2018年9月18日火曜日

第1961話 やっちゃ場から三角地帯まで (その1)

その日の午前中は自堕落にのんべんだらり。
だが、午後からの予定はいっぱいイッパイだった。
JR山手線に揺れて揺られて、降りたのは新大久保駅。
プラットフォームも改札口も人々が芋の子を洗うよう。
飛び交う言語に母国語は混じっているが
コリアン&チャイニーズに音量では太刀打ちできない。
何が楽しくてこのクソ暑い東京に押し寄せるんだろう。

炎天下を歩き、大久保駅前のガードをくぐってしばらく、
殺風景な淀橋市場に到着した。
ここはやっちゃ場、いわゆる青果市場である。
招かれざる訪問者が激増する築地の場外に
寄り付かなくなって久しい。
その点、ここは閑散としていて人恋しくなるくらいだ。

外壁をグルリと廻り、やって来たのは「伊勢屋食堂」。
あれほど馴染んだ築地と決別した今、
淀橋や千住大橋は貴重だ。
市場食堂への愛着は浅からぬものがあるからネ。

店内は満席で待たされたが
ホンの数分で入口に一番近い小卓が空いた。
まずはイの一番にスーパードライの大瓶でしょ。
プファ~ッ、萎れていた肉体がよみがえる。

オバちゃんが突き出しの小皿を
何枚かトレイに乗せて突然現れた。
店内に背を向けているから状況がまったく把握できない。
小皿はすべてお新香ながら組合わせが異なって
ヴァリエーションに富み、飲む客はここから1皿択べる。

桜大根と一緒に何かの薄切りが2枚。
こりゃいったい何だろう?
「瓜かなんかですか?」
「エヘッ、梨なんですヨ」
オバちゃん、お茶目に笑った。
ええ~っ、梨のぬか漬けなんて初めてだ。
迷わず速攻、梨&大根を手に取った。
大根にゃ悪いがそっちのけで梨を1切れ。
ふ~ん、みずみずしい浅漬けはなかなかいいねェ。

つまみは厚揚げ煮、それにトマトの酢漬けを注文。
厚揚げには練り辛子。
黒酢仕立てのトマトにはきざみオニオン。
どちらも金百円也と、申し訳ないくらい。

あとの予定を考慮すれば、
定食では重いから単品でお願いするとしよう。
当店は豚肉生姜焼きとチャーシューメンが
人気を二分しているらしいが、それじゃあまり面白くない。
何か一ひねりほしいなァ・・・そんなことを思いつつ、
遅ればせながら桜大根を奥歯で噛んだ。

=つづく=