2011年12月12日月曜日

第203話 かつては無縁の高円寺 (その1)

そこそこの繁華街なのになぜか縁薄い場所がある。
ホームグラウンドの千代田・中央・文京・台東区から
遠く離れているのが最大の理由だろうが
なんのなんの好きな町なら遠征を厭うことはない。
西荻・江古田・十条・大塚・麻布十番なんかには
ちょくちょく出掛けているのがその証左だ。

逆に下北沢・自由が丘・吉祥寺あたりは苦手。
自分から進んで行くことはまずない。
もっともこういった遠隔地での飲み会や食事会は
めったにないから余計に疎遠になってしまう。

JR中央線・高円寺はその最たるものだった。
両隣りの中野と阿佐ヶ谷はときどき訪れるのに
高円寺だけは無縁であった。
いかにも若者の町といった雰囲気に
二の足を踏んでしまったらしい。

テレビ朝日の朝の番組に
「やじうまテレビ」があって何度か出演した。
スターの行きつけとか、歌姫のなじみとか、
そういう店を食べ歩くのである。

この番組のおかげで高円寺に2度続けて行く機会があった。
1度目は夏川りみがリピートする沖縄料理屋、
2度目は久本雅美が30年も通っている焼き鳥屋だ。

料理の撮影というのはけっこう時間が掛かるもの。
食べ手のJ.C.の出番はチャチャッと終わるから
待ち時間のほうがずっと長い。
店内にボケッと突っ立っていても仕方ないので
これ幸いと近所の探索に出ることとなる。

そうして見つけた店が当たりだったりする。
だから町歩きはやめられない。
沖縄料理店「抱瓶」のロケの合間、
商店街に2軒並ぶ食堂と洋食屋が心に残り、
後日、あらためて出向いた。

大衆的な食堂の名は「三晴食堂」。
初見の際に客は皆無だった。
訪問日もまた、ほかに誰もいなかった。

キリンラガーの大瓶が500円と安い。
しかも少量ながらつまみがサービスされる。
小鉢の中にはさつま揚げと竹輪と里芋の煮付け。
味付けがよく、お替わりしたいほどだ。
1品だけ注文した鯖の味噌煮(400円)も大当たり。
誰かを誘って再訪し、いろいろと食べてみたい。
なんだかずいぶんトクをした気分で隣りに回った。

レトロな洋食屋は「キッチン フジ」。
初老の夫婦が二人で奮闘している。
スーパードライの中瓶は500円。
本日の定食(600円)をライス1/3人前でお願いした。

料理プレートの陣容は、ウインナーエッグ、白身魚フライ、
豚肉生姜焼きにトマトとキャベツとケチャップスパゲッティ。
あとはポテトサラダ、豆腐とわかめの味噌汁、きゅうりの古漬けが付く。
味・ボリュームともに申し分なく、満足度は高い。
それにしてもこの内容で600円は
ビジネスを逸脱してもはやチャリティの世界であろう。
かつて無縁だった若者の町だが、少しばかり好きになってきたようだ。

=つづく=

「三晴食堂」
 東京都杉並区高円寺北3−10−2
 03-3337-7466

「キッチン フジ」
 東京都杉並区高円寺北3-10-1
 03-3339-5643