2020年6月30日火曜日

第2426話 東京の東の果ての篠崎へ (その2)

江戸川区・篠崎の「オルターヴォラ」。
客は誰も居ない店内のカウンターに独り。
アンティに続いてスパゲッティが登場した。

ガーリック&唐辛子控えめのペペロンチーニには
黒オリーヴとケッパー(ケイパー、カープルに同じ)が
効果的に使われている。
ソースが乳化して本場のそれとは異なるものの、
これはこれでけっこう。
肝心の白身魚は一口食べてカレイの類と確信。
クセもケレンもないカレイは
いかように料理しても上品な仕上がりをもたらす。

ここでビールのお替わり。
メインは鶏胸肉のピカタだ。
ジャストの火の通しが適度な歯応えを残す。
ソースはコールドビーフ同様にバルサミコ・ベース。
添えものは新じゃがのローストと生のルッコラ。
おしなべてていねいなシゴトに好印象。

生クリームをあしらったラムレーズンのパウンドケーキと
エスプレッソではない、フツーのコーヒーで終了。
税込み2475円を支払い、ごちそうさまでした。

運動不足解消のため、本日は長距離散歩を敢行したい。
江戸川を渡り、千葉県・本八幡に越境するつもりである。
官のお許しも出たことだしサ。

東京と千葉を結ぶ幹線、京葉道路を東へしばらく、
江戸川大橋を渡らんとした。
ところがこいつは自動車専用の高速道路ときやがった。
歩行者どころかバイクも通ったら違反なんだと―。
事前に調べなかったせいながら、それにしてもなァ。

同じ江戸川だから当たり前だが
寅さん映画でおなじみの光景が眼前に拡がる。
河原に降り、はて、どうしたものよのぉ。

チャリンコを停めて談笑中の老夫婦に
歩いて渡れる橋は何処? と訊ねた。
上流の市川橋ははるか彼方、
下流の行徳橋が近くとも、かなりの距離があるとのこと。
礼を言って歩き出す。

ほどなく差し掛かったのはポニーランド、
子ども用の乗馬施設だ。
去年訪れた和泉多摩川にも似たようなのがあった。
ポニーにあまり興味はないものの、
その隣りにミニブタがいた。

2頭飼育されており、白いほうがつくね(60kg)、
黒いのはがんも(50kg)という哀れな名前だ。
食用となる家畜の豚は200~300kg に達するが
ミニは30kg からせいぜい100kg どまりらしい。
それなら人類と一緒だネ。

=つづく=

「クッチーナ オルターヴォラ」
 東京都江戸川区上篠崎4-29-6
 03-3670-9005

2020年6月29日月曜日

第2425話 東京の東の果ての篠崎へ (その1)

東京都23区の東のはずれは江戸川区・篠崎。
江戸風鈴と金魚が二枚看板の町に
野菜の美味しいイタリアンがあると聞いて出掛けた。
この時期だから前日に営業確認の電話を入れてネ。
篠崎の町は2年前の9月以来。
その折は時代劇の書割みたいな新町商店街の酒場で飲んだ。

都営新宿線・篠崎駅から北に歩くこと5分。
「オルターヴォラ」に到着して店主に迎えられる。
先客ナシにつき、カウンターでもテーブルでも
お好きなお席へとのことだが
常日頃、空席があればカウンターを選択している。

昼の献立は基本的に二択。
スペシャルランチコース(1250円+税)
ママ友・女子会プラン(1000円+税)

スペシャルはかくの如し。
前菜3種盛り 本日のパスタ メインディッシュ 
デザートw/コーヒーor 紅茶
一方のママ友・女子会は上記から前菜とメインを除いたもの。
何だ、それならスペシャルのほうが断然、得じゃないか、
と思われようが、代わりにソフトドリンクが飲み放題。
なるほどねェ、おしゃべりで長っ尻の女性には打ってつけだ。

ママ友でも女子会でもないからスペシャルでいくしかない。
と思いきや、女性のお一人様、そして男性もOKとのこと。
だけどサ、大の男がソフトドリンクなんぞ、
ガブガブ飲めるかってんだ。

「前菜と一緒にハートランドの生をお願いします」―
通しておいて待つこと10分足らず。
運ばれたアンティパスト・ミストは
かつおのたたき、コールドビーフ、グリーンサラダ。

かつおはカルパッチョよりも
皮目をあぶった、たたきのほうがうれしい。
和食のツマなら大葉にみょうがだろうが
ここではブロッコリースプラウト。
ビーフはバルサミコ酢のソースだ。
生ビールの良き合いの手になってくれ、
好スタートを切ることができた。

本日のパスタは三択ながら、すべてスパゲッティ。

A―白身魚とフレッシュトマトのペペロンチーニ
B―揚げ茄子のトマトソース
C―スモークチキンと水菜の和風バター

白身魚のラグーは大好き。
魚種を訊きもせず、Aを選択。
さかなクンには劣れども、魚の目利きは玄人はだし、
食べりゃ、すぐに判るしネ。

=つづく=

2020年6月26日金曜日

第2424話 オバちゃんたちの酢豚弁当 (その2)

上野と浅草の中間あたり。
昼めしどきの「ひょうたん」にいる。
隣りのオジさんが焼きじゃけの弁当を食べている。
ひょいと厨房の様子をうかがうと、
ここの献立はすべて弁当仕立て。
四角い弁当箱が不規則卍で四つに仕切られ、
一番広い仕切りにごはん、二番目に主菜というスタイル。

厨房のオバちゃんが中華鍋を力任せにあおってる。
酢豚弁当が2つ同時に出来上がり、1つはOLさんへ、
もう1つは目の前に着卓し、湯気を立てている。
副菜は
しらすおろし、なめたけ、じゃが芋の煮っころがし、
小冷奴、大根ぬか漬け、きゅうり青唐醤油漬け、
永谷園わさびふりかけ、
といった陣容に、わかめの味噌汁。

造り立てのなめたけが温かい。
冷奴には生姜と小ねぎも添えてある。
永谷園が苦笑を誘うが
いかにも女性の手になる弁当、温もりが伝わってくる。

惜しいのは肝心の酢豚だ。
醤油過多のため、相当しょっぱい。
酢豚は本国では糖錯肉塊と表記される。
英語ならスィート&サワー・ポーク。
だけどもこれはソルティ・ソーイ・ポークだヨ。

それはそれとして酢豚弁当で思い出すのは
倒叙式推理ドラマの秀作「警部補 古畑任三郎」。
犯人役が鹿賀丈史のエピソード、
「殺人特急」では酢豚弁当が重要な役割を担う。
もっとも酢豚そのものではなく、
空き箱と掛け紙をとじる紐の結び目がポイントだった。

数日後、同じ左衛門橋通りを今度は北へ向かい、
「ひょうたん」に差し掛かる。
居酒屋風という印象を抱いていたが
あらためて袖看板を確認すると、
「居酒屋 ひょうたん 酒・めし」とあった

通り過ぎてから、ふと思ってふり返る。
メニューボードが斜めに置かれて北東を向いており、
南から来ると、ふり向かなきゃ見えないのだ。
ハンバーグ   しょうが焼き   鯨竜田揚げ 
 焼き魚―さば・さわら
へえ~、鯨の竜田揚げがユニークだなァ。

この日はちょいとしたミスの処理のため、先を急ぐ身。
めしを食ってるヒマがない。
立ち去る頭の中に久保田早紀の歌声が流れ始める。

♪   あなたにとって私
  ただの通りすがり
  ちょっとふり向いて
  みただけの阿呆人  ♪

21歳の娘が作ったとはにわかに信じ難いほどの名曲が
「異邦人」でありましたネ。

「ひょうたん」
 東京都台東区東上野6-5-1 
  03-3841-5066

2020年6月25日木曜日

第2423話 オバちゃんたちの酢豚弁当 (その1)

台東区・松が谷で所用を済ませ、
左衛門橋通りを南下していた。
このまま真っ直ぐ行けば、隅田川へと注ぐ、
神田川の最下流から柳橋、浅草橋と数えて
三つ目の左衛門橋に達するが、そこまでは歩かない。

浅草通りに差し掛かる手前で
居酒屋風の和食店に目がとまった。
「ひょうたん」のランチメニューに惹かれたのだ。
ボードにはこうあった。

酢豚  800円
チキンカツ  800円
稚鮎唐揚げ  800円
焼き魚―しゃけ・ぶり  850円

焼き魚はしゃけとぶりの二択だから4種5品。
さて、どの献立に惹かれたのでしょうか?
聡明な読者のこと、もうお気づきですネ。
お察しの通り、稚鮎唐揚げでありました。

この時期に出回る稚鮎はほぼすべて琵琶湖の養殖もの。
スーパーになくとも
魚種を手広く扱う鮮魚店なら手に入る。
しかし、昼の定食に稚鮎という店は極めてまれだ。

時刻は12時45分、吸い込まれるように入店した。
先客はカウンターにオジさんが1人。
テーブルには単身のOLとリーマンの4人組。
オジさんとの間、1席空けてカウンターに着いた。

スタッフは接客1、調理2の3人でみんなオバちゃん。
男っ気皆無は意外だった。
接客のオバちゃんが壁のボードを差しながら
「鮎がたった今、売切れちゃいましてねェ」
ガッビ~ン!
口には出さず、心のうちで衝撃を受け止めた。
だけどサ、これじゃ
わざわざ「ひょうたん」の敷居をまたいだ意味がない。

国破れて山河あり。
夢破れて酢豚あり。
肩を落として酢豚を通した。

こののち4人組の支払いを見ていて知り得たが
ヤツラのうち2人までもが稚鮎を食ってやがった。
おい、おい、いい若いモンが
年寄り臭いモン食うんじゃないヨ。
年寄りが迷惑するじゃねェか、ったく。
へっ、この科白もまた、
心のうちでつぶやくだけにしておいたがネ。

=つづく=

2020年6月24日水曜日

第2422話 この夏 最初の冷やし中華

その日は食料買い出しのため、北千住へ。
マルイ地下の食遊館で鮮魚、精肉、ハーブ類の調達だが
その前に腹ごしらえである。
いつも駅周辺で済ませているので
たまには日光街道の向こう側、旧市街に赴くつもりだ。

街道を渡った直後、驟雨に見舞われる。
今来た商店街はアーケードだから濡れずに戻れるが
それじゃ面白くも何ともないし、しばらく雨宿りしようかな。

おう、目の前に中華「りんりん」があるじゃないの。
看板のラーメンと餃子を低価格で提供する当店は
北千住の良心といってよい。
近所のイタリアン「イル・ポルトローネ」で
ワインを飲んだあと、立ち寄ったのが3年前。
久方ぶりだし、この空模様じゃ即断するほかはない。

「りんりん」の難点はビールはもとより
酒類を置かないことだが、その理由はよく判る。
カウンター8席しかない店に
押し寄せる客はひっきりなし。
空気を読まずにビールをだらだら飲んでたひにゃ、
ノーマスクで電車に乗るようなもの。
周りから白い目の集中砲火を浴びる。

店頭に貼られた、冷やし中華のポスターが目に入った。
よおし、この夏初めて、イッたろうやないかい。
昼のピークを過ぎてるせいか、すんなりと席に着く
おや? 親父さんの姿が見えないゾ。
女将さんは相変わらず、てきぱきと餃子を包んでいる。
ほかにオネバさんとアンちゃん2人、計4人のオペだ。

決断した通り、冷やし中華をお願いした。
客が続々と入店して来てほとんどがラーメン・餃子。
何たって490円+260円=750円で食べられるからネ。
チェーン店の「日高屋」や「ふくしん」ならともかく、
個人経営の店舗としては破格の値付けだろう。

数人の後客に先を越されながら
ようやく冷やし中華が運ばれた。
あれれ、てっぺんにマヨネーズが搾られて
下にはレタス・きゅうり・ハムの配置。
いきなりマヨネーズなんて初めてじゃないかな。

麺のシコシコ、つゆの味付け、ともに悪くはないけれど、
いかんせん、マヨ&レタスが引っ掛かる。
ハムにしたって半月切りで細切りではない。

奇をてらわずに店の看板メニューを
素直にいただくのが一番と、あらためて確信。
頭を冷やして考えりゃ、当り前のハナシだ。
こうして冷静に振り返ることができたのも
冷やし中華が冷やしてくれたおかげでした。

「りんりん」
 東京都足立区千住中居町17-14
 03-3870-2187