2018年8月31日金曜日

第1949話 これがホントの盆踊り (その6)

川崎市・中原区の「文福本店」で生ビールを飲んでいる。
蒲田の「天義」ではヌルい瓶ビールの洗礼を受けたから
冷えた生ビールのありがたみをあらためて実感している。
お通しは練り梅しそをあしらった大根おろし。
「天義」の鬼おろしとは対照的になめらかである。
ささやかなシアワセをかみしめる夕まぐれのひととき。

メニューを手に取って丹念に目を通すと、
はて、いったい何だろう?
目にとまったモノが2品。

玉三郎?
これは容易に想像がつく。
うずらの玉子が串に3個なんだネ。

かえるのへそ?
ちょいと考えたが、すぐにピンときた。
スルメイカの口、いわゆるトンビに相違ない。

お運びの女性に確認すると、どちらも正解。
ただし、かえるのへそはやめたとのこと。
あまり注文が入らなかったらしい。
せっかくだからうず玉はいただいとこうか。
通したのはレバとシロをタレで―。
それに玉三郎は味の指定をしなかった。

串はすべてよかった。
良質のレバは浅い火の通しがよろしい。
シロはちょいとユニークだった。
上手にコロッとまとめたのが5個付け。
こういうのも一種のシロコロか。
玉ちゃんはラーメン店がいうところの味玉で
これはこんなものだろう。

全串100円の焼きとんはほかに
カシラ・タン・ハツ・コブクロ。
店のオススメの証し、★ジルシがすべてに付いている。
逆に全串120円の焼き鳥は
若鳥・皮・砂肝・手羽先で★は皆無である。

そう、この店は焼き鳥よりも
焼きとんに重きを置いているのだ。
中ジョッキを2杯、お通し1品、串3本で会計は1700円。
期待を裏切られることはなかった。

串を3本に抑えたのにはワケがある。
「とんかつ ミカド」のカツカレーに未練を残していたからだ。
本日三度目の東急目黒線に揺れて揺られて
先刻、乗車した田園調布駅にて今度は下車した。

=つづく=

「串焼 文福本店」
 神奈川県川崎市中原区新丸子町915
 044-711-3688

2018年8月30日木曜日

第1948話 これがホントの盆踊り (その5)

南国土佐ならぬ、大田区蒲田をあとにして
向かったのはJR京浜東北線・川崎駅。
ターゲットは駅前本町の「丸大ホール」だ。
狭義の意味での川崎では、随一の大衆酒場がここ。
ただ困るのは日曜営業はともかくも土曜休業である。
フツーの酒場は逆でしょ。

ルンルン気分で到着すると、
この日、何回目か忘れちゃったが
またしてもガッビ~ン!
休みは年末年始だけだと思い込んだこちらが愚かだった。
お盆休みもあったんだ。
まったくもって、お盆に踊らされる日だこと。

散策して楽しい街じゃなし、ここは見切り千両。
はて、何処へ?
京浜急行で南下してゆけば、
お盆における営業の開閉は定かでなくとも
心弾ませてくれる酒場が目白押し。
鶴見・生麦・新子安・仲木戸、枚挙にいとまがない。

思いついたのは滅多に乗る機会のないJR南武線だ。
南武線といっても
終点の立川くんだりまで遠征するつもりはない。
武蔵小杉あたりで手を打とうじゃないか―。
そこからだとランチで空振ったカツカレーの目が
再度浮かんでこようというものだ。

そうして降り立ったムサコである。
ここ数年、住みたい町として人気の高いところだが
最近はいくつか問題が生じている。
朝のラッシュがヒドく、駅の改札からホームまで
かなりの時間が掛かってしまう由。
入場規制まで発動されることもあると聞いた。
もうこの一点だけで住みたくないなァ。

加えてやたらめったらタワーマンション
建てまくったせいでビル風すさまじく、
幼児や老人が飛ばされたりもするらしい。
古くからある低層造物の日照にも
悪影響が及んでいるという。

駅から歩いて3分。
焼きとんの「文福本店」に到着した。
初めての訪問ながら評判は聞いており、
そこそこの期待感はあった。

まだ浅い時間帯につき、店内は閑散としていた。
カウンターのほぼ中央に陣取って
サッポロ黒ラベルの中ジョッキをお願いした。

=つづく=

2018年8月29日水曜日

第1947話 これがホントの盆踊り (その4)

大田区・蒲田の「天義」に独り。
こちらも店主独りの切盛りである。
あらためて店内を見渡すと、お世辞にもキレイとは言えない。
女手がない飲食店の宿命がコレだ。

壁のボードに天種が書き込まれている。
”幻の魚 ギンポ”が真っ先に目にとまった。
ほう~、ギンポでっか! こりゃ見過ごせないな。
目の前の店主にお好みで揚げてもらうことを告げた。

蒲田はキリンの工場のある横浜市鶴見区・生麦から
そう遠くはないので懸念したがビールはスーパードライ。
その大瓶をお願いした。
ところがこれがヤケにヌルい。
ヌルいアサヒなら冷たいキリンのほうがはるかによい。
行き当たりばったりの飛び込みは
こんな手抜かりがあるから危険だ。

突き出しの小皿はきゅうり・白菜・たくあんの新香盛り。
気落ちしながらビールをグビッ、たくあんをポリッ。
何だかやるせないなァ。
競馬観ても判んないし・・・。

通した注文はキスとギンポ。
天つゆ・粗塩・大根おろしが並べられる。
おろしは目の粗い鬼おろしである。
2枚付けのキスはホックリといい感じに揚がっていたが
残念ながらコロモが好みではない。
チリチリの花を咲かせないタイプはフリッターに近い。
当然、大きめ1尾のギンポも同じこと。
後悔の思いが頭をもたげてきた。

これでお勘定では愛想がなさすぎ。
山形の惣邑を冷やで所望した。
酒米・羽州誉を歩合50パーセントに精米したものだ。
スルスルすべる辛口の奥行きを感じる。

天ぷらは穴子と何を血迷ったか、にんじんを追加。
穴子の素材自体はよく、ギンポの上をいった。
2つ付けのにんじんはスーパーの惣菜コーナーレベル。
ふ~ん、惣邑に惣菜ねェ、字面だけは合ってるな。

天種はほかに魚介が海老・あじ・いか・かき揚げ。
野菜は玉ねぎ・なす・にんにく・ゴーヤ・レンコン。
考えるてみれば、当店の天ぷらは明らかに天丼向き。
この点、中野ブロードウェイの「住友」に似ている。

店主はかなりの競馬好きとみえる。
カップルが去って店主と二人きりになる。
こちら喫酒、あちら競馬予想。
一つ席を空けてはいるものの、至近距離に横並び。
ビミョーな空気が流れているが違和感はない。
互いにそれなりの人生経験をしたからこその間合いだ。
頃合いをみてのお勘定は4300円。
こんなものでしょうな。

=つづく=

「天義」
 東京都大田区西蒲田7-67-11
 03-3738-4712

2018年8月28日火曜日

第1946話 これがホントの盆踊り (その3)

田園調布の鰻屋「平八」。
14時過ぎに店先に立った。
ところがランチタイムは13時半までときた。
またしてもガッビーン!
いいサ、いいサ、鰻がダメでも鮨がある。

今の時期なら上方寿司の「醍醐」が
鮎の姿寿司を始めているハズ。
本店は休みでも駅前ビルの支店は大丈夫だろう。
テイクアウトして近場の公園でいただきましょうゾ。

いやはや、ツかないときは、とことんツかないねェ。
支店までお盆休みときたもんだ。
ことここに到って田園調布に見切りをつけた。
再び目黒線に乗り込み、
隣りの多摩川駅で多摩川線に乗り換える。

途中の下丸子か武蔵新田を徘徊してもいいんだが
小さな町に大きな期待を掛けても
不発に終わる可能性が高いし、とにかく時間が時間だ。
一気に終点の蒲田へ。
大田区きっての繁華街なら何とかしてくれるだろう。

「平八」のせいで気持ちは鰻に傾いていた。
西口のガード下沿い、
鰻の串モノを出す立ち飲み酒場「うなぎ家」へ。
トホホ、またしても休みだヨ。

気を取り直し、そのちょいと先、
本格的うなぎ屋「寿々喜」に到達した。
はたして今度は営業中。
商ってはいたものの、順番待ちの客が5名。
この暑いのに並んでなんかいられるかい。

幸い「うなぎ家」のそばに天丼の「天義」を見つけてある。
何と創業半世紀にならんとするそうだ。
艱難辛苦を乗り越えて暖簾を守ってきたのだろう。
これは立ち寄らなくっちゃ。

古びているうえに玄関周りがゴチャゴチャしており、
整理整頓の不行き届きが気になったけれど、
ぜいたくは言っていられない。
引き戸を引いて入店した。

店内はカウンター8席のみ。
天ぷら屋だというのに鰻の寝床である。
先客はカップル1組だけ。
すでに天丼を平らげて冷酒を酌み交わしていた。

カウンターの奥のTVが競馬中継を映している。
その下で競馬紙やらスポーツ紙を広げていた店主が
ヨッコラセと立ち上がって
「いらっしゃいませ!」
(ハイ、いらっしゃいました!)
口には出さず、胸のうちで応えた。

=つづく=

2018年8月27日月曜日

第1945話 これがホントの盆踊り (その2)

東急目黒線に揺れて揺られて到着したのは奥沢駅。
目黒線といってもほとんどが品川&大田区内を走っており、
線路は目黒区の南端をかすめる程度。
そもそも目黒線のスタート地点、目黒駅は品川区にある。
ちなみにJR山手線で目黒の隣りの隣り、
マンモス駅の品川は港区だ。
まっ、お役所のやることだから所詮こんなもんだろうが
区名&駅名の付け方がしっちゃかめっちゃかだヨ、ったく。

そんな目黒線にあって唯一の世田谷区内駅が奥沢だ。
南口に出ると、見慣れた光景が迎えてくれた。
以前はよく出没したエリアだからネ。
駅前の高級鮨店「入船」の暖簾が揺れている。
水色の地に白く染め抜いた
= 近海 生まぐろ 入船 =
の文字がなつかしい。

日本そばの「織田」はそのまま居抜かれて
「うどん伊予」に変わっている。
愛媛のうどんかァ・・・。
立ち寄ってみたいが本日は狙い定めた店がほかにある。

「四川料理 荒木」は健在。
ここでランチをいただいたのは
もう15年の以前になるだろうか。
当時は「織田」よりもこちらの行く末が心配だった。

駅から歩くこ10分足らずで
目当ての「とんかつ ミカド」に到着。
ターゲットはとんかつではなくカツカレーだ。
時刻は13時40分、ランチは14時の入店までOKのハズだが
ありゃあ、扉は閉じて人の気配がまったくしない。
おかしいな、数日前の電話で営業を確認したのに―。

取り急ぎ店先から再ダイヤル。
出てくれたマダムと思しき女性曰く、
「すみませんねェ、日曜のお昼はやってないんですヨ」
ガッビ~ン!
それはないぜ、セニョーラ!

仕方ないから来た道を戻って伊予うどんにするか?
いや、待て、待て、何もこ奥沢に固執することはない。
奥沢がダメなら田園調布があるサ。
「ミカド」は両駅のほとんど中間点に位置している。

田園調布中学前の信号で環八を渡り、
坂を下れば、もうそこは駅前商店街の入口である。
狙いはミスター・ジャイアンツ御用達の鰻屋「平八」。
このとき、頭の中に銭形平次の声が響き渡った。
「八丁堀の松殺しの下手人が挙がったってえじゃねえか。
 八、ひとっ走り、走りねェ!」
「がってんだ、親分!」
何だソレ! ってか?
平次とがらっ八、合わせりゃ、平八じゃん。

=つづく=

2018年8月24日金曜日

第1944話 これがホントの盆踊り (その1)

    ♪  街は恋するものたちの港
     落ち葉はひき潮の浜辺
     流れ星・人・影 
     愛はさざなみの夢

     パールカラーの街あかり
     この胸にうけとめて
     甘い風にさそわれて
     泣きながら歩きましょう

     ふたり 揺れて揺られて 流れ流れて
     あなたとなら どこまで
     揺れて揺られて 流れ流れて
     知らない港に 着きたい        ♪

            (作詞:千家和也)

山口百恵の「パールカラーにゆれて」は1976年9月のリリース。
この年、東京といわず、京都といわず、札幌といわず、
日本列島津々浦々に流れていたのは「およげ!たいやきくん」。
レコード売り上げも断、断、断トツの1位であった。
奇しくも上記2曲の作曲はともに佐瀬寿一。
まったく曲調の異なる作品をよくぞ書き上げたものである。
大感心!

例によって’76年のマイ・ベストテンとまいりましょうか。

① 横須賀ストーリー(山口百恵)
② パールカラーにゆれて(山口百恵)
③ あの日にかえりたい(荒井由実)
④ 青空、ひとりきり(井上陽水)
⑤ 「いちご白書」をもう一度(バンバン)
⑥ あなたがいたから僕がいた(郷ひろみ)
⑦ 20歳のめぐり逢い(シグナル)
⑧ 北の宿から(都はるみ)
⑨ なごり雪(イルカ)
⑩ あばよ(研ナオコ)
 次点:木綿のハンカチーフ(太田裕美)

でしょうかねェ。
それほどのファンでもないのに
百恵チャンが金・銀を独占しちゃってるネ。
ちなみにこの2曲は彼女のナンバー、
マイ・ベストとセカンドベストであります。

さて、世間一般がまだお盆休みのとある一日。
J.C.が揺れて揺られていたのは東急目黒線の電車内だ。
そう、「パールカラーにゆれて」を小声で口ずさみながらネ。
途中、そうだなァ、武蔵小山を過ぎた頃だったろうか、
隣りに座った中年の女性が遠慮がちに
こちらをチラリと見たので
イケねっ! こりゃ聴こえちゃってるな。
口をつぐんだものでした。

=つづく=

2018年8月23日木曜日

第1943話 ヒデキをもう一度

西城秀樹が亡くなって早や3ヶ月。
8月16日は3度目の月命日だった。
ブーツならぬシューズをぬいで
朝食ならぬ昼食を食べたあと、
何気なしにラジオのスイッチを入れると、
ヒデキの歌声が耳に入ってきた。
NHK・FMである。

聴くともなしに聴いていたら
この番組がいつまで経っても終わりゃしない。
何だヨ、コレ? 朝刊のラジオ番をチェックして驚いた。
「今日は一日”ありがとう!ヒデキ”三昧」
なる番組でサブタイトルは
「新御三家 戦後屈指のスーパースター・西城秀樹の世界!」
ときたもんだ。

これだけならべつに驚くこともないけれど、
何と、放送時間が12:20~21:30。
9時間以上に渡る前代未聞の大特集だったのだ。
幸いにしてこちらは丸一日フリーの休養日。
ずっと聴いてたわけじゃないが
ずいぶん長いことつき合ってしまった。
岩崎宏美や徳光和夫など大物ゲストのトークを交えて
いや、引っ張る、ヒッパる、ヒッパりまくる。

20時過ぎに発表された聴視者の投票による彼のナンバー、
ベスト10だけは聴き逃すまいとラジオにかじりついた。
読者の中にも興味をお持ちの方が
多数おられると思うので発表させていただきましょう。

① ブルースカイ ブルー
② 若き獅子たち
③ 傷だらけのローラ
④ エピタフ
⑤ 炎
⑥ 蜃気楼
⑦ サンタマリアの祈り
⑧ LOVE SONGを永遠に
⑨ ラストシーン
⑩ 君よ抱かれて熱くなれ
 次点:YOUNG MAN

いや、ブッタマげた。
ひるがえって”第1375話 ヒデキの思い出”で紹介した、
マイ・ベスト5を再びご覧に入れると

① 傷だらけのローラ
② ブーツをぬいで朝食を
③ ブーメランストリート
④ 情熱の嵐
⑤ 激しい恋
 次点:抱きしめてジルバ~Careless Whisper~

「~ローラ」以外は揃いも揃って蚊帳の外。
大阪のらびちゃんとはけっこう重なったんだがなァ。
「ブーツをぬいで~」なんか、
ヒデキ本人がベスト3に入れてるってのにサ。
あらためて世間一般とオノレの趣向の隔たりを
実感しまくった次第なり。
オッサンは引っ込め! ってか? けっ!

2018年8月22日水曜日

第1942話 涙と汗にぬれて (その2)

旧連雀町のカレーハウス「トプカ」にいる。
インドカレーのポーク&マトンのコンビネーション、
盛合せB(1400円)というのをお願いすると、
マダム(?)が訊ねてきた。
「辛いのダイジョブですか?」
「ノー・プロブレム!」
うなずく彼女からチケットを受け取った。

「あと、瓶ビールあります? アサヒあるかな?」
「サッポロの大瓶ですけどダイジョブですか?」
「ノー・プロブレム!」
ダイジョブ?の連発があって、おもむろに着席。

黒ラベルはよく冷えていた。
大した距離でもないが炎天下を歩いてきたため、
口中にとどまる間もあらばこそ、
琥珀色の液体は滝の如くにのどをすべり落ちてゆく。
いや、たまりませんな(こればっかりや)。

福神漬けと甘らっきょうをポリポリやってるあいだに
かき玉のコンソメが運ばれ、ほどなく盛合せBが到着。
帯状のライスの上下にポークとマトンが
分断されていわゆる相掛けスタイルだ。
汁気のないマトンにはトマトと玉ねぎが1片づつ。
サラサラのポークはソースの中に
ナス・にんじん・ピーマンが散見された。

まずはマトンを一匙味わい、ライスで追いかける。
うむ、ウム、素材の持ち味が活きて上々のデキである。
一方のポークは関東人によりなじみやすく、
日印合体の味覚の妙を楽しませてくれる。

ところが道半ばにも行かないのに
突然、右手に持ったスプーンの動きが止まった。
あれっ、こんなに辛かったかなァ。
歳とともに辛味に弱くなった自覚はないし、
こりゃ、明らかに以前よりマッチ・ホッターだ。

口の中は火の車、ビールなんかじゃとても消火が間に合わん。
氷入りのお冷やさえ、火を消し止められなかった。
おまけに額から首筋から汗が噴き出てくる始末。
加えて悲しくもないのに涙まであふれてきやがった。
コイツは「デリー 上野店」で最辛を誇る、
カシミールカレー並み、いや、それ以上かもしれない。

ノー・プロブレムどころかビッグ・プロブレムの洗礼を受けた。
ブラックマヨネーズじゃないが、まさにヒーハー!
それでもどうにか牛歩の如くに完食した次第。
ふぅ~っ、しばらくのあいだカレーはいいや。

てなこって涙と汗にぬれまくったが
恥を承知で白状すると
鼻水ジュルジュルもまたヒドかった。
何せ、ポケットのクリネックスを使い切ったもんネ。

「トプカ」
 東京都千代田区神田須田町1-11
 03-3255-0707

2018年8月21日火曜日

第1941話 涙と汗にぬれて (その1)

  ♪   涙と雨にぬれて 泣いて別れた二人
     肩をふるわせ君は 雨の夜道に消えた
     二人は雨の中で あついくちづけかわし
     ぬれた体をかたく 抱きしめあっていたね

     訳も言わずに君は さようならと 言った
     訳も知らずにぼくは .うしろ姿をみてた
     恋のよろこび消えて 悲しみだけが残る
     男泣きしてぼくは 涙と雨にぬれた   ♪

            (作詞:なかにし礼)

和田弘とマヒナスターズ&田代美代子が歌った、
「涙と雨にぬれて」は1964年のリリース。
以前に当ブログで紹介したハズだが
本人がハッキリしないくらいだから
読者にとっては忘却のはるか彼方だろう。
よって今一度、取り上げたい。
世間はこういうのを開き直りという。

この作品は作詞家・なかにし礼のデビュー作。
珍しく作曲も彼自身が手がけている。
作詞・作曲の両刀を使ったのはほかに
黒沢年男の「時には娼婦のように」と
菅原洋一の「風の盆」くらいしか思いつかない。

さて、世の中はお盆休みの真っ只中。
甲子園では全国高校野球大会が真っ盛り。
この日は応援している学校の敗色が濃厚となって家を出た。
近所では面白味に欠けるため、
電車に乗って到着したのは神田神保町だ。

目星をつけていた海南鶏飯の店は案の定、夏季休業中。
想定内につき、精神的ダメージはない。
駿河台下から小川町を経て淡路町にやって来た。
この辺りは旧神田連雀町で奇跡的に戦災を免れた。

おや? 20人ほどの行列が日本そば屋の店頭に―。
池波正太郎翁御用達の「まつや」である。
こういった老舗は長いお盆休みをとるのが常。
頑張ってるなァ。

列の後尾につく気など毛頭ないので
同じ並びの数軒先、カレーライスの「トプカ」に入店した。
何度も訪れているが直近は8年前くらいだろうか。
インドカレーと欧風カレーの二枚看板を
ウリにしている店ながら
好みでない欧風はほとんど食べた記憶がない。
壁に面したカウンターに着こうとすると、
マダムみたいな女性に食券の購入を促された。

=つづくー

2018年8月20日月曜日

第1940話 匂いにおびき寄せられて (その2)

東上野の「晴々飯店」でジャスト・ハヴィング・ランチ。
界隈はかねてより、
オートバイ関連の店が軒を連ねる一画だったが
ここ数年、閉業が相次いで町の様相が一変した。

そのぶん、ビジネスホテルや
男性同士のカップル向けバーが増えている。
新宿2丁目あたりのオカマバーとは
趣きを異にするスタイルらしいが
利用したことがないので実状を知らない。
ただ、男のカップルといっても若者は皆無。
みな中高年以上と聞き及んでいる。

八宝菜ならぬ、十宝菜は塩味ではなく醤油仕立て。
通常の八宝菜はほとんどアッサリ味の塩系だろう。
それともあれは広東料理に限ったことで
四川・北京・上海と、ところ変われば品も変わるようだ。

ヒマに任せて皿中の具材を数えてみた。
海老、いか、豚バラ肉、きくらげ、ふくろ茸、
千本しめじ、白菜、にんじん、小松菜と、
これじゃ九宝菜じゃないかと思ったものの、
出て来た、出て来た、ホンのちょっぴり竹の子が―。
ようやく十宝菜と相成った。

十宝菜はリアル回鍋肉同様にちょいとしょっぱい。
きくらげ大好き人間の相方は相好を崩しつつ、
そのへんばかりをつついている。
ライスの量が日本の定食屋より多いのは
濃いめの味付けでガッツリ食べさせるためかもしれない。

次から次と来客は引きも切らない。
週末とあって近所のサラリーマンの姿はなく、
若いカップルが目立つ。
ってゆうか~、カップルかグループばかりだ。
さすがにそのスジの男性同士は現れなかった。

ほかに興味を惹かれた料理はパクチーロース。
このロースはロースハムや
ロースカツのロースじゃなくて肉糸だと思われる。
それに黄金豆腐。
写真を見ると土鍋仕立てで綺麗な黄色をしている。
何でも本場ではアヒルの卵黄を使うそうだ。
再訪したら必ず食べようと心に決めた。

普段あまり接しない味と香りに
味覚&嗅覚が反応したわれわれ二人。
満腹となったが当店には大きな欠陥あり。
注文した2皿には豚バラ肉が使用されている。
しかしながら、その肉自体がいただけない。
中国産の解凍モノと憶測される。
三元豚やアグー豚、はたまた東京Xのバラだったら
どんなに美味しい料理となっただろう?
日本人としてまことに残念なり。

「晴々飯店」
 東京都台東区上野7-8-16
 03-3842-8920

2018年8月17日金曜日

第1939話 匂いにおびき寄せられて (その1)

関東に梅雨明け宣言が出された頃だから
2ヶ月近く前だったろうか?
夜更けた東上野の裏町を歩いていた。
とある中華料理屋の店先を横切ると、何ともいい匂い。
そしてヤケに懐かしい。

立ち止まって確認すると、店名は「晴々飯店」。
これは”はればれ”でなく”せいせい”と読む。
四川省の省都、成都の家庭料理をウリにしている。
メニューをチェックすると、
リアル回鍋肉やらリアル青椒肉糸やら、
やたらにリアルが強調されている。
日本風にアレンジを施していないという意味だろう。
そうか、これが本場の四川料理の香りなのか。

懐かしさを感じたのは今は昔、
シンガポールに滞在していたときに
何度も嗅いだ匂いだったからだ。
もう四半世紀を超える以前のことで
以来、この匂いとの遭遇はなかったように思う。
しいて挙げると、千駄木の「天外天」に似ている。
これは訪ねなければ! そう思った。


そうしてめしともを誘い、やって来たランチタイム。
12時過ぎの立て混む時間帯である。
われわれはスンナリ席を確保できたが
ほどなく短い行列が形成され始める。
ふ~む、人気店なんだネ。
それにしても店内に漂う匂いに圧倒される。
シンガポールでたびたび接したものだ。

アサヒの中瓶を所望して菜譜の吟味。
やはりリアルに惹かれて
まずはリアル回鍋肉定食(880円)。
それに野菜好きの相方のため、
十宝菜定食(850円)というのを―。

配膳にかなりの時間を要するものと思いきや、
待つこと10分足らずでトレーが2枚運ばれた。
それぞれの主菜のほかに
ワカメ入りのかき玉スープ、刻んだザーサイ、
胡麻ドレの繊切りキャベツ、
そして黄桃缶を散らした杏仁豆腐。

”日本のモノとは全然違います”
メニューに記された通り、
回鍋肉は見た目も香りもまったく異なる。
豚バラ肉・ニンニクの芽・長ねぎ・玉ねぎ・にんじん。
以上が炒め合わさり、調味料は花椒・豆鼓・辣油。
味付けは濃く、辛味も手伝い、
白飯の進むこと、尋常ではなかった。

=つづく=

2018年8月16日木曜日

第1938話 部位少なくとも焼きは良し (その2)

JR新橋駅烏森口に近い「新ばし 鳥之介」に酌友と二人。
互いに6本構成のかるめコースをお願いした。
元来、コースは好まない。
しかし、当店の品揃えはさほど多くない。
いや、むしろ少ない。
したがって6本でもおおよそカバーしてしまう。
それにコースなら焼き手もシゴトがしやすかろうし・・・。

トップバッターはハツだった。
ハツはハート、説明の必要ない心臓は大好きな部位。
いったん歯を押し返す弾力がイノチで
浅い火の通しが効果を上げている。

続いては正肉のモモ、これもまた良し。
焼き鳥屋の主役は何と言っても正肉。
これが嫌いな客は焼き鳥屋には来ない。
鮨屋のまぐろ、天ぷら屋の海老に相当しよう。
さらに鰻屋の鰻、とんかつ屋の豚、
ハハハ、こりゃ当たり前田のクラッカーでやんした。

焼酎のロックに切り替える。
相方がキープしている黒霧島だ。
”赤”、”白”、”茜”と多彩な顔ぶれを誇る銘柄だが
もっとも普及しているのがこの”黒”だろう。

さて、串も3本目、ここでレバが登場。
おやっ、タレで来るかと思いきや意想外の塩である。
けっこうな焼き上がりながらレバさえも塩とは驚いた。
さすれば、タレはいったい何に使うんだい?
ここまですべて塩だ。

お次はつくね。
自分ではまず頼まぬ串が来た。
まっ、舌先に変化を与えてくれてこれはこれでよい。
薬研ナンコツだか大葉だか、何か混ざっていたかな?
う~ん・・・忘れた。

5本目も変化球でグリーンアスパラの豚バラ巻き。
こういうのもお好みではまず注文しない。
別に嫌いじゃないんだが食指が動かない。
実際口にしてみて多少は見直した。

どん尻に控えしは手羽である。
堂々たるサイズを誇って当店自慢の一串だという。
1本に3個も刺されており、食べ応えがあったなァ。
とにもかくにも6本みんな塩。
最後までタレに出会わなかった。

階段を上がると外はまだ明るい。
すっかり酩酊した相方とJRの改札口で別れ、
こちらはメトロの銀座線。
ここから上野・浅草方面というのが
通常のパターンだが魔が射したのか、
渋谷行き電車に飛び込み、もとい、飛び乗りました。

「新ばし 鳥之介」
 東京都港区新橋3-16-7
 03-3433-1013

2018年8月15日水曜日

第1937話 部位少なくとも焼きは良し (その1)

またまた猛暑日の宵の口。
オシャレ・タウンならぬ、オヤジ・タウン新橋にいた。
旨い焼き鳥屋を紹介したいという友人の誘いに乗って
のこのこ出掛けて来たのだが
よ~く考えてみれば、ずいぶん久しぶりの新橋であった。

店名を「鳥之介」という。
ん? 聞き覚えがあるな。
調べてみたら18年前に一度だけ訪れていた。
それも2軒目として流れてきたから
あまりつまんでいない。
ただ、鳥刺しが良かったと記憶している。

新橋駅前ビルの地下で生ビールを1杯引っ掛け、
揚々と向かった指定先である。
着いてみると、「鳥之介」は「鳥之介」でも
アタマに「分」の字がかぶさっている。
あとで知ったことだが
こちらは「新ばし 鳥之介」といって2号店なんだそうだ。

狭い階段を降りると、
目前にアコーディオン・ドアのお出迎え。
おっとっと、こういう入り口は
わが人生においてほとんど前例を見ない。
いや、人生初かもしれない。

過去に本店を訪れて料理のレベルを知っていなければ、
この段階で逃げ出すところだ。
意を決してアコーディオンを引き、入店に及ぶと、
カウンターの端にちょこんと座った相方は
この暑いのに焼酎の湯割りなんぞをのんきに飲んでいた。

当方は中ジョッキをやっつけてきたものの、
1杯じゃとてもとても足りやしない。
ジョッキと湯飲みの奇妙な乾杯!
卓上には突き出しの枝豆と相方が頼んだ冷やしトマトが―。
固茹でを冷やした枝豆が旨い。
茹で立て熱々の豆は嫌いだ。
蛸でも蟹でも玉子でも、茹でたら冷やしたほうがよろしい。
 
壁の短冊に
かるめコース(6本)

おまかせコース(ストップがかかるまで)
とあった。
 
大食漢でないJ.C.は当然かるめをお願い。
どんな6本が運ばれるものか、
おおよその見当がつくものの、
それなりに楽しみではある。
 
=つづく=

2018年8月14日火曜日

第1936話 みんな仲良く池上彰 (その2)

三軒茶屋の洋食屋「アレックス」。
生ビールとともに単品のハンバーグを楽しんでいる。
オマケの景品みたいな小粒の蟹クリーコロッケが素敵だ。
かきフライのシーズンまでは待てないから
近々、再訪することになるでしょうヨ。
そのときは揚げ物でビールだネ。

ケチャスパはおざなり感があって感心しない。
フライドポテトもまあそれなり。
良かったのはインゲンである。
あらかじめ火を通したものを温め直すのだが
独特の食感が実に快適だ。

サヤインゲンとサヤエンドウ(絹さや)は
似て異なるモノの典型例。
絹さやは強火でサッと処理し、
シャキシャキ感を残さねば美味しくない。
一方の隠元豆はゆっくりと火を通して
シャクシャク感を賞味したい。
「アレックス」のサヤインゲンは
食材の持ち味を上手に引き出していた。

ヒマに任せ、飲み干したお椀に残るしじみに手を出した。
一粒ひとつぶほじくり出してビールのつまみとする。
われながら多少いじましい気もするが
別にバッドマナーではあるまいて―。

ハンバーグとポテトがまだ残っていたから
ここで中ジョッキのお替わりクン!
惜しかったネ、日本タイ記録の7試合連続ホームラン。
いえ、西武ライオンズのオカワリくんのハナシです、ハイ!

ふと見上げると、TVでは池上彰さんが熱弁を奮っている。
何でも日本人の国民一人当たりの米の消費量が
世界で49位だったかな?
とにかく想像よりずいぶん下位に甘んじていた。

その代わりにパンの消費となると、
記憶が定かでないが9位くらいでベスト10入りしていた。
おい、おい、そこまで米離れが進んでるのかァ。
まったくもって、ヘェ~! だネ。

気がつけば6人のお客全員がTVに釘付けときたもんだ。
いえ、いえ、カウンターの外ばかりじゃないヨ、
内側の3人も調理、洗い物そっちのけ。
シェフなんかガス台が奥にあるもんだから
その位置からは画面がよく観えず、
息子のそばまで出張って来ちゃってる。

そりゃ、そうだよねェ。
洋食店という商売柄、こういう特集は気になるよねェ。
とにかくカウンターの内と外、
連帯感を共有しながら
みんな仲良く池上彰でありました。

「アレックス」
 東京都世田谷区三軒茶屋1-41-11
 03-3422-0220

2018年8月13日月曜日

第1935話 みんな仲良く池上彰 (その1)

オシャレ感漂うイメージの世田谷区・三軒茶屋。
東急田園都市線の駅南口を出て
国道246号を渋谷方面に戻ること1分、
通りに面した角地に昭和の洋食屋「アレックス」がある。

前を通るたびに利用したいと思うものの、
タイミングが悪く、いつも食事どきを外れていた。
そのうちに、そのうちに、の繰り返しで
ずいぶん月日が流れてしまった。
今宵こそはと強く心に言い聞かせ、
降り立ったオシャレ・タウンであった。

週末の19時半に入店。
店内は緩い弧を描くカウンターのみで
数えていないが10名ほどは座れようか―。
奥から3番目の席に着いた。
最奥席の頭上にTVが設置されており、
そこに座ったら観づらいだろうネ。

カウンター内のスタッフは3名。
真ん中に息子らしき料理人が陣取って客の注文を取る。
奥のガス台前にオヤジさん、この方がシェフだ。
息子の左手は女将さんかな?
年配の女性が調理補佐&洗い物担当のようだ。

生ビールはサッポロ黒ラベル、中ジョッキをお願いした。
今宵の注文品はあらかじめ決めてあった。
ハンバーグが典型的な昔の洋食屋風と聞いていたからネ。
このあと駅裏の三角地帯で
飲むつもりだからライスは避けておきたい。
よって定食ではなく、単品にした。

熱々の鉄板に載って現れたハンバーグには
付合わせとしてサヤインゲンのソテーと
フライドポテトにケチャップスパゲッティ、
それにオマケの小さな蟹クリームコロッケがちょこんと。
そして単品なのに、なぜかしじみの味噌碗である。
スープ代わりに味噌碗からいただく。

主役のハンバーグはまさしく昭和の味がする。
ちょいと濃いめの味付けはライスがあればもっと旨かろう。
もっとも生ビールがあるから別段、問題にはならないがネ。
良きつまみとしてゆっくり食べ進むといたそう。

驚いたのはクリームコロッケだ。
蟹の風味が強いわけじゃなく、
そんなにクリーミーでもないのに
コロモの付き具合と揚げ上がりが素晴らしい。
こんな感じなら冬場のかきフライは絶対に外せないゾ。

=つづく=

2018年8月10日金曜日

第1934話 ポモドーロとネッビオーロ (その2)

根津・善光寺坂の「バール・オステリア・コムム」にて
抜かれたランゲ・ネッビオーロは7600円+の値付け。
テイスティング時点で早くも香りが開いている。
安くはないが、この品質ならば高くもない。

2皿目のアンティはサルシッチャとかきの木茸のインパデッラ。
インパデッラはソテーのことだが新じゃがとプチトマトが加わる。
耳慣れないかきの木茸はえのき茸の1種。
太陽光線が当てられたせいで薄茶色に染まっており、
山えのきに近いものの、さほど色濃くはない。
自家製ではなかろうともサルシッチャがワインによくなじんだ。

イタリアンではプリモのパスタの前に
セコンドのメインを持って来るのが常。
鶏・鴨・豚と揃ううち、
茨城産美明豚(びめいとん)の香草オーヴン焼きを―。
香草がローズマリーで付合わせは新じゃが。
新じゃががダブッてしまったが
こちらはニンニクがよく効いて飽きることはなかった。

何よりも豚ロースがきわめて良質、
歯応えのある脂身は噛み締めると甘みがにじみ出る。
久しぶりに旨い豚肉に出会い、その豚を咀嚼しながら
近々、上等なとんかつを食べたいな、そう思ったことである。

締めのパスタはセコンドよりずっと選択肢が拡がる。
択んだのはわりとシンプルなスパゲッティで
モッツァレッラとバジリコのトマトソースと記されていた。
スパゲッティ・ポモドーロのアレンジ版は想像と異なり、
賽の目状のモッツァレッラが散っている。
余熱で柔らかくはなるものの、溶けるまでには至らない。

濃厚なトマトソースがたっぷりと絡まり、
パスタを凌駕しまくるのでバゲットの助けを借りた。
しかし、この濃いめの味付けがネッビオーロと出逢い、
口内に不協和音をかき鳴らしながらも
やがては手に手を取り合ってノドの奥に滑り落ちてゆく。
南イタリアでは多用されるトマトソースだが
北イタリアのワインとの相性もけして悪くはなかった。

相方が2杯ほどしか嗜まないからワインが残っていた。
3杯目をすすめるためにフォルマッジの3種盛合せを―。
内容はタレッジョ、ゴルゴンゾーラ、グラナ・ロディジャーノ。
そこにオマケの仏産ブリー。
アクセントとして柑橘のコンポートが皿の中央に鮮やか。
キンカンかと思ったら、極小のマンダリン・オレンジとのこと。
ゴルゴンにはピッタリだ。

約2時間の滞在で、お勘定は17000円弱(税込み)。
来春の再会を約し、相方を根津駅まで送ってサヨウナラ。
当方は坂を戻り上がって鶯谷へでも繰り出しますかな。
もちろん行く先はラブホじゃないヨ、酒場だヨ。

「バール・オステリア・コムム」
 東京都台東区谷中1-2-18
 03-3823-4015

2018年8月9日木曜日

第1933話 ポモドーロとネッビオーロ (その1)

ずいぶん昔のことになるがワインを楽しむ会で
何度か顔を会わせた友と夕暮れどきのディナー。
近々、東京を離れるそうでしばしの別れ、
思い出に居酒屋じゃ味気ないから
イタリアンでも・・・となった次第である。
場所は谷根千界隈で合意をみた。

時間的束縛に追われて仕掛けは早め。
と言っても17時以降にオープンする店ばかりだ。
たまたま見つけたのが「バール・オステリア・ココム」。
地番は谷中だが最寄り駅は根津。
町の中心となる交差点から
善光寺坂を上り始めてすぐの場所にある。

15時に予約の電話で入れると、
応対してくれたのはマダムかな?
すでにこの時間もオープンしているとのこと。
渡りに舟とはまさにこれ。
1時間以内におジャマする旨を伝えた。

昼飲みに規制の厳しい文京区。
しかも若者とあまり縁がなく、
年寄りばかりが目立つ町、根津では
きわめて珍しい営業時間の設定といえる。

サッポロ黒ラベルで乾杯。
壁に書かれた膨大なワインリストに見入った。
イタリア全20州のほとんどを
カバーしているのではなかろうか。
いや、ご立派だ。

簡単には決めかねるのでアンティパストを注文しておく。
ちなみにコペルト(300円+)はバゲット込み。
イタリアンでバゲットかァ。
フォカッチャが望ましいのにねェ。

一皿目は小ムツと豆アジのカルピオーネ。
フレンチならエスカベシュ、和食なら南蛮漬けに当たろうか。
もともとは北西アフリカのイスラム教徒、
ムーア人がスペイン南部に持ち込んだもので
それが地中海沿岸に広く伝播した。

豆アジはごくフツーの小さなアジだが
小ムツはその5倍はあった。
頭こそ落としてあるものの、若鮎ほどの大きさだ。
よって硬い背骨は食べられない。
黒ムツの幼魚とみえてさすがに食味はよろしい。
ちょいと生臭みの残ったアジより、ずっと美味しい。

カルピオーネを食べ終えてワインを決定。
ランゲ・ネッビオーロ バラーレ・フラテッリ 2011年。
ネッビオーロはJ.C.が最も愛するワイン・セパージュで
しかもバラーレはバローロ地区の産である。
不味かろうワケもなし。

=つづく=

2018年8月8日水曜日

第1932話 カレーで一汗流します (その2)

前話に対するクレームのメールが2通到来。
まず札幌市にお住まいのH山サン。
「私はナンが食べたくてカレー屋さんに行きます。
 年配の男性客はライスばっかりですが
 どうしてナンの美味しさが判らないのでしょう?」
ですよネ。
年配のJ.C.も美味しいと思いますが
あのサイズを持て余してしまって
いくら頑張ってもせいぜい1/3がいいところで―。

続いて大田区のS本サン。
「ナンは私のイノチです。
 そのイノチをバカとは何事ですか!」
ハイ、スンマソン。
何事においてもバカはいけませんよネ、バカは!
以後、心して気をつけます。

あ~あ、叱られちゃったヨ。
気を取り直して「デリー 上野店」。
カウンター8席に2人掛けテーブル4卓、
計16席の小体な店のテーブルに独り。

パキスタン風コルマカレーを通して待つあいだに
卓上をみるとレリッシュのきゅうりピクルスはあるが
玉ねぎのアチャールの姿がない。
接客のオニイさんに伝えて準備してもらう。

運ばれたカレーは想像とかけ離れた景色であった。
骨なしチキンもも肉が4塊に半割りの新じゃがが1つ。
あとはかなりの玉ねぎが使用されている。
それはそれでいいんだが問題はソース。
何と言おうか、クリーミーな白濁感がまったくない。
ダークブラウンのソースは
今まで食べてきたコルマとは似ても似つかなかった。

レードルですくって白いライスに二掛け。
スプーンで口元に運ぶと、
ファーストアタックは酸味である。
追い掛けるように苦みが口中に拡がる。

ふ~ん、こういうコルマがあるのかァ。
これがパキスタン風というものかァ。
でもぜんぜん不味くはなく、むしろなかなか旨い。
2種類のレリッシュが効果的に働いて
舌先を飽きさせない。

接客の目も行き届き、
お冷やの注ぎ足しが小まめ。
これなら当店最辛のカシミールカレーだって怖くない。
コルマを完食して、いい一汗を流すことができた。
でもカシミールだと、とても一汗じゃ済みそうにないッス。

「デリー 上野店」
 東京都文京区湯島3-42-2
 03-3831-7311

2018年8月7日火曜日

第1931話 カレーで一汗流します (その1)

土用の丑の日はこの夏、2つめぐってきた。
都内のうなぎ専門店はその日、それなりに繁盛した様子だ。
夏になったらうなぎよりどぜうが食べたくなるJ.C.だが
ここしばらく食べてないなァ。
こう猛暑日が続いたひにゃ、
鍋をつつく気にもなれないからネ。

その代わりといっては何だが、カレーを食べてきた。
カレーに旬などなくとも
何となく夏のイメージがつきまとうのは
本家本元のインドが常夏の国だからだろうか。

ちなみに日本にはカレーの日があるらしい。
今から36年前の1982年1月22日、
全国学校栄養士協議会の声掛けで
全国の小中学校の給食でもれなくカレーが出された。
よってこの日がカレー記念日となった由。
何だかサラダ記念日みたいだネ。

さて、訪れたのは「デリー 上野店」。
1956年創業のいわゆる本店は4年ぶりである。
ランチタイムを大きく外して14時半到着。
待ち客は1人だけながら
タイミングが悪かったのか10分以上並んだ。
まあ、この程度は仕方あるまいて―。

メニューに記載されているカレーは
一通り試したつもりだったが未食の1品に目がとまる。
パキスタン風コルマカレー(1000円)。
そう、「デリー」は創業当時から
インド・パキスタン料理専門店を謳っているのだ。

近頃はインド・パキスタンに取って代わり、
インド・ネパールの看板がやたらに目立つ。
そのせいかパキスタンやバングラディッシュが
駆逐されているようにも映る。

ヨーグルト、あるいはクリーム、
そしてときにはナッツが使われるコルマはわりと好き。
ニューヨーク駐在時のランチタイムは
オフィス近隣のカレー店にデリヴァリーを頼んだものだが
チキン・ヴィンダルーとラム・コルマが多かった。

ヴィネガー使用のヴィンダルーは酸っぱい刺激、
一方のコルマはリッチなまろやかさが魅力のカレーだった。
東京ではめったに行かないインドカリー専門店ながら
食材の個性に合わせて
もうちょいと風味に変化を求めたいところだ。
あんなバカでかいナンなんか、出さなくてもいいからサ。

=つづく=

2018年8月6日月曜日

第1930話 獺祭はパンダであった

台風12号の影響で雨にたたられた夕刻。
五反野の「幸楽」で一酌に及んだあと、
北千住で途中下車せずに上野へやって来た。
新宿や池袋と違い、人混みは許容範囲。
どことなくのどかな空気すら流れている。

とは言え、さすがにそこはターミナル・ステーション、
改札の内外に時間をつぶせる場所はいくらでもあって
退屈することはまずない。
書店で雑誌をめくったり、スーパーでワインを眺めたりした。

約束の時間がきたので中央改札へ。
相方は陽射し除けのツバが大きい帽子をかぶって登場した。
やけにオッサンくさいな。
これで鐘でもカランカラン鳴らしゃアイスキャンデー売りだぜ。

飲み屋が立ち並ぶアメ横方面に向かう。
店を決めていないから行き当たりばったりである。
訪れたばかりの「かのや」では面白くないし、
真ん前の「大統領支店」は客が外まであふれていた。

ちょいとばかり喧騒を逃れ、
立ち止まったのは「たる松 上野店」の店先。
品書きにはここ数年、
飛ぶ鳥を落とす勢いの獺祭が載っていた。
それも1杯800円足らずだとサ。
ホントかな? んなワケないだろ!

近くの「たる松 本店」はどちらかといえば食堂の雰囲気。
反してこちらはピュアーな酒場といった感じだ。
カウンターの内側、いわゆるバックバーに
大きな菰樽がズラリと並んでいるから
明治神宮か熱田神宮で飲んでる気分にさせてもくれる。

意見の一致をみて入店し、カウンターに落ち着いて
さっそくサッポロ黒ラベルの生中をグイッと―。
クゥ~ッ! 世の中にこれほど美味いものはナシ。
夏の日の生ビールは銘柄を選ばず。
さすがにエビスとプレモルは困るけどネ。

つまみはホタルイカ沖漬け、うなぎ肝焼き、オクラ浅漬け。
二人とも腹が減ってないせいか、いずれもイマイチ。
肝焼きなんざ、どんなうなぎの内臓だろうか、恐ろしくデカい。
国産ではなかろう。
まっ、軽く一刻ほど飲むにはこれでいいのかもしれない。

清酒に移行してくだんの獺祭を所望すると、在庫切れ。
あ~、やっぱり。
近頃、こういう店があとを絶たないと聞く。
こちらもためしに頼んでみただけで別段、
この人気銘柄に固執する気などない。

福島・大七と秋田・高清水の樽酒を1杯づつ飲って
早めのお開きとした。
でもなァ、いくら上野だからって客寄せパンダの役を
獺(かわうそ)に演らせちゃ、よくないと思うヨ。

「全国銘酒 たる松 上野店」
 東京都台東区上野6-8-10
 03-3835-1755

2018年8月3日金曜日

第1929話 大雨にビビッた日 (その2)

来た、来た、ハゼが来た!
アサヒの大瓶とともに楽しむ。
中ぶりのが2尾に茄子の半割りと大葉が1枚。
当たり前とはいえ、以前とまったく変わらぬ景色だ。

ハゼは1尾を天つゆ、もう1尾は大根おろしと生醤油でやった。
身はホックリと、ちょいと付きすぎのコロモもさほど気にならず、
尻尾も残さずにしっかりいただく。
海老でん、ハゼでん、キスでん、メゴチでん、
穴子と銀宝はどこが尻尾か判別できないが
江戸前の天ぷらは尻尾まで完食するのが流儀であり、作法だ。

大関の生貯蔵酒に切り換え、皿に残った茄子と大葉を平らげる。
この二強に茗荷が加わったら
舌の上に涼気を呼ぶ夏野菜・御三家の揃い踏みとなり申す。
味噌汁にせよ、そばのつけづゆにせよ、
このトリオの連携プレーには目をみはるものがありんす。

何かもう1品ほしい。
くじベコは前回いただいたから好物の焼きとんにしよう。
1種1本からオーダー可能がありがたい。
よって、シロとレバをタレで通した。

当店の焼きとんは初めてだが濃厚なタレが印象的で
神田神保町の「多幸八」をしのばせる。
下処理もキチンと施されており、食味は上々。
だてに半世紀も焼き続けてきたわけじゃない。
意想外の上モノに歯が奮起して咀嚼に励みまくっている。
男J.C.、まだまだ入れ歯の世話にゃならないぜ。

大瓶1本、清酒180ml、ハゼ天1皿、焼きとん2本。
以上で勘定は1820円也。
天ぷらはほかにキス、メゴチ、イワシが用意され、
生モノも揃っていて小肌酢まである。
接客のオバちゃんたちも感じよく、いい店だなァ、ここは!

北千住で東武伊勢崎線に乗り換えて2駅目の五反野。
このたび麻原死刑囚が処刑された小菅の東京拘置所を
毎度、視界に入れることになるが月に一度は通いたい。
そう言いながら、なかなか実行に移せないんだけどネ。

さて、上野での約束の時間まで少々の余裕があった。
北千住なら浅い時間から開いてる店に事欠かない。
そう言やあ、駅そばの飲み屋に同名の「幸楽」があったな。
別段、関連はないようだが
2店を比較すると断然、五反野でしょう。

そんなことを考えながら外に出た。
ありゃ~、土砂降りじゃないか!
駅近とはいえ、これじゃ濡れねずみ必至だヨ。
気象庁に悪態ついたバチが当たったんだ、きっと。

「幸楽」
 東京都足立区弘道1-1-16
 03-3849-6981

2018年8月2日木曜日

第1928話 大雨にビビッた日 (その1)

関東直撃がないとはいえ、
台風12号の影響で東京は終日大雨と予想された日。
隅田川の花火も早々に順延が発表されていた。
ところが朝方は降っていた雨も、
昼過ぎにはすっかり上がってやんの。

夜の予定を延期した身にとって
ハズレた予報が少なからずうらめしくもあった。
いくら前代未聞の逆走台風だからって
もっとしっかりしておくれヨ、気象庁さんヨッ!

14時を過ぎて空腹を感じ、おのれの舌と胃袋に問う。
「オメエたち、何を食いてェの?」
舌が応えて曰く、
「サカナの天ぷらがいいな、それも穴子かハゼ!」
間髪入れず、胃袋が続いて
「とんかつぅ、ヒレじゃなくってロース!」

ふ~む、天ぷらかァ、とんかつねェ。
共通するのは揚げ物ってこった。
どちらとも決めかねて漠然と家を出たその瞬間、
ジーンズのポケットのケータイがバイブレート。
墨東に棲む酌友が今宵の軽飲みを誘うメールだった。
訊けば先方も晩めし取り止めとなった由。
快諾して夕刻に上野で落ち合うことを約した。

さすればロースカツは重たかろう。
ここはハゼの天ぷらで一酌に及ぶべし。
はて、ハゼ天である。
記憶の糸をたどって行き着いたのは
足立区・五反野の「幸楽」だ。

あれは三ヶ月半前。
電車を待つプラットフォームで
上り下りの微妙なズレに見舞われ、
神田の「三州屋 駅前店」に行くつもりが
五反野の「幸楽」へ変更したのだった。
そのせいで「三州屋」に別れを告げられなかった。
今でも心残りである。

前回は湯島のピッツェリアにおける、
夕食会の前に独り0次会で立ち寄った。
その際はハゼ天とくじベコで飲んだが此度もここしよう。 
土・日は正午開店のハズだし・・・。

てなこって再訪した「幸楽」。
天気予報が悪天を告げたせいか、
店内はガラガラ蛇がとぐろを巻く状態。
それでもしばらくすると、
地元の常連が三々五々のご到来である。
かように飲食のなりわいは地域になじんでナンボのものだ。

=つづく=

2018年8月1日水曜日

第1927話 インドまぐろの三種盛り (その3)

数年前には「一力」だった「かのや」の1階カウンター。
そのときとまったく同じ席に着いた。
アレは何というのかな? 器械に疎いから判らんが
ウォーキートーキーのヘッドフォン仕様みたいなので
2階とレンラクを取り合う接客係のオネエさんは
上・下を差配しているから店長かもしれない。

その彼女にビール大瓶とインドまぐろ三種盛りをお願い。
銘柄はスーパードライで前回の生ビールと同様だ。
生は”男気ジョッキ”と名付けられ、
他店の大ほどではないが中より容量があった。

「稲荷屋」でビールを封印したうえに
猛暑日の炎天下を歩いて来たため、
大瓶はアッという間にノドを通ってストマックに吸い込まれる。
ヘヘッ、まだまだ飲みまっせ。
「オネエさん、もう1本ネ」
「ハア~イ!」
おう、おう、元気があってよろしい。

立派な三種盛りが運ばれた。
内容は、赤身3・中とろ2・大とろ2切れ。
それぞれに彩り美しく、計7切れはボリュームもじゅうぶん。
一人で食べるには多すぎるくらいだ。
これが1280円也と質・量からして、お食べ得である。

鮨屋のおきまりに使われる一人前の飯台より、
一回り小さい木桶に砕いた氷を敷き詰め、
三チョボに持った桂むきのつま大根と大葉。
その上にまぐろが鎮座ましましている。
まぜわさびが残念ながら
この大型店にこの価格では本わさびを望むべくもない。

それではいただきます、とばかりに赤身から―。
ふむ、フム、へべれけS子にアア~ンしてもらったヤツと
いささかの変わりもない。
肌理こまかく滋味に富んでいる。

インドまぐろには本まぐろ特有の酸味が少なく、
人によってはこちらを好むそうだが何となく判る気がする。
両者の食味の違いは
ヘモグロビンの含有量がもたらすのだろうか。

中とろ・大とろともに文句のつけようがなかった。
インドまぐろとくれば、
第一感は駿州・清水港の「末廣鮨」。
十数年前に訪れたことがあるものの、ピンとこなかった。
むしろ「かのや」に軍配を挙げたいほどだ。
焼き鳥やクリームコロッケが人気とも聞くが
試してないから何とも言えない。

大瓶2本と三種盛りのみで支払いは2460円。
満足度は高いけれど、
テーブル席で声高にしゃべくりまくる馬鹿者ども、
もとい、若者どもの哄笑が
孤独なオッサンを悩ませたのでした。
馬鹿め! 今度は”もとい”ナシ。

=おしまい=

「居酒屋 かのや 上野店」
 東京都台東区上野6-9-14
 03-5812-7710