2015年8月3日月曜日

第1155話 池波翁の「銀座日記」 (その2)

昭和の人気TV番組、
「ロッテ歌のアルバム」じゃございませんが
1週間のごぶさたでした。

PCの不具合、その他もろもろの事情で
ブログのアップが大幅に遅れております。
これから早急に埋めてまいりますので
読者のみなさんには8月3日にさかのぼって
読み進めていただければ、ありがたく思います。

 さっそく「池波正太郎の銀座日記」を読み継いでいきたい。 

 浅草・上野・谷中 )

地下鉄で上野へ出る。
〔アサヒグラフ〕の絵の連載が間もなく終るので最後の取材。
上野駅や山内をスケッチしたり写真を撮ったりしながら、
谷中へ出た。
道を歩いているとB社の女性編集者に声をかけられたので、
谷中警察署のとなりの店で、
むかしなつかしい〔愛玉只〕を食べる。
〔オーギョーチー〕は台湾特産の蔓系植物で
これを寒天のようにして、独特のシロップをかけて食べる。
私が子供のころは、浅草六区の松竹座の横町にあった店で、
よく食べたものだが、いまはこの店だけだ。
五十年ぶりで食べたことになる。
 「どうだ、うまいかい?」
尋ねると、女性編集者は
「とても、おいしいです」
と、いう。
おせじではないらしい。
私も、むかしの風味が少しも損なわれていないように思った。
 
J.C.も〔愛玉只〕を二度訪れている。
さして旨くもないし、
ましてや甘味イーターでもないわが身、
ハナシの種に一度食べればじゅうぶんなのだが
雑誌か何かで白ワイン入りのオーギョーチーの存在を知り、
試してみたくなったのだった。
 
根津神社そばの日本そば屋「夢境庵」で昼食をとったのち、
15分ほど歩いて見覚えのある古い店舗にやって来た。
目当ての一品を注文したことは言うまでもない。
ところがコイツが大ハズレ。
とても食べられたものではなく、
たった2匙で文字通り、匙を投げ出した。
 
そのまま席を立つのも気が引けるので何か言いわけが必要だ。
「ちょっと忘れ物をしちゃったのでお勘定!」―
老店主はポカンとしていたが、これしか手立てがないやネ。
 
店を出てハッと気がついた。
根津のそば屋に本当に午後の会議資料を忘れてきてた。
今来た道を逆戻りの巻である。
われながらバカですねェ。
 
=つづく=