2022年5月31日火曜日

第3026話 かつて七年 棲んだ町 (その1)

例年、墓参はGWと決めているが
今年は機を逸してしまい、
遅ればせながら縁者と霊園で待ち合わせた。

まずは狼藉思うがままの雑草どもを
刈ったり抜いたりするが
何故か常連のススキがいない。
代わりに笹がけっこうな繁茂ぶりである。

こやつらがススキ以上に厄介だった。
細い根茎が深く根を張り、
一汗どころか二汗、三汗かく始末。
おまけに夏日ときたひにゃ、
途中で投げ出したくなったヨ。
このせいで翌日は上腕と太ももが筋肉痛。
なんか学生時代に戻ったみたい。

とまれ、どうにか墓前を掃い清め、
香華をたむけて手を合わせた。
遠くでカラスが鳴いている。

松戸市は1年ぶりながら
隣りの流山市はふた月前に不祝儀で赴いた。
今年の千葉県北西部は
黒い縁取り系の連続である。

汗をかいたあとの麦茶ならぬ麦酒は格別。
作業中、水分補給をこらえたからなおさらだ。
一刻も早くありつきたいので
霊園前でタクシーを拾う。

かつて七年間棲んだ上本郷へ。
松戸から新京成で一つ目、
上本郷唯一の目抜き通りに来ると、
事前に調べておいた、
日本そば屋「ひなり」は臨時休業だとサ。
”茄子の嫁入り”なる独創的な冷やがけを
楽しみにしていたのにー。

それではと同じそば屋「稲迺家」へ回る。
初訪問は1976年夏。
板橋区・成増から転居の当日だった。
引っ越しを助けてくれたT井サン&T正クンと
積み荷の整理が一段落して遅い昼めしをとった。

12年前にも今日同様、墓参りのあとの利用。
ビールのお通しが
かけづゆに浸した小さなかき揚げ。
これには驚いた記憶がある。

ところが「稲迺家」のシャッターも降りている。
貼り紙の文字が昨年末で閉業の知らせと
お客様各位への感謝を伝えていた。
ここ2年、目にタコが出来るほど、
灼きついた文言を見るたびにさびしさがつのる。

最後の手段は
4年前の墓参帰りにも立ち寄った、
町中華「大八北珍(だいはちぺいちん)」。
食事を終えた家族連れが出るのを待って
入店しようとすると
続いて接客係が出て来るじゃないか―。

そしたらオネエさん、
店頭の札をクルッと裏返しやんの。
”ただいま準備中”
それはないぜ、セニョリータ!

=つづく=

2022年5月30日月曜日

第3025話 理想の焼き鳥丼ながら

荒川を渡って江戸川区・西葛西へ。

昼めしの狙いは「鳥繁」の焼き鳥丼である。

当店はメトロ東西線の西葛西・葛西・浦安と

3駅連発で展開しており、

西葛西が本店の格付けらしい。

昼の営業はここと浦安店だけだ。


鳥繁丼(そぼろ&焼き鳥)、

小町定食(そぼろ丼&焼き鳥別皿)もあるが

鳥そぼろをあまり好まぬ身ゆえ、

ハナから焼き鳥丼に決めてある。

一応、メニューを確かめながらハッと気づいた。


(並)と(大)があり、

これはごはんの盛りだけでなく、

焼き鳥の本数が3種から4種に増えるのだ。

同じ部位なら量は必要ないけど、

やはりヴァラエティに富んだほうが楽しい。


ドライの中瓶を飲みながら待つこと10分弱。

どんぶりを彩る串々は

ももねぎま・皮・だんご・うず玉。

アッサリとしたタレにサッとくぐらせてある。


ほかに鳥白湯スープ、白菜漬け、
レタス主体のサラダは
醤油ベースのおろ玉ドレッシング。
おろ玉って何だ? ってか?
おろし玉ねぎのことざんす。 
だったらハナからそう書け!
はい、レイシツこきやした。

そこにもう一つ。
焼き鳥に搾りかけるカットレモンかと思いきや、
グレープフルーツだった。
デザートのつもりなんだネ。

備長炭のおかげで香ばしい。
個性的なのはだんご、これは挽き肉に非じ。 
むね肉と薬研ナンコツの粗いたたきだ。

硬いから歯が丈夫でないお年寄りは苦労しよう。
寅さんを思い出すなァ。
ヤケのやんぱち、日焼けのなすび。
色が黒くて食いつきたいが
あたしゃ入れ歯で歯が立たないよ。
と来たもんだ。

内臓好きのJ.C.としては
皮かだんごの代わりにレバーがほしい
レバーは好き嫌いあるからかな。
だったら皮はもっとありそうだけど。
加えてハツの不在が痛い。
まっ、昼はともかく、夜すらハツがないのは
I really don’t know why.

とは言え、バランスの取れた、
理想的な焼き鳥丼と言ってよい。
卓上には七味・粉山椒・粗塩。
さらに柚子こしょうと辛子の用意もあるので
気軽にお申しつけ下さい、一筆あった。
すべての店にこんな気配りがあったなら
客はどんなにシアワセだろう。

「鳥繁 西葛西店」
 江戸川区西葛西5-5-16
 03-3878-1186

2022年5月27日金曜日

第3024話 ポルトガルの三択ランチ (その3)

銀座の「ヴィラモウラ」での昼食。

マデイラのビール、コラルはすっきりさわやか。

フランス・イタリア・スペインなど

ラテン系諸国のビールはほとんどこのタイプ。

好みに合っている。

 

初めにサーヴされたサラダに存在感があった。

ロメインレタス・ラディッキオ(日本ではトレヴィス)・

赤大根・ごぼうマリネと盛りだくさんで

ドレッシングはフレンチ。

ケチ臭くないところがエラい。

 

バゲットもいい感じだ。

女性に人気の理由は

サラダとバゲットにもあろう。

小鳥のエサみたいな野菜とパンを

平気で出す店が少なくないなか、

好評価を与えたい。

 

フェイジョーダは豚肉たっぷり。

2種の豆にじゃが芋とにんじんも。

かつてアルゼンチンを訪れたが

ブラジルに行きそびれたJ.C.

この国民食をNYで何度か食べた。

 

当地のものは黒豆を使うため、見た目が黒っぽい。

当店の豆は白と茶色で皿全体の色合いが薄褐色。

肉は豚のみだが、相当投入されている。

本場のように耳や鼻など、

放るモンは使われていない。

 

一般的な日本人の口には

あまり合わないフェイジョながら

ポルトガル風はずっとマイルド。

相方ともども美味しくいただいた。

 

途中でプレートを交換したバカリャウは。

タラがいない地中海沿岸の国々で人気の食材、

干しタラのことである。

 

やはりタラの獲れない京都で

棒だらが好まれるのと同じだ。

タラの姿はほとんど見えぬが風味は立ち上り、

ポテトもホクホクと、最後まで冷めない。

 

ちなみに店名の「ヴィラモウラ」は

ポルトガル南部のマリーナ・リゾート。

此処からなら海原はるか、

マデイラ諸島が臨めるのではなかろうか―。

 

=おしまい=

 

「ヴィラモウラ 銀座本店」

 東京都中央区銀座6-2-3

ダイワ銀座アネクスB1

 03-5537-3513

2022年5月26日木曜日

第3023話 ポルトガルの三択ランチ (その2)

話をロンドンから銀座に戻す。

ポルト酒に似るマデイラ酒のふるさとから

届いたコラルのグラスを合わせ、

さァ、何をいただきましょうか?

 

メニューを開くと千円均一の3皿が基本のようだ。

フェイジョアーダ、バカリャウ・コン・ナタス、

ポルトガル・チキンの三択で

豚肉と豆の煮込み、干しタラとポテトのグラタン、

ポルトガル風チキンのカレーソース。

 

三択のポルトガル料理を目にして

聞こえてきたのはシャンソンらしからぬシャンソン、

「ポルトガルの洗濯女」である。

 

♪  洗濯女を知ってるかい 

       ポルトガルの洗濯女を

   とりわけセチュバル村の洗濯女たちを

       そこは洗い場というより  

   社交場のようで

   女たちが洗濯のリズムに乗って

       歌ってるんだ         ♪

(訳詞:壺齋散人)

 

1955年にジャクリーヌ・フランソワが歌い、

時を置かずに越路吹雪がカバーした。

江利チエミの「おてんばキキ」もこの曲だ。

まっ、“三択ランチ”が

“洗濯女”を連想させた次第です。

 

もっとも「ヴィラモウラ」のランチにはほかに

日替わり、カフェステーキ、カタプラーナがある。

だけども同じ千円の日替わりは

その日その日の出たとこ勝負。

当日はチキンのトマト煮だったかな?

 

ステーキはちょいと高めで

ブイヤベース風のカタプラーナは

3千円近くして、しかも2人前より。

よって客層の大半を占めるOLサンは三択から択び、

すべて試した常連が日替わりに走ったりしている。

 

われわれはフェイジョアーダとバカリャウを通した。

フェイジョのオリジナルはもちろんポルトガルだが

この料理はむしろ侵略された、

ブラジルの国民食となった。

 

世界では侵略者が被侵略地に

食習慣を残して撤退するケースが散見される。

韓国のキンパ(のり巻き)やいなりずし。

ベトナムのサンドイッチ、バインミー。

エチオピアのスパゲッティ。

みなそうだ。

上記の日・仏・伊三国は

それぞれに食文化を誇ってはいますがネ。

 

=つづく=

2022年5月25日水曜日

第3022話 ポルトガルの三択ランチ (その1)

本日のランチは銀座でポルトガル料理。

相方は半年前にやはり銀座で

シチリア料理をご一緒したM代サン。

前回同様、帝国ホテルのロビーで待合せた。

 

「ヴィラモウラ」は泰明小学校の真向かい。

入口がずいぶん狭いが階下に降りると

かなりのダイニング・スペースである。

その一番奥に案内された。

 

国産ビールは苦手な銘柄につき、

ポルトガル産にする。

ハナからそのつもりでいたけどネ。

コラルはマデイラ諸島で造られている。

1969年創業だから、まだ半世紀の歴史だ。

 

マデイラというと第一感は

クリスティアーノ・ロナウドの出身地。

だがJ.C.には思い当たる人物がいる。

 

あれは1973年11月。

現在ストックホルム在住の旧友・S水クンと

ロンドンに暮らしていたが

二人して文無しとなり、必死に職を探していた。

 

そこで見つけたのが「Wimpy」なる、

ハンバーグレストランだった。

われわれは学生時代にシティホテルで

働いた経験があり、ウエイターとしては一流。

即刻、採用が決まり、勤め始めた。

 

スタッフの面々は実にインターナショナル。

国籍でいうと、イタリア・スペイン・ポルトガル・

トルコ・イラン・バングラディッシュ・日本。

この中で唯一のポルトガル人が

マデイラ出身のマルティン小父さん。

 

英語がまったく話せず、

ディッシュウォッシャーをするしかなかった。

小父さんの休みは週末。

毎週ではないが金曜日になると

店のハンバーガー用バンズを手に取って

店外へ出て行き、ちぎってはまき散らす。

 

店の前は地下鉄のグロスターロード駅だから

たまったものではない。

構内に営巣するドバトの群れが殺到。

ここからがスゴいんだ。

 

小父さん、エサを与えながら物色し始め、

若くて小さいヤツ、言わばヒナ鶏ならぬヒナ鳩を

捕まえたかと思うと、瞬時に素っ首を捻ってグキッ!

テイクアウト用の紙バッグに放り込んでお持ち帰り。

生米と一緒に煮込んで至福のディナーにするんだと―。

 

まっ、コリアンの参鶏湯みたいなモンではあるがネ。

だけど怖れおののくわれら日本人は

小父さんのことを

“ピジョンキラー・マルティン”と呼んでいたのサ。

 

=つづく=

2022年5月24日火曜日

第3021話 背後で合コン真っ盛り

大井町線・上野毛の駅周辺を歩くも

これといって惹かれるスポットはない。

十数年前に訪れた中国料理店も見つからなかった。

さらに用賀へ徒歩移動する。

 

あれっ? 

用賀ってこんなにオサレだったかな?

等々力渓谷とはまた違う緑に包まれていた。

狙いを定めた居酒屋の開店まで1時間半もある。

あちこち徘徊して地理を頭にたたき込む。

これで土地カンはバッチリだ。

 

あと30分のところで「節」なるラーメン店に遭遇。

かつお節の節かな? それはともかく、

生ビール&餃子セット(ワンコイン)に誘われた。

餃子は7カンを4カンに減らしてもらう。

 

ガスの補給のつもりだったが

小ぶりな餃子が悪くない。

豚挽きを脇に追いやり、主役はキャベツだ。

餃子は肉々しいのよりキャベキャベしいのが好き。

 

17時を回り、「市屋苑」へ。

これを「いちおくえん」と読ませる。

3億円の府中に対して用賀は1億円ってワケか。

 

カウンターの一番奥に促されると

ヤケに騒々しい。

背後の大テーブルで早くも男女八人春物語。

世に言う合コンである。

牡馬5、牝馬3の出走はキビしいレース。

牡馬2頭があぶれること必至だ。

 

おっと、会津産の馬刺しがあるゾ。

しかもごていねいに赤身、霜降り、

赤身&たてがみミックスの三択。

店主は競馬の馬主かいな?

1億円からも推察できた。

いや、馬主は馬肉を食べないもんだと

馬主ののみとも・半チャンから聞いた。

 

赤身のおかげで生ビがスイスイと

ノドを滑り落ちてゆく。

豚串フライを追加する。

いけネ、さっき生姜焼きを食ったばかりじゃないか。

 

合コンでは自己紹介が始まった。

聞くともなしに聞いていると

「横山です。あだ名がヤンマーなんで

 そう呼んでください」

「・・・・・・?」

「あのぉ、横ヤンマーなんでェす。

 誰もツッコんでくれないから

 自分で言っちゃったじゃないですか」

「ああ、そういうこと」

ようやく小さな笑い声。

 

ハハハ、でもオッサンには受けたぜ。

チミも疲れるなァ、ねっ、ヤンマー!

 

「つけ麺 中華そば 節」

 東京都世田谷区用賀4-13-1

 03-3708-8778

 

「市屋苑」

 東京都世田谷区用賀4-14-2

 03-3707-3223