかのどか。
道を行き交う人の姿が少ない。
それでもパチンコ&スロットもあれば、立ち飲み酒場もある。

10分ほど歩き、東武伊勢崎線・牛田駅と
京成本線・京成関屋駅が対面する間を抜けて柳原地区へ。
本日のターゲットは「日の出屋」である。
昔ながらの中華そば屋ながら、町中華という感じではない。
店先で菓子・煎餅を商ったりしてるし・・・。

J.C.はただの1度も観たことがないが
国民的学園ドラマの「三年B組金八先生」はこの界隈で撮影され、
「日の出屋」はスタッフの憩いの場として重宝されたという。
楽屋と休憩所の役割を担ったわけだ。

夜の開店時間、17時を回って到着すると、
店頭にはまだ「準備中」の貼り紙。
おや? おかしいな。
ガラス越しに中をうかがってみたら
厨房ではオジさんが立ち働いている様子。
どうやら臨時休業ではないらしく、最悪の事態は免れた。

店先にボ~ッと立ちすくむのもはばかられ、
そのまま通過して数軒隣りの露店青果商の脇へ。
高さ1.7メートルしかない、ちっぽけなガード下である。
上を走るのは東武伊勢崎線だ。

その場所から電話を入れる。
受話器を取ったのはおそらく先刻のオジさん。
17時に営業開始したという。
安堵して舞い戻った。

「準備中」の紙はそのままなれど、構わず引き戸を引く。
オジさんが笑顔で迎えてくれ、
お冷やのコップを運んでくれた。
店内は4人掛けテーブルが4卓、ゆったりと配置されている。
先客はもちろんいない。

卓上には胡椒の缶があるのみ、それもブラックペッパーだ。
支那そば・中華そば・ラーメンには
ホワイトのほうがいいんだけどねェ。
豚のゲンコツの匂いと脂分でギトギト、
あるいは異臭まき散らす魚粉まみれ、
およそ良識ある人間が口にするにふさわしからぬ、
惰麺はまたベツのハナシだけどネ。

=つづく= 

2019年3月4日月曜日

第2080話 金八先生のお休み処 (その1)

昨年末に行きつけのサロンで理髪してから
およそ2ヶ月が経過してしまった。
馴染みのK子チャンにレンラクを取ると、
品川区・西五反田の新店は3月後半のオープンとのこと。
こりゃ待ちきれん、3ヶ月もほったらかしにしたひにゃ、
児雷也みたいになっちまって、イイ男(?)台無しだヨ。

数日前、北千住の「天麩羅 いもや」で天丼を食べたあと、
駅前の丸井地下にある「食遊館」で買い物をした際、
同じフロアに激安床屋があるのを知った。
カット料は税込みでたったの1080円。
どうせ1回こっきりの継ぎに過ぎないから
何処でもいいけど、安いに越したことはない。

この日は北千住駅東口から遠くはない柳原地区にて
昔懐かしの中華そばをいただく予定。
行き掛けの駄賃としてのヘアカットは妙案と言えよう。
晴々とした気分で東京メトロ千代田線の乗客になる。

バーバーショップの扉を開けると、
背もたれ付きの椅子が壁づたいに10脚。
それぞれに番号がふられている。
オッサン・若者入り混じって男ばかりが9人、
順番待ちする中、⑩番だけがポツンと空いていた。

ほかに背もたれのない丸椅子が3脚。
(付き添いの方はこちらにお掛け下さい。
 混雑時はこちらが11~13番になります)
とあった。
その横には紙おしぼりの自動供給機などもあったりして
なかなかにサービスが行き届いている。

マガジンラックには雑誌や漫画があふれんばかり。
北千住特集のグルメ雑誌を手にして⑩番に着席した。
はて、どんだけ時間が掛かるのだろう?
何せこちとら、ここ15年の長きに渡り、
K子チャン意外にこの黒髪(ちょっと白いのも)を
触れさせたことなど、ただの1度もないんだ。

待つこと38分、自分の番が回ってきた。
若いのやら、ちょいと老けたのやら
ハサミを握るのは3人の男性だった。
いやはや、その手際のいいこと、早いこと。
仕上げはヴァキューム・クリーナーで
髪の切れっぱしを完璧に吸い取り、
所用時間はピッタシ10分ときたもんだ。
これってすごくネ?
そんなの常識だと思われるかも知れないが初体験だもん。

店を出たときの順番待ちは5人に減っていた。
これなら待ったとしても、せいぜい20分だろう。
いや、実に便利なもんだねェ。
でも、やっぱり此処は今回1度きり。
時間もお金も掛かるが次回は品川区に遠征だ。
それが長年培った人間関係というものでありましょう。

=つづく=

2019年3月1日金曜日

第2079話 北千住に「いもや」があった! (その2)

ビールの合いの手に択んだ〆さばは8切れもあった。
こりゃ食べ切れんかも知れんな・・・。
自信はなかったものの、うん、うん、なかなかいいゾ。
刺身でもイケる素材なら浅い〆でOKだが
フツーのさばは〆具合強めが好みで、ここのは強め。

そうこうするうち、ごはんが炊き上がった。
最安値は定食が730円、天丼は800円。
違いの理由は不明なれど、
一般的に天丼のほうが安いんじゃないの。
それでも、天丼をお願いした。

整うまでのあいだ、さらに〆さばを突つく。
あれれ、不快なことに骨が舌に残ったヨ。
手抜きとは言わないが、もっと慎重に毛抜きを使わないとネ。

さて、天丼の陣容は、海老・いか・なす・ピーマン・大葉、
そして海老と玉ねぎのかき揚げである。
「いもや」の天ぷらは軽いコロモがイノチ。
サクッサクの歯ざわりが心地よい。
しばらく訪れていないから定かではないが
本店の特徴はちゃんと引き継がれているようだ。
大ざっぱに掛けられた丼つゆも
かえって味変を生み出し、効を奏していた。

手の空いた店主と言葉を交わす。
第一の興味は、いつから此処に店を構えているのか?
このことであった。
いや、驚きやしたネ、何と50年だとサ。
実に半世紀じゃないか!
現在の彼(たぶん倅)に代替わりして丸5年とのこと。
先代は本店に居た方で当店は暖簾分けだった。

以前、同じ通りにあるハンバーガーショップ、
「サニー・ダイナー」を利用したが
なぜそのとき、「いもや」に気づかなかったのだろう?
単純な見落としとしか考えられない。
お勘定は締めて1850円也。

当初のターゲットだったとんかつ屋の位置を確かめるため、
駅方向に戻らず、道を奥へと進んだ。
屋号がオモテに出ていない店舗は
「サニー・ダイナー」の15メートルほど先にあった。

歩きながら気になったのはコートに付着したごま油の匂い。
神保町のすずらん通り、「はちまき」では
ごま油のよい匂いに誘われたのに
衣服に付くのはちっともうれしくない。
もっとも焼肉屋や干物屋の匂いよりはずっとマシだけどネ。

「天麩羅 いもや」
 東京都足立区千住3-31
 03-3881-9744