2012年3月1日木曜日

第263話 春の築地のサービス丼 (その2)

「食通知ったかぶり」の連載が終了して数ヶ月後、
J.C.は欧州から帰国した。
それからである、記載された飲食店を回り始めたのは―。
ただし、目当てが日本各地に散らばっていたため、
簡単に訪れるわけにはいかなかった。
そうこうするうちに閉業した店も少なくない。

それでも岡山「魚正」、京都「大市」、
横浜の「大田なわのれん」と「スターライト・グリル」。
東京では麻布「野田岩」、渋谷「玉久」、
旧連雀町「かんだやぶそば」、赤坂の「四川飯店」と「津つ井」。
こんな店々を歴訪した。

かつて六本木は芋洗坂下のスウェーデンセンターにあり、
今は赤坂見附に移転した「ストックホルム」へも出掛けた。
若い頃、本場ストックホルムで食べたスモーガスボードを思い出し、
懐旧の心にひたったことを覚えている。

立春とは名ばかりの寒い朝、築地場外の「とゝや」に出向いた。
もちろん、くだんの焼鳥丼を食べるために―。
最後の訪問は1999年12月だから12年ぶりだ。
そのときは部下たちを引き連れて忘年会を催した。
年末の宴会につき、焼鳥丼でお茶を濁すわけにもいかず、
豪勢に鳥の水炊きをみんなで囲んだのだった。

現在は夜の営みはやめてしまい、
午前9時から午後2時まで5時間しか営業しない。
築地市場のそばなのに早朝は開かないし、
午後も早い時間に閉めるから、この点は注意が必要だ。

狙いの焼鳥丼はもも肉5片にボン尻が1つ乗って1100円。
それにスープが100円である。
ところがここでサービス丼というのを発見した。
いや、発見というのは当たらない、以前にも食べたからネ。
もも3片とつくね2片にスープと白菜漬けが付いて千円ポッキリ。
量少なめで値段が安いとあっては願ったり叶ったりだ。

待つ間は当然のようにビールだろう。
丸谷サンはエビスだったがJ.C.はスーパードライ。
すると鳥の煮こごりが2切れサービスされた。
あんまりおいしいものではないけれど、
サービス品はいつでもどこでもありがたい。

食べ終えての感想。
残念ながら三十有余年前の感慨はない。
往時はかなりイケると思ったんだが・・・。
自分の舌が肥えたのか、旨い焼鳥屋が増えたのか、
おそらくその両方であろうよ。
とまれ満腹になったことだし、
あとは気ままに市場の徘徊でも始めるとするか。

丸谷サンは「とゝや」の所在地を
築地4丁目と断言したが実際は6丁目。
移転した形跡もないし、地番の変動があったとも思えない。
これは作者の単純な勘違いかもしれないなァ・・・。
店のオバちゃんに訊くのをケロリ忘れちまったヨ。

「とゝや」
 東京都中央区築地6-21-1
 03-3541-8294