2014年7月11日金曜日

第879話 秀治爺さんが愛した酒場 (その2)

でもって、表参道のヘアサロン「ブランコ」に通い始めた。
ところが担当の店長・T添クンが
ネール部門のヘッドの女性、何といったかな、
名前は失念したが、彼女と所帯を持って独立する運びとなった。
その開業先が神奈川県のセンター北ときたもんだ。

何とかやりくり頑張って、1年ほどは遠征したろうか?
その後はさすがにギヴアップ、
くだんの「ブランコ」に舞い戻ろうとした矢先である。
T添クンのアシスタントだったK子チャンが
父親の経営する渋谷の「B」に異動して
以来、お世話になっているわけなのだ。

どうでもいいハナシを引っ張ってしまったが
先週も二ヶ月ぶりに理髪をしてきた。
せっかく渋谷くんだりまで足を延ばして
このままスゴスゴ引き下がってはオトコが立たない。

はて、どうしよう?
どうしよう? はイコール、どこで飲もう?
ということである。
渋谷の行き着けとなれば、
唯1軒、「富士屋本店」しかないんだな、これがっ!

見覚えのある階段を久々に降りた。
若者の街・渋谷の地下にこんな空間が潜んでたのか!
初めて訪れた客は誰しもそう思うに違いない立ち飲み酒場が姿を現す。
現しはしたけれど、
いつもポジションを取る左奥に身を置くスペーはがなさそうだ。

店内を見渡すと、若いカップルの数が増えたように思う。
困るんだよねェ、こういうの。
若いアンちゃんとネエちゃんには
行くべきチェーン居酒屋がいくらでもあるだろうに―。
オヤジたちの憩いの場を占領してほしくはないんだわサ。

店のオバちゃんの指示に従い、
落ち着いたのは入口に近いトイレの脇だ。
いいヨ、いいとも、いいですヨ、
ベツにイケてるオンナを連れてるワケじゃなし、
一杯飲めれば、どこでもようござんす。

そんな気持ちでお願いしたサッポロ黒ラベルの大瓶。
本日のオススメのボードをしばし吟味して
選んだつまみは天然平目刺しである。
夏の平目、しかも天然となれば、産地は限られる。
十中八九みちのく、それも青森県だろう。

すばらしくはなくともそれなりの平目刺しには
一片のエンガワが添えられていた。
けっしてエンガワ好きではないが
そのコリコリ感はなかなかのものであった。

=つづく=