2019年2月14日木曜日

第2068話 驕る鳥家も久しからず (その3)

 「焼鳥 酉たけ」にて2杯目の生ビールを。
手元にはレバーの醤油煮がまだタップリ残っている。
デキはよいのだが、だんだん飽きてきた。
よって第二ラウンドにレバーの選択肢はなくなった。
あらためて焼き鳥のラインナップに目を通す。

皮・ハツ・砂肝―110円  
ねぎま・ささみ・せせり・はらみ・ぼんじり・
レバー・手羽先・ヤゲン軟骨―140円
つくね・はつもと・さえずり―160円
おまかせ5本―650円

全14種、それほどの品揃えではない。
何よりも大好物の背肝の不在が痛い。
追加したのはともにめったに注文しない皮とつくねだ。
この際に芋焼酎のロックを1杯。
銘柄は農家の嫁である。

明るい農村は飲んだことがあるが農家の嫁は初めて。
こいつが実に旨い。
ガツンと来たあと、奥行きが拡がってコク味を残してゆく。
まことにいまいましい、もとい、
芋々しい口当たりであり、ノド越しである。
願わくば、製氷機の氷でなく、ロックアイスを使ってほしい。

帰宅後、調べると、鹿児島は霧島町蒸留所の手になるもので
何と明るい農村の姉妹品だった。
鹿児島産黄金千貫を100パーセント使用し、
通常は蒸したさつま芋を原料とするところ、
焼いたさつま芋、いわゆる焼き芋を用いる。
黒麹を使った、かめ壺仕込みとあった。
道理で一味も二味も違うハズだ。

皮(塩)とつくね(タレ)が焼き上がった。
ところがこの皮が本日のワースト。
焦げた部分にチョキチョキ鋏みを入れないものだから
食感は悪いし苦々しい。
剪定不足が不出来の原因であることに疑いの余地はない。

つくねはまずまずながら、特筆には当たらない。
それにしても当店のチョコレート色のタレは
照りといい、コクといい、深味を感じさせる。
一朝一夕には作れない代物のようだ。
ただし、J.C.の好みとは少々異なるがネ。

「ご注文、ラストになりますが・・・」—
突然、女将に肥掛け、もとい、声掛けされた。
「エッ? エエ、けっこうです」—
とっさのことで反射的に応えてしまったが
コレって早いとこ勘定済ませてお引き取りを—
ってことなんだよよネ。
掛け時計を見上げたら、まだ18時08分であった。

そりゃ予約の際、確かに1時間そこそことは言いましたヨ。
でもネ、先客のグループもカップルもまだ悠々とお食事中。
丁寧な言葉ではあったが、ちょいとばかりシャクにさわった。
金3260円也を支払い、店をあとにしたとき、
焼き場で忙殺されていた店主からは一言もなかった。

まっ、やってなさいヨ、こういう商売。
驕る平家は久しからず。
驕る鳥家(とりや)もまた久しからず。

=おしまい=

「焼鳥 酉たけ」
 東京都千代田区神田神保町1-46
 03-5577-4182