2020年3月31日火曜日

第2361話 肩透かしの締めくくり (その2)

大好きな志村けんが死んじゃった。
このつまんねェ国で一番面白い、
最高のコメディアンが死んじゃった。
ただ、ただ、悲しい。

涙を拭いて昨日のつづき。
中央区・日本橋人形町の「そらいち」。
ビーフやポークのカツに添えられるマカロニサラダを
単品のつまみとしてお願いしたら、驚くほどドッサリ。
イタリア料理店における、
パスタのハーフポーションくらいはあった。
こんなには食えないだろうヨ。
思いつつもフォークを手に取った

ん? んん? マンマ・ミーア!
あまりの衝撃に愕然とする。
これは先代・外吉さんの作るマカロニサラダではない。
どこでどう間違ったか、まったくの別物だ。
下ごしらえ不十分でコク味に欠け、奥行きもない。

これは偶然ではなかろう。
明らかにレシピが変わっている。
女性シェフには悪いけれど、これならJ.C.のほうが
貴女のパパ、外吉さんにずっと近いモノが作れるヨ。

先月は「キラク」でビーフカツだったから
同じ看板料理を食べ比べる策もあったが
牛肉より豚肉を好むタチゆえ、
つまみのポークカツ・ハーフ(650円)にした。
加えてミニカレーソース(350円)というのを。

そうしておいてなおもマカサラに挑んだものの、
道半ばでォークがピタッと止まる。
どうにも手が出ず、ギヴアップである。
ボクシングならTKO負けだネ。

分厚いとんかつが横行する昨今の流れに逆行する、
薄手のポークカツはサクッと軽い揚げ上がり。
これはビールにピッタリだ。
老舗ビヤホールで見かける紙カツほどではないにせよ、
ビールの友は薄いタイプがよろしい。
こういうカツレツを久しぶりにいただいた

カレーソースは肉感薄めのキーマカレーといったふう。
使われてるのは豚挽き肉で野菜は見当たらない。
箸休めにはよくとも、あまり魅力を感じぬ一鉢だ。
カツとカレーをつまんだ結果、
1日限定10食のカツカレーは推して知るべし。

隣りの若者二人組のポークソテーが整った。
二人ともニンニク入りのオーダーだったから
いい匂いが押し寄せてくる。
「そよいち」も「キラク」も
ビーフカツとポークソテーが二枚看板なのである。

肩透かし気味の締めくくりに終わった今宵ながら
しばらくしたら、アイ・シャル・レターン!
その際はハーフ提供のないポークソテーを
フルポーションでやっつけまっせ!

「そよいち」
 東京都中央区日本橋人形町1-9-6
 03-3666-9993

2020年3月30日月曜日

第2360話 肩透かしの締めくくり (その1)

立ち飲み酒場「ますらお」をあとに永代通りを西へ進む。
永代橋を渡りながら前方を見やると、
右手に豊海橋の白い橋梁が鮮やか。
この二つの橋の位置関係は此処より上流にある、
両国橋と柳橋のそれに瓜二つだ。

豊海橋の下を流れるのは日本橋川。
一方の柳橋の下は神田川。
2本の河川が袂を分かつのは東京ドームの南側。
それぞれにおのれのの流れるを定める、
この地点を人は水道橋と呼ぶ。

今日はよく歩いたが、とうとう締めくくりに到達。
人形町の洋食店「そよいち」である。
ひと月前に
第3333話 変わり果てたるビーフカツ
で同町の「キラク」を紹介した。
その「キラク」と源泉を同じくするのが「そよいち」だ。
いつからかポーション控えめの”酒の友メニュー”を導入。
夕食より晩酌に重きを置くJ.C.のような不届き者には
願ってもないアイデアで、この恩恵は大きい。

厨房で見覚えのある女性シェフが
白衣と三角巾に身を固めている。
この人こそが「キラク」の創始者・外吉氏の娘御だ。
彼女を支える接客係と調理補助は
男女ともにターコイス・ブルーのTシャツ姿だが
頭巾を被っていない。

選択肢がなく仕方なしにキリンラガーの中瓶を通す。
同時に名物のマカロニサラダ(500円)も―。
”酒の友”の吟味に入る前に
当店のグランドメニューをおさらいしておこう。

ビーフカツ―1900円(1150円)
ポークカツ―1750円(1050円)
ポークソテー―1900円 ハンバーグ―1250円
串カツ―1200円 ハヤシライス―1500円
=限定10食=
カツカレー―1200円 メンチカツ—1100円
カキフライ―1300円
( )内はハーフサイズ
全品豚汁付き ライスお替わり自由

良心的な価格設定といえよう。
あらためて”酒の友”に視線を移した。
ビーフカツ・ハーフは750円で
ポークカツ・ハーフは650円。
食事のハーフよりさらに安いのは
豚汁とライスが付かないからだ。
眺めているうちにマカロニサラダが運ばれる。
うわっ、こりゃまたスゴい量がきたもんだ。

=つづく=

2020年3月27日金曜日

第2359話 中継ぎは 鯛や平目の 舞踊り (その2)

下町随一の立ち飲み酒場「ますらお」にて
すだち欲しさに生搾りすだちサワーを所望したところ。
プレモルのロゴが入ったジョッキで運ばれた。
想像した通り、氷上で半割りすだちが溺れかかっている。
口からあぶくを吹き、息絶えだえの様子だ。
おっと、これはすだちのあぶくじゃなくて炭酸の泡でした。

すばやく箸でつまみ、すだちを水揚げする。
よお~く水気を切り、真鯛の上に搾りかけた。
これでわさびとはまた違った美味しい食べ方ができる。
おもむろに一箸つけて大きくうなづく。
もちろん、すだちサワーと相性の悪い道理がない。

やはり人気店、客足の伸びが鋭い。
15時半にならないのに入店者は20人近い。
ただし、その大半が若いカップルだ。
上から目線で申し訳ないが
この連中に生の本わさびの価値は判るまい。
おそらく、口にしたことすらないだろう。
まっ、ある意味、知らないことはシアワセなんだがネ。

真鯛とすだちサワーに満足して
サントリー知多のハイボールに切り替える。
このグレーン(穀類)ウイスキーは好きだ。
そうしてもう1品、同じ生モノから択ぼう。
本わさがなければ、ぶり刺しの線は消えた。
鰯のたたきの気分でもないし、
残るは平目薄造りか、かつお刺しとなる。

薄造りは当然ポン酢、かつおは生姜だろう。
生のニンニクが有ればかつお、無ければ平目。
そう心に決めて訊ねると、残念ながらニンニクは不在。
かつおはニンニクが無いと美味さ半減だからネ。
平目をお願いし、これにて今宵の独り宴席の余興は
鯛や平目の舞踊りに確定。

整った平目は薄造りというより薄めに切られた刺身だ。
包丁人も刺身を自覚してか、
真鯛と同様のあしらいに、くだんのエセわさび。
ここは甘さが気になるポン酢でしのぐほかなかった。
すだちはすっかり搾り切ったし、
そのためだけにサワーのお替わりは得策といえない。

代わりに知多ハイをお替わり。
ホールの奥のTVで横綱・白鵬の土俵入りが始まった。
白鵬は大好きな力士だが
昨日(13日目)の正代戦はヒドかったな。
張り差しは真っ当な技だけど、
あの張り手連発はいただけない。
横綱らしくないし、白鵬らしくもない。
朝青龍じゃないんだからサ、ったく。

エニウェイ、2時間後の朝乃山戦は見逃せないぞ。
そんなことを思いながら
知多ハイを飲み干してのお勘定は3390円でした。

「ますらお」
 東京都江東区富岡1-5-15 伊藤ビル 2F
 03-5809-8256

2020年3月26日木曜日

第2358話 中継ぎは 鯛や平目の 舞踊り (その1)

門仲を、というより、
深川を代表する立ち飲み酒場「ますらお」。
ほとんど休まないので呑み助にはまことに貴重な店だ。
去年の5月1日、いわゆる令和元年元日に
赴いてみたら珍しく休業していた。
そんなこともあって最後に訪れたのは一昨年2月。
その際の面子は三匹のオッサンだった。

当店は土日祝に限り、開店前倒しの15時スタート。
春分の日の本日は早い時間から飲めるのだ。
かなりの人気店につき、行列必至ながら
5分過ぎなら問題なかろうと、おっとり刀で引き戸を引いた。

案の定、すんなり入店できたが驚いたことにJ.C.が一番乗り。
カウンターに促される。
3時間半も歩いたのだ、ノドはカラッカラ。
ビールの美味さ倍増が保証されている。
保証されてはいるが生憎、ここの生はサントリー・プレモルで
瓶はキリン一番搾りときたひにゃ、キリンでいくしかない。
一番乗りが一番搾りに絞り込んだ瞬間である。

つまみは生モノに決めていた。
ラインナップは、平目薄造り、真鯛昆布〆糸造り、
鰯たたき、ぶり刺し、かつお刺しの5品。
平目とちょいと迷って真鯛をお願いした。

塩昆布と和えた真鯛の細切りに一箸つけると、
ふむ、いい塩梅の〆まり具合だ。
貝割れ・わかめ・穂じそが脇を固め、頂上にわさびがチョコン。
わさびの量が少なく、増量を頼む前に味わってみたら
ありゃりゃ、コイツはエセわさじゃないか!
此処は東京の立ち飲み酒場で唯一、本わさを貫く店だったハズ。
銀座の鮨屋で修業した店主の矜持が如実に表れていたのに
とうとう断念した様子だ。

コストがとてつもなく掛かるわりに
そこを理解して、ありがたく味わう客などほとんどおらん。
経営者としては耐え難く、バカバカしくてやってられん、
という気持ちになるのはよく判る。
判るけれども一流の料理人として
本わさ以外の使用はこれまた耐え難いこと。
結局、店主は料理人である前に経営者だったのだ。

真鯛にエセわさを使う気になれず、搾りを追加した。
いえ、一番搾りじゃなく、生搾りすだちサワーというのを―。
べつにすだちサワーが飲みたいわけじゃなかったが
すだちそのものが欲しかった。
それならすだちを1つ注文すれば済むことなれど、
高級鮨屋ならいざ知らず、
安価な酒場でルーティンにないものを求めるのは
はばかられるし、嫌われたりもするのだ。

=つづく=

2020年3月25日水曜日

第2357話 紺碧の空の下

ビールとザーサイと餃子を体内に注入し、
長距離散歩のスタートを切った。
目的地は江東区・門前仲町、かなりのディスタンスだ。
早いハナシが江戸川区と江東区をそれぞれ、
東西に横断、踏破することになる。
しかも門仲のあとは中央区・日本橋人形町、
途中でくじけぬよう、心してかからねば―。

中川&荒川に架かる清砂大橋経由で
永代通りを往くのが近道なれど、葛西橋を渡りたかった。
遠回りになるのも厭わず、葛西橋通りを択ぶ。
橋東詰手前で自然動物園を備えた、
江戸川区立行船公園に差し掛かる。
公園脇の日本そば店「ひまわり」で
すっぽんそばをいただいたのは昨年の2月だった。

風が強いものの、陽射しのおかげで肌寒さを感じない。
葛西橋を渡りながら見上げる空は真っ青。
早稲田大学の応援歌が耳朶にこだまし始めた。
し始めたが、つまらん歌詞につき、紹介を差し控える。

それにしても長い橋だが
大河をまとめて2本またぐのだから、さもありなん。
渡橋を終えてしばらく、
イオンのデッカいビルが見えてきた。
これさいわいと小用のお世話になる。

昼めしどきに液体をインプットすれば、
ほどなくアウトプットが誘発される。
これを世の人は自然現象と呼ぶ。
くだらねェこと書いてないで先へ進め! ってか?
へェ、ごもっとも。

その後、心なしか身体が軽くなり、
(たぶん600 cc、もとい、600gくらい)
葛西橋通りを外れ、イオンの裏手に回った。
ここで図らずも遭遇したのが
元八幡と仙家稲荷の旧い商店街である。

いやあ、いいねェ、いいですねェ。
古く良かりし面影がそこかしこに残っている。
永井荷風も歩んだという道筋を初めて歩く。
思いもよらぬ幸運に胸は弾み、心が躍った。
これだから町歩きはやめられないんだ。

江東区役所を抜け、東陽町の交差点で永代通りに―。
木場を経て門前仲町に到達したのが15時05分。
3時間半の長きを歩き通してきた。
呑み助にとっては門仲のランドマーク「魚三酒場」。
その脇の路地に入ってすぐ右手のビル2階へ。
都内屈指の立ち飲み酒場「ますらお」が此処にある。

2020年3月24日火曜日

第2356話 ビールと餃子で始まって

昼と夜の長さが同じになる日。
東京メトロ東西線を下車したのは葛西駅である。
ここは花の都の東の果て江戸川区。
葛西はそのまた果てで一駅先は千葉県・浦安市だ。

今日は歩きに歩くぞぉ!
心に誓い、歩行しやすい靴を履いて家を出た。
珍しくも玄関まで出張って見送る,
愛猫の頭をやさしく撫でてやってネ。
 
まずは軽く腹ごしらえといこう。
候補は二択。
既訪の「ちばき屋」で支那そばか、
未訪の「独一処餃子」で餃子だが
ストマック・キャパに余裕を残すため、
というか、ビールとの相性を考慮して後者を択んだ。

久方ぶりの葛西の町。
振り返ると、それでもかなりの回数来ている。
駅前の地下鉄博物館に入館したこともあるくらいだ。

5分歩いて「独一処餃子」に到着。

読みにくい屋号は”とくいっしょ”と音ずる。
間違ったらゴメンだけど、中国語で
”旨い餃子が喰える唯一の場所”といった意味だろうか?

1階のカウンターに着座し、
スーパードライの中瓶と焼餃子を通す。

ビールと一緒にサービスのザーサイが運ばれた
こういう心遣いはうれしい。
焼き餃子は時間がかかるため、
下手を打つとビールがなくなっちゃうんだ。

 1人前5カンの餃子は皮が厚めのもっちりタイプ。
下味の塩気が強いのでそのままか生酢のみが合う。
辛党なら辣油を足してもいいが醤油は要らない。
ふ~む、この餃子がねェ・・・。
葛西の町では「ちばき屋」の支那そばに並び、
人気番付の双璧と聞いたんだがなァ・・・。
J.C.的には「ちばき屋」に軍配である。
むろん、軍配差し違えなどあろうはずがない。
 
カウンターの隣りに座ったアンちゃんが
炒飯に加え、サービス料理というのを注文。
ん? サービス料理って何だい?
見回すと壁に貼り紙があった。

何でも週替わりで料理が1品、半額となるサービス。
今週のスパイシーチキンは税別600円とあった。
興味を抱いてアンちゃんともども出来上がり待った。
登場したのはバッチリ鷹の爪がブチ込まれた、
鶏肉の炒めものだった。

目の前の厨房で立ち働くのは♂2、♀1の計3人。
キビキビとした動きで、みな本場の出身らしい。
レジ係のオジさんはたぶん店長だろう、
この人も中国人で、とても丁寧な言葉遣い。
1078円を支払い、気持ちよく店を出た

「独一処餃子 葛西本店」
 東京都江戸川区中葛西3-33-19
 03-3878-0319