2012年3月12日月曜日

第270話 酩酊度を検証に再び (その1)

いやあ、大塚の酒亭「江戸一」でしこたま飲ったのに
翌日にちっとも残らぬ菊正宗はまっことよい酒でありますな。
ヒドいのになると頭ガンガンだもんねェ。
しかも翌朝は築地の「とゝや」でビールをが飲めたんだから・・・。
J.C.はこれからも末永く菊正とつき合いましょうぞ。
ついでに言うと櫻正宗もなかなかのもの。
彫刻家・高村光太郎が浅草「米久」にて
牛鍋の友としたのがこの酒であります。
葵が枯れたあと、日の本は菊と櫻で持ちまする。

酔いどれた夜から数日が経って
醜態(?)を忘れかけていたある日。
再び頭をもたげてきたのはこのことであった。
やはり早急に現場を訪ね、
当夜の酩酊度を再検証しておかねばならない。

それでもって、行きました。
犯行現場に立ち戻る真犯人さながらですな。
ツレがあったほうがよかろうと、飲みとものT村クンに声を掛け、
待ち合わせはJR山手線・大塚駅に17時半。

その前にJ.C.はミッションをこなしておく。
焼きとんの「富久晴」に独りで出向いたのだ。
17時の開店と同時に縄のれんを分け入ると、
笑顔の店主に迎えられた。
ほかに客がいないこともあり、ごく自然に世間話が始まったが
オヤジさんの様子から懸念するほどのことはなかったようだ。

ホッと一安心で会話にも弾みがつく。
問わず語りに耳を傾ければ、当店は先代が昭和22年に開業。
現在の二代目オヤジは昭和45年に店を引き継いだ。
往時の大塚は都内きっての三業地だったから
今の衰退ぶりからは思いもよらぬ、にぎわいであったろう。

T村クンと合流して、さあ「江戸一」である。
その夜のその時間は珍しく空席が目立ち、
コの字カウンターの右手一番奥に陣をとることができた。
ちょうどお燗番の真ん前でこれは都合がよろしい。

季節のふきのとう味噌と蛍いかを注文しておき、
”あの夜”に引き続き、またもや菊正の上燗をお願い。
客が立て込んでくる前に
お燗番の女性とふたこと、みこと、言葉を交わす。
彼女の醸す気配から感じるところによると
どうやらここでも取り越し苦労にすぎなかったみたい。
やれやれ・・・そしてめでたしである。

酒の味が格段に上がったにもかかわらず、当夜は2合で切上げた。
何のための再検証だかわけが判らなくなるからネ。
ところで追加注文したカマスの一夜干しとマグロブツだが
旨みじゅうぶんのカマスは上々なれど、
ブツは食味の悪いビンチョウでまったく駄目。
名店「江戸一」にしてはまことに稀有なことである。
猿が木から落ちることもあれば、河童が川で溺れることもある。

さて、心も晴れたことだし、ここでお開きにはしたくない。
まだ黄昏のビギンである。
二人はチンチン電車の乗客となり、
大塚駅前から2つ目の庚申塚へと向かったのでありました。

=つづく=

*「富久晴」、「江戸一」のデータは前回を参照してください