ボート池に浮かぶボートは数えるほど、それも片手で足りる。
池畔のベンチでは将棋を指すオジさんが3~4組。
ぐるりと囲んで見守る見物人を含め、おなじみの光景だ。
木陰にすっぽり収まって、炎暑をよそに涼しげである。
ヒマに任せて見物の輪に混じり、盤面をのぞく。
飛車取りと攻められた胡麻塩頭ののお爺さん、
熟考の挙句、飛車を下段に逃げたが
おい、おい、飛車を切って金を取らなきゃ自玉が詰んじゃうよ。
やれやれ、典型的な”王より飛車を可愛がり”である。
ずっと見物していても詮ないので散歩のリスタート。
広小路を左折して上野駅前に出る。
「丸井」地下にある「無印良品」と「GAP」で
徒然なる買い物を済ませ、東に進路を取って浅草に向かう。
目指すは吾妻橋の「23Banchi Cafe」だ。
まずはそこでヒャッコイのをやらにゃあ、浅草に来た意味がない。
殊にこの季節は必訪の必飲である。
仏具街の稲荷町を通り抜け、田原町に差し掛かる頃、
普段にも増して浴衣姿のカップルが多いのに気がついた。
中には植木鉢を下げている人々がいる。
おっと、そうか、今日からほおずき市だった。
もう何年も来ていないがよい機会だ、あとで立ち寄ろう。
くだんのカフェでドライの生のエクストラコールドを
立て続けに2杯飲り、長居はせずに墨東を北上する。
枕橋のたもとの「枕橋カフェ」が扉を閉ざしている。
1枚貼られた貼り紙は5月末で閉店の挨拶だった。
肉まん片手に飲むビールが好きだっただけに淋しい。
言問橋で隅田川を渡り返し、観音様の裏手から境内へ。
そこそこの、いや、予想以上の人出である。
鉢は2500円、枝は1000円均一
ウグイス嬢のアナウンスがほおずきの値段を告げている。
酉の市のように値段交渉の余地がなく、
明朗といえば明朗だが、味気ないといえば味気ない。
ほおずき市は芝の愛宕神社が始祖。
ほどなく浅草寺がお株を奪ったカタチとなり、
本家のほうは衰退どころか消滅してしまった。
ほおずきは鬼灯、あるいは酸漿とも書く。
観賞用や食用のほか、咳止めや解熱に効能があるため、
煎じて飲む地域が日本各地に点在している。
平安時代には鎮静剤、
江戸時代には堕胎薬として活用されたという。
境内を一回りしたら、またのどが渇いた。
乾いた花には水をやり、
渇いたのどには麦酒を与えなければならない。
角打ちの「大滝酒店」ならまだギリギリ間に合う時間、
駆け込んで何とか1本ありつけた。
再び一息つき、
さて、今宵身を置くのは江戸前鮨の名店。
自然に笑みがこぼれ、舌なめずりをする自分であった。