2012年4月16日月曜日

第295話 BとAの間の小さな恋

サブタイトルをご覧になって
「何のこっちゃい?」と思われた方が多いのではないか。
本日はもったいぶらずにハナから種明かしとまいりましょう。
BとAはボンジュールとアデュー。
その間の小さな恋だから、
ハローとグッバイの間のつかの間の恋という意味だ。
B・ワイルダーがメガホンをとった映画、
「昼下がりの情事」でG・クーパーのシャレた台詞がコレ。
アメリカ映画ながらパリを舞台とした作品らしく、
あくまでもフランス的感覚である。

映画を初めて観たのは1965年。
どこの映画館で観たかは記憶がはっきりしない。
池袋の東武デパート内にあったムービーシアターかな?
それとも高田馬場のパール座?
いやいや、新宿地球座だったかもしれない。

宅配便で取り寄せ、実に47年ぶりで観た。
そして映画の真価を初めて認識したのだ。
さすがは名匠ワイルダー、あらためて感心したものの、
ウブな中学生にはちと早すぎましたネ。

高校生時代の「ティファニーで朝食を」もまったく同じ。
だいぶあとで観直したときのほうがずっと印象的だった。
数あるヘプバーンの出演作中、
「昼下がり~」はあまり好みじゃなかったのに
映画が進行する間、ドンドン惹き込まれてゆく自分に
驚きを覚えながら観終えたのだった。

ヘプバーンもさることながらクーパーがすばらしい。
M・ディートリッヒと共演した「モロッコ」なんか、
大根役者そのものだったのがまるで嘘のよう。
I・バーグマンとの「誰がために鐘は鳴る」は
すでに忘却の彼方なれど、
「昼下がり~」効果で近々取り寄せることにした。

ヨーロッパやアメリカが舞台の映画には
オペラのシーンがよく出てくる。
当作ではワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」。
ワイルダーはワーグナーの愛好家なのであろう、
ヘプバーンの男友だちにワーグナーに比べたら
ロッシーニもヴェルディも子どもだましだと言わせている。
ユダヤ系のワイルダーがヒトラーが敬愛したワーグナーを
賞賛するというのは意外だった。

オペラ座のシーンで男友だちの上着の袖から出た糸クズを
引っ張り始めたヘプバーン。
裏地をスッポリ抜き取ってしまい、大あわて。
これを山田洋次監督が
「男はつらいよ 奮闘篇」でモロにパクッっている。
もっとも中学時代の初見では気づかなかったけど。

この第7作は寅さんシリーズ全48作中、最愛の1本。
映画が封切られた1971年4月28日は
初めての欧州旅行中。
スペインのマドリッドに高速列車タルゴで入っている。
パクリはともかくも糸くずのおかげで
ワイルダーと山田洋次の糸がつながり、
心なしか胸温まる思いがしたものだ。