2019年3月15日金曜日

第2089話 なにも言うまい 青砥の一夜 (その3)

再び夜の町に出る。
駅チカを15分ほど徘徊して絞り込んだのは2店。
焼き鳥の「こまどり」と焼きとんの「小江戸」だ。
よおしっ、今夜はこの2軒でキマリだ。

まずは駅前商店街の路面店、「こまどり」へ。
店名から推察するに小粋な姉さんと
可愛い妹が営んでいるものと思われる。
デビュー間もない頃のこまどり姉妹みたいなネ。
まさか八十路のくまどり姉妹じゃあるまいて—。

意気揚々と敷居をまたぐと、
「いらっしゃ~い!」—
二つの声色がハモッて迎えてくれたぜ。
だけど、片方は男の声だぜ。
見ると、焼き場に立つのは30前後と思しき青年。
黒縁メガネをかけている。
接客に勤しんでいたのは同年輩の女性で
こちらも黒縁メガネときたもんだ。

二人が夫婦であることはすぐに想像がついた。
メガネに限らず、雰囲気に共通するものを感じる。
似た者夫婦そのものだから、
こりゃ、こまどり姉妹じゃなくってこまどり夫婦じゃないか。
ちょっと待てヨ、夫婦ならこまどりよりも
おしどりのほうがピッタシなんじゃないの。

カウンターが6席ほどにテーブルが3卓の設え。
カウンター奥の2席には予約札が置かれており、
その手前に腰を下ろした。
焼き鳥はオーソドックスなものが一通り。
焼きとんはカシラ・タン・ナンコツ・シロの4種。
当店の主力は焼き鳥で串はみな2本しばりだ。

ビールは生も瓶もキリンのみ。
値付けは中ジョッキが580円で大瓶は650円と相場。
ここは生中をお願い。
そして焼き鳥のねぎまを塩で通す。

焼き上がったやや大ぶりのねぎまはまずまず。
櫛切りレモンと練り辛子が添えられている。
1本で中ジョッキを飲み切り、
当店自慢のホイスハイボール、
通称ボール(400円)に移行した。

ホイスとは昭和30年代初頭にお目見えした、
ハイボールの素のこと。
港区・白金の後藤商店が創製したもので
当時、品質のよくなかった焼酎をこれで割って
飲みやすくする効果があった。

ホイス5、焼酎5、炭酸10が目安。
濃淡はホイスと焼酎の割合で調整すればよい。
ネーミングは高級酒だったウイスキーになぞらえた、
ホイスキーからきているそうだ。

=つづく=