2016年8月9日火曜日

第1421話 浅草の奥深し (その3)

浅草の奥も奥、橋場の「山海」のいる。
生のわさびをを得て岡山産の車子が本領を発揮する。
これでこそ本物のしゃこわさである。
しっとりとしていながらしっかりとした車子の美味を堪能した。

せっかくの本わさびだから、もうちょいと生モノをつまみたい。
青森の平目や常磐のかれいにも惹かれるが
かつおのあとで白身もないものだ。
よって、〆さばをお願いした。
三浦半島は松輪の産である。
松輪は半島の最南端、城ヶ島の西に位置している。

大分県佐賀関に揚がるのが関さばならば、
松輪漁港に揚がるのは黄金さばと称される。
いわゆるブランドさばなのだ。
車子ほどではなかったものの、水準は高い。

刺身系はもうじゅうぶん。
何か目先・箸先の変わった料理がほしい。
うなぎ好きのT栄サンが肝焼きを選んだ。
もちろん鶏のではない、うなぎの肝である。
見るからに国産の一級品
中国産みたいにバカデカくないところがよい。
白鹿の生酒とともに賞味した。

お次は品書きに江戸前と明記された穴子の天ぷら。
天つゆではなく粗塩で
身肉にプリッとした弾力があり、
食味はなかなかけっこうだ。

江戸前の穴子となれば、
羽田や金沢八景が名産地とされたが
十数年前に羽田は壊滅状態になったと聞いた。
今はどうなのだろう。
小柴の車子が消えた現在、
すぐそばの金沢八景の穴子はだいじょうぶだろうか?

白鹿をお替わりする。
それほどつまんでいないのに何となく満腹。
締めはあっさりと水茄子の浅漬けをもらう。
大阪は泉州・岸和田の特産である。
泉州以外では育たぬ特殊な茄子ながら
最近は茨城産をよく目にするようになった。

夜の帳(とばり)の降りた街を歩く。
浅草の夜はまだ浅いが浅草の奥は深い。
相方が見てみたいというので吉原をゆく。
言わずと知れた一大ソープランド街である。
女性連れなら呼び込みに声を掛けられることもない。

千束から象潟(きさかた)に抜けた。
柳通りの見番(産業組合)、その2階に灯りが点っている。
宴席、あるいは芸者さんの稽古であろう。
夜風の中にかすかな江戸情緒を嗅ぐことができた。

=おしまい=

「山海」
 東京都台東区橋場1-30-10
 03-3873-4731