2017年8月31日木曜日

第1690話 近頃笑った話が二つ (その3)

中央区のとある中華料理屋での一コマ。
料理が油っこいと文句を言った、
オジさんの皿をウエイトレスが斜めに支えている。
皿の下方に油が流れ落ちるから
上の方から食べなさいヨという意思表示だ。

これにはオジさん、さすがに意表を衝かれやしたネ。
しばらく無言で娘の顔を見上げてたっていうから―。
予期せぬ逆襲にあい、とまどいを見せたものの、
百戦錬磨のオジさんは大したもんだヨ、
いや、この場合、見上げたもんだヨというのが正しい。

短い沈黙のあと、
皿を持たせたまま、やおら食べ始めたそうだ。
ときどきチラチラと上目遣いに娘をにらみながら―。
いやはや、真っ当な神経の持ち主にこんな食事はできない。
落ち着いて食えないし、第一、食べた気がしない。

その間、ホンの数分。
半分ほど食べ進んだオジさんが口を開いた。
「もういいヨ、行きなっ!」
ウエイトレスはニコリともせず、ガタンと皿を置いたそうだ。
いや、彼女も大したもんだヨ。

ハハハハ、笑った、笑った、こんなのアリィ?
願わくば、その場に居合わせたかったネ。
もしそんな機会に恵まれたらきっと言っただろうな。
「オネエさん、悪いけどこっちもお願いしまッス!」

友人も自分が注文した焼きそばを食べながら
笑いをこらえるのに必死。
それでもお腹の底からこみ上げるものを
押し殺すことができなかったそうな。

さて、笑える話を聞かせてもらった銀座のビヤホール。
ともにジョッキは2杯目だ。
互いに食事が控えているのでつまみは何も取っていない。
でも飲みながらさっきの話が思い出されてつい笑ってしまう。
串カツよりも唐揚げよりも恰好の肴であった。

このときピカリとひらめいた。
そうだ! その店に行ってみようじゃないの。
オジさんは居なくとも接客のオネエさんは居るハズ。
料理の油っこさをチェックしてみたいし、
場合によっては斜め皿の料理をつまんでみたい。

相方の顔色をうかがいながら当たってみた。
「そこに行ってみたいんだが案内してくれないかな?」
「エッ、何のために?」
「いや、ベツに・・・、ただ何となく・・・」
一拍おいた彼女、表情にチラリ軽蔑の色を浮かべて
「お独りでどうぞ!」
だって!!

=おしまい=