2018年8月6日月曜日

第1930話 獺祭はパンダであった

台風12号の影響で雨にたたられた夕刻。
五反野の「幸楽」で一酌に及んだあと、
北千住で途中下車せずに上野へやって来た。
新宿や池袋と違い、人混みは許容範囲。
どことなくのどかな空気すら流れている。

とは言え、さすがにそこはターミナル・ステーション、
改札の内外に時間をつぶせる場所はいくらでもあって
退屈することはまずない。
書店で雑誌をめくったり、スーパーでワインを眺めたりした。

約束の時間がきたので中央改札へ。
相方は陽射し除けのツバが大きい帽子をかぶって登場した。
やけにオッサンくさいな。
これで鐘でもカランカラン鳴らしゃアイスキャンデー売りだぜ。

飲み屋が立ち並ぶアメ横方面に向かう。
店を決めていないから行き当たりばったりである。
訪れたばかりの「かのや」では面白くないし、
真ん前の「大統領支店」は客が外まであふれていた。

ちょいとばかり喧騒を逃れ、
立ち止まったのは「たる松 上野店」の店先。
品書きにはここ数年、
飛ぶ鳥を落とす勢いの獺祭が載っていた。
それも1杯800円足らずだとサ。
ホントかな? んなワケないだろ!

近くの「たる松 本店」はどちらかといえば食堂の雰囲気。
反してこちらはピュアーな酒場といった感じだ。
カウンターの内側、いわゆるバックバーに
大きな菰樽がズラリと並んでいるから
明治神宮か熱田神宮で飲んでる気分にさせてもくれる。

意見の一致をみて入店し、カウンターに落ち着いて
さっそくサッポロ黒ラベルの生中をグイッと―。
クゥ~ッ! 世の中にこれほど美味いものはナシ。
夏の日の生ビールは銘柄を選ばず。
さすがにエビスとプレモルは困るけどネ。

つまみはホタルイカ沖漬け、うなぎ肝焼き、オクラ浅漬け。
二人とも腹が減ってないせいか、いずれもイマイチ。
肝焼きなんざ、どんなうなぎの内臓だろうか、恐ろしくデカい。
国産ではなかろう。
まっ、軽く一刻ほど飲むにはこれでいいのかもしれない。

清酒に移行してくだんの獺祭を所望すると、在庫切れ。
あ~、やっぱり。
近頃、こういう店があとを絶たないと聞く。
こちらもためしに頼んでみただけで別段、
この人気銘柄に固執する気などない。

福島・大七と秋田・高清水の樽酒を1杯づつ飲って
早めのお開きとした。
でもなァ、いくら上野だからって客寄せパンダの役を
獺(かわうそ)に演らせちゃ、よくないと思うヨ。

「全国銘酒 たる松 上野店」
 東京都台東区上野6-8-10
 03-3835-1755