2014年2月13日木曜日

第773話 途中下車は熱海と藤沢 (その1)

ミナミマグロの街、清水をあとにした。
これがマグロの代わりにカツオであったなら
”南国土佐を後にして”、
ペギー葉山の伸びやかな歌声が耳にこだましたことだろう。
とにかく、お腹はいっぱい、しかし、ビールなら入る。
何となればJ.C.の場合、麦酒は別腹だからネ。

清水から乗った東海道線は当然、上り電車だ。
東京までおよそ150キロ、下車候補駅を思い描くと、
富士・沼津・三島・熱海・小田原あたり。
う~ん、ここは熱海かなァ・・・。

でもって、降りやした熱海で―。
海方向に向かい坂を下ってゆく2本の商店街に活気が失せている。
一時期、復活ののろしを上げた熱海だったが
結局は薬局、もうダメなのかもしれない。

アーケードを抜け出たところに居酒屋風の中華屋を発見。
暖簾越しにのぞくと、初老の店主が立ったまま新聞を読んでいる。
やれやれ、この店もダメなのかもしれない。
だけど費やせる時間があまりないし、
食いモンなんかどうでもいいんだし、
どこの店で飲もうと、アサヒはアサヒ、サッポロはサッポロじゃないか!

ただネ、店名が「御冨久路」っていうんだわ。
”おふくろ”と訓ずるが、ダサさ、やぼったさの極みだぜ。
通常、この手の屋号は看過するところなれど、
事情が事情、大したちゅうちょもなく入店の巻である。

いきなり新聞立ち読みの店主と視線がバッチリ衝突した。
先方が会釈したので、反射的にこちらも頭をペコリ。
すると奴サン、新聞を手にしたままカウンターに着席したヨ。
何のことはない、彼は店主じゃなくて店の常連、
注文した醤油ラーメンの出来上がりを待っていたらしい。

カウンター内の厨房で、ラーメン作りに励んでいたのは
30歳前後かな? こちらが店主であった。
おいおい、まだ若いのに「御冨久路」はないだろがっ!
まっ、命名にはそれなりの理由があるんだろう。

さて、肝心のビールは生がアサヒ、瓶はサッポロ。
いいでしょう、いいでしょう、我慢したかいがあったというものだ。
即座に生ビールと餃子をお願いした。
いや、餃子が食べたかったわけじゃないけれど、
こういう店で飲みものだけじゃカッコがつかない。
って言うかァ・・・、一種のルール違反になるんだわサ。

落ちぶれ果てても、J.C.は武士じゃ!
注文の仕方だけは知っており申す! なのである。
中ジョッキをまたたく間に飲み干し、続けて黒ラベルを所望した。
餃子はいまだ焼き上がってはこない。

=つづく=