2020年12月31日木曜日

第2558話 令和2年の飲み納め

かつてのホームグラウンド、池袋で今年の飲み納め。

最初に向かったのは「ビアホール ライオン 池袋東口店」。

1970年、高校卒業後すぐにバイトを始めたJ.C.、

潤沢な小遣いをフトコロに晩酌の楽しさを覚えた。

人生初の行きつけ店が此処である。

 

嘘つきポチのマネなどしたくないが

原点に立ち戻ろうと思ったわけだ。

ところが・・・10月25日で長い歴史にピリオドだと―。

ガッビ~ン! 何だって正直者のアタマを叩くんだよぉ~!

叩くんならアイツのドタマを118回叩けよぉ~!

 

肩を落として近所の「ほていちゃん」に廻った。

上野浅草口店には何度かお世話になっている。

カウンターに立ってバーテンダレスに

「生ちょうだい」

「ハイ、でもカウンター席ですと瓶ビールがおトクです」

「うん、判ってるけど、生が飲みたくてネ」

 

当店はカウンターに限り、サッポロ赤星大瓶が410円。

しかも全品10%オフの特点が付く。

テーブル席では大瓶が飲めず、割引もない。

いつも通り、黒ラベルの中生を立て続けに3杯。

つまみナシが許されるのもありがたい。

 

夜の帳が下りて美久仁小路に移動した。

 

♪   他人のままで 別れたら

  よかったものを もうおそい

  美久仁小路の 灯りのように

  待ちますわ 待ちますわ

  さよならなんて 言われない

  夜の池袋        ♪

     (作詞:吉川静夫)

 

青江三奈の「池袋の夜」に登場する飲み屋街だ。

小路を代表する「ふくろ」の止まり木に止まる。

白ホッピーのセットとメゴチ&キスのフライを通した。

小魚たちがとてつもなく旨い。

 

栄町通りに流れたら、とあるスナックのドアが開いて

中から看板を引きずり出すママと思しき女性が現れた。

出合いガシラに視線が合ってニッコリされて、そのまま入店。

何やってんだ、J.C.よぉ~!

 

20年前にソウルから来たという彼女と

なんだかハナシが盛り上がってしまい、

「今夜は二人で忘年会しましょうネ」

「ああ、そうしよう」

3時間も滞空し、客が来ないから

互いに歌もずいぶん歌った。

看板が縁で入った店に結局、カンバンまでいた。

 

ブクロに来たときゃ、努めて立ち寄ることを約し、

握手の代わりにグー・タッチ。

それじゃまたネ、アンニョンヒ ガセヨー!

ついでに令和2年もサヨウナラ。

 

明日から始まる新年がより良い年でありますように―。

少なくとも悪化だけはしませんように―。

 

「ほていちゃん 池袋東口店」

 東京都豊島区南池袋1-19-12

 03-6907-2340

 

「ふくろ 美久仁小路店」

 東京都豊島区東池袋1-23-12

 03-3985-5832

2020年12月30日水曜日

第2557話 御苑前からサンシャイン

その日は新宿三丁目に所用があり。

昼前にはこなして喧騒を避けようと新宿御苑前に逃れた。

税金泥棒の犯行現場、御苑が右前方に見えた。

あんな恥知らずは思い出したくもないので

まずは昼めしをと「そば処 更科」に向かう。

 

客のほとんどがラーメンを注文する特異なそば屋だ。

ランチのピーク時では相席は当たり前、

先客に軽く会釈して座った。

向かいのオジさんはやはりラーメンをすすっている。

 

何も食べずに家を出たため、腹ペコくん。

だとしてもちょいとムリかな? と思いつつ、

ラーメン&ミニカレーのCセット(1000円)を通す。

ビールは自重しておいた。

 

ほぼ真っ直ぐの細打ち麺に鶏ガラ&豚骨のスープ。

水準に達していてもすばらしくはない。

以前のほうがよかったような気もする。

チャーシューはロースかな? 2枚浮かんでいる。

あとはシナチクと小松菜に長ねぎがいっぱい。

 

居合わせた15人ほどの客は9割方がラーメン。

うち半分がCセットで

ほかはカレーライスとたぬきそばが一人づつだけ。

こんな日本そば屋、ありなのかい?

 

ミニカレーは典型的なそば屋カレーで真っ黄色。

言っちゃ悪いが、お世辞にも旨いとは言えない。

卓上のウスターソースをこれ幸いと垂らしてみたら

旨くはならなかったけど懐かしさがよみがえった。

昭和の子どもはカレーにソースを掛けて食ったものだ。

 

今宵は池袋で飲むつもり。

距離があるが腹ごなしに歩き始めた。

新大久保、高田馬場を過ぎ、神田川を高戸橋で渡った。

川面を見下ろせば、つがいのカルガモが仲良く泳いでいる。

河原には数羽の土鳩の姿も―。

なるほどなァ、土鳩の別称は河原鳩だもんねェ。

 

ほどなく千登世橋に差し掛かる。

西島三重子のいじらしい歌声が流れてきた。

 

♪ 電車と車が並んで走る

  それを見おろす橋の上

  千登世橋から落とした白いハンカチが

  ヒラヒラ風に舞って飛んで行ったのは

  あなたがそっとさよならを

  呟いた時でしたね     ♪

 

「千登世橋」の歌詞の通り、

橋の下に明治通りと都電荒川線が並んで走っている。

 

鬼子母神の脇を抜け、サンシャイン60に到着。

半世紀前の1970年まで巣鴨刑務所があった場所だ。

GHQの接収時には巣鴨プリズンと呼ばれ、

幾人ものA級戦犯の絞首刑が此処で執行された。

 

「そば処 更科」

 東京都新宿区1-30-5

 03-3351-2951

2020年12月29日火曜日

第2556話 車子 真子 白子 海鼠子の 子だくさん

せっかく築地に出張っておいて手ぶらで帰るのもなんだし、

魚河岸をのぞく気になった。

小田原橋棟に着いた時点で閉館の15時まで15分しかない。

 

晴海通り側から入ってすぐ左の「菊市」に

小ぶりながらも良形の車子(蝦蛄)がワンケース残っている。

むかれたばかりのつぶ貝が4~5粒。

真鱈の白子はなじみの「吉池」のものより張りがあり、

鮮度の高さを証明していた。

 

奥へ進めど、まだ開け残っているのは

まぐろ屋ばかりが数店舗のみ。

うち1店で生わさびを2本買い、すぐに舞い戻った。

 

「菊市」はオネバさんとオネエさん、

二人体制で男っ気まるでナシ。

オネバさんに

「シャコは瀬戸内?」

「いえ、愛知です」

「あっそう、三河湾OK!」

 

上記3点すべて購入したところで

砕氷上に並ぶ2本の瓶詰めに目がとまる。

このわた&このこ、である。

どちらも千円ちょっとと、ずいぶん安い。

「オネエさん、これも貰おうかな」

「どちらですか?」

「このこのほうネ」

オネバさんにオネエさんを指しながら

「ついでにこのこ(娘)も貰っとこうか―」

「エッ? エヘッ、どうぞ、どうぞ!」

と来たもんだ。

 

帰宅後、缶ビールをグラスに注いで厨房に立つ。

およそ30分で整った晩酌のつまみはラップして冷蔵庫へ。

夕方のTVニュースを見、夕刊に目を通して一休み。

空腹感はなくとも本格的な晩酌に移行した。

 

食卓に並んだのは

   ケースから出しただけの茹で車子

   真子がれい昆布〆

   真鱈白子ポン酢

   長崎・佐世保特産の瓶詰海鼠子(このこ)

   つぶ貝刺身

 

②は前夜の刺身の残りを自分で〆た。

以上をよく冷やした菊正樽酒と

手搾りのライムジュース、スペアミント、

金宮焼酎のモヒート仕立てで楽しむ。

 

今宵は車子・真子・白子・海鼠子(このこ)の子だくさん。

ん? つぶ貝が余計だろ! ってか?

何をおっしゃる読者サン、これとて立派な一つの子。

誰より可愛い、ひとツブ種ってネ。

 

「菊市」

 東京都中央区築地6-26-1築地魚河岸小田原橋棟

 03-6264-7110

2020年12月28日月曜日

第2555回 暮れの築地の焼鳥丼

作曲家・中村泰士(ときには作詞も)に続いて

作詞家・なかにし礼(ときには作曲も)も亡くなった。

哀しむべし。

お二人については年が明けたらあらためて語りたい。

 

悪夢の令和2年も残すところ数日。

年末の築地場外市場に出向いた。

最後の訪れは昨年、大型10連休の初日だった。

築地魚河岸小田原橋棟3Fの「小田保」で

ホタテフライとカニクリームコロッケをつまみに

サッポロ赤星を飲んだ。

 

その節の場外は芋の子を洗うがごとし。

英語・スペイン語・韓国語が空中を飛び交い、

ひときわ喧しかったのはもちろん中国語。

此度は静かなもので、ほとんど誰も歩いちゃいない。

客を呼び込む店員の声だけが空しく響く。

 

それにしても海鮮丼屋の多いこと。

猫も杓子も海鮮丼の一つ覚え、いくら呼んでも客がいないから

海鮮丼じゃなくって閑散丼だネ、この有り様は―。

 

8年ぶりにくぐったのは焼鳥丼の老舗「とゝや」の暖簾。

はるか昔、ストックホルムの私設日本クラブで

手にした文芸春秋に作家の丸谷才一サンが

「食通しったかぶり」を連載しており、当店の紹介があった。

題して「春の築地の焼鳥丼」。

帰国後、直行したのは言うまでもない。

 

ボリューム少なめサービス丼(1100円)を通し、

ドライの中瓶をお願いした。

ビールとともに鳥の煮凝りがサーヴされる。

ありがたや。

 

どんぶりを構成するのはもも肉3枚、つくね2枚、もみ海苔。

これに焼き麩&かまぼこ入りのスープ、白菜漬けがつく。

ももは赤ん坊の手のひらサイズでプリプリと旨い。

つくねはミートローフ状のものを

斜めにスライスしてあり、こちらもイケる。

何度も利用しているが今回が最も美味しく感じた。

 

15年以上前、会社の部下たちと此処で忘年会を開いた。

鳥の水炊きを囲んだところ、期待ほどではなく、

「とゝや」は明るいうちに限るなと思った。

 

現在は昼のみの営業。

店主の住まいだった2階を改装し、客を入れるようになった。

コロナ禍にあってもそこそこに繁盛している様子が頼もしい。

魅力の薄れた築地場外で自信を持ってオススメできるのは

当店とすぐ裏手にある「てんぷら黒川」の2店。

次回は「黒川」で天丼にするつもりであります。

 

「とゝや」

 東京都中央区築地6-21-1

 03-3541-8294

2020年12月25日金曜日

第2554話 深川は 門仲 牡丹 古石場 (その2)

下町・深川の牡丹から古石場へ歩く。

2丁目にあった住まいは跡形もなく、

あたり一帯、広大な空き地になっており、

工機が入っているので遅からずデカいビルが建ちそうだ。

 

近くの古石場文化センターには

小津安二郎紹介展示コーナーがあるからのぞいてみた。

深川生まれの小津の遺作は「秋刀魚の味」(1962)。

同年、マイ・ファミリーはこの地に引っ越してきた。

 

京橋フィルムセンターの小津特集で

彼の作品をほとんど網羅したが、また観たくなった。

DVDじゃなくて映画館でネ。

 

母校・平久小学校の校舎を眺め、深川公園へ。

深川不動堂の背後を走る首都高・深川線が

景観を台無しにしていたが背高の本堂を建て増しし、

上手いこと覆い隠している。

よかったネ、お不動さん!

 

16 時まぢかとなって気に入りの立ち飲み酒場の開店はすぐ。

永代通りをはさんで不動参道の向かい側、

「魚三酒場」の店先では約30人の待ち人がひしめいていた。

当店は門仲のランドマークなのである。

 

J.C.が向かったのはその裏側の「ますらお」。

江東区へは今年5度目だが、うち3度は門前仲町で

そのたび「ますらお」に立ち寄っている。

さっそくキリン一番搾りの中瓶をトクトクトク。

頭上のメニューボードを見上げた。

 

おっと、めじまぐろ(本まぐろの若魚)があるじゃんか―。

普段なら即決ながらこの日は違った。

あえて刺身は平目にする。

何となれば昨夜、自宅の晩酌の肴がめじ刺し。

しかも残った半身をサクごとづけに仕込んできだ。

 

確か千葉産だったので、店主に

「今どきのめじは千葉あたりかな?」

「エッ、エエ、千葉県ですっ!」

驚きにむかれたマナコが

(どうして判るんだ、コイツはプロか?)

ハハハ、口ほどにモノを言ってるヨ。

まっ、昨夜の件は白状しなかったがネ。

 

昼にとんかつ定食を食べているため、

つまみは平目刺しだけでモア・ザン・イナッフ。

此処にはサントリー知多があるから

ご利益にあずかってハイボールを1杯。

たかだか20分の滞空で駅に戻り、帰宅の途に着いた。

生醤油:日本酒、同割りのづけめじが待っている。

 

この暮れにきて。めじや平目の舞踊りとは

われながらけっこうなご身分だが

銀座の高級ステーキみたいに

人倫の道を踏み外しちゃいやせんぜ。

(まだ言ってるヨ)

 

「ますらお」

 東京都江東区富岡1-15-5伊藤ビル2F

 03-5809-8256