2021年5月31日月曜日

第2665話 ミートソースとボロネーゼ

戸越銀座でフェットゥチーネ・ミートソースを食べた翌日。

食料の買い出しに日暮里のスーパーへ。

その前にランチだ。

コロ助のせいで日常生活がパターン化されちまった。

昼めし→散歩&買い出し→キッチン→ドリンク&イート

一人暮らしの孤独なオッサンそのものやんけ。

でもネ、慣れてくると意外に楽しいもんなんだ。

 

いつものように日暮れの里のブレイクルーム,

「又一順」でアワビそばでもツルツルッとやろうか―。

いや、ビールなき休憩所に行ってみたとて何の足しになろう。

 

北区・赤羽を中心に展開する昔ながらの喫茶店、

「友路有(トゥモロー)日暮里店」という手があった。

以前、ハムエッグスの朝定食を食べたが

午後の利用は初めての試み、階段をトコトコ上る。

15時までのセットランチは基本的に7品で

いずれもスープ・サラダ・ライス・ドリンク付き。

 

ポークソテー  ポークジンジャー  ビーフカレー

ナポリタン  ハンバーグ(和風おろしorデミグラス)

 

加えて週替わりメニューが3通りある。

 

A―たらこ&大葉のスパゲッティorドライカレー

B―ボロネーゼorカニピラフ

C―カルボナーラorエビピラフ

 

今週はBだった。

前日にミートソースを食べたばかりなのに

好きなんだなァ、ボロネーゼをお願いし、

食前にアイスコーヒーを―。

ブラックで半分味わうと、これがめっぽうイケる。

あとは食後にしよう。

 

オニオンコンソメはまずまず。

ベイビーリーフの小サラダも悪くない。

パルメザンを振りかけ、

フォークでクルリと巻いたスパゲッティを口元へ。

うん、うん、赤羽店同様にとてもよいデキである。

 

そもそもミートソースとボロネーゼは似て非なるもの。

一番の違いはどこまでトマトが主張するかだ。

前者がトマトチックなのに対し、後者はほとんど感じさせない。

 

後半はタバスコを振った。

なくてもいいんだが、あれば必ず使う。

一口食べるだけで瞬時に青春時代がよみがえる。

思い出の味になっており、自宅に赤(ペッパー)と

緑(ハラペーニョ)を完備しているくらいだ。

緑には懐かしさを覚えないけどネ。

 

残りのアイスコーヒーはガムシロ&クリームとともに

やはり「友路有」は好きな店。

緊事宣下に禁酒令が出ている間は

此処を日暮れの里のマイ・ブレイクルームとしたい。

 

「昔ながらの喫茶店 友路有 日暮里店」

 東京都荒川区西日暮里5-52-2

 03-6806-8688

2021年5月28日金曜日

第2664話 戸越銀座の裏路地で

まず初めに前話のラストの解説を―。

水戸市のK村サン、倉敷市のN島サンから

サンドの富澤たけしじゃないが

「ちょっと何言ってるか分からない」というお便り。

 

谷崎潤一郎の小説に「卍」があって映画化もされ、

若尾文子と岸田今日子のレズシーンは

東京五輪当時の世間に衝撃を与えたんですヨ。

一方、卍固めはプロレスラー、アントニオ猪木の十八番。

アントニオスペシャルの異名をとった固め技であります。

お判りいただけましたネ。

 

理髪日のこの日は都営地下鉄浅草線・戸越駅下車。

その前に戸越銀座のどこかで昼めしの予定だ。

大阪の天神橋に次ぐ、国内第二位の長さを誇る商店街は

関東大震災で傷んだ銀座の道路をアスファルト化するため、

がれき同然の煉瓦を買い取って敷き詰めた。

 

全国に先駆けてナントカ銀座の嚆矢となった所以だが

煉瓦のリサイクルがなければ、

“銀座”を名乗ることはなかったわけで

あとに続く数多のナントカ銀座なる名称も生まれなかった。

歴史の弾み、時のいたずらってのは感慨深いものがある。

 

戸越銀座を隅から隅まで探索しつくし、

白羽の矢を立てたのはミートソース専門店「スペランツァ」。

店名はイタリア語で希望を意味する。

東急池上線・戸越銀座駅上りホームの真裏にあった。

 

人気(ひとけ)のない狭い路地は何処かへの近道なのか

ポツリポツリと歩行者を引き寄せる。

つられてついていくと理髪店、焼き鳥屋など数軒が並び、

うち1軒が「スペランツァ」だった。

 

スペランツァ特製  鶏肉とフレッシュトマト  魚介

豚肩粗挽き肉の白ワイン  仔羊とレンズ豆  極み牛スネ肉

 

6種のミートソースの価格帯は790~1200円。

当然、タイトルロールにする。

生麺のフェットゥチーネと

乾麺のスパゲッティのチョイスは生麺を―。

 

ツナ缶とコーン入りの小サラダはサニーレタスと水菜。

なぜか醤油ベースのドレッシングがかかっている。

パルミジャーノのほか、コンディメント(薬味)は

唐辛子・トマト・バジル・にんにく、ひまわり油、

エクストラバージン・食塩が原料。

 

添えられたバゲットの小片にはオリーブオイルがしみていた。

うん、いいんじゃないかな。

後半はコンディメントで味変を試み、美味しく完食した。

 

中原街道を横断し、パルム商店街を突っ切って武蔵小山。

花のない、かむろ坂の桜並木を下りて不動前。

サロンに隣接するスーパーでいつものロング缶を調達。

そいつでノドを歓ばせながら髪を理してもらいましたとサ。

 

「エスペランツァ」

 東京都品川区平塚2-16-13

 03-3783-6757

2021年5月27日木曜日

第2663話 谷崎生誕の地は今 (その2)

人形町の「シェ・アンドレ」で、さあ困った。

日替わりのターブル・ドート(定食)のつもりだったが

前夜とメカジキがかぶり、とても連荘する気になれない。

 

献立はほかに

クロックムッシュ、キッシュ・ロレーヌ、

グラタン(ミートソース&じゃが芋)、

本日のサラダ(この日はスモークサーモン)

以上の4セットに惹かれるもの皆無。

男は黙って見切り千両、スッパリあきらめた。

 

此処は甘酒横丁、はす向かいに「玉ひで」がある。

親子丼を求める客でいつも長蛇の列なのに

誰も並んでないから緊事宣下の休業中と思いきや、

実際は開いており、列のない「玉ひで」を初めて見た。

 

「シェ・アンドレ」の真向いの店に目がとまる。

屋号「谷崎」の二文字に視線を奪われた。

J.C.とてティーンエイジは文学青年のはしくれ。

谷崎潤一郎の出生地は人形町と承知している。

店名はそこから拝借したものに相違ない

 

立て看板によると、夜のしゃぶしゃぶがウリらしいが

昼は手頃なメニューを取り揃えている。

文豪との関係を確かめたくて店舗のある2階に上がった。

 

おおっと、これは快適な空間だ。

馬蹄形のカウンターがとてもオサレ。

テーブルの配置スッキリと卓同士の間隔もじゅうぶん。

女性客が多いのもうなづける。

窓の向こうに「シェ・アンドレ」が見えた。

 

鳥から揚げはチキン南蛮、油淋鶏にアレンジ可能。

ハンバーグ、豚しゃぶなど、ほとんどの定食が1000円。

牛ハラミ丼は1300円だった。

豚しゃぶを通すと、ごまだれ、ポン酢、海苔わさびから

択べるというのでポン酢を―。

 

その際、カウンター内のスタッフに訊ねたら

谷崎との人的関係はなく、やはり生誕地だからとのこと。

帰宅後調べると、丁目・番地・号に至るまでまったく一緒。

はたして19世紀末にはどんな建物が建っていたのだろう?

 

運ばれたのは房総ポークの冷やしゃぶ、そこそこ美味しい。

付合わせの温(ぬく)い野菜は

エノキ・白菜・玉ねぎ・しめじ・にんじん。

豚汁の具は厚揚げ・じゃが芋・大根の茎。

そしてここにもエノキだ。

 

エノキに攻めまくられて仕舞いにゃ

コブラツイストでも仕掛けられるんじゃないか―。

おっと、そいつはエノキじゃなくてイノキだった。

いや、いや、谷崎&猪木とくりゃあ、

ここは一番、卍固めでキマリでしょうヨ。

 

「にんぎょう町 谷崎」

 東京都中央区日本橋人形町1-7-10

 03-3639-0482

2021年5月26日水曜日

第2662話 谷崎生誕の地は今 (その1)

メトロ半蔵門線を水天宮駅で降りた昼過ぎ。

ここは日本橋蠣殻町。

駅上に祀られる水天宮は久留米水天宮の分社だ。

安産祈願にご利益のある神さまである。

 

妊娠中の相方を伴って参詣・・・と

言いたいところなれど、そんな相手もいないし、

今さら父親になる気など、

小池のタヌちゃんじゃないが、さらさらないっ。

 

新大橋通りをはさんで隣接する人形町に向かう。

今日の狙いは「シェ・アンドレ・ドゥ・サクレクール」。

パリ下町のビストロを謳う店だが

サクレクール寺院はモンマルトルの丘の上だぜ。

そこをパリ山の手とはいうまいが下町はどんなもんだかなァ。

 

さっそく店先のメニュー板をチェック。

あちゃ~! 本日の日替わりが

メカジキのトマト煮・ケッパー風味と来たもんだ。

それはないぜ、マドモアゼル!

 

何となれば、前夜の晩めしであった。

厨房に立って作ったのが

メカジキのバタ焼き・エストラゴンとケーパー風味。

魚種にとどまらずケーパーまで一緒じゃんかヨ。

 

ちなみにケーパーは英語、仏語ならカープル。

ケッパーはかつて日本人の仏料理人が間違えたまま、

広く人口に膾炙してしまった和声英語といえよう。

よって、J.C.はケーパーと表記することにしている。

もっとも若い頃はケッパーと呼んでたがネ。

 

今は昔、仏料理はグランドホテルの独壇場。

東京の街に真っ当な仏料理店は数えるほどしかなかった。

料理人の勘違いといえば

チコリとエンダイヴもいい例だ。

 

日本では欧米と正反対の表記がほとんど。

正しくは葉を閉じた小さな白菜みたいなのがエンダイヴ。

しわくちゃチリチリの葉を持つのがチコリ。

チリチリ・チコリと覚えてほしい。

 

その証拠に

ロンドン・ニューヨークでエンダイヴと呼ばれる野菜は

パリ・リヨンではアンディーウ、

ローマ・ミラノだとエンディヴィアだからネ。

 

なぜ日本で入れ違いが生じたのだろう。

思うにエンダイヴの別称がベルギー・チコリであるため。

往時のコックさんたちはいつの日からか

ベルギーを省いてチコリと呼び始めたハズ。

せめてベルチコとでも略せばよかったのになァ。

何事も省き過ぎると、禍の元になるんだネ。

 

=つづく=

2021年5月25日火曜日

第2661話 もちは餅屋 うなぎは鰻屋

この日の昼めしは遠出せずに済ませるつもり。

だとしても未訪の店がいいな。

出向いたのは団子坂近くの「鳥安」。

イートイン店舗を併設する鶏肉専門店は

片手間にうなぎも取り扱う。

いや、片手間は失礼だネ。

何度も鶏肉を買ったが食事はしていない。

 

 13時を過ぎても席の半数は埋まっている。

その後も客足が途絶えることはなかった。

昼の主要な献立は三択。

うな重(1630)

焼き鳥重 からあげ定食(770)

うなぎをトライした。

レギュラーメニューのうな重は

(竹)(松)(特)の3種で24503060円。

 

すでに焼き置かれた蒲焼きを温めるだけなので

配膳はいたってスピーディー。

重箱には上(カミ)に加え、下(シモ)はハーフ。

四分の三身が横たわっていた。

 

シモから箸をつけるも特有の力強さが感じられず、

うなぎを食している気がしない。

粉山椒を振ってはみたものの、これもパンチ不足。

重箱の隅までびっしり詰まった白飯をどうすっかなァ。

 

主役の不調をカバーしたのが脇役陣だった。

温泉玉子は黄身の固まり具合よろしく、

きゅうり・かぶ・大根・白菜の新香も

浅い漬かりでまことにけっこう。

肝吸いならぬ、味噌椀はじゃが芋&わかめだ。

 

うなぎ屋で芋かよぉ、ダッセエなァ。

なんて野暮は言いっこなし。

すると思いのほか、じゃが芋が旨いんでやんの。

拍子木に切られたのがいっぱい入ってた。

とにもかくにもうな重をいただいて

二千円でオツリだから、けして文句は言えない。

 

とは言え、お冷や代わりの冷たい緑茶を飲みながら思う。

うなぎはやはり心と時間に余裕を持って

ゆっくりじっくり鰻屋で味わいたいもの。

われわれ庶民には多少の背伸びが必要な食べものなのだ。

 

もちは餅屋の言葉を残した先達に倣えば、

とりは鳥屋、うなぎは鰻屋。

「鳥安」は鶏肉専門店だから

焼き鳥重を通すのが筋であった。

 

「鳥安」

 東京都文京区千駄木2-13-1

 03-3821-1301

2021年5月24日月曜日

第2660話 室町に「砂場」あり

最初に大相撲のハナシ。

今場所は再三、不運に見舞われた照ノ富士が

どうにか優勝してくれて溜飲を下げたが

14日目の遠藤戦の行司差し違えはないヨ。

空中回転した遠藤の勝ちにはあきれ返った。

 

柔道だったら間違いなく照ノ富士のきれいな一本勝ち。

畳に先に手をつこうが肘がつこうが

柔道はひっくり返したもん勝ち。

相撲と柔道は別物とはいえ、悪くても取り直しでしょうが―。

 

妙義龍戦のまげつかみも

ほとんど勝負が決したあとの故意ではない偶然によるもの。

野球でいえば、野手が一度捕球したボールを

ポロリとやるようなものだ。

仕方がない部分はあるけれど、反則負けは厳しいなァ。

 

横綱昇進に向けて照ノ富士の最大の難関は

対戦相手でもなけりゃ、自分自身の心でもない。

審判部長の師匠、伊勢ケ濱その人、皮肉だねェ。

 

気を取り直してその日、日本橋を渡り、日本橋室町に―。

町名の由来は平安京の時代、京都にあった室屋町だ。

その後、呼び名が室町と短縮され、

足利三代将軍・義満が当地に御所を造営して移ったため、

室町殿と呼ばれるようになった。

室屋(食糧庫)が立ち並んでいたことも

京都と江戸の共通点である。

 

そろそろ昼めしにしたい。

いくつかある“コレド室町”には多くの飲食店が入居するが

目抜き通りの小規模店は櫛の歯が欠けるが如くに消えてゆく。

都や国が税制面で何かしら優遇策を打ち出さない限り、

老舗は絶滅の一途をたどるのみ。

江戸の名残をいかにとかせん。

 

室町4丁目の「砂場」にやって来た。

通い詰めたとは言い難いが初訪から40年は経っているハズ。

西暦2000年をまたいだ数年間は

オフィスが近かったため、ひんぱんに利用した。

 

久しぶりの入店に、おや? これほど照明が暗かったかな?

気のせいか・・・いや、明らかに暗くなってるゾ。

まっ、味に変わりがなけりゃ、それでいいんだけどネ。

でもやっぱり、そば屋は明るいほうがいいな。

 

緑茶を運んでくれたオネバさんに速攻で

別製ざる&もり(650円+)を通した。

当店のざるは1種なのに昔からなぜか別製を謳う。

酒がダメならつまみは不要。

「砂場」に来といて麦酒も清酒も飲まないのは初めてだ。

 

最初に登場したざるはさらしな粉使用の色白。

強いコシが歯をはね返す。

キリリと締まったつゆはほのかな甘みをたたえ、

藪系のソレよりもやさしく、好みにぴったり。

薬味はさらしねぎと本わさび。

わさびが香り高く、辛味もじゅうぶん。

 

2分後に挽きぐるみ粉のもりが追いかけてきた。

こちらは歯をささやかに受けとめて控えめに押し戻す。

湯桶(ゆとう)の提供、お冷やの注ぎ足し、

オネバ&オネエさんの接客に心がなごむ。

 

極上のそばを2枚いただき、支払いは1430円也。

1枚千円のそばが横行する時代に良心的な価格設定が光る。

禁酒令が解けた暁には馳せ参じ、ぜひ一献傾けよう。

室町に「砂場」あり、つくづく実感した。

 

「室町 砂場」

 東京都中央区日本橋室町4-1-13

 03-3241-4038