2017年4月11日火曜日

第1598話 蒲田の本店 はしご酒 (その2)

幼少のみぎり、平和に暮らしていた東京都・大田区。
物ごころついてから丸五年間棲んだ。
ここしばらく訪れていなかったせいか
ふと行ってみようという気になったのだ。

大田区となれば、
第一感はやはりかつての地元、大森である。
続いて蒲田となろうかー。
全国にその名を知られた田園調布にも
以前はたびたび出没したが
あそこは飲むより食べるほうに向いた土地柄と言える。
となると、さすらいのドリンカーには不向きなのだ。

当日の相方とはJR京浜東北線・蒲田駅の改札で落ち合った。
おおよそ京浜第一国道に沿って走る、
京急線の蒲田駅とはかなり離れている。
二つの駅周辺はそれぞれに繁華しているが
どちらかと言えばJRのほうがより賑やかだ。

即刻向かったのは東口の「三州屋本店」。
都内に「三州屋」を名乗る大衆割烹は数あれど、
その源泉はここ蒲田店であるらしい。
ただ、存在はこの目で認知したものの、
入店するのは今回が初めてなのだ。

すべての「三州屋」に言えるのは店先の佇まいと
店内の雰囲気に共通点があること。
さすがに創業半世紀を誇る本家本元、
大衆的な中にも古く良かりし風格が感じられる。
この空間に身を置けること、
そして酒を酌めること、
シアワセ以外の何物でもありまっしぇん。

キリン一番搾りの中ジョッキで酌交開始。
最初のつまみはシマアジの刺身だ。
言わずと知れたアジ類の最高峰である。
マアジのたたきやブリの刺身を好まぬJ.C.ながら
シマアジだけは別格中の別格。
市中にそれほど出回らぬゆえ、見つけたら注文に及んでいる。

案の定、コリッとした歯ざわりに繊細な滋味。
十中八九、養殖モノだろうが
じゅうぶんに舌を堪能させてくれる。
あゝ、これで生のわさびがあればなァ・・・
ないものねだりをしても始まるまい。

相方がかきフライに目をつけた。
本来なら大好きな一品だけれど、この日は違った。
右の掌(たなごころ)を見せて
待った!をかけたのだ。
何となれば前日のディナーで
酢がきとかきフライをたらふく食べていたからネ。

=つづく=