2020年7月31日金曜日

第2449話 湘南・国府津の海を見に (その3)

JR東海道本線・国府津駅前の「餃子ショップ」。
四人掛けを独りで占有している。
中瓶とともにサービスの枝豆もやって来た。
ん? 冷えが甘いな。
いえ、枝豆じゃなくてビールの―。

タイトルロールの餃子(360円)を
頼まぬわけにゃいかんので
まずはお願いしておいて
壁にズラリ貼られた品書きを吟味する。

これからほかの町に移動する予定だから
麺・飯類に手を出すつもりは毛頭ない。
それにこの日は夕刻から神奈川県在住の友人と
帰り途の辻堂で酌交を約してもいた。
ストマックのスペースは
なるべく空けておかねばならない。

つまみメニューは、チャーシュー・ニラレバ・
野菜炒め・ハムエッグ・メンチカツ等々、
一般的なものが並んでいる。
その中でただ一つ、異彩を放つ料理があった。
豚バラ蒲焼き(530円)ってどんなんだ?

蒲焼きの元祖は言うまでもなくうなぎ。
それが、どぜう・なまずにも転じて
蒲焼きは川魚料理屋の十八番(おはこ)となった。
穴子や秋刀魚など、海水魚の例もあるにはあるが
肉系の蒲焼きは初めて見たヨ。
いや、気になるなァ。

あらためて見回すと、酒飲む客、飯食う客が半々。
地元に密着し、愛されている証しだろう。
もう一つの卓が空いたと思ったら
すぐに三人組の親子連れが入店して来た。
着席と同時に鶴ならぬ、パパの一声。
「餃子定食を三つお願いしまぁす!」

おい、おい、「餃子ショップ」だからって
みんなで餃子を頼まんでもいいんじゃないの。
個性に乏しい、つまんないファミリーになっちゃうぜ。
以後、彼等を”金太郎飴一家”と呼ぶことにする。

J.C.の餃子が着卓。
あれれ、コロコロ動いてるヨ。
ずんぐりむっくりが5カン、連結せずに離れ離れ。
おい、おい、昨今は
餃子までソーシャル・ディスタンシングかえ?
たまに見掛けるタイプなれど、珍しいっちゃ珍しい。

何も付けずにパクリとやって、ささやかな驚き。
意想外に旨い。
ニンニクの効いた餡は豚挽き・ニラ・キャベツの構成。
キャベツのシャキシャキ感が新鮮で
皮のモチモチ感とナイス・コラボを具現する。
こと、ここに及び、「餃子ショップ」の稚拙な店名を
赦す、赦す、J.C.は赦す。

=つづく=

2020年7月30日木曜日

第2448話 湘南・国府津の海を見に (その2)

湘南も国府津あたりは西湘と呼ばれるらしい。
まずは腹ごしらえと、
到着まもないプラットフォームから電話を入れたら
何たることか、「のんき亭」は本日より3連休。

二番手候補の「相仙」はいまだ呼べど応えず。
こちらは駅の真ん前だから改札を抜けて赴くと、
シャッターに貼り紙1枚。
昨秋に閉業したとのことだった。
電話は使われているので
店は閉めても誰かが棲んでいるらしい。

二球続けて空振り、追い込まれた。
取りあえず、売り切れたらコトだから
「相仙」の隣りの隣り、「東華軒」へ。
すると・・・狙い定めた、
あぶらぼうず伝説がソルド・アウト。
いや、まだこの時間だ、
売切れというよりハナから仕込んでないネ。
稀少なサカナゆえ、入荷ナシもありうる。

肩を落として仕方なく、
炙り金目と小鯵の押寿司(1350円)を購入した。
気分的には三球三振を喫したも同然。
何だよぉ、国府津が金田で、オイラ長嶋かァ。
それもそうだヨ、名称変われど、
国府津はJR、金田は国鉄だったもんネ。

とにかく昼めしを食わねば旅程は前に進まない。
「東華軒」のそのまた隣りに中華屋が1軒。
看板を見上げたら「餃子ショップ」とあり、
呆れるなかれ、それが店名だった。
これじゃダメじゃん。

身の振り方を思案しながら、
そのショップとやらを眺めていた。
おっ、OL風のオネバさんが入っていったゾ。
入れ替わりにオッサンが出て来た。

続いてジイさん&アンちゃんの二人連れが入店。
ふ~ん、けっこう繁盛してるじゃん。
国府津海岸で押寿司食うのもなんだし、
思い切って、いてまえ!

店内はカウンター8席、四人掛けが2卓。
7席と1卓が埋まり、残り1席でもよかったが
あまりに”密”になるせいか、
空いてる四人掛けに促された。
ビールはキリンラガーとアサヒスーパードライ。
好みの銘柄を発注に及んだ。

=つづく=

2020年7月29日水曜日

第2447話 湘南・国府津の海を見に (その1)

海の日&スポーツの日に絡んだ四連休の一日。
不意に海が見たくなって
上野東京ラインの熱海行きに乗り込んだ。

いや、べつに海を見るんだったら
近場の芝浦や葛西でもいいし、
横浜まで足を延ばせば、それで済むこと。
だけどねェ、われわれクラス(どんなクラスだ?)
似合う海となりゃ、やっぱ湘南でしょ。

湘南の海を超一流に祀り上げたのは
日活のタフガイと東宝の若大将、
この二人の貢献もさることながら、何たってサザンだ。

♪   砂まじりの茅ヶ崎 人も波も消えて
  夏の日の思い出は 
  ちょいと瞳の中に 消えたほどに ♪
  
♪   いつになれば湘南 恋人に逢えるの
  おたがいに身を寄せて 
  いっちまうよな瞳 からませて ♪

1978年、「勝手にシンドバッド」を引っ提げて
いきなり現れた彼らが日本列島に与えた衝撃は
COVID-19 に次ぐほどに大きいものがあった。
よって、あの年を湘南元年と呼んで何の差支えもない。

降り立ったのは茅ヶ崎の四つ先の国府津駅。
ここは神奈川県・小田原市だ。
国府津を択んだ理由は湘南の駅で一番海に近いから。
加えて以前、JR御殿場線に乗り換えた際、
トランジットはしたが周辺を歩いていなかったから。

国府津は東海道本線における駅弁発祥の地でもある。
1988年(明治21年)、駅構内で売られ始めた駅弁だが
調製元の「東華軒」が今も駅前に売店を構えている。

実はこの「東華軒」、
先日紹介した、あぶらぼうずの弁当を販売しており、
その名もあぶらぼうず伝説(1300円)。
小田原のソウルフードとまで銘打たれたら
あぶぼうファンのJ.C.は、ぜひ食べてみたかった。

12時02分、国府津到着。
昼めしの候補店として、うなぎ「のんき亭」と
海鮮料理「相仙」をマークしておいた。
東京を発つ前、それぞれに
営業確認の電話を入れたものの、
どちらもに呼び出し音鳴れど、応答はナシ。
まだ10時前とあっちゃ、さもありなんて―。

=つづく=

2020年7月28日火曜日

第2446話 駅前ビルの片隅に

先日、横浜からの友人と新橋で落ち合った際。
ハシゴを目論んだのは新橋駅前ビルの地下飲食街。
ついでに1階&2階も下見してあった。

そのとき1階の隅っこで見つけたのが
「とんかつまるや 新橋駅前本店」。
同じ1階のちょいと離れた場所に
「立呑み とんかつ まるや」というのもあった。 

上記2店は新橋店で近所の烏森口や汐留にもあり、
エリアの繁盛店と判明したが
ショップカードを見て驚いた。
新橋のみならず、丸の内・有楽町・霞が関・青山等々、
都心の一等地にチェーン展開していたのだ。

その事実を知る前に駅前ビルの本店を訪れた。
オープンキッチンL字と壁向き、
2本のカウンターのみでテーブル席はない。

13時過ぎの客入りは6割ほど。
ロースかつが一番人気の様子だ。
先人たちに倣い、ロースかつ定食(700円)と
サイドオーダーの梅しそ(100円)を通した。
だけど、何だってこんなに安いんだ。

15分で整った定食は
サイズそこそこのロースにこんもりキャベツ、
やや多めのライス、しじみ味噌汁、大根新香。
ライスと味噌汁はお替わり自由、キャベツの追加は100円。
こういう格安店が隆盛を極めていては
日本経済のデフレ脱却など、見果てぬ夢なり。

生パン粉使用のコロモはサックリ揚がって上々。
ロースの火の通しもジャストだ。
ところが豚肉の味と香りがしない。
カナダ産か米国産と推察されるが魅力に乏しい。

ソースをたっぷり掛け、辛子もたっぷり塗り、
どんぶりメシをガッツリ。
若いリーマンの明日への活力につながること請け合い。
でも、量より質のオッサンにはもの足りないんだ。
けして不味いわけじゃないがネ。
とにかくこの安さは庶民の強い味方。
大阪のらびちゃんじゃないけれど、
オヤジがネチネチ突っつくところじゃないわな。

しかしながら最後に一言。
サイドの梅しそがヒドかった。
メニューには梅干しの隣りにあったから
てっきり梅と一緒に漬けた赤しそかと思ったら
実際は既製の梅ペーストに鰹節を混ぜ込んだモノ。
一舐めして天ならぬ、天井を仰ぎ、
あとは放置のノー・タッチでありました。
 
「とんかつまるや 新橋駅前本店」
 東京都港区新橋2-20-5 新橋駅前ビル1号館
 03-3573-0318

2020年7月27日月曜日

第2445話 友、横浜より来たる (その2)

銀座の目抜き通り、
その名も銀座通り(中央通り)の7丁目角、
「ライオン銀座七丁目店」にて
極上の生ビールを楽しんでいる。
初訪が1969年だから通い始めて半世紀を超えた。

相方ともども空腹にほど遠い。
つまみを取らずに中ジョッキを2杯飲み、
1時間ほどの滞空でホールをあとにした。

夕暮れまで銀ブラをシャレこむかの?
いやちょいと待て、東京の街に不案内な友のため、
見知らぬ場所を案内してやりたくなった。
銀座は訪れる機会がいくらでもある。
てなこって、プチ東京見物のスタート。
はとバスならぬ、とほバスでネ。

銀座→東銀座→築地→勝どき→
月島→佃→越中島→門前仲町

と、移動して5kmほど歩いた。
この頃にはようやく陽も傾いて
何か食べる気になっていた。
とはいえ、まだ17時前、開いてる店は限られる。

向かったのは門仲のランドマーク「魚三酒場」の真裏。
小さなビルの2階にある、立ち飲み「ますらお」だ。
この三月、葛西の餃子に始まり、人形町の洋食で終わる、
食べ歩きの中継ぎで此処を利用した。
けして安い店ではないが
日比谷ミッドタウンの「三ぶん」みたいな高級店でもない。
酒類の取り揃えに多少の難あれど、料理は相当にイケる。

本日二度目の乾杯はキリン一番搾りの中瓶。
相談もせず、今日のオススメから勝手に見繕ったのは
真ごち刺し、かつお刺し、稚鮎天ぷらの3品。
そのいずれもが当たりだった。

繊細な白身の魅力にあふれるこち。
実際は刺身ではなく、たたきだったかつお。
おそらく琵琶湖産、養殖モノの稚鮎。
三者三様、舌の上に季節の風を吹かせてくれた。
相方も満足の様子で何よりだ。
サントリーのグレーンウイスキー、
知多のハイボールに切り替えて三陸の生がきを追加する。

1時間半ほど立ち飲み、近所の居酒屋に河岸替え。
ところが、この「M」がイケなかった。
ビールのアテの焼き鳥があんまりだった。
よって、詳細を省くことにする。

メトロ東西線に乗り、大手町で手を振って
当夜は早めのお開きといたしました。

「ライオン銀座七丁目店」
 東京都中央区銀座7-9-20
 03-3571-2590

「ますらお」
 東京都江東区富岡1-5-15
 03-5809-8256

2020年7月24日金曜日

第2444話 友、横浜より来たる (その1)

長いこと、友人・知人との飲食を控えてきたJ.C.も
ポツリポツリと解禁の兆しを見せている。
この日の相方は横浜からやって来た。
あいにくの雨模様、ぶらぶらせずに
新橋駅前ビル地下をハシゴする腹積もり。
新橋駅の地下改札で出迎えた。

♪   汽笛一声新橋を
  はや我汽車は離れたり
  愛宕の山に入り残る
  月を旅路の友として ♪
  (作詞:大和田建樹)

明治生まれの「鉄道唱歌」はウルトラロング・ソング。
その第一集・一番で新橋を発った我汽車は
五番で横浜駅に到着する。
日本初の鉄道は新橋―横浜間に敷かれた。
今日の相方はその走行区間を逆走してきたわけだ。

4ヶ月ぶりの再会につき、
すかさずグラスを合わせよう。
意気揚々と地下で連結するビルに入館したものの、
土曜のせいで開いてる店が少ない。
しかもまだ14時だもんねェ。

こんな時間から飲み始める不届き者が
1階に上がると、幸い雨も上がっていた。
新橋は言わずと知れた銀座の隣り街。
銀座となれば、服部時計店の時計塔に次ぐ、
街のランドマーク「ライオン 銀座七丁目店」が第一感。
サッポロライオン・グループの旗艦店に向かう

これが思わぬ効果を発揮した。
初訪問の相方は完全に雰囲気に飲まれている。
そりゃ、そうだろう、洋の東西を越えて
これだけのビヤホールはほかにない。
ミュンヘンの「ホフブロイ・ハウス」を凌駕し、
J.C.的には世界一、二を争うほどだと思う。

「スゴいねェ、いいなァ、素敵、ボンヤリしちゃう」
「ん? ボンヤリ? それを言うならウットリだろ」
「あっ、そうか!」
けして悪いヤツじゃないんだが
オツムはあんまりよくないネ。

サッポロ黒ラベルの中ジョッキをガッチンコ。
泡少なめのリクエストに
快く応えてもらってゴキゲンなり。
更にビール会社の直営店とあって
此処の<中>はヨソの<大>に匹敵する。
これがうれしい。

=つづく=

2020年7月23日木曜日

第2443話 思いがけない タルト・フレーズ (その2)

港区・赤坂の人気洋菓子店「しろたえ」。
2階の喫茶室に空席があったようで
すぐに案内されたが、その際に
「お好みのケーキは?」との質疑あり。

ケースの中をのぞきもしていなかったから
一瞬たじろいだものの、
最初に目に飛び込んだタルト・フレーズを指定する。
デッカいケーキは持て余すけど、
タルトなら食後にちょうどいい。

それはそれとして「しろたえ」はケーキを頼まねば、
お茶を飲めないのかな?
そんなことはなかろうが、とにかく頼んじまった。

フロアのテーブルは四人掛け4卓、二人掛け1卓。
空卓は二人掛けのみで、そこに案内される。
ブレンド、エスプレッソ、カフェオレと3種あるコーヒーから
エスプレッソを択んだ。

しばらくしてウエイトレスが
そろ~りそろ~りと歩み寄ってきた。
あらあら、デミタスカップに液体があふれそうだヨ。
いや、実際はすでにソーサーにこぼれていた。
日本酒居酒屋の冷や酒じゃあるまいし、
いっぱい、いっぱい、注がなくてもいいんじゃないの。

不思議なのは砂糖もクリームもないのに
なぜかデミタススプーンが付いてきた。
よくかき混ぜて飲め!ってことかな?
それほどジャマになるものでもないし、まっ、いいか。

一緒に運ばれたタルト・フレーズはとてもコンパクト。
京唄子(古いねェ~)みたいな大口の持ち主なら
一口でパクリといけそうながら
そこは上品なJ.C.、四口に分けました。
しっかし、食べにくいよなァ。

書き忘れたがフレーズは仏語で苺のこと。
日本で最もポピュラーな洋菓子、
苺のショートケーキを当店はガトー・フレーズと呼ぶ。
はす向かいの単身女性がソレをお替わりした。
ふむ、ケーキってビールみたいにお替わりするもんなんだ。
この歳になって初めて知ったヨ。

それにしても喫茶店とスイーツが大嫌いだった男が
今じゃコーヒー飲みつつ、苺のタルトを食らってる。
思いもかけず、人生の裏街道を歩いてる気分。
かつては寄りたい、食べたいと言い張る女たちを
却下し続けてきたのに、変われば変わるものよのぉ。

10分ほどの滞空で「しろたえ」の階段を降りると、外は小雨。
見附の駅へ急ぐ耳朶に今度はブルー・コメッツの歌声が―。

♪   小雨にしずむ 赤坂を
  あなたとふたり 歩いたね
  すねて泣いてた かわいいうそが 
  わかれ話の はじめとは
  赤坂 赤坂 ぼくはかなしい  ♪
      (作詞:橋本淳)

「雨の赤坂」のリリースは1968年のクリスマス当日。
あの頃の赤坂はまだ、クリスマスの似合う街だった。

「しろたえ」
 東京都港区赤坂4-1-4
 03-3586-9039

2020年7月22日水曜日

第2442話 思いがけない タルト・フレーズ (その1)

前世期と今世紀をまたぐ西暦2000年前後、
赤坂にはしょっちゅう来ていた。
それがここ数年はすっかりのお見限りである。

「河鹿」でランチを食べたあと、
せっかくなので昔よく歩いた、
みすじ通りから一ツ木通りを流してゆく。
ほどなく耳の奥からハスキーヴォイスが流れてきた。

♪   夜霧が流れる 一ツ木あたり
  冷たくかすんだ 街の灯よ
  虚ろなる心に たえずして
  涙ぐみひそかに 酔う酒よ
  身にしむ侘しさ しんみりと
  赤坂の夜は 更けゆく   ♪
   (作詞:鈴木道明)

西田佐知子が歌った「赤坂の夜は更けて」は
1965年10月のリリース。
島倉千代子との競作だったそうだが
千代子版は聞いたことがない。

西田佐知子という歌手は
その後の結婚&引退が惜しまれるほどに素敵だった。
夫君は「サンデー・モーニング」でお馴染みの関口宏。
どうでもいいことだが姉さん女房より四つも若い。

昼下がりなのに夜更けの赤坂の歌を聴きながら
ぶらぶらしていると、1軒の洋菓子店に差し掛かった。
過去、何度も前を通り過ぎた「しろたえ」は
人気度、知名度ともに赤坂で
断然トップのケーキ屋ではなかろうか。

店先にはいつも行列や人だかりが絶えないのに
この日はスッキリ、サッパリ。
不意に身体が反応して入店に及ぶ。
どうも考える前に行動が先立つ傾向があるんだ。
若い頃、大江健三郎を読み耽ったせいで
”見る前に跳ぶ”精神が培われてしまっているんだ。

実はこの店を通りかかるのは女性連れのときがほとんど。
彼女らは異口同音に此処のケーキを食べたがる。
そのたびになだめすかして素通りさせた女は数知れず。
というほどではないにせよ、幾人かいたことは確かなり。

スッキリとした店先とは裏腹に
店内は数人の客がショウーケースの前で
好みの菓子の選別に余念がなかった。
今日のJ.C.は2階の喫茶室に上がるつもり。
階段下にたたずみ、スタッフの案内を待っていた。

=つづく=

2020年7月21日火曜日

第2441話 菱形のカニクリコロ (その2)

港区・赤坂見附の洋食店「河鹿」のカウンターに独り。
4人組の会話がちょいと喧しいけれど、どうにか耐えている。
ほどなくAランチが整った。

それにしても接客のオネエさん。
フロア全体を独りでテキパキとこなすものの、
皿の出し入れが少々ザツ。
J.C.のプレートは繊切りキャベツが手前、
ハンバーグ&カニクリームコロッケは向こう側で
ソッポを向いていた。

自分で皿をクルリと回して思い出した。
そう、そう、此処のカニクリコロは
ありがちな俵形ではなく菱形。
ヨソではまずお目に掛からぬカタチだ。

一つづつ手で丸めず、
バットに仕込み、切り分けるのだろうが
それなら正方形か長方形になるハズ。
いったいどうやって成形するのか?
菱形ではロスも出るだろうし・・・。

そういうことは深く考えないようにしてパクリ。
蟹肉の姿見えずともほのかな風味は立ち上った。
格別ではないけれど、世の水準に達しており、
別段、不満はございません。

一方のハンバーグはごくフツー。
甘酸っぱいソースはデミグラスというよりケチャップ主体。
つけ合わせはキャベツのほかに
ケチャスパ・インゲン・パセリである。
ライスは柔らかめの炊き上がり。
豆腐・わかめの味噌汁は煮詰まってわかめがクタクタだ。

キッチンは男性の二人体制で中年のシェフに若い補佐。
個性的なシェフの容貌は
ジャン=ポール・ベルモンドとシルベスター・スタローンを
足して2で割ったかの如くだ。

ディナータイムのメニューも紹介しておこう。

アジフライ 930円  ヒレカツ 1100円
スペシャル(ハンバーグ・ヒレカツ・エビフライ)1350円
サーロインステーキ 1700円

以上が定食仕立てで、ほかには

ナポリタン 800円  オムライス 850円
ヒレステーキ S―2400円 L―3400円

といったラインナップ。
とにかく家賃がべらぼうに高い赤坂の一等地。
この値段をキープして生きながらえるのは至難の業だ。
多少ザツでもこまめにお冷やを注ぎ足しに来る、
ウエイトレスの横顔を見ながら
(コロナなんかに負けるなヨ)
そう励ましたくなったのでした。

「河鹿」
 東京都港区赤坂3-1-16
 03-3583-3434 

2020年7月20日月曜日

第2440話 菱形のカニクリコロ (その1)

まず最初に報告その1。
先週、煮つけたあぶらがれいは美味しくなかった。
あぶらぼうずの足元にも及ばず。

世の魚は あぶらとあぶらの 違いにて
ぼうずよくとも かれい駄目なり

10分以上煮てもなお、
身肉は締まらず、ゆるくだらしない。
総じてかれいは好きな魚種なれど、
あぶら&からすの兄弟はオススメしない。

次に報告その2。
大阪在住の小姑・らびちゃんより叱責のメール来信。
先日、鼻の穴はマスクから出すと書いたら

ネチネチ、ウンチクは省略して
デパートでも電車でも歩き道でも
家から一歩でたら、マスクはしておくれ!
 
だとサ。
そりゃ、アンタは歯科医だから
マスクはユニフォームみたいなもんだろうヨ。
 
気を取り直して、その日は所用のため、
午前中からマスクを着けて港区・赤坂見附へ。
仕掛けが早かったおかげで昼前には自由の身となった。
久々の赤坂、せっかくだから昼めしを食べていこう。

ファッションビルのベルビー赤坂が
ビックカメラに占領されて久しくも
その脇に古き良き洋食屋が生きながらえていた。
「河鹿(かじか」である。
店名はカジカガエルのことだと思われる。
 
つい、懐かしさに引きずり込まれて入店。
大テーブルを促されたがカウンターへ。
壁のメニューボードを見上げたら
以前とちっとも変わっちゃいない。
ランチメニューはかくの如し。
 
A―カニコロッケ・ハンバーグ
B―ミックスフライ(メカジキ・アジ・エビ)
C-ポークロース生姜焼き
D―ロースカツカレー
  ライス・味噌汁付き オール830円
 
多少の値上げはあっても献立は昔のまんま。
Aを通し、背後のTVを観るフリをして振り返り、
店内をチェックしたらば、席は八割方埋まっていた。
 
カレーの匂いがまったくしないので
Dを頼んだ客はいなさそう。
J.C.に続いて入ってきたマダムがナポリタンを注文。
さらにリーマン四人組が現れ、
店内はにわかにざわつき始めた。
何だよぉ、平井「とんとん」の二の舞かよぉ。
 
ハッキリ見たわけじゃないけど、
たぶん、うち三人はノー・マスク。
お~い、らびちゃん!
こういう連中には、どう対処したらいいんだァ?
 
=つづく=

2020年7月17日金曜日

第2439話 煮魚を語る

平井の「焼きどころ とんとん」で食した、
あぶらぼうずの煮つけに触発され、本話は煮魚のハナシ。
まず初めに主婦でも主夫でもバチェラーでも
キッチンに立つことを厭わぬ方々に進言したい。
焼き魚より断じて煮魚ですと―。

なぜか?
料理そのものが簡単、後片付けも簡単。
匂いがそんなに出ないし、脂まみれにもならない。
そして何よりも失敗が少ない。

サカナにそれぞれ個性はあれど、
ほとんどの場合、煮汁は水と醤油と日本酒と砂糖。
加えて生姜の切れ端、それだけである。
知り合いの料理人によれば、
味りんを使うとサカナの身が硬くなるそうだ。
以来、わが家から味りんが消えた

エッ、落とし蓋?
プロじゃないんだから、そんなの要らない。
アルミホイルがあれば、モア・ザン・イナッフだ。
そして必要不可欠なのが料理用タイマー。
100円ショップで買いましょう。

詳細なレシピはネットのお世話になっていただいて
よい機会につき、煮魚のマイ・ベスト5を紹介したい。
くだんのあぶらぼうずは
相当の美味ながら入手困難なので外した。

① かれい
② えい(かすべ)
③ 穴子
④ かさご
⑤ 皮はぎ
 次点:さんま

1位のかれいは何たって東のなめた、西のめいたが双璧。
ほかに真子、松皮、黒、赤もよく、
まっ、早いハナシが何でもいいんだ。
頭の向きが逆なれど、平目はもちろん文句無し。

1~5位まで白身ばかり並んだが青背を嫌うわけではない。
さばの味噌煮、いわしの梅煮、どちらもけっこう。
ただ、素人にはちょいと難しい。

J.C.がよく作るのはさんまの有馬煮。
有馬煮は実山椒がなければ不可能。
安く手に入ったとき、
まとめて甘辛い醤油煮にしておく。
一度仕込めば冷蔵庫で数年もつので重宝する。
もっとも数ヶ月で食べ切るけどネ。

本文を綴ったのは昨日の夜だが
夕刻、あぶらがれいの切り身を松坂屋で買ってきた。
これからキッチンに立ち、煮つけにするつもり。
滅多に扱わない魚種ながら
近縁のからすがれいよりマシだった記憶がある。
それでは、アレ・キュイジーヌ!

2020年7月16日木曜日

第2438話 あぶらぼうずの衝撃 (その4)

平井の「焼きどころ とんとん」。
あぶらぼうずを堪能したあとは林SPFである。
焼きとんに使われるモツ類もSPFと聞いて
ハラミ(220円)を塩、
レバー(180円)をタレで1本づつオーダーした。

串は2本からの注文だが組合わせは自由。
同一である必要はない。
浅草の「がってん」、綾瀬の「大松」には
ぜひ見倣ってほしいものよのぉ。

ビールのあとは長崎県・壱岐島産の麦焼酎・雪洲。
壱岐の麦は好き、もちろんロックで―。
うむ、これも美味いや。
このところ、優良な焼酎にたびたび遭遇するのは
日頃の行いの賜物であろうヨ。

焼きとんは不揃いに串を打たれ、
たこブツならぬ、もつブツ状態。
さっそくハラミをバクリ。
何だこりゃ?  ナンコツかと思われるほどに硬い。
すぐさま隣りに横たわるレバーに手を延ばす。
おっと、さすがにレバーは硬くないけれど、
噛んでるとスジが歯に当たり出した。
スジ取り不十分に加えて焼き過ぎでもある。

どうやら此処の店主、
サカナの捌きは一流なれど、肉系はアカンわ。
料理をあまり得意としない主婦の家庭料理レベルだ。
あぶらぼうずは予期せぬ収穫だったが
何かもう一品ほしい。

焼き魚は
本ししゃも いわし かます めひかり 鮎開き
といったラインナップで相対的に煮魚より安めの価格設定。
でも、ここはサカナじゃないだろ、ポークだろ。

熟慮の末、カツ煮のハーフポーションがOKなので
それをお願い。
カツ煮だって煮ものの端くれ、
得意種目だから何とかなるハズという皮算用だ。

はたして・・・これもアカンかった。
ロースではない肩ロースが肩く、もとい、硬く、
しかも焼きとん同様、火の入れ過ぎで煮汁も濃過ぎ。
ボリュームだけは必要以上にあり、
フルで頼んじまったらギヴアップ必至だネ。

本日は返す返すもあぶらぼうずに尽きる。
これだけですごく儲かった気分になった。
人はこの事象を、坊主丸儲けと言うそうな。

=おしまい=

「焼きどころ とんとん」
 東京都江戸川区平井3-24-9
 03-5875-3358

2020年7月15日水曜日

第2437話 あぶらぼうずの衝撃 (その3)

江戸川区・平井の「焼きどころ とんとん」。
此処はもともと焼肉屋だったが
業態を変え、割烹風居酒屋になっている。
店主の言うことには同じ並びの数軒先、
「きんめ家」の2号店とのこと。
「きんめ家」なら8年前に一度利用した。

おっと、そんなことよりグループ客の騒音に耐え切れず、
決然と立ち上がったのだった。
よっぽど連中に教育的指導を施そうと思ったものの、
J.C.が突如として始めたのは
カウンターの左端から右端へのお引っ越し。

ビール瓶とグラス、箸に小鉢におしぼりと
ぜえ~んぶ、自分で運びやした。
落ち着きを取り戻し、あらためてトクトクトク。
ポカンと見ていた店主の口元もやがて苦笑いに変わる。

お詫びの印でもなかろうが
「こちらサービスです」
運んでくれたのは白菜漬け。
浅めの漬かりのこいつがめっぽう美味い。
一鉢注文したかったけど、
ちょいとみっともないからやめとく。

中瓶の2本目はスーパードライ。
発注から15分後、あぶらぼうずが煮上がった。
ヒタヒタの煮汁に半ば沈んだ白い切り身は
豆腐半丁ほどのサイズ。
一箸入れると、ホッコリほぐれた。

うっ、うま~い!
繊細なテクスチャーに上品な脂が乗り、
火の通しジャストにして煮汁の塩梅もよろしい。
実に衝撃的だ。
さすがに煮魚を自慢するだけのことはあった。

品書きをチェックしたら煮魚は
いわし 680円  あぶらぼうず 1380円
きんめ半身 2800円~
とあった。
そう、経営母体の「きんめ家」は
金目鯛の最高級品といわれる、銚子産のみを扱う。
高価なわけである。

しばし陶然としてハタと我に返る。
品書きを再び手に取った。
当店のもう一つのウリは
千葉県産・林SPFポーク使用の豚肉料理だ。

豚肉は大好き。
舌なめずりしたら唇の端にさっきの煮汁が残ってたんだネ。
うん、いい味だ。

=つづく=

2020年7月14日火曜日

第2436話 あぶらぼうずの衝撃 (その2)

江戸川区・平井の町を徘徊している。
雨の予報はド外れたがヤケに風が強いや。
時刻は15時過ぎ。
駅の北から南へと30分ほどうろついたものの、
これといった店は見つからない。
それもそのはず、開いてる店がない。

しょうがないなァ・・・。
JR総武線の隣り駅、新小岩に移動して通し営業の町中華、
「五十番」にでも行こうっと―。

平井駅への戻り道、1軒の店舗に通りすがる。
ん? 何だ!
「焼きどころ とんとん」だと?
店名のみならず、店構えまでもがダサい。
普段は完全スルーするところ、
チラリ目に入った品目にマナコを居抜かれた。

= あぶらぼうず煮付け定食 ¥1480 =

バシーン!
その衝撃はすさまじく、
ドタマをハリセン(張り扇)でひっぱたかれたかの如し。

あぶらぼうずはサカナである。
どちらかというと深海魚の仲間だ。
ずいぶん昔に食べた記憶があるが
いつ? どこで? まったく忘却の彼方なり。
第一、このサカナのことすら
脳内辞書から消去されてたもんネ。

店頭の品書きはほとんど能書き。
とにもかくにもこのダサダサ店の一推しが煮魚なんだと―。
あぶらぼうず、これだけで入店を決意した。

店主に迎えられ、正面カウンター4席の左端に案内された。
その左手にテーブルが配置され、先客は中年カップル1組。
ところが、ほどなく仲間がゾロゾロ現れて
グループが形成され、喧しいのなんのっ。
思わず舌打ちが出る始末だった。

定食ではなく煮付けの単品をお願いしてビールの中瓶。
スーパードライを通したつもりが、やって来たのは黒ラベル。
まっ、いいでしょう。
突き出しは油揚げと竹輪の炊いたの。
薄味仕上げでなかなかだ。

それにしてもグループが五月蝿すぎる。
こういうクラスターの発生は迷惑千万。
温厚なJ.C.もとうとう堪忍袋の緒がプッツン。
やおらスックと立ち上がったのでありました。

=つづく=

2020年7月13日月曜日

第2435話 あぶらぼうずの衝撃 (その1)

一日中、雨の予報にもかかわらず、
ちっとも降らない日の午後。
行く先を定めぬままに家を出た。
不忍池のほとりをめぐって上野広小路へ。

中央通りと春日通りの十文字、
上野松坂屋の向かいにバス停がある。
ヒマに任せて時刻表をながめてみた。
いやァ、ずいぶんあっちゃこっちゃに出てるんだねェ。

目にとまったのは江戸川区・平井駅前行きだ。
いえ、べつに平井に行きたいわけではないが
そのルートに好奇心を刺激されたのだった。

上野松坂屋→下谷神社→雷門→スカイツリー→
十間橋→中居堀→東墨田→ゆりのき橋→平井駅

興味を抱いたのは赤字区間
都内いたるところに出没するJ.C.が
未だ踏破していないエリアなのだ。
時刻表をチェックしたら、数分後に発車オーライ!
しめた!とばかり、そそくさと乗り込む。

車内はガラガラ。
最後部シートの右端に腰を下ろした。
ここは窓の広い特等席につき、観光バスに乗ってる気分。
行き過ぎる街並みをながめていた。
と言ってもオノボリさんじゃないから
雷門やスカイツリーには目もくれない。
もっぱら飲食店の店先に神経を集中していた。

下谷神社前の町中華、
「紅楽」の紅い暖簾が風に揺らいでいる。
つい先日、助六寿司を買い求めた、
押上「味吟」の店先には短い行列が―。
十間橋の南詰たもと、前世紀末に訪れた、
うなぎ「三松」は今も健在、同慶のいたりなり。

中居堀の交差点を突っ切ると店舗数が激減するが
ここからは未踏地帯、両の瞳をこらす。
バスは中居堀通りでUターンならぬ、
Vターンをやらかして、ゆりのき橋通りを走ってゆく。

橋の手前で右折し、旧中川沿いを進むが
リバーサイドの遊歩道が素敵だ。
近いうち歩きに来よう。
ここは旧中川水辺公園。
川面が岸辺に迫り、流れる水は今にもあふれんばかり。

出発から50分経過、終点・平井駅に到着
何処で飲もうかな?
思いをめぐらす、このひとときこそ、
一日のうち、一番シアワセな時間です。

=つづく=