2013年9月30日月曜日

第675話 一年ぶりに大宮へ (その1)

埼玉県・大宮にはまず行くことがない。
調べてみたら最初に行ったのが2001年の4月。
老舗洋食店「紅亭」でオムライスを食べたのだった。
オムレツの裾(すそ)がドレスのようにエレガント。
パリ社交界の貴婦人を思わせる一品は
ドレス・ド・オムライスの異名をとる。
玉子4個を使ったそれは美しさにおいて他を圧倒していた。

その次はつい去年のこと。
群馬県・桐生の行き帰りに二度立ち寄って
昼は有形文化財に指定したくなる中華食堂「多万里」で
ラーメンをすすったあと、駅前の大衆酒場「いづみや」にて一杯。
夜は夜で「いづみや」に立ち戻り、再び一杯。

今回は丸一年ぶりの訪問。
当日の相方は宮城も岩手に近い、
くりこま高原からやって来たN堂女史。
翌日、長野だか新潟だか、とにかく信越方面に足をのばすので
大宮に1泊するんだそうだ。
そこではるばる(そんなに遠くないけど)大宮くんだりまで
呼び出されたというワケなのです。

大宮駅の待合わせは16時ちょうど。
世の中まだとことん明るいが
そろそろ飲み始めても後ろ指を指されない時間帯だ。
一年前の再現ってことで、真っ先に出向いたのがここ。
道端で出会ったら絶対入店しちゃうネ

 ♪ つたのからまるお店で おそばをすすった日
   つゆ多かりしあの鉢の 焼き豚をつまめば
   なつかしい肉の香り ふわりふわり浮かぶ ♪

思い出すなァ、あれから1年か・・・。
フフフフフ、J.C.オカザワも今じゃ地方のドサ回り、
人生裏街道の枯れ落葉かァ・・・。

 ♪  義理の 義理の 夜風にさらされて
   月よお前も 泣きたかろ     ♪

いや、やめます、やめます、悪ノリしすぎだわ。

暖簾をくぐり、サッシの引き戸を引いた。
先客は二人だけで気の向いたテーブルに着席。
再会を祝して黒ラベルで乾杯する。
ん? いきなりジョニ黒か! ってか?
ちゃいますがな、サッポロ、サッポロ。

 ♪ ミュンヘン サッポロ サッポロ ミルウォーキー ♪ 

ってネ。
このCMソングが判る方はかなりの年配者。
店内もまたレトロスペクティブ

この空間に身を置けるシアワセをひしひしと感じてしまう。
ところがどっこい、ただ一つこの店には困ったことがあるんですわ。

=つづく=

2013年9月27日金曜日

第674話 あご出汁の五島うどん

 ♪ 会えば別れが つらいのと
   泣いてすがった 思い出の
   小雨そぼ降る 石畳
   あなたと二人 濡れた街
   あゝ ここは長崎 中の島ブルースよ ♪
            (作詞:斉藤保)

内山田洋とクールファイブの1975年のヒット曲「中の島ブルース」。
歌詞は札幌(1番)、大阪(2番)と来て、長崎(3番)にたどり着く。
もともとこの曲は歌志内炭鉱の社内バンドが
秋庭豊とハローナイツとして全国デビューをはたしたときのナンバー。
北海道だけに舞台は札幌だったところにに大阪と長崎を追加したのだ。
ときに1973年のことだった。

てなわけで、やって来ました長崎の街。
と言いたいところなれど、実際に訪れたのは
お婆ちゃんの原宿、巣鴨の地蔵通りだ。
とげぬき地蔵こと、萬頂山高岩寺のすぐそばに
1軒のうどん屋があり、その名も「ここは長崎」、
もとい、「ここ・長崎」という。
たぶんに「中の島ブルース」の歌詞を意識したネーミングだネ、これは。

何ヶ月も以前、ひかりTVで
「ぶらり途中下車の旅」の再放送を観ていたらこの店が登場し、
あご出汁(飛魚ダシ)の五島うどんがとても美味しそう。
以来チャンスを狙っていた。

物販を兼ねた店舗はとってもコンパクト。
営業時間は10時―18時で、うどんが食べられるのは11時―17時のみ。
さっそくお願いしたのがコレである。
飛魚だし冷かけうどんは650円

ややっ、こりゃまたずいぶん少ないねェ、他店の半分くらいの量しかないヨ。

少食のJ.C.だからよいものの、
若手のガッツリ派だったら天井を見上げて嘆くだろうなァ。
箸を手にとり、ツルツルッとやってみる。
ふ~む、うどん自体は好きなタイプだけれど、
つゆはアッサリしすぎるきらいがないでもない。

讃岐・稲庭・五島を集めて日本三大うどんと称するそうだ。
つゆに限ってはこの五島うどんがもっとも薄味。
そういえば以前はティーバッグのあご出汁で
よく味噌汁を作ったっけ・・・。
だんだん手に入りにくくなって、いつの間にかやめてしまったが
過ぎ去りし昔をほっこりと思い出した。

今度、あのティーバッグを見つけたら
懐かしの味噌汁を再現してみよう。
そのときの実(み)は三つ葉と木綿豆腐でいこうかな?
いやいや、この時期のことだ、茗荷と秋茄子だネ、やっぱり。

「ここ・長崎」
 東京都豊島区巣鴨3-38-4
 03-6426-2717

2013年9月26日木曜日

第673話 「酔来軒」再訪の夜 (その2)

よこはま橋商店街の南側入口にある「酔来軒」に独り。
板橋区からやって来る仲間を待ちながら
小上がりで生ビールを飲み始めたところだ。
そこへ店主がサービスしてくれた2切れのチャーシューは
紅麹で赤く縁取られた正統派、これが滋味たっぷり。
彼の気配りに心から感謝のJ.C.であった。

そうこうするうち5人組が到着した。
揃って生ビールで乾杯し、宴の始まり、はじまり。
さっそくくだんのチャーシューと、
これも必注の前菜三点盛りをお願いする。
前菜の内容は、皮蛋(ピータン)、ハチノス(牛の第二胃)、
小海老の天ぷら、実にニクい取合わせだ。

中ジョッキを4杯飲み下し、甕出しの紹興酒に切り替えた。
料理を追加しなければ―。
店独自のトマト肉団子はミンチの中にプチトマトが忍ばせてある。
ユニークな一品はあわてて食べると口内を火傷する。
綺麗なバラにはトゲがあり、可愛いトマトにゃ熱があるのだ。
それぞれに好みのものを頼んだ結果、卓上に並んだのは
餃子・揚げワンタン・大根餅など廉価なものばかり。
やれやれ、老い先さして長くもないのに板橋区民は庶民的だぜ。

締めには当然、酔来丼。
そのすばらしさを伝えるために
「FRIDAY」の記事をそのまま貼り付けてみます。

 今年最大の発見は「酔来軒」の酔来丼だ。
 誕生したのはおよそ13年前。
 チェーン店の牛丼が隆盛を極めていた時代に
 「街の中華屋ならではの、
  安くてボリュームのある丼をこしらえよう」と考案された。
 今では昼めしどきに客の8割が注文する一大人気商品に成長した。

 具材は自家製の焼き豚とシナチク、味付けもやしに刻みねぎ、
 そして中央に鎮座まします半熟目玉焼き。
 この五人囃子が丼をこれでもかと囃し立てる。
 直前に胡麻油、醤油ダレ、練り辛子を合わせ掛け、
 ビビンバのように混ぜていただくのが王道ながら、
 J.C.は具の2/3ほどをビールのつまみとし、
 残りをあまり混ぜずにごはんのおかずとするのが好みだ。

 酔来丼ただ一品で「酔来軒」のすばらしさを確信し、
 後日仲間を誘って小宴を張った。
 中には千葉の奥から東京を縦断して来た参加者もいて、
 小言の一つも出たものの、飲むほどに食べるほどに揃って破顔一笑。
 2時間掛けて窯で焼かれる焼き豚が白眉で、
 焼き豚6枚入りのスペシャル酔来丼(850円)も超オススメ。
 中華街ぱっかりが横浜ではナイあるヨ。

楽しい横浜の一夜は、あっという間に更けていったのでした。

「酔来軒」
 神奈川県横浜市南区真金町1-1
 045-231-6539

2013年9月25日水曜日

第672話 「酔来軒」再訪の夜 (その1)

およそ1年ぶりで横浜は阪東橋に近い、よこはま橋商店街へ。
狙いはユニークな中華料理店、「酔来軒」である。
集結したのは同い年が6名、J.C.以外はみな板橋区の住民だ。
K木夫妻、I﨑夫妻、そして未亡人・Gラ。
彼らはみな都立豊島高校の卒業生。
J.C.だけはすぐそばの同じく都立板橋高校出身。
まあ、縁あってともに酒を酌み交わす間柄となったわけだ。

「酔来軒」は去年の今頃だったかな、
週刊「FRIDAY」の巻末連載、
「旨すぎる!男の昼めし」に登場を願った。
この店の名物・酔来丼にたまたま遭遇し、
いたく感動したのがその理由だ。

酔来丼もさることながら、
ほかの一品料理も好打者揃いで残暑きびしき折、
飲み仲間を集めて小宴を張ったのが去年の9月初旬だった。
此度はその再現を試みたのだが、メンバーはまったく異なる。

メトロ副都心線と東急東横線がつながったので
板橋方面から横浜に来るのはとても便利になった。
1時間どころか50分を切るのだからネ。
ただし、先ほどネットの乗り換え案内をチェックして気づいたが
私鉄・東急の代わりにJR湘南ラインを利用すると
トンデモないことになる。
なんと490円で来れるところが780円になっちまうんだから。
東急なら渋谷―横浜が260円なのに対し、
JRの池袋―横浜は620円だもの。

親方日の丸、”官”のやることといったら
庶民から搾取することばかりだ。
まったくもって嘆かわしい。
おっと、JRはすでに”民”だった。
みなさん、できるだけ私鉄や地下鉄を使ってあげましょう。

板橋区民より先着したJ.C.が暖簾をくぐると、
店主、といってもまだ若いオニイさんが笑顔で迎えてくれた。
「その節はお世話になっちゃって」―いきなりお礼を言われた。
「エッ? 何で判ったの?」―キツネにつままれて問い返す。
確かに予約はオカザワの名前で入れた。
だけど、それだけで身元が割れちゃうかな。
だって取材はアシスタントとカメラマンがしてくれたから
面は割れていないハズなのだ。
それに綾小路とか、愛新覚羅ってんなら
覚えられてしまうけど、オカザワなんてありふれた苗字じゃないの。

あらあら、壁に「FRIDAY」のグラビア・ページがペタリと貼られてら。
「ウチの家宝にしてんです」―ご冗談でしょ。
こういうのってメッチャ恥ずかしいんだよネ。
咬みつき亀の友里征耶あたりだと大喜びするんだろうが
とかく控えめなJ.C.はテレちゃいます。

確保しておいた小上がりに独り上がり、
仲間に先立って、まずは生ビール。
港町・横浜につき、もちろん銘柄はキリンだ。
「プッファ~ッ!!」
京急・日ノ出町から歩いて来たから、これが旨いのなんの!
重ねて笑顔の店主が運んでくれた一皿に思わず破顔一笑である。

=つづく=

2013年9月24日火曜日

第671話 柴又へご案内 (その2)

寅さん映画で一躍有名になった葛飾・柴又、
帝釈天参道の「門前とらや」にいる。
映画とお寺のダブルご利益により、
商売繁盛なのは百も承知の上での入店だ。

当然、すんなり草団子だが、その前にビール。
「大瓶を1本、よく冷えてるヤツお願い!」―
釘を刺したのはぬるいのを出されると取り返しがつかないから。
「よく冷えてますっ!」―
お運びのオネエさんにキッパリ言い切られ、
なんだか叱責されてるみたい。
グラスを合わせると実によく冷えており、申し分なかった。
大瓶は650円、観光地プレミアムとは無縁だ。

ところが肝心の草団子(300円)が駄目。
見るからにおざなり
たかだか300円だからと言っちゃあ、おしまいヨ。
日本全国から訪れる人々をガッカリさせてほしくない。
緑色がドギツすぎて味も感心しなかった。
旨くもない餡子の絶対量が足りないので醤油を垂らし、
ビールのつまみに転用を試みるも、あえなく失敗の巻である。

N藤サンが注文したかき氷の抹茶ミルク(600円)もさえなかった。
初めは氷ミルクを所望したのに作れないとの釈明。
抹茶と抹茶ミルクはあるがミルクはできないらしい。
おいしそうには見えず
案の定、彼女は途中でギブアップ、やれやれ。

映画の「とらや」とは裏腹にメニューがカバーする範囲は広い。
各種うどん・そばに中華系は広東メンや角煮メンまでこなす。
ごはんモノも天丼・親子丼・カレーライス・オムライスなどなど。
なぜかカツ丼だけはなかったけれど・・・。

不完全燃焼のまま、店をあとにした。
まだ陽は高く、時間はじゅうぶんにある。
かといってこれ以上訪れる場所が柴又にあるワケもなく、
相方の意向を質すと、またもや意外な答えが戻ってきた。
葛飾のディープタウン・京成立石だとサ。

でもって行きました、行ったはいいが
目当ての「宇ち多゛」も「ミツワ」も「蘭州」もすべて休み。
やっとこサ見つけたのが「えびすや食堂」。
ここではメンチカツとマカロニグラタンで生ビールを。
洋食系もこなす店だが実態は食堂より居酒屋。
料理は洋食屋のように大きなプレートで来るのではなく、
あくまでもおつまみサイズだ。
いや、酒飲みにはこれでじゅうぶん。

柴又みたいに人を吸引するランドマークは皆無。
なのに昼日中から飲む客が多い立石。
明るいうちは柴又で過ごし、夜の帳が降りたら立石。
それが正しい京成電車の使い方なのだ。

「門前とらや」
 東京都葛飾区柴又7-7-5
 03-3659-8111

「えびすや食堂」
 東京都葛飾区立石1-15-1
 電話ナシ

2013年9月23日月曜日

第670話 柴又へご案内 (その1)

北海道・札幌からN藤サンが出張で上京してきた。
これからは東京出張が増えるんだそうだ。
また飲む機会が増えちゃうなァ・・・
まっ、それはそれでいいんだけどネ。

彼女と初めて会ったのは4年前の秋。
友人の紹介により、下町の酒場で同席した。
以来、何度か酒盃を重ねる機会を持ってきた。

今回は平日の昼に身体が空いたから
半日つき合ってほしいとの仰せだ。
いいですともと気軽に引き受けた。
夜は銀座でアポがあるとのこと、15時に落ち合うことにした。
どうせ行く場所は下町に決まっている。
会うときはいつもそうなのだ。

浅草・深川・人形町、どこへでもお連れしますヨと訊ねたら
何と、柴又に行ってみたいという応え、こりゃ驚いた。
どういう風の吹き回しかと思いきや、
数日前に「男はつらいよ 寅次郎紙風船」を観たのだと―。
なるほどそういうことか、
あの作品のヒロインは確か、音無美紀子だったな。
本郷・菊坂の旅館なんぞも出てきたな。

でもって、お連れしました葛飾・柴又へ。
待合わせたのはJR常磐線・金町駅のホーム。
先ごろ不幸な死に方をした藤圭子が

 ♪ 金がなくても 金町は
   させてあげます いい思い 
   よってらっしゃい よってらっしゃい お兄さん ♪
                (作詞:はぞのなな)

と歌う、「はしご酒」の舞台にもなった金町だ。
そこから歩いて到着したのが柴又駅前の広場である。
ここには寅さんの銅像が建っている。
しかし、これが何とも不デキ。
人相が悪いというか、姿かたちがイケないというか、
何とも暗い、やくざ風の寅さんになってしまっている。
それが証拠に地元民にも訪問者にもまるで愛着されていない。

広場には何度か訪れたことのある居酒屋「春」が健在。
この時間ではまだ開いていない。
とにかく参道に向かい、帝釈天の名でおなじみ、題経寺に詣でる。
矢切の渡しには乗らなかったが、江戸川の土手にも行ってみた。

参道に戻り、ひとまず休憩。
イヤ~な感じがした「門前とらや」に様子見で入ってみる。
ここはもともと「柴又屋」が屋号。
映画のの第4作までは撮影の舞台となった店だ。
それが「門前とらや」と改名したために
第40作の「寅次郎サラダ記念日」以降、
作中の「とらや」は「くるまや」に変更を余儀なくされた由。
なんかイヤだネ、あざとさ丸出しの所業じゃないか!

2013年9月20日金曜日

第669話 Zooでピープル・ウォッチング (その2) 動物園こそわが楽園 Vol.8

上野動物園は西園のカフェテリア。
平日の午後につき、店内はガラガラだ。
これが土・日となると、こうはいかない。
入場者数は平日の4~5倍になるんじゃないかな。

余裕で卓に着き、冷たい生ビールを渇いたノドに流し込む。
ここのビールはキリン一番搾り。
ヤンキースのイチローが
「うま~く搾ってるなァ~!」と感嘆したヤツだ。

それにしてもZooで飲むビールは旨い。
ものの5分でお替わりに立ち、自分の席に戻ってみると、
隣りのテーブルに外人サンの3人連れがいた。
母親と娘と息子が揃ってかき氷を楽しんでいる。
キミたちの故国にかき氷はないやろ
この暑さだ、かき氷が不味いわけがない。

彼らの奥では日本人の男の子が独り、これまたかき氷。
何で年端もいかない子が独りなんだろう?
保護者はいったいどこへ消えたんかいな。

それはそれとして、外人親子の会話が途切れとぎれに聞こえくる。
でもネ、なんか聞き覚えのないランゲージなんだよなァ。
いったい彼らはナニ人なんだろう。
興味深々で席を移動しちゃったヨ。
移動といっても同じ卓、向かいの椅子に移っただけだ。
先の写真の母親と背中合わせに座ったことになる。

その体勢でそっくり返ると、親子の会話が筒抜けになった。
ややっ、これは珍しい言語だヨ、聞いたことない言葉だヨ。
耳を澄ますこと3分あまり、ハハ~、何となく思い当たった。
こいつはおそらくオランダ語だネ。
確証はないが、まず間違いあるまい。

胸のつかえが下りて心も晴れた。
われに返ってカフェテリア内を見渡すと、
おう、おう、ずいぶん外国人が多いじゃないの。
それもみな、子ども連れだ。
日本人と半々とまではいかずとも、3割がたはフォリナーだ。

ひときわ目立つ、インド人ファミリーをウォッチングしていてふと思った。
そうだ、ここにはインドライオンがいたっけ・・・。
ピープル・ウォッチングもほどほどに、アニマル・ウォッチングへ向かう。

それがこの雄姿である。
優雅なメスのインドライオン
彼女は隣りのトラを眺めているのだ。

今は昔、ライオンはアジアにもたくさん棲息していたそうな。
強靭なトラに駆逐されてアフリカ大陸に追われたそうな。
まともに勝負したら間違いなくトラはライオンより強い。
野球だってタイガースのほうがライオンズより強いもんネ。

2013年9月19日木曜日

第668話 Zooでピープル・ウォッチング (その1) 動物園こそわが楽園 Vol.8

 ♪  どこかに故郷の 香をのせて 
  入る列車の なつかしさ 
  上野は俺らの 心の駅だ 
  くじけちゃならない 人生が 
  あの日ここから 始まった ♪
     (作詞:関口義明)

本日は井沢八郎の「あゝ上野駅」で始めてみました。

上野駅は今年の7月28日に開業130周年を迎えている。
おっと、井沢八郎といっても判らない方のほうが多いかもしれない。
すでに亡くなって6年にもなるし、
女優・工藤夕貴のパパのほうが通りがいいだろう。

集団就職にスポットライトを当てたこの曲は
東京五輪の年にリリースされた。
集団就職は東京・世田谷区にある、
桜新町商店街(通称・サザエさん通り)に新潟県・高田から
中学を卒業したばかりの15名がやってきたのが始まり。
ときに昭和30年3月26日だった。

さて、ひと月ほど前、灼熱の午後のこと。
埼玉県・浦和市で所用を済ませ、上野駅に戻ってきた。
降りた京浜東北線のプラットホームにしばしたたずみ、
にわかハムレットの心境である。
とにかくノドが渇いて仕方がない。
弱ったときには生ビールだろう。
三木のり平は、何はなくとも江戸むらさき、
J.C.オカザワは、何はなくとも生ビールである。

ハムレットのごとく、何を迷っているのかというと
駅のホームの階段を昇るか、降りるかであった。
階段を降りて不忍口に出れば、目の前はアメヤ横丁、
昼から飲ませる酒場が目白押しである。
はたまた階段を昇って公園口を出れば、
そこはアカデミックな一画、飲み屋なんぞありはしない。
でもJ.C.にはとっておきのスポットがあるんでやんす。
そう、わが楽園の上野動物園だ。
動物園にはアルコールとして唯一の生ビールがあるのだ。

悩んだ末に階段を昇り、東京文化会館の脇を抜けた。
動物園にはメインゲートから入園し、
パンダ舎を右に見ながら進路を左にとる。
3頭のインドゾウに見送られてサル山の前に出た。
そこは休憩所で、奥にはカフェテリアも完備されている。

よっぽどここで1杯と思ったものの、
気に入りスポットはイソップ橋の先にあった。
ハチスの花咲きみだれる鵜の池のほとりか、
クロサイ夫婦の真ん前の西園カフェテリアだ。

その日の太陽は灼けていた。
パラソルの下といえども、さすがに野外はきびしい。
よって冷房の利いたカフェテリアへとなびいてしまった。

=つづく=

2013年9月18日水曜日

第667話 ハマの酒場で酔いました (その3)

新子安で飲むのは初めての体験。
「市民酒蔵 諸星」もH江クンの推奨店である。
市民の酒蔵を名乗るくらいだからCPはよいのだろう。
聞くところによるとメディアに何度も紹介され、
ハマでは名の知られた人気店なのだそうだ。

駅の改札から徒歩1分。
到着したら暖簾も看板もずいぶんと年季が入っている。
都内でこんな店にはなかなか出会えない。
先刻訪れた「根岸家」とは似ても似つかぬご面相である。

入店してまた驚いた。
縦長の店内の左側に長いカウンターが一本走っている。
客はカウンターの両側に向かい合って座るのがルールだ。
となれば向かいがツレで両サイドは他人になる。
ヨソではまず見ないユニークなレイアウトだから
初めての客は例外なく隣り同士に座っちゃうネ。
こんなスタイルもあるんだなァ。

最初の1杯はここでもキリンラガーの生。
相方は梅しそ風味のバイスサワーをチョイスした。
何の変哲もないキンピラがお通しで少々ガッカリ。
ハムカツが名物と聞き及んだものの、
かねて狙いの餃子メンチカツをお願いした。
挽き肉代わりに餃子のアンが仕込まれたメンチカツは
大して旨いものでもなかったが
一応、初物はトライしておこうと思ったわけだ。
もう一品は水茄子浅漬け、好きなんだよなコレ。

店内は活況を呈している。
接客はオニイさん独りで何だか不機嫌そう、客に対しても素っ気ない。
まァ何度か短い言葉を交わすうちに打ち解けてはきた。
相性ヨシとまでは言わないが互いの印象は悪くないハズだ。

生ビールの次は飲みものリストにあったズブトニック。
初めて目にするドリンクである。
読者でこれが何だか瞬時に判る方はかなりの呑ン兵衛ですヨ。
もちろん、あちこちで飲んだくれているJ.C.には容易に察しがついた。

競馬用語に”ズブい馬”というのがあるが、この”ズブ”はさに非ず。
酒場で”ズブ”といったらズブロッカしか考えられない。
絶滅危惧種・ヨーロッパバイソン(野牛)の主食となる、
バイソングラスを注入したウォッカの一種がズブロッカ。
桜もちの葉にそっくりな香りを持つ蒸留酒は
キンキンに冷やして生(き)で飲るのが一番旨い。
ただし、旨いが強い。
だからこそ「諸星」はトニックウォーターで割って出すのだろう。
要するにウォッカトニックならぬ、ズブロッカトニックなのだ。

いささか酔いが回ってきていい気分である。
それにしてもハマの大衆酒場で
ポーランドの銘酒に巡り逢えるとは夢にも思わなかった。
季節はずれの葉月(八月)に桜の葉の匂いを嗅いだ相方は
「桜もち! 桜もち!」―ことのほかオハシャギあそばしている。
フフッ、どこまでも目出度いヤツよのォ。

=おしまい=

「市民酒蔵 諸星」
 神奈川県横浜市神奈川区子安通3-289
 045-441-0840

2013年9月17日火曜日

第666話 ハマの酒場で酔いました (その2)

JRは東神奈川駅、京急なら仲木戸駅前の大衆酒場、
「根岸家」でのみとも・P子と飲んでいる。
最初のつまみはくずれしゃこなる他店ではお目に掛かれぬ代物。
おっと、その前に突き出しがスッと置かれた。
これが酒場には場違いな心太(ところてん)。
でも涼やかな小品は夏場にピッタリだ。

案の定、くずれしゃこはけして悪くなかった。
しっとりとしてパサついたところがなく味もけっこう。
身体の線は崩れてもなお、
魅力を失わぬ年増女の風情すら漂う。

相方が真っ先に選んだのは〆さば。
小肌酢と迷った末に決断した様子だ。
ポーションは小さめだから両方頼めばいいようなものだが
昼にあじ刺しとあじフライを食べてきたことだし、
これじゃ一日中、青背だらけになっちゃうヨ。
しっかしP子はこういうサカナが好きだ。
DHAやEPAに思い入れでもあるのかな? 美容にいいのかもネ。

くだんの〆さばは〆が甘いものの、水準に達している。
元部下・H江クンが推奨するだけのことはある。
日本酒のぬる燗に切り替えた。
相方のお替わりはレモンハイだ。

市場の「浜膳」で刺身からフライに移行したように
ここでも揚げものの吟味に入った。
互いに一品づつチョイスした結果が玉ねぎフライと自家製コロッケ。
居酒屋であまり見掛けない玉ねぎフライは
あれば必ずオーダーする気に入りメニューだ。
ニューヨークのステーキ屋で食べるオニオンリングより、
東京の居酒屋の玉ねぎフライのほうがはるかによい。

そろそろ二軒目に流れるとしようか。
と、そのとき視界に入ったのが壁の貼り札、支那竹(330円)だった。
メンマじゃなくてシナチク・・・いいですねェ、この響き。
当該国が支那と呼ぶな! ってんだから
仰せに従うのはやぶさかじゃござんせん。
だけどネ、メンマよりはシナチク、ラーメンよりは支那そば、
そのほうがずっと旨そうに聞こえるじゃないか。  
昔はみんな支那竹と呼んでたし、キムチだって朝鮮漬だった。

でもって、追加注文した支那竹である。
隣国に配慮する気などサラサラないウドの大国に
いささかも怖じることなく、
”支那”を明記した店の心意気をJ.C.はシナチクとともに味わった。
大衆酒場で中華風の味付けは舌先が変わってまた楽しい。

お勘定は4000円でオツリがきた。
JR京浜東北線に乗って一駅東京寄りの新子安へと向かう。
目指すは「市民酒蔵 諸星」である。

=つづく=

「根岸家」
 神奈川県横浜市神奈川区東神奈川1-10-1
 045-451-0700

2013年9月16日月曜日

第665話 ハマの酒場で酔いました (その1)

 ♪ 京都にいるときゃ 忍と呼ばれたの
   神戸じゃ渚と 名乗ったの
   横浜(ハマ)の酒場に 戻ったその日から
   あなたがさがして くれるの待つわ
   昔の名前で 出ています      ♪
           (作詞:星野哲郎)
 
そう、ハマの酒場で飲むとなれば、
聴こえてくるのはこの曲以外にありえまっしぇん。
「昔の名前で出ています」は
レコードの売上枚数において小林旭、最大のヒット曲。
1975年正月にリリースされたものの、鳴かず飛ばずの憂き目をみて
本格的に売れ出したのは2年後のことだった。

さて、かき氷のためだけに横浜駅に舞い戻ったが
またもや電車に乗って移動したのは東神奈川駅。
京急の仲木戸駅がすぐ目の前にある。
今日は何だか昼間っからこの一帯を堂々巡りしているみたい。

今宵のターゲットは2軒の酒場であった。
実は以前、元部下のH江クンから
「東神奈川と新子安にすばらしい居酒屋があるんで
 ぜひ行ってみてください」ーそんなメールをもらっていた。
当ブログで横浜駅裏の狸小路を紹介した頃だったから、
かれこれ半年以上経過している。
やっと機を得たわけだが
フットワークが重すぎやしないかい? われながらヨッ!
ちなみにH江クンは花江サンとか久江サンとか
はたまた広江サンとかの女性名じゃなくて男の苗字です。

一軒目は東神奈川駅前の「根岸家」。
まだ開店の16時からそれほど経っていないのに
早くもコの字のカウンターはほぼ満席だ。
運よくわれわれは2席続きに座れたが
この時点で空席はあと1つのみ。
5分後に入店した二人連れはあえなくテーブル席へご案内っ!
おお、あぶねェ、あぶねェ!

ここもハマのご多分にもれずキリンラガー。
本日二度目の乾杯である。
品書きに目を移すと・・・うわっ、迷っちゃうぜ、こりゃ!

 くじらベーコン 780円  まぐろブツ切 500円  しめさば 450円
 活さざえわさび 420円  くずれしゃこ 400円  自家製いか塩辛 380円
 たこぶつ切 380円  こはだ酢 320円  いかさつま揚げ 300円
 自家製コロッケ 350円  玉ねぎフライ 260円 赤がれい煮付 220円

ホンの一部である。
J.C.がイの一番に惹かれたのはくずれしゃこ。
何となく意味は通ずる。
良形のしゃこではなく、剥き方が不味くてくずれちゃったヤツ。
いいでしょう、いいでしょう、くずれ上等、第一、正直でいいやネ。
それにひょっとすると、ハマは蝦蛄の名産地、小柴に近いから
不漁の本場モンは無理でも近くの良品が入荷してるかもしれないし・・・。
まずはくずれしゃこ1人前をお願いした。

=つづく=

2013年9月13日金曜日

第664話 ハマで氷を食べました

すごろくじゃないけれど、振り出しの横浜駅に戻る。
たかだか数時間前に品川発の京浜急行で乗り込み、
ここからハマの市場まで歩いたのだった。

とにかく疲労回復にはガソリンを注入するしかない。
P子のリクエストは何と、かき氷であった。
ネット検索では横浜高島屋内の「清月堂」」が界隈では一番と出た。
甘味喫茶は気に染まぬものの、背に腹はかえられない。
弱ったポパイにゃほうれん草、まいったP子にゃかき氷ときたもんだ。
それじゃあ、オマエは何なんだ! ってか?
ヘヘ、J.C.にはよく冷えたビールでやんすヨ、決まってるじゃん。
ちなみに語尾のこの”じゃん”っていうのネ、
これってハマッ子弁だって知ってました?

「清月堂」は混んでいた。
ウェイティング・スペースで待たされること10分。
案内された店内はまさに女だけの都だ。
右を向いても左を見ても、女、おんな、オンナ。
ザッと数えて30人は下らない。
老若を問わず、女性であふれ返っている。

男独りの立場上、何だか女風呂に迷い込んだ心持ち。
もっとも状況は多勢に無勢だから
”見る”んじゃなくて”見られ”ちゃうのが関の山だ。
思わずタオルで股間を隠しちまった・・・ってのは悪い冗談。
あっ、言っときますがネ、J.C.は基本的にシモネタは嫌い。
映画「ゴッドファーザー」でシチリア娘を演じたグラマラスな女優、
シモネッタ・ステファネッリは好きですけどネ。

両サイドが狭苦しい席におさまり、向かいの氷ミルクをながめつつ、
こちらは氷いちごをいただいたのでした。
もっとも半分はお向かいに献上しましたが・・・。
1杯半のかき氷で息を吹き返してくれれば、それに越したことはない。

確かにそこいらの甘味処のかき氷の水準は超えていた。
でもネ、いかんせん甘すぎだろうヨ、コレ。
普段、甘いもんとは縁がないから余計に強烈だ。
浅草はひさご通りの「初音茶屋」に遠く及ばないし、
谷中銀座に脇の「ひみつ堂」にも近く及ばない。
かき氷はシロップよりも何よりも、かき削られれた氷そのものが肝心。
朝日に輝く新雪のごとき氷となれば、「初音茶屋」に勝る店はない。
今シーズンは一度もおジャマしてないが、女将さん元気かな?

デパートの外に出ると、外はまだ明るい。
でも、そろそろ飲み始めても後ろ指を指されぬ時間となった。
駅の改札口を行き交う人々にも
会社帰りのサラリーマンがポツポツと混じっている。

さあて、いよいよハマの酒場で飲むのだ。
ハマの酒場となれば、
ほうれ、聴こえてきました、きました、あの曲のイントロが・・・。

「甘味茶屋 清月堂 横浜高島屋店」
 神奈川県横浜市西区南幸1-6-31 横浜高島屋 4F
 045-311-5111

2013年9月12日木曜日

第663話 ハマの舗道を往きました

昨日の「生きる歓び」を読んでくれた山梨県・甲府市のM浦サンと
ニューヨーク市・マンハッタンのK島サンから
同じ内容のメールをいただいた。
河岸の食堂「浜膳」で食べたあじ刺し定食のことである。
「あじ刺しの写真が小さすぎて鮮度が判りまへん」との仰せであった。
植木等じゃありやせんが、こりゃまた失礼をいたしました。
ではあらためて
さァ、このアップでどうだ!
鮮度の高さを判っていただけますよネ?

さて、さて、横浜中央卸売市場から東神奈川駅への道すがら
思い至ったのは白楽駅前から坂道を降る六角橋の商店街だ。
歩いていて楽しい通りで時間をつぶすにはもって来いだ。

テクテクと東神奈川を過ぎ、東急東横線の東白楽に差し掛かる。
ここで同行のP子が音を上げてしまった。
もう歩けまへんとヨ。
さもありなん、かなりの距離を歩かせたからねェ。
少し楽させようと、たった一駅を電車に乗った。

白楽駅から六角橋交差点まで、2本の商店街が平行して走っている。
大通りは六角橋商店街、裏通りは六角橋ふれあい通り商店街。
面白いのはレトロスペクティブな後者だ。
その名の通り、人がすれ違えば互いの袖がふれあうほどの狭い路地。
なのにちゃあんとアーケードがかぶさっている。
すでにシャッターを下ろした店もあるにはあるが
相対的にどうにかこうにか生き残っている様子だ。
どうでもいいけど、デジカメを携帯してるのに
なんでこの通りを撮らなかったかなァ、惜しいことをしたヨ、まったく。

そぞろ歩いて交差点、またもやツレがエンストを起こした。
おい、おい、またかヨ、これからは真夏の真昼は誘わん。

 ♪ 足手まといだから 別れて行きます 
   ゆうべひとりきりで きめました 
   あなたにだまって 旅立つことは 
   身をきるような 身をきるような おもいです 
   わかってくださいますね あなたなら   ♪
           (作詞;高畠じゅんこ)

森雄二とサザンクロスの「足手まとい」は1980年前後のヒット曲。
当時、スナックで飲んでると、有線からひっきりなしに流れてたっけ・・・。

足手まといとまで言っちゃ可哀想だけれど、
「おまえは武士の末裔だろがっ!」―のど元まで出掛かった。
すると折りよく六角橋交差点のすぐそばの道端に
ベンチが設置されてるじゃないの。
渡りに舟とそこで休ませておき、こちらはしばし近辺の探索である。

30分ほど費やして戻ってみたら、何とか元気を取り戻した様子。
先刻、電車に乗った東白楽へだましだまし歩かせて
再び電車で舞い戻った横浜駅である。

2013年9月11日水曜日

第662話 ハマの市場へ行きました (その2)

コレを書きながら聴いている吉幾三のCDは早くも2周目。

 ♪ 津軽海峡 捨ててきた
   こなごなに こなごなに写真
   も一度 も一度 やり直せるなら
   このまま このまま 引き返すけど
   もう遅い もう遅い 涙の海峡  ♪

幾三サン、熱唱の「海峡」だ。

さて、こちらは津軽海峡ならぬ横浜港にいる。
熱い陽射しがコンクリートにはね返り、ダブルで暑い、暑い。
遠出の目的は場内の食堂で昼めしを食べること。
市場で荷おろしの作業をしていたアンちゃんに訊ねて到着したのがここだ。
隣りにその名も「市場食堂」なるハデな店があったが
店頭の自販機の数がハンパじゃなく、入る気にならなかった。
いかにも市場の食堂といった風情
ふ~ん、ハマの食堂で「浜膳」かァ、そのまんまだわ。
そういやあ、そのまんま東、最近見掛けんなァ。

ビールはキリンのラガーしかない。
横浜は国産ビールの発祥地にしてキリンの創業地、
一大キリン王国なのである。
この際、銘柄なんかどうでもいいや。
プッファ~! この瞬間のために歩いて来たんだもんネ。
一瞬、もう死んでもいいっ! って思っちゃったもんネ。

注文したつまみは以下の3品。
自家製ポテサラときゅうりのぬか漬け
3枚付けのあじフライ
ポテトときゅうりがとてもよかった。
試しに芋の上にきゅうりを乗せて食べたら、これがぴったしカンカンなのだった。

飲んでばかりはいられないので定食を一人前。
あじ刺し定食は800円也
実はビールで乾杯してるときに
同じあじ刺し定食が隣りの卓へと運ばれていった。
それを盗み見したJ.C.、あじの質の高さを確信し、
青背のサカナに目のないP子に強く推奨したのだった。
ねっ、ご覧くださいまし、鮮度抜群でしょ?
案の定、その美味しさに舌鼓の二人となった。
コイツを酢で軽く〆、本わさでやったらさぞかし旨かんべ。

店はホールに気のいいオバちゃん。
厨房にこれまた人の好さそうなオジさんと洗い場のオバちゃん。
洗い場のオバちゃんは昔の美人サンで、微笑みに気品が漂っている。
皿を洗いながら笑顔が絶えないのは職場が楽しいのか、
日常生活がシアワセなのか、おそらくその両方であろう。

壁のメニューボードをながめていたP子が
「ねェ、あづま丼って、なあに?」―こう訊ねてきた。
「ほほう、いいところに目をつけたじゃないか、
 鉄火丼のまぐろをヅケにすると、あづま丼になるんだヨ」―こう答えてやる。
「へえ~っ、そうなの!」―さすがにじぇ、じぇ、じぇとは言わなんだ。
生まれて初めて目にした由、目をまん丸にしてしきりにうなずいていた。

ごきげんの昼食後、炎天下を東神奈川駅に向かいながら
本日のこれからを思案する。
今宵もともにはしご酒の約束をしちまったからネ。
夕暮れまでずいぶん時間があるヨ、ハァ~。

「浜膳」
 神奈川県横浜市神奈川区山内町1
 045-441-7369

2013年9月10日火曜日

第661話 ハマの市場へ行きました (その1)

魚河岸となると、築地にはちょくちょく出向く。
ただし、鮨屋にはまず入らない。
あれは江戸前鮨ではなくて築地寿司だからだ。
酢めしに鮮魚をおっかぶせただけの代物は断じて鮨ではない。

稚魚の高騰のせいで鰻屋が苦戦している。
需要と供給のアンバランスから天ぷら屋も激減した。
すき焼きなんかウチで食えるものねェ。
日本人が一番好きな鮨でさえ、相当にあぶない。
さように日本の食文化の根幹を支える料理屋が
揃って苦境に立たされている。
悲しいなァ、ホンにお店はつらいよ。
見通しが明るいのは、せいぜいそば屋くらいのものだ。
あとは焼き鳥屋とトンかつ屋か?

あいや、今話は嘆き節に非ず、魚河岸のことであった。
東京に河岸があるごとく、横浜にもちゃんとある。
余談ながら吉幾三のCD、「横浜」を聴きながら書いている。

 ♪ 国を超えて ことば超えて
   愛に溺れた 横浜・・・・・・ ♪

うん、実に名曲だ。

ハマの卸売市場には行ったことがない。
さすれば、一度行きたいと思うのは人情、
8月のある日、出陣を決意した。
流れるBGMはいつの間にか「笹舟」に替わっている。

お盆前の吉日、京浜急行の乗客となって東京を南下した。
同行者は鎌倉武士の末裔、P子である。
当ブログではすでにおなじみのレギュラーメンバーですネ。

横浜駅で待ち合わせ、
よせばいいのにクソ暑いなか、目的地までトコトコ歩いて行きました。
砂丘を越えて行きました・・・お姫さまとともにラクダにまたがって・・・
ハハ、それは冗談、御宿じゃないから砂丘なんてありゃしません。

でもって、汗をかきかき、到着した横浜中央卸売市場。
ありゃりゃァ、やっちまったヨ、何にもないじゃん。
ひょいと姫君の横顔を見やると・・・
怒ってる、怒ってる、間違いなく怒ってる。
(何が楽しくて、こんなとこまで連れて来たの?)
無言の圧力が伝わってくる。

白いハンカチで額の汗をぬぐってやりたいところだが
あいにくJ.C.はハンカチの持ち合わせがない。
その代わり、ティッシュは肌身離さず携帯している。
汗を拭くにも鼻をかむにも使い捨てのティッシュが便利。
外人みたいにハンカチで鼻はかめんもん。

遠路はるばるやって来たハマの魚河岸。
それにはちゃんとした理由がありました。

=つづく=

2013年9月9日月曜日

第660話 下北に佳店あり (その3)

下北沢の食堂兼居酒屋、「山角」で黒ホッピーを飲っている。
ホッピーには白と黒のほかに、あまり知られていない赤もある。
焼酎と合わせず、ストレート用に売り出された赤だが
これをこのまま飲む人はそうはいないでしょうヨ。

J.C.は自宅でもときどきホッピーを飲む。
冷蔵庫にはそのためのキンミヤ焼酎が常に冷えている。
下町の大衆酒場で絶大な人気を誇るこの焼酎は甲類の25度。
三重県・四日市市、宮崎本店醸の手になるものだ。
三重のさとうきび焼酎がどんな経緯を経て
江戸っ子の心をつかんだのだろうか・・・フシギだなァ。

さて、お次のつまみ。
目にとまったのは水茄子漬、大好物である。
夏の一時期しか出回らない水茄子は泉州・岸和田の特産。
泉州・岸和田じゃ通りが悪いからちょいと説明しておこう。
岸和田市は大阪府南部、泉南地域の中心市。
岸和田城の周りに広がる城下町でだんじり祭りがつとに有名。
だんじりは山車(だし)のことだ。
水茄子はこの土地以外じゃ、まともに育たぬ変わりモン。
生か浅漬けが好もしく、古漬けはいけません。

余計な味付けせずにケレンのない水茄子は文字通り、
みずみずしいさわやかな美味しさ。
ただし、黒ホッピーと相思相愛とは言いがたい。
黒ホが主張しすぎるうらみがあるのだ。
そこで追加したのがハムカツくん。
2枚(480円)の注文なら多少割安ながら
独り飲みには1枚(250円)でイナッフだろう。

ここ10年ほど、居酒屋でハムカツがブイブイ言うようになった。
殊に昨日・今日オープンしたくせに
昭和の酒場を気取る似非レトロに目立つ。
ハムの厚さを強調する店もあったりするが
あの時代の日本は貧しくてハムカツのハムなんぞペラペラだった。
「山角」のそれは厚くもなく薄くもなく、平成の酒場風といえるかも・・・。

なんだかんだと外のホッピーは1本だけなのに
中の焼酎はもう3杯目を数えてる。
ハムカツのあとはタン焼きをお願いした。
1本(180円)から頼めるのがありがたい。
ありがたかったが、ちと固すぎで入れ歯の方はまずギヴ・アップだろう。
そもそも串系がどうしてタンだけなの?
シロやレバやカシラはどこへ消えたの?

食堂を兼ねた店につき、飲み屋ではめったに頼まぬおにぎりを1つ。
中身は好きなたら子だが、かなりデカいのが運ばれた。
パクッとやると、たら子は生だ。
ちょい焼きが理想ながら、米粒がヤケに旨い。
タンの仇(かたき)をたら子で討って、心が晴れた下北の夜。

フタちゃん、佳い店を教えてくれてありがとさん。
そう言えば、今月は彼とそのサテライツとともに
マイ・フェイヴァリット・タウン、西荻は「S」で小宴会の予定あり。
その模様もまた、当ブログでアップいたしますとも。

=おしまい=

「山角」
 東京都世田谷区北沢2-8-12
 03-6407-9032

2013年9月6日金曜日

第659話 下北に佳店あり (その2)

エコノミスト・フタちゃん推奨の下北沢「山角」にいる。
生ビールを飲みつつ、品書きを見つめている。
お通しには茹でた殻つき南京豆が出てきた。
コレ、あんまり好きじゃないんだよねェ。
ピーナッツはカリッと香ばしくなきゃイカンと思うんだけど、
誰の発案か、十数年前に突如現れた。

この店は妙齢の(?)女性ばかりが
三人で切盛りする定食屋を兼ねた居酒屋。
浅い時間は食事を取る客が多く、
深い時間になると酒を飲む客が増える。
もちろんその逆もアリである。

手元に拝借してきたペラペラB5の品書きがあるので
ちょいと紹介してみたい。
J.C.は飯を食いに来たんじゃなく、酒を飲みに来た。
よって酒の肴を中心に
枝豆・トマト・うるめいわしみたいな、すぐ出る定番は割愛する。
おっと、もう紹介しちまったか。

 さば塩焼き 600  さば味噌煮 650  あじ南蛮漬 600
 銀ダラ甘酢あん 680  たこぶつ 420  子持ちししゃも 480
 桜海老と蓮根シューマイ 600  ピータンとザーサイ白和え 450 
 谷中しょうが 380  セロリ浅漬 350  水茄子漬 350  
 ポテトサラダ 250  ブロッコリー・ガーリック炒め 500  
 揚げなすポン酢 400  ニラユッケ 380  春菊ナムル 380  
 生ピーマンとつくね 450  砂肝ポン酢 380  豚キムチ 580
 鶏とじゃが芋ゴルゴンゾラソース 580  タン串1本 180
 クリームコロッケ 650  ハムカツ1枚 250 2枚 480

まっ、ザッとこんなところだ。
さすがに女性の仕切る店、野菜がふんだんに使われている。
野菜類を赤字表記にした。

注文品は最初にポテトサラダ、居酒屋でよく見掛けるメニューだ。
ときには出来合いの半端モンを出す駄店に出くわすが
当店のは玉ねぎがいっぱい入って辛味がよいアクセント。
これをテイクアウトして食パンにはさんだら
立派なサンドイッチが出来上がる。
さだめし旨かろうて。

生中をとっくに飲み干し、続いて頼んだ中瓶も底をついた。
ここでお願いしたのが黒ホッピー。
下町の大衆酒場じゃおなじみの炭酸飲料である。
黒ラベル生、黒ラベル瓶、そして黒ホッピーと
まっこと今夜は黒づくめじゃないか。
これに白いネクタイを締めたら
ちょいとした暗黒街の顔役だヨ、まったく。

ホッピーはそのまま飲むんじゃなくて、焼酎に注ぎ割って飲む。
このとき風味豊かなぜいたく焼酎ではいけない。
俗に甲類と呼ばれる廉価なヤツがピタリと合うのだ。

=つづく=

2013年9月5日木曜日

第658話 下北に佳店あり (その1)

ヘアサロンに赴くのは2ヵ月に1回。
その都度、あまり気の染まない渋谷の街に出向く。
もう10年以上も髪を任せている美容師サンにつき、
替えがたいものがあるが、渋谷はどうにも億劫。
年6回だからまだしも、月イチ以上の頻度となれば
途中で挫折していたかもしれない。

その日は髪を理したあと、即刻、下北へ向かった。
エッ、恐山のイタコにでも会いに行ったんか? ってか?
ちゃう、ちゃう、そういうアンさん、東京人じゃございやせんな。
下北は下北でも下北半島じゃなくて
世田谷のヤングタウン・下北沢でやんす。

旧知の友人にして著名なエコノミストのフタちゃんから
「佳い店があるので、ぜひ下北まで足を延ばしてみてくれ」―
かようなお達しがあったのは数ケ月前。
なかなか行く機会を作れなかったけれど、理髪のあとなら好都合。
下北は渋谷から井の頭線で1本。
急行だか快速だか、よう判らんが
その手の電車に飛び乗ればたった一駅なのよネ。

で、行きました。
この街を訪れるのは1年ぶりかなァ。
去年の夏、南足柄のアサヒビール工場を見学後、
町田に寄って食事をし、そこから流れきたのだった。
したがって駅改築後の下北は初めて。
駅の姿は変われども、相変わらず歩きにくいやここは―。
自由が丘とともに歩行者泣かせの街なのだ。

目当ての「山角」は
三軒茶屋方面から北上してくる茶沢通りの路面店。
時間が早いせいか先客はゼロ。
カウンター内はオバちゃん風とオネエちゃん風の女性が
それぞれ一人づつのたたずまいだった。

店内のフロアは二段になっており、奥のほうが一段高い。
したがって奥は天井が低い。
誰もいないのに入口近くに陣取るのもなんだから奥へと進む。
ところが目の前は調理担当のオバちゃん風、ヤケに蒸し暑い。
心なしかエアコンの利きも悪いようだ。

こりゃかなわんわと断りを入れ、
オネエちゃん風の前に移動した。
何も若い方になびいたわけじゃない。
年の差ではなくって温度差でこうなったんだからネ。

さっそくのビールの銘柄はドラフトもボトルもサッポロ黒ラベル。
いいでしょう、黒ラベちゃんなら相手にとって不足ナシ。
最初は中ジョッキをお願いしたのでありました。
頭も小ざっぱりしたことだし、サァ、飲みますゾ!

2013年9月4日水曜日

第657話 変わらぬ味と変わった味 (その4)

その日は南千住にある都営バスの車庫から
「あしたのジョー」で有名な泪橋の十字路を過ぎ、
山谷・吉原を抜け出て竜泉から根岸の里、いわゆる鶯谷に出た。
駅そばの歩道橋を渡り、上野のお山の北端、上野桜木から
言問通りの善光寺坂を降り、到着したのが根津の谷だ。
われながら炎天下をよく歩いたわ、ジッサイ。

長距離散歩で大汗をかき、ノドはカラッカラのカラ。
さっそくサッポロ黒ラベルの中瓶を一気に流し込み、
ただちにもう1本。
そうして注文したのはレバニラ野菜炒め。
理想的な栄養バランスを誇る一皿は
リポビタンDじゃないが肉体疲労時にピッタリだ。

レバニラのレバーはあらかじめ揚げてある。
ニラは多めに投入されている。
それはいいけれど、味付けがどうもシックリこない。
かつてはこんなに曖昧な味じゃなかったハズだがなァ。
う~ん、ハッキリ言って不満であった。

その日から10日後、お盆の最中に再訪し、ラーメンを所望。
前回のレバニラに疑問符がついたため、チェックに及んだ次第だ。
何度か食べたラーメンなら外さない目論見もあった。
暑さに負けて冷やし中華なんぞに逃げたら再訪の意味がない。
何たって変わらぬ味を確かめるのが目的だからネ。

運ばれたどんぶりは以前と変わらぬ景色だった。
叉焼・鳴門・支那竹・水菜が仲良く並んでいる。
待てヨ、かつて水菜はなかったような気がする。
なぜなら水菜入りのラーメンに高い評価を与えたことがないからだ。
この葉野菜は、例えば油揚げと煮びたしにするなど、
出汁の力を借りない限り、味も素っ気もない駄品に陥る。
ラーメンだってバラまいとけばいいというもんじゃないヨ。

スープをすすって首をひねった。
違うヨ、違う、明らかに違う、こんなんじゃなかった。
コクといおうか、旨みにまったく奥行きが感じられない。
こんな生半可なラーメンが増えたせいで
世の若者は脂ギトギトや魚粉バカスカの邪の道に
走ったのかねェ、だとしたら罪なこった。

麺はどうだろう? 中太ちぢれ麺の見た目は前と一緒。
ところが咬み締め感は微妙に異なった。
10日前のレバニラといい、此度のラーメンといい、
以前と同じ料理人の料理じゃないネ。
ところ変われば品変わる、人が変われば味変わる。

ブレるどころか微動だにしない千駄木の「砺波」。
反して劣化もはなはだしい根津の「オトメ」。
J.C.の推奨店からまた1軒、消えゆく姿を見ることと相成った。

「中華オトメ」
 東京都文京区根津2-14-8
 03-3821-5422

2013年9月3日火曜日

第656話 変わらぬ味と変わった味 (その3)

文京区の千駄木と根津は地下鉄千代田線で隣り駅同士。
これにお寺の町・谷中が加わって谷根千と称する。
中高年のカップルやグループのあいだでは
絶大な人気を誇るお散歩コースがこのエリアだ。

江戸川乱歩作「D坂の殺人事件」の舞台となった団子坂。
坂下の不忍通り交差点を反対側に上ると三崎坂(さんさきざか)。
昔と変わらぬ味がうれしい「砺波」はこの坂ににある。
江戸川乱歩にちなんだ喫茶店「乱歩」も
団子坂ではなく、なぜか三崎坂にあるのがミステリアス。

続いて紹介する店は根津・善光寺坂の「中華オトメ」だ。
この店についても
自著「J.C.オカザワの古き良き東京を食べる」をひもといてみたい。

=中華オトメ=

■パン屋から中華に大変身

念のために休業日をチェックしようと思い、電話を入れてみた。
受話器の向こうはおそらく店主だろう、
その丁寧な受け答えに人柄がにじみ出て
こちらの気持ちも晴れてくる。
こういう料理人が作る料理が外れることはまずない。

国分寺に同名店があり、そちらは店主の兄さんの経営。
国分寺は白いタイル貼りの洋食屋のような外見だが
出される料理は根津にそっくりで休業日も同じ水曜日。
彼の地で開業して20年になるそうだ。

中華料理店というより一昔前の喫茶店を思わせる店内は
ワンタンメンよりスパゲッティ・ナポリタンのほうが似合いそう。
近所の人たちが入れ替わり立ち替わりやってきて、
地元にしっかりと根づいている様子が伝わってくる。

酢豚と八宝菜(各1300円)でビールと紹興酒を。
この八宝菜が実に具だくさんで
具材を数えてみたら十二宝菜だった。
鶏の唐揚げまで入っていたのには驚いた。
ちなみにこの店の中華丼には目玉焼きが乗っかっている。
生姜風味でニラ多めの餃子、
中太ややちぢれの素朴なラーメン、どちらも上々でごきげん。

帰りがけに奇妙な店名の由来をお運びの娘さんに訊ねると、
一瞬キョトンとした表情を見せた彼女、
奥の調理場へ訊きに行ってくれた。
「もともとオトメパンというパン屋だったのを40年くらい前に
 お爺ちゃんが中華屋さんにしちゃったそうです」―
ふ~ん、そうなのかい?
そりゃまた、いいお爺ちゃんですこと―。

かように「中華オトメ」は気に入りの中華屋だった。
そして先月第一週の夕暮れどき、
この店に汗まみれのJ.C.の姿を見ることができた。

=つづく=

2013年9月2日月曜日

第655話 変わらぬ味と変わった味 (その2)

昔恋しい昭和のパンのことである。
エッ、三つ島(みつじま)って何だ! ってか?
これはですネ、菓子パンの1種なんですヨ。
家紋に重ね三つ星というのがあるが、それと同じカタチ。
三つ星といっても星が三つではなく、
丸い団子を三つ、くっつけ合わせたような形状をしている。
重ね三つ星
三つ島パンは丸い三つのパンの中に
それぞれジャム、クリーム、あんこが入っている。
1個で3度美味しい優れモノなんです。

いけねっ! 今話はパン屋じゃなくって中華屋がテーマだ。
千駄木の「砺波」と根津の「中華オトメ」であった。
自著「J.C.オカザワの古き良き東京を食べる」において
2軒をガイドしたので、そこのところを引用してみたい。

=「砺波」=

■野菜そばに恋をした

大好きな店である。
近くにあれば中華そばが食べたくなったときに足繁く通うハズ。
初老のご夫婦だけの切り盛りだ。
滑舌のよいオバさんの接客が丁寧で好感が持てる。
店名から察すると、お二方もしくは旦那さんの出身地が
富山県の礪波市なのかもしれない、おそらくそうだろう。

ラーメン(500円)はスープに化調を感じても
味のバランスは崩れていない。
中細ちぢれ麺は粉々感が心地よく好きなタイプ。
焼きそば(600円)は柔らか麺のあんかけスタイルだ。
豚小間・きくらげ・野菜のあんに練り辛子がたっぷり。
「三丁目の夕日」の時代の味と香りがして、
酢を垂らしたら、より舌と鼻腔が反応した。

週末のせいか、小体な店に近所の家族連れが数組詰め掛け、
地元の人たちの愛着度がよく伝わってくる。
壁の品書きには街の中華屋の定番以外に
鯵フライライス・いかフライライス(各700円)・
かつ丼(750円)なんかも並んでいる。
隣りの卓のお母さんが食べていた野菜そば(550円)がとても美味しそう。
野菜そばは他店のタンメンとまったく同じだ。

どうしてもタンメンが食べたくなり、半月後に再訪。
餃子(550円)でキリンラガーの大瓶を飲む。
その夜はオジさんが留守らしく、オバさんが調理場とホールの一人二役だ。
やがて運ばれた清楚なタンメンに一目惚れ。
純白の小さなドンブリもまた可憐で
こんなに可愛いタンメンは東京中探し歩いてもまず見つからない。

つい先日も旧知の友人を伴い、野菜そばを食べてきた。
以前とまったく変わらぬ味に心和ませたのだった。

=つづく=

「砺波」
 東京都台東区谷中2-18-6
 03-3821-7768