2011年7月4日月曜日

第88話 大塚は底なし沼 (その1)

豊島区・大塚はちょくちょく訪れる町。
戦前は隣りの池袋より隆盛をきわめた土地柄で
その名残りが懐旧の気持ちを盛んに刺激する。
線路脇に背の高いホテルが建ったりしたが
全体に低層の町並みが続き、
山手線とチンチン電車の駅を中心として
東西南北、どの方角に脚を向けても
異なる面影を見せてくれるところが好きだ。

東京屈指、それも右手の親指か人差し指に
数えられる酒亭「江戸一」の存在もまた、
大塚に引き寄せられる大きな要因。
近所の焼きとん屋「富久晴」も拍車をかける。
大塚に来て、この両者をソデにすることはあり得ない。
必ずどちらかに立ち寄るのが常、
あいや、両方行くことのほうが多いから
来れば3軒のはしご酒は必至だ。

2軒、3軒と回るうち、
頭の中を藤圭子の「はしご酒」がグルグル回りだす。
アレはまっこといい歌で彼女のナンバーワン。
だけど今日は歌詞を披露しない。
最近、歌謡曲の登場が多すぎるのでしばらく封印だ。
でも誰かが「歌ネタ出せ!」と言い出せば、またベツのハナシ。

数ヶ月前のその日は「江戸一」でスタート。
キリンラガー大瓶と真澄の銚子を1本ずつ空けた。
春まだ浅き宵につき、燗は上燗(ぬる燗と熱燗の中間)。
突き出しは塩豆、つまみは好物の桜海老おろし。
悪店に行くと駿河湾産桜海老の代わりに
台湾産オキアミをシャアシャアと出してくる。
もちろん「江戸一」にそんな心配は無用のこと。

四半刻ほど過ごして三業通りの「一松」へ移動。
友人と待ち合わせていたのだ。
サッポロ黒ラベルで乾杯後は芋焼酎・島美人のロックで通す。
前菜はふぐ煮凍りとポテトサラダ以外に
もう1品あったものの、忘れてしまった。
名残りのとらふぐ刺しと野菜の煮たのとでロックを4杯やる。

ネクストは前述の「富久晴」。
キリンラガー大瓶に戻し、焼いてもらったのはタンとハツを塩、
レバとシロはタレであったような、ないような?
酩酊が進んでどうにも困ったもんだ。

そしてなおも4軒目。
ビールを飲んだが銘柄すら思い出せない。
注文した肴が何で、それを食べたかどうかさえ記憶にない。
さらに店名まで覚えちゃいないから
数日後、確かめに舞い戻るったら「豊川」なる居酒屋だった。
急性記憶喪失につき、この店の批評は不可能だ。
よってデータも省略させてくださいまし。

=つづく=

「江戸一」
 東京都豊島区南大塚2-45-4
 03-3945-3032

「割烹 一松」
 東京都豊島区南大塚1-56-2
 03-3944-4649

「富久晴」
 東京都豊島区南大塚2-44-6
 03-3941-6794