2018年1月16日火曜日

第1788話 音無しのラーメン (その1)

風はあっても陽射しに恵まれた午後の散歩。
文京区・根津の交差点から千駄木方面に向かい、
チョイと奥へ入ってへび道を歩む。
へび道はそのまま台東区・谷中と
文京区・千駄木の境界線に当たり、
道の下には藍染川が暗渠として流れている。
川のクネクネをアスファルトでふさいだため、
道もまたクネクネの形状を示す。

  ♪    現在・過去・未来
     あの人に逢ったなら
     わたしはいつまでも
     待ってると誰か伝えて
     まるで喜劇じゃないの
     ひとりでいい気になって
     冷めかけたあの人に
     意地をはってたなんて
     ひとつ曲がり角
     ひとつ間違えて
     迷い道くねくね   ♪
       (作詞:渡辺真知子)

 シンガーソングライター、渡辺真知子の「迷い道」は
1977年11月のリリース。
当時、J.C.は日比谷の免税店に勤めていたが
その年の暮れには退社して
糊口をしのぐために芝のホテルで働き始めた。

翌年の夏、飛騨高山へ小さな旅を試みたとき、
町中を流れていたのは緋鯉が泳ぐ宮川と
この「迷い道」だった。
まだ J-POP なる造語が生まれる前だったが
モダンな流行歌と旅愁誘う古都との対比に
違和感とてなく、むしろ調和を覚えたのを思い出す。

それはそれとして、へび道足下の藍染川だ。
文豪・森鷗外の名作「雁」にはこうある。

藍染川のお歯黒のような水の流れ込む
不忍の池の北側を廻って上野の山をぶらつく

鷗外は千駄木・団子坂に棲んでいたから
近くを流れる藍染川を目にすることも
たびたびであったろう。
藍染とお歯黒とでは
落差が激しすぎる気もするが明治の頃はいざしらず、
暗渠化された大正末期には
すでにドブ川の如くだったという。

クネクネを抜けて三崎坂に出た。
右角には町の中華屋「砺波」が紅い暖簾を掲げている。
小腹も空いたし、久々に野菜そばと参ろう、
一度はそう思ったのだが・・・。

=つづく=