2020年2月28日金曜日

第2339話 ビールとワインとティジェッラと (その2)

豊島区・目白の「ティジェッレリア ガタリ」。
モルタデッラをつまみながら
アブルッツォ州の中級ワインを立ち飲んでいる。
モルタデッラはエミリア=ロマーニャ州の州都、
ボローニャの名物、ラルドを埋め込んだ大型ソーセージ。

せっかくだからティジェッラをお願いした。
「生ハムでも挟んでくれる?」
「たぶん、こちらのほうが・・・」
こうしてすすめられたのがモデナ市民が愛してやまぬ、
ペスト・モデネーゼだったのだ。

モデナといえば、第一に思い浮かぶのは
稀代のテノール歌手、ルチアーノ・パヴァロッティ。
彼はこの街の出身。
そして今月亡くなったソプラノ歌手、ミレッラ・フレーニ。
二人は幼なじみで、嘘か本当か定かでないが
同じ乳母の乳を飲んで育ったという。
本当ならよほど良い声の出るオッパイだったのだろう。

余談ながら先日のNHK‐FMは
「オペラ・ファンタスティカ」。
ヴェルディの「ドン・カルロ」だったが
ブッタマげるような物凄い顔ぶれ。
ミレッラ・フレーニの追悼色強く、むろん本人と
夫君のブルガリア人・バス歌手、ニコライ・ギャウロフ。
三大テノールのホセ・カレーラスに
20世紀最高の美声の持ち主、エディータ・グルベローヴァ。
「カルメン」のタイトルロールををやらせたら
右に出る者ナシのアグネス・バルツァ。
とどめはヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮ときたもんだ。
空前絶後とはこのことを指す。

厄介な所用を抱えており、熟聴できなかったのが残念至極。
こりゃ、CDを購入するほかはないネ。
やれやれ、令和2年はいろいろ出費がかさむヨ。

それはそれとして、この日はしこたま飲んだ。
グラスワインは白・赤ともに3種づつで
軽・中・重と異なる飲み口の取り揃え。
いずれも1グラス=500円と手軽なものだが
立ち飲むにはモア・ザン・イナッフ、実に気が利いている。

モレッティの小瓶2本
赤・中のダブルッツォ5杯
白・軽のモスカート(トスカーナ)1杯
赤・重のトレ・グラッポリ(シチリア)1杯
以上を節酒、もとい、摂取した。

途中、客が引けてイケる口のバーテンダレスと
サシで飲み始めたものだから
舞台は紅白酌合戦の様相を呈してきた。
こちらは引き揚げれば済むことなれど、
先方は日付が変わるまでシゴトが続く。
ずいぶんと迷惑をかけてしまったかも?
こりゃ近いうち、裏を返しに出向かずばなるまい。

「ティジェッレリア ガタリ」
 東京都豊島区目白3-4-15目白駅前ビルB1
  (入口は外の石段踊り場)
 03-6914-4554

2020年2月27日木曜日

第2338話 ビールとワインとティジェッラと (その1)

「新京」をあとにして
同じ西武池袋線沿線の椎名町にやって来た。
野口五郎の「私鉄沿線」を
いつの間にか口ずさみながらネ。

山手通りの陸橋をくぐったところで行く先を思案する。
線路の北側の地番は西池袋、南側は目白である。
要するに池袋へ行くか、目白に向かうかの二者択一。
都内屈指の歓楽街、池袋なら止まり木探しに苦労はない。
しかし、学生街の目白にはこれといったアテがない。
さすらいのドリンカーにとって無縁の土地なのだ。

道なりに歩いていたら目白駅前に到達した。
十数年も腕時計を持たない身にはガラケーだけが頼り。
相棒は17時を表示していた。
駅前交番の脇に階段を発見。
あれ~、こんなところに石段なんかあったかな?
誘われるように降りてみると、
踊り場にバールと喫茶店がオサレに並んでいる。
好奇心につまづいて、どちらかに決めることにした。
時間も時間だし、ここはおチャよりおチャケであろうヨ。

店の名は「ティジェッレリア ガタリ」。
「いらっしゃいませ~!」―
明るく元気な声に迎えられる。
5~6人も立てばいっぱいの立ち飲みバールだ。
1時間以上も歩いたからノドはカラカラ。
イタリア産ビール、モレッティを立て続けに2本空けた。

先客は1組の若夫婦のみ。
気さくなカップルで言葉を交わすうち、
奥さんが大学の後輩と判明し、会話に弾みがついた。
バーテンダレスも客あしらいが上手な娘さん、
と思いきや、あとで判ったが実は娘に非ず。
四十路半ばを超えたと聞いて
われわれ3人ビックリ仰天の巻。

ミディアムボディの赤ワイン、
モンテプルチアーノ・ダブルッツォを通すと、
モルタデッラの切り落としをサービスしてくれる。
ちなみに店名にあるティジェッレリアは
ティジェッラ屋さんを意味する。
エミリア=ロマーニャ州・モデナの名物で
マカロンを一回り大きくした円形パンは
クラウンとヒールに花柄の焼き模様を持つ。

ハンバーガーのバンさながらに
生ハムやペスト・モデネーゼを挟んで食する。
ペスト・モデネーゼはラルド(豚の背脂)に
ニンニクやハーブを混ぜ込んだペースト。
焼き立てのティジェッラならラルドが溶けて
より美味しくなるが残念なことに焼き置きだった。

=つづく=

2020年2月26日水曜日

第2337話 二人合わせて170歳 (その2)

最寄り駅が西武池袋線・東長崎(豊島区)でも
地番は練馬区・旭丘の町中華「新京」。
ラーメンが300円と安いが豚肉料理も破格だ。
あらためてよく見たら、とりうまにが650円で
にくうまには600円と、鳥優勢ながら
さすがに親子丼は550円、カツ丼は600円で豚の勝ち。
しかし、これがチキンカツ丼なら650円に値付けされ、
豚を上回るのかもしれない。

あまり迷わずにポークソテーを単品でお願い。
1週前に大森町の「高柳」で食べたばかりなのにネ。
キリンラガーの大瓶を半分ほど飲んだ頃、
意想外に立派なポークソテーが登場した。
小麦粉がはたかれてるが
これをポークムニエルとは言わない。

10切れにカットされており、
つけ合わせは温野菜ではなく、
繊切りキャベツときゅうりの薄切り。
レモンのスライスも1枚。
甘めのソースに加え、
オムライスよろしく中央にケチャップが一匙。
肉質はなかなかで1週前の「高柳」に遜色なかった。

キリンラガーもやはり1週前に
横浜で鍛えに鍛えられたせいか美味しく飲めた。
たぶん甘く濃いソース&ケチャップのおかげだろう。

解体屋の作業員らしきアンちゃんが二人、
入店してきてJ.C.の背後の卓に着いた。
うち一人がしきりに絡んだ痰を
カカーッ!っとやるのには閉口したが
厳しい環境下で働いていることを慮れば、
責めることなどできやしない。

ポークソテーを単品にしたのはラーメンで締めるため。
大瓶も空いたことだし、
そろそろ通そうとして、ふと思った。
とんかつ、ポークソテーより、
高価なやきぶた(600円)って
いったいどんな代物だろう?
好奇心につまづいて普段まず注文することのない、
ちゃしゅうめん(ママ)をお願いしてしまった。

整ったどんぶりには杏子(あんず)の花の如くに
薄紅色のちゃしゅうが5枚。
五瓣(ごべん)の椿ならぬ、五瓣の杏子が咲いていた。
脂身がまったく付いていない、ちゃしゅうは
煮豚ではなく焼き豚、昔の人は本当に律儀なのだ。
ほかにはほうれん草と、きざみねぎのみで
予想された、シナチク、ナルト、焼き海苔は全てナシ。
ややちぢれの中細麺に化調最小限のスープがやさしい。

退店後、あらためて暖簾を振り返った。
白地に赤く”ラーメン”の文字と雷文模様。
暖簾のループを通す鉄線が弧を描くのは
当店のほか、玉ノ井の「興華楼」しか思い浮かばない。
近々、当地に開館予定のトキワ荘マンガミュージアム。
そのペナントが街灯を彩る千川通りを南東に歩いて行った。

 「新京」
 東京都練馬区旭丘1-5-6
 03-3953-8951

2020年2月25日火曜日

第2336話 二人合わせて170歳 (その1)

10年以上も前だが西武池袋線・桜台駅そばに
「新京」という名の町中華があった。
偶然見つけた佳店を
自著「J.C.オカザワの昼めしを食べる」で紹介したが
数年後、突如として閉業してしまった。

それが最近、同じ沿線の東長崎に同名店があることを知った。
いや、胸が躍りやしたネ。
かなり高齢のご夫婦が切盛りする店だったが
はたして移転再開したのだろうか?
情報を得たその週末に
東長崎で下車するJ.C.の姿を見ることができた。

うわ~っ、佇まいは昭和も昭和、それも戦前の。
引き戸がくもりガラスで店内の様子はうかがい知れない。
そ~っと手を掛けた。

♪   くもりガラスを 手で引いて
  わたし昔が 見えました  ♪

目の前には80代も半ばと思しき老夫婦が
おしどりよろしく立ち働いておりました。
ともに腰は曲がっちゃいないが背中は丸くなっていて
お歳を合わせりゃ170歳に達するだろう。

年恰好は似通っていても桜台の「新京」とは別人だ。
他客が居ないのを幸いに訊ねてみたら
桜台の店主とは修業先が一緒だったが面識はなく、
こちらはオリンピックの翌年、昭和40年の開業で
あちらもほぼ同時期に立ち上げたらしいとのこと。
そうでありましたか―。

キリンラガーの大瓶が
突き出しのシナチクとともに運ばれた。
トクトク、ゴクゴクと飲って、壁の品書きを注視。
レパートリーが多岐に渡っている。
調理はご主人独り、いや、昔の人は律儀だねェ。
ひらがな表記の目立つ、料理名を紹介してみよう。

ラーメン ぎょうざ 各300円
たんめん ニラレバーいため 各400円
ちゃーはん カレーライス チキンライス 
とんかつ ちゃしゅうめん 五目そば 
てんしんめん かんとんめん 各500円
ポークソテー 550円  やきぶた 600円
すぶた 700円  とりから揚げ 750円

ラーメン・餃子の300円を筆頭にいずれも安い。
ちょいと不思議なのは
とんかつは500円なのに、から揚げが750円。
通常は鶏肉より豚肉のほうが高いんだけどなァ。
どうなってんのヨ、このお店?

=つづく=

2020年2月24日月曜日

第2335話 以前は通った焼肉店

この時季、散歩のときの楽しみは
突然、漂い来る沈丁花の香りである。
世に数々の匂いあれど、これにまさるものはナシ。
今年の書き初めならぬ嗅ぎ初めは先週の金曜日。
ところは仏壇の町、台東区・稲荷町の路地裏だった。
開いた花弁に思わず鼻を寄せ、
仔犬のようにクンクン嗅いでしまった。

それはそれとして
かつて文京区・白山に時代がかった和食店があった。
豆腐懐石「五右ヱ門」は湯豆腐を名物としたが
釜茹での刑に処せられた石川五右衛門を連想してしまい、
多少のシラケを伴いながら箸を上げ下げした記憶がある。
その隣りに「Lee Cook」という焼肉店があり、
焼肉を好まぬJ.C.が珍しくもひいきにしていた。
今は両店の跡地にマンションが建っている。

4年ほど前に閉店した「Lee Cook」が
半年の空白期間を置いて隣り町の向丘に移転し、
再開業したことは知っていた。
ところがその間、自身の焼肉離れに拍車がかかり、
訪問の機会を失ったのだった。

肉好きの友人を誘っておジャマする。
肉好きというより、”好”の字を分離分解させて
肉女子だネ、この人は・・・オバはんなんやけどぉ。
開店直後の17時過ぎに入店。
ビールのグラスを合わせ、ガンガン注文してゆく。
おっとぉ、白山時代の末期には消えていた、
フルーツトマトのキムチが復活してるじゃないか。
無条件でそいつと白菜キムチ、さらにナムル盛合せを。

トマトがやはり美味い。
白菜はそれなりだが、こんなに赤くないアッサリ系が好み。
ぜんまい・ブロッコリー・ヤングコーンに
キャロット・ロペ風のにんじんが加わるナムルがオサレ。
お味もけっこうである。

を生マッコリに切り替えたあとは肉、肉、肉。
ハラミ・レバー・ロース・カルビを次々に。
匂い・煙りとは無縁の無煙ロースターは優れモノながら
比較的低温で肉を焼き上げるため、
食べ頃の見計らいに慣れるまで少々とまどった。
4種の中ではロースがベストであったかな。

締めに取り掛かろう。
冷麺じゃないし、ビビンパでもない。
ましてやクッパであるハズがない。
協議の結果、じゃが芋のチヂミに落ち着いた。
以前はなかったメニューだ。

運ばれた代物はとてもチヂミには見えない。
表面をトロけたチーズが覆い隠している。
いかにも女性が歓びそうな一皿はオッサンに不向き。
2切れほどつまみ、残りは相方の奮闘に期待した。
すると奮闘など無用とばかり、
ペロリ平らげたオバはんは、ケロリ涼しい顔をして
ニッカリ笑いましたとサ。

「Lee Cook」
 東京都文京区向丘1-12-6
 03-6801-5433

2020年2月21日金曜日

第2334話 変わり果てたるビーフカツ (その2)

人形町の{キラク」でメニューを手にしたところ。
ありゃあ、品数がずいぶん減ってるゾ。

ビーフカツライス 2500円
ポークソテーライス 2000円
豚ロースカツライス 1500円
ハンバーグライス(昼のみ)1350円

以上4品だけでカレーやハヤシが見当たらない。
気に入りのポークソテーと迷いながらも
長いブランクを埋めるため、名代のビーフカツを通す。
通したはいいが、一向に調理が始まる気配がない。
それもそのハズ、料理人がいないのだ。
よって揚げ油の鍋に着火もされない。

しばらくして奥から料理人が現れた。
何だかヘンな雰囲気。
客が少ないこともあって店内に活気というものがない。
先刻、目撃した「そよいち」の繁盛ぶりとは雲泥の差。
勝敗は残酷なほどにあからさまだ。

15分で整ったプレートには薄いビーフカツが3枚。
それぞれ4つにカットされて計12切れ。
デカいさつま揚げが並ぶ景色が目の前にあった。
脇にはキャベツとマカロニサラダがちょっぴり。
マカサラは古くから当店の名物なのである。
ライスは多めの盛付けだった。

醤油・ウスター・中濃ソースが卓上に備えられ、
なぜか中濃だけに”ブルドッグ”の貼り紙あり。
おそらくウスターも同社製だろう。
何も付けず1切れを口元に運ぶ。
う~ん、何だかなァ・・・そこそこの美味しさだが
見た目ともども変わり果てていた。
マカサラも昔の味ではない。
失望感だけが降り積もるヨ。

箸袋に”外吉”の2文字を
デフォルメしたロゴが印刷されている。
長谷川外吉、この人こそが
「キラク」の創業者にして初代シェフ。
前述の「そよいち」も分かれた当初は
「そときち」を名乗っていたが
こちら側からクレームがついたようで
「そ〇〇ち」の〇部分の変更を余儀なくされた由。
名は奪われたものの、繁栄を勝ち取ったことになる。

昔の「キラク」を偲ぶよすがは
青色シートの表面が剥げちょろけた丸椅子のみ。
まぎれもなくこの椅子は先代からのものである。
苦い思いを引きずりながら人形町をあとにした。

その足で直行したのは御徒町の「味の笛」。
アサヒの工場より直送される生ビールをまず1杯。
続いて黒生と同割りのハーフ&ハーフを1杯。
「キラク」でパスしただけに美味さもひとしおだ。
高野豆腐とがんもどきの炊き合わせをつまみに
冷えた麒麟山も1杯飲った。
やけにキリンづく今日この頃である。

そうそう、帰宅後に食した「志乃多寿司総本店」の
鰤と千枚漬の押し寿司はなかなかオツなものでした。

「洋食 キラク」
 東京都中央区日本橋人形町2-6-6
 03-3666-6555

「味の笛 本店」
 東京都台東区上野5-27-5
 03-3837-5828

「人形町 志乃多寿司総本店」
 東京都中央区日本橋人形町2-10-10
 03-5614-9300

2020年2月20日木曜日

第2333話 変わり果てたるビーフカツ (その1)

建国記念の祝日。
書き物を済ませ、昼過ぎに家を出た。
寝不足で頭が重い。
何せ、ウチのバカ猫がよりによって真夜中に
季節外れの独り運動会を催しやがったものだから
太平の眠りを覚まされたのだ。

それでも気分は日本橋人形町あたりの洋食屋で
ビールを飲みながらゆるりと過ごしたい感じ。
東京メトロ半蔵門線・水天宮前で下車し、
甘酒横丁にやって来た。

あいにく「来福亭」も「小春軒」も休み。
それではと「そよいち」に回る。
同じ人形町の老舗「キラク」と故あって袂を分かった店だ。
いつの間にか”酒の友メニュー”を提供しており、
名代のビーフカツもポークソテーも
ハーフポーションでの注文が可能となっていた。

店頭でメニューに見入っているうち、
次から次と客が入店してゆき、
遅ればせながら続いてみれば、すでに8人ほどが
ウェイティング・コーナーに群れていた。

負け犬は尻尾を巻くほかに手立てなく、
甘酒横丁の北側に回る。
あれっ! こんなところに「芳味亭」が移転してるヨ。
ここも待ち客10人近くだが当店は単身者に向かない。

通りすがった「志乃多寿司総本店」の店先にたたずむ。
季節商品、鰤と千枚漬の押し寿司が目に飛び込んだ。
瞬時に二つの寿司が脳裏に浮かぶ。
一つは富山名物、
ますのすし本舗 源」調製のぶりのすし。
そしてもう一つはかつて京都にあった、
「松鮨」のスペシャリテで千枚漬使用の鮨、川千鳥。
8切れ入りが税込み1404円、迷わず買い求めた。

昭和の酔っ払いの定番みやげよろしく、
折詰をぶら下げて「キラク」にやって来た。
実に13年ぶりの訪れである。
時刻も13時、先客はヤングカップル1組だけと淋しい。
L字形カウンターは縦7・横3の10席。
横の真ん中に座り、接客の女性に問い掛ける。
「端にずれたほうがいいかしら?」
「この時間ですから大丈夫ですヨ」

ビールの銘柄はプレモルとのことで
ここは見送らざるを得ず、
落胆しながらメニューを手に取った。

=つづく=

2020年2月19日水曜日

第2332話 変わり果てたる野毛の街

JR京浜東北線で桜木町に移動する。
今宵は遅れてジョインして来る友人がもう1人。
野毛で落ち合うことにしたのだ。
到着まで四半刻ほどあり、
駅から野毛への”ちかみち”にある、
ぴおシティ地下に潜った。

「ホームベース ぴおシティ桜木町店」は
大盛況の立ち飲み酒場。
洋の東西を問わぬ呑み助たちが
グラス片手にワイワイガヤガヤやっておった。

われわれは静かにキリンラガーの大瓶を注ぎ合う。
それにしても騒がしい店よのぉ、もとい、客よのぉ。
若者や外人がこんなに集う街ではなかったがねェ。
早いとこ時間が経ってくれんかなァ・・・。
なんて思いつつ、生レモンサワーに移行した。

無事、合流した3人は
J.C.が目星をつけておいた老舗中華の「萬福」へ。
野毛に来たら立ち寄る機会の多い店だが
周囲に新店が次々に生まれ、いずれも若者で大賑わい。
よって昔の面影は雲が散り、霧が消えたかの如し。

そんななか「萬福」はちっとも変わっていなかった。
もはやエリアでは稀少となった、
古く良かりし空気をたたえる店である。
団体が退店したところで客はわれわれ3人のみ。
キリンラガーとウーロン茶で乾杯。
新規参入者はクルマのため飲めないのだ。

焼き豚、焼き餃子、かに玉、五目うま煮を通す。
いずれの料理も昔のまんま。
東京のそれとは違う、横浜中華の味がする。
仲良しの2人が放つ速射砲のような会話を
聞くともなしに聞きながら紹興酒をちびちび飲っていた。

滞空時時間は1時間と少々。
西のかた、平塚方面へ帰る新参を駅へ送り、
残された2人は仕上げに掛かった。
それにしてもさすがに横浜、
キリン、キリン、キリンのオンパレードだ。
NHKでもあるまいし、どこへ行っても”麒麟がくる”。

よおし、こうなったら毒食わば皿まで、
あいや、キリン飲まば直営店まで・・・ってゆうかァ、
単に桜木町駅改札の横にあっただけなんだけど、
とにかく敵の本陣「Kirin-City 」へ討ち入りを敢行。
討ち入ってはみたものの、キリンビールはもうたくさん。
ハードシードルってヤツを1杯引っ掛け、
この夜はお開きとした次第なり。
昼から数えて6軒もめぐり、
さしものJ.C.、ちかれたビ~!

 「ホームベース ぴおシティ桜木町店」 
 神奈川県横浜市中区桜木町1-1 ぴおシティB2
 045-224-4882

「萬福」
 神奈川県横浜市中区宮川町2-20
 045-241-7845

「Kirin City CIAL桜木町」
 神奈川県横浜市中区桜木町1-1
 045-227-5216

2020年2月18日火曜日

第2331話 3年ぶりのキトキト酒場 (その2)

「立呑み 龍馬」では中ジョッキを1杯づつ飲んだだけ。
それもあわてふためいたものだから
ビールを飲んだ気がまったくしない。
一方の「根岸家」のビールはキリン一色。
一番搾りの中瓶を選択した。

見なれた店内をあらためて見回し、ふと思う。
当店の設いは大塚の名店「江戸一」によく似ている。
コの字形カウンターは一回り小ぶりだが
そのぶん「江戸一」にはないテーブル席を備え、
左手の通路半ばにトイレがあり、
奥の大部屋との位置関係もまったく同じ。
うがった見方をすれば、「根岸家」は
「江戸一」のレイアウトを模倣したのではないか?
だからって、どうということはないがネ。

多彩な刺身の品揃えは広く浅い仕入れによるため、
話に夢中になって油断していると、
正面上方に並ぶ品札はたちまち裏にされ、
これが売切れの合図。
こんなところも大塚の名店にクリソツなのだ。

ほうぼう刺し、いわし刺し、ずわい蟹酢。
ファースト・ラウンドの注文は以上。
何はともあれ、生モノから抑えてゆくのが
当店の流儀・・・ではけっしてなくて
利用客の賢い傾向と対策なのである。
いい歳こいて今さら受験生時代の繰り返しとは
実に難儀なこっちゃ!

ほうぼう良し、いわしさらに良し。
ところが蟹はポン酢のぶっかけ過ぎで
素材の持ち味がスポイルされてしまい、残念な結果に―。
いわしの品札が真っ先に裏返された。
危ない、アブナい。

高清水の燗に移行した。
一緒に蛍いかわさを追加。
さば刺身を見つけ、女将に〆さばではなく、
刺身であることを確認したうえで注文。
さばは包丁を握る人間が
よほど鮮度に自信がないと、刺身にされない。

団体客が続々と詰めかけてしばらく。
奥から騒音がもれ聞こえてきた。
トイレのついでにのぞいてみたら
座敷に2組のグループがびっしりと
東アフリカに大発生するバッタの如し。

かたや、若いリーマン&OLの男女混合。
こなた、オッサンばかりのオス・オンリー。
余計なお世話ながら、こんな宴会を催すのに
わざわざ「根岸家」を使わなくてもいいんじゃないの。
まっ、このあたりが東神奈川と大塚の差と言えば差。
ざわめきを背中に聞きながらわれわれ二人、
横浜の浅草、野毛の街へ向かいましたとサ

「根岸家」
 神奈川県横浜市神奈川区東神奈川1-10-1
 045-451-0700

2020年2月17日月曜日

第2330話 3年ぶりのキトキト酒場 (その1)

大田区・大森町をあとにして
この日も早仕掛けの昼下がり飲み。
京浜急行の各駅停車に乗って
神奈川県横浜市・新子安にやって来た。

どこか酒場が開いていれば、
軽く1杯の腹積もりだったが
「M」は定休日、「A」と「K」は支度中で全滅。
儚い夢破れて目的地の東神奈川に向かった。
JRなら東神奈川だけれど、京急だと仲木戸。
隣接する二つの駅前にサカナの楽園「根岸家」がある。
キトキト鮮度が自慢の海鮮酒場は3年ぶりだ。

16時の開店を前に相方と合流したのは15時半。
このままボーッと馬鹿ヅラして
30分も待ってたらチコちゃんに叱られる。
店先に客の列もないことだし、
この様子なら大丈夫とタカをくくり、
駅同士の改札を結ぶ2階通路脇にある「立呑み 龍馬」へ。
新宿の歌舞伎町にも系列店を持つ店だ。

スーパードライの中ジョッキをガチンと合わせた。
おい、おい、ちょっと待てヨ、ここはキリン生麦工場と
キリン発祥の地・横浜の中間だぜ。
言わばキリンの牙城で堂々とアサヒを飲ませる、
店側の心意気にもう一度乾杯!

「龍馬」の名物は串揚げだが
このあと新鮮なサカナたちが待っている
つまみは葉わさび漬だけで勘弁願おう。
店の掛け時計が15時45分を指し、
表へ出て「根岸家」の店先を遠望すると、
ヤッベエ! 行列が出来ちまってる。
遠目にも10人は確認できた。

のんびり屋の相方を急かして
ジョッキに残ったビールを飲ませ、緊急移動。
列の最後尾に着いたとき、われわれは13番目だった。
開店前から並ぶ客はすべてカウンター狙い。
記憶をたどると「根岸家」のカウンターは確か14席だ。
どうにか滑り込みセーフと思われた。

ほどなく暖簾が出されて一同、順次店内へ。
図らずも女将にテーブル席を促されたが
素直に従うJ.C.ではない。
両手を合わせて拝み倒した。

当店はカウンターでなければ魅力半減。
あとから来る常連のために
数席の余裕を残したい気持ちはよく判る。
だけど、こちらもはるばる多摩川を越えて来たのだ。
気持ちは通ってわれら二人、
コの字形カウンターのカドカドに陣を取ることができた。
ふ~ぅ、やれやれ。

=つづく=

「立呑み 龍馬」
 神奈川県横浜市神奈川区東神奈川1-12-5
 リーデンスフォート横浜2F
 045-453-3588

2020年2月14日金曜日

第2329話 大森町の珈琲れすとらん

京急本線・大森町駅周辺で飲み食いしたことがない。
品川から向かえば、一つ手前の平和島で
小学生時代の大半を過ごしたのに
無縁の土地柄なのである。
これはひとえに晩酌していないからで
大人であれば当然、飲み歩いていたハズの場所だ。
その日は昼めしを食べるために赴いた。

JR京浜東北線・大森駅から遠回りして行く。
懐かしの美原通り(旧東海道)から
産業道路と第一京浜をまとめて西へ横断。
大森町駅前から続く共栄会商店街を流す。
候補店は2軒あり、
日本そば「もりいろ」と洋食「しらはま」。
前者の暖簾は出ていたが後者は最近、閉業した様子だ。

日本そばの気分じゃないなァと思いつつ、
なおも歩を進めると、
商店街がほぼ尽き果てて桜新道に達する手前、
”厳選とんかつ”の袖看板が目に入った。
「珈琲れすとらん 高柳」とあるから
コンセプトは喫茶&御食事なのだろう。

ガラス越しにうかがうと家族連れで賑わっている。
地元民に愛される店ならまず安心だ。
店頭のメニューにサッと目を通し、
ちゅうちょせず入店した。
定食仕立てのラインナップを紹介してみよう。

ロースカツ、ヒレカツ、ハンバーグ、
牛ランプ照り焼き丼、欧風ビーフシチュー、
ポークステーキ =以上900円=
ロース生姜焼き、ロースカツカレー =以上850円=
スペシャルサーロインステーキ =1300円=
 本日のおすすめランチ
ヒレカツ&さわらフライ)=900円=

メニューは全品写真付き。
付合わせの温野菜が決め手となって
ポークステーキを半ライスで通した。
ソテーでもチョップでもなくステーキの表記が珍しい。
料理が整ったところでビールの中瓶をお願いする。
神奈川県に隣接する大田区だが銘柄はアサヒだった。

豚ロースはそこそこのポーション。
和風オリジナルソースがかなり甘めで感心しない。
ただ、肉質はよいから辛子を使って旨さ倍増。
にんじん・ブロッコリー・じゃが芋の温野菜は
ビールの友として繊切りキャベツよりありがたい。

油揚げ・豆腐・白菜の味噌汁は出汁がやさしい。
刻んだ白菜漬けに小さな柚子皮1片と、芸が細かい。
食後のコーヒーは1杯100円。
店名に謳うだけあってこれも味わい深い。

初老のシェフに中年女性と若い娘のスリー・オペ。
安くて美味しいため、13時半を過ぎても客足が絶えず、
地元密着度の高さが手に取るように伝わってくる。
あえて遠方から出向くほどではないにせよ、
行ってみようと思われる方は
月・火・水が定休日なので、ご注意あられたし。

「珈琲れすとらん 高柳」
 東京都大田区大森西5-1-4
 03-6404-8223