2016年10月21日金曜日

第1474話 湯島の仇を根津で討つ (その1)

不発に終わった湯島の「喜羊門」。
目の前の「デリー」で口直しという手もあったが
中華の仇をインドで討つんじゃ三蔵法師も納得すまい。
それに腹六分目といえどもこれからカレーライスはあり得ない。
かといって妙案はすぐに浮かばない。

エニウェイ、どこか近場に移動しなけりゃ。
湯島天神下からだと選択肢は広い。
広小路から御徒町にかけては飲食店が目白押し。
神田明神下も悪くないし、末広町方面だってある。
排除すべきは風俗店の客引きあふれる仲町通りだけだ。

このときひらめいたアイデアに思わずヒザポン。
そうだ、隣り町の根津に行こう。
このことであった。
不忍池のほとりを歩いていけば、たかだか十数分の距離。
そこにはかつてひんぱんに利用した広東料理の「楽翠荘」がある。
かなりの品目をハーフポーションで提供してくれ、
2軒目として使い勝手がとてもよろしい。
中華の失策は中華で挽回するのが手筋というものだ。

不忍通りと言問通りが交わる根津交差点そばの「楽翠荘」に到着。
店内は八分の入りながら、4人掛けのテーブルに案内される。
幸運だったが奥のダイニングからは団体客の嬌声が流れくる。
やれやれ、今宵はつくづく騒音に見舞われる夜だこと。

初秋の暖かな日。
飲みものは当然、ビールに逆戻りである。
遅れてやって来た、二人の春に乾杯を!
タハッ、まだ言ってるヨ。

初っ端のオーダーは青菜炒めと海老のチリソース。
ともにハーフサイズである。
青菜は小松菜だった。
八月の台風襲来以来、青物の価格は高どまり。
ビタミン補給はできるときにしとかなきゃネ。

海老チリもなかなかである。
ゆるいソースの店が少なくないなか、滋味に満ちている。
白いごはんが欲しくなるくらいだ。
まさか芝海老ではなかろうが海老自体も良質。
何だかホッとした。

1軒目の「喜羊門」同様、ここでも紹興酒に移行する。
ちょいとぜいたくして陳18年を所望した。
もちろん常温で―。
心なしか海老チリの美味しさが増すようだ。
この時点で失地回復の意を強くした。
やれやれ、よかった、よかった。

=つづく=