2017年5月11日木曜日

第1620話 街に花咲く すずらん通り (その2)

  ♪   カトレアのように 派手な人
     鈴蘭のように 愛らしく
     また忘れな草の 花に似て
     気弱でさみしい 眼をした子
     みんなみんな どこへゆく
     街に花咲く 乙女たちよ
     みんなみんな どこへゆく
     街に花咲く 乙女たちよ  ♪
        (作詞:西条八十)

舟木一夫の「花咲く乙女たち」は1964年9月のリリース。
東京オリンピック開催のひと月前だった。
街には「東京五輪音頭」と「愛と死をみつめて」、
そう、三波春夫と青山和子の歌声が流れていた。
かたやお祭り騒ぎ、こなた悲恋の死、
列島はまさに悲喜こもごもであったのだ。

それはそれとして千駄木すずらん通りの「囲味屋」である。
およそ1年ぶりの再訪となった。
此度はカウンターが予約客でいっぱい。
二人掛けの小卓に案内された。

例によってビールとともに供された突き出しは
蒸しがきと春菊の酢味噌和え。
酢味噌和えなら名残りのかきより旬のホタルイカが
ありがたいけれど、ぜいたくは言えない。

一品目にはサッと出てくる鯨のベーコンを所望。
浅草で遭遇した豪州娘、ブリの面影をしのびつつ味わう。
続いての刺身盛合わせは
真鯛・黒かれい・ホッケ・飛び魚・すまがつおの5点。

初めて食べるホッケの刺身は水っぽくもなく、
あっさりとした中にほのかな脂を感じさせてなかなかだった。
スマガツオはいわゆるスマのことでこれも珍しい。
カツオの仲間だから体形はソウダガツオによく似ているが
味のほうはむしろマグロに近く、生姜よりわさびが合うようだ。

前回同様、赤霧島のロックに切り替え、
焼き湯葉、穴子白焼き、こまい干しと食べ継いでゆく。
みなそこそこの水準に達しているものの、
「これは旨いっ!」―感嘆の声をあげるまでに至らず。

会計をしながら振り返ると、既製品の鯨ベーコン、
それに多種多彩な刺盛りがよかったように思う。
ただ、すぐに再々訪しようという気にはなれない。
客の心を惹きつけるサムシング・エルスがほしいところだ。

夜の更けたすずらん通りには
あちこちのスナックからもれる酔客のカラオケが入り乱れている。
千駄木のすずらん通りは商店街ではなく飲み屋街なのだ。
この様子じゃ東京すずらん通り連合会への入会は拒まれるだろう。
いや、入る気なんて毛頭ないか―。

「囲味屋」
 東京都文京区千駄木3-44-16
 03-3821-9833