2020年11月30日月曜日

第2535話 酎ハイの ペットボトルは 1000 CC

優良天ぷら店をあとにしたJ.C.は読者の読み通り、

甘い水に導かれて呑み助のパラダイスに向かった。

 

善徳寺前の交差点を渡ると北側に桐ヶ丘中央商店街あり。

此処はストリートではなくスクエア。

四方を建物に囲まれ、パティオの様相を呈している。

外側にも商店が並ぶがメインは内側、合わせて50軒に達する。

 

大方の店舗がシャッターを閉ざしており、

開いていたのは、カフェレストラン、サロンを名乗る食堂、

精米店、台湾惣菜屋、そしてコインランドリーのみ。

ほとんどゴーストタウンと化していた。

 

23 区内にかような一画が残存するのは驚きだが

懐旧の思い揺さぶることはなはだしくJ.C.は大好き。

マンモス団地・都営桐ヶ丘アパートの南西端に位置し、

かつては繁華を誇ったものと推察された。

 

昼飲みのメッカ、赤羽に到着。

読者には目タコ・耳タコでしょうが

大盛りの天ぷらをやっつけておきながら飲みものは別腹。

この街随一の酒場「まるます家」に直行した。

 

以前は順番待ちの客が店先にあふれていた。

今はまったく問題ナシ、すんなりと席に着く。

モヒート酎ハイが人気で、そのメガに初挑戦。

運ばれたのは氷入りジョッキとライム&ミントの小皿、

そして炭酸のでっかいペットボトルだ。

焼酎はいつ来るのかな? 1分待ってこりゃおかしいゾ。

何とボトルは炭酸に非ず、焼酎を含んでこれ自体が酎ハイ。

こんなのアリかい? ウチで飲むのと一緒やんけ。

 

ライム&ミントをジョッキに投じ、マドラーでつぶす。

ペットのキャップを外してトクトクトク、一気に飲み干した。

本麒麟のタモリじゃないけど、ウマいネ!

すかさずもう1杯。

 

これはニッカの弘前工場が製造したハイリキ。

1983年発売のハイリキは日本最古の酎ハイブランドなんだと―。

当店のルールは客一人当たり3杯までで銚子は3本、メガは1本。

ペットボトルは1000 CC と飲みでがあるが、もう追加はできない。

 

それはさておき何かつまみを取らねば―。

壁の品書きを隅々まで吟味し、満タンのストマックに配慮し、

最少量と思われたホヤ塩辛をお願い。

 

「まるます家」の専門は川魚。

鯉・うなぎ・どぜう・なまずにすっぽんまで揃う。

鯉など、生刺し・あらい・鯉こく・うま煮のラインナップ。

うなぎに亀重というのがあり、呼び名の由来は存ぜぬが

最初は面食らい、すっぽんのお重かと思った。

 

いずれにしろ海の魚介の天ぷらをタップリ食べたあと。

ストマックに川魚やカメさんを収める余裕は残っていない。

1リットルのメガ酎ハイは余裕で完飲しましたけどネ。

 

「鯉とうなぎのまるます家 総本店」

 東京都北区赤羽1-17-7

 03-3901-1405

2020年11月27日金曜日

第2534話 天ぷらの壁 そそり立つ (その2)

板橋区・小豆沢の天ぷら店「天鈴」。

ビールを飲みつつ、天ぷら定食が整うのを

待ちながら店内の様子をうかがっていた。

 

お運びは先述のオネエさん一人きり。

揚げ場では鍋の前に親父さん。

天ぷらを揚げるため、

前かがみの姿勢を続けたせいか腰が丸くなっている。

 

その脇の女将さんは対照的にスックと立ち、

客に笑顔を振りまいている。

細い眼がさらに細まって渥美清演ずる寅さんにクリソツ。

親父さんはオトコだから余分な笑顔は見せないけれど

横顔に人の良さがにじみ出ている。

 

お二人が夫婦であることに疑いの余地はないが

オネエと親子かどうかは判らない。

いずれにしろ三人とも人柄よろしく、

これも商売繁盛の一因であろう。

 

大瓶の半ばで定食が完成。

盛合わさった天ぷらに瞠目した。

狂えるトランプが建てたメキシコ国境の壁も

かくありなんという景色が眼前に広がっていた。

 

そそり立つ壁の正体はインゲン&ナス。

かなりのサイズが立ちはだかって

壁の向こうに到達するのは至難のわざ。

背伸びしてそっとのぞいてみる。

 

盛合せの陣容は奥から手前に

ごぼう・イカ・海老・キス・海苔。

そして二つの野菜の壁である。

いや、食べ切れるかな?

 

穴子の見送りが大正解だった。

辛うじて自爆を免れ、命拾いした心持ち。

いい歳こいたら食べ過ぎほど身体に悪いことはない。

オメエの場合は飲み過ぎだろ! ってか?

ハイ、ごもっとも、スンマソン。

 

定食の構成は、熱々のしじみ味噌椀、盛りの良いごはん、

そしてビールのときと同じ白菜&大根漬けがもう1皿。

天ぷらは8本ほどが筏(いかだ)となって揚がったインゲン、

小柄なわりに肉厚なキスがNo1&2。

ほかの種も揃って上々だ。

 

これで850円は完全に採算度外視、行列もうなづけよう。

気持ちよく退店して、さあ何処へ行こうか―。

南下すれば旧板橋宿の名残を残す仲宿。

東に向かえば、旧軍都にして呑ン兵衛垂涎の赤羽。

迷えるホタルは甘い水に誘われて

歩き出したのでございます。

 

「天鈴」

 東京都板橋区小豆沢1-6-16

 03-3965-8045

2020年11月26日木曜日

第2533話 天ぷらの壁 そそり立つ (その1)

この日のデスティネーションは板橋区・小豆沢。

11時半に家を出て12時10分に

都営地下鉄三田線・本蓮沼駅で下車した。

噂を聞いて訪れた「天鈴」は

鄙(ひな)にもまれな天ぷら屋だという。

 

店先にやって来たら短い並びができていた。

カップル・ソロ・カップル・ソロときて、7番目だ。

目の前に団地みたいな建物があるものの、

人通りの少ない場所での行列に意表を衝かれる。

 

ジャスト30分待って入店がかなった。

弧を描くカウンターに8席、小上がりは四人掛けが1卓。

子連れママが立ったあとの右端に促された。

お好みで揚げてもらい、ビールを楽しむつもりだったが

とてもそんな雰囲気ではない。

ザッと見たところ、誰一人飲んでいない。

 

基本的に天ぷら定食か天丼(各850円)の二択で

あとは好みの天種を追加するシステムのようだ。

定食のごはん抜き、いわゆる単品が理想ながら

それだとビールは欠かせない。

 

それよりそんな注文は許されないかもしれない。

運悪く頑固な店主だったら

「ウチは飲み屋じゃないヨ、ほかを当たってくんな」―

なんてたたき出されかねないのだ。

 

注文を取りに来た、お運びのオネエさんに思わず、

「定食とぉ、ビールくださいっ」―

反射的に言葉がほとばしっちまった。

まるで勢いよく抜栓したビールの泡みたいに―

「はい、かしこまりました」―

気立てよさげな娘が満面の笑みで応える。

 

銘柄のキリン一番搾りは調査済み、ラガーより好きだ。

一緒に小皿の白菜漬けがサービスされる。

小皿にこんもりと、何だかうれしいな。

つまんでみたら大根の細切りが混ざっていた。

 

ビールを飲みつつ、思案する。

穴子を追加すべきか否か―。

海老とイカを外して穴子、なんて言えないし、

まともに追加したら墓穴を掘ることになろう。

 

あらためて店内を見渡す。

湾曲するカウンターは花王石鹸のお月さんに似ている。

自分の位置は右端だから、お月さんのアゴだネ。

そう言やあ、小学校の同級生にアゴの出た子がいて

ニックネームが“花王石鹸”だった。

呼ばれたほうはイヤだったろうネ、子どもってのは残酷だ。

 

=つづく=

2020年11月25日水曜日

第2532話 飲み屋に事欠く茗荷谷

名横綱・栃錦のアトだからって相撲取りの明武谷じゃないヨ、

かつて早稲田と肩を並べる茗荷の産地だった茗荷谷ヨ。

まっ、神田川をはさんで隣り同士なんだけどサ。

 

せっかくだから明武谷を紹介させてもらおう。

アイヌの血を引くと言われる、

道東出身のお相撲さんは上手投げとつりを得意とし、

たびたび見せた豪快なうっちゃりが天下一品。

あの大鵬を土俵際でクルンと180度回転させたこともあった。

 

それはそれとして茗荷谷。

此処は飲み屋がやたら少ない。

もともと文京区には真っ当な居酒屋がほとんどない。

大学だらけ、それも名門女子大の多い土地柄は

文教に注力して酒池肉林から努めて遠ざかろうとする。

隣りの台東区と雲泥どころか

天国と地獄、両極端の様相を呈している。

 

そんななか「和来路(わらじ)」の存在は貴重だ。

しかも16時半の暖簾出しは

文京区長の許しを得ているんだろうか?

 

生暖かい秋の夕暮れ。

開店直後に訪れると6席のカウンターはほぼいっぱい。

1席だけ残っており、辛うじて滑り込む。

中ジョッキは黒ラベル、お通しはつかない。

 

お客サンは近隣の常連ばかりでヨソ者はわれ一人。

本日のおすすめから

スマガツオ刺しと迷いながら平目薄造りを通す。

スマは縞目のハッキリとした小型のカツオだが

カツオ系は外すと身動き取れなくなる危険をはらむ。

 

こうして注文した平目だったが

ちっとも薄くなく、ほとんど刺身状態だ。

ポン酢と紅葉おろしで食べるにはあまりに厚すぎた。

追加したスーパードライの大瓶に助けを借りて

どうにか全部やっつけた。

 

サントリーが出している翠(すい)という名のジン、

そのソーダ割りに切り替え、

あらためておすすめボードをチェック。

いさき昆布〆、ハムカツ、かきフライに食指が動きかける。

 

熟慮して2本しばりの軟骨入りつくね焼きを通した。

ふむ、ふむ、この軟骨はヤゲンだな。

食感はいいんだけど、つなぎに工夫が足らずパサパサ。

一仕事要するつくねは難しいんだ。

つくづく思った次第なり。

 

「和来路」

 東京都文京区小石川5-4-8

 03-3943-6565

2020年11月24日火曜日

第2531話 マスクをつけた栃錦

のみとも・Fチャンとほぼ1年ぶりの酌交。

落ち合ったのはJR 総武線・小岩駅改札口。

昭和の名横綱・栃錦のブロンズ像前だ。

おやおや、小岩の生んだ英雄もマスクをつけてるヨ。

 

1軒目はガード下の大箱居酒屋「けやき」。

一見、チェーン店のようだが魚介がウリの老舗だ。

ドライの中ジョッキをカツンと合わせた。

お通しは切干し大根。

 

関サバに勝るとも劣らない伊那サバがあった。

長崎県・対馬の伊那港に揚がる一本釣り限定のサバは

生or 〆が択べるとのことで、ここは貴重な刺身を―。

硬直を残すコリコリの身肉は旨みじゅうぶん。

 

芋焼酎・蔵の師魂のロックに切り替え、

貝刺し盛合せ(アオヤギ・ツブ・ホッキ)と

カサゴの油淋鶏(ユーリンチー)風を追加する。

 

貝類はいずれも鮮度が高い。

小ぶりなカサゴはタレを掛け回した丸揚げ。

香菜が主張して油淋鶏より清蒸(チンチェン)に近いかな。

ロックのお替わりを飲み干し、会計は二人で7千円也。

いつもはハシゴにハシゴを重ねる二人ながら

今夜は2軒で切り上げる合意を交している。

 

北口仲通りの「豚小家」へ。

大衆酒場の宝庫・小岩にあって此処は絶大な人気を誇る。

時期が時期だけに予約困難ではないけれど、

一応、空席確認の電話は入れた。

 

二度目の乾杯は酎ハイで―。

シロップを使わない飲み口はいたってシンプル。

突き出しはラーメン店でもないのに味付け玉子が出てきた。

愚にもつかないのを平気で出す愚店が多いなか、

味玉はマッチ・ベターである。

 

兼八のロックに移行した。

はだか麦焼酎の香ばしさが格別なり。

モツ刺し(生ではなく茹で)を好まぬわれわれは

当店の名物をスルーして焼きとんを所望。

カシラとハラミを塩、レバとキクアブラをタレ、

4種2本づつ焼いてもらう。

 

それなりに味わいはあるものの

期待が大きかったせいか肩透かしを食らった気分。

まっ、今宵はこれで切り上げるとしよう。

 

不完全燃焼を引きずりながらオッサン二人、小岩駅へトボトボ。

マスク姿の栃錦像に見送られて改札を抜ける。

このときハタと思い当たった。

そうだ、肩透かしは栃錦の得意技じゃないか!

帰宅後、調べてみたら14回も決めてましたとサ。

やれやれ。

 

「けやき」

東京都江戸川区南小岩8-15-3

 050-5595-1208

 

「豚小家」

 東京都江戸川区西小岩1-27-9

 03-5693-2532

2020年11月23日月曜日

第2530話 天保八年創業のうなぎ店(その2)

「登亭」は半世紀も前に日本橋の創業店を訪れたほか、

その後の京橋本店、神田店を利用したが、ともに現存していない。

都内各所に散在していた店舗は、上野広小路、銀座、新宿と

東銀座の系列店「登三松」の4店を残すのみ。

“手頃な価格で庶民にうなぎを”

このモットーの実践がいかに困難か、うかがい知ることができる。

 

さて、御徒町駅に近い、上中(うえちゅん)通りの広小路店。

昼のピークは過ぎたのに、さいわい限定品のうな丼が残っていた。

うなぎが半身とはいえ、1728円+税というサービス価格である。

1尾を持て余すわが身に半尾の提供はむしろありがたい。

中瓶と一緒にお願いした。

 

そうしておいてメニューブックを手に取った。

合いの手の吟味である。

うなぎ屋のつまみは、肝焼き・うざく・う巻きが御三家。

ここに上新香を加えて四天王とする。

まっ、J.C.が勝手に決めてるだけだけど―。

 

ほほう、肝焼き以外に串モノが

ひれ巻き・つくね・ハラミと計4種もあった。

ちょいと迷ったものの、長考には入らず、珍しいひれ巻きを―。

 

ビールはすぐサーヴされ、10分後につまみとどんぶりが同着。

新香はきゅうり&白菜、吸い物が焼き麩&三つ葉。

おっと、いけない、プラス100円で肝吸いにするのを忘れてた。

まあ、いいか―。

 

ひれ巻きと新香でビールを飲む。

テーブル12席、カウンター4席の6割方が埋まっている。

矢継ぎ早やではなくとも客の出入りはコンスタントだ。

立地の良さもさることながら

庶民の味方というイメージが定着しているのだろう。

 

う~む、串も蒲焼きも水準に達してはいるが

惜しむらくは、タレが濃すぎ。

「ごはんにはタレを掛けないで―」

この一言も忘れてた。

 

ここで10年前の神田店を思い出す。

あのときも濃かったんだが卓上には醤油差しに並んで、

タレの壷まで用意されていた。

驚くなかれ、居合わせた隣りのオジさんなんか、

うなぎの上からさらにぶっ掛けてたもんなァ。

世の中、濃い味派が少なくないんだねェ。

 

最近は魚介の買い出しのため、

御徒町駅前のサカナのデパートに週2回は通っている。

昼過ぎから夕刻までの時間帯がほとんどだが

次回はフライング晩酌に利用しそうだ。

串数本に上新香でビールと日本酒を楽しもう。

タレ少なめでお願いしてネ。

 

「登亭 上野広小路店」

 東京都台東区上野4-3-10

 03-5807-3511

2020年11月20日金曜日

第2529話 天保八年創業のうなぎ店 (その1)

上野広小路と湯島を結ぶ風俗ストリート。

その裏道にあるとんかつ店「M」を訪ねたところ、

定休日に当たったようでシャッターが下りていた。

 

「本日定休日」の貼り紙がないが

まさかコロナのせいで閉業ではなかろうな。

住まいの近くの中国料理店「T」が先週末、

32年の歴史に幕を閉じたばかり、やはり気になる。

 

それではと上野松坂屋裏の高級とんかつ「P」を目指した。

最近、昼からぜいたくが過ぎるかなァ・・・

反省しながら中央通りを横断、上中(うえちゅん)通りに入る。

 

差し掛かったのは「登亭 上野広小路店」。

天保八年(1937)創業の川魚問屋を前身とするうなぎ屋だ。

同年、大阪では大塩平八郎の乱が勃発し、

数年後には大利根河原で

平手造酒が憤死する「天保水滸伝」の時代に

「登亭」の屋号は考えにくいが

“登”はうなぎ登りに由来するものと思われる。

 

気になって調べてみたら川魚問屋は千住市場にあった「中市」。

うなぎ店「登亭」は昭和27年〈1952〉開業だ。

発祥の地は日本橋室町で、うな丼1杯が100円だったという。

実はJ.C.、此処を10年後の昭和37年に家族4人で訪れている。

このときもうな丼は100円に据え置かれており、

久々のうなぎに家族揃って歌合戦。

じゃなかった、四つの舌鼓をポンポン打っちゃいましたネ。

 

カウンターの内側に水槽が据え付けられていて

錦鯉がゆうゆうと泳いでいたっけ。

街には「いつでも夢を」「可愛いベイビー」

「ふりむかないで」が流れていた。

庶民にとって貧しくともシアワセな時代であった。

 

それはそれとして広小路店店頭のポスターに

“徹底した骨抜き鰻”とあった。

確かにサカナの骨はうっとうしいやネ。

あれは40年前、浅草の「やっ古」でうな重を食べた際、

GFのノドに小骨が刺さっちまった。

医者に直行ってほどではなくとも、その後のデートは台無し。

うなぎで精つけてラブホに直行どころじゃなくなったんだ。

鯛の骨に比べりゃ可愛いもんだが、うなぎも油断はならない。

 

数量限定、昼のサービスうな丼があって

とんかつ「P」より安上がり、渡りに舟と飛び込んだ。

いや、飛び込むのは川や海、

舟だけに乗り込んだのでありました。

 

=つづく=