2020年4月30日木曜日

第2383話 一豚を追うものは一羽をも得たり (その1)

自粛要請が出る以前から日曜にはあまり出掛けなかった。
休肝日ではなくとも休養日なのだ。
前日の土曜が悪天候で終日引きこもったため、
この日はランチ&散歩のささやかなお出掛けを敢行。

人混みを避けるため、人出の激減した都心に出た。
23区では荒川区と並んで感染者数の少ない千代田区を歩く。
まっ、こういう数字はあまり意味を持たないけどネ。
千代田区は人口が少なく密度も低いだけだから―。

メトロ千代田線を新御茶ノ水で下車。
靖国通りを神保町に向かう。
スポーツ用品店の多い道筋はみな自粛休業。
飲食店もほとんど休んでいた。

すずらん通りではロシアンとチャイニーズが
営業していたけれど、どちらも昼にはちと重い。
神保町の交差点を北に渡り、水道橋方面へ。

いつの間にか、この白山通り西側はラーメン屋だらけ。
それも捻りを加えたラーメンが目立つ。
かに・しじみ・オマール海老など、
独自の魚介で出汁をとっている。
でも、ラーメンの気分じゃないんだよネ

半年前、入店間際に若者グループに先を越され、
断念したシンガポール料理店は日曜営業を自粛中。
またしてもタイミングが合わない。
裏筋の錦華通りを駿河台下に戻ると、
人気店「エチオピア」を筆頭にカレー屋が何軒か営業中。
だが、カレーの気分じゃないんだよネ。

明治大学の脇を抜け、JR御茶ノ水駅に近づいた。
界隈は軒並み楽器店でかなりの店が開いている。
だけど、楽器は腹の足しにならない。
すると、興味惹かれる1軒に行き当たった。
立て看板のキャッチコピーに
 長崎発祥 おいしかとんかつ まずは食べてみんね
とあり、ふんじゃ入ってみんね と地下へ降りていった。

接客のオネエさんが券売機を指し示す。
先日の稲荷町「極」もそうだったが
近頃はとんかつ屋まで食券方式だ。
人出不足の解消と人件費の縮小、一石二鳥の神器ならぬ、
神機がこのボックス・マシーンなのだろう。

店内の貼り紙を見て気がついた。
当店はちゃんぽんで有名な「リンガーハット」の系列店
「とんかつ 濱かつ JR御茶の水店」は初耳なれど、
かなりの時間、歩き回った末のチェーン店は淋しい。
まっ、巷の状況が状況だから
めげずに食おうヨ、とんかつを―。

=つづく=

2020年4月29日水曜日

第2382話 旧東海道をゆく (その4)

鈴ヶ森刑場跡をあとに、なおも南へ。
旧東海道はここから美原通りの別称でも呼ばれる。
小学生時代、J.C.の家族はこの通りから
ちょいと入った横丁に暮らしていた。

使いに走らされる店々も、家族で観る映画館も
親父に連行されるパチンコ屋も、みな美原通り商店街。
思い出が詰まりに詰まったストリートなのだ。

美原通り北はほどなく環七にぶつかり、
この先、美原通り南となるが
本日はここで旧東海道の独り道中を終えた。
品川から一直線に歩けば、1時間少々の道のりだが
平行して走る京浜急行の駅周りを徘徊するため、
昼めし休憩を差し引いても3時間半は歩いた。

きびすを返して向かったのはJR京浜東北線・大森駅。
地域の人気居酒屋は2軒3店。
うち1軒の「富士川」は自粛休業。
一方の「蔦八」はすぐ側の支店ともども時短営業。
方針はそれぞれながら、自粛する店が圧倒的に多い。

これまた、あらかじめ営業を確認済みの「喜楽」へ。
大森最古の町中華がここ。
初めて訪れたのは驚くなかれ、60年前の1960年。
母親と二人でラーメンをすすった。
長いこと、もやしそばだと思い込んでいたが
ラーメンと気づいたのはずっとあと。
「喜楽」のラーメンはもやし入りなのだ。
今は無き「喜楽飯店」の流れを汲む、
渋谷「喜楽」、大井町「永楽」も、もやしを踏襲している。

懐旧に心揺れながらスーパードライをトクトク。
一気に飲み干してさらにトクトク。
一拍置いたところで、きゅうりをポリッ。
お通しがきゅうりと大根のぬか漬けだった。
そうして焼き餃子を通すと、
やや大きめの6カン付けはごくフツーの美味しさ

紹興酒に切り替える。
塔牌花彫陳五年を常温で1合。
同時に腸詰を注文すると、これが花マルの大当たり。
軽く熱を通した腸詰もけっこうながら
芯を抜いて薄くそぎ切りにした長ねぎとのコンビが絶妙だ。

辛味噌が添えられたが練り辛子も欲しくなる。
でも、店主の目指す方向を修正するようで
言い出すことができなかった。

懐かしのラーメンを彩るのは
もも肉チャーシュー、味玉半個に加え、
当店の二大特徴、もやし&焦がしねぎ。
個性的な醤油スープにほぼ真っ直ぐの中太麺。
周囲を見ていると、客のほとんどがラーメンで締めている。

感心したのは全卓に完備されたティッシュボックス。
箱が空になると、すかさずオネエさんが差し替える。
需給の逼迫はすでに解消されたとはいえ、エラいねェ。
ローマ五輪の年からずっと、
大森はいい町で「喜楽」はいい店なのサ。

=おしまい=

「喜楽」
 東京都大田区大森北1-7-4
 03-3761-9659

2020年4月28日火曜日

第2381話 旧東海道をゆく (その3)

鮫洲を通り抜け、立会川に達した。
江戸市内には珍しく坂本龍馬ゆかりの町だ。
この地に土佐藩の下屋敷があり、
外敵に備えて砲台が設置され、
龍馬はその警備に当たっていた。

ここで旧東海道をはずれ、
近くの児童遊園にドヤ顔で屹立する、
ブロンズ像の龍馬の前にしばし佇む。

その後、街道へは戻らず、立会川沿いを上流へ。
友人で馬主の半チャンに教わった、
焼きとん「鳥勝」が川のほとりで時短営業の様子。
小汚ない内観にボロボロの品札が独特の雰囲気を醸し、
呑み助をやさしく包み込む佳店だ。

壁の貼り紙が笑わせる。
トイレは店内のを使え。
帰り掛けに近所で立ちションすると罰金5千円だゾ!
ハハハ、まったくその通り。
開店まで待つわけにもいかず、心を残して立ち去った。

ほとんどが暗渠化された立会川は
目黒区にある碑文谷公園の碑文谷池と
清水池公園の清水池を水源とする河川。
4年前の死体遺棄事件で一躍脚光を浴びた、
碑文谷池の名を覚えておられる方も多かろう。

立会川の最下流に架かる浜川橋を渡る。
別名は涙橋。
かつて、この先に鈴ヶ森刑場があり、
科人にとって橋上は今生の別れ、
身内とも最後の別れ、涙にくれる場所だった。
名の由来は千住にあった小塚原刑場の泪橋と同じ。
鈴ヶ森、小塚原に八王子の大和田刑場を加え、
江戸三大刑場と称した。

その鈴ヶ森刑場跡に到着。
開場は1651年、これまた小塚原と同じだ。
同年、由比正雪の乱に加担した罪で
磔(はりつけ)にされた槍の達人、
丸橋忠弥が処刑第1号とされるが
捕縛の際に殺害されており、
亡骸を運び込んで晒したというのが実状らしい。

その32年後、放火の罪で生きたまま、
火炙りの刑に処せられたのが八百屋お七。
ときに番茶も出花を迎える前の15歳だった。
ほかには平井権八(芝居の上では白井権八)や
白子屋お熊(同・城木屋お駒)、
天一坊などが刑場の露と消えている。

往時は目の前に江戸湾を臨んだ鈴ヶ森。
磔、火炙りのみならず、他の刑場では類をみない、
水磔(すいたく)も執行されていたという。
波打ち際に逆さ吊りにした罪人を
満潮の海水で絶命させるのが水磔。
徳川幕府の仕置きはかくもむごいものだった。

=つづく=

2020年4月27日月曜日

第2380話 旧東海道をゆく (その2)

旧東海道沿い、南品川2丁目の「ティンカーベル」にいる。
ティンカー・ベルというのは
「ピーターパン」に登場するピクシー(妖精)のこと。
都の自粛要請に対し、J.C.なりに応えたつもりだ。
要請に対しては妖精でネ。

日替わり2番はスープで始まった。
砕いたクラッカーとパセポンの浮かぶ、
ポタージュはコーンクリーム。
量もしっかりあって造り手の律儀さと誠意を感じる。
今どきの洋食店における、
おざなりな化学コンソメとは比べるべくもない。

メインプレートが整った。
同時に運ばれたパン皿には
バターロール1個とバゲット1切れ。
この組合わせでよみがえるのは昔のホテルの結婚披露宴。
フランス料理のコースは常にこれだった。
しばらくフルコースの婚礼に出席していないけれど、
今もそう変わらないだろう。

サーモンムニエルにはたっぷりのガーリックスライス。
魚介料理にニンニクは珍しいが
ブイヤベースのアイオリには生で使われるからネ。
ただし、火の通しが浅く、
ステーキに添えられる、ガーリックチップとは異なる。
レモン醤油仕立てでパンよりライスが合いそうだ。

カニクリコロッケはコロモのガシガシ感が気になった。
これを避けるには揚げる直前にパン粉を付けるしかない。
タルタルソースの力を借りながら食べ進む。

ガルニのサラダは、レタス・キャベツ・きゅうり・
トマトと、野菜ふんだんながら
胡麻ドレッシングが洋食らしくない。
サーモンのレモン醤油といい、
年配客の嗜好に歩み寄る姿勢が見てとれる。
アメリカンに近いコーヒーを飲み、
1100円を支払い、なおも旧東海道を南下した。

青物横丁を過ぎ、鮫洲のちょい手前で
いつか立ち飲んだ、角打ち「飯田屋酒店」が健在。
あれはいつだったか・・・。
例によって、あとで調べたら2010年7月のこと。

ついでにもっと調べたら何とこの7月、
31日間に訪れた角打ち酒屋は
雑誌の取材もあって実に38軒。
北は西新井大師から南は鎌倉に及んでいる。

大師さまや大仏さまのお膝元で
さんざっぱら飲んでおきながらバチも当たらず、
肝硬変を患うこともなかった。
わが健肝と悪運に改めて乾杯!

「ティンカーベル」
 東京都品川区南品川2-17-27
 03-3458-9424

2020年4月24日金曜日

第2379話 旧東海道をゆく (その1)

この日も歩いたんどっせ。
いい歳こいてテクテク、テクテク、せっせ、せっせと―。
スタート地点はマンモス・ステーション化されて久しい品川駅。
何度も書いているが
この駅は品川区ではなく港区に存在する。

今や新幹線をも停める駅をあとに進路を南に取った。
今日は旧東海道をゆくつもり。
八ツ山橋を渡ったところで
第一京浜に別れを告げ、意中の街道に入る。

この界隈は北品川1丁目。
最寄り駅も京浜急行で品川から一つ目の北品川だ。
勝手知ったる品川・大田区民、
あるいは川崎・横浜市民ならともかくも
他の道府県にお住まいの方で
ジェオグラフィーにうるさい方ならピンとくるハズ。
何だって品川の南に北品川があるんだヨ!
でしょ?

昔の役所がバカなのか、旧国鉄がアホなのか、
国鉄だって一種の役所だから
結局は薬局、昔の役人は
バカとアホとのみっくちゅじゅーちゅ。
まっ、これも何度も書いてるから先に進む。

新馬場で目黒川を南に渡り、南品川1丁目。
13時近くになってそろそろランチタイム。
緊急事態宣言後につき、
あらかじめ営業を電話確認しておいた洋食店へ。
旧東海道沿いの「ティンカーベル」は
新馬場と青物横丁の中間にある

薄暗い昭和チックな店内は8割の入り。
それぞれのテーブルはソーシャル・ディスタンスが
じゅうぶんに保たれている。
卓を埋めるのはすべて地元客、
それも徒歩圏内からと推測される。
グラスの赤ワインをたしなむ客も見受けられたが
柄にもなく自粛する気持ちが働き、麦酒をパスした。

卓上にはペッパーミル、クラフトのパルメザン、タバスコ、
シュガーポット、紙ナプキン、爪楊枝、いかにも昭和だ。
メニューを手に取ったものの、
単品ものに惹かれる料理とてなく、日替わり2番を通した。
サーモンムニエルとカニクリームコロッケの盛合せで
パンor ライスはパンを択んだ。
ちなみに日替わり1番はジャンボメンチカツ。
昼めしにジャンボなメンチは重過ぎるよネ。

=つづく= 

2020年4月23日木曜日

第2378話 豚とキャベツがてんこ盛り

先日、この店の回鍋肉を食べに来ていながら
隣りのとんかつ屋に浮気してしまった。
そのたたりだろうか、
二豚を追って一豚さえ得ること能わず、
深く反省したのだった。

あらためて仕切り直しの稲荷町「福来軒」。
接客の明るいオネエさんに
「いらっしゃいませ~、お好きな席にどうぞ!」―
ゲンキよく迎えられた。

店内は四人掛けのテーブルが6卓。
混み合えば相席となろうが取り合えず一人で卓を占有する。
回鍋肉定食(950円)をお願いすると、彼女が厨房に叫んだ。
「ホイコでぇ~す!」

当店の二大名物はこのホイコと麻婆豆腐。
麻婆豆腐は二種類あり、スタンダードに本格四川。
定食仕立たては前者が900円、後者は1200円。
サラリーマンに3割3分3厘増しの1200円はちと厳しい。
よって、本格四川はそれほど注文が入らない。

エニウェイ、マイ・ホーコが無事ランディング。
オー・ジーザス!
んなにデカかったかな、大きめの皿にてんこ盛りである。
それも豚バラ肉とキャベツのみで色合い的に殺風景。
やはりピーマンの緑がないと淋しい。

存在感あふれる豚バラは朝鮮焼肉店のカルビにそっくり。
縦4センチ、横5センチ、
厚みも一般的な生姜焼きの倍はあろう。
食べ始める前に数えてみたら11枚。
あっちはビーフ、こっちはポークの違いはあれど、
ボリュームは焼肉屋のカルビ2人前に等しい。
 
おまけにキャベツもスゴいや。
中型サイズの半玉近くはあるな。
ほかは中華スープの清湯と盛りのよいライス。
搾菜や辣白菜みたいな箸休めもないし、
ひたすら豚とキャベツの山に挑む。
いやはや、店によっちゃ食事は格闘技になるんだネ。
 
辛味は大したことなくとも油はギトギト。
これがボディブローのように効いてきた。
奮闘努力すること25分に及んだが
あと二口ほど残して無念のリタイア。
腹パンパンで、これじゃ晩めしは食えんゾ。
 
夢破れて山河あり。
胃袋破れて酸があふれり。
いや、危ないとこだった。
くわばら、くわばら。

「福来軒」
  東京都台東区松が谷1-4-5
  03-3841-3118

2020年4月22日水曜日

第2377話 生涯サイコーの焼き鳥

最終目的地の堀切菖蒲園にたどり着いておきながら
時間をつぶすため、隣りのお花茶屋に向かった。
ここには「ときわ食堂」があるから
ちょいとしたつまみで冷たいビールにありつこう。

ところがギッチョン、店は閉ざされていた。
都内各所といっても東部や北部中心だが
数多く散在する「ときわ食堂」。
この食堂は通し営業が利点だったハズなのに―。

すると、中から店主が出て来たじゃないか。
五反野「幸楽」のオバちゃんに続き、
今日は店先で店の人によく会う日だ。
おっとぉ、小菅の「そば新」もそうじゃないか。
オジサンが出前から帰って来たんだった。

それはそれとして「ときわ」の主人に
「お店が開くの何時ですか?」―訊ねると、
何も応えず、右の手のひらを押し出した。
いきなり突っ張りかァ? 
と思ったのは早とちり、5時というサインだった。

仕方なく駅方向へ戻る。
それにしても、お花茶屋という町は緑が多い。
「ときわ」の前も曳舟川親水公園。
子育てするには絶好で、呑ん兵衛が来る町じゃない。
酒呑みは堀切に帰るべし

そうして敷居をまたいだ「炭火焼き鳥 でん」。
カウンターはたった3席.その真ん中に陣取った
先客はいないし、後客もテーブルに着くだけで
カウンターには現れなかった。 

キリンラガー樽詰の中ジョッキとともに
串揚げ屋なんかでよく出るキャベツが運ばれる。
突き出し料は200円とのこと。
これって好きじゃないんだよねェ。
ウサギじゃないんだから、こんなんポリポリ食えないヨ。
と言いつつも、甘辛味噌が秀逸で2~3枚かじった。

焼き鳥屋のつまみメニューは概して貧弱。
気に染まるものは一つとしてナシ。
野菜焼きや豚バラ巻きにも興味はないから焼き鳥に絞る。
通したのは、ハツ(塩)、銀皮(塩)、レバー(たれ)、
つなぎ(たれ)、もも(塩)、つくね(たれ)の6串。

レバーによく似たつなぎがなかなか。
もも、つくねはデカ過ぎだが肉汁にあふれて旨し。
ヒドかったのが銀皮で、これは砂肝の周りの硬い皮だが
ほとんど歯が立たず、二度と口にしたくない。
串はいずれも120~180円、良心的な値付けではある。

ん? どこが生涯サイコーの焼き鳥なんだ! ってか?
これは大変失礼、説明不足で自分が悪くありました。
ハナから漢字にしとけば、判っていただけたんですけれど
当店の銀皮は生涯最高でなくて、生涯最硬だったのでした

「炭火焼き鳥 でん」
 東京都葛飾区堀切4-57-15
 03-6662-7530

2020年4月21日火曜日

第2376話 3密避けて 歩け歩け!

「そば新」をあとにして、さあ、歩こう。
密閉・密集・密接の壇蜜を、もとい、
3密を避けるにはあまり人の集まらない、
オープンエアの屋外を歩くのが一番。
大金持ちでもない限り、
日本の家屋にこもれば密閉を免れないからネ。
 
それはともかく3番目の"密"。
密接という言葉には違和感を覚える。
密接は”密接な関係”という使い方をするように
フィジカルにとどまらずメンタル、
さらにはサイコロジカルな意味合いをも含む。
ここは密接ではなく密着が正しい。
ポチ一強下における政治家と官僚が
この程度の日本語すら理解し得ていない証しだ。

連中にはもうちょいと勉強してもらって当方はお散歩。
小菅駅方面に戻り、拘置所の塀を一めぐりするか―。
裏手の堀端は野生の生き物が多く、散策して楽しい。
とは思ったが東京スカイツリーラインで一つ先の五反野へ。
五反田じゃないヨ、五反野だヨ。

駅の北側と南側を行ったり来たり。
馴染みのある居酒屋「幸楽」の店頭に立ち、
品書きに見入っていると、
たまたま中から出てきた店のオバちゃんに
「アラッ、いらっしゃい、どうぞ!」―
声掛けされて迷ったものの、燃料補給にはまだ早すぎる。
ここは愛想笑いでお茶を濁す。

晴れ渡る青空の下、進路を真東に取った。
綾瀬川を渡り、メトロ千代田線・綾瀬駅に到着。
駅前のイトーヨーカ堂で小用のお世話になり、
進行方向を南にチェンジした。

ほどなく古隅田川(ふるすみだがわ)に遭遇。
小さな流れの名前を初めて聞いた。
調べてみたら中川から枝分かれしたあと、
JR常磐線の南を並行して流れ、綾瀬川に注ぐ河川だった。
ほとんど暗渠になっているが
足立区・綾瀬と葛飾区・小菅の間の一部分のみ地表に出る。
細いせせらぎは親水公園さながら。
ちなみに浅草を流れる隅田川とは無関係。

川の手通りを南下して京成本線・堀切菖蒲園駅に―。
実はここに当夜のターゲット、
「炭火焼き鳥 でん」があるのだ。
ところが開店は17時だというのにまだ16時前。
この1時間をつぶすため、隣り駅のお花茶屋へ向かった。
時節柄、外出したらひたすら歩くが
脚と足がともに丈夫で本当によかった。
育ててくれた両親にあらためて感謝する次第なり。

2020年4月20日月曜日

第2375話 拘置所前に降り立った (その2)

出前帰りのオジさんのあとを
追うように入店した「そば新」。
接客のオバちゃんに四人掛けの卓を促されて
着席すると消毒用アルコールが運ばれる。
使ってみたらなんだかベタつく。
ラベルを確かめるとハンドジェルだった。
へえ~、近頃はジェルでっか。

常連らしきオッサンがキリンの大瓶を飲んでいる。
サッポロかアサヒなら楽勝だが
昼からキリンの大瓶はちとシンドい。
「ビールの小瓶あります?」
「お客さんが飲んだ気しないって言うんで大瓶なんです」
「銘柄はキリンだけ?」
「そうなんです」
「じゃ、それを―」
ビールのお供にきゅうりぬか漬けとたくあんの小皿が―。

つまみメニューは、おでん、もつ煮込みの2種のみ。
どちらにも食指が動かない。
こんなときはおかめそばである。
温かいそばの上に色とりどりの具材を並べ、
おかめの顔に見立てたのがおかめそば。
さして美味くはなくとも、おかめの顔が肴になるのだ。

どんぶりを持ち上げ、まずはそばをやっつける。
箸の上げ下げに伴い、おかめの顔は崩れに崩れ、
何かワケあってその夜帰宅できずに翌朝、
そのまま出社に及んだ化粧のノリ最悪なOLの如し。

とは言え、そばを手繰り終えたら
おかめそばがおかめ抜きに変身。
そば屋の抜きは好きなのに、昨今は提供する店が激減。
明治は、いえ、いえ、昭和は遠くなりにけり。

どんぶりの顔は厚めのかまぼこ3枚が幅を利かせ、
あとは、ナルト、油揚げ、伊達巻き、鶏肉、小松菜、麩。
気取った高級店ならこれに加えて
湯葉、竹の子、椎茸あたりがドヤ顔で浮かぶハズだ。

切盛りは夫婦二世代、計四人の様子。
釜場に老夫婦、娘夫婦は娘が接客、旦那は出前と調理補佐。
揃って楽しそうにその職責をはたしている。

庶民的な店の品書きをザッと紹介しておこう。
もり・かけ・中華もり各450円、
たぬき・きつね・中華そば各520円
千円以上は、天ざる1000円、
鍋焼きうどん・並天丼各1100円、
上天丼・うな重各1600円。
1600円のうな重はいったいどんなのが出て来るのだろう。

滞空45分で1310円を支払い、まぶし過ぎる表に出た。

「そば新」
 東京都足立区足立2-22-5
 03-3889-3194