2020年10月27日火曜日

第2511話 かきフライのバイオレンス (その1)

世田谷区・池ノ上から渋谷区・駒場東大前へと歩いている。

駒塲野公園を通過すると、辺りは真っ暗。

こいつは若い娘なんぞ歩けやしないぜ。

老人と子どももあかんなァ。

 

このとき流れくるのは小百合チャンの歌声だった。

誰だ? その女は! ってか?

小百合っていやあ、

吉永サンに決まってんじゃないすか。

吉永サンつったって

朝からTVに出てる騎手の女房じゃないヨ。

吉永小百合チャンだヨ。

 

♪   歩いて歩いて 悲しい夜更けも

  あの娘の声は 流れくる  ♪

 

ご存じ「いつでも夢を」の2番冒頭であります。

ん? そんなら橋幸夫の声もだろっ!、ってか?

いえ、いえ、ここは小百合のソロ・パートなんざんす。

 

17時半開店の「菱田屋」の敷居をまたいだのは18時前。

すでに7割の席が埋まっていた。

エリアで大人気の定食屋は初訪問。

入ってすぐ左にUターンすると、

相席用8人掛け大テーブルがあり、

その一番奥、壁際を指定された。

 

真向かいで単身男性がレモンサワーを飲んでいた。

いやマイッた、後客が隣りに来たら簡単にゃ出られんぜ。

航空機の窓側席を思い浮かべていただきたい。

おまけに4席並びときたもんだ。

 

卓上にも目の前の壁にも品書きの類いが見当たらない。

入って右側の壁に貼り出されているだけだ。

オペラでいうパーシャル・ヴューそのもの。

尻を滑らせていったん奥に落ち着いたはいいが

ただちに滑り戻してメニューが書き出された、

壁の前に出向いて沈思熟考。

 

後客が来たら出たり入ったりできないから追加注文は難しい。

すべてはムリなので、めぼしいモノだけ頭に入れた。

しっかし、何て非常識な店なんだ、ここは! 

飲み食いする前からムカッ腹を立ててる。

 

かなりの距離を走破して、ふくらはぎが痛む。

それよりもノドの渇きをいやすのが先決だ。

待望のビールは生が一番搾り、

中瓶がハートランドと黒ラベル。

キリンの中では唯一好みのハートランドを通した。

 

=つづく=