2016年8月19日金曜日

第1429話 高麗人参に困った! (その4)

1年も前の話で恐縮ながら
荒川区・西日暮里のコリアン・スナック「Y」にいる。
店を切盛りするのは韓国人のママさん一人だけだ。
生まれは大田(テジョン)だったかな?
とにかくソウルでないことは確かだ。

話す日本語はけして上手とはいえないまでも
会話に支障を来たすことはない。
その夜はわれわれ二人、それなりに楽しみ、
おみやげに韓国海苔をいただいて帰った。

2ヶ月後、豊島区・千石で食事をしたあと、
たまたま来合わせたバスが浅草寿町行き。
渡りに舟ならぬ、通りにバス、これ幸いと乗り込んだ。
白山上から駒込千駄木町を経て、バスは団子坂を下っていった。

「次は道灌山下、道灌山下です」―
ネクスト・ストップを告げる声に、あの晩のことが脳裏をよぎる。
浅草まではあと30分ほどの道のりだが
予定変更を思いついて下車の巻となった。

「Y」の扉を開くと、
ママがカウンター席の隅で帳簿をつけていた様子。
先客は誰もいない。
貸切り状態である。
まっ、こういうシチュエーションはバーやスナックでよくあること。
静かな夜を静かな語らいの場とするのも悪くない。

しばらくの会話のあと、歌をリクエストしてみた。
哀愁を帯びた韓国歌謡は好きですからネ。
日本歌謡界のパイオニアにして大御所、
あの古賀政男先生の古賀メロディーにしたって
源泉は半島にあると、何かの本に書いてあった。

数曲聴いてみて彼女の歌上手に驚かされる。
声色と曲調がまさにシンクロナイズド・シンギング。
名曲揃いで日本の演歌より艶歌っぽいのだ。

 ♪   誰がいると云うの この私に
   あなたは命 こころのささえ
   逢うも別れも 運命(さだめ)だと
   いいえ私には わからない
   あなたが消えたら 生きては行けない
   行かないで 行かないで
   あなたの他に 誰もいない    ♪
          (作詞:三佳令二)

入国許可がおりないため、日本には返ってこれない、
桂銀淑が歌った「私には貴男だけ」は1988年8月のリリース。
歌詞は時代遅れなうえに陳腐な印象さえあるのだが・・・。

=つづく=